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抄録 - 第 134回北海道整形外科外傷研究会
第 130 回 北海道整形外科外傷研究会 抄 録 平成 26 年 8 月 30 日(土) 14:15~ 於:札幌医科大学 記念ホール 会長: 札幌医科大学 入船 秀仁 共催: 北海道整形外科外傷研究会 帝人ファーマ株式会社 帝人在宅医療株式会社 先生 第 130 回 北海道整形外科外傷研究会 【一般演題】14:30~15:20 座長:札幌医科大学 入船 秀仁 先生 (1)橈骨遠位端関節内骨折に対する Frag-Loc の使用経験 愛育病院 畑中 渉 先生 (2)前腕開放骨折に対して、橈側前腕脂肪筋膜弁移植を行った一例 市立室蘭総合病院 井畑 朝紀 先生 (3)術後に延髄レベルまで麻痺が上行した中下位頚椎脱臼骨折の一例 北海道中央労災病院 せき損センター 小松 幹 先生 (4)頚髄損傷後に生じる徐脈の検討 北海道中央労災病院 せき損センター 安井 啓悟 先生 (5)60 年前の刺創部より肋骨々髄炎を発症した一例 北海道中央労災病院 せき損センター 藤田 勝久 【主題:股関節周辺外傷】15:30~16:20 座長:札幌医科大学 入船 秀仁 先生 先生 (1)大腿骨頚部spontaneous fractureの一例 ~頚部の何処から骨折が始まるのか?~ 協立病院 津村 敬 先生 (2)ゾメタ治療後偽関節を繰り返した大腿骨近位部骨折 市立札幌病院 平山 光久 先生 (3)徒手整復により合併症をきたした大腿骨頭骨折の一例 旭川高砂台病院 恩田 和範 先生 (4)外傷性股関節脱臼骨折術後早期に大腿骨頭壊死を発症した一例 浦河赤十字病院 廣田 亮介 先生 (5)当院における大腿骨頚部骨折に対する人工骨頭置換術 ~前側方アプローチと後側方アプローチの共存~ 手稲渓仁会病院 高橋 敬介 先生 【教育研修講演】17:00~18:00 座長:札幌医科大学 入船 秀仁 先生 『 大腿骨頚部骨折に対する前方進入法の有用性 』 講師:船橋整形外科病院 人工関節センター長 老沼 和弘 先生 一般演題(1) 橈骨遠位端関節内骨折に対する Frag-Loc の使用経験 愛育病院 畑中 渉 【はじめに】 橈骨遠位端関節内骨折において、背尺側骨片は掌側ロッキングプレートでは有効に固定す ることが難しく、背側プレートでは伸筋腱に対する影響が問題となる。今回、背側からの スクリューが掌側ロッキングプレートに lock される機構を持つ Frag-Loc が、Acu-Loc 2 のオプションとして使用できる様になったのでその使用経験を報告する。 【対象】 橈骨遠位端関節内骨折に対して、Acu-Loc 2 と Frag-Loc で骨接合を行った 5 例(男性 2 例、女性 3 例) 、平均年齢 67.6 歳、骨折型は AO 23-C1: 1 例、C2:2 例、C3: 2 例を対象 とした。 【結果】 全例で骨癒合が得られ、目的とする骨片の転位を認めなかった。最終調査時の成績は、 Cooney の機能評価では 90~100 で、全例が Excellent。Mayo Wrist Score では 70~90 で、Excellent が 1 例、Good が 3 例、Satisfactory が 1 例であった。 【考察】 橈骨遠位端骨折に対しては掌側ロッキングプレートが標準的な治療法になっている。しか し複雑な関節内骨折に対して単一のデバイスで十分な固定を得るには限界がある。尺背側 骨片は遠位橈尺関節にも及ぶ骨折であり、その骨片の整復不良は術後成績に影響を及ぼす との報告がある。Frag-Loc は背側からスクリューがスリーブを介して掌側プレートと固 定される機構により、angular stability が得られ、さらにスリーブとスクリューを締める ことで骨片間に圧迫力もかけることができる。侵襲も少なく尺背側骨片に対するひとつの 有用な選択肢となりうる。 