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交通弱者の交通事故実態について~豊田市を例として~* An Analysis
交通弱者の交通事故実態について~豊田市を例として~* An Analysis on Traffic Safety of Vulnerable Road Users in Toyota City* 安藤良輔**・加知範康*** By Ryosuke ANDO**・Noriyasu KACHI*** 1.はじめに 死者数[人] 重傷者数[人] 発生件数[件] 軽傷者数[人] 350 最近、バリアフリーやユニバーサルデザイン等の概念 の普及によって「交通弱者」と言えば移動にハンディを 持つ高齢者や車運転免許非保持者等を連想する人が多い が、車という交通強者に対比した歩行者や自転車等の交 通弱者を指すこともある。つまり、個人属性による移動 300 2,808 250 200 2,302 の自由度と交通手段属性による移動の安全性という異な る事項を表現する意味合いを有する用語である。本稿は 50 この用語の定義や使い方を論述するものではなく、上述 0 2,877 2,830 2,588 2,451 43 22 H11 のである。交通事故の実態を把握するには対象エリアが 4,000 3,229 2,964 2,866 2,941 2,825 2,449 2,400 2,979 2,597 35 37 11 19 3,500 3,000 2,500 2,000 152 93 108 の交通手段属性の観点から交通事故の実態を分析するも を対象とする。 3,169 3,038 150 100 必要であり、本稿では著者らの所属先が立地する豊田市 3,393 3,511 3,454 100 101 14 18 H19 H20 20 24 18 18 20 H14 H15 H16 H17 H18 100 88 1,500 1,000 500 0 H12 H13 死者数 重傷者数 発生件数 軽傷者数 図-2 豊田市の事故件数及び死傷者数の経年変化 4 .00 % 3 .4 8 % 3 .50 % 2.交通安全上の交通弱者とは 3 .00 % 2 .50 % 2 .00 % 図-1に示すように、平成21年中における全国の交通 事故による死者数は4,914人で、9年連続の減少となると ともに、昭和27年以来57年振りに4千人台となり、ピー ク時(昭和45年=16,765人)の3割以下となった。また、 平成16年に過去最悪を記録した交通事故発生件数及び 1 .50 % 1 .0 1 % 1 .00 % 0 .50 % 0 .2 8 % 0 .2 4% 0 .00 % 自動車 二輪車 自転車 歩行者 負傷者数も5年連続で減少し、平成6年以来の低い数値 図-3 利用交通手段別の致死率(H20~21) 4%の4倍以上になったのは、二輪車が車道を走る一方で となった。一方、図-2からわかるように、豊田市におけ 自転車が殆ど自転車道また自歩道(時に歩道)を走るこ る近年の発生件数と軽傷者数は全国と同様に減少傾向に とから、二輪車が自動車という強者に負けたのに対して、 あるものの、死者数と重傷者数は一定水準に「安定」し 自歩道上で走る自転車は同じ空間で歩く歩行者に比較し て推移している。この「安定」した水準こそ、これから てむしろ強者になっており、致死率が低い結果につなが の交通安全対策を検討する際に重要な突破口とすべきで ると考えられる。 あろう。 また、図-4には利用交通手段別の第1(加害者側)ま 図-3には利用交通手段別の致死率(当該交通手段で たは第2(被害者側)当事者に判断された件数および第2 の事故による死者数/当該交通手段での事故による死傷 当事件数と第1当事件数の比を示した。この図から分か 者数)を示す。歩行者の致死率3.48%は自動車・自転車 るように、歩行者の場合、第2当事(被害)者になった の10倍以上である。二輪車の致死率1.01%が自転車の0.2 *キーワーズ:交通安全、交通弱者対策、歩行者・自転車 件数は第1当事(加害)者になった件数の10倍以上もあ 交通計画、交通事故 **正員、工博、(公財)豊田都市交通研究所 研究部 (愛知県豊田市若宮町1-1TM若宮ビル1F、 TEL:0565-31-7543、E-mail:[email protected]) ***正員、博(環)、(公財)豊田都市交通研究所 研究部 る一方、自動車の場合、逆に、この比は1.0よりも小さ く第2当事者になった数よりも第1当事者になった件数が 多い。二輪車と自転車は自動車と歩行者の中間に位置づ けられる。また、致死率と異なって、自転車が歩行者に 近く二輪車が自動車に近い状況にある。被害者になりや すい順としては常識的な結果となっている。 