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サウジアラビアの国家予算と石油政策

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サウジアラビアの国家予算と石油政策
IEEJ:2002 年 2 月掲載
新聞発表コラム紹介
サウジアラビアの国家予算と石油政策
常務理事・首席研究員
十市
勉
昨年 12 月、サウジ政府は、2002 年の国家予算を発表したが、米国における同時多発テ
ロ事件後の原油価格の急落を反映して、非常に厳しい内容となった。歳入全体の約八割を
石油収入に依存しているため、サウジの国家財政は、原油価格の動向に大きく左右される
という構造的な問題を抱えているからである。前年の予算ベースに比べると、歳入が 419
億ドルで 27%減、歳出が 539 億ドルで 6%減であるが、実績ベースに比べるとそれぞれ 32%
減、21%減と大幅な減少となっている。
また財政収支を見ると、2000 年には原油価格が急騰したことで、18 年振りに 120 億ド
ルの黒字を記録したが、昨年は再び 67 億ドルの赤字に転じ、今年も 120 億ドルの赤字を見
込んでいる。その結果、政府債務の残高は、今年末には同国のGDP規模とほぼ同じ 1,680
億ドルに達するとしている。
サウジアラビアの国家予算(1999−2002年)
(単位:億ドル)
2000年
1999年
2002年 2001年
予算 実績 予算 実績 予算 実績 予算
歳入
419
613
573
661
419
392
323
歳出
539
680
573
541
493
483
440
財政収支
-120
-67
0
120
-74
-91
-117
(注)1米ドル=3.75リヤルで換算
(出所)MEES、2001年12月17日号より作成
このような緊縮予算が組まれたのは、今年の原油価格の見通しについて、非常に慎重な
見方をしているからである。中東の石油専門誌であるMEESの推計によると、歳入を見
積る際の前提となっているサウジ原油の平均価格は、バレル当り 15.5 ドル(ブレント原油
で 17 ドル、WTI原油で 18 ドル)と試算されている。ある意味では、サウジにとって、
この水準を下回る原油価格は、経済的のみならず政治的にも許容できないことを内外に示
しているといえよう。
それは、1980 年代半ば以降の原油価格の低迷と人口爆発、さらには湾岸危機の影響も加
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IEEJ:2002 年 2 月掲載
わり、サウジ経済を取り巻く環境が一段と厳しさを増してきたからである。すでに、原油
価格が 10 ドル近くまで急落した 1998 年 12 月、アブドラー皇太子は「オイルブームの時代
は戻ってこない。国に全面的に頼ることのない新しい生活環境に適応していこう」と国民
に呼びかけた。このような危機感の背景には、一人当りGDPが、1980 年代初めには一万
数千ドルであったのが、近年では 7,000 ドル前後まで低下しているという現実がある。と
くに、過去 20 年の間に、人口が約 1,000 万人から 2,000 万人に急増したことで、25 歳以
下が全体の 60%を占めるようになり、若者の失業問題がますます重大な政治問題となって
いることが挙げられる。
いずれの国でも、若者は体制に対して批判的になる傾向があるが、若年層の失業率が 20
−30%と言われるサウジもその例外ではない。とりわけ、同時多発テロ事件の実行犯と名
指しされた若者の多くが、サウジの貧しい辺境地域の出身者であったことに、政治指導者
は懸念を強めている。また異教徒の米軍によるアフガニスタンへの軍事攻撃は、イスラム
聖地の守護者を自認するサウジでは、国内の政治的緊張を高める結果となっている。この
ような国民の不満を和らげるためにも、今年の予算では、雇用対策として 86,000 以上の教
職ポストを新設したり、地方経済の発展を重視する施策が盛り込まれている。
しかし、すでに国家予算の 55%が政府部門の人件費で占められていることから、民間部
門での新たな雇用機会の創出が急務となっている。民間部門で働く外国人労働者をサウジ
人に置き換える「サウダイゼーション」と呼ばれる政策をこれまで一貫して進めてきた。
また近年は、国営企業の民営化や外国資本との提携により技術、ノーハウを導入し、石油
以外の分野への産業多角化を積極的に進めようとしている。サウジが、WTOへの加盟を
目標に掲げるようになったのも、経済のグローバル化に前向きに取り組もうとする強い意
欲の現れである。
しかしながら、国民の労働意識や石油に依存したモノカルチャーの経済構造を、短期間
で変えるのは容易ではない。とくに、同時多発テロ事件を契機に国内の政治不安が懸念さ
れるなかで、急激な経済の構造改革には大きなリスクを伴う。当面は、これまで以上に慎
重かつ漸進的に改革を進める必要があり、そのためには石油収入の安定化を図ることが至
上命令となっている。昨年末にカイロで開かれた OPEC 臨時総会後のインタビューで、サウ
ジのナイミ石油大臣は、ブレント原油で 18−19 ドル以下への価格の急落は避けたいと述べ
ているのは、同国の厳しい政治的、経済的環境を反映したものといえる。
サウジの石油政策の基本的な考え方は、過去における苦い経験から、価格の安定化と市
場シェアの維持をバランスよく実現することにあり、そのためにはOPEC加盟国のみな
らず非OPEC産油国も、応分の負担をすべきだとの立場をとっている。OPECは、今
年 1 月から 150 万バレル/日の減産に踏み切ったが、その条件としてロシアを含む非加盟
5 ヶ国の協調減産を強く求めた背景もそこにある。
他方、近年一段と強まる原油価格の乱高下は、エネルギー分野での投資活動に悪影響を
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IEEJ:2002 年 2 月掲載
与えるため、わが国を含む消費国にとっても望ましいことではない。その意味では、今年
9 月に大阪で開催される産消対話の国際会議を、議長国の日本が、市場安定化に向けた取
り組みの場として活用することは、サウジとの関係改善にも寄与するだろう。
(電気新聞 2002 年 1 月 23 日付「World Report」に掲載)
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