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地域・学校の特色等を活かしたICT環境 活用先進事例に関する調査研究
平成18年度 文部科学省委託事業 地域・学校の特色等を活かしたICT環境 活用先進事例に関する調査研究 報告書 平成19年3月 社団法人 日本教育工学振興会 はじめに 社団法人日本教育工学振興会会長 坂元 昂 IT環境を上手に活用して教育の成果を高めている地域、学校は、どんな条件の下 で成立しているのだろうか。 世界でも、トップクラスのICT教育活用で知られている、シンガポールは、人口 約 450 万人、広さは淡路島くらい、学校は初等中等を合わせて約350校という規模 を活かして、教育ITマスタープランを国策とし、トップダウンで、ICTの教育活 用を推進している。全教員がPCをもち、全児童が、PCを使って学んでいる。クラ スターETO教育工学官が14名、各学校に国費で、配当されている教育技術支援教 師の中から選抜任命され、分担して、ICT活用の指導をしている。研修も、管理職 一般教員に義務づけられており、ICTは、日常的に、使われている。もう一つの世 界トップクラスのICT教育国の韓国も、国策の下、国費を使って学校教育、予備校 教育、家庭教育の環境整備、コンテンツ整備を図り、全教員、多くの児童生徒、家庭 人にネットワークを通した教育を提供している。ITコーディネータを配置し、校務 経営システムを完備し、教員の事務作業を軽減し、トップダウンで研修も義務づけ、 効果を上げている。これらのアジアの先進国は、上意下達の文化を活かして、ICT の活用促進を実現している。地域や学校間の格差は比較的少ない。それに対して、英 米は、上からの強制は、はるかに緩やかで、教育現場の自主性が大きい中で、ICT の活用を図っている。英国では、国策で多角的な基準、標準を指示し、その実行維持 を評価する形をとるが、現場の地方教育局や校長の自立性が高い。ICTに対して、 ICT環境やオンライン環境の整備維持、コンテンツ整備、活用などの公的基金が用 意され、校務事務処理のシステムや研修も充実している。政府主導の下で行き届いた 整備が行われている環境を上手に活かすのが、ITコーディネータや校長である。従 って格差が生じる。米国も連邦政府は、国策でNCLB政策を打ち出し、ICT活用 特別予算EETTを提供している。各学校区では、教育CIO等の活躍で、ICTが よく活用されている地域があるが、地域格差も大きい。 共通するのは、国策で、基本法を定めたり、公的資金を提供しICT教育推進を図 っていること、教育CIO,ITコーディネータのような専門職を用意し、運営指導 に当たらせていること、校務事務などの処理システムを整備し教師を支援しているこ と、研修を管理職や一般教員に義務づけ、授業でのICT活用を義務づけていること などである。 シンガポールや韓国のようなトップダウンの文化環境の国では、ICTが格差が少 なく活用されているが、英米などのように、教育現場の自主性の強いところでは、政 府の公的基金による手厚い環境整備の下でも、ICTに優先順位をおく地域か校長か 否かによって、ICT利活用に格差が見られる。 日本でも、国策でe-Japan戦略、IT新教育改革などが展開し、公的資金も 提供されているが、地方交付税の形をとるので、ひも付き予算の先進諸国と異なり、 政府資金はありながらも地方でのIT予算の実行は、地域により大きな格差がある。 英米のように、教育現場の自主的活用以前の状況が見られる。中で、先進事例として 先進諸国以上の成果を上げている地域や学校があるが、そこでは公的資金がきちんと 活用され、トップの理解とリーダーシップの下に、先進諸国の先進事例に引けをとら ない運営がなされている。 本研究での訪問事例から明確に読み取れる。しかし、日本も、英米のような地方の 自主性を尊重する教育経営がなされているので、現実の格差は、極めて大きい。本研 究のアンケート調査の結果は憂慮すべき実態をはっきりと示している。 訪問調査した先進諸国の実態、国内先進地域、学校の実態を比較するとき、今後の 地域、学校の特性にあわせたICT環境の将来像が明らかになった。 きめ細かな実態調査により、以前は見えていなかった様々な実態、問題点、特徴な どが明らかになったのは、本研究の大きな成果といえる。 貴重な研究の機会をお与え下さった文部科学省、惜しみない努力でご協力下さった、 研究者、研究協力者、事務担当者に厚くお礼申し上げると共に、得られた貴重な情報 が今後の行政に具体的に生きることを願っている。 平成19年3月 も く じ はじめに 第1章 本調査研究の概要 第2章 国内アンケート調査の実施 第3章 国内先進事例実践校訪問調査 第4章 海外実地調査の実施 第5章 教室のICT環境の将来像(次世代モデル) に向けた検討課題の現状と将来像 第6章 教室のICT環境の将来像(次世代モデル) あとがき 【資 料 編】 1.国内アンケート調査集計結果 2.国内先進事例実践校訪問調査報告書 3.米国教育CIO調査報告書 第1章 本調査研究の概要 1.1 調査研究の目的 ······································ 1 1.2 国内アンケート ······································ 1 1.2.1 調査の対象と方法 1.2.2 調査の内容 1.3 国内先進事例調査の実施······························ 1 1.3.1 先進事例実践校訪問調査 1.3.2 情報システム担当外部専門家実践地区訪問調査 1.4 海外実地調査 ········································ 2 1.5 成果物の公表 ········································ 2 1.6 推進組織 ············································ 2 1.6.1 組織 1.6.1.1 調査研究検討委員会 1.6.1.2 教育方法作業部会 1.6.1.3 事例収集作業部会 <参考>事業概念図 1.6.2 委員 1.7 調査研究の経過 ······································ 4 1.1 調査研究の目的 e-Japan戦略の一環として、 「すべての小中高等学校等が各学級の授業に おいてコンピュータを活用できる環境を整備する」方針に基づいて、基本的な ICT 環境の整備が鋭意進められてきた。 今後は、整備されてきた学校の ICT 環境の一層の活用を促進し、更なる ICT 環 境整備促進に資するため、地域のニーズや学校の特色等を活かした ICT 環境整備 や ICT 利活用の在り方等に関し調査研究を行い、教室の ICT 環境の将来像につい て検討するものである。 本調査研究は、国内外において積極的に ICT 環境を利活用する、先進的事例を 収集し、調査分析する中で、5年後および10年後の教室の将来像(次世代モデ ル)を策定し、報告書としてまとめるとともに、Webページを通じて一般に公 開し、今後の ICT 利活用の促進・充実に向けて情報を提供するものである。 先進的事例の収集については、①国内アンケート調査②国内先進実践校および 教育委員会へのヒアリング訪問③海外実地調査(米国、英国、韓国)を実施し、 調査分析を行った。 1.2 国内アンケート(ICT 機器の整備・活用に関する調査)の実施 1.2.1 調査の対象と方法 Web回答方式を採用し、無作為抽出による市区町村教育委員会および都道府県、 政令指定都市 500 ヶ所、小学校 6,500 校、中学校 2,000 校、高等学校 1,000 校 の計 10,000 ヶ所にアンケート協力の依頼状を郵送した。 1.2.2 調査の内容 (1)学校 ①ICT 環境および活用の実態 ②教育現場における課題および要望 ③校内情報担当者の実態および将来像 (2)教育委員会 ①域内の学校における整備の実態および計画 ②研修・人材の育成(研修制度と運用) ③情報システム担当外部専門家の実態と将来像 1.3 国内先進事例調査の実施 国内において ICT 環境の整備・活用等に関して先進的な取り組みを実施してい る学校および教育委員会に直接訪問し、それぞれのテーマに沿ってヒアリングを 行い、先進的な事例の収集を行った。 1.3.1 先進事例実践校訪問調査 国内において ICT 環境の整備・活用等に関して先進的な実践を行っている学校 を直接訪問してヒアリングを行い、先進的な実践事例の収集を行った。 ヒアリングの主な項目は以下のとおりである。 1 ①地域的な特色および背景 ②ICT 環境および活用の実態 ③ICT 機器の導入方法および導入経過 ④ICT 活用を推進する上での課題 ⑤ICT 活用支援員の実態および期待像 1.3.2 情報システム担当外部専門家実践地区訪問調査 国内において、情報システム担当外部専門家 を積極的に導入し先導的な実践を 行っている教育委員会、教育センターを直接訪問してヒアリングを行い、先導的 な実践事例の収集を行った。 ヒアリングの主な項目は以下のとおりである。 ①域内の学校における整備の実態および計画 ②研修・人材の育成 ③情報システム担当外部専門家の実態と将来像 1.4 海外実地調査の実施 アメリカ、イギリス、韓国等の諸外国における教育の情報化および教育CIO の現状について調査するとともに、我が国における「IT新改革戦略」 (平成18 年1月IT戦略本部決定)に相当する国家戦略(国家目標)について調査した。 1.5 成果物の公表 調査研究報告書を作成するとともに、本調査研究で得られた成果を広く各地域 へ普及させるため、「地域 ICT 研究成果Webサイト」を作成し、広く公表した。 1.6 推進組織 1.6.1 組 織 1.6.1.1 調査研究検討委員会 全委員によって構成し、「事例収集作業部会」「教育方法作業部会」の各作業部会を 統括するとともに、教室の ICT 環境の将来像(5年後、10年後)について検討を行 い、計7回開催した。 1.6.1.2 事例収集作業部会 アンケートによる先進事例調査および情報システム担当外部専門家に関する実態調 査を行い、計2回開催した。 1.6.1.3 教育方法作業部会 国内ヒアリング訪問調査による先進事例調査および海外実地調査を実施し、計3回 開催した。 2 <参考>本事業の主な実施内容は、図1に示すとおりである。 図1 (1)先進的な事例収集 (3)研究成果報告 ①ICT 機器の活用に関する調査(国 ①研究成果公開 Web サイト作成 内アンケート調査) ②国内外 におけ る情報シ ステム 担 当外部専門家に関する事例調査 ②事業報告書作成 ③海外における調査 ・教育の情報化の現状 ・国家的戦略の有無(内容) (2)教室の ICT 環境の将来像 (次世代モデル)の策定 1.6.2 委 員 調査研究検討委員会、情報収集作業部会、教育方法作業部会および事務局の委 員を記す。(平成18年10月現在) ① 調査研究検討委員会 氏 名 ◎山西 潤一 木原 俊行 野中 陽一 前迫 孝憲 黒田 卓 山上 通恵 岩田 諦慧 折田 一人 毛利 靖 中川 斉史 ◎主査(順不同) 職 名 富山大学人間発達科学部長 大阪市立大学大学院文学研究科助教授 和歌山大学教育学部附属教育実践総合センター助教授 大阪大学大学院人間科学研究科教授 富山大学人間発達科学部助教授 兵庫県立神戸甲北高等学校教諭 岐阜県輪之内町教育委員会指導主事 群馬県前橋市立第三中学校教諭 つくば市立二の宮小学校教諭 徳島県池田町立池田小学校教諭 ② 事例収集作業部会 氏 名 ○木原 俊行 岩田 諦慧 折田 一人 毛利 靖 中川 斉史 ○作業部会長(順不同) 職 名 大阪市立大学大学院文学研究科助教授 岐阜県輪之内町教育委員会指導主事 群馬県前橋市立第三中学校教諭 つくば市立二の宮小学校教諭 徳島県池田町立池田小学校教諭 3 ③ 教育方法作業部会 氏 名 ○野中 陽一 前迫 孝憲 黒田 卓 山上 通恵 ○作業部会長(順不同) 職 名 和歌山大学教育学部附属教育実践総合センター助教授 大阪大学大学院人間科学研究科教授 富山大学人間発達科学部助教授 兵庫県立神戸甲北高等学校教諭 ④ 協力委員 氏 名 職 名 清水 悦幸 株式会社内田洋行業務統括部業務統括課長 沼田 茂 東日本電信電話株式会社ビジネスユーザ事業推進本部 ビジネス営業部教育営業担当 宮内 孝之 株式会社JMCエデュケーションズ執行役員 ⑤ 事務局 氏 名 森田 和夫 高橋 直久 小林 賢二 鈴木 幹也 職 名 (社)日本教育工学振興会事務局長 (社)日本教育工学振興会事務局次長 (社)日本教育工学振興会普及部長 (社)日本教育工学振興会教育部長 1.7 調査研究の経過 調査研究の手順は、次のとおりである。 (1) 平成18年10月 調査研究組織の設置と研究計画の策定 (2) 平成18年11月 アンケート調査票の検討・作成 国内先進事例調査内容の検討・作成 海外実地調査内容の検討・作成 (3) 平成18年12~平成19年1月 アンケート調査の実施 国内先進事例調査の実施、海外実地調査の実施 (4) 平成19年2月 アンケート調査の集計・分析 国内先進事例調査結果の分析、海外実地調査結果の分析 次世代モデルの検討 (5) 平成19年3月 報告書の執筆、提出 4 第2章 国内アンケート調査の実施 2.1 結 果 の 概 要 ······································· 5 2.1.1 質 問 構 成 2.1.1.1 教 育 委 員 会 2.1.1.2 学 校 2.2 分 析 評 価 ········································· 6 2.2.1 学 校 関 係 2.2.1.1 ICT 環 境 の 活 用 に 関 す る 調 査 2.2.1.2 校 内 情 報担 当 者 に 関 す る 調 査 2.2.2 教 育 委 員会 関 係 2.2.2.1 ICT 環 境 の 整 備 に 関 す る 調 査 2.2.2.2 情 報 シ ス テ ム 担 当 外 部専 門 家 に 関 す る 調 査 2.3 将 来 像 へ の反 映 の 観 点 ····························· 22 2.3.1 ICT 環 境 整 備 の 実 態 2.3.2 ICT 環 境 の 活 用 2.3.3 学 校や 教 育 委 員 会 の 情 報 担 当 者・ 外 部 専 門 家 2.1.結 果 の 概 要 「 教 室 の ICT 環 境 な ど の将 来 像 ( 次 世 代 モ デ ル)」を 策 定 す る た め に 、ICT 環 境 活 用 先 進 事 例調 査 研 究 の 一 環と し て 、各 学 校 に お け る ICT 環 境 の 整備 状 況 お よ び そ の活 用 実 態 、 さ ら に 教 育委 員 会に 対 し て は 今 後 求 め ら れ る情 報 シ ス テム 担 当 外 部専 門 家 の あ り 方 等 を 把 握 す るた め の調 査 を 行 っ た 。 そ こ で、今 回 の 枠 組 み と し て は、ア ン ケ ー ト 調 査 と し て、以 下 の 調 査 対 象 に 対 し て、 次 項 に あ る 質 問 項 目に つ い て調 査 を 企 画 実 施 し た 。 概 要は 以 下 のと お り で あ る 。 調 査 対 象 :1)教 育委 員 会: 都 道 府 県 、 政 令 指 定 都 市お よ び 無 作為 に 抽 出 し た 市 区 町 村 教 育 委 員 会(約 500 ヶ 所)情 報 教 育 担 当お よ び 管 理 職 2)学 校: 無作 為 に 抽 出 し た 都 道 府 県 立高 等 学 校(約 1、000 校)お よ び 市 区 町 村 立 小・中 学 校 (約 8、 500 校)情 報 教 育 担 当 お よ び 管 理職 回 答 方 法 : イ ン ターネ ッ ト に よ る W e b ペ ー ジ へ の入 力 。 た だし 、 W e b 入 力 不 可 の 場 合 は F A Xに よる 。 調 査 期 間 :2006 年 12 月 19 日 ~ 2007 年 1 月 12 日 有効回答総数 種 別 小・中学校 高等学校 配布数 8,505 996 回答数 6,498 803 未回答 2,007 193 回答率 76.4% 80.6% 教育委員会 合 計 503 10,004 376 7,677 140 2,340 74.8% 76.7% 2.1.1 質 問 構 成 2.1.1.1 教 育 委 員 会 Ⅰ .ICT 環 境 (周 辺 機 器 を 含 む )の 活 用 に 関す る 調 査 1 . ICT 環 境 整 備 の 実 態 2.情報教育担当者の意識調査 Ⅱ .情 報 シ ス テ ム担 当 外 部専 門 家 な ど に 関 する 調 査 1.実態調査 2 . 管 理 職 お よ び 情 報 担 当 指導 主 事 に対 す る 意 識 調 査 2.1.1.2 学 校 Ⅰ .ICT 環 境 (周 辺 機 器 を 含 む )の 活 用 に 関 す る 調 査 1 . ICT 環 境 整 備 の 実 態 2 . ICT 環 境 活 用 の 実 態 3.教員の意識調査 Ⅱ .校 内 情 報担 当者 に 関 す る 調 査 1 . 校 内 の 情 報 担 当 者 な ど に関 す る 調査 2.管理職に対する意識調査 5 2.2 ICT 環 境 の 活 用 に 関す る 調 査 の 分 析 ・ 評 価 2.2.1 学 校 関 係 2.2.1.1 ICT 環 境 の 活 用に 関 す る 調 査 2.2.1.1.1 ICT 環 境 整 備 等の 実 態 (1)ICT 環 境 等 整 備 の 充 実 度 今 回 の 調 査 対 象 校 の 小 中 学 校の 平 均 ク ラ ス 数 は 12 で あ る 。そ れ ら の 普 通 教 室 に、 コ ン ピ ュ ー タ は 平 均 し て 4.6 台 し か 設 置 さ れ て い な い。 プ ロ ジ ェ ク タ は 0.5 台、 実 物 投 影 機 で 0.6 台 、 デ ジ タ ルカ メ ラ に つ い て は 1.3 台 と い う 数 値 が 示 さ れ た。 特 に プ ロ ジ ェ ク タ と 実 物 投 影 機に つ い て は 、 そ れ ぞ れ学 校 に 1 台 未 満 と い う 状 況 で あ り 、 整 備 の 遅 れ が 目 立つ 。 普通教室 <図1>各教室からインターネットに接続できますか 52.1% 普通教室 でインター ネット接続 47.9% できない学 はい 66.0% 特別教室 34.0% 約半分を占 いいえ 94.4% コンピュータ教室 校 も 47.9%と め 、教 室 で の インターネ 5.6% ットを使っ 0% 20% 40% 60% 80% 100% た授業の普 及に支障を き た し て いる こ と が 推 測さ れ る 。( 図 1 ) ア プ リ ケ ーシ ョ ン に つ い て は 、 コ ン ピ ュ ー タ 教 室 に 導 入 さ れ て い るも の が 、 普 通 教 室 や 特 別 教 室 に は 導 入 さ れ て い な い と い う 結 果が 出 た 。 こ れ も 、 普 通 教 室 に お け る ICT 活 用 の 阻 害 要 因と な っ て いる よ う に 思 わ れ る。 (2)ICT 環 境 等 の 運 用 管 理 コ ン ピ ュ ー タ や 周 辺 機 器、サ ー バ な ど の 保 守 に つ い て は、41.2%の 学 校 で 何 ら か の 形 で 委 託 す る な ど 、 学 校 の コ ン ピ ュ ー タ に 保 守 が必 要 で あ る と い う 意 識 が 高 ま <図2>ICT環境の維持管理を外部委託していますか ファイルサーバやコンピュータ本体などの主要機器の み保守契約を結んでいる 41.2% プリンタやプロジェクタなどの周辺機器も含めて保守 契約を結んでいる 43.2% 校内ネットワークの保守契約を結んでいる 38.5% システム活用支援、セキュリティ対策などのシステム 管理全般を委託している 39.6% はい 20.2% 保守契約などの委託契約は結んでいない 0.0% 6 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% っ て は い る 。( 図 2 )し か しそ れ は ま だ 、十 分 な も の と は言 え な い 。こ う し た 問 題 は目に見えにくいものであり、その重要性が共通理解されにくい。それゆえ、必 要 な 経 費 が 用 意 さ れ ず 、や む な く 教 員 が 担 当 す る と い う 状 況 が 生 ま れ て い る と 思 わ れ る 。 様 々 な 情 報 流 出の 事 件 等 を か ん が み る に 、こ の 点 の 改 善 は 、 緊 急 の 課 題 であろう。 (3)ICT 環 境 の 稼 働 状 況 <図3>各教室でICT機器の活用時間が週平均10時間以上の割合 27.4% 33.7% コンピュータ教室 24.8% 特別教室 普通教室 小・中学校 中学校 小学校 7.3% 5.8% 8.0% 1.2% 0.9% 1.3% 0.0% 5.0% 10.0% 15.0% 20.0% 25.0% 30.0% 35.0% 40.0% 週 に 10 時 間 以 上 コ ン ピ ュ ー タ教 室 を 利 用 し て い る学 が 27.4% と な っ てい る が 、 普 通 教 室 で の コ ン ピ ュ ー タ利 用 と な る と 、 10 時 間 以 上 利 用し て い る 学 校 は 、 わ ず か 1 % 程 度 で あ る 。 こ れ は、 普 通 教 室 に お け る ICT 活 用 が ほ と ん ど 進 ん で い な い ことを表している。 2.2.1.1.2 ICT 環 境 活 用 (1)授 業 に お ける ICT 活 用の 実 態 こ の 設 問 は 、 授 業 で ICT を 活 用 し て い る か を た ずね た も の で あ る 。 その回答を整 <図4>授業で のICT環境の活用( 小・ 中全体) 理してみると、 週に1回 教師が利用する 5.1% 45.3% 18.7% 30.9% 学期に数回 学期に数回程 度の頻度でそ うした授業が 行われている 1年に1回程 度 子どもが利用する 2.3% 0% 32.1% 20% 26.1% 40% 39.5% 60% 80% ー ン は 、 次 第 に 増 え て い る。( 図 4 ) 7 まったく取り 組んでいな い 100% 学校が最も多 い( 教 員 が 利 用 す る 45.3%、子 どもが利用す る 32.1% )。 そ れらの活用シ (2)授 業 に お ける ICT 活 用を 充 実 さ せ る 工 夫 普 通 教 室 の 場 合 、 ICT 活 用 を 充 実 さ せ る た め に教 員 が 利 用 場 面 や 利 用 方 法 等 を 工 夫 し て い る と い う 小 中 学 校 が 32.3 % 。 し か し な が ら 、 工 夫 の な い 学 校 も 67.7% あ り 、 問 題 視 さ れ よ う。 (3)授 業 に お ける ICT 活 用の 障 害 機 器 の 台 数 不 足 が「 授 業に お け る ICT 活 用 の 障 害」に あ て は ま るか ど う か を た ず ね て み る と 、そ の 割 合は 74.9%と な っ た 。か な り の学 校 に こ れ が 該 当 す る こ と が明らかに <図5>ICT活用の障害(小・中学校) 55.4% 機器の台数が不足 活用イメージがわからない 9.5% 19.5% 42.7% よくあてはま る 14.4% 10.7% 34.5% 13.3% ある程度あ てはまる あまりあては まらない 全然あては まらない 0% 20% 40% 60% 80% 100% な っ た 。( 図 5 )ICT 活 用 の具体的な イメージが 分からない という点も、 これに該当 す る と い う 回 答 が 52.2%と 、半 分 以 上 を 占 め た 。環 境の 整 備 と 授 業 で の 具 体 的 活 用 の サ ポ ー ト が 足 り て い な い現 実 が 見 え て き た 。 (4)情 報 教 育 実 践 へ の 取 り組 み 情 報 教 育 の カ リ キ ュ ラ ムに つ い て は 、各 教 科 に お け る推 進 を 意 識 し て い る 学 校 が 41.1%、 そ う で な い学 校 が <図6>年間指導計画にICT活用の視点を導入 している 58.9% と 、 半 分 に 分 か れ た 形 12.1% で あ っ た 。こ れ は、情 報 教 育 7.3% よくあてはまる 実践に関する意識の学校間 ある程度あてはま る 格差を物語っている。 (図6) 33.8% (5)ICT 活 用 に 関 連 し た 校 内 研 修 あまりあてはまらな い 全然あてはまらな い 46.8% ICT 活 用 に 関 連 し た 校 内 研 修 に つ い て は 、 基 本 的な コ ン ピ ュ ータ ス キ ル を 内 容と す る も の を 中 心 と し て年 に 1 回 以 上 行 っ て い る学 校 が 66.8%を 占 め た 。( 図7 ) しかし、情報活用能力 の育成 <図7>操作スキ ルを高める研修機会 14.0% 9.9% 19.2% その もの を目 指し た 授業 研究 会 学期に1回以上 など を校 内研 修で 実 施し てい な 1年に1回は実施 い 学 校が 63.6%に の ぼ り 、こ れ が 半分以上の学校で行われていな 数年に1回 い こ と が分 か っ た 。( 図 8 ) 実施していない ま た (3)で 述 べ た よ う に 、 ICT を使った具体的イメージの持て 56.9% ない教員が多くいることを考え 8 る と 、 こ の よ う な 類 の 研 修 を 積 極 的 に 企 画 ・ 運 営 す る こ と が 大 切 で あ る とい う こ とがわかる。 (6) 地 域 や 学 校 の 特 色 を 活 か <図8>情報活用能力の育成を目ざした研究会 の企画・運営 1.5% 12.0% し た ICT 活 用 の 取 組 み 学校インターネット 事業な 学期に1回以上 1年に1回は実施 どが盛んに行われていた時期 に比べると、学校の特色を活 22.9% 63.6% 数年に1回 か し た ICT 活 用 を 推 進 す る 学 実施していない 校は、極めて限られている。 例えば、日常的に学校間交流 (同校種)を行っている小中 学 校 は 1.6%に す ぎ な い 。 2.2.1.1.3 教 員 の 意 識 調 査 (1)授 業 に お ける ICT 教 育が 進 ま な い 理 由 授 業 に お け る ICT 教 育が 進 ま な い 理 由 に 「 準 備 に時 間 が か か りす ぎ る 」 が 該 当 す る と い う 回 答 が 、 82.2%に も な っ た 。( 図 9 ) これは、コンピュータ等の台数が少ないためにそれらを教室に常設できず、持 ち 運 ん で き て セ ッ テ ィ ン グ す る の は 、 授 業 の 準 備 に手 間 を か け る こ と に な る と 感 じ て い る 教 員 が 少 な く な いこ と を 意 味 し て い る の で はな い だ ろ う か 。 強くそう思 う <図9>IC T活用が進まな い理由( 小・中全体) 機器の台数が不足 準備の時間がかかりすぎ 0% 26.6% 34.0% 25.1% 10% 10.9% 28.5% 15.9% 1.9% 57.1% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% ある程度そ う思う あまりそう は思わな い 全然そう思 わない (2)ICT 環 境 整 備 へ の 期 待 <図10>ICT環境整備への要望・期待(小・中学校) 25.1% 教育ソフト・コンテンツの予算増額 57.1% 53.2% ICT機器整備の予算増額 15.9% 35.3% 10.0% 強くそう思う ある程度そ う思う あまりそうは 思わない 全然そう思 わない 0% 10% 20% 30% 40% 50% 9 60% 70% 80% 90% 100% 特 に ICT 整 備 の た め の予 算 の 増 額 を 求 め る 回 答 が 88.5%を 占 め た 。 ( 図 10)地 方 交 付 税 措 置 に よ り 学 校 現 場に は ICT 関 係 予 算 が そ れ な り に準 備 さ れ て い るに も か か わ ら ず 、 現 実 に は 現 場の ニ ー ズ を 満 た す も の に は な っ て い な い こ と が 明 ら か に なった。 (3)ICT 活 用 の 支 援 ・ サ ー ビ スへ の 要 望 ハ ー ド 面 は も ち ろ ん 、授 業に 利 用 で き る コ ン テ ン ツの 充 実 を 求 め る 回 答 が 87.4% を 占 め た 。 こ れ は 、 ツ ー ル 類 は そ ろ っ て い て も コ ン テ ン ツと し て の ソ フ ト ウ エ ア が 不 足 し て い る 現 実 を 示 す も の であ ろ う 。 さ ら に 、ICT 活 用 の た め の 加 配 教 員 等 の 措 置 に 関 す る 希 望 も 86.4% <図11>ICT活用を支援す る加配教師の制度化 12.2% 1.4% を占めた。これまで述べてき 強くそう思う た よ う な 「 予 算 」「 物 品 」、 そ ある程度そう思う 53.6% 32.8% あまりそうは思わ ない 全然そう思わな い してこの回答にあるような 「人材」の必要性を、学校現 場は 感 じ て い る と 言 え る 。 (図 11) (4)教 室の ICT 環 境 な ど の将 来 像 ( 次 世 代 モ デ ル ) へ の期 待 特 に 授 業 の 際 に 必 要 な 資 料が す ぐ に 取 り 出 せ る と い う環 境 を 90.5%の 人 が 望 ん で いる。 ( 図 12)他 方 、子 ど も一 人 一 人 が コ ン ピ ュ ー タ を持 つ と い う こ とに つ い て は 、 「 期 待 し て い る 」 =67.4%、「 期 待 し て い な い 」 = 32.5%と 回 答 が 分 か れ た 。( 図 13) 教 員 た ち が 抱 く 、 授 業 に お け る ICT 活 用 の 展 望 は 、自 ら の 活 用 と 子 ど も た ち の活 用 と の 間 で ギ ャ ッ プ が あ る も の とな っ て い る 。 <図13>子ど も一人ひ とりにコ ンピュ ータが与え ら れて いる(10年後) <図1 2>必要な資料がネ ッ トワー ク上から す ぐ に取 り 出せる( 5年後) 6.1% 7.8% 1.7% 31.6% 強く期待 34.7% 55.8% 26.4% 強く期待 まあまあ期待 まあまあ期待 あまり期待しない あまり期待しない 全然期待しない 全然期待しない 35.9% 10 2.2.1.2 情 報 担 当 者 に 関す る 調 査 ( a ) 学 校 に お け る ICT 活 用 の 推 進 の た め の 情 報 担 当 者の 必 要 性に つ い て 上 記 の 質 問 に 対 し て 情 報 担 当 者 は 「 と て も 必 要 」「 あ る 程 度 必 要 」 と 答 え た 学 校 は 97.8% に の ぼ る が 、 実 際にその担当者の役職 0.3 1.1 3.9 を聞くと管理職・教務 <図1 4 >情報担当者の役職 10.4 主任・学年主任・教科 主任ではない教諭がつ いている場合が45. 13.8 45.5 5 % で あ っ た。 ( 図 14) また、情報担当者の 62.9% が 担 当 に な っ て 校長 教頭または副校長 教務主任 学年主任 教科主任 上記以外の教諭 事務職員 3 年未満であった。 25.0 これは、学校には 様 々 な 校 務( 生 徒 指 導・研 究 主 任・体 育 主 任 な ど )が あ り ICT 活 用 の 必 要 性 は 感 じ な が ら も 校 務 の 優 先 順位 は 非 常に 低 い こ と がわ か る 。 学 年 主 任 以 上の 役 職 で な け れ ば校 内 に お い て 影 響 力 を発 揮 し な が ら推 進 す る こ と は 実 際 上な か な か難 し い も のが あ る 。 そ の た め 、こ の 結 果 は ICT 活 用 の 必 要 性 は 感 じ な が ら も校 務 に おけ る 実 際 の 優 先 順 位 は 低 い も の で ある こと が 明ら か に な っ た 。 ( b ) 校 内 の 情 報 担当 者 の ICT に 関 す る 能 力 と 経 験 に つ い て <図15>情報担当者のこれまでの経験 0% 20% ICT活用や情報活用能力の育成に関する実践の経 験がある 40% 60% 48.6 47.0 教育委員会での勤務経験がある 2.6 97.4 教育委員会での情報教育の担当経験がある 1.4 98.6 ICT活用や情報活用能力の育成に関する内地留学 などの経験がある 5.6 100% 51.4 53.0 以前の勤務校で情報担当者であった 80% はい いいえ 94.4 情 報 担 当 者 の こ れ ま で の経 歴 を 聞 い た と こ ろ 、「 ICT 活 用 や 情 報 活 用 能 力 の 育 成に 関 す る 実 践 の 経 験 が あ る 」と 答 え た 教 員 は 48.6% に す ぎ ず、「 以 前 の 学 校 で も 情 報 担 当 者 で あ っ た 」 と 答え た 教 員は 53.0% で あ っ た。( 図 15) こ の 結 果 か ら 、 情 報担 当と い う 校 務 分 掌 は 新 し い も の で は な いにも か か わ ら ず 、約 半 数 の 情 報 担 当 者 が初 め て担 当 に な っ た り 、こ れ ま で ICT 活 用 の経 験 が な い 教 員 が半 数 を 占 め て い たり する 現 状が 見 え て き た 。 情 報 担 当 者 の こ れ まで の経 験 と し て 、 教 育 委 員 会 で の情 報 教 育 の担 当 経 験 が あ っ た 11 り 、内 地 留 学 の 経 験 があ っ たり し た 場 合 と そ う で な い 場 合の 学 校 で の ICT 活 用 の 差を 分 析 し て み た。 「 普 通 教 室で の 利用 主 体・利 用 場 面・利 用 方法な ど 活 用 の 多 様 性 に 留 意 し て い ま す か」と い う 質 問に 対 し て、 「 教育 委 員 会 で の 情 報 教 育 担当経 験 あ り 」の 場 合、 60% の 教 員 が 「あ て は ま る」 と 答 え て い る。「 内 地 留 学経 験 者 」 の場 合 は 49% が 「あ て は ま る 」と 答 えて い る 。そ れ に 対 し て「 こ れ ら の 経 験が な い 」場 合 、約 30% し か「あ て は ま る 」 と 答 え てい なか っ た 。 こ の 結 果 か ら、情 報 担 当 者に つ い て は、短 期 的 な ICT 研 修 で は なく 、内 地 留 学 の よ う に じ っ く り 研 修 に取 り 組む 機 会 が 与 え ら れ れ ば 、校 内の ICT 活用 が 促 進 さ れ る の で は な い か と 期 待 さ れる 。 ( c ) 校 内 の 情 報 担当 者 の役 割 に つ い て <図16>情報担当者の役割 ICT機器のトラブル対応 80 児童・生徒の作品、データ管理 校内ネットワークの維持・管理 60 40 情報教育などに関する教育課程 の策定 20 部屋やICT機器の利用調整 0 校内ネットワークの拡張計画立案 校内研修の企画立案・実施 授業実践での指導・支援 教職員に対する支援・助言 情 報 担 当 者 の 役 割 は 非 常 に 多 岐 に わ た る 。 ICT 機 器 の ト ラ ブ ル 対 応 が 1 番 多 く 71.3% で あ っ た 。情 報 担 当 者が 授 業 中 で も 他 の 先 生 が ICT 機 器 のト ラ ブ ル が あ っ て も そ の 対 応 に 駆 け つ ける こ と が あ ると い う こ と も よ く 聞く 。 ま た 、専 門 性 が 必 要 な ネ ッ ト ワ ー ク の 維 持 管 理を 行 っ て い る教 員 も 50% を 越 え て い る。さ ら に は 、校 内 研 修 の企 画 立 案 を 60% 以 上 の 教 員が 行 っ て い る 。 ( 図 16)し か し、予 算 の 執 行 に は 23.5% し か 関 わ っ て お ら ず 、 権限 は な い が仕 事 量 が 多 い こ と が よ くわ か る 。 専 門 性 が 必 要 な ネッ ト ワ ー クの 維 持 管 理 を 50% の 教 員が 行 って い る が 、教 育 の 情 報 化 に 関 連 す る 資 格 を持 っ て い る教 員 は 全 体 の 0.9% し かい なか っ た 。 以 上 の こ と か ら 、情 報 担当 者は ICT の ス キ ル が 低 い割 に は 、ICT 機 器 の ト ラ ブ ル対 応 か ら 研 修 計 画 立 案ま で 、多 岐 に わ た る 業 務 内 容 を 担 当し て い るこ と が 明 ら か に な っ た。 ( d ) 管 理 職 の 学 校の 情 報 化へ の 意 識 管 理 職 の 学 校 の 情報 化 へ の意 識 と し て 「 学 校 の 情 報 化に 対 す る教 職 員 の 意 識 を 高め て い ま す か 」と い う 問 いに対 し て「 強 く そ う 思 う 」22.8%「 あ る程 度 そ う 思 う 」64.2% 12 で あ っ た。ま た 、 「 教 育 の 情 報 化の 意 義 や 動 向 を 理 解 し て い る」と い う 問 い に 対 し て「強 く そ う 思 う 」 22.8% 「 あ る程 度 そ う 思 う 」 68.0% で あ っ た。 こ の 結 果 か ら、 現 在 の 管 理 職の 意 識 と し て は 、ICT 活 用 の 必 要 性 は あ る 程 度感 じ て い る も の の 、 積 極 的に 取 り組 も う と し て い る 学 校 は 2 割 程 度 で あ る こ と が わ か っ た 。 ( e ) 校 内 情 報担 当者 の 調 査 結 果か ら 以 上 の 調 査 結 果 をま と め る と次 の よ う に な る 。 ・ 情 報 担 当 と い う 役割 の必 要 性 は あ る 程 度 認 識 し て い る ・ 情 報 担 当 と い う 役割 は学 校 で の 校 務 に お け る 優 先 順 位は 低 い ・情 報 担 当 と い う 役割 は ICT 機 器 ト ラ ブ ル 対 応 か ら研 修 計 画 立 案ま で 多 岐 に わ た る 業務を担う ・ 情 報 担 当 は 内 地 留学 経 験や 教 育 の 情 報 化 に 関 す る資 格 を 持 っ てい るも の は 非 常に 少ない ・ 内 地 留 学等 研 修 を積 ん だ情 報 担 当 者 が い る 学 校 で は ICT 活 用が 進 ん で い る ・ 管理 職 は 、ICT 活用 の必 要 性 は あ る 程 度 認 識 し て い る が必 ず しも 積 極 的 に 推 進し ていない。 こ の こ と か ら 、学 校 に おけ る情 報 担 当 者 に 対 し て は、司 書 教 諭 の よ う に資 格 と し て 認 定 し て 計 画 的 に配 置す る な ど の 対 応 が 考 え ら れ る。司 書 教 諭 の 資 格 取得 に つ い て は 、長 期 の 研 修 が 科 せら れ て お り、情 報 担 当 者 に対 し て も 司 書 教諭 と 同 じ よ う に 必 要 な ス キ ル を 十 分 身に つ け さ せ る た め の 研 修 が 必 要 で あ る と 考 え ら れ る 。 ま た、 校 内 人 事 に よ っ て 情報 教 育 担 当を 配 置 す る の では な く 、教 育 委 員 会 に よ り計 画 的に 配 置 す る 必 要 性 が ある と思 わ れ る 。 ま た 、管 理 職 に あ っ て は、学 校に お け る 情 報 教 育 並び に ICT 活 用の 重 要 性 を 認 識 し 、ビ ジョ ン を 持 っ て 積 極 的に 取 り 組 む た め の 研 修が 必 要 で あ る。ま た 、学 校 運 営 上 必 要 な 情 報 担 当 者 の配 置 を 別 枠 で 設 け る こ と で 円 滑な 情 報 教 育 並 びに ICT 活 用 の 推 進 が 図 れ る の ではな い か と 考 え る 。さ ら に 、情 報 担 当 者の 資 格 と して 既 存 の教 育 の 情 報 化 に 関 連 する資 格 制 度 を 上 手 に 活 用 す る こ と も大 切 で ある 。 13 2.2.2 教 育 委 員 会 関 係 2.2.2.1 ICT 環 境 の 整 備に 関 す る 調 査 ① 域 内 の 学 校 に お け る整 備 の 実 態 お よ び 計 画 ② 研 修 ・ 人 材 の 育 成 (研 修 制 度 と 運 用 ) ③ 情 報 シ ス テ ム 担 当 外 部専 門 家 ( 教 育 C I O ) の実 態 と 将 来 像 ( 1 ) 域 内 の 学 校 に お け る整 備 の 実 態 お よ び 計 画 ( a ) 文 部 科 学 省 の 整 備 計 画に つ い て ( 表 1 ) 都 道 府 県 教育 委 員 会 に お い て は 、 整 備 計 画 に 基 づ い て ICT 環 境 の 整 備が 進 め ら れ てい る が 、政 令 都 市・市 町 村 教 育委 員 会 に な る ほ ど 整 備 計 画 の 遅れ がみられる。 表1 《文部科学省 整備方針(平成12年度~平成17年度)》 小学校 中学校 高等学校(普通科) 盲・聾・養護学校 各学校の普通教室 特別教室・校長室等 児童1人に1台(42台) 生徒1人に1台(42台) 生徒1人に1台(42台) 児童・生徒1人に1台(8台) 各2台 学校ごとに6台 特 に 、市 町 村 レ ベ ルで は 42 台 の コ ン ピ ュ ー タが 整 備 さ れ た コ ン ピ ュ ー タ 室 の 整 備 済 み の 教 育 委 員 会が 、 全 体 の 49.8%と い う 回 答 で あ る 。( 図 17) <図1 7 >4 2台のコンピュ ータが配置されたコンピュ ータ教室の整 備状況 0% 20% 40% 60% 80% 100% 整備済み 91.9 都道府県 8.10 整備中 政令指定都市 33.3 50.0 0.016.7 計画はあるが未 着手 計画がない 市町村 49.8 26.8 6.9 16.5 ま た 、普 通 教 室 に各 2 台 の コ ン ピ ュ ー タ に つ い て は、整 備 済 み の 教 育 委 員 会 は 7.8% し か な く、 計 画 が な い 教 育 委 員 会 が 、 51.9% と い う 数 字 で あ る 。 ( 図 18) 14 <図18>普通教室に各2 台のコンピュータ整備 0% 20% 40% 60% 80% 100% 整備済み 都道府県 37.8 18.9 10.8 32.4 整備中 政令指定都市 8.3 58.3 8.3 18.8 51.9 25 計画はあるが未 着手 計画がない 市町村 7.8 21.6 こ の よ う な 状 況の 中 で 、プ ロ ジ ェ ク タ 等 の 周 辺 機 器の 整 備 は 、さ ら に 難し いと考える。 こ の 問 題 は 、情 報 担 当 者の 意 識 調 査 の な か で 、教 育 の 情 報 化 を 推 進 す る上 で の 課 題 と し て 、80% 以 上 の 担 当 者 が 、 財 政 難が 大 き な 課 題 と 回 答 し て い る こ と に 裏 付 け ら れ る。( 図 19) <図19>教育の情報化を推進する上で 財政難は課題とな って いますか 0% 20% 40% 60% 80% 100% 都道府県 80.6 19.4 大きな課題であ る ある程度課題で ある 政令指定都市 市町村 91.7 8.3 88.2 9.7 あまり課題と なってはいない 全然課題となっ ていない ( b ) 教 育 用 イ ン ト ラネ ッ ト に つ い て 都 道 府 県 教育 委 員 会・政 令 指 定 都 市 で は 、順 調に 整 備 が 進 ん で い る が 、市 町 村 教 育 委 員 会 に お い て は 、 43% と 低 い 数 字 を 示 し て い る 。 そ の 利 用 に お い て も 、学 校 か ら のイ ン タ ーネ ッ ト 検 索 や ホ ー ム ペ ー ジの 公 開 と い う 利 用に と ど ま る ケ ー ス が多 く 見 ら れ 、イ ン ト ラネ ッ ト を 有 効 に 活 用 す る ま で に は至 っ て い な い 。( 図 20) 15 <図20>学校間を結ぶ、教育用イントラネットは整備されてい ます か 0% 20% 40% 60% 80% 86.5 都道府県 100% 13.5 91.4 政令指定都市 はい 8.6 いいえ 43.0 市町村 57.0 ( c ) ソ フ ト ウ ェ アに つ い て 導 入 に つ い て は、教 育 委 員 会 で の 一 括 購 入・学 校 で の 判 断 で の 導 入 な ど地 域 の 実 情 に よ り 、そ の方 法 は 異 な る 。コ ン テ ン ツの 配 信 契 約 と い う 方 法 は ご く一部である。 予 算 の 中 で 、ソ フ ト ウ ェ アは 備 品 購 入 費 と し て、位 置 づ け て い る 教 育 委 員 会 が ほ と ん どで あ り 、使 用 料 等 に 位 置 づ け を 変 更し な け れ ば 、コ ン テ ン ツの 配 信 契 約 で の 導 入は 、 進 ま な い も の と 考 え る 。 ( d )ICT 環 境 な ど の整 備 計 画 に つ い て 市 町 村 教 育委 員 会 で は 、 今 後 策 定 予 定 ・ 予 定 が な い が 70% を 超 え る 実 態 が 見 ら れ 、 こ の ま ま で は今 後 ICT 環 境 等 の 整 備に お け る 格 差 は 広 が る も の と予想される。 ま た 、そ の 重 点 はハ ー ド 面 に ウ エ イ ト が 置 か れ て い る が、ハ ー ド・ソ フ ト・ 人 材・運 用 体 制 等 の項 目 を 明 確 に し た 整 備 計 画の 作 成 が 急 務 で あ る 。 ( 図 21) <図21>現在、ICT環境整備計画はありま すか 0% 20% 40% 56.8 都道府県 5.4 80% 21.6 75.0 政令指定都市 市町村 60% 20.0 8.8 100% ある 16.2 16.7 0.08.3 32.5 38.7 策定中 今後策定予 定 策定する予 定はない ( 2 ) 研 修 ・ 人 材 の 育 成( 研 修 制 度 と 運 用 ) 教 員 研 修 は 、10 回 未 満 と い う 回 答 が 市 町 村 教 育委 員 会 で は 70.7% 。一 方、 50 回 以 上 と 言 う 回 答が 都 道 府 県 、政 令 指 定 都 市で 80% ~90% で あ り 、都 道 府 県・政 令 指 定 都 市の 教 育 委 員 会 が 中 心 と な っ て研 修 が 実 施 さ れ て い る こ と が わ か る ( 図 22) ICT 関 係 の 教 員 研 修と な る と 、市 町 村 で は 89.2%が 10 回 未 満 と い う 回 答 16 か ら さ ら に そ の 傾 向は 顕 著 と な る 。( 図 23) <図22>教育委員会が主催す る教員研修を年間何回実施して いま すか 0% 20% 40% 60% 80% 100% 50回以上 80.6 都道府県 8.3 2.8 8.3 0 30~40回 91.7 政令指定都市 8.3 0 20~30回 10~20回 市町村 12.1 4.94.8 7.5 70.7 10回未満 研 修 内 容 は 、ICT 機 器 の 基 本 操 作 ・ 授 業 に お け る ICT の 活 用 ・ 情 報 モ ラ ル な ど の 意 識 啓 発 研 修な ど の 項 目 が 実 施 さ れ て い る。 都 道 府 県 教 育 委 員 会に お い て は 、ICT 機 器 の基 本 操 作 よ り も 、授 業 に お け る ICT の 活 用 ・ 情 報モ ラ ル な ど の 意 識 啓 発 を中 心 と し た 研 修 に 重 点 が 置か れている。 <図23>全教員研修の内ICT関係の教員研修は 年間何回実施していま すか 0% 20% 40% 60% 80% 100% 50回以上 都道府県 22.2 19.4 19.4 8.3 30.7 30~40回 政令指定都市 41.7 16.7 25 8.3 8.3 20~30回 10~20回 2.6 3.9 市町村 22.3 89.2 10回未満 17 リ ー ダ ー に 対 す る研 修 は 、ネ ッ ト ワ ー ク な ど のシ ス テ ム 管 理 、授 業 に お け る ICT 活 用 の 普 及・ 推 進 、 い ず れ の 項 目 に つ い て十 分 に 行 わ れ て お ら ず、 今 後 も リ ー ダ ー に対 す る 研 修 の 機 会 を 多 く 設 け て、研 修 を 行 っ て い く 必 要が あ る 。 < 図 24> <図2 4>リーダに対する研修内容 校務情報化の推進 情報教育やICT活用に関する教育課程の策定 5.3% 26.4% 5.6% 20.6% 8.4% 授業におけるICT活用の普及・推進 ネットワークなどのシステム管理 30.6% ある程度実施している 20% 34.2% 36.9% 36.9% 30.1% 6.4% 26.0% 0% 良く実施している 34.2% 34.3% 40% あまり実施していない 60% 30.9% 33.2% 80% 100% 全然実施していない 今 回 の ア ン ケ ー トの 回 答 者 に つ い て も 、 回 答 の あ っ た 376 の 教 育 委 員 会 で 、回 答 者 の 役 職を み る と 教 育 職 の 回 答 者 は 、全 体 の 52.6%で あ っ た 。教 育 委 員 会 内 部 に も 教 育の 情 報 化 を 推 進 で き る 人 材は 、少 な い の で はな い か と 考 える。 さ き に も 述 べ た よ う に、教 育 の 情 報 化 を 推 進 す る 上 で 、財 政 難 が 大 き な課 < 図2 5 > 担当者 不足は 課題とな っていま すか 8.4% 0.5% 題であるが、同様に教育の情 報化を推進できる担当者不足 も課題となっている 。教育委 員会全体の回答をみてもわか 48.6% 42.4% る よ う に 、「 大 き な 課 題 で あ る」が 48.6%、 「ある程度課題 で あ る 」 が 42.4 % と 全 体 の 90% を 超 え る 教 育 委 員 会 が 課 大きな課題である ある程度課題である あまり課題とはなっていない 全然課題となっていない 題 で あ る と 考 え て い る 。( 図 25) 教育の情報化を推進してい く 上 で 、リ ー ダ ーの 育 成 は、急 務 で あ る と 考 えら れ る 。ま た、研 修 内 容 に つ い て も ネ ッ ト ワ ー クな ど の シ ス テ ム 管 理 、 授 業に お け る ICT 活 用 の 普 及・ 推 進 、 情 報 教 育 や ICT 活 用 に 関 す る 教 育 課 程の 策 定 、 校 務 情 報 化 の 推 進と い う よ う に 多 岐 に わ た る た め、計 画 性 の あ る 研 修 計 画を 立 案 す る こ と が 求め られる。 18 2.2.2.2 情 報 担 当 者 に 関す る 調 査 2.2.2.2.1 情 報 担 当 者 の必 要 性 教 育 委 員 会 に お け る情 報 担 当 者の 必 要 性 に つ い て は、80 パ ー セ ント 以 上 の 管 理 職が 必要性があると 認 識 し て い る が、 <図26>専任の情報担当者が必要です か 強くそう思う 34.4 教育委員会 50.2 46.6 教育センター 14.80.6 32.1 19.4 1.9 ある程度そ う思う あまりそう 思わない 全然そう思 わない 0% 20% 40% 60% 80% 100% ( 図 26)実 際 に は 、53% の 教 育 委 員 会 、68% の 教育センターに おいて情報担当 者が配置されて い な い ばか り か、 今後の配置の予 定 も な い の が 実 情 であ る 。( 図 27) 情 報 担 当 者 が 配 置 され て い る教 育 委 員 会 等 で は、情 報化 計 画 に 基 づ く 整 備 率 も 高 く、 学 校 へ の コ ン ピ ュ ータ 等 の整 備 も 計 画 的 に 進 め ら れ て い る。 今後ますます <図27>情報担当者を置いている 校務等での活 用も増し、学 校のコンピュ はい 教育委員会 47.4 0 52.6 ータの設置台 配置の予 定がある 数も増えるこ とから、各教 教育センター 31.8 0.7 67.5 いいえ 育委員会等に 専任の情報担 0% 20% 40% 60% 80% 100% 当者を配置す る こ と が 強 く 望 ま れる 。 2.2.2.2.2 情 報 担 当者 に 求め ら れ る 能 力 教 育 委 員 会 等 の 情 報担 当 者に 期 待 さ れ る 能 力 と し て は、 教 育 に 対す る 理 解 や 行 政の 仕 組 み か ら コ ン ピ ュー タ 等の 専 門 知 識 に 至 る ま で 、 あ ら ゆ る項 目に お い て 期 待 が 高か っ た。( 図 28) 中 で も 、 情 報 技 術 ・理 解へ の 期 待 は 非 常 に 高 い が 、実 際 に 配 置 され て い る 担 当 者が 満 た し て い る 割 合 は低 く 、期 待 通 り の 人 材 が 配 置 で き て い な い実情 が 読 み と れ る 。 先 の 情 報 担 当 者 が 配置 さ れ て い な い原 因 の 一 つ に 、情 報 担 当 者 とし て 求 め ら れ るス キ ル を 持 っ た 人 材 の不 足 も考 え ら れ る の で、担 当 者 を 配 置で き る 予算 の 確 保 と と も に、 要 求 さ れ る 項 目 に つい て 、あ る 態 度 の ス キ ル を 持 つ 担 当 者を 育 成す る 必 要 が あ る 。 アンケートを見ても、情報担当者に必要とされる資格等については、いずれの 19 <図28>情報担当者が有する 能力 情報化に伴なう制度的、法律的問題と対処の理解 管理職 の期待 39.1% 17.6% 実態 37.5% 教育委員会、外部専門家との意見調整、企画立案 28.2% 62.8% 情報モラルや論理、学校の危機管理に関する知識 43.1% 33.5% 情報ネットワー ク社会を支えている考え方の理解 28.2% 57.2% コンピュータ、通信ネットワーク、ソフトウエア技術などの情報技術・知識 31.6% 19.1% 教育工学、教育情報学、学習デザインに関する理解 12.8% 37.0% 学習理論とメディアの関係、教育方法、カリキュラム開発 18.4% 52.9% 情報通信ネットワーク社会における教育の在り方の理解 35.1% 0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% 70.0% 項 目 も 高 い 結 果 が でて い な い。 情 報 担 当者 育 成 の た め の研 修 や 資格 が 、 教 育 委 員 会の 管 理 職 に 理 解 さ れ てい な い面 も あ り 、 研 修 と 組 み 合 わ せ て資 格 取得 を 奨 励 し 、 広 め て い く こ と も 教 育 の 情報 化 の推 進 に は 必 要 で あ る 。 ま た 、そ う し た 人 材 は す ぐ に は育 成 で き な い。ま ず は、都 道 府 県 教 育委 員 会 単 位 で、 ス キ ル の あ る 情 報 担当 者 を配 置 し 、 市 町 村 教 育委 員 会 の 情 報 担 当者 へ の 研 修 や 支 援を 行 い 、 人 材 を 育 て てい くこ と も 検 討 さ れ る べ きで あ る 。 2.2.2.2.3 外 部 専 門家 の 活 用 外 部 専 門 家 に つ い ては 、学 校 へ の 授 業 支 援 を 行 う ア ド バ イ ザが 78.3% 、障 害 対 応 等 技術的な支援を <図29>教育委員会外の情報担当専門家の必要性 インストラクタ、アドバイザなどの専門家 が必要ですか 78.3% 教職員の質問・相談のためのヘルプデ スクが必要ですか 82.4% 行うヘルプデス 21.7% 必要で ある 31.9% 68.1% 報計画の立案を 行 う 人 材 が 17.6% 必要で ない 情報化計画の立案・推進のための外部 専門家が必要ですか ク が 82.4% 、情 68.1% と 、 そ れ ぞれ非常に必要 性を認識してい る。( 図 29) 0% 20% 40% 60% 80% 100% 実 際 の 配 置 は、 そ れ ぞ れ 15.9% 、25.7%、6.7% で し かな く 、ま た、83.3% 、73.7% 、92.5% の 割 合で 今 後 の 配 置 計 画 も ない 。(図 30) 20 学 校 に と っ て 有 効 な ICT 環 境 を 整 備 し、そ れ を 有 効に 授 業 で 活 用す る と と も に 、障 害発生時などに <図3 0 >教育委員会外からの情報担当専門家の受け入れ 実態 教員が負担にな らないように安 インストラクタ、アドバイザなどの専門家 15.9% を学校に派遣していますか 教職員の質問・相談のためのヘルプデ スクを設置していますか 83.3% 0% 心して活用でき る よ う にす る た 配置の 予定が ある 73.7% 25.7% 情報化計画の立案・推進のための外部 6.7% 専門家を受け入れていますか はい いいえ 92.5% めには、こうし た外部専門家を 教育委員会の規 模に応じて配置 することが必要 20% 40% 21 60% 80% 100% である。 2.3 将 来 像 へ の 反 映の 観 点 2.3.1 ICT 環 境 整 備 等 の 実 態 コ ン ピ ュ ー タ 教 室の 整 備が 進 み 、 ま た 教 員 の 「 校 務の 情 報 化 」に 対 す る 必 要 性 が認 識 さ れ て き て いる のと は 対 照 的に 、 普 通 教 室 や 特 別 教 室の 整 備 が不 十 分 で あ る 。 例え ば 、 小 中 学 校 に は 平均 し て 12 の 普 通 教 室 が あ る が 、そ こ に 設 置さ れ て い る コ ン ピ ュ ー タ は わ ず か に 4.6 台 、 プロ ジ ェク タ ー に 至 っ て は 0.5 台 で あ る 。 調査協力者の <図31>活用したくても機器の台数が不足している 約 75% は「 活 用 したくても、機 小学校 55.9 19.3 14.3 10.5 器の台数が不足 している」と回 中学校 答 し て い る。 (図 31) 54.0 20.0 14.6 11.4 よくあては まる ある程度あ てはまる あまりあて はまらない ま た 、教 育委員会につい 小中計 55.4 19.5 14.4 10.7 ては、特に市区 町 村 教 育委 員 会 0% の整備計画の策 20% 40% 60% 80% 全然あては まらない 100% 定 状 況 に 問 題 が あ るこ と が明 ら か に な っ た 。 ICT 環 境 の 整 備 <図32>現在、ICT環境整備計画がありますか 20.0 市町村 32.5 8.8 計画の有無につ ある 38.7 い て、 「 あ る」 「策 定 中」 「今後策定 策定中 75.0 政令指定都市 16.7 0.0 8.3 予定はない」と 今後策定 予定 56.8 都道府県 0% 20% 5.4 40% 60% 21.6 80% 16.2 100% 予 定」 「策定する 回答した市区町 村教育委員会の 策定する予 定はない 割 合 は そ れ ぞ れ、 20.0% 、 8.8% 、 32.5% 、 38.7% と な っ た 。都道 府 県 や 政 令 市の 場 合 に 比 べ て、 「 策 定 す る予定 は な い 」と い う 割 合 が極 め て 高 い。( 図 32) 学 校 、 教 育 委 員 会が ICT 環 境 を 組 織的 ・ 計 画 的 に 整 備し て い くた め 、「 I T 新 改 革 戦 略 」 等 の 周 知 徹 底が 求 め ら れ る。 2.3.2 ICT 環 境 の 活 用 授 業 に お け る ICT 活 用、 と り わ け 、普 通 教 室 や 特 別 教 室 等に おけ る 活 用 に は 、「二 極 化 」 傾 向が 認 め ら れ る 。例 え ば 、 普通 教 室 に お い て「ICT に よ っ て 子 ど も の 知 的 好 奇 心 を く す ぐ る 資 料を 提 示し て い る 」 と い う 設 問 に 対し て 、 1 )1 週 間 に 1 回 以 上 取 22 り 組 ん で い る 、 2 )学 期 に数 回 程 度 は 取 り 組 ん で い る、 3 ) 1 年に 1 回 程 度 な ら 取り 組 ん で い る、4) <図33>ICT によって子どもの知的好奇心をくすぐる資 料提示をし ている 45.3 小中計 5.1 18.7 1週間に1 回以上 30.9 学期に数回 程度 48.7 小学校 5.1 18.4 27.8 1年に1回 程度 中学校 5.0 0% 36.9 20% 19.7 40% 38.4 60% 80% まったく取 り組んでい ない 100% まったく取り組 ん で い ない と い う4つの回答選 択 肢 を 設 け た が、 それぞれは、小 中学校の全回答 の 、 5.1 % 、 45.3% 、18.7% 、 30.9% を 占 め る こととなった。 ( 図 33) 同 じ く 普 通 教 室 に おい て「 子 ど も に、 ICT を 用 い て自 ら の 思 考 や判 断 を 仲 間 に 効 果 的に表現させて <図34>子どもにICT を用いて、身近らの思考や判断を 仲間に効果的に表現させて いる 小中計 2.3 32.1 26.1 1週間に1 回以上 39.5 学期に数回 程度 小学校 2.0 34.1 27.4 36.5 1年に1回 程度 中学校 2.8 0% 27.2 22.7 20% 40% 47.3 60% 80% まったく取 り組んでい ない 100% いる」という設 問に対しては 2.3 % 、 32.1 % 26.1% 、 39.5% と な っ た 。 ICT 活用には、地域 や学校による、 「格差」が大き いことが明らか になった。 ( 図 34) 普 通 教 室 等 に お ける ICT 活 用 の 障 害は 複 合 的 で は あ る が、「 機 器 の 台 数 不 足 」 が教 員 に と っ て は 深 刻 であ る 。 <図35>ICTによっ て子ども の知的好奇心をくす ぐる資料を提示 している(小学校) 1週間に1 回以上 63.1 19.4 8.7 0.5台以上 8.8 学期に数回 程度 56.9 18.9 15.6 0.5台未満 8.6 1年に1回 程度 0台 2.8 0% 40.4 20% 17.9 40% 38.9 60% 80% 100% まったく取 り組んでい ない 見 方 を 変 え れ ば、 整備が進むほど に 、ICT の 活 用 は 増 す。例 え ば、 小学校の普通教 室 に お い て 「ICT に よ っ て 子どもの知的好 奇心をくすぐる 資料を提示して い る 」に つ いて 、 「 学 期 に数 回程 度 」あ る い は そ れ 以 上と 回 答 す る割 合 は 、普 通 教 室に お け る コ ン ピ ュ ー タの 設 置の 充 実 度 に よ っ て 変 わ る。1 教 室 に「 0.5 台 以 上」設 置 さ れ 23 て い る 場 合は 71.9%で あ る が、「 0~0.5 台 未 満 」 設 置 さ れ て い る場合 は 65.5%と な り、 設 置 さ れ て い な い 場合 は 43.2% に ま で 減 少 す る。( 図 35) 同 様 に し て「 子 ど も に 、ICT を 用 い て 自 ら の 思 考 や判 断 を 仲 間 に効 果 的 に 表 現 さ せ て い る 」 に つ い て 、回 答 率は そ れ ぞ れ 、 51.1% 、 43.9% 、 27.6% と な っ た。( 図 36) <図36>子ど もにICTを用いて、身近ら の思考や判断を仲間に効 果的に表現させている(小学校) 1週間に1 回以上 0.5台以上 3.6 47.5 33.1 15.8 学期に数回 程度 0.5台未満 4.3 39.6 30.7 25.4 1年に1回 程度 0台 1 26.6 0% 2.3.3 24.2 20% 48.2 40% 60% 80% まったく取 り組んでい 100% ない コンピュータが 普通教室に設置 してあるか否か は、それを活用 するか否かを教 員 が 決 定 す る 際、 極めて大きな影 響を与えている と言える。 学 校 や 教 育 委 員 会の 情 報 担 当 者 学 校 に お け る ICT 活 用 促 進の た め に は 情 報 担 当 者の 組 織 化 が 必 要 だ と 考 え る 学 校 が 大 半 で あ る に も かか わ ら ず 、 そ れ を 遂 行 す る 能 力 ・経 験 を 有 した 人 材 が 学 校 組 織に 位 置 づ け ら れ てい ない( そ う し た人 材 が 確 保 さ れ て い な い)。こ の よ う な 人 材の 配 置と ICT 環 境の 活 用 に つ い て は、 両 者 の 間 に あ る 程 度 の 相 関 関 係を 確認 で き る 。 例 え ば、 「子ど <図3 7 >「 IC T技術全般に及ぶス キルを持って いる人材 配置」 と、子どもにI CTを用いて 自らの思考や判断を仲間に効 果的に表現して いる割合( 中学校) 十分・ある程度 3.7 30.2 22.3 43.8 も に 、ICT を 1週間に1 回以上 学期に数 回程度 用いて自らの 思考や判断を 仲間に効果的 に表現させて いる」に対し 1年に1回 程度 あまり・全然 1.8 19.6 0% 20% 24.3 40% 間に1回以上 54.3 60% 80% て、1)1週 まったく取 り組んで いない 100% 取り組んでい る、2)学期 に数回程度は 取り組んでい る 、 3 ) 1 年 に 1 回程 度 な ら取 り 組 ん で い る 、 4 ) ま っ た く取 り組 ん で い な いと い う 4 つ の 選 択 肢 に 対 し て 、「ICT 技 術 全 般 に 及 ぶ ス キ ルを 持 っ て い る 」 人 材 が 配 置 さ れ て い る 中 学 校 の 場 合 は 、 そ れ ぞ れ が全 回 答 に 占 め る 割 合が 3.7% 、 30.2% 、 22.3% 、 43.8% で あ る の に 対 し て 、そ う で な い 場 合は 、1.8%、19.6% 、24.3% 、54.3% と な っ て い る。( 図 37) 情 報 担 当 者 の 能 力 とし て特 に 問 題 が あ る と 思 わ れ て いる の は 、 予算 管 理 と 教 育 委 員 会 へ の 提 案 等 で あ った 。 そ し て、 そ れ ら は 、 現 実 に お い て も、 役割 と し て 果 た さ れ て い な い と い う 回 答 が多 か っ た。ま た、管 理 職 が 学 校 の 情 報 化に 理 解を 示 す と ICT 環 境 24 の 整 備 や 活 用 が 進 展す る と い う結 果 も 得 ら れ た が 、 そ れ を促 す 働き か け を 行 え る 能 力 を 有 し た 情 報 担 当 者も 、 そ う多 く は な い 。 教 育 委 員 会 、 教 育 セン タ ーに 関 し て は 、 情 報 担 当 者が 不 在 の ケ ース が 半 数 を 超 え て お り 、 問 題 で あ り 、整 備 の進 展 が 進 ま な い 要 因 と な っ て い る。 例えば、教育 指導課など情報担当者を置 いている <図38>普通教室に各2 台のコンピュータ の整備 委員会に情報 整備済 はい 5.0 いいえ 2.69.7 21.6 18.7 17.0 担 当 者 が 置か れている場合 54.7 整備中 計画はある が未着手 70.7 計画がない には、普通教 室 に 各 2 台の コンピュータ を 置 い て い る、 ないしはそれ 0% 20% 40% 60% 80% 100% を計画してい る 割 合 が 45% を 超 え る のに 対 し て 、情 報 担 当 者 が 置 か れ て い な い場 合 は 、そ の 割 合 が 30% 未 満 に 下 が る。( 図 38)教 育 セ ン タ ーへ の 情 報 担 当 者 の 設 置に つ い ても 、 同 様 の 結 果 が得 ら れ た 。 す な わ ち 、そ う し た人 材 が 置 か れ て い る 場 合は 普 通 教 室へ の コ ン ピ ュ ー タの 設 置 割 合 が 50% 弱 で あ るが、 置 か れ て い な い 場 合 は 、そ れ が 30% 強 にま で 下 が る。 こ の よ う な 傾 向 は 、整 備 計 画の 有 無 に つ い て も 同 様で あ っ た ( 情報 担 当 者 を 置 い て い る 場 合 は、 そ う で な い 場 合に 比 し て 、ICT 環 境 整 備 計 画を 策 定し て い る 、 な い し は 策 定 す る 予 定 が あ ると 回 答す る 割 合 が 高 い)。教 育 委 員 会や 教 育 セン タ ー に お け る 情 報 担 当 者 の 存 在 は、 ICT 環 境 整 備の現 状 だ け で な く、 将 来的 に も 影 響 す る こ と が 予 想さ れる。 以 上 の ア ン ケ ー ト 結果 か ら、 学 校 の 情 報 化 を 担 う 人 材の 確 実 な 配置 は 、 緊 急 の 課 題 で あ る こ と が 再 確 認さ れ た。 こ れ を 実 現 す る た め に は、 例 え ば 、学 校 や 地 域 の 状 況に 応 じ て 学 校 の 情 報 化を 担 う「 情 報 主 任 」( 学 校 )、 情 報 主 事( 教 育 委 員 会 ) な ど の 制 度 化 や 資 格 化 な ど に つい て も 検 討 が 必 要 で あ ろ う 。 25 第3章 国内先進事例調査の実施 3.1 先進事例実践校訪問調査 ································ 26 3.1.1 訪問調査の概要 3.1.2 小学校での特徴的な事例 3.1.3 中学校での特徴的な事例 3.1.4 高等学校での特徴的な事例 3.1.5 将来像への反映の観点 3.2 CIO等実践地区訪問調査 ······························ 31 3.2.1 訪問調査の概要 3.2.2 訪問地区の状況と全国での位置づけ 3.2.3 CIO補佐官としての情報担当指導主事の配置 3.2.4 技術専門家の関与 3.2.5 明快・綿密な情報化計画の策定と説明責任 3.2.6 予算の確保とCIOの役割 3.1 先進事例実践校訪問調査 3.1.1 訪問調査の概要 下記の小学校4校、中学校4校、高等学校3校の訪問調査を実施した。 【小学校】千葉県 岐阜県 京都府 柏市立土南部小学校 輪之内町立仁木小学校 立命館小学校 茨城県 【中学校】長野県 愛知県 つくば市立二宮小学校 安曇野市立豊科南中学校 小牧市立光が丘中学校 群馬県 前橋市立第三中学校 滋賀県 彦根市立中央中学校 【高等学校】兵庫県立神戸甲北高等学校 兵庫県立西宮今津高等学校 北海道立札幌北高等学校 教育の情報化といっても、様々な視点からの取り組みが見られる。これらの学校は、 ICT 環境の整備だけでなく、活用の工夫を含め様々な先進的な取り組みが見られる学 校として、選択した。 3.1.2 小学校での特徴的な事例 3.1.2.1 すぐに使える教室環境の整備 今回訪問した小学校では、情報環境の整備を進め、様々な授業実践が展開されてい た。特に、OHC(オーバー・ヘッド・カメラ)や教科書準拠型デジタルコンテンツを活 用し、教材を大映しにして授業を行う方法は、これらの学校ではすでに定着してきて いるように思われる。そのための学習環境整備として、教室で手軽に情報機器が使え るように、無線 LAN を整備したり、プロジェクタを天井からつり下げる、ワゴンに 一式乗せた形で、各教室に配備するなどの工夫が見られた。 3.1.2.2 デジタルカメラの多面的な活用 デジタルカメラもあらゆる学習活 動に気楽に利用できるメディアとし て取り入れられている。台数も40 台以上をそろえている学校も多く、 総合的な学習の時間などで、一人1 台で利用を行っている。 3.1.2.3 大判プリンタで教材や学習 履歴を大きく印刷 大判プリンタも、教材作成の際に 有効にはたらくメディアとして活用 されている。 3.1.2.4 教員用コンピュータでデジタルコンテンツの活用 教員用のコンピュータを導入したことにより、より一層の活用が広がりを見せ始め 26 ている。同時にデジタルコンテンツの活用なども進められている。 3.1.2.5 安全安心な校内ネットワークの構築 安全で安心なネットワーク環境構築のために、校務系と授業系のネットワークをレ イヤスイッチで切り分けて利用している場合が多い。 3.1.2.6 黒板を低反射ホワイトボードに 教室の黒板をすべて低反射のホワイトボードに置き換えた学校もある。