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直接ギャップ半導体ヘテロ接合によるトポロジカル絶縁体の実現

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直接ギャップ半導体ヘテロ接合によるトポロジカル絶縁体の実現
一般社団法人 電子情報通信学会
THE INSTITUTE OF ELECTRONICS,
INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS
信学技報
IEICE Technical Report
ED2013-136, SDM2013-148 (2014-02)
直接ギャップ半導体ヘテロ接合によるトポロジカル絶縁体の実現
鈴木 恭一
小野満 恒二
原田 裕一
村木 康二
NTT物性科学基礎研究所 〒243-01983 神奈川県厚木市森の里若宮3-1
E-mail: [email protected]
あらまし 直接ギャップ半導体であるInAsとGaSbを用いて、そのヘテロ接合により2次元トポロジカル絶縁体を
実現した。非局所抵抗測定において隣り合った電極ペア間の抵抗比が電流端子の配置に依存しないことから、電気
伝導がトポロジカル絶縁体の特徴であるエッジチャネルに支配されていることを示した。本手法を用いることで、
エッジチャネルの量子化が不完全な場合でも、エッジチャネルの存在とトポロジカル絶縁の実現を証明することが
できる。
キーワード トポロジカル絶縁体、エッジチャネル、非局所抵抗、原子層堆積法、量子スピンホール効果
Realizing Topological Insulating Phase in the Heterostructure Composed of
Direct Transition Band Gap Semiconductors
Kyoichi SUZUKI
Koji ONOMITSU
Yuichi HARADA and Koji MURAKI
NTT Basic Research Laboratories, NTT Corporation, 3-1 Morinosato-Wakamiya, Atsugi, Kanagawa, 243-0198 Japan
E-mail:
[email protected]
Abstract We have realized a topological insulating phase in a heterostructure composed of direct transition band gap
semiconductors. Edge channel transport without bulk contribution has been confirmed on the basis of the fact that the
non-local resistance ratios between adjacent voltage contact pairs does not depend on the current path. This method allows us
to demonstrate the realization of a topological insulating phase and the existence of edge channels even when the conductance
quantization of the edge channels is incomplete.
Keyword Topological insulator, Edge channel, Non-local resistance, Atomic layer deposition, Quantum spin Hall effect
1. は じ め に
にフェルミレベルを制御することにより、エッジチャ
ト ポ ロ ジ カ ル 絶 縁 体 (TI)は 、 試 料 内 部 で は 伝 導 帯 と
ネ ル の 無 散 逸 な 伝 導 (= 量 子 化 伝 導 ) で あ る 量 子 ス ピ ン