死者数[人] 重傷者数[10人] 発生件数[万件] 軽傷者数[万人] 120 18,000 軽傷者数 [万人] 16,000 85.6425 死者数 [人] 100 14,000 80 12,000 発生件数[万件] 73.6688 10,000 60 8,000 5,369 6,000 重傷者数 [10人] 40 4,914 4,000 20 出典:平成21 年中の交通事故の発生状況(警察庁発刊) 2,000 0 0 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 2 元 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 平成 昭和 図-1 全国の事故件数及び死傷者数の経年変化 2500 12.0 2283 10.4 2000 事故件数 ここでは、致死率から見ても第2当事者/第1当事者比 から見ても最も「弱い」となる歩行者を「交通弱者」の 代表例として分析を試みる。図-5には平成20年内に発生 8.0 1500 6.0 1000 4.2 500 した歩行者事故件数を道路形状・事故類型別に示した。 この図から分かるように、歩行者の交通事故のほとんど 二輪車 第1当事(加害)件数 2.0 156 15 自転車 第2当事(被害)件数 歩行者 第2当事件数/第1当事件数 図-4 手段別・当事者別事故件数・第 2/第 1 比(H20) 裏付ける結果となった。同時に交差点であるか否かに 交差点内 関係なく横断中への対策が重要である。さらに、単路 66 交差点付近 1 図-6には歩行者事故を相手方当事者種別・事故類型 単路 5 別に整理した。横断中の事故のほとんどは乗用車・貨 その他 1 物車という自動車類との事故によるものであることが 合計 6 部では背面通行中の事故は相対的に多いことも目立つ。 83 0.0 自動車 は交差点内・横断中に発生した。従来から交差点を対象 4.0 352 255 1.5 168 0.7 0 とした交通安全対策を中心に行っていることの合理性を 10.0 1684 第2当事件数/第1当事件数比 3.交通弱者の交通事故特性 明らかになった。また、図-5で目立った背面通行中の 事故についてはほとんどが乗用車との衝突によるもの で、歩道のない狭い道路で歩行中の歩行者に背後から 6 8 4 16 23 2 21 11 0% 88 10% 20% 30% 66 40% 対面通行中 50% 背面通行中 60% 横断中 70% 80% 90% 100% その他 図-5 道路形状・事故類型別歩行者事故件数(H20) 衝突したというケースが多いと考えられる。歩行環境の 乗用 5 改善によってこの種の事故をなくすことは交通弱者の交 貨物 1 通安全につながると判断できる。一方、当面の対策とし 二輪 ては歩行の右側通行による背面通行そのものをなくすこ 自転車 との有効性も期待できると考える。さらに、歩行者事故 18 8 74 44 12 13 2 1 4 1 1 不明 4 1 の相手が自転車である事故はわずかに1件であることを 指摘しておきたい。自転車走行環境が悪い日本では自転 車が歩道で走ることは暗黙的了解であることは日本なら ではの智慧であり、実態としてほとんど事故が起こって 合計 6 0% 11 88 10% 20% 30% 66 40% 対面通行中 背面通行中 50% 横断中 60% 70% 80% 90% 100% その他 図-6 相手方当事者種別・事故類型別当事者数(H20) いない。しかし、最近歩道上の自転車と歩行者の衝突に よる事故がやや増えたことが強調され自転車を車道で走 るような取締りを強化すべきという声が高くなってきて 参考文献 1)ANDO, R. and Y. MIMURA: A Statistical Analysis on いる。自転車走行環境の抜本的な改善が短期的に見込め Characteristics of Pedestrians’ Traffic Accidents in Toyota ない中、自転車という交通弱者を圧倒的な力をもつ交通 City, Proceedings of International Conference on Safety and 強者である自動車の集団に追い込む危険性をどこまで認 Mobility 識できているかが心配される。このことをここで問題提 起して学会の研究者の良識による情報発信を期待したい。 of Vulnerable Road Users: Pedestrians, Motorcyclists, and Bicyclists, pp. 2-10, TRB, 2010. 2)財団法人豊田都市交通研究所:平成21年度 豊田市交 通事故データ調査委託報告書, 豊田市, 2010.