一般演題(2) 前腕開放骨折に対して、橈側前腕脂肪筋膜弁移植を行った一例 市立室蘭総合病院 井畑 朝紀 塚本 有彦 早川 光 阿部 恭久 石川 一郎 札幌医科大学 入船 秀仁 【はじめに】 今回我々は,伸筋腱の欠損を伴う前腕開放骨折に対して腱移行術と、橈側前腕脂肪筋 膜弁移植による軟部組織被覆を行い比較的良好な結果を得られた症例を経験したので 報告する。 【症例】 症例は57歳男性。左前腕をベルトコンベアに巻き込まれ受傷し、当院救急搬送され た。前腕遠位背側に縦5cm横8cmの開放創を認め、創部から引きぬかれた伸筋腱 (総指伸筋腱,小指伸筋腱,尺側手根伸筋)を認めた。同日洗浄デブリドマン、経皮的 鋼線固定を行い、軟部組織欠損部は持続吸引療法を行った。 受傷2日後と第4日後にsecond lookの洗浄を行った.受傷後7日目に再建手術を行った。 橈骨のプレート固定、腱移行による伸筋腱再建(FCR→EDC)に加え、軟部の被覆は、 術前の造影 CT で動脈弓が未発達であったため橈骨動脈を犠牲にしない橈側前腕脂肪 筋膜弁移植を選択して被覆を行った。術後、問題なく創は治癒し、受傷3ヶ月で元職 復帰し、受傷より12ヶ月経過した現在、手指、手関節に多少の可動域制限を認める も、制限なく手を使用している。 【考察】 腱露出を伴う開放創の場合、機能障害を最小限にするために皮弁による被覆が推奨さ れる。本症例は皮膚欠損部に移行した腱が通過するため,血流の豊富な組織で被覆す ることが必要であった。橈側前腕脂肪筋膜弁は、植皮を要するものの、比較的簡便で あり、橈骨動脈を犠牲にせず、また、屈筋腱の障害を最小限に抑えられるため、有用 な方法の1つと考えられる。 一般演題(3) 術後に延髄レベルまで麻痺が上行した中下位頚椎脱臼骨折の一例 北海道中央労災病院 せき損センター 小松 幹 須田 浩太 牛久 智加良 松本 聡子 松下 昌史 東條 泰明 安井 啓悟 藤田 勝久 25 歳男性。5-6mの高所より転落し受傷。C5 Frankel A の四肢麻痺があり、初診の救急病 院にて C5/6/7 の脱臼骨折を指摘され当院へ搬送された。当院初診時も上腕二頭筋の MMT は右 4 左 5、C6 以下は 0 の完全麻痺であった。同日 C5-7 後方固定術を施行。術直後の麻 痺は術前と不変であった。翌朝から両側上腕二頭筋の筋力低下を認め。昼頃には MMT 1 程度まで麻痺が進行した。MRI では広範な脊髄の浮腫があり、相対的な狭窄の影響が考え られたため、C5、6 椎弓形成術を追加した。しかし麻痺の回復は見られず、むしろ徐々に 2 型呼吸不全を呈し、さらに翌日、挿管・人工呼吸器管理となった。現在リハビリ中であ るが、画像上も延髄レベルまで脊髄は萎縮しており、人工呼吸器からの離脱は不能で麻痺 の改善はみられていない。 何が麻痺の上行の原因であったのか、果たして避けられる脊髄二次損傷であったのか、文 献的考察を加え報告する。 一般演題(4) 頚髄損傷後に生じる徐脈の検討 北海道中央労災病院 せき損センター 安井 啓悟 小松 幹 須田 浩太 松下 昌史 松本 聡子 藤田 勝久 東條 泰明 牛久 智加良 三浪 明男 【はじめに】 頚髄損傷では体性神経系のみならず自律神経系の損傷も生じる。特に徐脈は頚部での交感 神経遠心路が障害されることにより副交感神経優位となり生じる。しかし頚髄損傷後の徐 脈の頻度や経過の報告は少ないため、当センターでの発生状況を調査した。 【対象と方法】 2007年から2013年までに当センターで治療を行った受傷後3日以内の頚髄損傷患 者を無作為に109例(男95、女14、平均年齢63.1歳)抽出し、徐脈の有無を調 査した。徐脈は心拍数または脈拍数が60bpm未満と定義した。受傷後72時間以内の 急性期および受傷後4週での徐脈の発生頻度を、麻痺重症度、年齢、骨傷の有無、低Na 血症の有無に分けて調査した。