価電子帯が重複し、スピン軌道相互作用によりエネル
ホ ー ル 効 果 (QSHE)が 観 測 さ れ て い る [2]。し か し 、HgTe
ギ ー ギ ャ ッ プ が 開 い た バ ン ド 構 造 を 持 ち 、 表 面 (3次 元
系の結晶成長は材料の取り扱いが難しく、また毒性が
TI)ま た は 端 面 (2次 元 TI)で は 、 波 動 関 数 の 終 端 に よ り 、
強いため、限られた研究機関でしか行われていない。
や は り ギ ャ ッ プ の 開 い た バ ン ド 構 造 を も つ (図 1)。内 部
こ れ ま で 確 認 さ れ て い る TIが 材 料 自 体 に TIと な り 得
と 表 面 /端 面 の バ ン ド 構 造 は 幾 何 学 的 (ト ポ ロ ジ カ ル )
る バ ン ド 構 造 (伝 導 帯 と 価 電 子 帯 の 重 複 )を も つ の に 対
に異なる状態であり、必然的にその境界で伝導帯と価
して、最近、直接ギャップ半導体どうしのヘテロ接合
電子帯を結ぶ質量ゼロのディラック電子的な分散が現
れ る [1]。フ ェ ル ミ レ ベ ル が ギ ャ ッ プ 中 に あ る 場 合 、フ
ェ ル ミ レ ベ ル と こ の 分 散 の 交 点 は 表 面 チ ャ ネ ル (3次 元
TI)/エ ッ ジ チ ャ ネ ル (2次 元 TI)と な り 、 高 速 か つ 無 散 逸
な 電 気 伝 導 を 示 す と 予 測 さ れ て い る 。 こ れ に よ り 、 TI
は省電力デバイスとして期待されている。さらに、2
次 元 TIに お け る エ ッ ジ チ ャ ネ ル は 、 互 い に 逆 向 き の ス
内部:絶縁体
ピンを持つ電子の対向した流れで構成されており、ス
伝導帯
ピントロニックデバイスへの応用も期待されている。
バンド
ギャップ
端面付近:
エッジチャネル
端面:絶縁体
異なるトポロジー
EF
3次 元 TIの 場 合 、そ の 構 造 上 ギ ャ ッ プ 中 に フ ェ ル ミ レ
価電子帯
ベルを制御することが困難なため、特徴的な伝導特性
k
を 明 確 に 観 測 す る こ と は 難 し い 。 一 方 、 2次 元 TIで は 、
k
k
図 1. 2 次 元 トポロジカル絶 縁 体 のバンド構 造 と
エッジチャネル。
ゲートによるフェルミレベルの制御が可能であり、こ
れ ま で に HgTe/HgCdTeヘ テ ロ 構 造 に お い て ギ ャ ッ プ 中
- 25 This article is a technical report without peer review, and its polished and/or extended version may be published elsewhere.
Copyright ©2014 by
IEICE
(a)
電子
EF
InAs
(b)
InAsの
伝導帯
GaSb AlGaSb
スピン-軌道
相互作用
重複
25 nm Al2O3
正孔
価電子帯
伝導帯
(b)
Ti/Au フロントゲート
AuGeNi 電極
AlGaSb
E
(a)
伝導帯
Be -doping
5 nm
InAsInAs
15 nm
10 nm, 12 nm, 14 nm
⑥
ALD
5 nm GaSb
30 nm Al0.7Ga0.3Sb
2 m
①
⑤
10 m
④
②
AuGeNi
電極
MBE
③
ゲート
h/e 2
(c)
10 nm GaSb
ギャップ
GaSb の
価電子帯
価電子帯
伝導帯、価電子帯の重複
トポロジカル絶縁体
バンド構造
k
50 nm Al0.7Ga0.3Sb
6
n -GaAs 基板
k
5
1
(バックゲート)
4
2
3
図 3. (a)試 料 構 造 。(b)ホールバーパターン。(c)トポロジカル
図 2. (a) InAs/GaSb ヘテロ構 造 のバンドプロファイル。(b)トポ
絶 縁 状 態 における等 価 回 路
ロジカル絶 縁 体 バンド構 造 の実 現 。
2次 元 TI の エ ッ ジ チ ャ ネ ル に お い て は 時 間 反 転 対 称