低反射ホワ イトボードは、そのままでプ ロジェクタのスクリーンとな り、天井からつり下げた無線 LAN 対応のプロジェクタで いつでもすぐに使えるように 整 備を行 っ て い る 。 ま た、 IWB(インタラクティブ・ホ ワイト・ボード)がホワイト ボード全面にスライドで引き 出して利用できるようになっ ており、必要に応じて利用さ れている。 3.1.2.7 CMS で学校 Web ページの活性化 学校 Web ページを、CMS(コンテンツ・マネジメント・システム)を利用して配 信する試みも始まっている。 学校での出来事をタイムリーにブログとして発信したり、 緊急時の連絡を携帯の電子メール機能を用いて行ったりしている。これらにより、学 校と家庭の連携がより強くなっていることも、訪問した学校の共通のポイントであろ う。 3.1.3 中学校での特徴的な事例 1)すぐに使える教室環境の整備 小学校と比べ中学校では、教科による活用の差が広がっている。コンピュータ 室や特別教室などの機器は整いつつあるが、今後は、普通教室において気軽に使 える環境整備が重要なポイントとなる。彦根市立中央中学校では、全普通教室に、 PC や液晶プロジェクタ、AV 機器を設置し、日常的に活用できる環境を整備して いる。同様の事は、前橋第三中学校などでもいえる。環境整備をきちんと行い、 教員が必要と思ったときにすぐに活用できるよう準備をしておくことが日常で の活用の第一歩であろう。 小牧市立光が丘中学校では、機器をすべての教室に一気に整備を行うことがで きないため、一つの空き教室に機器を集中させ、容易に ICT を利用した授業を行 える教室として整備し、そのメリットを教員に体験してもらえるようにしている。 現在でもこの教室の活用頻度は上がってきており、今後各教室の ICT 機器の整備 27 が進めば、学校ぐるみの取り組みとして自然に広がっていくと考えられる。 2)デジタルカメラの多面的な活用 また、小学校と同じく、デジタルカメラの利用頻度は高い。動画機能も授業に おいて良く活用されている。反面、活用の頻度が上がると、バッテリーなどの消 耗品の交換、故障などによる修理も必要となる。 3)校務の情報化を軸とした学校の情報化 安曇野市立豊科南中学校に見られる校務の情報化を中心とした取り組みも参考 になる。校務の情報化を進めることにより、教員は日常的にコンピュータを使わ ざるを得ない状況に置かれる。また、業務の効率化により、時間が創出できると いうメリットを実感することで、より積極的な活用に広がってきている。教科別 指導を行いながら、一人一人の生徒の様子について、それぞれの教員が見たり、 感じたりしたことを共有していくことにより、教員の指導の一貫性や生徒の状況 の多面的な把握につながってきている。 前橋市立第三中学校でも、グループウェアやファイル共有などが進められ、情 報の共有と、校務の効率化を行っている。 4)サーバの一括管理による管理業務の効率化 中学校においても、ネットワークやコンピュータの整備のための人材の配置は 少なく、担当の教員にゆだねられて いるケースが多い。しかしながら、 サーバ等を教育センターで一元管理 するなど管理の方法を見直し、より 学校現場の負担が少ない導入の方法 で行う工夫が見られる。 5)デジタルコンテンツを大きく 写して授業 中学校においても、デジタルコン テンツや電子教科書、教科書の図表 をスキャナで読み込み大写しにしな がら授業を行うことで、効果的な教 材提示で理解を促進させるなど、効 果的に授業を進めることができる。 多くの学校でもこのような実践を進 めていた。 3.1.4 高等学校での特徴的な事例 1)デジタルコンテンツの活用 高等学校の場合、現在ではなかなか学校ぐるみの取り組みという形までには至 っていない。しかしながら、一部教科でのデジタルコンテンツ活用などが始まっ ている。 2)プレゼンテーションの授業は入試にも好影響 28 プレゼンテーションなどを授業で取り入れている学校では、大学の AO(アド ミッション・オフィス)入試などの結果に良い影響が出てきている。総合的な学 習の時間や、卒業研究な どの学校特設科目を利用 して、生徒が ICT 機器を 利用したプレゼンテーシ ョンに取り組む事例も多 い。 3)ブログや Wiki を 活用した国際交流 海外の学校との交流学 習を実施している学校も 多い。電子メールや掲示 板、ブログや Wiki とい ったインターネットの機 能を有効に活用しながら 進めており、このような実践は ICT 機器無くしてはなかなか実践が難しいと考え られる。 4)教科「情報」の教員との TT づくり 教員の多くは ICT を活用した授業を受けた経験がなく、授業の進め方のイメー ジを持てない場合が多い。そのような教員が、教科「情報」や総合的な学習の時 間に TT(チーム・ティーチング)として加わることにより ICT を活用した授業の イメージ作りを行っている事例も見られた。 5)地域と連携して本物の学びを 学校の特色として、地域の企業と連携し、科目を設定している例も見られる。 学習用の機材や講師として企業の方を受け入れ、同時に教員の研修も行っている。 受験教科に教科「情報」が入っていないことを理由に、なかなか ICT 活用に向 かいにくいと考えられる進学校においても、ICT 活用を今後のリーダの必須条件 として教育内容を工夫することにより、他教科の学習の質の向上につながるとい った感覚を他の教員が持ち始めている事例もあった。 6)ICT 活用推進の校内組織づくり 校内では、情報教育推進の部会組織や、図書館、視聴覚教育などと統合したメ ディア情報部を設置し、推進に当たっている事例がある。しかしながら、学校だ けでは対応できない問題が発生した場合、気楽に問い合わせができるヘルプデス クの設置を求める声も多い。 3.1.5 将来像への反映の観点 まずは、環境整備を急ぐ必要がある。どの学校段階でも授業と授業の間の休み時間 は10分程度であり。その間にプロジェクタを移動して、設置することは大きな負担 29 になっている。天井据え付け型のプロジェクタやプロジェクタワゴン、大型ディスプ レイの早急な設置が求められる。 低反射型のホワイトボードも有効である。光が丘中学校では、学校用務員が、手作 りのホワイトボードを作成して利用していたが、専用のもので無くても、十分に利用 は可能であると考える。日本の授業の特徴として、きれいな板書を作成するというこ とがある。授業の上手な先生は、授業後に見事な板書が残っている。同じ事をインタ ラクティブ・ホワイト・ボードで実施することは難しい。プロジェクタで資料を提示 しながら、同時に現在の大きさ程度の黒板やホワイトボードで板書をするといった併 用型の利用の方が、授業で使いやすい。 教室の電源容量、電源系統の見直しが必要である。同時に、教室の蛍光灯の系統の 見直しも必要である。通常の教室では、黒板等、南側、北側といった電源系統になっ ており、スクリーンなどを利用する際には使いづらい。写り込みの少ないタイプの大 型ディスプレイなどを用いれば、このあたりは手を加えなくても良いかもしれない。 教員用のコンピュータは必須である。授業を進める上では、タブレット型の PC も 利用しやすい。ペンで画面に書き込みをしながら、その書き込みを残すことも可能で ある。 児童生徒用の情報端末の整備も必要であろう。小学校段階ではノートパソコンより も携帯情報端末の方が使い勝手がよい。キーボードもブルートゥースなどの無線技術 で使えるものも出てきており、机上の場所をとらず、ノートをきちんととらせながら、 必要な際に情報を検索したり、メッセージを送信したりできる程度の端末を、各自が 持って授業を受けるようになれば、また違った授業構成が考えられるのではないかと 思われる。また、これら携帯情報端末は今後の価格動向にもよるが、学校所有のほか に、個人所有の形で購入することも考えられる。 安全で安心なネットワークの整備も急ぐ必要がある。児童生徒全員で学習端末を無 線 LAN で接続することを想定した場合、高速な無線 LAN 環境を整備しておく必要が ある。 教員の研修は、センターで行う集合型研修だけでなく、各学校内で進めていく必要 がある。授業時間の関係などで、集合型研修は参加がしにくくなってきている。また、 実際の授業環境と同じか、近いもので研修を行うことにより、より授業での実践が容 易になると考えられる。また、各学校の教頭や教務主任の指導の下、校内研修計画の 中に、ICT 活用を明記する必要かある。 外部人材による支援は、その役割、責任を明確にする必要がある。導入時にできる だけメンテナンスの必要の無いシステムを導入し、遠隔からメンテナンスを行えるよ うな設定、ヘルプデスクとして、常時監視、支援を行える専任のスタッフを配置する 方が効果的である。 学習用コンテンツ開発も必要である。学習用コンテンツとして、教科書をそのまま デジタル化したものや、小学校などでは、身近な地域のデジタル教材が授業で役立つ。 学校 Web サイトのより一層の充実が必要である。これまでも地域に学校の情報を提 供するために Web サイトの重要性が指摘されているが、個人情報保護などの観点から、 タイムリーな情報発信ができにくくなっている。情報発信の流れを見直し、より迅速 30 に、安全に情報発信ができる体制作りが必要である。同時に、それを容易にする CMS (コンテンツ・マネージメント・システム)の導入も検討すべきであろう。 3.2 CIO 等実践地区訪問調査 3.2.1 訪問調査の概要 CIO(Chief Information Officer)や CIO 補佐官に相当する担当者を有すると思わ れる教育委員会、教育センター等、以下に示す国内5か所の訪問調査を行った。 【教育委員会】 千葉県柏市教育委員会(平成18年12月12日訪問) 茨城県つくば市教育委員会(平成18年12月15日訪問) 岐阜県輪之内町教育委員会(平成19年1月19日訪問) 群馬県前橋市教育委員会(平成19年1月22日訪問) 【教育センター】 兵庫県三木市立教育センター(平成18年12月19日訪問) 3.2.2 訪問地区の状況と全国での位置付け 訪問調査を行った教育委員会や教育センターの管轄の学校数は、少ないところでは 4校から、多いところでは70校以上と相違はあるものの、いずれも、ネットワーク は教育センター等でレイヤ3スイッチにより目的に合わせた集中管理が行われていた。 アンケート調査では、学校間を結ぶ教育用イントラネットが整備されている割合は 43%と半数以下である。つくば市教育委員会では、接続されている全 PC のソフトウェ アやウイルス対策、OS アップデートの状況等を把握出来るシステムが構築されていた。 訪問調査の5市町では、いずれも、指導主事クラスの情報担当者が置かれていた。 一般に CIO とは、情報システムや情報セキュリティ、個人情報保護など情報戦略に専 門性を有し、経営戦略にも責任を持つ、経営と技術とを整合性を保って展開出来る人 材を指す。これから考えると、訪問先の指導主事クラスの担当者は、CIO を実質的に 補佐する CIO 補佐官の位置付けに当たると考えられる。アンケート調査では教育委員 会指導課などに情報担当者を置いている市町村は 41.2%、教育センターに情報担当の 指導主事を置いている市町村は 18.6%と少数に留まっている。 前橋市教育委員会では、PC 導入や障害対応などの質問・相談に応えるヘルプデスク 2名を常駐させていたが、アンケート調査によると、このようなヘルプデスクを設置 している市町村は 18%程度と少数であった。 3.2.3 CIO 補佐官としての情報担当指導主事の配置 調査を行った地域では、いずれも、全国に先駆けて教育の情報化を推進するなど、 従来から先進的な取組を行っている地域である。そして、教育長や教育次長、市町村 長や関係部局等の長期的な後押しの下で、教育委員会や教育センターに強力なリーダ シップを持った情報担当指導主事(CIO 補佐官に相当)を位置付けている。しかし、 情報化を強引に押し進めているわけではなく、むしろ ICT に不慣れな先生への研修や 支援などを実施し、時間をかけて、無理なく進めようとする姿勢が見られた。すなわ ち、トップダウンの形で情報化を進めるのではなく、CIO 補佐官がリーダーシップを 31 発揮し、幅広い関係者と同じ目線で情報化を進めるという、日本的な考え方が功を奏 しているものと考えられる。現場で教育の情報化を進めていた教育職の先生が、その 知識と人間関係を保って、教育委員会や教育センターの中で事務職として、教育の情 報化の支援体制を構築し、将来計画を策定するというモデルが考えられる。しかしな がら、そのような人材を継続的に養成するには限界があり、外部人材の活用について も検討する必要がある。 3.2.4 技術専門家の関与 三木市教育センターでは、情報担当指導主事(教育センター副所長)と地元企業か らの出向者が協力して、サーバ管理やネットワーク制御まで行う体制が作られていた が、このような仕組みが出来るまでには長い試行錯誤の積み重ねが必要だったと思わ れる。輪之内町教育委員会では情報教育専任指導主事により、ネットワーク管理から 学校のコンピュータやネットワークにトラブルが起きた時のヘルプデスクの役目に加 え、機器の新設から研究授業等のコーディネータに至るまであらゆる支援が行われて いた。そして、財政当局との折衝の結果、機器導入をレンタルに切り替え、修理等を 導入業者に委託出来る形にしたため、専任指導主事のみならず、現場の教職員の負担 も軽減したとのことであった。4年間のレンタル終了後は、機器の更新と共に、利用 してきた機器の寄附を受けることになっているなど、関連企業とも長期の連携関係を 築いていた。 今回の訪問先のように、地元の関連企業との信頼関係の下、学校現場が受けられる 技術支援の範囲を着実に拡げ、実績を挙げているところが出ていることは頼もしい。 現在は、 サーバ等の運用を各々の学校で行う場合も多いが、担当者の負担が大きく、 また深刻なトラブルが発生したときに教育センター等の支援が困難な場合も考えられ ることから、学校からサーバを無くし、教育センター等で集中管理可能なシステムに 移行することが望まれる。 3.2.5 明快・綿密な情報化計画の策定と説明責任 輪之内町教育委員会では、平成17〜19年まで第6次情報教育推進計画が進めら れていた。3年毎に積み上げられてきた推進計画の目標は、授業に関しては「IT で築 く確かな学力」、環境整備は「メディア活用の日常化」 、校務に関しては「情報の共有 化」、開かれた学校を目指す「情報公開や地域展開」では、地域コミュニティとしての 学校の役割やホームページによる情報発信、緊急連絡用システムの導入や外部団体と の交流促進、と具体的である。教育の情報化が進んでいる地域では、このように、長 期の計画を持ち、学校現場と教育委員会、首長部局のみならず、関連するあらゆる組 織との連携関係を築いている所が多く見られる。財務当局のみならず議会関係者とも、 情報化の意義周知と予算の確保のため綿密な打合せを行い、議会にも直接出向き、説 明を行うという。あらかじめ情報化推進計画を持っている地域では、 「教育の情報化」 達成率も高いことが確かめられており、アンケート調査からも 66.6%の市町村が「情 報化計画の立案・推進のために外部専門家が必要」と答えていることからも、外部専 門家の活用が重要である。 32 3.2.6 予算の確保 「教育の情報化」の最先端と言われている地域では、教育の情報化の予算を確保し て整備計画が策定されている。 今後は多くの地域、市町村において教育予算を確保し、教育の情報化を進め、継続 的な運用を行なえるよう、工夫が求められる。例えば、学校や地域によっては、将来 を担う子どもたちへの先行投資として、寄付や支援を受けて教育の情報化を進めてい るところも見られる。 33 第4章 海外実地調査の実施 4.1 韓 国 ····································································· 34 4.2 英 国 ····································································· 38 4.3 米 国 ····································································· 43 4.1 韓国 4.1.1 調査の概要 2006 年 12 月に韓国における教育の情報化の現状と将来像について調査するために 訪問調査を実施した。 12月4日 ソッケ小学校(ソウル市内) 韓国教育学術情報院(KERIS) 12月5日 バンベ中学校(ソウル市内) 京畿道教育庁 12 月6日 韓国教育人的資源部 4.1.2 調査結果のポイント 4.1.2.1 ICT 戦略と環境整備 韓国では、日本の文部科学省に当たる教育人的資源部が積極的な情報化政策を進め ている。県教育委員会に相当する市道教育庁への情報化に関わる予算配分は、当初、 事業ごとに指定されていたが徐々に地方の自由度を高めている。 教育情報化は、第1段階〔1999-2001年〕のインフラ整備〔児童生徒5.6人/台,2Mbps, 教員一人/台,教授学習支援センター,EDUNET等〕、第2段階〔2002-2006年〕のICT 活用の普及〔大学入試準備のためのEBS(Educational Broadcasting System) e-Learningシステム、教育行政システムNEIS(National Educational Information System)、小中学校のICT活用運営指針の運用等〕を終え、第3段階に進んでいる。 2006年7月に発表された教育人的資源部による『学校革新と教育機会拡充のための e-learning行動化計画』(※翻訳資料参照)が進行中であり、7つの推進課題をあげ、 2013年度までの課題別予算や推進部署が示されている。 ○教育課程改編を通じたeラーニング活用度の向上、基 盤構築 ○学校管理者および教員の e-ラーニング力量の強化 ○学習者中心のコンテンツ 開発および質管理の体制構築 ○学校現場のe-ラーニング インフラの高度化 ○教育情報化の成果管理シ ステム構築 ○参加と協力を基盤とした e-ラーニング支援体制の確立 ○ 総合的な広報を通じた e-ラーニングの活性化推 進 34 教育課程については、ICT活用運営指針で、小学校では週1時間情報の時間を行う こと、すべての教科で必ず授業時間の10%以上ICTを活用することを規定している。 中学校では「コンピュータ」、高校では「情報社会とコンピュータ」という選択科目が あり、約70%の選択率である。実業系の学校では、100%実施している。 研究開発は、韓国教育学術情報院(KERIS)が中心となって行っている。メタデータ を使ったコンテンツ共有プラットホーム EDUNET は、既に運用の段階に入っており、 NEIS も地方教育庁で運用が開始されている。現在は、2004 年から取り組んでいるサイ バー家庭学習(CHLS, Cyber Home learning System)の開発に力を入れている。 先導的な研究プロジェクトについては、教育人的資源部が 21 校を対象に研究指定を 行っている。9 校は u-learning(ユピキタス・ラーニング)、9 校はサイバー家庭学習、 3 校はアップル社の寄付による u-learning の研究指定である。インフラの変化に伴っ て、パイロット的に研究を行なう必要があるとのことであった。 4.1.2.2 先進的な学校の状況 訪問した小学校、中学校の教室の ICT 環境は、リアプロジェクションテ レビ、ノートパソコン、OHC で構成さ れている場合が多く、特別教室等にも 設置されていた。バンベ中学校では、 教卓にコンピュータやモニターが埋め 込まれているものもあった。 教科での ICT 活用は、積極的に行わ れている。市道教育庁のサーバには、K ERIS や市導教育庁が開発したデジタ ソッケ小学校の普通教室の様子 ルコンテンツが用意されているが、教員 の自作教材の開発も積極的に行われている。教員が開発したコンテンツのコンテスト が行われており、ここでの成績が昇進につながるケースもあり、教員のインセンティ ブとなっている。 ソッケ小学校は、アップル社の寄付に よる u-learning の研究指定を受けてお り、1クラス分のノートパソコンを必要 に応じて一人1台活用する授業が行われ ていた。校舎内には、無線 LAN が整備さ れていたが、一斉にインターネットにア クセスする場合には、子どもが他の教室 に移動して異なるアクセスポイントに接 続していた。 教員には、一人1台のコンピュータが 貸与されており、NEIS 上で学籍、成績等の 普通教室での一人1台活用場面 情報や教員の人事関係,予算・設備などの校務情報を管理している。保護者も、子ど 35 もの成績情報等にアクセスできるようになっている。 4.1.2.3 ICT サポート体制と教育 CIO 国の政策に基づいた教育情報化の 具体的な施策は市道教育庁が担当し ており、情報課長というポストが用 意されている。学校の教育行政シス テム NEIS は京畿道教育庁において はサーバ 700 台で運用されており、 技術者が 30 人配置されている。市道 教育庁の下部組織(市町村教育委員 会に相当)にも情報教育担当者1名 がおり、3人の技術者が配置されて NEIS の集中管理システム いるとのことであった。 校務以外の教育・学習に関するシステムについては、教育情報院が担当している。そ こにも技術者が配置され、インターネット放送局も設置されていた。コンテンツ開発 や教員研修はここで行われている。 学校の情報化推進は、初期の段階から、校内のICT活用教育部長(教員)が中心と なって行われてきた。現在、各学校においてe-CIO(Educational Chief Information Officer)を決めようとしており、教頭にその役割が位置づけられようとしている。教 育庁においては、副教育監(教育次長)がe-CIOの役割を務めることになるようである。 (『学校革新と教育機会拡充のためのe-learning行動化計画』P21) なお、小・中学校には、兵役の代替措置で配置されている技術サポート担当者がサー バ管理等を行っている場合があった。 4.1.2.4 教員のICT活用指導力育成 教員研修のカリキュラムや教材開発等は KERIS が行っており、16 の市道教育庁が研 修を実施している。情報教育、ICT 活用は教員の能力に依存するので、研修が重要で あると考えている。毎年 25%の教員に研修を行い、すべての教員が4年に 1 回研修を 受けるようにしてきたが、これを来年度以降は3年に1回程度に引き上げ、さらに研 修を強化する予定である。しかし、教員数が多い京畿道教育庁(小中高合計 1911 校、 教員数約 84000 人、生徒数 約 200 万人)では、年に9%程度の教員にしか研修を実 施できないとのことであった。 京畿道教育庁では、教員の ICT 能力判定試験を実施しており、1年に 6000 人まで 受験できる。京畿道教育庁独自の事業だが全ての教育庁で同様の試験が行われている と思われる。合格率は約 70%で、教員のレベルの底上げという意味合いが強い。内容 は、実技を中心とした試験である。(※翻訳資料「2006 年度版教員の ICT 能力判定 試験問題」) 管理職になる人には ICT 活用の意義を理解してもらうことが重要であるとの考え から、管理職への昇任試験にも ICT の試験がある。ICT 能力判定試験の点数が良いと、 36 その試験が免除される場合もある。 KERISによると、教員のICTスキルの基準としてISST(ICT Skill Standards for Teachers)があり、この他に教科でのICT活用に関する能力基準もあるとのことであ った。現在、KERISではデジタルリテラシーの基準を作成中であり、これをもとに、生 徒や教員の評価を行なう計画がある。 4.1.3 将来像への反映の観点 まず、2001年にインフラ整備が完了していること、その後、2006年までの5年間で ICT活用の普及を進めてきたという経過に着目すべきである。日本がまず行わなけれ ばならないことは、普及ではなくインフラ整備、すなわち普通教室のICT環境整備で ある。国策に基づき、市道教育庁がそれを具体化するという韓国の仕組みは、日本の 教育行政の在り方に近い。都道府県レベルでインフラ整備、校務情報処理システムの 導入、コンテンツの開発と蓄積、教員研修の強化等を推進する必要がある。 そのためには、国の方針に基づきシステム、コンテンツ、研修カリキュラム等の研 究開発を担う韓国教育学術情報院(KERIS)のような機関が重要である。研究者や技術 者だけでなく教員経験者をスタッフに多く含み、学校現場の実態を踏まえ、教育情報 化を支える実用的な研究開発を継続的に行う機関、組織が求められる。 韓国の教室環境は、日本の教室とよく似ている。今回訪問した学校では、プロジェ クタは少なく、リアプロジェクションテレビが黒板の横に設置されているケースが多 かった。