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ドイツ - 一般財団法人 日本エネルギー経済研究所

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ドイツ - 一般財団法人 日本エネルギー経済研究所
IEEJ:2004 年 6 月掲載
ドイツ∗
総合エネルギー動向分析室
主任研究員
近藤
大輔
総合エネルギー動向分析室
主任研究員
山村
恒夫
1.概要(マクロ経済・社会指標等)
正式国名:ドイツ連邦共和国
人口:8,244 万人(2001 年 12 月 31 日)
国土面積:35.7 万 km2(日本の約 94%)
首都:ベルリン
民族:ゲルマン系 91.5%、トルコ系 2.4%、その他 6.1%
宗教:プロテスタント 38%、ローマカトリック 34%、ムスリム 1.7%、その他 26.3%
国家元首:ヨハネス・ラウ大統領(Johannes RAU)(1999 年 7 月 1 日∼)
首相:ゲアハルト・シュレーダー(Gerhard SCHROEDER)(1998 年 10 月 27 日∼)
GDP 総額:27,123 億ドル(2003 年
下表(1)参照)
一人当り GDP:32,917 ドル(2003 年
GDP 成長率:-0.1%(2003 年
下表(1)参照)
下表(2)参照)
(1)GDP 総額、人口、一人当り GDP の推移
1998
1999
2000
2001
2002
2003
GDP 総額
億ドル(95 年価格)
25,608
26,081
26,878
27,106
27,154
27,123
人口
千人
82,024
82,087
82,205
82,311
82,350
82,398
31,220
31,772
32,696
32,931
32,974*
32,917*
一人当り GDP ドル〔95 年価格〕
(出所) OECD Main Economic Indicator
*:米国統計局 International Data Base**から計算
∗
本報告は、平成 15 年に経済産業省資源エネルギー庁より受託して実施した受託研究の一部である。この
度、経済産業省の許可を得て公表できることとなった。経済産業省関係者のご理解・ご協力に謝意を表す
ものである。
1
IEEJ:2004 年 6 月掲載
(2)実質 GDP 成長率の推移
1998
GDP 成長率
1999
2.0
2000
2.0
2001
2.9
2002
0.6
0.2
2003
-0.1
2001
1Q
GDP 成長率
*
2Q
0.4
2002
3Q
0.0
-0.2
4Q
1Q
-0.3
2Q
0.3
0.1
3Q
0.3
4Q
0.0
OECD 推定値
(出所) OECD Economic Outlook June 2003 ,Main Economic Indicators
2.エネルギー需給の概要
(1)一次エネルギー消費
総消費
伸び率 GDP 成長率 GDP 弾性値 一人当り消費 GDP 原単位*
(石油換算百万トン) (%)
(%)
(石油換算トン)
1999
328.5
-1.8
1.8
Na
4.00
12.60
2000
330.5
0.6
3.0
0.2
4.02
12.30
2001
335.7
1.6
0.6
2.7
4.08
12.43
2002
329.4
-1.9
0.2
Na
4.00
12.16
* エネルギー総消費(石油換算千トン)/GDP(億ドル・95 年)
(出所)
総消費量は BP Statistical Review of World Energy June 2003、GDP 以下は上記
OECD 統計等から作成
● 2002 年の一次エネルギー総消費量は石油換算 3 億 2,940 万トンで、前年比 1.9%の減と
なり、一人当り消費も 0.08%減少した。GDP 成長率は、米国経済の不振やユーロ高に
よる輸出への影響、国内需要の落ち込み等の理由から 0.2%の低い伸びとなった。
(2)一次エネルギー需給バランス(2001 年、石油換算百万トン)
石油
ガス
石炭
原子力
その他
合計
3.96
15.93
58.19
44.64
11.03
133.74
輸入
152.75
63.43
26.26
0
3.94
246.38
輸出
19.85
5.25
0.48
0
3.62
29.20
在庫変動等
-2.37
1.46
1.08
0
0
0.18
134.49
75.57
85.05
44.64
11.34
351.09
国内生産
一次供給
(出所) Energy Balances Of OECD Countries 2000-2001
● 2001 年の一次エネルギー総供給量は石油換算 3 億 5,109 万トンとなり、エネルギー源
別構成比は石油 38.3%、石炭 24.2%、天然ガス 21.5%、原子力 12.7%、その他 3.3%と
2
IEEJ:2004 年 6 月掲載
なっている。
● 2001 年の一次エネルギー総国内生産のエネルギー源別シェアを見ると、埋蔵量の豊富
な石炭が 43.5%と最も高く、次いで原子力の 33.4%、ガス 11.9%、その他 8.2%、石油
3.0%の順となっている。
