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ch1,2
学習材開発セミナー
2013 年 4 月 30 日
能見
一修
【発表題目】
インストラクショナルデザインの理論研究(1)
ガニェ『インストラクショナルデザインの原理』第1章・第2章の分析
【発表構成】
Ⅰ.本発表の目的
Ⅱ.第1章・第2章の概要――著者紹介・結論――
Ⅲ.第1章・第2章の分析――立論の構造の解明――
Ⅳ.学習材開発への示唆
Ⅰ.本発表の目的
本発表の目的は,ガニェらの著作『インストラクショナルデザインの原理』の第一部を
分析することを通して,公民学習材の開発や分析に活用できる教育工学の理論と方法を得
ることである。
今回は『インストラクショナルデザインの原理』のなかでも,第1章および第2章の結
論と立論の構造を中心に分析する。
Ⅱ.第1章・第2章の概要――著者紹介・結論――
1.著者の紹介
⑴
ロバート・ガニェ[Robert M. Gagné]1・2
ガニェ(1916-2002)は ID の生みの親と言われ,ブリッグズ
と共著で『ID 原理』(1974 年)を著し,ID の基礎を築いた学習
心理学者である。
なお今回取り上げたのは,その最新版(第5版)の翻訳とし
て 2007 年に北大路書房から発行されたものである。
ガニェの理論は行動主義心理学の流れをくむ古臭い理論とレッ
1916 年
MA にて出生
1937 年
エール大卒業
1940 年
実験心理学で
博士号取得
テルを貼られがちだが,実際はそうではなく,いわゆる「折衷主
義」という姿勢をとっている。すなわち,特定の理論的立場に固
執せず,有効な研究結果は積極的に取り入れるという姿勢である。
その後,大学教授や学会
の要職を歴任し,2002 年
他界。
Gagné, Robert M.著,金子敏・平野朝久訳『学習の条件(第三版)』学芸図書,1982 年。
野嶋栄一郎・鈴木克明・吉田文『人間情報科学と e ラーニング』放送大学教育振興会,2006
年。
1
2
1
⑵
ウォルター・ウェイジャー[Walter W. Wager]3
1944 年生まれ4。2007 年 3 月 20 日現在,フロリダ州立大学
大学院教授システム学専攻の教授であった。本書の初期からの
共著者の一人で,知的技能を異なる領域からくる目標群に統合
するため教授カリキュラムマップという技法を開発した。また,教授陣と精力的に協
力し,テクノロジーを教授のプロセスに導入したり,能動的学習を推進したり,効果
的なコース開発をいくつも行ってきている。
キャサリン・ゴラス[Katharine C. Golas]
⑶
ガニェの教え子。サウスウェスト研究所の研修,シミュレーション・パフォーマン
ス向上部門の副社長で,1977 年から教授システム領域で働き,1982 年にフロリダ州立
大学から博士号を取得している。サウスウェスト研究所で彼女は,米国空軍向けの新
しい ID モデルの開発などを行っている。多感覚統合型仮想現実や分散型任務遂行シミ
ュレーションなど,新しい技術に造詣が深い。
ジョン・ケラー[John M.Keller]5
⑷
フロリダ州立大学の教育システム設計学と教育心理学の教授。
1965 年にカリフォルニア大学リバーサイド校で修士号取得(主
専攻は哲学,副専攻は英語)。1974 年にインディアナ大学ブルー
ミントン校で博士号取得(主専攻は教育システム工学,副専攻
は研究・評価,組織化行動)。動機づけ設計モデルとして,注意・
関連性・自信・満足感の4要因モデル(ARCS モデル)を開発した。大規模教育シス
テム設計や電子的パフォーマンス設計プロジェクトに関するコンサルタントとして著
名。シティバンクや連邦航空局が最近のクライアントである。また,デザインモデル
や,評価モデルのエキスパートでもある。
⑸
鈴木
克明(すずき
かつあき)
1959 年生まれ。国際基督教大学教養学部を経て,米国フロリダ
州立大学大学院教育学研究科博士課程を修了,Ph.D(教授システム
学)。現在,熊本大学大学院教授。専門は教育工学,教育メディア学,
情報教育。主著は『教材設計マニュアル』など。
3
⑵~⑷は『インストラクショナルデザインの原理』のまえがきを,⑸・⑹は同書監訳者紹
介を参照した。また,⑴・⑵・⑷・⑸の写真は前掲書 2 より引用した。