で あ る InAs/GaSbヘ テ ロ 構 造 に つ い て も 2次 元 TIと な る
性により弾性的な後方散乱が抑制されるが、非弾性散
可 能 性 が 指 摘 さ れ た [3] 。 両 側 を AlGaSb 層 で 挟 ん だ
乱 等 に よ り [6]、 平 均 自 由 行 程 は 数 m程 度 に な る 。 そ
InAs/GaSb ヘ テ ロ 構 造 の バ ン ド プ ロ フ ァ イ ル を 図 2(a)
の た め 、深 紫 外 露 光 を 用 い AuGeNiオ ー ミ ッ ク 電 極 間 隔
に 示 す 。AlGaSb層 は 伝 導 帯 、価 電 子 帯 の 両 方 に お い て
が 2 mの 微 小 な 6端 子 ホ ー ル バ ー を 作 製 し た [図 3(b)]。
障 壁 層 と な る 。InAsお よ び GaSb層 が 十 分 厚 く 閉 じ 込 め
エッジチャネル長を正確に決定するため、オーミック
エ ネ ル ギ ー が 小 さ い 場 合 、InAsの 伝 導 帯 と GaSbの 価 電
電極はホールバー内部に直接重なっている。また、ゲ
子帯が重複する。これにスピン軌道相互作用が働くこ
ー ト 電 極 は ホ ー ル バ ー 領 域 全 体 を 覆 っ て い る 。こ れ は 、
と で ギ ャ ッ プ が 開 き 、 TIバ ン ド 構 造 と な る [図 2(b)]。
ホールバー領域にゲート電極が覆っていない領域があ
InAs/GaSb ヘ テ ロ 構 造 は 、 一 般 的 に 普 及 し て い る
III-V族 半 導 体 結 晶 成 長 装 置 で 作 製 が 可 能 で あ り 、ま た 、
産業的に発展した半導体プロセス技術を適用できる。
こ の た め 、 こ の 系 で TIが 実 現 で き れ ば 、 TIの 更 な る 物
る と 、ゲ ー ト 電 極 直 下 と そ の 外 側 で p-n接 合 が 形 成 さ れ 、
その間が絶縁される可能性があるためである。
2.2. 測 定 方 法
測 定 は 、最 低 温 度 0.25 Kの 3 Heク ラ イ オ ス タ ッ ト を 用
性の理解や半導体素子としての応用が期待できる。
我 々 は 、InAs/GaSbヘ テ ロ 構 造 に よ る TIの 実 現 と 、そ れ
い 、 ロ ッ ク イ ン 法 (電 流 1 nA、 周 波 数 13 Hz)で 行 っ た 。
に 伴 い 期 待 さ れ る QSHEの 観 測 を 目 指 し 研 究 を 行 っ て
3. 結 果 と 考 察
い る 。 本 研 究 報 告 で は 、 InAs厚 に 依 存 し た バ ン ド 構 造
3.1. 縦 抵 抗 の InAs 厚 依 存 性
および伝導特性の変化と、最適化した試料における非
図 4(a)に 各 試 料 に お け る フ ロ ン ト ゲ ー ト 電 圧 (V FG )に
局 所 抵 抗 測 定 の 結 果 を も と に 、 TIの 実 現 を 確 認 し た こ
対 す る 縦 抵 抗 (R 1 4 , 2 3 )の 測 定 結 果 を 示 す 。 R h i , j k は オ ー ミ
と に つ い て 述 べ る [4]。
ッ ク 電 極 h、iに 電 流 (I)を 流 し 、電 極 j-k間 で 電 圧 (V)を 測
2. 実 験 方 法
定 し た 時 の 抵 抗 を 意 味 す る 。温 度 T = 0.25 K、磁 場 B = 0
2.1. 試 料 構 造
試 料 構 造 を 図 3に 示 す 。半 導 体 部 分 は 、バ ッ ク ゲ ー ト
と し て 働 く n型 GaAs(001)基 板 上 に 分 子 線 エ ピ タ キ シ ー
法 で 作 製 し て い る 。メ イ ン チ ャ ネ ル で あ る InAs、GaSb
層 を Al 0.7 Ga 0.3 Sb層 で 挟 ん で あ る 。 バ ッ ク ゲ ー ト の 絶 縁
層 は 、 AlGaSb障 壁 層 に 加 え て 、 AlSb/GaSb超 格 子 層 と
GaAs/AlAs超 格 子 層 (図 2で は 省 略 )に よ り 構 成 さ れ る 。
