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インドネシア西カリマンタン州の無電化村における 炭のガス化発電

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インドネシア西カリマンタン州の無電化村における 炭のガス化発電
Asian People’ s Exchange
APEX 通信 78 号 2015 年 11 月
新規事業紹介
インドネシア西カリマンタン州の無電化村における
炭のガス化発電
インドネシアは、経済は成長しているものの、まだまだ電気の行き届かな
です。
自分たちで調査した後、
日本の活性炭メーカーを訪ねて話を聞いたりしま
い地域が無数に存在します。APEXでは、そのような地域で、地元の資源
したが、
製造は、
相当な高温で、
キルンや流動層で処理しなければならず、
容易で
から比較的簡便な方法で安価に電気を供給することをめざして、今年から
炭のガス化発電事業を始めました。ここでは、これまでの経緯と現状をご報
告します。
はないと思われました。
ただ、
その際、
備長炭は高温で処理されるので、
一定程度
賦活されている、というお話があり、ディアン・タマ財団には備長炭の窯もある
ことから、
備長炭の吸着性能確認の実験に移りました。
研修参加者やPUSTEKLIM
(排水処理適正技術センター)
でテストを行い、
備長炭は、
活性炭のおよそ半分の
吸着性能を持つところまではわかりました。ただ、その後、(1)炭のガス化発電の
発端は適正技術人材育成研修
ほうの検討が進んだことから、
そちらに傾注していくことになります。
APEXでは、2012年から、適正技術を実践的に担おうとする方々に力をつけ
(3)炭の光源としての利用は、西カリマンタン州の村の主な電気需要は夜間照
てもらうことをめざして、
「適正技術人材育成研修」を始めました。2012年度
明であることから、炭の持つエネルギーを元に、効率的に発光させる方法を検
は、講義と研究会と現場訪問からなる初級コースだけでしたが、翌2013年か
討し、炭をランプとして利用できないか、ということを検討するものです。研修
らは、具体的な事業形成を学ぶ中級コースも、初級コースと合わせて行うよ
うになりました。炭のガス化発電事業は、この中級コースから派生してきた
中級ミーティングのようす
参加者が熱心に調べてくれたのですが、照明としては、伝統的にも薪や松明、蝋
燭が用いられてきた流れがあり、炭はやはり燃料として利用するのが本来の使
い道ではないかという結論になりました。
ものです。
APEXの活動は、およそ現地のNGOを支援することから始まるのですが、今
ディアン・タマ財団所有の備長炭窯
現地で使用される灯油ランプ
炭のガス化発電の検討の始動―メーカー、無電化村の訪問
回は、西カリマンタン州のNGO、ディアン・タマ財団の方が、折しも2012年に
ジョクジャカルタのPUSTEKLIM(排水処理適正技術センター)に見えたこと
上の三つの検討課題のうち炭のガス化発電は、西カリマンタン州の電力公社の電線網がゆき渡らない地域では
がきっかけで始まっています。この団体とは、1996年にAPEXが環境水俣賞を
軽油やガソリンを燃料に発電機で発電して供給している場合が多いのに対し、シンプルな小型ガス化炉により、炭
もらった際に、たまたま同時に受賞したというご縁があります。西カリマン
をガス化し、発電機に導入することにより、石油燃料を大幅に節約することができるのではないかと、検討を始め
タン州の州都であるポンティアナックを拠点に活動していますが、もともと
ディアン・タマ財団
たものです。
ヤシ殻から炭をつくることから始まった団体で、設立もAPEXと同じ1987年
初めは上の3テーマの中で準活性炭の検討が中心でしたが、焦点が炭のガス化発電に移ったのは、ひとつには固
です。日本の国際炭やき協力会の協力で炭焼き窯と研修施設を備えた炭技術
定床ガス化技術に取り組んでいるメーカーを訪ねて相談したこと、
もうひとつは、
現地の無電化村の訪問でした。
総合開発センターを設立し、炭の生産・利用技術の普及に努めています。ま
2013年9月3日に、固定床ダウンフロー式(文字通り、空気やガスが上から下に、下降流で流れます)のバイオマス
た、持続的な森林の管理、フェロセメント・タンクを用いた水供給、竹や藤を
ガス化装置を開発しているメーカーを訪ねて相談しましたが(田中)、ダウンフロー式であると、タールの生成は抑
用いた工芸品の生産などの活動も行っています。
えられるものの、空気が過剰になり、加熱して炉を傷めやすい、また、灰が高温で融点に達して溶けてしまう問題が
彼らの活動の核となっている炭については、生産技術はあっても、用途が
起きやすいとのことでした。それに対して、固定床アップドラフト式(空気と生成ガスが下から上に流れる)であれ
十分に広がっていないようなので、APEXとして、炭の有効利用の面から支援
炭技術総合開発センター(PPTAT)
ば、制御がしやすく、炭はタールの生成が少ない原料であるメリットも活かせるとのこと。それで技術的な大きな
できないか、という観点で検討が始まりました。
