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訓練のマンネリ化打開が課題
2004 年度原子力防災訓練監視行動・報告 JICHIRO.BNPNET.SURVEILLANT 訓練のマンネリ化打開が課題 第三者評価機関の導入を 自治労鹿児島県本部・脱原発ネットワーク はじめに 県本部・脱原発ネットワーク(議長・山崎博県本部副委員長)は 05 年1月 30 日、川内 原発の第 22 回県原子力防災訓練の監視行動を、川内市と串木野市で行った。今回の訓 練で気になった点は、これまでの訓練で反省点としてあげられながら、依然として同じ 行動が繰り返されていることだ。2000 年度から国が実施している原子力防災訓練では、 委託した第三者評価機関からの意見も含めて訓練の評価を集約し、明らかになった課題 とその対応を以後の取り組みに反映させていくシステムになっている。本県でも同様の 評価機関を導入し、訓練のマンネリ化を打開しなければならない。 31 人で監視行動 県本部・脱原発ネットワークの監視行動は、原発災害時に住民の生命財産を守ること と、避難誘導やモニタリングなど被災現場で働く自治体職員らの安全性を確保するため、 訓練が実践的なものになるよう提言していくため 94 年から行っている。 今回の行動には、ネットワークのメンバーを中心に県本部と5単組・25 人と地区平 和センター6人など合せて 31 人が参加した。監視したのは住民避難を中心に 10 カ所。 午前8時すぎに訓練場所を訪れ、 「実施要綱」とネットワーク作成の「チェックリスト」 を片手に、訓練を見守るとともに、訓練参加者に疑問点を尋ねたり意見などを聞いた。 これまでの指摘事項がいかされず 国は原子力防災訓練について、99 年9月 30 日のJCO臨界事故以降、その対応を変 えた。それまでは、災害対策基本法に基づき主に地方公共団体等が中心となって実施し、 国はこれらの訓練への参加など支援、協力を行うという対応をとってきた。しかし同事 故以降は、原子力災害対応について、災害対策基本法の特別法として、原子力災害対策 特別措置法が制定され、国、地方公共団体、事業者等による防災訓練の実施が規定され た。 このため、2000 年度の島根原発での防災訓練を皮切りに、01 年度北海道・泊原発、 02 年度福井・大飯原発、03 年度佐賀・玄海原発と続けられている。なお、04 年度に予 1 定していた柏崎刈羽原発は中越地震のため中止となった。国はこの訓練を実施するに当 たり、あらかじめ委託した民間会社(米国の評価者含む)の第三者評価機関からの意見 も含めて訓練の評価を集約し、訓練で明らかになった課題とその対応主体およびその内 容を、以後の取り組みに反映させていくことにした。 2000 年度の訓練の報告書「平成 12 年度原子力防災訓練の実施結果の取りまとめ」が 01 年5月にまとめられた。この報告書の「課題の抽出と今後の取り組みへの反映の方 向などについて」の「5.緊急事態宣言、避難・退避指示等関係 (3)避難所におけ る対応」で「避難所における手順として、汚染拡大防止の観点から、スクリーニングと 除染を先に行うことが適当ではないか。今回の訓練では、避難所において、受付、モニ タリング、除染という作業ステップであった。【課題に対する取り組み方向等】→避難 所における対応手順のあり方について検討する」との指摘があった。 02 年3月にまとめられた、01 年の泊原発の報告書「平成 13 年度・原子力防災訓練(3) 訓練の評価」には、 「5.(3)避難所における対応手順のあり方についての検討」の「反 映状況」で「○」となっている。つまり、モニタリング(スクリーニング)と除染を先 に行い最後に受付の作業ステップに変わっている。 この避難所での課題は、94 年に監視行動を初めて以来、毎回指摘してきた。