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ラットにおける血中ナトリウム利尿ペプチドの日内変動及び麻酔 - J
hon p.1 [100%] YAKUGAKU ZASSHI 129(12) 1529―1535 (2009) 2009 The Pharmaceutical Society of Japan 1529 ―Regular Articles― ラットにおける血中ナトリウム利尿ペプチドの日内変動及び麻酔の影響について 大 野 理 絵,,a 宮 田 裕 人,a 木 村 正 明b Circadian Rhythms and EŠects of Anesthesia on Plasma Natriuretic Peptide Levels in Rats Rie OHNO,,a Hiroto MIYATA,a and Masaaki KIMURAb aDrug Safety and Pharmacokinetics Laboratories, Taisho Pharmaceutical Co., Ltd., 1403 Yoshino-cho, Kita-ku, Saitama 3319530, Japan, and bQA Management Section, Quality Assurance Head O‹ce, Taisho Pharmaceutical Co., Ltd., 3241 Takada, Toshima-ku, Tokyo 1708633, Japan (Received June 11, 2009; Accepted September 12, 2009; Published online September 18, 2009) Atrial natriuretic peptide (ANP) and brain natriuretic peptide (BNP) are circulating hormones secreted predominantly in patients with hypertension or congestive heart failure. To obtain background data on plasma ANP and BNP levels in rats, we investigated the circadian rhythms and eŠects of anesthesia on these peptides. To determine the circadian rhythms, plasma samples from thirty rats were collected by non-anesthesia (decapitation) at six time points every fourth hour. To determine the eŠects of anesthesia, plasma samples from thirty-two rats were collected under diethyl ether, pentobarbital or urethane anesthesia. The plasma ANP and BNP levels were determined using a radioimmunoassay. The plasma ANP levels were high from the evening to early morning, while the plasma BNP levels were relatively low at 2:30 AM. The diŠerence in the BNP levels was statistically signiˆcant. The plasma BNP levels were relatively high when the rats were anesthetized using urethane. These results suggest that blood collection should be performed between 10:30 AM to 2:30 PM to determine plasma ANP and BNP. The use of pentobarbital is also recommended for toxicological studies in rats. Key words―circadian rhythm; anesthesia; brain natriuretic peptide; atrial natriuretic peptide; rat 緒 に心臓ホルモンは臨床では生理的,病態生理学的に 言 も多くの検討がされていると同時に,それらの血中 19831990 年にかけて心房性ナトリウム利尿ペプ 濃度測定は心機能や心負荷の程度を知る優れた生化 チド(以下 ANP ),脳性ナトリウム利尿ペプチド 学的パラメーターとなることが示されている.