表面ゲートの絶縁層として、原子層堆積法により作製
し た Al 2 O 3 を 用 い て い る 。今 回 、GaSb層 の 厚 さ を 10 nm
に 固 定 し 、 InAs層 厚 を 10、 12、 14 nmと 変 え た 3種 類 の
試料を用いた。フェルミレベルをバンドギャップ付近
に 制 御 す る た め 、Beを 表 面 側 の AlGaSb層 に デ ル タ ド ー
T、 バ ッ ク ゲ ー ト 電 圧 V BG = 0 Vで 測 定 し た 。 Beド ー ピ
ン グ の た め 、 V FG = 0 Vに お い て フ ェ ル ミ レ ベ ル は 価 電
子 帯 側 に あ り 、多 数 キ ャ リ ア は 正 孔 と な る 。V FG を 増 加
させると、フェルミレベルが伝導帯側に移動し、電子
が多数キャリアとなる。その間でバンドギャップを通
過するときに縦抵抗が極大となる。
TIが 実 現 さ れ QSHEが 起 こ っ た 場 合 、図 3(c)の よ う に 、
試料内部が絶縁となり、伝導はエッジチャネルを介し
て隣り合った電極間のみで起こる。このとき電極間抵
抗 が 量 子 化 コ ン ダ ク タ ン ス の 逆 数 h/e 2 と な る の で 、 期
待 さ れ る 縦 抵 抗 ピ ー ク は R 1 4 , 23 = h/2e 2 (≒ 12.91 k、h は
プ ラ ン ク 定 数 、 e は 電 荷 素 量 )と な る 。
図 4(a)に お い て 、InAs層 厚 が 10 nmの 試 料 で は 抵 抗 の
プしてある。
- 26 -
10
7
10
6
(a)
10
7
10
6
エネルギーが重複し、半金属となる。
(b)
10
10
InAs:
10 nm
5
4
h/2e 2
抵 抗 測 定 を 行 っ た 。ま ず 、TI で あ る と 予 想 さ れ る 12 nm
10
試 料 の 結 果 に つ い て 述 べ る 。図 6(a)、(b)は 、電 極 6、5
5
 = 0.18 meV
10
12 nm
1.0
1.5
VFG (V)
お よ び 1、6 を 電 流 端 子 と し て 電 極 間 2-3 お よ び 3-4 の
12 nm
4
電 圧 を 測 定 し た 非 局 所 抵 抗 測 定 の 結 果 で あ る 。 QSHE
14 nm
3
0.5
これら試料の詳細な伝導特性を調べるため、非局所
 = 0.50 meV
14 nm
10
3.2. 非 局 所 抵 抗 測 定
10 nm
R14,23 ()
R14,23 ()
T = 0.25 K
VBG= 0 V
2.0
10
に お い て こ の 電 極 配 置 で 期 待 さ れ る 非 局 所 抵 抗 は h/6e
3
2
0
1
2 -13
1/T (K )
である。測定された非局所抵抗ピークはこの値に一
4
致 し て お ら ず 、こ の 結 果 だ け か ら TI が 実 現 さ れ た と は
図 4. (a)各 試 料 における縦 抵 抗 ( R 1 4 , 2 3 )のフロントゲート電 圧 ( V F G )
依 存 性 。(b) 温 度 ( T )の逆 数 に対 する縦 抵 抗 のピーク値 。
判断し難い。
ピ ー ク 値 は 非 常 に 高 く 、 数 Mと ほ ぼ 絶 縁 と な っ て い
極 6、 5 お よ び 1、 6 を 電 流 端 子 と し た 時 の 電 極 間 2-3
図 6(c)は 、 図 6(a)、 (b)の 非 局 所 抵 抗 か ら 求 め た 、 電
る 。対 照 的 に 、14 nmの 試 料 で は 抵 抗 の ピ ー ク 値 が 2 k
と 3-4 の 電 圧 比 で あ る 。 抵 抗 が ピ ー ク を も つ V FG 付 近
と 非 常 に 低 い 。 12 nmの 試 料 で は 、 抵 抗 の ピ ー ク 値 は
では、電圧比が細かい構造も含めて一致していること
13 k 程 度 と QSHE で 期 待 さ れ る 値 に 非 常 に 近 く な っ
がわかる。これは、試料内部は絶縁化しており、伝導
ているが、完全には一致していない。
は隣り合った電極間、つまりエッジチャネルでのみ起