● 一方、2001 年の一次エネルギー総輸入に占めるエネルギー源別構成をみると、石油の
輸入が圧倒的に多く 62.0%を占めている。次いでガス 25.7%、石炭 10.7%、その他 1.6%
となっている。
● 2001 年の一次エネルギー供給合計に占める自給率は 38.1%となっている。
(3)エネルギー源別消費動向(石油換算
石炭
原子力
百万トン)
石油
ガス
その他
合計
1999
132.4
72.1
80.2
38.5
5.3
328.5
2000
129.8
71.5
84.9
38.4
5.9
330.5
2001
131.6
74.6
85.0
38.7
5.8
335.7
2002
127.2
74.3
84.6
37.3
6.0
329.4
(出所) BP Statistical Review of World Energy June 2003
● 2002 年のエネルギー源別総消費は石油換算 3 億 2,940 万トンで、前年比 1.9%減となっ
ており、石油、天然ガス、石炭、原子力はそれぞれ前年比 3.3%、0.4%、0.5%、3.6%の
減少となっている。
● 2002 年のエネルギー源別構成比は石油 38.6%、石炭 25.7%、天然ガス 22.6%、原子力
11.3%、その他 1.8%である。
(4)エネルギー資源(2002 年末)
石油 (億バレル)
ガス (兆立米)
石炭 (百万トン)
確認埋蔵量
世界シェア(%)
可採年数
Na
Na
Na
0.32
0.2
18.4
66,000
6.7
317
(出所) BP Statistical Review of World Energy June 2003
● 石炭資源が豊富で、その埋蔵量は世界第 6 位の 660 億トン、世界シェア 6.7%、可採年
数 317 年となっている。
BP 資料では石油埋蔵量の表記はないが、EIA Country Analysis
Briefs によると、2002 年末の石油確認埋蔵量は 3 億 4,200 万バレルとなっている。
3
IEEJ:2004 年 6 月掲載
(5)エネルギー源別生産動向(石油換算
石油
ガス
石炭
原子力
百万トン)
その他
合計
1999
Na
16.1
59.4
38.5
5.3
119.3
2000
Na
15.2
56.5
38.4
5.9
116.0
2001
Na
15.7
54.1
38.7
5.8
114.3
2002
Na
15.7
54.8
37.3
5.9
113.7
(出所) BP Statistical Review of World Energy June 2003
● 2002 年のエネルギー総生産は 1 億 1,370 万トンであり、前年比 0.5%減となっている。
原子力の減産率が影響しており、2002 年の原子力生産は前年比 3.6%減少している。
(6)エネルギー輸出入動向
原油
(千トン)
輸入
石油製品
(千トン)
ガス
(石油換算千トン)
輸出
輸入
輸出
輸入
輸出
石炭
(千トン)
輸入
輸出
1999 年
103,826
1,742
40,088
16,532
61,591
4,018
23,584
252
2000 年
103,685
3,218
41,820
18,661
61,106
4,192
22,999
162
2001 年
105,172
945
43,019
18,258
63,563
5,228
30,217
194
2002 年
104,866
567
36,347
18,579
65,390
5,685
27,881
117
2002 年
1月
9,065
0
3,233
1,485
6,646
606
2,304
9
2月
8,183
0
2,672
1,604
5,829
925
2,188
3
3月
8,674
0
3,147
1,598
4,731
486
2,225
1
4月
8,797
0
2,594
1,624
6,283
357
2,835
13
5月
8,410
0
2,504
1,523
4,978
349
2,348
23
6月
8,193
161
3,074
1,395
4,277
328
2,072
18
7月
8,822
79
3,443
1,539
4,269
304
1,887
14
8月
8,903
0
3,334
1,322
5,399
396
1,821
9
9月
9,190
327
3,067
1,591
4,584
370
2,961
9
10 月
8,528
0
3,435
1,588
5,397
406
2,167
5
11 月
9,003
0
2,883
1,487
6,135
560
2,817
7
12 月
9,098
0
2,961
1,823
6,862
598
2,256
6
2003 年
1月
8,878
0
2,447
1,674
7,328
636
1,991
5
2月
8,385
0
2,103
1,779
6,873
614
1,254
4
3月
9,495
40
2,735
1,792
6,491
577
1,401
3
4月
8,872
20
3,243
1,738
5,721
468
1,308
3
5月
9,066
430
3,748
1,738
4,951
346
1,602
4
6月
7,911
20
3,774