心肥 (以下 BNP ), C タイプナトリウム利尿ペプチドが 大を呈する高血圧自然発症ラットにおいては心不全 前である心肥大時の圧負荷や容量負荷の状態におい 各々単離同定された.13) そ の うち , ANP と BNP は 共 有 する Guanylate て心臓ホルモンの分泌が生じ,イソプロテレノール cyclase-A 受容体に作用し,腎機能,水や電解質バ による心障害モデルラットでは心障害時における ランス等の作用を有し,心臓においてそれぞれ主に ANP 及び BNP の mRNA 量の増加時期の違いにつ 心房,心室で合成・分泌されていることから心臓ホ いての報告があり,5,6) ラットにおいても血中 ANP ルモンと言われている.ヒトにおいて ANP, BNP と BNP 濃度はその病態(心機能や心負荷)の程度 はナトリウム利尿,利尿作用及び血管弛緩作用を有 を知るための有用なバイオマーカーであるとされて し,中枢神経系と末梢組織で体液と電解質のホメオ いる.711) スターシスを調節することで心臓を保護する働きを ホルモンや酵素等,バイオマーカーとして知られ 持っている. BNP についてはさらに,ヒトの臨床 るものの中には,日内に周期的変動を示すものがあ このよう る.1215) 例えばラットの ACTH は午後に高値を示 領域での有用性が広く認められている.4) a大正製薬株式会社安全性・動態研究所安全性研究室, QA 本部 QA 推進室 e-mail: rie.ohno@po.rd.taisho.co.jp b大正製薬株式会社 し, ACTH やコルチコステロン濃度は照明時間の 暗期(消灯時間帯)の初期に最高濃度になり,暗期 の中期にかけて急速に減少して最低濃度になる.さ hon p.2 [100%] 1530 Vol. 129 (2009) らにラットが夜間に餌を食べる習性から夜間に絶食 プロチニン 500 KIU ・ EDTA 2Na 1 mg /血液 1 ml 条件下にするとアルカリ性ホスファターゼ,アルブ で処理し,遠心分離( 4° C, 3000 rpm, 15 min)して ミン,遊離脂肪酸,ビリルビン及び胆汁酸濃度が減 得た血漿を用いて前処理後にラジオイムノアッセイ 少するとの報告もある.16) 法で行った. また,採血時の動物に施 す麻酔の方法によっては諸検査値に影響を与えるこ 2-2. 麻酔法の違いによる検討 動物は 10 週 測定データを解析する際には,種々 齢の雄性ラット 32 匹を使用した.下記に示す異な の影響因子を把握しておくことが重要である.採血 る 3 種の麻酔薬を用いて麻酔による影響を検討し は長時間かかるため,麻酔及び日内変動が心臓ホル た.対照として,断頭により採血する無麻酔群を設 モンの測定値に影響があるか否かを調べる必要があ 定した( 8 匹/群).ただし,血液生化学検査の項 る.しかし,ラットの心臓ホルモンについては麻酔 目については反復毒性試験で麻酔薬として繁用して に関連した報告は極めて少なく,日内変動の報告は いるジエチルエーテル群を対照群として設定した. ない. 麻酔薬はラットの毒性試験で採血前の麻酔に使用さ とがあり,1719) 本研究では,ラットの心臓ホルモンの背景データ れているジエチルエーテル(デシケータにジエチル 収集の一環として,血中 ANP 及び BNP の日内変 エーテルを 20 ml 含ませた吸湿紙を入れて吸入)及 動と麻酔による影響を検討した.また麻酔薬の影響 びペントバルビタール( 50 mg / ml 液, 0.55 ml /匹 については生体への影響をみるために血液生化学パ 投与, i.p. ),麻酔状態を長時間維持できるウレタ ラメーターの変動についても併せて検討した. ン(25%カルバミド酸エチル液 1.5 g/kg 投与,s.c.) 