また県 の「原子力防災訓練の記録」でも「訓練実施検討会」より抜粋された「今後の課題等」 に、99 年度と 2000 年度はこの問題が指摘されている。99 年度の『問題点・今後の課題』 に「スクリーニングについて、受付で住所や名前を一人ずつチェックしていた。受付は 後回しにして、スクリーニングから実施すべきだった」とし、『改善策等』には「他道 府県の状況及び医療専門家の意見を参考にしながら、順番について再検討する」として いる。2000 年度も『問題点・今後の課題』には「避難住民の登録をした後に、汚染検 査をしていたが、検査がまず優先されるべきだ。(汚染している人とそうでない人を混 ぜてしまうと二次汚染の恐れがある) 」とし、 『改善策等』には「住民の不安を払拭する ために、前向きに検討するが、国が近々緊急時医療措置に関する見解を示すということ なので、これを参考にしながら改善していきたい」としている。しかし、鹿児島県にお いては今回の訓練でも変更されていなかった。 問題多い訓練内容 避難関係では、住民避難を誘導する消防団が着ている綿素材の法被について。火の粉 や硬い物との接触を防ぐためには有効な防護服かもしれない。しかし、微細な放射性物 質に対しては最も付着しやすい素材であり、原子力防災時には最も適さないものである。 他県の防災訓練の写真を見ても、消防団の法被姿は見られない。この問題も以前から指 摘しているが一向に改まらない。リアリティをもった訓練になってない証しとも言える。 2 昨年もやったから今年もというマンネリ以外のなにものでもない。 放射性ヨウ素剤の体内取り込みを予防する、ヨウ素剤の運搬訓練も毎年行われている。 鹿児島県の訓練では、このヨウ素剤を川内市(現・薩摩川内市)と串木野市の避難所に 両市から運ぶこととしている。訓練時に避難所で展示され、県健康福祉部発行のヨウ素 剤についての説明ビラも配布されている。このビラには「ヨウ素剤は、呼吸などにより 放射性ヨウ素が体内に取り込まれる際に、内部被ばくを低減させるための防護剤です」 と書かれている。つまり、放射性ヨウ素が放出する恐れのある「現場」で服用しなけれ ば意味がないものである。訓練場所で言えば、「集合場所」といわれる薩摩川内市は滄 浪地区や寄田地区コミュニティセンター、港体育館など、串木野市でいえば土川コミュ ニティセンター、下山公民館になる。安全な避難所(今回の訓練場所で言えば、薩摩川 内市は国際交流センター、串木野市はB&G海洋センター体育館)で服用するものでは ない。市民の安全と生命にかかわることが、訓練と実際で異なった形で実施されて有効 性があるのだろうか。それとも県は、実際の事故の場合も避難所にヨウ素剤を運搬させ るのだろうか。ちなみに、03 年度の玄海原発での国の訓練では「集合場所」に運ばれ ている。 相談窓口で実際の対応を 02 年度の訓練から、4月にオープンしたオフサイト・センター(4階建て)の4階 に県現地災害対策本部が設置される。この一角に相談窓口のブースが設けられ、電話機 が1台設置される。しかし訓練時、このブース内で動きはほとんどない。実際の災害時 には、市民・県民からの事故の状況や避難についての問い合わせ、放射性物質について の質問など数多くの電話が殺到すると思われる。訓練と実際の乖離がはなはだしいと思 われる。そもそも、このブースは事故時のどのようなことを想定して設置されたコーナ ーなのか。訓練からはまったく見えてこない。また、殺到する問い合わせに対しては、 どのように対応すべきかのマニュアルを、県と両市は訓練時に明らかにしてほしい。ち なみに国の 02 年の訓練では、訓練参加者にシナリオを知らせないブラインド訓練で、 「相談窓口」に模擬住民、模擬メディアからの放射線安全に関する問い合わせへの対応 を行っている。 初動時からのプレス対応を 事故情報などの報道機関への放送要請については、①放送要請、②報道発表、③プレ ス発表している。