1,412
4,695
371
Na
Na
(出所)Eurostat Monthly Statistics
4
IEEJ:2004 年 6 月掲載
● 2002 年の輸入動向を見ると、ガス以外の原油、石油製品、石炭のそれぞれにおいて前
年比 0.3%、15.5%、7.7%と減少している。ガスについては前年比 2.9%の増加となって
いる。石油製品輸出はほぼ前年並となっている。
● 月次ベースで見ると、2003 年 1∼6 月の輸入量(石炭については 1∼5 月)は、昨年同
期比較で原油 2.5%増加、石油製品 4.8%増加、ガス 10.1%増加、石炭 36.5%減少となっ
ている。
(7)石油需給バランス(千トン)
原油
生産
輸入
石油製品
輸出
国内処理
115,910
生産
輸入
108,322
40,088
輸出
16,532
消費
1999 年
2,748
103,826
1,742
123,237
2000 年
3,147
103,685
3,218
117,032
109,304
41,820
18,661
120,385
2001 年
3,281
105,172
945
115,390
107,850
43,019
18,258
122,518
2002 年
3,510
104,866
567
115,128
107,391
36,347
18,579
118,179
2002 年
1月
285
9,065
0
9,782
9,033
3,233
1,485
9,455
2月
225
8,183
0
8,967
8,330
2,672
1,604
8,840
3月
290
8,674
0
10,008
9,305
3,147
1,598
9,668
4月
300
8,797
0
9,507
8,877
2,594
1,624
9,485
5月
312
8,410
0
9,358
8,757
2,504
1,523
9,146
6月
306
8,193
161
9,229
8,618
3,074
1,395
9,975
7月
304
8,822
79
9,808
9,159
3,443
1,539
10,851
8月
314
8,903
0
10,018
9,367
3,334
1,322
10,310
9月
279
9,190
327
9,481
8,890
3,067
1,591
10,590
10 月
296
8,528
0
9,454
8,804
3,435
1,588
10,289
11 月
306
9,003
0
9,607
8,992
2,883
1,487
9,863
12 月
293
9,098
0
9,909
9,259
2,961
1,823
9,707
2003 年
1月
313
8,878
0
9,931
9,188
2,447
1,674
8,520
2月
282
8,385
0
9,188
8,518
2,103
1,779
8,911
3月
302
9,495
40
9,908
9,197
2,735
1,792
9,198
4月
294
8,872
20
9,892
9,298
3,243
1,738
9,770
5月
314
9,066
430
9,748
9,093
3,748
1,738
10,181
6月
298
7,911
20
9,328
8,706
3,774
1,412
9,541
(出所)Eurostat Monthly Statistics
● 原油の生産は年間 300 万トン前後で推移しているが、需要に占める割合は 3%程度しか
ないため、そのほとんどを輸入に頼っている。
5
IEEJ:2004 年 6 月掲載
● 2002 年の石油製品の総消費に占める輸入の割合は 31%、輸出の割合は 16%となってお
り、輸入超過ポジションとなっている。
● 2002 年の石油製品消費量は前年比 3.5%減少しており、需給調整のために石油製品輸入
数量が前年比 15.5%減少したと思われる。月次ベースで見ると、2003 年 1∼6 月の原油
生産は前年同期比 4.9%増加した。原油輸入が前年同期比 2.5%増加しており、原油国内
処理も同 2.0%増加している。
(8)石油在庫動向(千トン)
原油
石油製品
合計
2001 年
15,060
20,696
35,756
2002 年
15,119
18,185
33,304
2002 年 1Q
15,152
21,180
36,332
2Q
15,213
20,102
35,315
3Q
15,235
18,839
34,074
4Q
15,119
18,185
33,304
2003 年 1Q
15,650
18,418
34,068
2Q
15,128
19,126
34,254
3Q
15,322
18,793
34,115
(出所)IEA monthly oil survey
● 2003 年第 3Q の石油在庫合計は 3,412 万トンで、うち原油が 1,532 万トン、石油製品
が 1,880 万トンとなっている。前年同期比較では、石油合計、原油、石油製品それぞれ
にほぼ前年同期並となっている。
3.エネルギー政策の概要
(1)
政策担当機関・部門・主要VIP
● ドイツでは、2002 年 9 月 22 日の連邦議会総選挙でシュレーダー首相が再選を決めた翌