材料及び方法 ントバルビタールは麻酔導入約 15 分後,ウレタン 本研究には日本チャールス・リ は麻酔導入約 1 時間後に,各々腹大動脈から採血し 株 より購入した Crl: CD ( SD )雄性ラットを バー た.なおこれらの麻酔量及び採血までの時間はラッ 用い,一般状態,発育が良好であることを確認した トが採血に適した状態にあることを確認し,日内変 後,試験に供した.各実験群における使用動物数と 動の影響が少ない時間帯に実施した.麻酔深度は, 群分けの内訳は下記 2. の項に示す.動物は温度 20 ラットが規則的な呼吸状態を維持し,かつ起き上が 26° C,湿度 3070%,照明時間 12 時間/日(蛍光 る,頭部を動かす等の動作の消失,動物の目を指で 灯照明,照明時間:7 時 15 分19 時 15 分),換気回 触れた際に瞬きをしない,肢の先を強く指でつまみ 数 10 回以上/時間に設定された飼育室内で自動水 動物が動かないことを指標に採血に適した状態であ 洗飼育機型ラット単飼育用ケージに単飼育した.飼 ることを確認した.20) ANP 及び BNP 用の血漿サン 株 )及び殺菌水は 料( MF,オリエンタル酵母工業 プルは上記の日内変動と同様の方法で測定した.さ 自由に摂取させた.なお,本研究は,大正製薬株式 らに麻酔薬を用いて採血を実施した(無麻酔群以外 会社が定める「動物実験に関する指針」に従って行 の)動物については,生体への影響をみるために血 った. 液生化学検査も実施した.血液生化学検査には抗凝 1. 2. 2-1. 実験動物 を選択した.ジエチルエーテルは吸入約 2 分後,ペ 実験条件及び測定方法 固剤(ヘパリンリチウム)で処理した採血管(テル 動物は 9 週齢の雄性ラット 30 株 )及び抗凝固剤の入っていない採血管(テルモ モ 匹を使用した.ラットの飼育室の照明時間は上記の 株 )に採取した後,各々遠心分離( 4 ° C, 3000 rpm, 通り, 12 時間のサイクル(明期: 7 時 15 分19 時 15 min )して得られた血漿及び血清を測定に供し 15 分,暗期:19 時 15 分7 時 15 分)で設定した. 株 日立製作所) た.測定は,自動分析装置(7070, 心臓ホルモンの日内変動を検討するために,採血時 を用いた.測定の項目(略名,方法)は,血漿を用 間は明暗環境下で各々 3 ポイント(計 6 ポイント, い て 乳 酸 脱 水 素 酵 素 ( LDH, Wr áoblewski-La Due 5 匹/ポイント)として 10 時 30 分, 14 時 30 分, 法 ), ク レ ア チ ン フ ォ ス フ ォ キ ナ ー ゼ ( CPK, 18 時 30 分, 22 時 30 分,2 時 30 分,6 時 30 分の 4 GSCC 処方),血清を用いてアスパラギン酸アミノ 時間毎に設定して, ANP 及び BNP の測定を行っ トランスフェラーゼ(AST, JSCC 標準化対応),ア た.血液は断頭により採取した.採取した血液はア ラニンアミノトランスフェラーゼ( ALT, JSCC 標 日内変動 hon p.3 [100%] No. 12 1531 準化対応),アルカリ性フォスファターゼ( ALP, ク)によりジエチルエーテル群とほかの麻酔群間で JSCC 標準化対応),尿素窒素(ウレアーゼ・GlDH の平均値の差の検定を行った. 法),クレアチニン(クレアチニナーゼ・ F-DAOS 実 法),グルコース(ヘキソキナーゼ・G-6-PDH 法), 総タンパク(ビウレット法),アルブミン( BCG 1. 日内変動 験 成 績 ANP は日中(明期)の 67.8 ± 法),総コレステロール(コレステロールオキシダー 12.1 pg / ml 81.7 ± 16.9 pg / ml と比較し,夕方から ゼ・ESBmT 法),トリグリセリド[GPO・ ESBmT 早朝(暗期)では 94.0±38.3 pg/ml119.2±19.9 pg (遊離グリセロール消去法)],リン脂質(コリンオ / ml と高値を示した. BNP については暗期の 2 時 キシダーゼ・POD 法),総ビリルビン(アルカリア 30 分の値が 13.9±1.6 pg/ml と最も低く,明期の 10 ゾビリルビン法),無機リン(フィスケ・サバロー 時 30 分の値と比較し有意な減少を示した(Table 1 法),カルシウム( MXB 法),ナトリウム(電極 and Fig. 1). 法),カリウム(電極法),クロライド(電極法)と 2. した.なお,一部の動物では測定に必要な血液量が 2-1. 