2013年度の適正技術人材育成研修では、西カリマンタン州におけるバイオ
マス資源のワイズユースをテーマとしてとりあげ、(1)炭によるガス化発電、
(2)準活性炭の生産、
(3)炭の光源としての利用、
の三つの課題を検討しました。
このうち、(2)の準活性炭の生産は、炭を原料として、市販の活性炭ほどの性
ブンブン村への道
能ではなくとも、
ある程度の吸着性能を持つ活性炭を、
現地でやりやすい比較
的簡単な方法でつくり、
バティック排水の処理などに使えないか、
という趣旨
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ディアン・タマのスタッフ
2013 年 9 月の現地訪問のようす
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Asian People’ s Exchange
APEX 通信 78 号 2015 年 11 月
新規事業紹介 インドネシア西カリマンタン州の無電化村における炭のガス化発電
事業の概要
方向性が見いだせたように思えました。
採択された事業の正式名称は、
「インドネシア西カリマンタン州の無電化村における炭のガス化発電」で、以下の
もうひとつ検討の動機を高めたのは、2013年9月の中級コースの現地訪問
ような活動に取り組みます。実施期間は2015年3月∼2016年12月までの22ヶ月です。
で、無電化村を訪ねたことでした。APEX通信第75号に関連の記事があります
が、ポンティアナック市の北方、車とオジェック(バイクタクシー)を乗り継
1.事業の背景
いで約2時間半、ポンティアナック県スダンジャン群スカブック村グロンバ
広大な国土を持つインドネシアには、発電所からの電力の到達が困難な、地理的に孤
ン地区を訪ねて、住民に話を聞きました。米作りとゴムの樹液採取を生業と
立した無電化村が多数存在する。そのような村では、石油燃料を用いて発電したり、灯
し、一か月の世帯収入が400,000ルピア程度(約4千円)であるのに対して、発
電機を一日3時間運転するだけでも、月に150,000ルピアほどの燃料代がかか
無電化村
油ランプを照明に用いたりしているが、それらの燃料代が住民の大きな負担となって
おり、予備調査を行った本事業実施村では、1日3時間程度の運転でも、燃料代が収入の
るとのことでした。燃料を節約したいという要望は非常に高いことを感じま
約6割にも達する状況であった。電力の主な使途は照明やテレビで、これらは生活や勉
した。電気の用途は、主に照明ですが、他にテレビを見る家庭もあります。
学、情報入手のためにも必須なものであり、住民は安価な電力の供給を切に望んでい
る。
それで、ディアン・デサ財団に、炭のガス化発電の初期的なテストを頼みま
地域に豊富に存在するバイオマス資源を用いて発電できれば好都合であり、バイオマ
した。2013年11月にテストしましたが、これが実にあっけなくうまくいった
住民とのミーティングのようす
スを炭化し、炭をガス化して発電すれば、タールの発生が少なく、シンプルな設備で容
のです。ブロアーで空気を押し込むこと、石油燃料と混焼することを考えて
易にエンジンを稼働させることができる。
いましたが、エンジン自体に吸い込む力があるのでブロアーは使わず、また
炭からの生成ガスのみでエンジンが動きました。
2013 年 11 月の初期テストのようす
資金調達
2.事業の目的
インドネシアの、電力網の到達が困難な無電化村において、地域のバイオマス資源
それで勢いがついて、プロジェクトを実際に始めようと資金調達にとりかかります。ちょうど適正技術人材育成研
修の中級コースのプログラムには、申請書づくりの演習も含まれていましたので、この件を題材として参加者の方々
に申請書案をつくってもらいました。そのようなステップを踏みつつ申請書をまとめ、まず環境再生保全機構地球環
から生産した炭を用いた小規模分散型発電システムを構築する。また、人材育成と
ネットワーク形成をはかり、当該システム普及の基盤を整備する。
これらにより、温暖化をもたらさない再生可能エネルギーの普及と住民の生活向上
ブンブン村
に資する。
境基金に申請しましたが、惜しくも不採択でした。
それにめげず、今度はトヨタ自動車の環境活動助成プログラムに申請したところ、2014年10月に、さいわいにも採
択となりました。プロジェクトの実施期間は2015年3月から2016年12月までの約2年間で、助成金額は約700万円で
3.活動内容
す。
3-1. 炭のガス化システムの構築
西カリマンタン州メムパワ県のブンブン村に、1kWの小規模発電装置の運転を経て、
足利工業大学
5kWの発電設備と30軒以上をカバーする小規模送電網を備えた、炭のガス化発電モデ
ルシステムを構築する。炭をガス化原料とするためタールの発生が少なく、構造が単
事業で開発・普及をはかるガス化炉について、技術的により確かなもの
純で運転の容易な、アップドラフト式のガス化装置を採用する。
にするため、2014年11月4日に、旧知の足利工業大学の牛山先生、昨年、牛山
3-2. 人材育成
先生とともにセミナーにお招きした同大学の根本先生をお訪ねし、協力を
