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REF-P1(粘度調整食品)による 経腸栄養剤の安全な小腸半固形化導入

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REF-P1(粘度調整食品)による 経腸栄養剤の安全な小腸半固形化導入
経腸栄養の最新トピックス
NO.15
REF-P1
(粘度調整食品)
による
経腸栄養剤の安全な小腸半固形化導入法
について
著者◉東京女子医科大学 八千代医療センター
外科診療部 消化器外科 講師・診療科長
大石英人先生
おおいし・ひでと
昭和 62年 獨協医科大学 医学部医学科卒業
昭和 62年 東京女子医科大学 第 2 外科入局
平成 18年 東京女子医科大学 八千代医療センター 現在に至る
はじめに
経腸栄養剤の投与時に発症する様々な副作用
(下痢・逆
は細くて長いチューブを用いるため、
既存の半固形栄養材
流等)
を予防する目的で開発された
「REF-P1
(粘度調整食
では注入できないという実状があり、
チューブ先端を小腸
品)
(
」以下 REF-P1)
は稲田晴生ら 1)により1997年に世界
内へ留置することによる食道逆流の予防は得られても、
従
初の経腸栄養剤の粘度調整食品として開発された。
発売時、
来の栄養剤をガイドライン通りの100mL/hrで滴下投与
本製品の効果は胃内に先に投与した REF-P1の主成分で
し管理せざるを得なかった。
つまり800kcal/ 日の栄養投
ある水溶性食物繊維であるLMペクチンとその後投与した
与を実施するためには、
8 時間栄養剤につながれた状態で
経 腸 栄 養 剤 中 の 遊 離 Ca が 反 応 し 胃 内 で 半 固 形 化
管理しなければならない現状があった。
(semi-solidation)
することにより得られた。
従って、
その
そのような中、
2008 年になると一部の施設より、
経腸栄
利 用 方 法 は もっぱら胃 内 で の 利 用 に 限 定 さ れて おり、
養 剤 を 胃 切 除 後 症 例 の 小 腸(空 腸)にPTEG を 造 設 し
REF-P1の滞留する部位が無い小腸等での利用
(腸瘻等)
REF-P1を利用して栄養剤を投与することにより、
下痢症状
は当初禁忌とされていた。
や栄養状態の改善に効果があった旨の報告がなされた 4)。
筆者らは、
1994年10月に経皮経食道胃管挿入術
(PTEG/
筆者らは PTEG 等の細くて長い留置チューブを用いた
ピーテグ)
を癌性腹膜炎患者の腸閉塞に対する腸管減圧法
小腸への経腸栄養剤投与において、REF-P1を用いた半
として緩和医療の分野で考案開発したが、
1997年 3月よ
固形化投与法を考案開発し、その安全性および有用性に
り経管経腸栄養法への PTEG の応用を開始した
。
当初
関する検証を重ねてきた 5)6)。
その結果、
これまでに同法を
は経皮内視鏡的胃瘻造設術
(PEG/ペグ)
が実施できない
施行した16 症例のいずれにおいても安全に施行可能であ
症例に対する代替手段として選択され、
他の経管経腸栄養
り、
下痢等の消化器症状の予防ならびに投与時間の短縮
法と同様に留置チューブ先端を胃内に留置して、
栄養剤を
を認めた。
さらには患者や介護者の束縛時間軽減、
リハビ
胃内に投与し管理していたが、
他の方法と同様に、
食道逆
リ時 間 の 確 保 にもつ
流による誤嚥性肺炎の併発が問題視されたため、
1998 年
ながった。
1月からLong tube を用いて小腸内への栄養剤の投与を
以 上 の こ と か ら、
試みるようになった。
しかし、
小腸内に栄養剤を投与するこ
REF-P1を用いた小腸
とにより、
ダンピング症候群やコントロール不能な下痢な
にお ける経 腸 栄 養 剤
どの消化器症状の発生が懸念され、
それに対する対策が
の 半 固 形化 投与法 は
期待されるようになった。
安 全 かつ簡 便に実 臨
その後、
様々な半固形栄養材の考案開発により、
PEG か
床へ導入可能であるこ
らの投与によって、
食道逆流の予防だけではなく、
短時間