麻酔法の違いによる影響 心臓ホルモン BNP において,ウレタ 採取できなかったため測定できない項目があった. ン群では 98.2 ± 68.8 pg /ml と無麻酔群の 30.3 ± 3.3 測定項目及びサンプル数については Table 中に表示 pg / ml に対し,有意な高値を示した. ANP 値につ した. いてはジエチルエーテル群で高値を示したが,有意 3. 3-1. データの解析に使用した統計学的方法 日内変動 ANP 及び BNP 値について, 群毎に平均値及び標準偏差を算出し,多重比較検定 な変動ではなく麻酔薬による明らかな影響は認めら れなかった(Fig. 2). 2-2. 血液生化学的検査 ジエチルエーテル群 法により採血時刻 10 時 30 分とほかの採血時刻との と比較しほかの麻酔薬で以下の変動がみられた.ウ 統計学的有意性を検定した.検定方法は,最初に レタン群ではトリグリセライド, LDH ,総ビリル Bartlett 法により等分散の検定を行い,等分散の場 ビン, CPK ,カリウム,クロライドの有意な高値 合は一元配置分散分析を行い,採血時刻間で有意差 を示した.ペントパルビタール群では,無機リンの が認められた場合は Dunnett 法(パラメトリック) 有意な高値を示した( Table 2 ).なお, LDH ,総 により 10 時 30 分とほかの採血時刻の平均値の差の ビリルビン, CPK ,カリウムは溶血により高値を 検定を行った.また分散が等しくない場合, 示す可能性があるが,本実験では遠心分離した上清 Kruskal-Wallis の H 検定を行い,採血時刻間に有 において溶血は確認できなかった.ウレタン群でみ 意差が認められた場合は Dunnett 法(ノンパラメ られたこれら項目の高値は麻酔の種類による影響と トリック)により 10 時 30 分とほかの採血時刻間で 考えられた. の平均値の差の検定を行った. 3-2. 麻酔の影響 ANP, BNP 値及び血液生化 学的パラメーターについて,群毎に平均値及び標準 偏差を算出し,多重比較検定法により ANP, BNP 値については無麻酔群と麻酔群,血液生化学検査の Table 1. Circadian Rhythm on Plasma Levels of ANP and BNP in Rats 群との統計学的有意性を検定した.検定方法は,最 Number of animals ANP (pg/ml) 5 初に Bartlett 法により等分散の検定を行い,等分散 time 10:30 14:30 18:30 22:30 2:30 6:30 81.7±16.9 67.8±12.1 94.0±38.3 119.2±19.9 118.9±29.1 102.9±40.7 各項目についてはジエチルエーテル群とほかの麻酔 の場合は一元配置分散分析を行い,群間で有意差が 認められた場合は Dunnett 法(パラメトリック) によりジエチルエーテル群とほかの麻酔群の平均値 の差の検定を行った.また分散が等しくない場合, Kruskal-Wallis の H 検定を行い,群間に有意差が 認められた場合は Dunnett 法(ノンパラメトリッ BNP (pg/ml) 5 18.8±4.0 21.2±2.3 15.6±1.6 16.0±1.5 13.9±1.6 16.0±1.6 Each value is mean ±S.D. for 5 animals per time. : p <0.01, 10:30 versus other time. hon p.4 [100%] 1532 Vol. 129 (2009) Fig. 2. Plasma ANP and BNP Levels following Anesthesia and Non-anesthesia in Rats :p<0.01 sigEach value is mean±S.D. for 8 animals per group. niˆcance of the diŠerences versus non-anesthesia. 灯時間帯)の夕方から早朝にかけて高値であった. Fig. 1. Circadian Rhythm on Plasma Levels of ANP and BNP in Rats ヒトにおける ANP は正常では主として心房で合 :p<0.01 sigEach value is mean ±S.D. for 5 animals per time. niˆcance of the diŠerences versus 10:30. 