麻痺重症度はFrankel分類に従い、グレードAおよ びB(C群) 、CおよびD(I群)に分類した。 【結果】 骨傷を伴う頚髄損傷は50.5%。麻痺重症度はC群46.8%、I群53.8%であっ た。急性期に徐脈があった例は52.3%であり、麻痺重症度別ではC群62.7%、I 群43.1%であった。年齢による徐脈発生頻度に差はなく、受傷前の交感神経遮断薬内 服の影響もなかった。ペースメーカーが植え込まれた1例と早期退院例を除き、27. 9%は受傷後4週でも徐脈が持続していた。麻痺重症度別ではC群38.0%、I群1 5.5%であり、骨傷を有する例で遷延化する傾向にあった。低Na血症を合併している 例では、急性期の徐脈発生頻度が有意に高かった。急性期に徐脈がなくても受傷後1週以 降に発生する例も33.0%あり、低Na血症を合併する例で多く発生していた。 【考察】 頚髄損傷後の徐脈は、重症例は致死的だが、大部分は特別な治療の必要はない。しかし徐 脈による倦怠感や易疲労性はリハビリテーションの阻害因子となるため臨床的には看過で きない。高度麻痺で低Na血症を合併する例では、積極的な治療も検討されうる。 一般演題(5) 60 年前の刺創部より肋骨々髄炎を発症した一例 北海道中央労災病院 せき損センター 藤田 勝久 須田 浩太 牛久 智加良 松下 昌史 松本 聡子 東條 泰明 安井 啓悟 小松 幹 三浪 明男 症例は 83 歳男性。60 年前に喧嘩の仲裁に入り左側胸部を刺され受傷。その後、創部は治 癒していた。60 年経過後の平成 26 年 5 月頃から肥厚性瘢痕化した同部位より瘻孔が形成 され浸出液が認められたため当院形成外科を受診した。骨髄炎の診断で保存療法後症状改 善せず、同年 7 月当科紹介受診となり、同月に腐骨摘出掻爬術を行ない症状軽快した。 今回、短期間の経過観察期間ではあるが、良好な経過をたどった本症例につき文献的考察 を加え報告する。 主題:股関節周辺外傷(1) 大腿骨頚部spontaneous fractureの一例 ~頚部の何処から骨折が始まるのか?~ 協立病院 津村 敬 【緒言】 通常の日常生活動作で発生する高齢者の骨折はspontaneous fractur eと呼ばれる。受傷早期のMRIで診断が難しかった大腿骨頚部spontaneous fractureの1例を経験したので、“頚部の何処から本骨折が始まるのか?”とい う疑問に関して文献的考察を行い報告する。 【症例】 症例は81歳女性である。誘因なく左股関節痛が出現、次第に悪化し、発症日に当院を受 診した。他動内外旋で疼痛が増強したが、X線写真では骨折線は認められなかった。ま た、発症3時間後のMRIでは骨頭下後内側に点状の輝度変化(T1・T2低輝度、ST IR高輝度)が認められたものの、頚部を横断する帯状・線状の輝度変化は認められず、 初診時には骨折と診断することが出来なかった。歩行不能であったため、安静・経過観察 目的で入院とした。4日後のX線写真でも骨折線が認められず、疼痛も軽減したため、 徐々に歩行訓練を進めた。34日後のX線写真にて若干の内反変形と骨頭下の帯状骨硬化 像が認められ大腿骨頚部骨折であることが判明したが、臨床経過より骨癒合が進んでいる と判断し、保存的治療を継続中である。 【考察】 南澤は骨梁骨折によって生じた骨頭下外側の抵抗減弱部に急な捻転や繰り返しの荷重が加 わると大腿骨頚部骨折を生じるとし、大腿骨頚部骨折は骨頭下外側から始まると報告して いる。また、及川らは大腿骨頚部不顕性骨折のMRIを解析し、骨頭下外側に骨折線があ る症例と内側の症例があり、spontaneous fractureの1例は内側だ ったとしている。吉田らも骨頭下内側皮質の亀裂像と主圧縮群骨梁の硬化像が大腿骨頚部 spontaneous fractureのX線初発所見としている。本症例のMRI 所見からも、外傷の明らかな大腿骨頚部骨折と異なり、大腿骨頚部spontaneou s fractureは骨頭下内側から始まると推察される。 