縦 抵 抗 の ピ ー ク 値 の 温 度 依 存 性 を 図 4(b)に 示 す 。 10
こ っ て い る こ と を 示 す 。低 V FG 側 お よ び 高 V FG 側 で は 、
nmの 試 料 は 、温 度 の 低 下 と と も に 抵 抗 が 増 大 し 絶 縁 化
そ れ ぞ れ 、試 料 内 部 に お け る 正 孔 お よ び 電 子 の 伝 導 (バ
す る 半 導 体 的 な 特 性 を 示 す 。 14 nmの 試 料 は 、 温 度 変
ル ク 伝 導 )が あ る た め に 電 圧 比 は 一 致 し な い 。ま た 、温
化に対して抵抗がほとんど変化しない半金属的な特性
度を上げると熱励起キャリアによるバルク伝導が生じ
を 示 す 。 12 nmの 試 料 は 、 温 度 の 低 下 に 伴 い 抵 抗 が 増
るため、抵抗ピーク付近においても電圧比は一致しな
大 し 、低 温 で は h/2e 2 付 近 で 飽 和 す る TI的 な 特 性 を 示 す 。
い [図 6(d)]。 0.25 K に お い て は 、 上 記 の よ う な 異 な る
温度の高い領域におけるアレニウスプロットから求め
電流端子配置における隣り合った電極ペア間の電圧比
た バ ン ド ギ ャ ッ プ の 大 き さ は 、10 nmの 試 料 で 0.50 meV、
の一致が、全ての端子の組み合わせで確認されており
12 nmの 試 料 で 0.18 meVと な っ た 。
[4]、 試 料 全 域 に お い て TI が 実 現 さ れ て い る こ と が 示
10
めエネルギーが大きいため、伝導帯と価電子帯の重複
R65,23
12 nm
0.25 K
R16,23
R**,23 (k)
は起こらず、ギャップが開いた半導体的な分散関係と
(a)
6 5
5 h/6e2
な る [図 5(a)]。12 nmの 試 料 で は 、伝 導 帯 - 価 電 子 帯 が
重 複 し ス ピ ン 軌 道 相 互 作 用 に よ り ギ ャ ッ プ が 開 い た TI
1
nmの 試 料 で は 、 12nmと 同 様 、 伝 導 帯 -価 電 子 帯 の 重 複
0
1.0
4
とスピン軌道相互作用によるギャップが存在する。し
1.2
も伝導帯-価電子帯の重複が大きくなる。その結果、
1.6
R65,34
R16,34
5
I16
[110]
一致
2
1
[100]
0
4
1.2 1.4
VFG (V)
1.6
(d)
1.8
1.4
1.6
1.8
I65
I16
2
1
12 nm
0.25 K
1.0
1.2
3
V23/V34
V23/V34
り 、 図 5(c)右 の 拡 大 図 の よ う に 、 伝 導 帯 と 価 電 子 帯 の
0
1.0
1.8
I65
3
元 々 の GaSb 価 電 子 帯 が も つ 異 方 性 の 効 果 が 顕 著 と な
(c) 半金属的
1.4
(c)
か し な が ら 、閉 じ 込 め が 小 さ い た め 、12nmの 試 料 よ り
(b) TI的
4
(b)
12 nm
0.25 K
V23 V34
的 な 分 散 関 係 に な っ て い る と 考 え ら れ る [ 図 5(b)]。 14
(a) 半導体的
2 3
10
R**,34 (k)
これらの測定結果から推察される各試料の分散関係
を 図 5に 示 す 。 10 nmの 試 料 で は 、 InAs層 が 薄 く 閉 じ 込
0
12 nm
4.3 K
E
1.2 1.4 1.6 1.8
VFG (V)
図 6. (a)電 極 6、5 および 1、6 を電 流 端 子 として電 極 間 2-3 の
InAs:10 nm
k
12 nm
k
1.0
電 圧 を測 定 した非 局 所 抵 抗 の測 定 結 果 。(b)同 様 に電 極
14 nm
間 3-4 の電 圧 を測 定 した非 局 所 抵 抗 。 (c) 電 極 6、5 お
k
よび 1、6 を電 流 端 子 とした時 の、電 極 間 2-3 と 3-4 の電
圧 比 。(d)同 配 置 の 4.3 K における電 圧 比
