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男鹿半島 伝統的暮らしの中のジオ資源

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男鹿半島 伝統的暮らしの中のジオ資源
「里暮らし体験塾」パネル展示コーナー
男鹿半島
伝統的暮らしの中のジオ資源
寒風火山の複輝石安山岩(おがいし)
赤島層の溶結凝灰岩(かねいし)
女川層の真山珪藻土層(なめつち)・珪質頁岩(かたいし)
寒風火山の安山岩溶岩
「男鹿石(おがいし)」の石臼
男鹿半島の基部に位置する寒風山は鳥海火山帯に属する第
四紀火山です。主に複輝石安山岩溶岩から構成されています。
寒風火山の溶岩は「男鹿石」「寒風石」とよばれ、昔からさまざ
まな用途に利用されてきました。そのひとつが石臼です。
かつて石臼は伝統的な海水豆腐づくりなど男鹿の暮らしに欠
かせない生活用具のひとつでした。しかし、時代の流れとともに
石臼は見捨てられ、製作に携わっていた石工(いしこう)さんたちも
いなくなってしまいました。
いま、この男鹿石の石臼が注目されています。とりわけ、熱い
視線を送っているのがプロのソバ打ち名人たちです。
愛知県岡崎市で石臼工房を営み、国内
で唯一男鹿石の石臼をつくりつづけている
大島石材店当主大島正彦さん
「男鹿石」には無数の細かい穴
があいているので、石臼でソバ
を挽く時に熱が放出されて粉が
熱くなりにくいのです。それだけ
でなく、この無数の穴があるた
めに、より細かな粒子にまで砕
くことができます。だから、男鹿
石の石臼はとても良質のソバ
粉が挽けるのです。
かつて、ソバ打ち名人たちの間でその名が知られ、石臼用原石として
使われていた石材のひとつに「蟻巣石(ありすいし)」というのがありました。
福島県に産する多孔質溶結凝灰岩の一種です。しかし、現在は採掘しつ
くされ、手に入れることができません。この名石「蟻巣石」に代わるもの
として「男鹿石」が注目されているのです。
石臼で挽いたソバがうまいわけ
――石臼の七つの効果――
1.低速効果
現代の製粉機は高速回転のため大きな摩擦熱が発生し、うまみ成
分を変性・破壊させてしまいます。これに対し、人力で回す石臼は約
100分の1ととてもゆっくりです。
2.粗面効果
石臼はザラザラした粗い面になっているため、粒子は滑ることなく
この粗い面に捕捉されます。これにより、すべり摩擦熱の発生を抑え
ています。
3.放熱効果
臼面の溝が通気口の役割を果たすため、熱がこもらず、うまみ成
分が壊れるのを防ぎます。
4.閉じ込め効果
臼面の溝に閉じ込めた状態で粉砕するので、香りが飛びません。
5.剪断効果
石臼では、“叩きつぶす”のでなく、剪断力で“剥がしとる”作用に
よって粉砕がおこなわれます。そのため、ソバの実の繊維構造を壊
すことなく細かくなってゆき、これがソバの食感の決め手のひとつと
なっています。
6.磨砕ブレンド効果
石臼は“砕く”と同時に“練る”効果もあわせもっています。それに
より、角がとれた丸い粒子になり、ソバの食感にプラスの効果を与え
ています。
7.粒度分布効果
石臼で粉砕したものは、大きい粒子のまわりに微粒子をまぶした
状態になります。粗粉は風味を出し、微粉はソバを打つ時の適当な粘
りけとなるといった複合効果が独特の食感を創り出すのです。
石臼豆腐がおいしい理由も同じ!
石臼による手づくり豆腐は、工場(機械)づくりの豆腐に比べ、豆腐
のうまみ成分・栄養成分であるホエーたんぱく質およびラフィノース
やスタキオースなどのオリゴ糖に富んでいることが分析結果から明
らかにされています。
男鹿石は石臼になるために生まれてきたような石!
男鹿石の石臼のことを地元では「フグシ」と呼んでいます。“挽き
臼”あるいは“挽く石”が訛ってこのような呼び方になったのでしょう。
男鹿石は適度の硬さをもち無数の小さな孔に富んだ稀有な石で
す。単に多孔質の岩石は珍しくありませんが、これほどまで無数に微
細な孔があいた石は他に類をみません。こうした特徴が「七つの効
果」(先述)をさらに高めているのです。男鹿石は石臼にとって必要な
特性をすべてそなえたまさに理想的な石といえます。
また、男鹿石は耐火度が約1000℃ととても高いため、かつて地元
ではかまどづくりにも利用してきました。この性質を生かし、耐火レン
ガ・焼肉プレート・石焼ビビンバ石鍋など新たな用途が期待されます。
実は、この耐火性、そして魚礁として沈められている捨石への海藻や
貝類の活着性の良さもこの多孔質性と大いに関係しているのです。
このように、すぐれた特性をもつ男鹿石ですが、以前は石臼のほか
は墓石・石垣(間知石)など小規模な消費にとどまっていたのに、高度
成長期以降、土木工事用砕石や港湾捨石として大量に採掘されるよ
うになったため、次第に希少な存在となりつつあります。
石臼の原石は男鹿石であれば何でもよいというわけではなく、地
下水面より上位にある「上石」とよばれる部分でなければいけませ
ん。下位の「底石」は水を多く含んでいるため冬季に凍結して割れや
すいからです。北斜面のものも敬遠されます。溶岩が固化した当時、
陽の当たらない北側は急冷によって歪みを生じたため割れやすいと
云われています。加えて、きめ細かく均質なもの、目に見えない亀裂
もないものといった、あらゆる条件を満たしたものだけが臼石になり
うるのです。そのようなものはいま限られた場所にしかありません。
大島正彦さん製作の豆腐専用臼
船川南小の子供たちによる
海水豆腐づくり体験
石臼づくりは最先端技術!