成・分泌されるが,心不全状態に陥ると心室におい ても合成・分泌が著増し,心房における合成分泌を 上回るとされている.24) ラットにおいても正常で 考 察 は,血中 ANP の上昇は右心房圧と連動しており, 圧の上昇に伴い心房壁の伸展受容体が刺激され,心 ANP, BNP はその生理的作用からラットにおい 房 筋 細 胞 か ら ANP が 分 泌 さ れ る と 言 わ れ て い ても心機能を評価するバイオマーカーとしての有用 る.21) ラットでは摂水に日内変動がみられ,消灯し 性は高い.2123) 今回,医薬品開発におけるラットの た時間帯(暗期:約 12 時間)の摂水量は 1 日の摂 反復投与毒性試験に評価パラメーターの 1 つとして 水量に対しその 90%を占める.25,26) 本研究で供試し 組み入れるための基礎データの収集を目的に,各心 たラットは正常であり,体液量の増加に対する生体 臓ホルモンの背景値となる日内変動及び麻酔法の違 反応として,心房から ANP が分泌され,その機能 いによる影響を検討した. が十分発揮され,さらに夜間の摂水量の増加に対し ANP, BNP は主に心房,心室で合成・分泌され ては,飲水量に応じて尿排泄量が増加し,体液量を るが,心房細胞は合成されたペプチドを顆粒として 一定に維持していることが予想される.このことか 貯蔵し刺激に応じて分泌するが,心室細胞はペプチ ら今回の血中 ANP の日内変動は摂水量増加に伴う ドが合成されると貯蔵せずに分泌する様式をとる. 静脈還流の増加から心房への負荷がかかったため, また代謝あるいはクリアランスは ANP-C 受容体を 現われたものと考えられる.一方,血中 BNP は 介する機序及び中性エンドペプチダーゼによる分解 ANP のように高値を示すことはなく,逆に暗期の を受けることが明らかにされている. 2 時 30 分に低値を示した. 血中 ANP は日内変動を示し,暗期(飼育室の消 ANP は心不全以外にも,高血圧,脱水,溢水, hon p.5 [100%] No. 12 1533 Table 2. In‰uence of Diethyl Ether, Pentobarbital and Urethane diethyl ether 8 Number of animals AST ALT ALP Urea nitrogen Glucose Total Protein Albumin Total Cholesterol Triglyceride LDH Total Bilirubin CPK Phospholipid Inorganic Phosphorus Creatinine Calcium Sodium Potassium Chloride (IU/l) (IU/l) (IU/l) (mg/dl) (mg/dl) (g/dl) (g/dl) (mg/dl) (mg/dl) (IU/l) (mg/dl) (IU/l) (mg/dl) (mg/dl) (mg/dl) (mg/dl) (mEq/l) (mEq/l) (mEq/l) pentobarbital 8 78±5(7)a 37±5(7) 689±153(7) 19.4±2.0 223±20(7) 5.7±0.2(7) 4.3±0.3 56±8 41±16 355±164 0.08±0.02 181±40 110±17 8.2±0.5 0.45±0.04 9.9±0.5(7) 146±1 4.46±0.25 108±2 88±14(7) 40±8(7) 767±193(7) 20±1.6 243±28(6) 5.6±0.3(7) 4.2±0.2(5) 56±9 46±17 396±131 0.09±0.02 573±267 118±12 9.4±0.5 0.46±0.05 10.3±0.3(6) 147±2 4.03±0.32 106±3 urethane 8 95±22 36±5 683±140 19.8±1.4 214±13(7) 5.4±0.3 4.2±0.3(7) 60±8 63±19 658±200 0.12±0.06 1559±1524 117±12 8.3±0.5 0.42±0.05 9.8±0.6(7) 147±3 5.51±0.57 112±2 : p <0.01, signiˆcance of the diŠerences verEach value is mean ±S.D. for 68 animals per group. : p<0.05, sus diethyl ether. ( )a: excluding a value of one to three animals because of shortage of serum volume. 