月の 10 月 22 日、新内閣が正式に発足している。労働分野の所管を経済相に移管した新
経済・労働省(The Federal Ministry of Economics and Labour)がエネルギー政策分
野を管轄しており、担当大臣はウォルフガング・クレメント(Wolfgang CLEMENT)
氏である。経済・技術省は 11 局から構成されており、各局は最大 4 つの機関に分割さ
れて、その傘下には 150 もの部門が存在するほど多岐にわたる。エネルギー関係を管理
する局はエネルギー局となっており、エネルギー局はエネルギー政策全般を管轄する。
同局は、供給セキュリティー、コスト、環境保護、限られた自国資源等に鑑みながら、
持続可能且つ効率的エネルギー供給確保へ向けたエネルギーフレームワーク構築に取
り組んでいる。以下は各局(Directorates-General)の担当業務である。
6
IEEJ:2004 年 6 月掲載
・ DGⅠ−経済政策
・ DGⅡ−労働市場政策、失業保障、外国人雇用
・ DGⅢ−労働法、職場の安全衛生
・ DGⅣ−通商産業、環境保護
・ DGⅤ−域外経済政策と欧州統合政策
・ DGⅥ−技術革新政策
・ DGⅦ−郵政通信
・ DGⅧ−中小企業、職人、サービス、自由業、教育政策
・ DGⅨ−エネルギー
・ DGⅩ−欧州・国際雇用政策
・ DGZ−総務
(2)基本政策
● 1990 年のドイツ統一後、ドイツのエネルギー政策の主要目標は東西ドイツの根本的に
異なるエネルギー部門をいかに成功裏に統合させていくかということであった。旧西ド
イツは高度なエネルギー効率と環境保護への取り組みによって広く分散且つ高度に民
営化された市場を形成していた。一方、旧東ドイツのエネルギー市場は中央集権的且つ
国有企業支配下にあり、主要燃料を粗悪な褐炭(Brown Coal)に依存してきた。今日
まで、市場自由化ならびに環境規制領域において、旧東側のエネルギー部門を旧西側の
基準に一致させるための多大な進捗が見られた。
● ドイツのエネルギー政策は EU における各種規制に大きく影響を受けている。EU は加
盟諸国に対してエネルギー市場の自由化と競争を促しており、ドイツはその中でも自由
化による競争市場での牽引役となっている。以下はその政策の概要である。
エネルギーセキュリティー
・ 国内資源の開発強化
・ 輸入リスク低減(輸入ソ
ース分散化等)、長期輸入
セキュリティーの確保。
・ 新技術導入による省エネ
の推進
・ 系統の技術的安全確保
経済性
環境保護
・ 産業及び一般消費者への ・ 環境負荷の低いエネルギ
経済的且つ効果的なエネ
ーへの転換。
(再生可能エ
ルギー供給確保。
ネルギー等)
・ 競争力のあるエネルギー ・ 新技術導入による省エネ
市場の維持。
の推進。
・ 国内企業の海外市場への ・ 外部コストの内部化
進出機会の創出。
7
IEEJ:2004 年 6 月掲載
(3)エネルギー予算
連邦予算概要(2003 年)
単位:10 億ユーロ
歳出
歳入
税収入
財政赤字
調整
純借り入れ
247.9
228.6
(202.4)
-19.3
(-0.4)
-18.9
前年比-0.6%
同+5.5%
同+5.4%
−
−
−
歳出に占めるエネルギー・水資源・貿易・サービス、食料・農業・森林分野予算
単位:百万ユーロ
合
計
11,663
地域振興関連
石炭関連
補償関連
4,603
2,659
2,000
出所:Monthly Report of the Federal ministry of Finance February 2003
(4)エネルギーセキュリティー(含原子力政策、イラク戦争への対応)
● ドイツには限られた化石燃料資源(特に石炭)しかないため、一次エネルギー総供給に
占める輸入割合は約 70%となっている(2001 年)。総輸入量に占める石油の割合が圧倒
的に多く 62.0%を占めている。次いでガス 25.7%、石炭 10.7%、その他 1.6%となって
いる。このような中、ドイツでは積極的に再生可能エネルギーの発展に注力してきてい
る。政府は、2050 年までにドイツ国内のエネルギー需要の半分は太陽光、風力、バイ
オマス、水力、地熱等の再生可能エネルギーで賄われるとしており、この結果、将来の
CO2 排出抑制や温室効果ガス削減に大きく貢献していくものと期待している。
● ドイツの脱原子力合意に基づく改正原子力法が 2002 年 4 月に発効した。既に 2001 年 6
月政府と電力会社の間で脱原子力合意協定が調印されているが、この法律では、原子炉
の運転期間を原則運開後 32 年とすること、新規原子力発電所建設禁止、2005 年 7 月以
降の国外再処理施設への使用済核燃料輸送の禁止、事業者の原子力事故賠償額を 25 億
ユーロに増額等が盛り込まれている。このような状況下、2002 年 9 月 22 日に行われた
ドイツ連邦議会選挙において、現政権のシュレーダー首相の対抗馬である中道右派のス
トイバー氏の政権獲得により原発推進なるかが注目されたが、結果はシュレーダー首相
率いる社会民主党と緑の党の連立政権が僅差で過半数を維持し、同政権の続投が決定し
たため脱原発路線は継続となった。しかしながら、古い発電所の割り当て量を新しい発
電所分として運転延長を図ることが認められているため、すぐに廃止されるということ