とが 示 唆 され たので
投与や簡便性などの数々の有効性が報告される中、
PTEG
報告する。
2)
3)
1
(参考:月刊糖尿病 2009/7 Vol.1 No.2 ほか)
1.REF-P1を用いた小腸内栄養剤半固形化の予備試験
❶経腸栄養剤
(K-LEC 400kcal/400mL)
と粘度調整食品
❶
❷
(REF-P1 90g)
を用いて予備試験を計画。
❷麻酔の蛇管
(直径約 2.2cm×約110cm 長)
を用いた小腸
モデルを作成し、
内部にあらかじめ REF-P1 90gを貯留
させ、
K-LEC 400mLを、
PTEG Button Si Long type
15Fr.×90cmを介して、
約150cm の高さより全開で自
然落下させ、
小腸モデル内へ注入。
K-LEC
❸REF-P1が押し出され先進する層と、
REF-P1とK-LEC
が反応し半固形化している層と、
半固形化の層を押しな
REF-P1
REF-P1
❸
❹
がら進む K-LEC の層の三層構造の形で、
蛇管内を先進。
❹実際の消化管内では酸やアルカリおよび蠕動などの影響
が存在するが、
そのような影響が全くない状況下において
K-LEC
も、
約110cm の蛇管を栄養剤は通過して十分に REF-P1
REF-P1
と反応し、
ゆるいプリンもしくはムース状の半固形化の形
態となり排出された。
以上の事より、
REF-P1を一定時間臓器内に貯留させなくても、
三層構造の状態で移動することにより十分な半固形化が得られ、
実際に経口
摂取された食塊の小腸内での状態に、
より近い状態が再現できると考えられた。
また REF-P1はイオン化した遊離カルシウムとペクチンとの
結合による半固形化であるため、
酸やアルカリの影響を受けること無く反応し、
実際の小腸では蠕動運動を伴い 3~7m の長さがあるので、
栄
養材とREF-P1の反応がさらに促進されることが期待された 7)。
2.REF-P1を用いた小腸内栄養剤半固形化の腸管蠕動への影響の比較
【目的】通常、
経腸栄養剤を小腸内へ急速投与した場合、
ダンピング症候群やコントロール不能な下痢などの消化器症状が出現しやすいと言
われている。
我々は REF-P1を用いることによりこれらの消化器症状が予防もしくは軽減可能であることを期待し、
REF-P1による経
(以下、
ガストログラフィン)
腸栄養剤の小腸半固形化によって、
腸管蠕動への影響を検証する目的で、
ガストログラフィン ® 経口・注腸用
を用いた小腸造影および腸追求検査を実施した。
【症例】79 才男性、
早期胃癌に対する幽門側胃切除術後に脳梗塞を発症し、
嚥下障害に対し、
PTEG を造設し、
留置チューブ先端を小腸内に誘
導留置して経管経腸栄養法を実施している症例
【方法】事前に経腸栄養剤
(K-LEC 300kcal/300mL)
とガストログラフィン
(100mL)
を混和したものを、
上記同一症例において 30 分以内
に自然滴下投与し、
粘度調整食品
(REF-P1 90g)
を併用した場合と併用しなかった場合の腸管蠕動への影響を比較検討した。
【結果】
①REF-P1を併用せずに、
K-LEC とガストログラフィンを混和し投与した場合では、
240 分後
(4 時間後)
には経腸栄養剤は直腸内に
到達し、
多量の水様便が排泄された。
②REF-P1を併用して投与した場合では、
240 分後
(4 時間後)
でも経腸栄養剤が直腸まで到達せず、
下痢の発生は認めなかった。
上記の結果から、
REF-P1は小腸内で有意に経腸栄養剤をゲル化し経腸栄養剤の小腸移動速度を低下させることが示唆された 7)。
10 分後
REF-P1無し
REF-P1有り
30 分後
REF-P1無し
REF-P1有り
60 分後
REF-P1無し
REF-P1有り
2
120 分後
REF-P1無し
REF-P1有り
240 分後
REF-P1無し
REF-P1有り
3.REF-P1を用いた小腸内栄養剤半固形化の投与速度の違いによる影響の比較
REF-P1を用いた経腸栄養剤の小腸内半固
【目的】
形化では、
経腸栄養剤の急速投与が必要とな
るが、
投与速度の違いによって血糖をはじめ