このプレス発表は、オフサイト・センター(OSC)完成後はセンタ ー外の県合庁4階で訓練している。これは「実際の事故時には、OSC内には報道機関 をはじめ一切の「部外者」は入れない決まりになっている」という県の説明だった。し 3 かし今回、プレスセンターで「発表」を担当していた独立行政法人原子力安全基盤機構 (JNES)の話によると、災害時にOSC内に報道機関を入れるかどうかの国の方針 は決まっていないとのことだった。 プレスセンターでの訓練は、「15 条緊急事態 」以降の合同対策会議の協議事項を発 表している。この「事態」とは、原子力発電所から放射性物質や放射線が異常に施設外 に放出されるような事故になった場合である。総理大臣が原子力緊急事態宣言を発令す る。しかしこうした事故は、それ以前に原発から事故の第一報が入り、その後「10 条 通報相当事象(原発敷地境界付近の2地点以上で同時に5マイクロシーベルト毎時(μ Sv/h)以上の放射線量の検出など) 」が起きているはずである。 こうした流れの中で、どのようにプレス対応していくのか不明確である。実際の事故 の場合、 「15 条緊急事態 」までは自由に取材活動させ、 「15 条緊急事態 」から急に「隔 離」したプレスセンターでの取材をと考えているのだろうか。初動時からのシミュレー ションにもとづいたプレス発表訓練をしていなければ、事故時のパニックが予想される。 訓練のプレス発表は、合同対策協議会の結果を伝えていたが、プレスを通じて住民に 報道されることを考えると、交通規制情報、自治体相談窓口の設置など住民の視点に立 った情報提供も必要ではないか。 串木野との共同訓練を この訓練は県、薩摩川内市、串木野市が共催で行っている。串木野の下山、土川地区 が川内原発から 10km圏内にあるためだ。しかし本当に共催になっているのか。例え ば土川地区は、川を隔てて目と鼻の先に川内・土川と串木野・土川地区がある。ここの 避難訓練をなぜ共同で行わないのか疑問である。訓練時も、薩摩川内の屋外スピーカー から事前の訓練広報が聞こえる場所である。串木野の事前広報は流れない。住民避難用 の車も川内・土川は3∼4台配置されるのに、串木野・土川はマイクロバス1台のみで ある。さらに今回は、避難場所も国際交流センターと海洋センターに分けられた。串木 野市民にとっては、薩摩川内のみ情報が流れ自分達は残されるのでといった不安感を持 つ。特に、土川地区は携帯電話も通じず、衛星電話を使用しなければならない地区であ る。災害に市境はないのだから、住民の不安を払拭するためにも、訓練時から共同避難 を実施すべきではないか。 日曜開催の意義は 今回は、初の日曜開催の訓練だった。私たちはこれまで、季節や時間帯などを考慮し た訓練を要請してきた。その意味では、平日ではない訓練もひとつのバージョンとして 受け入れる。しかし、学校の訓練では口にハンカチをあてながら行動していたことが、 4 日曜開催で子どもづれの避難誘導が行われながら、同様の訓練になっていなかった。日 曜開催で教育機関での訓練がなくなった分、子ども達への配慮が必要なのではないか。 また、川薩保健所の除染室での訓練が再開された(2000 年度まで川内保健所で実施 していた)。以前は、住民避難で一次除染でも汚染されている住民を保健所に運び、二 次除染をというマニュアルになっていた。しかし今回の訓練では、どういう人を対象に した訓練か明らかにされないまま、保健所の職員を模擬住民として除染訓練していた。 済生会病院との関連がどうなっているのかをはじめ、二次被ばく医療のマニュァルを明 確にすべきだ。 5 次の要請文を県知事宛に提出します。 2005年2月 鹿児島県知事 伊藤 祐一郎 日 殿 自治労鹿児島県本部 執行委員長 出口 能美 原子力防災対策に関する要請書 かねてより県民をあらゆる災害から守り、県民が安心して暮らし続けられるように、 日々努力されていることに感謝申し上げます。 