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16.胎児―胎盤機能検査

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16.胎児―胎盤機能検査
N―334
日産婦誌5
3巻1
0号
研修医のための必修知識
研修医のための必修知識
B
.産婦人科検査法
O
b
s
te
tric
a
la
n
dG
y
n
e
c
o
lo
g
ic
a
lD
o
c
im
a
s
ia
1
6
.胎児―胎盤機能検査
F
e
to
-p
la
c
e
n
ta
lfu
n
c
tio
n
1
.意義
胎児―胎盤機能検査法は胎児の w
e
ll-b
e
in
gを診断する検査法であり,これらの検査法
のうち胎児心拍モニタリングを利用したノンストレステストを代表とする生理学的検査法
は,主に胎児側の情報を得る方法である.これに対して,生化学的検査法は胎盤で生成さ
れ,あるいは胎児で代謝された後,母体血中あるいは尿中に分泌されるホルモン,酵素を
定量または半定量し,胎児―胎盤機能を評価するものである.この中で E
(e
s
trio
l)
,h
P
L
3
(h
u
m
a
np
la
c
e
n
ta
lla
c
to
g
e
n
)
は代表的なものであり,それぞれ簡易測定キットが市販
され広く臨床応用されている.本稿では E
,h
P
Lについてその生理的意義と臨床応用に
3
ついて解説する.
2
.h
P
L
1
)合成・分泌と生理的意義
h
P
Lは,E
rh
a
rd
(1
9
3
6
)
により初めてヒト胎盤中にプロラクチン様作用を示す物質とし
て見出された.h
P
Lはヒト胎盤シンシチウム細胞にて産生分泌される分子量2
2
,2
7
9
の単
純蛋白質で1
9
1
個のアミノ酸残基からなり,2個の S
-S結合を有する蛋白ホルモンである.
抗インスリン作用を有することが知られており,耐糖能が妊娠中には低下する主たる原因
のひとつがこのホルモンの存在である.h
P
Lは成長ホルモンやプロラクチンとともに成
長ホルモンファミリーを構成し,糖成分を含まない単純蛋白で,ヘリックスも少ないので
不安定であり,主として腎臓で分解される.糖尿病合併妊娠で分娩直後に低血糖が起こり
やすいのは,内因性のインスリン分泌が亢進しているのみならず,このホルモンの血中半
減期が約1
5
分と短いためであると考えられている.またこのホルモンはほとんど胎児側
へは移行せず,母体尿中にも排出されない.したがって,母体血中でこれらの胎盤蛋白を
測定すれば,胎盤の物質産生の面から胎盤機能の判定が可能と考えられるため,母体血中
h
P
L値は胎盤機能を迅速に反映している.血中 h
P
Lは妊娠 6週ころから検出可能で以降
漸増し妊娠末期にピークを形成し1),分娩後急速に減少して 3時間後には検出不可能とな
る(図 1)
.妊婦血中 h
P
L値は胎盤重量とほぼ相関しており,その分泌調節に胎児自身の
関与が少なく,胎盤シンシチウム細胞あたりの産生量はほとんど変化しないため,胎盤の
発育機能の指標とされている.
2
)h
P
Lの検査方法
測定法にはラジオイムノアッセイ(R
IA
)
,酵素免疫測定法,ラテックス凝集反応による
簡易測定キットが用いられる.h
P
Lの血中レベルは日内変動を示さない.生体内半減期
は1
0
∼3
0
分であり,産生分泌の低下と血中レベルとの間に時間差が少ないのが特徴であ
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研修医のための必修知識
g/ml
μ
9
+2S.D.
8
−2S.D.
7
6
hPL
5
4
3
2
1
2
24
42
Weeks gestation
(図 1)正常妊娠例の血中 h
P
L値1)
る.ただし上述のごとく,血中では不安定なので,測定まで保存する場合,血清を−2
0
℃で凍結する.血中 h
P
L値は個体差が大きく連続測定による評価が必要であり,N
S
Tお
よび E
値等を併用して総合的に判断すべきである.
3
3
)h
P
Lの正常値
図 1に R
IA
で測定した h
P
Lの正常妊婦血中値の動態を示す.正常下限値は妊娠中期
(2
.0
µ gm
l)
,妊娠末期(4
∼5
µ gm
l)
である.また妊娠 6
∼8週での下限は(0
.0
1
∼0
.0
6
µ gm
l)
,1
0
∼1
2
週(0
.1
6
µ gm
l)
,1
4
∼1
7
週(0
.6
4
µ gm
l)
とされている.