ではない。
● 2002 年 12 月ドイツ環境省と EnBW 社は、ドイツ最古かつ最少規模の EnBW 社のオブ
リッヒハイム発電所(357MW)を、2005 年 11 月 15 日までに閉鎖することで合意に達し
た。この背景には、京都議定書の温暖化ガス削減目標値(1990 年比-21%)はドイツ国
内における今後の交通量や家庭用暖房の増大で達成が困難との見かたもあり、性急な脱
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IEEJ:2004 年 6 月掲載
原発は一時的に温暖化ガスを排出する石炭火力等への依存度を高める懸念があること、
また原発の一定の継続は温暖化対策上も必要な措置として産業界に歓迎ムードがある
ことなどから、現政権は脱原発政策を掲げているものの、今後の代替エネルギーや省エ
ネの進捗に合わせて個別原発の停止には柔軟に対応していくとの見方もある。一方、
2003 年 11 月、E.on は脱原子力合意に基づき、ドイツ北部ニータザクセン州のシュタ
ーデ原子力発電所を運転を停止した。ドイツ国内では 2 番目に古い施設で、脱原発方針
の決定後初めての停止となる。このほか、EnBW の Biblis A および B プラントが 2007
年∼2008 年、同社の Neckarwestheim-1 プラントが 2009 年に廃炉処分となることが
明らかとなっている。
● イラク戦争への対応に関して、シュレーダー首相が昨年の総選挙前に、起こり得るべく
米国主導による対イラク軍事行動には反対の姿勢をとり、その後再選して以降、米国と
の間に軋みが生じた。対イラク戦争後は、総額 7,500 万ユーロの人道支援を実施しなが
らも、フランスと共に国連主導によるイラク復興支援とイラク国民への早期主権回復を
唱えてきた。最近の動きとしては、2003 年 12 月、ブッシュ大統領とシュレーダー首相、
ならびにフランス・シラク大統領が、2004 年内にイラクの債務削減を実現することで
合意している。1200 億ドルとも言われるイラクの対外債務に関して、主要債権国であ
るドイツは、イラク債務問題を協議しているパリクラブ(主要債権国会議)の枠内で、
具体的な削減率を検討することとしている。
(5)環境政策(含再生可能エネルギー政策)
● 2001 年 3 月、再生可能エネルギー法(REA)が施行され、再生可能エネルギーの開発
促進が進められている。2001 年 6 月にはバイオマス発電が条例として REA に組み込ま
れた。ドイツは 2010 年までに全電力に占める再生可能エネルギーの割合を、現在の 2
倍にあたる 12.5%まで引き上げることを目標としている。また、政府の再生可能エネル
ギー支援措置の効果により、太陽光発電も活発化してきている。2002 年 9 月末現在、
ドイツでは 2002 年中に新たに再生可能エネルギーによる電源が 1,896MW 増設され総
発電設備容量が 10,650MW に達しており、欧州の約 50%に相当する規模に成長してい
る。また、2002 年のドイツ国内総発電電力量に占める風力発電の割合は 4.7%となって
いる。
● 1997 年 12 月の京都議定書のコミットメントとして、ドイツは 2008∼2012 年の期間で
1990 年比-21%の Co2 排出削減をクリアする必要がある(EU 全体では-8%)。1990 年
以降は旧東ドイツでの石炭(褐炭)発電の大幅な抑制によりドイツ全体の Co2 排出量は
減少していることから、-21%という削減目標は実現可能とも言われているが、原子力
発電を廃止することでこの削減目標を達成することができるのかといった疑問の声も
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IEEJ:2004 年 6 月掲載
上がっている。2000 年 10 月、ドイツ政府は気候保護プログラム(Climate protection
program)を採択し、2005 年末までに 1990 年比で-25%の Co2 削減を国家目標とした。
しかし、ドイツ経済研究所はこの国家目標の達成は程遠い状況であるとの見解を示して
いる。上記国家目標を達成するためには、ドイツは 2003 年以降 3 年間で 3,000 万トン
に相当する年間 3.8%の Co2 排出量を削減する必要がある。1991 年∼2002 年の年平均
削減率が 1.0%であったことを考慮すれば、2005 年末までに目標の達成は難しいとの懐
疑的な見方を示している。
(6)市場自由化
● ドイツのエネルギー政策は EU 規制の影響を多大に受けている。1996 年に EU は、エ
ネルギー市場の欧州域内統合を目的として、各国既存ルールの融合化等を進めてきてい
る。1998 年には、EC は EU 加盟各国に電力・ガス双方の市場自由化を求める二つの指
令を発効させている。これら指令は、サービスの透明性と非差別を求めるのみならず、
発送分離によるアンバンドリング、排他的権利の廃止を加盟国に要求しているものであ
った。
● 2003 年 5 月、ドイツ政府は同年 4 月に上院で可決した新エネルギー法を施行すると発