つきましては、原子力発電所の防災対策・訓練について下記のとおり要請いたします。 記 Ⅰ 基本姿勢 原子力発電所の安全性はいまだ確立されておらず、廃棄物や廃炉の安全な処理は科学的 にも行政的にもメドがついていません。川内原発の増設には反対の姿勢を明確することや 最終処分場の誘致に絶対反対することを要請します。また、水力や風力、地熱、太陽熱な ど自然環境と調和したエネルギー開発や、一方で省エネルギー対策を県としても積極的に 推進すること。 Ⅱ 原子力防災対策の確立について ①国への要望にかかわること。 ア.原子力発電所の事故調査について、航空機事故調査委員会のような第3者機関の 調査委員会を設置するよう申し入れること。 イ.原子力発電所サイト内のモニタリング結果は、リアルタイムで関係自治体に連絡 されるシステムとすること。また、関係自治体が自主的判断で独自のサイト内モニタ リングが実施できるよう制度を改めるよう申し入れること。 ウ.原子力防災計画の対象区域や範囲の拡大(最低 30 ㎞圏まで)、避難方法の転換(屋 6 内避難優先から広域避難優先に)、住民参加型の原子力防災訓練の義務化等、あわせ て抜本的な見直しを行うよう申し入れること。 ②県防災計画の抜本的見直しを行うこと。 ア.対象区域を最低 30 ㎞圏まで拡大すること。 イ.防災対策を行うべき放射能線量基準の改正を行うこと。災害対策本部や緊急時体 制の設置基準の見直しを。 ウ.原発事故避難について、屋内避難優先から、広域避難優先に変更すること。また、 広域避難先と連絡体制(緊急連絡システム)を確立すること。 エ.広域避難については、風向きの変化に対応できるよう2方向避難を確保すること。 オ.オフサイト・センターのサブセンターが県合庁になっているが、距離が近すぎて 意味を成さない。別な場所を設定すること。 ③原子力防災訓練について、抜本的見直しを行い、改善をはかること。 ア.現在実施している原子力防災訓練については、現実的でなく、訓練効果は少ない。 もっとリアリティのあるものとすること。また、訓練後の指摘事項が次の訓練にいか されないことから、国の訓練で 2002 年度から実施している第三者評価機関の導入を。 a.避難所における対応手順を変更すること。 b.消防団の法被着用を考慮すること。 イ.訓練時期について、時節・気象条件を考慮した計画で実施すること。 ウ.通信および情報伝達など訓練を全市町村規模に拡大するとともに、避難等の訓練 については、周辺 30 ㎞圏内市町村まで拡大すること。 エ.学校等幼児・児童・生徒の使用する施設は被災者の避難退避施設としては二次災 害等の危険が多くなじまないので、見直しをはかること。 オ.消防の無線通信について、災害時には著しい混信が予想される。原子力防災対策 を考慮した、チャンネルの増設を行うこと。 カ.住民の避難・広報について回数や、消防サイレンなどを活用するよう手段の抜本 的改善をはかること。 キ.防災業務従事者はもちろん、災害時関係業務を行うなど関係自治体職員の計画的 な教育・訓練・研修を行うなど、人的ストックを常に行っておくこと。 ク.防護資機材の量的・質的な改善充実をはかること。当面、各自治体にサーベイメ ーターを配置すること。資機材取り扱いの教育・訓練・研修を行うこと。 ケ.ヨウ素剤の住民配布訓練や、全ての児童・生徒施設に常備し、効能と危険性を含 め使用方法などを普段から周知しておくこと。現在の、避難所へのヨウ素剤運搬の訓 練内容を検討すること。 コ.オフサイト・センター4階の県現地対策本部の「相談窓口」の訓練を具体的に実 7 施すること。 サ.プレス対応訓練を、現在の「15 条緊急事態」以降ではなく、初動時から実施する こと。 シ.串木野市の住民避難訓練を、県・薩摩川内市と共同で実施すること。 ス.川薩保健所の除染を、住民避難や済生会病院との関連性で緊急被ばく医療に位置 づけたマニュアルを早急に作成し、それにあった訓練を実施すること。 以上 8