主題:股関節周辺外傷(2) ゾメタ治療後偽関節を繰り返した大腿骨近位部骨折 市立札幌病院 平山 光久 後山 恒範 山中 康裕 上杉 和弘 平地 一彦 奥村 潤一郎 【はじめに】 乳癌骨転移に対してゾメタ点滴治療を5年半継続していた症例が左大腿骨頸部不顕性骨折を生じ、ハンソ ンピンにて骨接合1ヶ月後に転子下骨折を認め、その後、骨癒合不全となり、治療が長期となった症例を 経験したので報告する。 【症例】 69 歳女性(H24 年当時) H16/1 A 病院にて左乳癌に対して左乳房切除・腋窩郭清術施行 H17/12 骨シンチで多発骨転移と診断され B 病院にて化学療法 CEF6 クール H18/7 照射治療 H18/7 ゾメタ点滴開始 肋骨 30Gy/10f 鎖骨 20Gy/4f H24/1/12 最終 H23/12/20 誘因なく左股関節痛 C 診療所 12/21 B 病院骨転移否定 12/27 ハンソンピン H24/1/27 歩行時に転子下骨折 ゾメタ治療中止 2/2 ロングガンマ+ドールマイルズ 、術後 4 週より全荷重 7/4 ネイル折損 H24/7/18 当院にて骨接合術。 LCP distal femoral plate 左用 9 穴を逆にして使用+骨移植 術後 6 週+5 日より 1/4 荷重術後 8 週より 1/2 荷重 術後 10,12 週でも Xp 変化なく 1/2 荷重のまま 11/14 術後 16 週でプレート折損 11/21 仰臥位前側方展開で左 THA(S-ROM) H25/9/12 転子下骨折部橋渡し 転子下骨折部骨癒合 術後 44 週 【考察】 乳癌骨転移に対してゾメタ点滴治療を5年半継続していた症例が左大腿骨頸部不顕性骨折を生じ、ハンソ ンピンにて骨接合1ヶ月後に転子下骨折を認めた。ゾメタ治療中止し、ロングガンマにて固定し4週免荷 と慎重にリハビリしたが、手術後 5 ヶ月で破損した。この後、当科転院しLCPプレートにて骨接合+骨 移植し8週非荷重、16 週 1/2 荷重としていたが、プレート破損した為、転子下で骨切りリフレッシュし SーROMにて人工股関節置換とした。9 ヶ月で骨切り部の骨癒合を得た。ビスホスホネートによる非定 型骨折の報告は注目されているが、骨癒合不全・遅延の報告は少ない。文献考察を加え報告する。 主題:股関節周辺外傷(3) 徒手整復により合併症をきたした大腿骨頭骨折の一例 旭川高砂台病院 恩田 和範 旭川厚生病院 柏 隆史 札幌医科大学 入船 秀仁 大腿骨頭は寛骨臼内に収納されており直達外力を受けにくい。そのため大腿骨頭骨折は特 に若年者においてはhigh energy traumaによって惹起されることが殆 どである。今回、我々は日常のスポーツ動作で大腿骨頭骨折を受傷し、また、その整復動 作において合併症を呈した一例を経験したので報告する。 症例は49歳女性。既往歴に軽度の精神疾患がある。ソフトボールの試合中、ランナーと して走行中に他の選手と衝突し転倒受傷。歩行困難にて前医を受診し大腿骨頭骨折の診断 で当科に搬送。単純X線でPipkin typeⅠの大腿骨頭骨折を認めた。また、臼 蓋外側縁に大腿骨頭骨折面は陥入していた。その他、患肢に麻痺などの合併損傷はなかっ た。 即日、全身麻酔下に徒手整復を行った。麻酔科の判断で筋弛緩薬は使用されなかった。患 肢を長軸方向に牽引したが大腿骨は全く牽引されることはなかった。次に股関節を深屈 曲、内旋したところイメージ下には大腿骨が引き下がったように見えたため、そのまま垂 直方向に牽引したところ大きな轢音を聴取した。イメージ下に確認すると大腿骨頚部骨折 を合併しておりPipkin type Ⅲとなっていた。整復を中止し、後日、人工骨 頭挿入術を施行した。今回の症例における治療方針を術中所見を踏まえて考察する。 