黒板の面積を変えないという前提であれば、大型ディスプレイのような提示 装置を設置するのは一つの選択肢である。 一人1台のコンピュータに関しては、韓国においても研究段階であり、1クラス分 のコンピュータを共有していた。現時点では、電源の確保や無線 LAN へのアクセス等、 技術的な問題があるが、新しい学習形態の一つとして、一人1台のコンピュータを普 通教室で活用する授業方法の実践研究を進めておくべきである。 コンテンツ開発は、KERIS、市道教育庁に加え、教員の自作教材の開発も促されてい る。課題は、コンテンツの質を高めることであり、教員が指導に効果的なコンテンツ を探し出す手間を省き、容易に使えるようにすることである。普及という側面から考 えると、教科書に準拠したコンテンツの開発と提供が重要になる。 管理職への昇任の際に ICT 利活用に関する試験を課すことについては、日本の管理 職の ICT に対する意識が低いわが国の現状を改善するために参考となる。教材開発コ ンテストや ICT 能力判定試験での成績が教員のインセンティブになっている点につ いても、参考とすべきである。 サイバー家庭学習(CHLS)等の e-Learning については、具体的な内容に踏み込んだ 調査ができなかったが、学習の個別化、学校での学習と家庭での学習の連携、いつで もどこでも学ぶことができる学習環境の実現といった観点から効果が期待できること から、わが国においても、e-Learning システムの開発、運用を行い、その効果を検証 していく必要がある。 37 4.2 英国(イングランド) 4.2.1 調査の概要 2007 年 1 月に英国(イングランド)における教育の情報化の現状と将来像について 調査するために訪問調査を実施した。 1月 8日 The Darlington Education Village 昼間は幼稚園から高校までの学校、夜間はコミュニティスクールとして地域に開 放されている。幼児期から始まり一般の成人まで対象にした学校が一つのコミュニ ティーを形成している形態はイギリスでも独特な位置付け。訪問した e-Strategy Team は学校から独立した教育委員会スタッフ。 1月 9日 Longfield School 900 人余りの生徒が在籍する体育のスペシャリストカレッジの指定を受けた中等 学校。それにより獲得した資金を ICT 環境の整備にも活用。一般の教室はもちろ んのこと、体育館兼食堂に至る全学習空間にインタラクティブホワイトボードが設 置されていることが目を引いた。 1月10日 BETT(British Education and Training Technology) 学びの個別化、学習履歴の電子ポートフォリオ、モバイルツールの活用、学校に おける ICT 活用の評価などのセミナーに参加。英国の学校を対象とする ICT 政策 の背景にある戦略、その効果に関する調査などの報告を聞いた。 1月11日 Roding Valley High School 2005 年にパフォーミング・アーツのスペシャリストスクールに認定された学校。 1280 人の生徒と 200 人の教職員が所属する。上記の訪問校が、インタラクティブ ホワイトボードの導入に積極的であったのに対して、この学校ではそれほどでもな い。校務の情報化としてのスクールマネージメントシステムも管理職と事務職のみ の利用。ICT に依存した教育からは距離を置く姿勢。学習に必要なスキルを身につ けさせ、自信を持たせることに主眼。 1月12日 Boxgrove Primary School 保護者からの募金等も含め、全教室にインタラクティブホワイトボードを設置済 み。420 人の児童数に対して、約 140 台のPC。うち 80 台がノートPCで、ワイ ヤレス LAN と併用することにより、柔軟な利用をめざしている。 4.2.2 調査結果のポイント 4.2.2.1 ICT 戦略と環境整備 英国では、教育委員会や校長の権限が 大変に強い。学校長は予算から人事まで をマネージメントし、Ofsted(教 育基準局)による共通の査察基準による 評価を受けることなどを背景に、学校長 は学校の経営者としての明確なビジョン を持つ。そのビジョンはICTの整備などに も明確に現れる。 写真 38 2.2.1 教室内の様子 ICTに対する戦略は、国家的なものであり、各学校に配分された予算に対して、一 定の割合でICT関連に支出することが義務付けられている。また、それに加えて別の 予算からICTに振り向けることも学校長の裁量である。さらに保護者や地域の企業な どからの寄付やバザーによる基金などが設けられることもある。 教育基準局による評価次第で、次年度以降の予算が影響を受けるため、比較的短期 間にICT環境の整備が進み、標準化された評価基準によってICT活用の成果を確認し ている。ただし、一通りの整備が行き渡ったということからか、ICTに対する予算は 年々若干減少する方向にある。 ハードウェア的な面では、訪問した学校は、いずれの学校でも普通教室や特別教室、 体育館にまで天吊のプロジェクタが設置され、またほとんどの教室にはインタラクテ ィブホワイトボードが整備されていた。ある学校では、ホワイトボードさえ撤去され ており、教員はスクリーンに表示させるコンテンツのみで授業を行っている状態であ る。ただし、英国では伝統的に日本の黒板よりかなり小さい提示エリアしか使ってい ないという背景もあり、インタラクティブホワイトボードを単にホワイトボードとし てしか使っていないケースもある。 学校にコンピュータ教室をもつのは当然であるが、教科ごとにコンピュータ教室を 持つ事例も見られた。教科の特性に応じた機器で構成されており、教科に対するICT 機器の親和性が高いこと、さらに教育効果も高まることが志向されていた。1000人規 模の生徒数の学校に300台程度の生徒用PC、教員一人に対して1台のPCが整備されて いるのが一般的である。今後は、ディジタルカメラやディジタルビデオカメラを整備 し、マルチメディア教材を活用したいという意見があった。 そうした動きに呼応するように、学校 訪問とは別に参加する機会を得たBET Tでは、PC接続の顕微鏡や天体望遠鏡、 制御の学習のためのセンサーやロボット といった、学習のための周辺機器の展示 が見られた。 ソフトウェア的には、Schools Information ment Manage System=校務処理シス テム(学籍管理、時間割の編成、成績処 写真 2.2.2 幼少期から制御に慣れ親しむ 理、文書管理、予算管理等)をベースに、 デジタル教材パッケージや、ナショナルテストやGCSE(英国の大学入試試験に相 当)対策のe-Learning教材を組み合わせて活用しており、児童生徒の出席 状況や成績情報を全教員が共有し、指導の共通性、連続性、発展性を高めている。さ らに保護者も学校の授業計画や生徒の成績情報をインターネット経由で閲覧可能にな っていることが多い。こうしたシステム導入の背景には、学校に配分されるeLCs (electronic Learning 39 Credits) の存在がある。 eLCsとは、国家から教育委員会を経由して各学校に配分されるCurricu lum Online用の資金である。各学校1000ポンドに加え、児童・生徒一 人当たり9.7ポンドが加算され支給される。(2004年度実績) 英国のICT戦略については Harnessing Technology(DfES,2005) Transforming Learning and Children’s Services があり、 ・万人のための統合オンライン情報サービス An integrated online information service for all citizens ・子どもと学習者向け統合オンライン個別支援 Integrated online personal support for children and learners ・個別化された学習活動への協同的なアプローチ A collaborative approach to personalized learning activities ・実践者のための質の高い訓練およびサポートパッケージ A good quality ICT training and support package for practitioners ・ICTに関わる組織力のためのリーダーシップおよび研修パッケージ A leadership and development package for organizational capability in ICT ・変革と改革を支援する共通のデジタルインフラ A common digital infrastructure to support transformation and reform が示されている。 2.2.2 ICTサポート体制とICT活用支援のための人材 今回訪問した教育委員会では、学校のICT活用を支援するスタッフの責任者はe- Strategy Managerと呼ばれていた。そして,彼らによるサービスを 受けるためには、学校は経費を支出しなければならない。彼らは、さまざまな教具を 管理し、必要に応じて各学校に出向いて教員にその利用方法を示したり、教員ととも に授業をしたりすることもある。教員のICT活用に関する自己評価を管理し、その評 価に応じて研修プログラムを提示するこ ともある。また、教育スタッフと技術ス タッフが教育委員会レベルでも学校レベ ルでも分かれていて、役割分担が明確に なっている 4.2.2.3 教員のICT活用指導力育成 学校におけるICT機器を活用した指導 力の向上に対する工夫としては、管理職 内にその担当者を位置づけ、学校経営上 写真 40 2.2.3 市販の教材も豊富 の課題として、組織的に対応している。さらに、多くの中等学校では、各教科に1名 の核になる教員を中心に教材が作成され、定期的な教科会議を経て、校内のよりよい 実践を共有するという体制が確立されている。またICT活用の円滑な導入,教員の動 機付けのために,ナショナルカリキュラム準拠の商業ベースのコンテンツを整備する ことにより、比較的短期間に教科のメンバー全員のスキルの向上が確認されたとのこ とである。 ICT活用と学力向上の関係について、科学の成績の飛躍的な向上が確認されている。 また多くの教科で動機付けとしての効果、特に学習困難な児童生徒のICTを活用した 個別学習の効果が確かめられている。BETTのセミナーの一つでは、学校におけるICT 活用について,4つの観点(①能力開発,②目的整合性,③効果,④費用対効果)を 設けて,その効果を量的・質的に評価している。例えば③であれば,コンピュータの 台数と生徒の割合,学習プラットホームの活用率,IWBの導入及び活用率を指標として いる。それにより,1)いくつかの領域で劇的に活用が増していること,2)児童・ 生徒の学習のレベルや効率を高めていること,3)そうしたインパクトは複合的な要 因によるものであること,4)教員の負担減は教員の指導や時間の使い方の質的な変 化をもたらしていること,が明らかにされた。 4.2.3 将来像への反映の観点 4.2.3.1 学校教育の形態の変化への対 応 我が国においては、当面はいわゆる一 斉授業の形態は保持されると考えられ る。今回の、英国で訪問した多くの学校 で行われていたような、一つの教室の中 でグループ毎に異なる授業が我が国で 実践されには、時間を要すると思われる。 ただし、英国において生徒個別の学習履 歴に基づく評価(ポートフォリオ評価) 写真 が定着している部分については、徐々に 2.3.1 学習指導計画の公開 導入していく必要があるのではないかと考えられる。 そうした個に対応した評価体系が確立される過程においては、教員同士での評価の 共有や保護者に対する開示といった場面で、ICT活用が必須のものとなると思われる。 また、教育内容の質の検証のために、授業内容の開示、すなわち指導案や教材、評価 の規準や基準の開示などが求められるであろう。 4.2.3.2 検討課題 (1) 明確な目標と豊富な予算 まず、英国と日本における相違点は、 ・Becta(the British Educational Communications and Technology Agency) のような、行政と研究の連携を促進する機関の存在と影響力の強さ 41 ・Curriculum Onlineのような有料のマルチメディア教材のデータベースの整備 といった点があげられる。なお、Curriculum Onlineとは、学校が無料、あ るいはeLCsを使って利用可能なマルチメディア教材のデータベースであ る。 一方、各学校においては、明確な教育効果の実証を待たずにICT環境が整備さ れ、その結果、教育でどのようにICTを活用するかに主眼に置かれ、結果として ICTによる教育効果の向上を示すデータを得ているように、 「教員の努力よりもま ず環境整備」という姿勢が感じられたことも、日本との大きな違いである。 Bectaは、 ・Leadership and Management(リーダーシップと管理) ・Curriculum(カリキュラム) ・Learning & Teaching(学習と教育) ・Assessment(評価) ・Professional Development(専門的な開発) ・Extending Opportunities for Learning(学習機会の拡大) ・Resources(教材) ・Impact on Pupil Outcomes(児童・生徒の成果への影響) の8領域において、その学校の到達度、到達目標を示し、基準を満たした、優れ たICT活用を行っている学校に「ICT マーク」を与えている。 日本においても、このような認定制度の導入も検討に値する。 (2) 学校の外部からのICT活用支援人材のあり方 英国では、一つのグループが複数の学校を担当する形式と、校内のスタッフと して位置づける形式の両方が見られた。業務の内容としては、ハードウェアやソ フトウェアの選定のアドバイス及び日常の管理運営、教員に対する研修の企画及 び実際の研修、必要に応じて授業における教員のサポート等を担っており、教員 が授業に専念できる環境を提供している面で共通している。 日本では、市町村単位で人材を確保し、地域の教育センターで支援する形態が 一部で始まっているので、これを発展・普及させて活用する方策が妥当であると 思われる。こうした人材としては、教育委員会指導主事が考えられるが、技術的・ 専門的な支援については外部の人材を活用することが適当であると考えられる。 42 4.3 米国 4.3.1 調査の概要 下記の日程で、米国の教育 CIO(school CIO)制度先進地域での聞き取り調査を実 施した。 平成19年1月4日(木)~1月13日(土)10日間 ワシントン DC 周辺 Montgomery County Public Schools, MD(メリーランド州) Fairfax County Public Schools, VA(ヴァージニア州) フロリダ周辺 Broward County Public Schools, FL(フロリダ州) シアトル周辺 Mind Source Technology Group. Inc. WA(ワシントン州) MD, VA, FL の3カ所では、それぞれの CIO とそのスタッフから、WA では、元 CIO (H18.11 まで)で、現在 CIO を養成するための会社の起業者からヒアリングを行っ た。 4.3.2 教育 CIO とは 教育 CIO(school CIO)は、今回調査したすべての学区において、学区の副教育長 と位置づけられている。ほとんどの学区では教育長1名、副教育長3名ほどで構成さ れている。企業の CIO と同じく、学区の「最高情報統括責任者」である。CIO の下 で約 400~500 人のスタッフが仕事を行っている。 教育 CIO の主な役割と責任範囲は、大きく 分けて、下記の6点である。 (1) 情報公開・説明責任(ビジョン策定、 監査、法遵守、組織連携) (2) 技術革新支援(計画・財務・現場サポ ート) (3) 情報共有(電子化カリキュラム・教材、 形成的評価、到達度評価) (4) 生徒支援(安全・安心、個別学習プロ グラム、学力保障) (5) コミュニケーション支援(ネットワー ク基盤の保守・運用、教育テレビ番組制作、 ビデオ会議管理、VOD 管理) (6) 教員、スタッフ研修(スタッフ、リー ダを対象) 教育 CIO は、これらの実施、運営に関するすべての権限と責任を有し、人、金、物 を動かす非常に責任の重い立場である。 教育 CIO の選任は、教育長の指名で行われる場合が多い。教員から教育 CIO にな る人は少なく、今回ヒアリングを行った4名のうち、教員経験者は1名。残りは、企 業の CIO からの抜擢である。給与は通常の校長職の約 1.5 倍程度で、企業 CIO に比 べると少ないが、教育行政関係では非常に高い。 教育 CIO の下には、上記の役割毎に、サブチーフ、ディレクターと呼ばれる主任ス 43 タッフが配置され、ツリー上の組織として動いている。スタッフ間のコミュニケーシ ョンが重要であるため、毎週数時間をかけて、ミーティングが行われている。 現在、全米の学区は約1万1千あるが、そのうち教育 CIO が配置されている学区は 約50学区である。その数は増加傾向にはあるが、すべての学区において配置されて いるわけではない。 教育 CIO の設置の意味として非常に重要な事は、教育効果の向上と効率化によるコ スト削減にある。特にコスト削減の面でみると、どの学区もこの数年間に、業務の効 率化などの成果として人員の削減を実施している。MD の学区では、当初500人以 上いたスタッフが現在では400名程度まで削減されている。 各学区ともに、学校改善計画が作られ、それを元に様々なプロジェクトが実施され ている。学区全体の情報化の推進計画、学校の機器の更新計画、活用のための様々な システムの構築、教員への研修などを総合的 に計画・実施している。 学区の教育予算の約75%は、地域の税収 入によってまかなわれている。州政府や国か らの補助の割合は低い。良い教育を実施する 目的として、良い生徒を育てることにより、 その生徒が良い職に就き、地域の活性化につ ながり、良い地域を作っていくことになると いう意識がある。地域全体をよくする事によ って、地域の税収を上げ、教育に対しても理 解と協力を得られることができる。そのため にも、成果を親や地域に対して説明していく 教育情報総合支援システム 説明責任が問われることになる。児童生徒の学習の様々な状況を克明に記録し、蓄積 するためのデータベースシステム(学習情報支援システム)が広く活用され、すでに 5年以上のデータが蓄積されており、説明資料としてだけでなく、様々な指導資料、 評価資料として活用されている。 4.3.3 教育 CIO を核とした教育情報化支援の状況 どの地域も教育用コンテンツの作成に熱心 である。各学区で独自に教育番組を作成し、 それを地元のケーブルテレビの専用チャンネ ルで放送している。VA の学区では1日に3 本 の 番 組 を 制 作 し て い た。 こ れ ら の 番 組 は VOD として、教育委員会の Web ページから、 ネットワーク経由でも視聴可能である。教え るためのメディアとしての教育番組制作と、 これらを利用した地域への説明の役目も果た 教育番組制作室 している。教員への授業支援として番組作成、 ストリーミングコンテンツを授業で容易に利用するためのファイル化とファイルサー 44 バへの蓄積サービスなどにも、どの学区も力を入れていた。 E-Learning の導入にも積極的である。児童生徒の学習用はもちろんであるが、こ のシステムには親も登録が可能となっている。これを通して、親の学校教育への参加 につなげていることも印象的である。親は、自分の子どもの学習状況や、宿題の実施 の様子などを知ることができる。同様に、カリキュラム、授業案のオンライン化も地 域や親への情報提供として有効に機能している。教員は授業案などを事前に用意する だけでなく、毎日の授業の概要や、使用した教材などを E-Learning システム上に毎 日、授業後登録することが義務づけられている。教材などの多くがデジタル化されて いるため、教員はそれほど大きな負担には感じていないようであった。 ネットワーク基盤の整備も生涯学習を視野に入れた形で学校を中心として行われ ており、その運用管理も独自のスタッフで行っている。また、教員や児童・生徒の家 庭からのアクセスも考え、VPN(バーチャル・プライベート・ネットワーク)を利用 した接続を行わせるなど、セキュリティ への配慮も十分に行われていた。 学校への情報化支援人材の配置は、現 在中学校以上において行われているとこ ろが多い。中学校以上には学校規模に応 じて複数名を配置している場合もある。 小学校は現在特に配置をしていない。し かしながら、勤務時間中にコンピュータ の操作等でわからないことがあると、す ヘルプデスク ぐに聞くことができるヘルプデスクが学 区で用意されており、8~10名程度のスタッフが常駐し、対応に当たっている。学 校に導入されているコンピュータにはリモートで接続することが可能であり、場合に よっては遠隔操作で設定変更や操作支援を行っている。 授業での ICT 活用などの教員研修は、学校毎に実施されている。MD の小学校では、 各学校の副校長(教頭)が、教員研修担当責任者となっている。その人を中心に、学 校の教員研修は進められており、その中 に、ICT の活用も含められている。 テレビ会議システムを利用した遠隔授 業も積極的に行われている。FL の学区 では、すべての学校にテレビ会議システ ムが設置されている。学区内の学校間だ けでなく、他のところとの接続も可能と なっており、多様な活用が実施されてい た。また、携帯用のシステムも用意され 教室での IWB の活用 ており、テレビ会議システムの装置一式 をトランクに詰め、校区内の様々な場所から中継も行うことができるようになってい る。このシステムは災害時の緊急通信、中継システムとしても利用されている。 45 4.3.4 教育情報化先進地域の学校の様子 教育 CIO を中心として、学校の情報化の整備、活用も進んでいる。VA で訪問した 学校では、学校内すべてで無線 LAN が利用できるように設定されている。小学校で は、無線で接続された IWB とノートパソコンを用いて、生徒のパソコンの画面を全 員に映し出しながら、プレゼンテーションを行う授業を行っていた。画面のコントロ ールは、教員の持つタブレット PC からも可能である。実物投影機を利用した美術の 指導や、歴史の授業で、動画コンテンツを利用している事例を見ることができた。 新設されて2年目の中等学校(中高一貫の総合高校)では、70以上もあるすべて の教室に IWB とプロジェクタ、パソコンを内蔵した教卓が設置されている。また、 どの教室のどの授業でもこれらが活用されていた。校舎の真ん中には大きなメディア センターが配置されている。そこには、本はもちろん、自由に利用できるパソコンが 約40台設置されていた。また、本棚で仕切 られたスペース5カ所は、教室として利用で きるよう40名が島状に座れる椅子と丸テー ブル、IWB とプロジェクタ内蔵教卓が用意さ れ、ここでもプロジェクタを利用した授業が 簡単にできるようになっていた。 校長の話によると、機器の導入に関しては、 企業の支援を受けている。また、100名以 上いる教員に関しても、校長がすべて面接を 行い、校長の目指す学校作りに参画できる教 メディアセンター 員を集めている。そのため、学校内の教員の連携が非常に強い。 4.3.5 分析・結果 今回訪問した中で大変参考になる部分は、学校が家庭や地域と密接に連携をとりな がら、地域をより良くするための教育を行っているということである。この部分で非 常に上手に ICT や人材を利用している。また、これらを小さな単位で個別に実施する のではなく、システム的に支援することで、無駄を省き、効率的に実施していること は、日本でも検討していく必要があるのではないかと思われる。 また、教育 CIO だけでなく、校長も含め、大変強力なリーダーシップを発揮し、教 育改革を進めている。様々な視点から検討された、明確なビジョンを持ち、スタッフ や教員がそれを共有して、全体で改革を進めている姿は大変参考になる。教員の ICT 活用に関する意識が非常に高く、また各部署のスタッフが、それぞれの役目をしっか り理解し、自らの仕事に誇りと自身を持って動いていた。 4.3.6 将来像への反映の観点 教育 CIO の導入については、国主導ですべての教育委員会に導入するのではなく、 例えば各都道府県、政令指定都市が主体的に、必要と判断した地域から導入すべきで あると考える。 家庭や地域との連携に ICT を利用する取組は参考にすべきである。 46 情報化を進めていく上で、ICT 環境整備は必須条件である。