表した。新エネルギー法の主なポイントは、系統使用協定の法制化とカルテル庁の権限
拡大である。これにより、カルテル庁は系統使用料金を不当に高く設定した企業に対し
て、料金低下を命令する権限を与えられる。また、EU 加盟国中で唯一エネルギー規制
機関を持たなかったドイツでは、交渉による TPA(第三者系統アクセス)制度が採用さ
れてきたが、EC や他の EU 諸国から競争を阻害しているとの批判が強まっていた。こ
うした中、ドイツ政府は 2003 年 3 月、エネルギー規制機関を 2004 年 7 月までに設置
することを決定している。
4.エネルギー産業の概要
(1)石油産業
● ドイツの 2002 年の原油生産量は 69,000B/D となっており、その内 18,000B/D が
Mittelplate field と呼ばれる北西部沿海油田から、16,000B/D が Dieksand Land station
から産出され、この二つのエリアでドイツにおける生産量の約半分を占めている。その
Mittelplate プロジェクトは、ドイツ企業である RWE Dea と Wintershall の 50/50 の
ジョイントベンチャー企業が運営している。その他、北部沿海でも生産されている。国
内の原油生産では日量 270 万バレルの石油需要を賄いきれないため、そのほとんどを輸
入に頼っている状況である。
2002 年の主要原油輸入国はロシア(28.7%)、ノルウェ
ー(20.9%)、イギリス(13.9%)、リビア(7.7%)となっている。最近ではシリア、カ
ザフスタンからも輸入している。
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IEEJ:2004 年 6 月掲載
● ドイツの下流部門は熾烈な競争市場の中で企業合併が進んでいる。2001 年 4 月、
RD/Shell とドイツ最大のエネルギー企業 RWE は折半出資による Shell & Dea Oil を設
立した。同社は Shell のマネジメント下に置かれ、2004 年には Shell が 51%まで増資
し、その後残りの 49%を RWE から買い取るオプションがある。これによりドイツ国内
のガソリンスタンドの 23%を占め、日量約 460,000 バレルの石油精製能力を持つドイ
ツ最大の下流企業となる体制を整えることとなる。この動きに対抗するかのように
2001 年 7 月、BP が上流企業 Veba Oel の過半数権益(51%)をドイツ第 2 位のエネル
ギー企業 E.on から取得した。Veba Oel は、上流資産の他に下流部門企業 Aral のガソ
リンスタンドシェア 25%、精製設備能力 300,000 を所有しており、BP は一躍ガソリン
販売シェアでドイツ国内トップになった。BP は交換条件として、E.on に持株会社
Gelsenberg が保有するドイツガス配給会社 Ruhrgas 権益 25.5%を売却することになっ
ている。最近では 2002 年 12 月、ドイツカルテル庁指導の下、BP がドイツ国内に所有
する 494 ヶ所のガソリンスタンドをポーランドの最大石油企業 PKN Orlen に 1.4 億ド
ルで売却している。また、これら Shell、BP が参加しての企業買収の動きは、ドイツ国
内のみならず EU 域内でも「市場支配力増大」の懸念から差し止めの動きが見られてお
り、E.on による Ruhrgas 買収は論争の種となっていた。
● EIA Country Analysis Brief によれば、2003 年 1 月時点で、ドイツの原油精製能力は
2,267,100B/D であり、世界第 7 位となっている。
(2)ガス産業
● ドイツはアメリカ、ロシア、イギリスに次ぐ世界第 4 位の天然ガス消費国である。自国
の天然ガス生産量ではその膨大な需要を満たすことができず、ほとんどを輸入に頼って
いる。2001 年の主な輸入先はロシア(42%)、オランダ(26%)、ノルウェー(25%)、
英国(4%)、デンマーク(3%)となっている。2002 年の総エネルギー消費に占める天然
ガスのシェアは 22.6%であるが、近い将来、原子力発電所の閉鎖が予定通りに進んだ場
合には発電所の代替燃料としてそのシェアは高まっていくものと予想されている。
● 2000 年 9 月上流部門において、Wintershall(権益 40%、オペレーター)
、BEB Erdgas
und Erdoel(同 40%)、BASF(同 12%)
、RWE-DEA(同 7%)で構成する German North
Sea Consortium が天然ガスの生産を開始した。これは、ドイツ北海における最初の天
然ガスプロジェクトであり、鉱区はドイツ北部沿海から 190 マイルに位置している。生
産量は 330 万立米/日で可採年数は 16 年、パイプラインによって国内に輸送される。
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IEEJ:2004 年 6 月掲載
● E.on による Ruhrgas の買収に関して、2002 年 7 月 3 日には ExxonMobile や RD/Shell
が間接的に所有する Ruhrgas の株式 40%の買収を完了したことにより、これまでの