4
)h
P
Lの異常値と臨床的意義
上述のごとく h
P
Lは胎盤の発育機能の指標とされ,以下のようなハイリスク妊娠の病
2
)
勢の評価にも役立つ(図 2)
.
切迫流産
h
P
Lレベルが妊娠 8
∼1
0
週で下降あるいは一定値のままで漸増傾向を示さないものは
予後不良である.
子宮内胎児発育遅延
一般に妊娠2
8
週頃より値の増加がみられず,低値のまま推移する.
妊娠中毒症
R
o
n
in
-W
a
lk
n
o
w
s
k
ae
ta
l.によると重症例では妊娠2
8
週までは正常下限域にあるが,
それ以降では下限値より低下し,3
8
週前後では逆に増加傾向を示すという.
糖尿病合併妊娠
血糖管理が十分に行われた場合にはほとんど正常域内で推移するが,胎盤の発育によっ
て,異常値を示す.
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μ
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8
+2S.D.
2S.D.
7
6
hPL
5
4
3
−2S.D.
2S.D.
2
1
26 28 30 32 34 36 38 40 42
Weeks gestation
(図 2)ハイリスク妊娠例の血中 h
P
L値
正常妊娠の平均±2
S
.D
.とハイリスク妊娠の比較:
(●―●)
IU
G
R
,
7症 例1
5
検 体,
(○―○)
軽症妊娠中毒症
(G
I1
-4
)
,8症 例2
0
検 体,
(□―□)
軽症および重症妊娠中毒症
(G
I5
-1
1
)
1
8
症例4
7
検体2)
3
.E
(e
s
trio
l)
3
1
)E
の生合成
3
妊娠中増加した母体血中 c
h
o
le
s
te
ro
(C
l 27)
から胎盤では,p
re
g
n
e
n
o
lo
n
e
(C
)
が生
2
1
成され,胎児副腎で D
H
A
-S
(C
)
に変換され,更に胎児肝臓にて1
6
α -O
H
-D
H
A
-S
(C
)
1
9
1
9
となったあとに再び胎盤で E
(C
)
に変化し母体尿中に排泄される.したがって胎児の副
3
1
8
腎,肝臓あるいは胎盤の機能低下があると E
値も低下し,妊婦の E
を経日的に測定する
3
3
ことにより胎児―胎盤機能を把握できる.この場合1
6
α -h
y
d
ro
x
y
la
s
eは胎盤にはなく胎
児側に存在し,s
u
lfa
ta
s
e
,a
ro
m
a
ta
s
eは逆に胎児になく胎盤側に存在する.このよう
に胎児と胎盤の機能統合により多数のホルモン作用をもつステロイドホルモンが生合成,
分泌されており,1
9
6
4
年に D
ic
z
fa
lu
s
yはこの事実に基づいて胎児胎盤系という概念を提
唱した.
2
)E
の検査方法
3
測定方法には定量法として R
IA
法 や 科 学 的 比 色 法,半 定 量 法 と し て e
s
trio
l-1
6
g
lu
c
u
ro
n
id
e
-B
S
A
(E
-H
A
IR
k
it)や e
s
trio
l-1
6
,1
7
-d
ih
e
m
is
u
c
c
in
y
l-B
S
A
(E
s
te
ro
te
c
)
3
を抗原とする免疫学的測定が用いられている.胎盤における E
の産生は母体血中 c
o
rtis
o
l
3
3
)
とは逆に夕方から深夜にかけてピークをもつ日内変動を示し(図 3)
,母体尿中への E
分
3
泌は母体飲水量や腎機能など諸因子に影響されるので正確を期すためには2
4
時間蓄尿で
一日あたりの E
尿中排泄量を測定する必要があるが,臨床現場では母体随時尿中 E
濃度
3
3
半定量も行われている.血中 E
は母体尿量の影響を受けないため正確に胎児―胎盤機能を
3
N―337
2001年10月
C27
胎盤
cholesterol
C21
研修医のための必修知識
C19
母体血
DHA-S
副腎
pregnenolone
α-OH-DHA-S
16 C18
C19
estriol
肝
血中 E3
母体
尿中 E3
(図 3)胎児―胎盤系における e
s
trio
(E
l 3)
の生合成経路3)
評価できるが,従来は R
IA
法のみに頼り結果が出るまで 2
∼3日要したが,最近 H
P
L
C
法により短時間で結果を得ることができ臨床応用が可能となった.