教室への IWB や天吊、 教卓内蔵型のプロジェクタを設置して、授業前に配線等をしなければならない煩わし さを排除し、誰もが使いたいと思ったときにすぐに使える教室環境を整備しておくこ とは重要である。起動や終了に時間がかかり、窓や部屋の明かりにも配慮が必要なプ ロジェクタに比べ、今後はより容易に活用できる大型ディスプレイの利用が期待され る。 学校内どこでも無線 LAN が活用できるように整備を行うことも重要であろう。今 後は WiMax などの高速無線 LAN 技術も注目される。同時にセキュリティ面での配慮 も重要である。教員が学校外からも安全に校内のサーバを利用するための VPN 接続 サービスの導入も期待される。 47 第5章 教室の ICT 環境の将来像(次世代モデル) に向けた検討課題の現状と将来像 5.1 学校における ICT 環境の将来像 ········································· 48 5.2 ICT サポート体制の充実 ·················································· 53 5.3 人材育成 ······································································· 56 5.4 教育方法 ······································································· 58 5.5 その他 ·········································································· 61 5.1 5.1.1 学校における ICT 環境の将来像 現状 5.1.1.1 普通教室 普通教室へのコンピュータ設置は、第2章で指摘したように、今回の調査においても進 んでいないことが明らかになった。プロジェクタ、実物投影機等の設置も、平均すると学 校に1台以下であり、整備が進んでいない。電子情報ボードに至っては、ほとんどの学校 で1台も導入されていない。 一方、先進校においては、すべての教室にプロジェクタ、ノートパソコン、実物投影機 が配備されている場合が多く、少なくとも学校に数台が用意されていた。プロジェクタは、 機器一式が収納可能なワゴンに乗せられているケースが多く、吊り下げ式のものはまだ少 ない。プロジェクタの投影は、黒板上のマグネットスクリーン、天井から吊り下げられて いるスクリーン等に行われており、黒板との併用が前提となっている。中には、黒板の代 わりにホワイトボードを設置し、吊り下げ式のプロジェクタとスライド式の電子情報ボー ドを全教室に設置している学校もあった。この学校では、教卓に DVD プレーヤ、アンプ、 照明のスイッチなどが組み込まれ、教員がスイッチ一つで各種メディアを活用できる環境 を整えている。機器の台数が少ない先進校においては、空き教室等にプロジェクタや大型 ディスプレイ、電子情報ボードなどを設置し、教員用タブレット PC の活用を組み合わせ て ICT 教室をつくり、特定の教科等で活用するといった工夫がなされていた。 よく活用されている周辺機器にはデジタルカメラがあるが、これも様々な学習活動にお いて活用するには十分な台数が整備されていない。 無線 LAN とそれに対応した学習用ノートパソコンも導入されているケースがある。それ らは、教室に常時設置されている場合と、まとめて管理し、必要に応じて教室に運んで活 用する場合があった。ある学校では、貸し出し可能な携帯型 PC(ウルトラモバイル PC) を 100 台以上導入し、教室でも自宅からでも教材にアクセスできるようにしていた。 5.1.1.2 コンピュータ教室、特別教室等 児童生徒が一人1台のコンピュータを同時に活用できる 42 台のコンピュータが配置さ れたコンピュータ教室について、整備済みと回答した教育委員会は約半数である。特別教 室へのコンピュータ設置は、導入されていないという回答が少数であることから、ある程 度整備されているようであるが、活用頻度は低くなっている。グループでの学習や少人数 指導等の多様な学習形態に対応できる学習スペースである「新世代型学習空間」について は、実態を把握していないが、未整備の学校がほとんどである。この他、学校図書館への 図書管理システムの導入や地域図書館とのネットワーク化、情報検索等のためのコンピュ ータ設置による学習情報センター化、コンピュータ教室との融合によるメディアセンター 化についても、極めて少数の学校で進められているのみであり、普通教室以外のコンピュ ータ整備も進んでいない状況が浮き彫りになった。 先進校調査においても、特筆すべき環境整備がされているケースは少ないが、高等学校 では、第二、第三のコンピュータ教室が整備されている場合もあった。ある小学校では、 コンピュータ教室にタブレット PC を設置し、必要に応じて取り外して活用できるように していた。また、第二、第三のコンピュータ教室は、ロボットの制御や簡単なプログラミ 48 ングが可能な機器の整備が行われていた。 5.1.1.3 校内 LAN e-Japan 戦略の目標であった校内 LAN の整備、中でも普通教室の LAN 整備率は、2005 年 度末において 50.6%に留まっている(平成 17 年度学校における教育の情報化の実態等に 関する調査、文部科学省) 。今回の調査においても小中学校で 52.1%、高等学校で 82.0% となっている。 先進校においては、校内 LAN は整備済みであり、児童生徒用ネットワークと教員用ネッ トワークを分離し、セキュリティが確保されていた。また、無線 LAN の整備も行われてお り、普通教室において児童生徒が一人1台のコンピュータを活用し、1学級の人数分のコ ンピュータから同時にアクセスできるようになっている。 インターネットへの接続は、教育委員会単位で整備されているケースが多く、校内 LAN やサーバと併せて一括管理されている場合もある。 5.1.1.4 教員一人に一台のコンピュータと校務の情報化 学校の情報化は、校務の情報化から進められているケースも多い。教員一人1台のコン ピュータ、校務処理用システムの導入を教育委員会単位で行い、地域内のどの学校でも共 通に校務の情報化が進められている。 韓国では、全国共通の校務情報処理システム NEIS を整備し、都道府県単位で管理、運 用を行っていた。また、英国では、学校情報マネジメントシステム(Schools Information Management System)で学籍管理、時間割の編成、成績処理、文書管理、予算管理等を行 うと同時に、児童生徒の評価情報を基に e-Learning による個別学習を行っていた。いず れの場合も、保護者向けにインターネット経由で学校の授業計画や児童生徒の成績情報を 開示していた。 5.1.2 課題 5.1.2.1 整備の遅れへの対応 韓国、英国と比較するまでもなく、日本の教室の ICT 環境整備の遅れは明らかである。 例えば、韓国では、2001 年に児童生徒 5.6 人に1台のコンピュータ、教員一人1台のコン ピュータ整備を終えている。その後5年間かけて ICT 活用の普及を進めた結果、現在の 日常的な ICT 活用が定着しているのである。日本でも 2001 年にすべての教室にプロジェ クタを吊り下げ、コンピュータを設置し、校内 LAN を整備した地域があるが、これらの活 用が定着するまでには数年かかっている。日本全国、どの地域の学校においても日常的に ICT を活用するためには、地域間格差、学校間格差を解消し、すべての教室の ICT 環境 整備を行うことが急務である。調査結果から明らかなように、都道府県、政令指定都市に 比べ、市町村教育委員会の対応の遅れが目立っている。担当者がおらず、整備計画が作ら れていない地域において ICT 環境の整備をどのように進めていくのかは最も大きな課題 であると言える。 49 5.1.2.2 教員の負担軽減 設備がある程度整っていても、ICT を活用するためにプロジェクタやスクリーンを移動 して設置し、コンピュータや実物投影機と配線し、電源を確保するといった作業を教員が 強いられている場合が多い。また、サーバやネットワークの管理など、専門的な知識が必 要な業務を教員が行っているケースも少なくない。韓国や英国の教室では、大型ディスプ レイやプロジェクタが各教室に固定され、必要な機器が配線済みで教員が負担なく活用で きる環境が整えられていた。また、機器やネットワークの管理は、教育委員会か学校が雇 用した技術者が行っていた。日常的な活用を普及するためには、教員に負担のかからない ICT 環境をどの教室にも整備し、適切に維持管理することが課題となろう。 教室の ICT 環境を共通にせず、学年や教科に応じて構築するという方法もある。例え ば、英国の中等教育学校では、教科教室制が採用されており、教科の特性に応じて、担当 教員が活用しやすい教室環境が整備されている。 5.1.2.3 施設、設備の課題 日本の教室は、7m×9m という規格に則っており、前面には大きな黒板が設置されており、 机の配置もそれを前提に行われている。大型ディスプレイやスクリーンの大きさや教室に おける設置については、黒板との併用、教室の明るさ、児童生徒の見やすさなど、様々な 視点から検討する必要がある。 普通教室で児童生徒が一人1台のコンピュータ等を活用する場合には、電源の確保やネ ットワークへの接続も大きな問題となる。例えば、ノートパソコン等を1クラス分収納し、 充電できる保管庫を導入し、バッテリー駆動で活用すること、高速な無線 LAN を整備し、 1クラス分のコンピュータから手間なく、しかもセキュリティを確保しながら接続できる ようにすること、などが求められるだろう。 地上波デジタル放送に対応した校内放送設備や、防犯用 IP カメラの設置、IP 電話、テ レビ電話の活用等、 校内 LAN をベースにしたシステムの導入も今後検討すべき課題である。 校舎の建て替えや新築の際には、技術動向を踏まえた ICT 機器の選定と、教室の大き さ、黒板とスクリーン等の配置、机の大きさ、電源の容量、教卓への ICT 機器の収納等 について検討し、新しい教室環境を構想することが望まれる。 5.1.2.4 授業改善のための ICT 環境 まず、最も多い授業形態である一斉指導の改善につながる ICT 環境整備を考えるべき である。すなわち、普通教室における一斉提示用のシステムを導入することである。先進 校や諸外国の調査から、大型ディスプレイやプロジェクタの選択、電子情報ボードの機能 の必要性等が、検討課題となる。 グループでの学習や少人数指導等の多様な学習形態における ICT 活用についても検討 する必要がある。従来型のコンピュータ教室だけではなく、新世代型学習空間やメディア センターを設置したり、普通教室等でもノートパソコンや携帯端末等を児童生徒が一人1 台で活用できる環境を整備することが必要となる。 韓国、英国、米国では、e-Learning による個別学習を学校教育に導入し、家庭での学習 と接続する試みが既に始まっている。日本の先進校では、個別学習用プリント教材データ 50 ベースを個別学習に活用した事例があるが、これは e-Learning の前段階と言えるだろう。 今後は校務の情報化と併せて、児童生徒の評価情報の蓄積・分析と e-Learning システム の導入・活用についても検討する必要があるだろう。 5.1.3 2010 年までに急ぎ取り組まなければならないこと IT 新改革戦略では、学校における ICT 環境の整備について、 「2010 年度までに全ての 公立小中高等学校等の教員に一人1台のコンピュータを配備し、学校と家庭や教育委員会 との情報交換の手段としての IT の効果的な活用その他様々な校務の IT 化を積極的に推進 する。」 「校内 LAN や普通教室のコンピュータ等の IT 環境整備について早急に計画を作成 し、実施するとともに、学校における光ファイバによる超高速インターネット接続等を実 現する。 」「小中高等学校等において情報システム担当外部専門家(学校 CIO)の設置を推進 し、2008 年度までに各学校において IT 環境整備計画を作成するなど、IT 化のサポートを 強化する。」ことが示されている。また、授業での活用について、「2006 年度までに IT を 活用した分かりやすい授業方法や、児童生徒の習熟度に応じた効果的な自習用コンテンツ の開発・活用の推進等により、教科指導における学力の向上等のための IT を活用した教 育を充実させる。」と書かれている。 さらに、IT 新改革戦略 重点計画−2006 においては、「2010 年度までに教育用PC1台 あたり児童・生徒 3.6 人の割合を達成するとともに、液晶プロジェクタ等の周辺機器の整 備を促進する。」ことが明記された。 これらを実現させることが目標になることは言うまでもないが、最も重要な点は、教科 指導における学力向上等のために日常的に ICT を活用した授業を実施することであり、 そのために普通教室における ICT 環境を全国のどの教室にも整備することである。これ 51 までの調査結果から、プロジェクタ、ノートパソコン、実物投影機、無線 LAN の導入をベ ースに(下図参照)、地域や学校の特色に応じて、大型ディスプレイや電子情報ボード、 タブレット PC 等との入れ替え、あるいは追加を検討することが望ましいだろう。 簡易型電子情報ボード タブレット PC とワイヤレスプロジェクタ スライド可能な電子情報ボード 大型ディスプレイ型電子情報ボード 配慮すべき点としては、教員が設置や配線などの負担なく活用できるように設置するこ とであり、また、2011年の地上デジタルテレビ放送への移行にも対応可能なシステム 構成にすることである。そして、特に導入初期の段階では、活用の促進を図るために教科 書に準拠したデジタルコンテンツを活用できるようにすることが不可欠である。 平成 19 年度「学校の教育情報化に係る地方財政措置」に新たに盛り込まれた「クラス 用コンピュータ」も導入する必要がある。これは、普通教室等においても児童生徒一人1 台で利用できるノート型のコンピュータのことであり、必要に応じて移動して活用するも のである。普通教室においては、電源の確保やネットワークの配線が難しいことから、バ ッテリー駆動、無線LAN接続が前提となる。1クラス分のノートパソコンの管理・運用 は、例えば、充電可能な可動式収納庫の活用や、第二コンピュータ教室を設置し、必要に 応じて移動して活用するなどの工夫が考えられる。また、ノート型コンピュータの他、タ ブレットPC,PDA等の導入についても考えられる。これらについても、できるだけ早 い段階で導入し、特にグループ学習や個別学習での効果的な活用方法について、実践研究 を積み重ねる必要がある。 周辺機器としては、デジタルカメラの活用場面が多いと考えられることから、各学年に 複数学級分の台数を用意することが望ましいだろう。 52 特別教室については、教科の学習に必要な周辺機器を含めた環境整備が求められる。例 えば、理科では各種センサーや A/D コンバータ、音楽科では MIDI キーボード、美術科で はタブレットや大判プリンタ等である。中学校、高等学校においては、教科センター方式 に移行し、教科ごとに必要なコンピュータ、周辺機器を整備した教室や、教科の特性に合 わせたコンピュータ教室を設置することを検討すべきである。 この他、学校図書館への図書管理システムの導入や地域図書館とのネットワーク化、情 報検索等のためのコンピュータ設置による学習情報センター化、コンピュータ教室との融 合によるメディアセンター化も視野に入れる必要がある。 5.1.4 2015 年までに実現したいこと 2015 年の目標は、児童生徒が一人1台でコンピュータを様々な学習場面において、学校 内のどこでも活用する状況が定着していることである。 「クラス用コンピュータ」を増設し、学校全体で1クラス分から、学年毎に1クラス分 のコンピュータを用意することが望まれる。ネットワークに接続されたコンピュータを児 童生徒が必要に応じて活用し、学習形態に応じて、タブレットPC,PDA(携帯端末) 等の個人用学習端末を積極的に活用することが考えられる。 各教室には、2台以上の提示装置を整備し、コンテンツの内容や授業形態によって、様々 に活用する。例えば、一斉指導場面では、天吊り型プロジェクタと電子情報ボードを活用 し、大型ディスプレイは超高精細映像コンテンツの提示や、グループでの活用が行われる。 特別教室の情報化も教科の特性に応じて積極的に進め、教科の学習に必要なコンピュー タや周辺機器を整備する。 学校内は、 高速な無線 LAN によってどこからでもネットワークに接続できるようになり、 ユビキタス環境を実現する。教科書はすべてデジタル化されており、e-Learning システム による個別学習が可能になっている。 これらによって、一斉指導中心の ICT の活用から、個別学習やグループ学習を含む、 多様な学習場面での ICT 活用へとシフトし、プロジェクト型学習における ICT 活用も積 極的に行われるようになる。2015 年前後は、ICT 活用の多様化へと移行する転換期であ り、浸透するまでにはおそらくかなりの時間を要するだろう。 学校の特色に応じた ICT 環境整備も積極的に行われるべきである。例えば、「情報」専 門高等学校においては、生徒一人1台のコンピュータ整備を早期に実現するなどの取り組 みが求められる。 5.2 5.2.1 ICT サポート体制の充実 現状 2章の調査結果から明らかなように、教育委員会における情報担当者の必要性は認識さ れているものの、半数以上の教育委員会、教育センターには配置がなされていない。また、 実際に配置されている情報担当者が充分な知識やスキルをもっていない場合が多く、人材 が不足しているという状況にある。 本来ならば、これを補う外部の情報専門家もその必要性が認識され、IT 新改革戦略にお いて「情報システム担当外部専門家(学校 CIO)の設置」が示されているにもかかわらず、 53 実際の配置は進まず、今後の配置計画もほとんどない。 校内の情報担当者についても、充分な ICT 活用経験や専門的な知識をもたない教員が その役割を与えられており、しかも、機器のトラブルやネットワーク管理などの業務を担 当させられている。 このように、教育委員会、学校共に情報化を推進し、サポートする人材は不足しており、 教育の情報化が遅れている原因となっている。 5.2.2 課題 教育の情報化が進んでいる地域では、教育委員会の情報担当者が豊富な知識や経験をも ち、優れたスキルを有している場合が多い。そして、教育の情報化の意義や効果を説明し、 計画的に環境整備を行うための予算化を実現している。しかし、こうした人材の育成はな されておらず、不足している。また、教育委員会、あるいは自治体内での情報担当者の役 割や権限が明確になっていない場合が多い。この状況は学校でも同様であり、特に本来、 授業レベルでの推進役として期待される校内の情報担当者が、技術的なトラブル等に対応 せざるを得ない状況になっている。 そこで、教育の情報化を推進する担当者を教育委員会、学校のそれぞれにおいて、明確 に定義することが課題となる。 なお、現時点では、以下のような定義が考えられる。 ○教育委員会のレベルで教育の情報化を推進する人材 (教育CIO) 情報システムや情報セキュリティ、個人情報保護など情報戦略を理解し、経営戦略にも 責任を持つ、経営と技術とを整合性を保って展開出来る人材。地域の ICT 環境整備計画 の策定を行い、情報化の推進役となる。教育長または教育次長がその役割を担うか、当該 自治体の自治体CIOが教育CIOを兼務することが考えられる。 (教育CIO補佐官) 学校や教育関連機関を結ぶ教育用ネットワークや ICT 環境を計画・運用できる実務担 当者。教育分野の幅広い連携関係の中で、各分野の専門家との連携体制を構築することが 望まれる。情報担当指導主事が教育CIO補佐官の役割を担うか、首長部局の情報担当が 指導主事と共に教育CIO補佐官になることも考えられる。また、教育委員会や自治体内 部に適任者がいない場合は、地元のIT企業の専門家など、外部の人材を非常勤等で雇用 することも考えられる。 教育CIO、教育CIO補佐官は、教育分野の ICT 環境の計画・構築・維持・運用と いった共通の役割はあるものの、その権限や業務範囲は、地域の実情に合わせる必要があ る。 ○ 学校内のレベルで情報化をサポートする人材 (情報主任) ICT 環境整備、カリキュラム、研修、予算等学校全体の情報化を推進する教員。ICT 活 用の豊富な実践経験が求められる。なお、中央教育審議会「教育基本法の改正を受けて緊 急に必要とされる教育制度の改正について」 (答申)において、 「学校における組織運営体 制や指導体制の確立を図ること」とされており、ICT の活用についても、管理職のリーダ 54 ーシップの発揮など、様々な形での管理運営体制の充実が求められていることから、校長、 教頭が学校の情報化の推進に責任をもつことも考えられる。 (ICT 支援員) 教育委員会が学校のネットワークやサーバ等の保守管理や、機器のトラブル対応等のた めにアウトソーシングする外部人材のこと。サポートセンター、コールセンター等から外 部人材を派遣する場合や、学校ボランティアを活用すること等が考えられる。 これらについても、地域の特色を活かした配置を検討する必要がある。 5.2.3 2010 年までに急ぎ取り組まなければならないこと まず取り組むべきことは、機器のトラブルやネットワーク管理などの業務から教員を解 放するために、学校の情報化の程度に合わせて、各学校に1名程度のICT支援員を配置す ることである。同時に、地域の教育情報化を推進するための組織、役割分担を教育委員会 単位で明確にする必要がある。さらに、全ての自治体においてICT整備計画を策定し、そ れに基づき2008年度までに各学校のICT環境整備計画を作成する(IT新改革戦略)。 2010 年には、自治体の規模や地域の特徴に応じて、教育CIO及び教育CIO補佐官が 半分以上の自治体において、設置されることが望まれる。 5.2.4 2015 年までに実現したいこと 全ての自治体で教育CIO及び教育CIO補佐官が設置され、教育CIOを中心とした 組織が充実することに伴い、学校と教育委員会の推進体制が更に強化され、学校の ICT 環境は大幅に改善されていることが期待される。技術動向に合わせて、整備計画は定期的 に改定され、その度に充実化が図られる。ICT 支援員の配置も増強され、各学校2名以上 の配置を実現する。 55 5.3 人材育成 5.3.1 現状と課題 「人材育成」は、学校における ICT 活用の普及・促進に向けた最重要課題の1つで ある。 つまり、学校長等が、ICT 環境の整備や ICT 活用に資する、具体的なアクション起 こす必要がある。 また、教員一般の能力開発も十分ではない。機器操作等の研修はそれなりに実施さ れているものの、授業における ICT 活用に関連した校内研修はあまり企画・運営され ていない。 次いで、情報化のリーダーである情報担当者の配置等にも、いくつかの問題点が存 在する。ほとんどの学校が設置していることは確認された。彼らの ICT 活用経験は必 ずしも豊富ではなく、権限を与えられていない場合がほとんどである。 さらに、教育委員会や教育センターに、情報担当者が置かれていないケースが半数 を超えており、ICT 環境整備計画の策定の遅れにも影響を与えている。 外部専門家についても学校のニーズが高いが、体制として確立されていない。 今後、ICT 活用を普及・促進するためには、上記の人材の能力・資質の要件を明ら かにするとともに、それを育成するための研修の実施や予算の拡充が必要である。 5.3.2 2010 年までに急ぎ取り組まなければならないこと (1)学校長のリーダーシップを促す企画・運営、その徹底を促す研修の企画・運営 英国の先進的な事例に明らかなように、教室の ICT 環境を有効に活用しながら授業 を進めていくためには、校長をはじめとする管理職の ICT 活用に関する理解とアクシ ョンが極めて重要である。リーダーシップが発揮されている学校では、教員全員が ICT 機器の積極的な活用を図りながら、授業改革を進めている事が多い。逆に一人や数人 の教員に ICT 活用の責任を負わせている学校では、取り組みが停滞している。 今後は、学校長の ICT 活用に関する理解を高めるための取組を強化し、校長研修プ ログラム等において、こうした内容を一層重視すべきである。 (2)教員研修プログラムの改善 アンケート調査の結果から、全般に、学校における ICT 活用が、期待されるほどに は進展していないという実態が明らかになった。その原因の 1 つに、わが国の教員に ICT 活用のイメージ等が乏しいことが考えられる。これを充実させるためには、教員 研修プログラムの改革が望まれる。 