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「何をなぜ」改善するのか 明らかにする
STEP 1 「何をなぜ」改善するのか 明らかにする STEP 1 のまとめ 1 第 2 領域(緊急性は低いが、重要性が高い)に属する「改 善」は、企業の命運を握る鍵である。 「管理」は守り。どちらも重要である。 2 「改善」は攻め、 しかし「守り」だけ(改善をしない)だと他社が進化 する中で、相対的に自社のレベルが下がってしまう。 3 2 つのW(What、Why)は、改善を実施する際の必 要十分条件である。2 つの W が明確でないと「改善の 遊び」になってしまう。 4 現状と目指す姿の差を考慮して、改善対象(What)と 改善目標(Why)を決める。Should(すべきこと) 、 Will(したいこと)、Can(できること)の 3 つが重な ると改善がうまくいく。 5 2 つの W を決める際は、「ニーズ失格 5 か条」と「問 題発見と問題解決の分離」を参考にするとよい。 ステップ 1 の要点 「改善のための改善」にしない ⇒改善は、ねらいを明確にしてからやるものだ! 改善の第 1 ステップは、「何をなぜ」改善するのかを明らかにすることであ る。改善の対象やねらいもわからずに改善を実施するということは、目的もな く車を運転するのと同じだ。もちろん車の運転が好きな人にとっては、運転そ のものが楽しく、どこに行くかなどあまり関係ないかもしれない。 しかし改善は違う。改善は遊びではないからだ。何を、なぜ改善するのかが わからなければ、当然どう改善するのかも正しくつかめない。この章では、改 善を始めるにあたっての大前提である「2 つの W(What と Why)」について 説明する。どんな小さな改善でも、この 2 つの W が明確でないと、単なる「改 善の遊び」になってしまうので、十分に気をつけていただきたい。 1-1 もし改善をしなければどうなるか? 改善のステップに入る前に、もう一度「改善」について再確認しておこう。 「なぜ改善は必要なのだろうか」「改善の価値とは何なのだろうか」、さらに は、そもそも「改善とは一体何なのだろうか」ということである。実は、長年 改善を実践している人に、「改善とは、一体何なのでしょうか」と尋ねても、 なかなか答えが返ってこない。もう一度原点に戻って「改善」について考えて みよう。 (1)今の状態を維持できれば、改善などしなくてもいいのだろうか? まず「なぜ改善は必要なのか?」ということについて考えることにしよう。 あるいは、「現状を維持できるなら、改善など不要だ」という意見に対しての 反論でもいい。自信を持って答えられる方はどれくらいいるだろうか。 はじめに仕事を 2 つの観点(重要性と緊急性)で考えてみよう(図 1-1 参 照)。第 1 領域は、重要性、緊急性ともに高い領域であり、ここに属する仕事 ▪ 10 STEP 1 「何をなぜ」改善するのか明らかにする は、どの企業でも真っ先に取り組む。お客様の納期を確実に守るための仕事、 お客様のクレームに対してすぐに対応する仕事、あるいは事故が起きたときの 対処……などがこの領域の仕事である。この領域の仕事を怠れば、企業として の信用を落とし、企業の存続自体が危うくなる。 したがってこの第 1 領域に入る仕事については、特に意識しなくても、どの 企業も確実に実施する。この領域の仕事を怠っている企業は、もうすでに、あ るいは近い将来必ず消え去るからである。 一方、対角線上の第 4 領域は、重要性、緊急性ともに低い領域であり、この 領域の仕事は後回しにされるか、あるいはなくすことになる。もしこの領域の 仕事を他の領域の仕事に先んじて実施しているとすれば、企業にとっては貴重 な時間をムダに費やしていることになり、大きなロスを発生させていることに なる。いつ使うかわからない、あるいは将来おそらく使わないであろう資料や データを小まめに分析したり、まとめたりする仕事がこれにあたる。また特に 意味もなく、どうでもいいことを社員にヒアリング(アンケート調査)して、 その結果を時間をかけてまとめ、さらにはイントラネット上で公開するような 仕事もこの領域になる。自分の仕事だけでなく、他の社員に対しても大きなロ スを生じさせることになる。 たとえ第 1 領域の仕事をしっかり実施していても、第 4 領域の仕事を多くし ている企業は、いつかは消える運命にある。不要な仕事あるいは、価値が低い 仕事に多くの時間を費やすということは、お客様へのより良いサービスができ なくなるだけでなく、ムダな費用の発生により、コストがアップし、結果とし て利益が確保できなくなるからだ。利益が出ない企業は、なくなる運命にあ る。 第 3 領域は、緊急性は高いが重要性は低いという領域である。さきほどのア ンケート調査を例にすれば、アンケート調査を記入するという仕事は、社員に とっては、この第 3 領域の仕事になる。