の正常値
3
)E
3
尿E
-K
i(帝国臓器)
t
で測定した2
4
時間尿中 E
濃度を図 4に示す.妊娠3
2
∼3
6
週では1
5
3
3
m
gd
a
y以下,1
0
m
gd
a
y以下,妊娠3
7
∼3
8
週では2
0
m
gd
a
y以下,1
5
m
gd
a
y以下,
妊娠3
9
∼4
1
週では2
5
m
gd
a
y以下,1
5
m
gd
a
y以下を各々警戒域,危険域とする.母体
随時尿中 E
濃度半定量に関しては妊娠3
2
∼3
6
週で5
µ gm
l 以下,妊娠3
7
∼4
1
週1
0
µ gm
l
3
以下を異常値とする.
の異常値と臨床的意義
4
)E
3
上述のごとく E
は胎児―胎盤機能を反映していることより,そのいずれかに障害が起
3
5
)
こると尿中 E
は低値となる(図 5)
.
3
重症妊娠中毒症,
子宮内胎児発育遅延,
胎盤機能不全,
子宮内胎児死亡で E
は低くなる.
3
無脳児
胎児副腎皮質の胎児層が欠如するため胎盤での E
産生が極端に低下する.この場合の
3
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日産婦誌5
3巻1
0号
研修医のための必修知識
y-
Estriol
Cortisol
y-
40
40
30
30
20
20
10
10
0
0
−10
−10
−20
−20
−30
−30
−40
−40
16
18
20
22
24
2
4
6
8
10
12
14
Clock time
(図 4)E
s
trio
lと c
o
rtis
o
lの妊娠3
8
∼4
1
週にお け る 日 内 変 動
(縦
4
)
軸はパーセント値)
E3-Kit
mg/日
60
50
40
+2S.D.
LFD
双胎 * 四胎
妊娠中毒症
子宮内胎児死亡
*
無脳児
羊水過多
+S.D.
30
−S.D.
20
−2S.D.
10
20
24
28
32
36
40
妊娠週数
(図 5)E
-K
i(帝国臓器)
t
法による尿中 E
値の推移と異常妊娠での
3
3
測定値5)
N―339
2001年10月
*
S
h
ig
e
h
ik
oM
IZ
U
T
A
N
I
Department of Obstetrics and Gynecology, Nagoya University School of Medicine, Nagoya
Key words : h
P
L
・E
・IU
G
R
・P
re
e
c
la
m
p
s
ia
・F
e
to
-p
la
c
e
n
ta
lfu
n
c
tio
n
3
*
研修医のための必修知識
尿中 E
は母体からの D
H
A
-Sを利用して作られたものである.
3
胎盤 s
u
lfa
ta
s
e欠損症,
胎盤 a
ro
m
a
ta
s
e欠損症では胎児の状態にかかわらず尿中 E
は極端に低下する.
3
母胎腎機能障害,
糖尿病でも E
は低くなる.
3
多胎妊娠,
エストロゲン産生卵巣腫瘍では逆に E
は高くなる.
3
母体への各種薬剤投与の影響
抗甲状腺剤,デキサメサゾンやベータメサゾン,A
B
P
C
,アスピリン,フェノバルビ
タールの投与中は低値を,オキシトシン点滴投与中は高値を示す.
《文
献》
1
)L
in
d
b
e
rgB
S
,N
ils
s
o
nB
A
.V
a
ria
tio
ninm
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C
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0:6
1
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6
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9
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8:2
0
6
−2
1
1
3
)金岡 毅.胎児胎盤機能検査法.周産期医学 1
9
9
6;2
6:8
1
―8
3
4
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re
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.G
y
n
a
k
o
lo
g
e1
9
8
3;1
6:1
2
4
―1
3
1
5
)矢内原巧.胎盤機能検査-E
.周産期医学 1
9
8
8;1
8
臨時増刊:1
4
1
―1
4
2
3
〈*水谷栄彦〉
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