図 5. 各 試 料 に対 応 する分 散 関 係 。(a)半 導 体 的 、(b)トポロジ
カル絶 縁 体 的 、(c)半 金 属 的 。
- 27 -
0.5
6 5
1
2 3
1.5
4
R16,34
14 nm
0.25 K
1.0
0.5
V23 V34
0.0
0.6 0.8
(c)
5 14 nm
0.25 K
1.0
1.2
500
I65
3
2
1
0.6 0.8 1.0 1.2 1.4
VFG (V)
0.6
(d)
300
200
0.8
1.0
1.2
1.4
価電子帯 絶縁 伝導帯
領域
400
I16
4
0
0.0
1.4
R16,23 (k)
V23/V34
6
6 5
1
2 3
4
V23
100 10 nm
0.25 K
0
1.0
1.2
r56
r56
0
1
2
Individual電極間抵抗
resistance (h/e
(h/e 2))
R16,23
1 (a)
R65,34
(b)
20
r45
r45
0
2
1
0
2
1
0
2
1
0
2
1
0
r34
r34
r23
r23
Reconstructed
Directly measured
(b)
V65
15
R14,65 (k)
2.0
R65,23
(a)
14 nm
0.25 K
R**,34 (k)
R**,23 (k)
1.0
6 5
1
10
2 3
4
12 nm
0.25 K
5
r12
r12
0
1.0
r61
r61
1.3
VFG (V)
1.2
1.4 1.6
VFG (V)
1.8
1.4
図 8. (a) 非 局 所 抵 抗 の 測 定 結 果 から 求 めた 各 電 極 間 の 抵
1.4
1.6
VFG (V)
1.8
抗 。 添 え 字 は 電 極 番 号 を示 す。 (b) 各 電 極 間 の 抵 抗 か
ら求 めた縦 抵 抗 と直 接 測 定 した結 果 の比 較 。
図 7. (a)14 nm 試 料 における電 極 6、5 および 1、6 を電 流 端 子 と
して電 極 間 2-3 の電 圧 を測 定 した非 局 所 抵 抗 の測 定 結
果 。(b)同 様 に、電 極 間 3-4 の電 圧 を測 定 した非 局 所 抵
定 し た 値 と よ く 一 致 す る [図 8(b)]。 こ の こ と か ら 、 本
抗 。 (c) 電 極 6、5 および 1、6 を電 流 端 子 とした時 の、電
手法により電極間抵抗が正確に求まっていることがわ
極 間 2-3 と 3-4 の電 圧 比 。(d)10 nm 試 料 における典 型 的
かる。
な非 局 所 抵 抗 。
された。
他の試料における非局所抵抗の測定結果について
も 述 べ る 。 図 7(a)、 (b)は 、 14 nm の 試 料 の 非 局 所 抵 抗
の 測 定 結 果 で あ り 」、 (c)は そ の 結 果 か ら 求 め た 異 な る
電流端子配置における隣り合った電極ペア間の電圧比
で あ る 。 縦 抵 抗 が ピ ー ク を 持 つ V FG 領 域 に お い て も
縦 抵 抗 ピ ー ク の V FG 付 近 に お い て も 電 圧 比 は 電 流 端
子の配置に大きく依存し一致しないことから、バルク
伝導が支配的であることがわかる。
図 7(d)は 、 10 nm の 試 料 に お い て 電 極 1,6 を 電 流 端
子 と し て 電 極 2-3 間 の 電 圧 を 測 定 し た 非 局 所 抵 抗 の 測
定 結 果 で あ る 。 縦 抵 抗 が ピ ー ク を も つ V FG 領 域 で は 、
非 局 所 抵 抗 (電 極 2-3 間 の 電 圧 )が 著 し く 小 さ く な っ て
QSHE に お い て は 、 各 電 極 間 の 抵 抗 が 量 子 化 伝 導 度
の 逆 数 (h/e 2 )に な る こ と が 期 待 さ れ る 。 し か し な が ら 、
導 出 さ れ た 電 極 間 抵 抗 は 、 h/e 2 に 比 べ て 2 倍 か ら 半 分
程度のずれがある。これは、空間的なポテンシャル揺
らぎによって生じた電子または正孔溜まりの影響と考