Gelsenberg からの 25.5%の買収も加えて、E.on は Ruhrgas の筆頭株主となったこと
を発表した。その二日後の 7 月 5 日、ドイツ政府は E.on による買収が Ruhrgas の国際
競争力強化につながり、ひいてはドイツのガス供給セキュリティ上有効であるとの判断
からこの買収を承認した。しかし、この承認に対して、ドイツ国内外企業から市場支配
力強化により公平な競争が阻害されかねないとして提訴の動きが相次ぎ、デュッセルド
ルフ上級地裁は「政府承認には手続き上の瑕疵がある」として、7 月 13 日 E.on による
Ruhrgas 買収を一時差し止める決定を下している。その後ドイツ経済省は、本買収に関
する関係者の再ヒアリングを 9 月 5 日に実施、9 月 19 日には本買収を再度承認し、デ
ュッセルドルフ上級地裁に対して一時差し止めを取り下げるよう要求していた。これを
受けて、12 月 17 日同裁判所は、仮処分で E.on による買収手続きの差し止めを再度命
令していた。そして 2003 年 1 月 31 日、本格審理に基づく判決がデュッセルドルフ上
級地裁から出される予定であったが(判決は E.on に不利なものになるとの見方が大勢
を占めていた)、E.on は水面下で株式譲渡や資産交換、和解金支払い等の条件を提示、
判決の 1 時間前に原告側 9 社と和解が成立し、原告側が告訴を取り下げたことで E.on
の Ruhrgas 買収が認められることとなった。Ruhrgas 買収の条件としてドイツ政府か
ら課されていた E.on 資産の売却に関しては、E.on が石油化学の Degussa AG、東ドイ
ツガス配給会社 VNG 並びに北ドイツ公益企業 EWE およびフランスの電話会社
Bouygues Telecom の保有株式を売却し、2003 年 1 月に Ruhrgas の買収を完了した。
(3)電力産業
● ドイツ電気事業連合会(VDEW)によれば、2002 年のドイツ国内の総発電電力量は 5,040
億 kWh(2001 年 4,840 億 kWh)で、その内訳は、石炭 51%、原子力 31%、再生可能エ
ネルギー9%、天然ガス 7%、石油その他 2%であった。ドイツでは、風力発電を中心と
した再生可能エネルギーによる発電を積極的に支援する一方で、CO2 排出量の多い石炭
発電への依存が大きい。総発電設備容量は 1 億 1,400 万 kW(2001 年)となっている。
● なお、VDEW による 2003 年の電力消費量は、前年比 1.5%増の 5,010 億 kWh となっ
ている。
● ドイツの原子力発電量は、米国、フランスおよび日本に次ぎ第 4 位となっている。
● ドイツでは 1998 年に新エネルギー法が施行され、家庭用も含めた完全自由化市場が形
成されている。従来、ドイツには8大電力会社が存在し、国内総発電電力量の約 90%を
独占的に供給していた。そのほかドイツには配電事業を主とする約 900 の自治体経営の
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IEEJ:2004 年 6 月掲載
電力会社が存在している。完全自由化による競争が進むに従い、生き残りをかけた電力
会社同士の提携・合併が盛んに行われるようになり、8 大電力会社は現在 4 社に収斂さ
れつつある。その 4 社とは、RWE、E.on、EnBW、Vattenfall Europe(HEW, VEAG,
BEWAG, Laubag)である。中でも RWE や Eon は英国など外国の電力会社の買収に乗
り出す一方で、ガスや水道事業などを中心に国際的な事業の多角化を展開している。
● ドイツ最大の電力会社 RWE は、国内 6 位の電力会社 VEW を 2000 年 11 月に買収。ま
た海外にも触手を伸ばし、2002 年 5 月イギリスの電力会社 Innogy を買収して小売部門
では欧州第 3 位、発電部門では欧州第 2 位の規模に成長した。国内 2 位の E.on もイギ
リスのエネルギー会社 Powergen の買収に乗り出し、同時に Powergen が所有するアメ
リカの LG & E Energy の買収にも成功し、欧州ならびに米国でのプレゼンスを高めて
いる。最近では、2002 年 10 月その Powergen を通じて英国に 550 万軒の顧客を持つ
TXU ヨーロッパの小売部門および 3 石炭火力発電所を買収している。国内 3 位に踊り
出たのが HEW、VEAG、BEWAG による持株会社の Vattenfall Europe である。2001
年 4 月、スウェーデンの Vattenfall が HEW に出資し、2002 年 11 月 30 日には HEW
の買収が完了した。2003 年 8 月、一連の合併登記・統合プロセスが完了した。国内 4
位となるのは EnBW で、フランス国営電力公社 EDF が 34.5%の出資を行っている。
● 電力小売市場では、完全自由化開始から 2 年の間に小売料金水準が産業用で約 30%、家
庭用で約 10%低減したほか、供給信頼度も欧州諸国の中で最も高い水準を維持している
など一定の効果が見られる。しかしながら、最近は再生可能エネルギー発電買取りコス