具体的には、校長のリーダーシップの下、ICT を活用した授業の設計・実施・評価 に関する校内研修を計画・実施していく必要がある。例えば、あるテーマに基づいて 複数の授業を実践し、その効果を比較・検討する、仮想的な授業を想定してその問題 点を探るワークショップを行うなど、より実践的なスタイルの研修が実施される必要 がある。 (3)情報担当者の養成に資する e-Learning プログラムの開発 56 ICT 活用の普及に向けた校内研修を企画・運営する役割を担うのは、校内の情報担 当者である。それゆえ、その力量形成の仕組みが整えられることが望まれる。具体的 には、そのための大学院レベルのプログラム開発が期待される。 英国北アイルランドでは、地域教員研修センター(Regional Training Unit)と大学が 連携し、遠隔と集合をブレンドするスタイルの研修を実施し、修了者に対して、大学 院の単位の取得が可能となるシステムを構築している。このシステムでは、知識理解 を e-Learning によって図り、週に1度の夕方からの集合研修では、グループディス カッションやチームプロジェクトによって、ICT の活用、その普及に役立つリーダー シップ、マネージメントについて学ぶことができる。 また、米国ケンタッキー州では、教員は採用後 10 年の間に、大学院において、リ ーダーシップ、マネージメント、そして ICT 活用を含む新しい教育方法に関する単位 を修得して、修士号を取得することが義務づけられている。この場合、遠隔と集合の ブレンド型のカリキュラムが採用されており、教員の通学は、夕方や土日のスクーリ ングに限定されている。 なお、英国、米国の事例とも、これらのプログラムを受講するための授業料は、該 当者が個人で負担している。 (4)教育委員会等における教育 CIO 等の組織化 ICT 環境の整備や ICT 活用の普及・促進には、教育委員会等における情報担当者の 組織化が不可欠である。米国に習うならば、各自治体において、教育 CIO 及び教育 CIO 補佐官が設置されるべきである。 わが国においては、教育長または教育次長が教育 CIO となったり、当該自治体の自 治体 CIO が、教育 CIO を兼務したりすることが考えられる。また、教育 CIO 補佐官 については、情報担当指導主事が教育 CIO 補佐官の役割を担う場合が多いと思われる が、首長部局の情報担当が指導主事と共に教育 CIO 補佐官になるケースも考えられる。 また、教育委員会や自治体内部に適任者がいない場合は、地元の IT 企業の専門家な ど外部の人材を非常勤等で雇用することも考えられる。 こうした多様性を認めつつ、予算執行等の権限を有した教育 CIO 等をきちんと組織 化している教育委員会が、少なくとも半数を数える状況に至るべきである。 (5)教員養成カリキュラムの基準の充実 アンケート調査の結果から、特に普通教室における ICT 活用が、期待されるほどに は進展していないという実態が明らかになった。その原因の 1 つに、わが国の教員に そのイメージ等が乏しいことが考えられる。 これを充実させるためには、これまで述べてきたような方策の推進に加えて、教員 養成カリキュラムの枠組みを再考することも考えられる。というのも、現在の教員免 許法で規定されている科目には、ICT 活用に関する内容はほとんど入っていないから である。唯一、教職に関する科目の「教育方法・技術」がこれに相当するが、その内 容が十分に整備されているとは言い難い面もある。特に、各教科の指導に沿った ICT 活用については、各教科教育法の科目内容にこれを必ず含めることを規定することが 57 望ましい。 5.3.3 2015 年までに達成すべきこと (1)教育 CIO 養成の組織的展開 2015 年までには、あらゆる自治体の教育委員会等に、教育 CIO やその補佐官が設 置されることが望ましい。したがって、その養成の組織的展開が必要となる。 教育 CIO には、校務や経営に関する知識に加え、情報技術に関する豊富な知識が必 要となる。教育 CIO は、新しい職域として現在検討が進められているものであり、そ こで求められる能力は日々変化してはいるが、教育においても、企業と同じように、 明確な経営ビジョンと戦略的な ICT 活用が求められることは間違いない。 それゆえ、これらの能力を持った人材の育成を、国レベルで進めていくことが必要 になる。具体的には、教員養成系大学院の博士課程レベルに教育 CIO 養成のための専 門コースを設置し、教員経験を有する人に対し、経営とリーダーシップ、情報技術に 関する知識や実践的能力を習得させるといった方法が考えられる。 (2)外部人材に対する研修の拡充 教員だけでなく、技術スタッフや ICT 支援員等の外部人材向けの研修も、量的質的 な充実が期待される。 まず、技術スタッフについては、彼らは、技術開発の動向を常に把握しながら、現 在のシステムを管理・運用する必要がある。現状では、このようなスタッフを教育委 員会や学校が雇用できるケースは少ないかもしれないが、今後は、彼らが大変重要な スタッフになると考えられるので、その研修プログラムを用意すべきである。 学校の ICT 活用を支援する人材を導入する地域も増えてくると考えられる。それゆ え、彼らに、学校における研修などにも可能な限り参加してもらいながら、支援業務 の内容、支援の方法について十分に理解をしてもらう必要があろう。 なお、現状では、教員自体がそうした外部人材をどのように活用すればよいか、十 分に理解していないケースも多い。ICT 環境の整備や ICT 活用のいかなる部分をどの ように外部人材に支援してもらうのかを、教員、支援者が共通理解すべきであるから、 政府等が、そうしたプロセスについてのモデルケースを教育委員会や学校に提供して いく必要がある。 5.4 教育方法 5.4.1 現状と課題 第 2 章で述べたアンケート調査の結果から明らかなように,わが国の学校における ICT 活用は,量的にも質的にも,その充実を図るべきである。前者については,普通 教室における ICT 活用が緊急の課題である。例えば,普通教室において ICT を週に 10 時間以上活用している学校が 1%程度であるという,アンケート調査結果は注目す べきと考える。後者については,ICT の特長を生かした学習活動が普及していないこ とが重要な問題である。例えば,アンケート調査において,ICT を活かした国際交流 の実施をたずねたところ,小中学校では「1年間に1回程度実施」 「1年間に複数回実 58 施」と回答した学校をあわせても,わずか 3.2%にすぎなった。高等学校の場合でも, それは,7.3%にとどまっている。 こうした現状を打破し,学校における ICT 活用を量的・質的に充実させるためには, ICT 活用を基盤とする教育方法の特長やイメージを教員が会得すること,それを促す ための教材やシステムを整備することが不可欠である。にもかかわらず,それらが不 十分であることは,例えば,アンケート調査において,教室の ICT 環境の将来像をた ずねた結果に顕著に示されよう。英国でその利用が一般化されている電子情報ボード でさえ,その設置を望む声が小さい(それを期待する小中学校は,70%程度にとどま っている)からである。 5.4.2 2010 年までに急ぎ取り組まなければならないこと 2010 年までに,すべての教員に,ICT 活用の特長やイメージを理解してもらい,そ れに着手してもらう必要がある。そのためには,主として,普通教室における授業の いかなる場面でどのようにして ICT を活用するのが望ましいのかを,以下のような方 策によって普及すべきである。 (1)学習指導要領等における ICT 活用の明示 わが国の初等中等教育の教育課程は,他の先進諸国のものに比べて,国による基準 が明確に定められている。それゆえ,授業における ICT の活用については,学習指導 要領において明確に位置づけられることによって,教員には,それを積極的に推進し ようとする動機が高まる。ICT 環境の整備を行政に要請する際の根拠にもなり得る。 既に現行の学習指導要領においても,例えば小学校の総則の「指導計画の作成等に 当たって配慮すべき事項」に, 「各教科等の指導に当たっては,児童がコンピュータや 情報通信ネットワークなどの情報手段に慣れ親しみ,適切に活用する学習活動を充実 するとともに,視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること。」と いう記述がある。また,各教科等においても同様の記述が見られる。しかしながら, 第 2 章で確認した ICT 活用の実態からすれば,なおいっそう具体的な記述が求められ る。実際に,アンケート調査において, 「(普通教室において)授業のどのような場面 において ICT を活用すればよいかが分からない」と回答した教員は,小中学校で 50.2%,高等学校で 56.7%である。 体験学習と ICT 活用の組み合わせ効果についても留意する必要がある。一般に,ICT 活用については,それによって子どもたちの直接体験がないがしろにされるという危 惧の念を抱く傾向があるが、わが国における ICT 活用の実践を見ると,体験学習のま とめや振り返りに,またそれを他の子供と共有するための手段として、ICT 活用が役 立つことは十分に証明されている。そうした留意点を明示することで,体験学習と ICT 活用の相乗効果が期待できる。 (2)教科書準拠型デジタルコンテンツの活用 わが国の教員は,教科書の利用を中心に授業を展開している。したがって,教科書 の活用と連動する ICT 活用が最も自然である。換言すれば,教科書準拠型デジタルコ 59 ンテンツの充実により、教員が ICT 活用のイメージをふくらませ,それに着手しやす くなる。 第 4 章で述べたように,各教科における ICT の活用を上手に普及させている英国の 学校はいずれも,ICT 環境の整備に併せてナショナルカリキュラムに即したコンテン ツを購入し,教員に提供していた。教科書準拠型デジタルコンテンツの提供が進むこ とにより,授業における ICT 活用の普及につながるであろう。 なお,こうしたアプローチをわが国の学校において着実に実行するには,コンピュ ータやプロジェクタの設置等も含めてであるが,学校予算に占める ICT 関係経費の割 合を調査し,ガイドラインを定めることが望ましい。 ただしコンテンツ等の開発の主体や手順については,英国のように民間事業者が主 体の場合もあれば,韓国のように国や教育委員会等が主体となる場合もあるので,わ が国に適した方法を選択できるよう,さらに検討を重ねるべきであろう。 (3)新しい教育方法の導入に向けた研修の充実 これまで述べてきたような,ICT 活用を前提とする教育方法の多くは,わが国の教 員にとっては,新しいものである。そのため,ICT の活用に合った教育方法を教員が 積極的に吸収し,またそれを実践できるように,研修を工夫する必要がある。コンピ ュータ等の操作技術を獲得するだけの研修は,ICT 活用と教育方法の刷新を接続する ためのアイデアを得られない。すぐれた実践事例の報告を聞くだけの研修では,新し い教育方法への挑戦意欲は得られないだろう。したがって参加型,ワークショップ型 の研修スタイルが重要であり,実際に自校の,あるいは自分の ICT 活用による授業改 善プランの策定といった,実際的で,効果的な研修が求められる。 5.4.3 2015 年までに達成すべきこと 2015 年までには,一斉授業における ICT の効果的な活用に加えて,ICT 活用を基 盤とする個別学習環境の構築,国際交流や国際理解学習における ICT 活用の普及も達 成すべきであろう。 (1)個別学習の重視 ICT の活用は,児童生徒の学習履歴を残したり,教員と児童生徒が1対1の学習環 境を構成したりしやすいので、本質的に「個別学習環境」の構築に役立つ。 学力向上のためには,個に応じた指導,きめ細かな指導が必須であり、個に応じた 指導等の導入を推奨しようとすると教員が,ICT を活用することが有効である。同時 に,個に応じた指導を実現するためには,それを可能にする教材の開発が不可欠であ る。換言すれば,教員による指導を補完したり,拡充したりする,e-Learning のシス テムやコンテンツの開発を進めるべきである。そしてこの時期には,教科書自体のデ ジタル化も行われていることが期待される。 なお,こうした個別学習環境は,例えば不登校や院内学級に属する児童・生徒にと っては,不可欠なものになるであろう。 60 (2)電子ポートフォリオの導入 個別学習・習熟度別学習の発展に伴い、どのような課題や学習に取り組むかを児 童・生徒自身や教員が決定する際には,それを検討するための参考情報が必要である。 そのため,英国のように,個別学習環境の構築は,電子ポートフォリオの導入や整備 を伴うことが必要である。また,やはり英国の先進事例で確認されたように,個別的 な学習を充実させるためには,個々の児童・生徒の学習状況をモニタリングしたり, 彼らに必要な学習課題やコース等を推奨したりする人材が教員組織に明確に位置づけ られることが望ましい。 (3)家庭学習との連携 個別学習環境は,学校における授業の内容と家庭学習とを接続する e-Learning シ ステムの構築によって,いっそう充実する。ただし,それによって教員の負担が増え ることのないようにする必要がある。将来的には,学校あるいは教育委員会が外部の 人材や組織を活用して,そのようなシステムの導入を実現することも検討に値する。 それまでには,前述の教科書準拠型のデジタルコンテンツや教科書自体のデジタル化 に加え、様々な良質のコンテンツの開発が重要である。 5.5 その他 5.5.1 地上デジタルテレビ放送の教育活用の促進 2011 年 7 月のアナログテレビ放送中止までに、全ての普通教室で地上デジタルテレビ放 送に対応できる環境を整備していく必要がある。その際、アナログテレビをデジタル対応 テレビに更新する方法だけではなく、校内 LAN を活用した映像コンテンツの配信システム 等、地域や学校の特徴や実態を踏まえた対応についても検討すべきであろう。 5.5.2 家庭・地域への情報発信 2010 年までに、学校ホームページにCMS(コンテンツマネジメントシステム)やブロ グを活用することにより、保護者への情報提供、学校評価の公開など、説明責任を果たす ための情報公開を積極的に進めるべきである。 2015 年には、学校が核となった地域の学校支援ネットワーク・コミュニティの充実を図 ることが望まれる。学校、家庭、地域の連携強化に、情報ネットワークを活用し、情報の 共有、コミュニケーションの活性化を図る必要がある。 5.5.3 政策と連動した ICT の研究開発機関の必要性 学校の情報環境整備を確実に進めていくためには、英国の Becta や韓国の KERIS のよう な政策と連動した ICT の研究開発機関において、 実用的な研究開発を進める必要がある。 学校、教室の情報環境次世代モデル、ICT カリキュラム、教育用コンテンツ、学校情報シ ステム等の研究開発と実践研究を継続的に行うための機関である。日本の教育情報化の効 果的に行うためには、こうした機関における研究開発と実践研究の成果をモデルに地域や 学校が実態に応じ、特色を活かして教育の情報化を進めていくことが、必要である。 61 第6章 教室の ICT 環境の将来像(次世代モデル) 6.1 2010年の将来像について············································· 62 <コラム>「2010 年の教室物語」 ········································· 63 6.2 2015年の将来像について············································· 68 <コラム>「2015 年のある小学校の一日」 ····························· 69 6.3 今後の推進方策に関する提言············································· 73 6.1 2010年の将来像について~IT新改革戦略に掲げられた目標の具体像~ 全国の学校のどの教室においても、教科指導等に ICT を活用できる環境が整備されている。 プロジェクタ等の大型提示装置、ノートパソコン、実物投影機、無線 LAN が基本的な構成と なる。 教室の ICT 環境整備における機器の選定等は、地域や学校の特色等に応じて行われる。例 えば、プロジェクタを大型ディスプレイに変更したり、電子情報ボードを導入したり、ノー ト型コンピュータの代わりに、タブレットPCやPDA等を導入することなどが考えられる。 地域の教育情報化を推進するための組織が教育委員会に明確に位置づけられ、教育 CIO 及び 教育 CIO 補佐官が中心となって ICT 環境整備計画が策定される。地上デジタルテレビ放送へ の対応、教科の特性に応じた特別教室の環境整備等、学校や地域が実態に合わせて、総合的 な ICT 環境整備計画を立案する。 整備を進める上で配慮すべき点は、プロジェクタを天井から吊り下げて固定化するなど、 教員の ICT 機器の設置や配線の負担をなくし、常時活用できる環境にすることである。また、 教育用PC1台あたり児童・生徒 3.6 人、教員に一人一台のコンピュータが実現されること から、ICT 機器やネットワークの保守管理・教員の ICT 活用支援などの業務を行う ICT 支 援員が、少なくとも各学校に1名配置されている必要がある。 学習指導要領等において ICT 活用がより明確に位置づけられ、教科書準拠型のデジタルコ ンテンツが提供されること等によって、授業における ICT の活用の定着は進む。ハードとソ フトが一体となった ICT 環境整備の実現が 2010 年の教室に求められるのである。 「クラス用コンピュータ」も、各学校少なくとも1クラス分は導入されている。普通教室 等において児童生徒一人1台でノート型のコンピュータが活用される。デジタル教科書を活 用した一斉指導、グループ学習や個別学習での活用等、ICT を活用した授業改善の実践が各 学校において行われる。 校務の情報化も定着し、学校ホームページにCMS(コンテンツマネジメントシステム) やブログを活用し、保護者への情報提供、学校評価の公開など、説明責任を果たすための情 報公開が積極的に進められる。 管理職は、ICT 活用とそれによる学校改善を構想する力量が求められ、管理職の ICT 活用 に関するリーダーシップが発揮される。校内の情報担当者(情報主任)が、ICT 活用の普及 に向けた授業の設計・実施・評価に関する校内研修を企画・運営する。 「学校評価」に、ICT 活用や ICT 環境、校務の情報化などに関する指標や項目が加わり、 学校の情報化の状況を明らかになる。 62 <コラム>「2010 年の教室物語」 2010年5月 X 日 ○×小学校4年生クラスの一日 朝、少し寝坊したタクト君は、大急ぎで朝食をかき込み、お母さんにせかされながら ランドセルをしょって飛び出した。学校までの道のりを小走りで駆けていく。今日はと ても天気がよく、ほほをすり抜ける風が気持ちいい。竹藪のそばを通りかかったとき、 昨日見つけたタケノコが、なんと自分の背丈よりも大きくなっているのに気がついた。 「へー。一日しか経ってないのに、こんなに背が伸びてる!」 タクト君はびっくりして立ち止まり、横に立って、背比べをしてみた。 「やっぱり負けてる・・・」 ちょっぴり悔しい思いもしたが、そうそうと、デジカメでぱちり、一緒に写真を撮っ ておいた。昨日は出始めたところの写真を撮って、デジカメブログ日記に書いてある。 今日の写真はタケノコとツーショット。ばっちりスマイルで決めておいた。 そんなことをしていたので、学校についたのは、朝の会が始まる直前。先生はもう教 室に来ていた。 「滑り込みセーフ。 」 大急ぎでかばんをロッカーにしまうと、机に座った。 「では、朝の会を始めますよ」 先生はみんなの顔を見渡しながら、手に持ったタブレット PC の画面をタッチした。 「ユリカちゃんは風邪引いちゃったみたいでお休みだね。 」 タブレット PC の画面には、職員室に入った欠席のメールが自動的にシステムに反映さ れ、出席簿ができあがっている。欠席の状況に加え、子どもたちの顔を見ながら、体調 不良の子どもがいないかチェックする。 「みんな元気ですね」 出席の状況は校務情報システムで管理され、学期毎の通知票に自動的にまとめられる。 もちろん先生のタブレット PC でも簡単に確認や修正ができるようになっている。 「さて、今日の朝のスピーチは、タクト君の番だね」 先生に突然指名され、タクト君はびっくり。今日の順番をすっかり忘れていた。あわ てて何を話そうかちょっと迷ったけど、そうそう、今朝のタケノコとのツーショット写 真を思い出した。 「はい。えーっと、今朝学校に来る途中で、タケノコがすごく大きくなっているのを 見つけました。これがその写真です。 」 デジカメの写真をプロジェクタに映し出した。 「わー!」 みんなの歓声があがる。タクト君はちょっと得意げに話し続けた。 「昨日の朝は、土からすこし顔を出しているだけだったんだけど、今朝見たら、こん なに大きくなっていました。昨日の写真は、僕のブログ日記にあります。これと比べて みてください。 」 先生は、タクト君のブログ日記にアクセスして、プロジェクタの画面を切り替えた。 「へー。一日でそんなに大きくなるんだ。竹って不思議。タクト君、一日で、背、抜 かされてるじゃん」 63 みんなにいろいろはやし立てられ、すこし照れながら、でも少し得意そう。 「こうやって比べてとるとよくわかるね。同じものを続けてとっていっても、どう変わ っていくかがよくわかるね。竹の伸びる速さはどのぐらいなのかしら。いろんな種類の竹 も調べてみたいわね。ネットにも何か載っているかも。 」 先生がちょっぴりアドバイス。この朝のデジカメスピーチは1年生の時から続けているの で、みんなもう慣れたもの。最初は何をとっているのかわからない写真もいっぱいあった けど、今ではみんな上手に撮れるようになっている。写真が1枚あるだけで、たくさんの ことが話せるようになった。 「では、1限目の算数の授業を始めましょう。 」 先生は、スクリーンの映像を、自分のタブレット PC に切り替えた。そこには教科書 と同じ映像が映っている。デジタル教科書によって、先生は子どもたちの持つ教科書と 同じ映像を大きく映しながら、授業が進められるようになった。 「今日は35ページから。今までは計算だったけど、今日からはちょっと難しいわよ。 問題を良く読んで考えてみてね。 」 今日からは文章題。植木算の学習である。 「まずは最初の問題。周りが10メートルの池があります 。その周りに、1メートル毎に木を植えたいと思います。何本の木が必要ですか?みん な、ノートに図を描いて考えてみて。 」 子どもたちはノートに鉛筆で、 図を書き始めた。先生はデジカメを持って机の間を回り、 何人かの生徒のノートの図を写真にとる。それをプロジェクタで映しながら、 「じゃあ、みなさんの考えを発表してもらいます。まずはミユカちゃん。ミユカちゃん の書いた図はこれだよね。 」 64 図を元に、何人かの考えを聞いていく。ポイントとなる部分は、ホワイトボードにま とめながら、授業は進んでいく。 「みんなわかったかな。じゃあ、次のは難しいよ。よく考えてね。10メートルの道 があります。その片側に、端から端まで1メートル毎に木を植えたいと思います。何本 の木が必要ですか?」 「簡単! 先生、また図を書いて考えたらいいんだよね。 」 子どもたちが図を書き始める。 「ちゃんと式も考えてね。 」 同じように発表をしてもらいながら授業が進む。 最後に、教科書の図を使いながら、先生がまとめをして、1限目の授業は終了。 2時間目は理科。先生は休み時間の間に、デジタルコンテンツにアクセスをして、竹 の成長を映し出したコンテンツを探していた。休み時間が終わり、2時間目が始まる。 「2時間目の理科の授業を始めます。朝のスピーチで、タクト君が竹の写真を撮って きてくれていたけど、さっき休み時間に、先生もネットでこんな資料や映像を見つけま した。 」 竹の種類や竹の成長の様子を時間を縮めて写した映像を見せた。 「竹って、いろんな種類があるし、タケノコの成長はすごく早いんだね。そうそう、 みんなが植えた稲はどうなっているだろう。実は、夜の間も先生どうなるか気になって、 ビデオを仕掛けてとっておいた映像があるんだけど見てみたい?」 ビデオカメラの10分置きに撮影する機能を使って撮影した映像を再生した。稲が夜 の間も成長している様子がはっきりと映し出されている。 「みんなが寝ている間も、稲は成長しているんだね。 」 「先生、稲の葉っぱと竹の葉っぱって似てない?」 画面に鮮明に映し出された葉っぱの葉脈が、どちらもまっすぐなことにアマネ君が気 付いた。アマネ君は、植物や動物が大好きで、たくさんの植物や昆虫、動物を育ててい る。 「どんなところが似ているの?」 