主題:股関節周辺外傷(4) 外傷性股関節脱臼骨折術後早期に大腿骨頭壊死を発症した一例 浦河赤十字病院 廣田 亮介 小助川 維摩 榊原 醸 札幌医科大学 入船 秀仁 名越 智 【はじめに】 股関節脱臼骨折は全寛骨臼骨折の20~30%の頻度であり、高エネルギー外傷によって 引き起こされる。大腿骨頭壊死、変形性股関節症、坐骨神経損傷など様々な合併症の発生 リスクが報告されており治療予後は一般的に悪いとされている。今回、受傷後早期に大腿 骨頭壊死を来した症例を経験した。 【症例】 81歳男性。屋外で倒木と激突し、受傷。右股部痛を主訴に同日当科受診となった。起立 は不能であり、右股関節は屈曲、内転、内旋位を呈していた。単純X線写真及びCTで右 股関節後方脱臼(Thompson&Epstein分類Type4)と診断、即日徒手 整復を行ったが整復位が保たれず介達牽引を行った。受傷後10日目にKocher-L angenbeck approachによる骨折観血的手術を施行した。固定術後6週 より、右股部痛が出現し単純X線写真、MRIで大腿骨頭の圧壊を認めた。患肢免荷とし 経過観察していたが骨頭の破壊消失は進行し、術後16週まで後柱の骨癒合を待機し人工 股関節全置換術を施行した。 【考察】 外傷性股関節脱臼に寛骨臼骨折を合併する場合,合併症発生率は10~30%と高頻度と なることが報告されている。骨頭側の予後因子として脱臼状態であった時間、骨頭骨折の 有無などが報告されており、受傷後6時間以内の整復により骨頭壊死のリスクが有意に下 がることが報告されている。骨頭壊死は通常6ヵ月~2年前後で発生するとされている が、受傷後2ヶ月と早期に発症した点で希有な症例であると考えられる。文献的考察を加 えて報告する。 主題:股関節周辺外傷(5) 当院における大腿骨頚部骨折に対する人工骨頭置換術 ~前側方アプローチと後側方アプローチの共存~ 手稲渓仁会病院 高橋 敬介 大野 和則 辻野 淳 宮田 康史 西田 欽也 小原 由史 青山 剛 遠藤 健 佐々木 勲 蔡 栄浩 前田 明子 原 健人 相澤 哲 【目的】 当院では大腿骨頚部骨折に対する人工骨頭置換術は、術者が患者背景や生活様式、体型、 合併症などを総合的に判断しアプローチを決定している。 本研究の目的は当院で行った大腿骨頚部骨折に対する人工骨頭置換術の患者背景、アプロ ーチ、手術時間、出血量、レントゲンにおける脚長差、合併症、歩行能力などについて調 査・検討することである。 【対象と方法】 2012 年 1 月から現在までに大腿骨頚部骨折に対して人工骨頭置換術を行った 84 例(前側 方アプローチ(ALA) :26 例、後側方アプローチ(PLA) :58 例)を対象とした。男性 14 例、女性 70 例、手術時平均年齢は 80.2 歳(ALA:80.3 歳、PLA:80.1 歳)であった。 【結果】 平均手術時間は ALA:93 分、PLA:83 分、術中平均出血量と術後平均 Hb 低下は ALA で 188ml、-1.44 g/ dl、PLA で 184ml、-1.51g/ dl であった。術後レントゲンでの脚長差 は、患肢が ALA で-1.2mm、PLA で+4.0mm であった。ALA で高度認知症や統合失調症 などの脱臼リスクの高い患者が多かったが脱臼は認めなかった。しかし、3 例に大転子骨 折を認めた。PLA の 1 例に転倒後の脱臼を認めた。 【考察】 近年、筋切離を行わない前方アプローチは低侵襲であり脱臼予防にも有用であるとされて おり、当院でも脱臼リスクの高い症例に ALA を用い良好な成績が得られた。しかし、ラ スピング操作には大腿骨の挙上が必要であり、骨粗鬆症を有する患者では大転子骨折合併 のリスクもあり手術手技の習熟が必要である。PLA でも良好な成績が得られており、研修 医教育の意味も含め股関節手術の基本的なアプローチである PLA と脱臼予防に有用な ALA を、適応を考慮しながら共存させていきたい。 教育研修講演 『大腿骨頚部骨折に対する前方進入法の有用性』 船橋整形外科病院 人工関節センター長 老沼 和弘 先生