トの料金への転嫁や環境税の負担等から、料金水準は値上げ傾向がみられる。
5.最近の重要トピックス
● 2003 年 10 月、ロシア・プーチン大統領とドイツ・シュレーダー首相の首脳会談がロシ
アのエカテリンブルクで行われた。
その協議の中で、ロシア Gazprom とドイツ Ruhrgas
などが協議しているバルト海からドイツ領内を通過するガスパイプラインの建設構想
が話し合われたようである。この計画は、ロシアの天然ガスを、ドイツ、オランダを経
て英国まで輸送する北欧ガスパイプライン構想の一環である。総事業費 57 億ドルとい
われ、2007 年からの供給開始を目指している。
● ドイツ電事連が 2003 年 12 月 1 日に発表したところによれば、ドイツの 2003 年 1 月∼
9 月までの電力消費量は 3,600 億 kWh であり、前年同期の 3,520 億 kWh に比べて 2%
増加した。増加の主因は天候にある。四半期毎に分析すると、第 1 四半期は例年より相
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IEEJ:2004 年 6 月掲載
当気温が低かったことから 1,310 億 kW
(対前年比+4%)、
第 2 四半期は前年並みの 1,140
億 kWh、猛暑の影響を受けた第 3 四半期は 1,150 億 kWh(対前年比+3%)であった。
● E.on の 2002 年の第 3 四半期と比べた 2003 年第 3 四半期の業績は、売上が、33%増の
333 億ユーロ、営業利益が 11%増の 34 億ユーロとなった。売上、利益の 90%以上をコ
ア事業が占めている。営業利益の増加は、Ruhrgas の貢献(2003 年 2 月買収、営業利
益 8.75 億ユーロ)と Powergen の貢献(2002 年 5 月買収、営業利益 4.96 ユーロ)が
大きかった。
● EnBW(EDF が 34.5%を所有)は 2003 年 10 月 30 日、労使協議会において 2,000 人
の人員削減を行うことで基本的な合意が成立したことを明らかにした。同社は、2003
年 7 月、2006 年までに 10 億ユーロの効率化を行うことを発表、うち 3 億 5 千万ユーロ
を人件費削減で達成するとしていた。3 億 5 千万ユーロの人件費コスト削減の達成には、
同社のコア事業(エネルギーとその周辺サービス)の従業員 13,000 人のうち、3,700
人の人員削減が必要であると一部では報道されている。
● ドイツは放射性廃棄物中間貯蔵施設を、Vattenfall Europe が運用する、ドイツ北部
Schieswig-Horstein 州の Krummel 原子力発電所内に建設する。使用済み核燃料 52 本
を保管するコンテナー80 個を 2006 年から 40 年間貯蔵する。国の放射性物質規制当局
の許可は 2003 年 12 月に、地方自治体の建設許可は 2004 年 3 月に得られた。また、
EnBW 社の Biblis 発電所でも中間貯蔵施設建設が 2003 年 3 月に始まったが、この施設
の運用については、Biblis 発電所の廃炉(2007∼2008 年)までとの条件で許可されてお
り、会社側は反発している。
● ドイツ南部バーデンヴルテンヴルグ州の Bad Krozingen 議会は、ドイツ国境近くのフ
ランス EDF が運用する Fessenheim 発電所(2 基)の事故の危険性が高いとして、同発電
所の廃止要求を決議した。同発電所では 2004 年 1 月に放射能漏れ事故が起き、一時停
止した。同地は温泉保養地として著名であり、同発電所の事故の危険性による風評被害
を懸念している。
● ドイツの脱原子力政策に伴い、ドイツ西部に位置するジーメンスの Hanau 原子力発電
所(未運開)の購入に中国が意欲を見せている。シュレーダー首相は 2003 年 12 月に北京
を訪れた際、同原子力発電所の設備輸出に前向きの姿勢を示しているが、同発電所はプ
ルトニウムを MOX 燃料に転換するよう設計されており、中国に移設された場合、武器
用純粋プルトニウムの抽出に利用される懸念があるとして、ドイツ国内で反対の声が上
がっている。
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IEEJ:2004 年 6 月掲載
6.わが国とのエネルギー分野での関わり
● ドイツはエネルギーの純輸入国であり、日本との間にエネルギー輸出入の関係はない。
エネルギー部門での取引関係では、ドイツ製風力発電機に関する販売提携が見られる。
また、2003 年 10 月には、ダイムラー・クライスラーが、東京ガス並びにブリジストン
に燃料電池車「F−Cell」
(エフ・セル)を 1 台ずつ納入する契約を結んでいる。ダイム
ラーは、今後 2 年間かけて、日本、米国、ドイツ、シンガポールの 4 カ国で計 60 台の
燃料電池車を納入する計画を発表しており、今回の契約はその一環であり、日本では初
めての契約となる。
以上
お問い合わせ:[email protected]
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