とした消化管ホルモンへの影響を確認する。
【症 例】慢 性 閉 塞 性 肺 疾 患(COPD)で 在 宅 酸 素
(HOT)実 施中の74 才男性、早 期胃癌に対
する噴門側胃切除術後に経口摂取不良状態
が続きサルコペニア状態となり、
嚥下筋群の
筋量および筋力の低下から嚥下障害を併発
し、
PTEG を造設し、
留置チューブ先端を小
腸内に誘導留置して経管経腸栄養法を実施
している症例
【方法】
経腸栄養剤
(エンシュア・H 375kcal/250
mL)と粘 度 調 整 食 品(REF-P1 90g)を 用
い、右 記①②③の 各 条 件 で PTEG の 留 置
チューブより小腸内へ滴下投与し、
経時的に
採血し血糖や消化管ホルモンを測定し、
そ
の影響を比較検討した。
【結果】
①従来法では、
高血糖状態が持続し、
GIP も
高値を持続した。
また GLP-1の上昇は軽微
であった。
②③の REF-P1を用いた 急 速 投
与では、
一旦 血糖 値、
GLP-1、
GIP の急 激な
上昇を認めるも、
徐々に低下し正常値に戻っ
た。さ ら に②よ り も 急 速 な③で は 俊 敏 に
GLP-1の上昇を得、
結果的に②よりも血糖
値は上昇しないことが解った。
投与速度
投与時間
投与方法
①100mL/hr
150 分
エンシュア・H 250mLのみ
(従来法)
②250mL/hr
60 分
エンシュア・H 250mL + REF-P1 90g
③500mL/hr
30 分
エンシュア・H 250mL + REF-P1 90g
上記の結果から、REF-P1を用いた小腸内栄養剤半固形化では、経腸栄養剤を急速に投与した方がダンピング症状を抑制する可能性が示唆
された。これは経腸栄養剤を半固形化することで、腸管内での移動速度が緩慢になることに起因すると思われた。
4.REF-P1を用いた小腸内栄養剤半固形化を導入する際の注意事項
小腸には胃のような貯留嚢としての機能は無く、
頻繁に蠕動し食塊を先進させながら栄養を吸収する能力を持つが、
小腸の内腔の口径や長さ
および蠕動による食塊を先進させる能力は様々であり個体差が大きい。
そのため食塊を先進させる能力以上に栄養剤を投与すれば、
小腸内は
緊満状態となり逆流を生じる場合もある。
REF-P1を用いた小腸内栄養剤半固形化を、
安全かつ有効に導入するためには、
下記の様な事項に
注意すべきである。
❶小腸が十分に蠕動し、
食塊を停滞させること無く先進させる能力が
あるか?通過障害は無いか?を確認。
❸1回量が少なくても REF-P1は1回に 90g/ 袋を投与し、
効果が不十分な場合は栄養剤に牛乳
(30mL)
を添加する。
▶ガストログラフィン等の造影剤100mLを経管投与し腸追求検査
(6 時間後の腹部 X 線撮影)
で確認する。
▶REF-P1や遊離 Ca の減量により半固形化の十分な層を確保でき
ず、
効果が不十分になる可能性がある。
❷1回に投与できる栄養剤の量には個人差があるので、
一度に投与可能な許容量を個別に考慮する。
❹補水は栄養剤投与 30 分前、
投薬は栄養剤投与後に簡易懸濁法で
投与する。
▶REF-P1を用いた小腸内半固形化での投与速度は 30 分以内に急
速滴下投与すべきであるが、
本法の導入時は1回投与量を100~
200mL 程度から投与を開始し、
徐々に増量すべきである。
また目
標カロリーに足りない場合は、
投与回数を増やしたり高濃度栄養剤
(1.5kcal/mL)
を使用することにより調整する。
▶経腸栄養剤が希釈されたり、
蠕動の亢進により、
十分な効果が得ら
れなくなる可能性がある。
3
5.具体的なREF-P1による小腸
(空腸)
半固形化の導入作業フロー
❶患者が REF-P1による経腸栄養剤の小腸半固形化が可能か否かの検査を実施。
★ガストログラフィン1瓶
(100mL)
を投与し、
6 時間後に到達位置を確認
❷規定時間内にガストログラフィンが直腸内に到達し、
小腸内にガストログラフィンの残留や停滞を認めず、
消化管
の明らかな狭窄や拡張等の通過障害や、麻痺性腸閉塞などの腸管蠕動に問題が無ければ、
利用可と判定。
★造影剤の小腸内投与後に、
患者の容態に変化が無いかを観察