先生は聞くと、葉脈の違いを話し始めた。 「竹の葉っぱがどうなっていたかわからないので、調べに行っていいですか?校庭の ブランコのところの竹林の竹を見てみたいんだけど。 」 ユキコちゃんが先生にお願いすると、 「じゃあ、みんなで見てこようか。でも、他のクラスは授業をしているから、静かに ね。すぐに廊下に並んでください。コウキ君、デジカメ持ってきてね。 」 みんなは小走りに廊下を歩いて、校庭に出かけていき、竹の葉っぱを観察する。もち ろんデジカメで写真を撮ってくる。帰りに学校園のところで育てている稲も一緒に観察 した。観察が終わると、教室に戻る。教室に戻ってすぐに、アマネ君がネットを調べて また新たな発見をした。 「先生!、稲とか竹とかは、単子葉植物っていうんだって。葉っぱの葉脈の形がまっす ぐで、分かれないのが特徴なんだって。去年育てた朝顔とかは、葉脈が網の目みたいに 65 なっていて、双子葉植物っていう違う仲間なんだ。単子葉、双子葉って、芽が出た時の 芽の形が、一つの葉っぱなのか、双葉が出てくるのかで違うんだって。そういえば、朝 顔は双葉が出てきたけど、稲は葉っぱが一つ出てきてたな。 」 「すごいことを調べたね。みんながとってあるデジカメの写真で、稲の芽が出てきた ときの写真を探してみましょうか。去年の朝顔の写真もあるかな?」 子どもたちの学習で利用した写真は、データベースになっていて、簡単に探し出すこ とができる。それらを写しながら、確認をする。 「やっぱりそうだね。他の植物もおなじように仲間分けができるのかな。ちょっと難 しいかもしれないけど、いろいろ調べてみるとおもしろそうだね。 」 子どもたちの探究心はとどまるところを知らない。みんなで写真を確認したところで チャイムがなって終了した。 3時間目の体育は、跳び箱とマット運動。 お昼休み、6年生の放送部員が作成したビデオ番組が放送された。ビデオ番組は毎週1 回、金曜日のお昼に放送される。今日は給食の残飯の問題について、給食のおばさんや、 栄養士の先生へのインタビュー、残飯がどのように処理されているのかのレポートが流 された。おかげで今日の給食は、みんなほとんど残さずに食べていた。 5限目は国語。授業の最初に、毎日5分ずつやっている漢字の書き取りテストが行われ た。各自に配られたタブレット PC を使って、漢字の書き取り問題に挑戦。書き順だけで なく、とめ、はねまで厳しくチェックされる。漢字の得意なカオリちゃんは、すでに5 年生の問題をやっている。子どもたちが今、どの級まですすんでいるか、どんな文字を 書いているかは、先生のパソコンで簡単に確認できる。これをやり始めてから、ノート 66 に書く文字も、しっかりしてきた。 6限目の授業は総合的な学習の時間。今日は ALT の先生がやってきて、英語の勉強。ALT の先生の出身はオーストラリア。先生の出身の小学校の Web ページを見せながら、オース トラリアの小学校の様子、時間割、勉強の仕方などを学んだ。ケンちゃんは、オーストラ リアの学校に給食が無いことにびっくり。教室ではなく、カフェテリアで食べるらしい。 そのとき、先生のパソコンのテレビ会議ソフトが起動して、先生にテレビ会議の呼び出し があった。どうやらオーストラリアに住む先生の両親からのようだ。先生はパソコンにつ けたカメラを起動して、テレビ会議を始めた。画面の向こうから聞こえてきた「Hello!」 という声に、みんな大歓声。大きな声で「ハロー!」って返事をする。先生は今日の授業 のために、両親に接続をお願いしていたようだ。早速始まった質問タイム。みんなオース トラリアの生活について、いろんな質問をしていた。中には英語で質問をする子どもも。 ALT の先生は、子どもたちに、簡単な英語での質問の仕方を教えてくれて、みんなそれに 挑戦。ご両親も優しい英語で、ゆっくりと答えてくれて、子どもたちにも良く理解できた よう。みんな英語でした質問が通じたことにも大満足。 帰りの会では、明日の朝のスピーチの担当と宿題の確認をした。みんなが下校したあと、 先生は、今日一日の出来事や、宿題などを CMS を使ってホームページにアップロードする。 親も ID とパスワードをいれてアクセスすることができるので、子どもたちの学習の様子 や、宿題をホームページを通して知ることができるようになっている。 また、ネットワーク上に蓄積されたコンテンツを検索し、明日の授業の準備をしておく。 必要な資料が見つからなかった場合、教育センターに配置されている「ICT サポーター」 に相談すると、必要な資料を集めてサーバに置いておいてくれたり、URL を知らせてくれ たりする。 「ICT サポーター」は、様々な学校の先生が、どの学年のどの教科のどの部分で どんなコンテンツをどのように使っているかを常に調べていて、授業で利用するコンテン ツと、その利用方法について、いろいろとアドバイスをしてもらえる。先生にとっては大 変頼もしい存在である。 最後に、先生は日報と、明日の他の先生への連絡事項をネット上に書く。校務の情報化 システムが導入されてから、朝礼が無くなり、各自がこのシステムを毎朝チェックする約 束になっている。その分、早く教室に入ることができるようになり、子どもたちと接する 時間が増えた。 先生は帰宅後、やり残した仕事を思い出した。ネットワークで学校のサーバーに接続す る。学校のネットワークには、仮想専用線で安全に接続することができ、学校にいるのと 同じように校内サーバのデータを自宅からも利用することができる。30分ほど接続して 一日が終わった。 67 6.2 2015年の将来像について~2015年を見通した将来像を初めて提示~ 2015 年の教室では、児童生徒が一人1台のコンピュータを様々な学習場面において、活用 する状況が定着している。「クラス用コンピュータ」が増設され、複数クラス分のコンピュ ータが用意される。情報専門高校や ICT 活用の先進校などでは、常時一人1台のコンピュー タを活用できるようになっているだろう。 学校内は、高速な無線 LAN が提供され、ユビキタス環境が実現される。児童生徒が必要に 応じて、ネットワークに接続されたタブレットPC,PDA(携帯端末)等の個人用学習端 末を積極的に活用することにより、実体験と連携したICT活用が充実する。 個別学習やグループ学習を含む、多様な学習場面での ICT 活用へとシフトし、プロジェク ト型学習における ICT 活用も積極的に行われる。例えば、インターネットを活用した国際交 流や国際理解学習といったプログラムも多くの学校で取り組まれることになるだろう。 電子ポートフォリオが導入され、児童生徒の学習履歴に基づき、個に応じた ICT を活用し た指導が積極的に行われる。e-Learning システムと良質のコンテンツが無償や安価で提供さ れ、教員による指導を補完したり,拡充したりする。併せて、教員の下で個々の児童・生徒 の学習状況を評価したり,彼らに必要な学習課題やコース等を推奨したりする人材が組織に 位置づけられている。 e-Learning システムは,学校における授業と家庭学習をつなぎ、広く学び直しの機会も提 供する。不登校や院内学級に属する児童生徒の学習にも活用される。 学校は、地域のコミュニティの核となり、学校、家庭、地域の連携強化に情報ネットワー クを活用し、情報の共有、コミュニケーションの活性化が図られる。 各教室には、2台以上の大型提示装置が整備され、コンテンツの内容や授業形態によって、 様々に活用される。例えば、一斉指導場面では、天吊り型プロジェクタと電子情報ボードで 教科書準拠型のデジタルコンテンツが活用され、大型ディスプレイは地上デジタル放送のコ ンテンツ、超高精細映像コンテンツの提示や、グループ学習等で活用される。 特別教室の情報化も教科の特性に応じて積極的に進められ、教科の学習に必要なコンピュ ータや周辺機器が教科ごとに整備される。 こうした学校の情報化は、教育委員会等の教育 CIO やその補佐官を中心に ICT 環境の整備 計画に基づいて進められる。ICT 支援員の配置も増強され、各学校2名以上の配置が実現さ れる。 政策と連動した ICT の研究開発を行う機関が設置され、学校、教室の ICT 環境次世代モ デル、ICT カリキュラム、教育用コンテンツ、学校情報システム等に関する研究成果が示さ れ、それらをベースに各自治体が地域や学校の実態に応じ、特色等を活かして教育の情報化 を進めることになる。 68 <コラム>「2015年のある小学校の一日」 「いってきまーす」 ヤスコさんは、今日も元気に家を出て、学校へ向かう。校門を通過すると名札に埋め 込まれた IC タグのにより、出欠席管理データベースに登録される。希望する保護者には、 登校確認メールが送信されるようになっている。 ヤスコさんは、友だちと話をしながら教室に入り、30 台のタブレット PC が収納された キャビネットから1台を取り出して、メールをチェックした。 先生が教室に入ってきた。 「おはようございます。では、朝の会を始めましょう。 」 先生はみんなの顔を見渡しながら、手に持ったタブレット PC の画面をタッチした。タ ブレット PC の画面には、出欠席管理データベースの結果と欠席者のメール文が添付され た出席簿ができあがっている。 1時間目の前には、個別学習の時間がある。漢字と計算を1日おきにすることになっ ている。今日は1年生から6年生までの計算問題が用意された電子ドリルの日である。 答えを画面にペンで書き込むと、コンピュータが答え合わせをしてくれる。間違えると 問題が増えるので、ヤスコさんは割り算の筆算の問題を慎重に行って、全問正解した。 このドリルはいつでもやって良いことになっていて、時々家でもやっている。ヤスコさ んは、4年生の問題をやっているが、タカシ君はどんどん進んでいてもう6年生の問題 をやっている。先生は、子どもたちの進捗状況をチェックして、遅れている子どもには 個別指導を行っている。 1時間目は、理科の植物観察の授業である。デジタル植物図鑑を使えば教室でも簡単 に植物のことがわかるが,児童達には実体験が大切なので学校の周辺に植物調査に出か けることにした。児童達はデジタルカメラの付いた携帯端末を使って見つけた植物の花 や葉の撮影をした。 69 「めずらしい花をみつけたけど何という花かな」 「携帯端末のテレビ会議を使って博物館の先生に聞いてみたらどう」 さっそく児童はテレビ会議で博物館の先生と話をした。 「博物館の先生,こんにちは。紫色の花を見つけたのですが何という花かわからないの で教えてください」 「住宅地では珍しい花を見つけましたね。それはスミレの仲間ですね」 こうして児童達の学習は深まっていった。 2時間目は、図工の鑑賞の時間である。教室に設置された地上デジタル放送に対応し た大型ハイビジョンモニタを使って、ルーブル美術館に所蔵されているダ・ビンチのモ ナリザを見た。美術が大好きなヤスコさんは、本物を見ているような気持ちになったが、 大人になったら絶対実物を見に行きたいと思った。 3、4時間目は、社会の時間。自分たちが住んでいる県について学習した後に、県の 産業をグループに分かれて調べている。次の時間に調べたことを発表するので、プレゼ ンテーション資料を仕上げなければならない。ユウタくんたちのグループは、県の農産 品について調べ、日本のどこに送られ、消費されているのかを表す資料を大型ディスプ レイに提示して検討している。ヤスコさんたちのグループは,社会見学で行った工場に ついてどうしてもわからないことがあったので、テレビ会議を使って工場長のおじさん に質問した。タカシ君たちは、相談しながらデジタル教科書の動画や静止画を使ってプ レゼンテーション資料を作成している。アキコさんたちのグループは、漁業について調 べ、映像データベースの資料を取り込んで、編集しているようである。結局、時間切れ になってしまったので、次の時間までに編集することになった。 70 給食を食べて、昼休みが終わり、5時間目は算数の時間だ。習熟度別の少人数指導なの で、二つの教室に分かれて行う。ヤスコさんは、隣の教室に移動した。電子情報ボードに 提示されたデジタル教科書を使って先生が説明した後、アンケート結果を整理して、表や グラフに表すという課題が出された。ヤスコさんは、好きな食べ物について調査した結果 を表計算ソフトに入力して、表を作成した。それから、棒グラフを作ってみた。やっぱり カレーライスが圧倒的に多い。表計算ソフトを使えば簡単にできるけど、色を変えたり、 目盛りの単位を付け加えたり、さらにわかりやすくなるように工夫して完成させる。 算数担当のアサイ先生は、見回りながらタブレット PC に子どもの学習状況を入力して いる。誰が出来ているか、出来ていないか一覧表がすぐにでき上がる。先生は、できるだ け授業中に子ども一人ひとりの学習状況を記録するようにしている。学校には、入力され た学習活動の記録や評価情報をチェックする支援員が配置されるようになり、子どもの行 動や学習状況の変化を分析して、気になる子どもがいると担任に連絡するようになってい る。 6時間目は、総合的な学習の時間だ。この学校は、研究プロジェクトの指定を受け、簡 単なプログラムで制御できるロボットを教材にしたカリキュラムの開発を行っている。新 しくできたコンピュータルームは、壁面がホワイトボードになっており、吊り下げ式のプ ロジェクタが前に2台、後ろにも2台ある。その他に大型ディスプレイの電子情報ボード が2台ある。コンピュータもデスクトップ、大型ノートパソコン、タブレット PC と、様々 なものが揃っている。机も、グループ学習用、個別学習用に自由に動かして配置できるよ うになっている。担当するのは、この学校の情報主任であるタナカ先生だ。今日はロボッ トが迷路を探索的に抜けるプログラムを作るという課題だ。プログラムと言っても、アイ コンを組み合わせて、線を結ぶだけだから作るのは簡単だ。でも、これまでの単純なプロ グラムとは違うので、ちょっと手強そうだ。 教室の隅では、調子がおかしいコンピュータを市で契約している ICT サポーターの人が チェックしている。ヤスコさんとアキラ君のペアは、迷路の探索プログラムを試行錯誤し ながら作成し、実行してみるが、なかなか先に進まず、立ち往生してしまう。もう一度、 最初から考え直すために近くのホワイトボードに作成したプログラムを写し出し、検討す ることにした。二人で相談していると、タナカ先生がやってきて、アドバイスしてくれた。 なんとか、壁を一つクリアできそうだ。でも時間切れで、この課題は来週も続けて行うこ とになった。 アキラ君は、学校から家に帰って、宿題をしようと携帯端末で e-Learning システムに 接続したら、隣のケンタ君がチャットでコールしてきた。 「公園でサッカーしよう!」 「じゃあ、すぐに行く」 宿題は後ですることにして、家を飛び出した。 結局、暗くなるまで遊んでしまい、夕食後に宿題をすることになった。中学3年生のお 姉ちゃんも、パソコンに向かって何やら勉強している。学校が外部の団体と提携して提供 している高校受験対策用の e-Learning 教材のようだ。わからない所は、ビデオでミニ講 義が受けられるようになっているらしい。ヘッドフォンをしているので聞こえないが、お 71 姉ちゃんは熱心に画面を見ている。アキラ君は横目でお姉ちゃんの様子を見ながら、携 帯端末でテレビをつけた。ちょうど、好きなアニメをやっている。アニメが終わってか らやっと宿題を始めた。集中して取り組み始めた頃、お父さんが部屋にやってきた。ど うやら、学校の Web でアキラ君の学習活動の様子を見たらしい。 「ロボットの授業はおもしろいか?」 「うん、今日は迷路を抜け出すプログラムを作ろうとしたのだけど、難しかった」 「お父さんも教えて欲しいな」 どうやら、技術者のお父さんはロボットの授業にかなり興味があるらしい。アキラ君 は、曖昧に返事をして宿題の画面に目を移した。 72 6.3 今後の推進方策に関する提言 教育の情報化における最大の問題は、アンケート調査の結果からも明らかなように学校、 教室の ICT 環境の格差が解消されず、むしろ拡大していることにある。ICT の効果的な活用 による授業改善が一部の地域、学校に留まり、すべての子どもたちの学力向上に寄与してい ないという状況をこれ以上放置すべきではない。地方分権の時代にあって、各地域の教育委 員会が主体となって教育の情報化を推進することが求められているのである。先に 2010 年、 2015 年のモデルとなる教室の将来像を示したが、 これらは現時点で考えられる将来的な ICT 活用のイメージであり、地域や学校の状況に応じて、また、技術動向や教育システムの変容 によって、その具体像は変化するであろう。本節では、これらを踏まえ、より良い教室の ICT 環境を構築し、教育改善の具現化を図るための推進方策について提言する。 6.3.1 政策と連動した研究開発を行う機関の設置の検討 日本には、英国の Becta、韓国の KERIS のような政策と連動した研究開発を行う機関が 存在しない。すなわち専門的、継続的に教育の情報化について検討し、政策と連動させる仕 組みが整っていないのである。教育学習情報の蓄積は教育情報ナショナルセンター (NICER)が行っているが、カリキュラム、教育用システム、研修、実践研究等に関する 調査研究は、委託事業という形で行われているものの、専門性・継続性の観点から十分とは 言えない。地方の教育委員会が主体となって情報化計画を立案し、ICT 環境整備を進め、必 要な研修を行っていくことは当然であるが、各地域でそれぞれに研究開発を行うことは効率 的とは言えない。全国レベルで計画的に研究開発を行い、それをベースに地方がさらに工夫 改善するという枠組みが望ましい。国の付属機関の他、独立行政法人や NPO の形態も考え られるが、いずれにしても継続的に研究開発を行う機関を設置し、大学等の研究機関や企業 等と積極的に連携して調査研究を進めることが必要である。 6.3.2 教育CIO及び教育CIO補佐官の地方教育委員会へ配置 地方教育委員会においては、新たに教育CIO及び教育CIO補佐官を配置することを提 案する。予算権限を含む一定の権限をもった担当者が、地域の教育の情報化について総合的 に検討する体制を組織化し、責任をもって推進することが、地域間の格差を生まないために は不可欠である。こうした役割をこれまでに地域で果たしてきた人材を積極的に登用すると 同時に、全国レベルで人材の育成に取り組み、都道府県、指定都市、中核市等から配置され ていくことが必要であろう。 6.3.3 学校における情報化推進の方策 学校が主体となって行うべきことは、整備された ICT 環境を活用し、効果的に運用するこ とによって、授業改善を図ることである。まず、学校長が ICT 活用に関してもリーダーシッ プを発揮できるように、研修を行うことが必要である。同時に管理職試験に、学校における ICT 活用に関する内容を盛り込むことなども必要だろう。さらに各学校に情報化担当者を配 置し、ICT 活用の普及と同時に教員の ICT 活用指導力を育成し、学校全体の情報化を推進す る役割を担う必要がある。特に ICT を活用することによって、個別学習の充実、電子ポート フォリオによる評価情報の蓄積、e-Learning による家庭学習との連動といった新しい教育方 73 法を定着させていくことが重要になるだろう。また、普及のノウハウや実践研究の成果を共 有し、情報化担当者の力量を高めていくためには、地域内での情報化推進担当者の情報交換、 研修を継続的に行うとともに、ICT支援員の配置も必要であろう。 6.3.4 教員に負担のかからない ICT 環境の整備 すべての教員が ICT 活用を日常的に行うことを実現するためには、情報機器の活用が負担 にならない環境を整備することが前提となる。機器の設置や配線等、従来教員が行っていた 作業を効率化し、スムーズに授業が行える教室環境の構築が不可欠である。地域のネットワ ーク管理、サーバ運用、学校内のシステムの保守管理に関しても、情報化担当者や教員に負 担をかけず、教育委員会単位で効率的に行う必要がある。また、個々の教員が技術的な問題 に深入りすることも避けなければならない。そのためには、技術サポートを外部専門家にア ウトソーシングすることが現実的であろう。なお、大規模なシステムの導入が必要な高等学 校等においては、校内に外部専門家を配置することも検討する必要があるだろう。 6.3.5 学習指導要領における ICT 活用の位置付けを強化する これまで十分に ICT を活用してこなかった教員には、教室の ICT 環境整備と併せて、活 用の指針となるカリキュラムやすぐに使える教材を提供することが必要である。普及という 観点から、特に 2010 年までの段階においては、教員が活用方法を考えたり、コンテンツを 探したりする負担を減らし、教科学習における ICT 活用を定着させることが重要である。そ のためには、各教科の学習指導要領等において具体的な活用場面、方法等について明示した り、教科書に具体的に記述することが望まれる。そして、教科書に準拠したコンテンツを充 実し、それらを教育委員会が一括導入するか、学校が購入できるように予算を拡充すること が不可欠であろう。 6.3.6 教育の情報化に関わる外部評価の実施 学校の自己評価や第三者機関による学校評価において、教育の情報化に関する項目を設け、 継続的に評価を行う必要がある。その一環として、教育の情報化に関する教育委員会及び学 校の取組について外部評価を行うことを提案する。教育委員会については、整備目標の達成 度に加え、例えば「学校の教育情報化に係わる地方財政措置」の何割が実際に執行されたの かについて調査し、公表することが考えられる。学校の情報化の達成度を評価する基準をモ デル的に開発し、それに基づいて教育委員会や学校が自己評価や外部評価を行うことが考え られるだろう。 74 参考資料 75 あ と が き 「次代を担う子どもたちを育てる ICT 環境の創造」 主査 山西潤一 富山大学 教授 IT新改革戦略のもとで、新たな教育の情報化が始まった。2005 年度を目途として進め られてきた教育の情報化をより一層推進しようとするものである。 その目標は大きく3つ。一つには、ICT を授業に利活用することで良くわかる授業を展 開し、児童生徒の学力を向上させようというもの。二つには、情報化時代に対応した資質 としての情報活用の実践力や情報社会に参画する態度の育成。そして最後は、校務の情報 化の推進である。 これらの目標を実現させるために最も重要なのは、学校の ICT 環境の設計と、その環境 を活かす教員の力量形成であろう。ICT 技術の進歩は目を見張るものがあり、5 年先、10 年先を予想するのは極めて困難な状況である。全ての教室にあるテレビも 2011 年には地上 デジタル放送の配信で今のままでは使えない。地域情報化もより一層進み、学校、家庭、 地域を取り巻く情報環境も変わってくる。しかしながら、技術に依存して変わる教育方法 もあれば、例え技術が変わろうとも変わらない教育方法もある。そのようななかで、デジ タルネイティブな子どもたちの将来を考えたとき、どのような ICT 環境を学校に整備すべ きか、ICT 利活用のみならず学校の情報化を推進する人材はどうすればいいか、解決すべ き課題は多い。 今回の地域・学校の特色を活かした ICT 環境活用先進事例に関する調査研究は、この課 題を解決すべく、教育現場で日々先進的に教育の情報化に取り組んでいる教員や研究者の 協力を得て進められたものである。国内の小中高等学校から教育委員会まで、約 10,000 カ 所に渡るアンケート調査による分析、先進的に ICT の利活用を進めている学校への訪問調 査、英国、米国、韓国など海外の先導的事例の調査などをもとに、我が国の学校の ICT 環 境整備のあるべき姿、ICT 利活用に関する教育方法や学校の情報化を支援する人材育成、 地域が主体となって総合的に教育の情報化を推し進める組織体制のあり方、などについて まとめたものである。また、本調査結果はWebページでも公開してあるので、今後、地 域、学校にあって情報化を進める方々に広く活用していただきたい。 (http://www.japet.or.jp/senshin/) 最後になりましたが、本調査に快くご協力いただいた関係教育機関、学校、教員、研究 者の方々、そして本調査を進めるにあたって、限られた時間の中で献身的に調査・分析作 業に取り組んでいただいた調査委員会の方々に心から感謝し、次代を担う子どもたちを育 てるために、全国の学校で素晴らしい ICT 学習環境が構築されることを期待したいと思い ます。 76 平成18年度文部科学省委託事業 地域・学校の特色等を活かしたIT環境活用先進事例 に関する調査研究事業 報告書 平成19年3月31日発行 著作権者 文部科学省 発 行 者 社団法人 日本教育工学振興会(JAPET) 〒107-0052 印刷 東京都港区赤坂 1-9-13 TEL 03-5575-5365 FAX 03-5575-5366 URL http://www.japet.or.jp/ (株)カントー 禁無断転載 © 2007 社団法人 日本教育工学振興会(JAPET)