えられる。ポテンシャル揺らぎにより伝導帯下端また
は価電子帯上端がフェルミレベルを横切ると、そこに
電 子 ま た は 正 孔 溜 ま り が 形 成 さ れ る [図 9]。エ ッ ジ チ ャ
ネ ル 近 傍 に 電 子 /正 孔 溜 ま り が 存 在 す る と 、ト ン ネ リ ン
グによりエッジチャネルと結合し、非弾性散乱が起こ
る た め 、 抵 抗 が 増 大 す る [6]。 ま た 、 電 子 /正 孔 溜 ま り
の密度が高い場合、トンネリングによりエッジチャネ
ル以外のチャネルを形成し、抵抗を減少させる。これ
ら の 効 果 が 合 わ さ り h/e 2 か ら の ず れ が 生 じ る 。
い る 。 こ れ は 、 こ の V FG 領 域 で は 試 料 全 体 が 絶 縁 と な
っ て お り 、 電 極 1-6 間 の ポ テ ン シ ャ ル 変 調 が 電 極 2-3
電
極
ま で 伝 搬 し て い な い こ と を 示 す 。 電 極 1-6 間 で の み 、
電圧励起で生成されたキャリアにより電流が流れる。
低 V FG 側 お よ び 高 V FG 側 で は 、 フ ェ ル ミ レ ベ ル が 伝 導
電
極
エッジ
チャネル
溜まり
帯、価電子帯に位置するため試料が導体となり、電極
2-3 間 に 電 圧 が 観 測 さ れ る 。
図 9. 電 子 /正 孔 溜 まりとエッジチャネル。
3.3. 電 極 間 抵 抗 の導 出
12 nm 試 料 に つ い て は 、 上 記 の よ う に 隣 り 合 っ た 電
3.4. 負 の 非 局 所 抵 抗
極ペア間の電圧比が一致することから、逐次的に電極
14 nmの 試 料 の い く つ か で は 、 非 局 所 抵 抗 に 負 の 値
配置を変えて非局所抵抗を測定することで、エッジチ
が 観 測 さ れ た 。例 を 図 10に 示 す 。こ の 試 料 で は 、図 5(c)
ャネルを通した各電極間の抵抗を導出することができ
に示したように、ギャップが開いた上で、伝導帯、価
る 。 図 8(a)に 導 出 し た 各 電 極 間 抵 抗 を 示 す 。 逆 に 、 こ
電 子 帯 が エ ネ ル ギ ー 的 に 重 な っ て お り 、 従 っ て TIの 特
の 各 電 極 間 抵 抗 か ら 縦 抵 抗 R 14,65 を 求 め る と 、 直 接 測
徴であるエッジチャネルは存在すると考えられる。そ
- 28 -
14 nm
0.25 K
0.1
0.0
V61
-0.1
6 5
-0.2
-0.3
1
2 3
4
3
1
4
2 3
I16
VBG = 7 V
V34
2
14 nm
0.25 K
1
1
0
0.8 1.0
VFG (V)
1.2
14 nm
0.25 K
2
-1
0.6
I16
VBG = 9 V
3
0
0.4
I21
(b)
4
-1
-2
0.6 0.8 1.0 1.2 1.4
VFG (V)
6 5
5
I21
V45
4
V34/V45
R54,61 (k)
0.2
(a)
V34/V45
5
0.3
-2
0.4
0.6
0.8 1.0
VFG (V)
1.2
図 12. 電 極 1、6 および 2、3 を電 流 端 子 とした時 の、電 極 間
3-4 と 4-5 の電 圧 比 。(a) V B G = 7 V。(b) V B G = 9 V。
図 10. 14 nm 試 料 において観 測 された負 の非 局 所 抵 抗 。
のため、ギャップのエネルギー付近ではバルク伝導と
エッジチャネル伝導が共存する。その結果、バルク領
域と電極の接触抵抗が大きい場合、各電極間でバルク
伝導による化学ポテンシャルの差とエッジチャネル伝
導による化学ポテンシャルの差が異なり、負の非局所
抵 抗 が 観 測 さ れ る 可 能 性 が あ る 。抵 抗 ピ ー ク 付 近 (ギ ャ
ッ プ の エ ネ ル ギ ー 領 域 )で は 、バ ル ク 伝 導 の 寄 与 が 弱 ま
り、相対的にエッジ伝導の寄与が強まり、上に凸とな
る。このような非局所抵抗が負になる現象は、やはり
エッジチャネル伝導とバルク伝導が共存している量子