❸患者への経腸栄養剤の小腸半固形化
(ならし)
を開始する。
★経腸栄養剤の投与量は最初100kcal 程度から開始し、
徐々に増量
(投与時間はいずれも30分以内)
★経腸栄養剤の投与量に関係なくREF-P1の1回の使用量は1袋
(90g)
★経腸栄養剤の小腸内投与後に、
患者の容態に変化が無いかを観察
ガストログラフィン
投与 6 時間後
❹患者への経腸栄養剤が下痢等の問題なく目標熱量に到達したら、
ならし完了とする。
6.結 論
❶ REF-P1を利用して小腸で経腸栄養剤を安全に半固形化するためには、
事前に患者の腸管の状態を確認する必要がある。
(ガストログラフィン等による確認試験の実施を推奨)
❷ REF-P1を利用して経腸栄養剤を小腸で半固形化する際には導入期においては、
若干のならし期間を必要とする。
(投与開始時の経腸栄養剤の減量と段階的な増量計画が必要)
❸1回に投与する経腸栄養剤の量が少量
(300kcal 以下)
の場合でも、
REF-P1の1回の使用量は原則1袋
(90g)
とする。
(REF-P1の量が減ると小腸内で充分な半固形化が行われない可能性がある)
❹1回に投与する経腸栄養剤のボリュームが 500mLを越える場合は、
経腸栄養剤の容量を減量する目的で高濃度
(1.5kcal/mL 等)
の経腸栄養剤の利用を検討する。
(小腸の容量と蠕動運動は、
個人差が大きい)
参考文献
1)
稲田晴生ほか, 胃食道逆流による誤嚥性肺炎に対する粘度調整食品 REF-P1の予防効果:JJPEN.20
(10)
, 1998
2)
大石英人 , 進藤廣成 , 城谷典保ほか, 経皮経食道胃管挿入術(PTEG:ピーテグ)
その開発と実際:IVR 会誌 , 16:149-155, 2001
3)
Hideto Oishi, Hironari Shindo, Noriyasu Shirotani, Shingo Kameoka, A non-surgical technique to create an esophagostomy for difficult cases of percutaneous endoscopic
gastrostomy Surgical Endoscopy. 17
(8)
:1224-1227, 2003
4)
上井麻栄ほか, 経皮経食道胃管挿入術施行患者の栄養管理に REF-P1を用いた1症例:第 14 回千葉県 NST ネットワーク発表内容、
2008 年12 月 20 日アパホテル&リゾート
(幕張)
5)
大石英人 , 経皮経食道胃管挿入術(PTEG)からの栄養剤半固形化の試み~ K-LEC と REF-P1
(粘度調整食品)
の使用経験~:経腸栄養の最新トピックス NO.12: 1-4, 2012
6)
大石英人 , 栄養材小腸投与における半固形化の効果~ REF-P1
(粘度調整食品)
の使用経験~:経腸栄養の最新トピックス NO.13: 1-4, 2013
7)
大石英人 , 特集 在宅静脈経腸栄養 UPDATE 3, 誤嚥性肺炎の予防対策 粘度調整食品を用いた小腸内栄養材半固形化の試み:臨床栄養 別冊 JCN セレクト:76-81, 2013
編集後記
今回の報告にこれまで報告されてきた内容を加えると、
経皮経食道胃管挿入術
(PTEG/ ピーテグ)
や腸瘻等の患者に対して、
REF-P1利用により、
小腸で安全に経腸栄養剤をゲル化することで、
下痢や逆流等の発症を予防するだけではなく、
経腸栄養剤の
短時間投与による介護作業の軽減や褥瘡の発症予防、
又経腸栄養剤の小腸ボーラス投与が可能になった。
その結果、
小腸での GLP-1産生を促し、
患者の血糖値も安定させることが可能になる等の効果が期待できる。
★経腸栄養の最新トピックス 15号
■発行日
2014年5月1日
■編集・発行 株式会社ジェフコーポレーション 〒105-0012 東京都港区芝大門1-3-11 YSKビル 7F TEL:03-3578-0303
■著者
東京女子医科大学 八千代医療センター 外科診療部 消化器外科 講師・診療科長 大石英人先生
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