腎不全などにおける体液量の指標としても評価され 麻酔薬を用いて検討した.各麻酔薬とも用量によっ ている.血中 BNP も体液量などの水分バランスで て心臓ホルモンに対する影響に差が生ずる可能性は 心臓を保護するために分泌されるが, BNP の場合 あるが,本研究では各麻酔薬とも採血するのに至適 は特に心室機能の低下に鋭敏に反応して速やかに血 な用量を選択していると考えている.17,20,32,33) 今回 中に分泌される.2730) 本研究では夜間の摂水量は増 の結果,ウレタン麻酔では個体間のバラツキが大き 加した可能性が高いが,心室に負荷がかかるような いものの,無麻酔(断頭)と比べて BNP の有意な 体液量増加が起こらなかったことから, BNP は大 高値を示した.また,同時に測定した血液生化学パ きく変動しなかったものと考えられる.ヒトにおい ラメーターにおいても,ほかの麻酔よりも多くの項 て ANP は BNP より食事,体位,運動などによる 目が変動し,生体への明らかな影響が現れた.ウレ 行動に影響を受け易いとされ, ANP と BNP の分 タンは長時間の麻酔効果が得られるが,発がん性を 泌様式の違いと圧負荷に対して壁の薄い心房の方が 有し,17) 麻酔から回復しにくいということから,慢 心室よりも伸展を受け易いとの報告がある.31) ラッ 性実験には適さない.これらのことから,ウレタン トは夜行性動物であり,夜間の活動が血中 ANP に はラットの反復毒性試験の血中パラメーターを測定 影響を与えた可能性もあるが,日内変動と生合成, する時の麻酔薬としては適していないと考えられる. 代謝及びクリアランスとの関わりは明らかではな 一方,ジエチルエーテル及びペントバルビタール い.本研究は毒性試験の評価パラメーターの 1 つと 麻酔では心臓ホルモンの値や生体への影響は少なか して評価したものであり,心臓ホルモンの生合成及 った.ペントバルビタールは腹腔内投与のため,麻 び代謝と血中濃度の変動については今後の課題であ 酔の量を個体毎に設定できる利点がある.また,動 る. 物の健康状態等に応じて投与量の加減が必要になる 本研究ではこのほかに,血液サンプリング(腹大 場合はあるが,採血前に麻酔が足りない場合は追加 動脈採血)時の麻酔が,血中ナトリウム利尿ペプチ して投与することで適切な麻酔深度を維持すること ドの値にどのような影響を及ぼすかを異なる 3 種の が可能であることから各種動物実験に広く用いられ hon p.6 [100%] 1534 Vol. 129 (2009) ている.ジエチルエーテルは吸入投与のため,麻酔 の導入及び覚醒が緩やかであり,実験者にとって扱 7) い易い麻酔薬である.しかし,ジエチルエーテルは 可燃性物質であり,また部屋の換気が悪いとほかの 8) 動物や実験者が吸入暴露を受け易いこと等を考慮に 入れると,ラットの毒性試験における血中パラメー ターの測定にはペントバルビタールの方がより適し た麻酔薬であると考えられる. 9) 本研究から,心臓ホルモンは明期の特に 10 時 30 分14 時 30 分の時間帯では日内変動の影響を受け る可能性が少ないことが判明した.本実験では 4 時 間毎に日内変動を確認しているが,今後の毒性試験 10) のためには実際に採血作業を行う昼間の時間帯につ いて詳細な検証を実施していきたいと考えている. 11) また麻酔薬は,ジエチルエーテル及びペントバルビ タールでは心臓ホルモンの値や血液生化学パラメー 12) ターへの影響を及ぼさないことが明らかになった. ラットの反復毒性試験では使用動物数により全動物 の採血に係わる時間が数時間に及ぶことがある.こ のような試験で心臓ホルモンを測定する場合には, 13) 14) 上記結果を踏まえた試験計画を設定する必要がある と考えられる. また,心臓ホルモンについての今後の実験におい 15) ても,日内変動の存在の可能性と麻酔薬の違いによ る結果の違いの可能性を考えて試験計画の組み立て 16) 方を慎重に行い麻酔方法を一定にする必要性がある と考えられる. 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