ホ ー ル 系 の 遷 移 領 域 に お い て も 観 測 さ れ て い る [7]。
3.5. バ ッ ク ゲ ー ト の 効 果
今 回 用 い た 試 料 は 、 n型 GaAs基 板 を バ ッ ク ゲ ー ト と
し て お り 、 正 の ゲ ー ト 電 圧 を か け る こ と で InAsの 伝 導
帯 と GaSb の 価 電 子 帯 の 重 複 を 減 少 さ せ る こ と が で き
る [3,8]。 こ れ に よ り 、 半 金 属 的 伝 導 特 性 を 示 し て い た
14 nm試 料 に お い て も 、異 方 性 の 影 響 が 弱 ま り 、TIの 実
現 、つ ま り バ ル ク 伝 導 の 消 失 が 期 待 で き る 。図 11(a)は
14 nm試 料 の 異 な る バ ッ ク ゲ ー ト 電 圧 に お け る 、 フ ロ
ントゲート電圧に対する縦抵抗の変化である。バック
ゲート電圧を高くするにつれて縦抵抗ピークの値が増
大しており、伝導帯と価電子帯の重複が減少している
の が わ か る 。 特 に V F G = 9 Vで は 、 QSHEで 期 待 さ れ る
2
h/2e を 超 え て 絶 縁 に 近 づ い て い る 。
V BG = 7 V、9 Vに お け る 非 局 所 抵 抗 測 定 か ら 求 め た 、
25
VBG:
20
R14,65 (k)
9
8
7
6
0
15
10
V
V
V
V
V
0.4
0.6
電 圧 比 を そ れ ぞ れ 図 12(a)、 (b)に 示 す 。12 nm試 料 で 観
測されたような、抵抗ピーク付近における電圧比の完
全 な 一 致 は 見 ら れ な い が 、V BG を 7 Vか ら 9 Vに 増 大 す る
ことによって、抵抗ピーク付近の電圧比が一致する方
向に変化していることがわかる。これは、バルク伝導
が残っているものの、その寄与が弱まり、エッジ伝導
が支配的になっていることを示している。縦抵抗では
十分に高い値を示しているのに対して、バルク伝導が
残っている理由としては、バックゲートによる電界が
空間的に不均一なため思われるが、詳細の解明は今後
の課題である。
4. ま と め
直接ギャップ半導体どうしのヘテロ接合である
InAs/GaSb ヘ テ ロ 構 造 を 用 い て 、 ト ポ ロ ジ カ ル 絶 縁 体
の 実 現 を 目 指 し た 。InAs 厚 が 12 nm 試 料 で は 、非 局 所
抵抗の測定結果から、バルク伝導が消失し、伝導がエ
ッジチャネルに支配されていることが確認され、トポ
ロ ジ カ ル 絶 縁 体 の 実 現 が 示 さ れ た 。 14 nm 試 料 に お い
ては、バックゲート電圧により半金属からトポロジカ
ル絶縁体に近づくことが示された。本報告で用いた非
局所抵抗比によるエッジチャネル伝導の検証は、伝導
の量子化が不完全な場合においてもトポロジカル絶縁
体の実証と各端子間抵抗の同定が可能な優れた手法で
ある。
14 nm
0.25 K
h/2e 2
5
0
異なる電流端子配置における隣り合った電極ペア間の
0.8 1.0
VFG (V)
1.2
図 11. 14nm 試 料 において測 定 した、バックゲート電
圧 ( V B G )を変 えた時 の、フロントーゲート電 圧
( V F G )に対 する縦 抵 抗 。
文
献
[1] 総 説 と し て :X. –L. Qi and S.-C. Zhang, “Topological
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[4] K. Suzuki, Y. Harada, K. Onomitsu, and K. Muraki,
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[8]
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- 30 -
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