社員にとって、アンケート調査自体の 重要性は低いが、期限も決められているので、すぐに実施しなければならない からだ。 11 ▪ この領域の仕事もできればやりたくない仕事である。現在はメールによっ て、突然の電話はかなり減ったが、大して意味のない電話の応対は、まさに第 3 領域である。 第 3 領域に多くの時間を費やす企業も、実は第 4 領域に時間を費やす企業と あまり大差はない。むしろ緊急性が増している分、自由度が効かず、重要な仕 事に回さなければならない時間を損なう可能性も大きい。第 4 領域の仕事な ら、その場でやめて、他の重要な仕事に移っても特に支障はないが、第 3 領域 の仕事をすぐにやめるには、いくら重要性が低いとはいえ、ある程度の手続き が必要になるからだ。あるいは勝手にやめてしまえば、催促を受けるなど、さ らに余分な仕事が増え、結局より多くの時間を費やすことになる。第 3 領域の 仕事も、第 4 領域と同様できるだけなくしたい。 第 1 領域の仕事は、企業として真っ先に実施しなければならない。また第 3 領域と第 4 領域の仕事(仕事とはいえないものも含まれている)は、できる限 り少なくしたい。では、最後に残った第 2 領域(重要性は高いが、緊急性は低 い)の仕事はどのような位置づけになるのだろうか。 実はこの第 2 領域の仕事こそ、企業の将来の運命を決める領域なのである。 優良企業と普通の企業の差は、まさにこの第 2 領域の対応にあるといっても過 言ではない。優良企業は、この第 2 領域の仕事を大切にし、時間を費やして、 積極的に取り組んでいるが、普通の企業は、この領域にあまり関心がない。あ るいは必要性は感じてはいるものの、なかなかこの領域に踏み出せないのであ る。 第 2 領域の仕事は、開発、企画、保全、教育そして「改善」などがあげられ る。確かに今現在は、現製品を標準どおりに生産していれば、大きな問題も生 じないし、売上げや利益もそこそこ得られるかもしれない。しかし将来を考え てみたらどうであろうか。第 2 領域に手をつけなければ、新製品も出ないうえ に、現製品も競合に比して、競争力がなくなってしまうのだ。 開発とともに「改善」の重要性をご理解いただけることだろう。「改善」の 良い点は、品質、コスト、納期、在庫など目に見える数値が良くなるととも ▪ 12 STEP 1 「何をなぜ」改善するのか明らかにする ↑重要性 ●第 1 領域 ●第 2 領域 改善、予防 研究、開発 教育、企画 ●第 3 領域 ●第 4 領域 ←緊急性 図 1-1 重要性と緊急性 に、人の力がアップすることだ。改善は、人の知恵を結集しなければできな い。また知恵を出すには、知識や意識も必要になる。人の力がアップすれば、 次から次に改善が進み、しかもそのレベルも確実に上がるのである。 「なぜ改善が重要なのか」をご理解いただけただろうか。第 2 領域の中心的 な存在である「改善」は、まさに企業の命運を握る鍵なのである。改善に真剣 に取り組むかどうかで、企業の将来が決まるといっても過言ではないのだ。 (2)そもそも改善とは何か なぜ「改善」が必要なのかについては、おわかりいただけたことだろう。し かしその前に、そもそも「改善」とは何かということを理解しなければならな い。改善とは何かということがわからなければ、あるいは皆の解釈が違ってい たら、「改善は重要」でとにかく実践しなければならないと思っても、皆ばら ばらに動き出し、せっかくの改善も力を発揮することができなくなるからだ。 改善ということばは、今では当たり前のことばになり、「KAIZEN」は世界 でも通用する。しかし、「改善」の意味を正確にあるいは、簡単に説明できる 人は、残念ながら少ない。改善の意味や重要性も知らないで改善を実施すると 13 ▪ いうのは、目的もなくドライブするのに似ている。確かに車の運転はできる し、運転自体は楽しい。しかしそれでどうなの……ということだ。 管理と改善の違いを示したのが、図 1-2 である。管理は、ある基準を守るこ とである。もちろん管理は大変重要であり、管理力がなければ、すなわち基準 や標準を守ることができなければ、品質やコストあるいは納期の維持もできな い。管理力も企業にとっては大きくて重要な能力である。 一方改善は、基準あるいは標準を良い方向に変える(進化させる)ことであ る。不良率やクレーム件数を下げ、品質のレベルを上げることは、品質コスト の低減に寄与するのはもちろん、企業の信用向上にも大きく貢献する。加工や 組立の時間を短縮すれば、加工費や光熱費などの費用が削減される。生産リー ドタイム(材料を投入してから製品が完成するまでの期間)が短くなれば、仕 掛りが減るだけでなく、お客様に対してのレスポンスが早くなり、結果として 納期遵守率も上がる。これらの改善は、いうまでもなく企業力をアップさせる のだ。 簡単にいえば、管理は基準(標準)を維持することであり、改善は基準(標 準)を良い方向に改めることである。少し乱暴ではあるが、管理が守りで、改 管理 良い ↓ 改善 図 1-2 管理と改善 ▪ 14