石臼は単純で時代遅れの道具のようですが、実は高度な技術が
凝縮されたものです。製作にはミリ単位の精度が要求されます。
挽く材料の種類や求める食感によって、それぞれ専用の石臼を設
計・製作します。
石臼の設計仕様の例(提供:大島石材店)
豆腐臼
ソバ
標準臼
ソバ
丸抜き専
用臼
ソバ
粗挽き
専用臼
上臼凹み
下臼張り
凹12mm
凸9mm
下臼は
平面
下臼は
平面
下臼は
平面
ふくみ幅
3mm
1.5~2
mm
1~1.5
mm
3mm
3mm
2mm
小叩き
仕上げ
ビシャ
ン仕上
げ
小叩き
仕上げ
10mm
10mm
15mm
8分画5
目、接
線主溝
型
8分画6
目
やや粗
めの粉
となる
米粉・
茶・き
な粉用
表面
仕上げ
ビシャ
ン仕上
げ
小叩き
仕上げ
すり合わ
せ部分幅
20mm
15mm
溝目
パターン
8分画5
目、接
線主溝
型、平
型V溝
8分画6
目、副溝
15mm 、
平型V溝
8分画5 8分画
目、副溝 6目、
副溝
20mm、
平型V溝、 15mm 、
副々溝5 丸山型
歩留まり
80%
歩留まり
98%、挽
きが重い
挽き粉
の特徴
など
小叩き
仕上げ
20~30
mm
固有の
食感、
挽きは
軽い
小麦臼
凹12mm
凸9mm
ビシャン(左)、タタキ(右)
万能臼
凹12mm
凸9mm
平型V溝(上)
丸山型溝(下)
8分画5目、接線主溝型溝目
赤島層の溶結凝灰岩
「かねいし」
「石焼き」の石はなぜ割れない?
男鹿に古くから伝わる伝統料理のひとつに「石焼き」があります。
木桶の中に具とダシ汁を入れておき、七輪の炭火で真っ赤に焼いた
玉石を数個放り込む。すると、グツグツと音を立て、桶の汁が沸騰し、数
分も経たないうちに料理は出来上がる。
この料理に用いられる石は、半島西北端の入道崎海岸のみに産し、
「かねいし」あるいは「いきいし」とよばれています。赤熱した岩石を水中
に投ずると割れてしまうのが常だ。ところが、この石は割れない!
なぜだろう?――「かねいし」は自然がつくった新素材!
その答はこの石の特殊な成因にあります。「かねいし」は、約7000万年
前の熱雲火砕流とよばれる巨大噴火によってできた溶結凝灰岩という
岩石です。熱雲は火山灰とガスから構成されますが、非常に高温およ
び高密度(自重)のために溶結という現象が起こるのです。
実は、この溶結現象はファインセラミックス製造とメカニズムがまった
く同じなのです。原料の粉体(「かねいし」の場合は火山灰)に高い温度と
圧力を加えると、焼結という反応が起こり、粉の粒子どうしが強く結合し、
堅牢・緻密でかつ熱に強い新素材(すなわちファインセラミックス)が生
まれます。「かねいし」を急冷しても割れないのは、このセラミックスと同
じ成因をもつからなのです。つまり、「かねいし」は天然のファインセラ
ミックスというわけです。
女川層の真山珪藻土層と珪質頁岩
「なめつち」と「かたいし」
「なめつち」――暮らしに利用されてきた天然の耐火材
かつて、半島中央部真山地区では珪藻土が農薬の増量剤として工業
的に採掘されていました。一方、地元の人たちはふだんの暮らしの中で、
七輪やかまどをはじめ、炭窯築造の際に欠かせない耐火材として利用し
ていました。珪藻土には、耐火度が大きいだけでなく、鍬や鉞などで比
較的容易に掘り出し加工・成形できるという利点もあったのです。
珪藻土はその名のとおり、植物プランクトンの珪藻の遺骸(珪酸SiO2
を成分とする殻)が深海底に降り積もってできた堆積物です。珪藻化石
は1000万年もの時代を経た今日でもほぼ完全な姿で見ることができ
ます(写真)。
“おやつ”として食べていた!
隣の北浦地区の人たちは、子供の頃、
この珪藻土をおやつ代わりに食べてい
たそうです。実はこれは珍しいことでは
なく、昔のビスケットには増量剤として
たくさん含まれていましたし、戦時中は
飢えをしのぐため軍用食にも使われて
いました。
同様の例は宮崎県椎葉村でも聞か
れます。ここでは、凶作の時、「いもご
土」と呼ばれる阿蘇火山由来の粘土を
ソバに混ぜて食べていました。
この様な食習慣を「土食文化」といい
ますが、最近になり、機能性食品として
注目されはじめています。
真山珪藻土の電子顕微鏡写真
丸いのが珪藻化石
「かたいし」――縄文人たちの石器材料
「かたいし」(珪質頁岩)は珪藻土が地熱で化学変
化してできた硬い岩石です。特に、ポーセラナイトと
呼ばれる部分は刃物のような鋭い破断面が特徴的
です。付近から時折出土する石器は、このポーセラナ
イトを原料にしています。
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