対象村や周辺地域の住民を対象に、炭の生産・利用技術に関する 研修を実施する。生
産される炭は、発電用以外に、調理用燃料、土壌改良剤等としても活用する。
打診しました(田中、東、塩原)。その結果、炭のガス化は根本先生がもとも
3-3. ネットワーク形成
と研究を行っていた分野でもあり、本案件に前向きに協力を検討していた
開発した小規模分散型システムを広く普及させるために、政府関係者、電力公社関係
だけることとなりました。当面は、設計についての相談などから始めます
が、大学側での実験も行われる見込みです。
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炭のガス化実験装置(1kW)
者、周辺住民等を招いて、ワークショップ、セミナーを開催し、ニュースレターを発行
する。また、電力公社に義務付けられている固定価格引取り制度の活用をはかる。
炭のガス化装置設計図
足利工業大学
牛山学長、根本教授
炭やきのようす
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Asian People’ s Exchange
NEWS
新規事業紹介 インドネシア西カリマンタン州の無電化村における炭のガス化発電
田中代表がインドネシア大学とジャナバドラ大学で講演
事業対象地
『適正技術と代替社会―インドネシアでの実践から』(岩波新書、
インドネシア西カリマンタン州メムパワ県サダニアン郡
2012 年)のインドネシア語版が出版されたことをうけて、前号でご
ブンブン村サタック地区第5隣組
報告のバンドン工科大学に続き、インドネシア大学、ジャナバドラ
大学にて、田中代表が講義を行いました。
✔ 世帯数
サタック地区175世帯
うち第5隣組54世帯
事業対象地であるブンブン村は、西カリマンタ
✔ 産業
天然ゴムの採取
(主要産業)
自家消費用に米を栽培
40∼45分ほど行ったところにある無電化地域で
✔ 電力の使用状況
54世帯のうち約30軒が発電機を所持
ガソリン・軽油で運転
電力の使用用途は電灯、
テレビなど
1日3時間程度利用
燃料代は収入の約6割
ン州の州都であるポンティアナックより車で2時
間ほど北上し、さらにバイクで未舗装の小道を約
8月22日のインドネシア大学では、東工大の留
す。 主な生業はゴムの樹液の採取・販売で、世帯
学生・留学生 OB・OGが主催している、学生の科学
月収は約3,500円∼4,000円程度ですが、
1日3時間の
技術論文コンテスト受賞者イベントのキーノート
発電にかかる燃料コストは約150円
(軽油またはガ
スピーチとして講演しました。実行委員会の手違
ソリン1.5ℓ)
と、
大きな負担になっています。
今回、
いで、田中代表が申込み窓口になってしまうとい
炭のガス化発電について説明をすると、すぐにで
も使いたいという強い待望感のある反応がありま
うトラブルもありましたが、当日は70名ほどの参
した。 電力が十分に供給されるようになったら、
加を得て、約2時間講演。熱心な質問も多く投げ
縫製、菓子、飲料づくり、家具製造などの家内産業
かけられ、有意義な講義となりました。
を始めたいという声がありました。
10月14日に講演したジョクジャカルタのジャナ
バドラ大学は、1958年の設立で、法学、経済学、
工学、農学の4学部に約4,000名の学生を擁する大
学です。こちらは、工学部機械工学科の創立19周
事業開始後の動き
年記念の、再生可能エネルギーに関するセミナー
2015年度は、事業は実施の段階に入るため、適正技術人材育成研修の参加者には、
での講演で、同大学の学生や、他大学の学生、企
実施に必要な調査や運営に無理のない範囲で関わっていただくこととなり、具体的
業の方など約100名の参加がありました。講師は
には、村内の電線網の設計に関する基礎的な情報収集や、ガス化装置を扱う上での
ほかに2名いましたが、そのうちの1人、ジョクジャ
注意点の洗い出しなどについて話し合っています。
カルタ特別州エネルギー鉱物資源局担当部長のエ
現地では、ディアン・タマ財団への委託で、人材育成活動のメインとなる炭の生
ディ氏は、講演の中で代表の言葉を何度も引用し
産・利用に関する研修が行われました。但し、初回は主にディアン・タマ財団の内輪
ディアン・タマでの研修風景
での備長炭の生産研修でした。
上図・中段左図:インドネシア大学の会場・講演のようす
中段右図・下図:ジャナバドラ大学でのセミナーのようす
ていたそうです。
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また、炭のガス化システムの構築では、1kWのガス化装置プロトタイプを設計、試
作し、テストを続けています。炭からの生成ガスのみでエンジンを動かすのは容易
ではないものの、燃料の節約はできそうです。
当初の計画より、スケジュール面で遅れがありますが、早く村に持ち込めるレベ
ルのものをつくり、住民の方によろこんでもらえればと思います。
明日のアジアのために、
実験のようす
共に学び、考え、
活動を広めていきましょう。
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