4 http://opac.lib.hiroshima-u.ac.jp/scripts/mgwms32.dll(2013 年 4 月 30 日閲覧)
。
5 http://mailer.fsu.edu/~jkeller/JohnsHome/vita.htm も参照した
(2013 年 4 月 30 日閲覧)
。
2
⑹
岩崎
信(いわさき
しん)
1945 年生まれ。東北大学大学院理学研究科原子核理学専攻博士後期課程中退。東北
大学大学院教授などを経て,現在東北工業大学共通教育センター非常勤講師(物理学)。
博士(工学)
。現在の専門は,認知科学,教育工学,教育デザイン論,物理教育学。
2.章の構成(節番号は発表者が付した)
第1部
第1章
教育システム序論
インストラクショナルデザイン序論
⑴
インストラクショナルデザインについての基本的な想定
⑵
学習についてのいくつかの原理
⑶
学習の条件
⑷
インストラクショナルデザイン(ID)の論理的根拠
⑸
本書の構成
⑹
要約
第2章
教育システムの設計
⑴
仮定
⑵
基本プロセス:ADDIE モデル
⑶
他の種類のモデル
⑷
ISD プロセス 対 プロセスの表現
⑸
要約
3.第1章・第2章の概要――社会科教育研究の観点も踏まえて――
⑴
第1章の結論
第1章では,本書を貫く RQ が設定され,①インストラクションについての著者の
考え方と②ID の基礎となる人間の学習原理が紹介されている。
本書を貫く RQ は,
「意図的学習のためにインストラクションを効果的にデザインす
る上で,学習の原理がどのように役立つか」である。これに答えていくために,知っ
ておくべき内容が①と②である。
①について,著者はインストラクションを次のように捉えている。すなわち,人々
の学習を助けるという目的で学習過程についての原理を応用し,情報処理の内的な学
習プロセスを支援するように設計された外的事象を注意深く整える行為の集合体であ
る,と捉えている。そしてこれをデザインしていくことを ID と呼び,システム的な
アプローチと捉え,デザイナーとデザイン状況の数だけ異なるモデルが存在するとい
う想定に立っている。
社会科の文脈に置き換えてみると,生徒たちの学習を助ける目的で学習原理を応用
3
し,生徒たちの内的な学習プロセスを支援するように設計された教師の働きかけ全体
を,社会科におけるインストラクションと捉えられる。したがって,教師の数だけ,
学校の数だけ,教室の数だけ異なる ID モデルが想定できる。
②について,著者は学習原理の例として,近接性原理,繰り返しの原理,強化の原
理,社会文化的な学習の原理を挙げ,社会文化的な原理は学習の多面性を考慮した開
発をする上で必須の要件であるとしている。また,段階論的な情報処理モデルを用い
て学習プロセスを説明し,それに沿って学習の内的・外的両方の条件を,具体的には
教授事象や作業記憶などの役割を明らかにし,学習成果を5種類に分類している。こ
のほか,ヒューイットのシステムモデルに言及し,インストラクションは教育システ
ムにおける一要素に過ぎないことが述べられている。
②に関して,社会科の文脈に置き換えて,段階論的な情報処理モデルのプロセスに
対応させて考えてみる。まず授業の導入で生徒たちの興味をひきつける発問を行うの
が「刺激受容→注意喚起」にあたる。次にその発問をきっかけに MQ を引き出すのは,
「情報登録→目的周知」となる。また,社会科授業は教師や生徒を取り巻く環境によ
って影響を受けることを考えれば,
「インストラクションが教育システムにおける一要
素」という意味が具体的に捉えられる。教師を取り巻く環境としては,教師個人の教
育観や学校の風土,校長の方針などがあるし,生徒を取り巻く環境としては,その生
徒の家庭環境,得手不得手などがある。社会科で育成したい資質を「インストラクシ
ョン」のみによって育てようとするのは無理があり,より広い視点で他の要素を考慮
したインストラクションが求められると容易に考えられる。
⑵
第2章の結論
第2章では,①ISD プロセスの一般的なモデルと各段階の基礎的要素,②一般的モ
デルの二つの適用例,が紹介されている。
①については,一般的モデルとして ADDIE モデルが示されている(図2)。
分析
設計
開発
実施
ANALYZE
DESIGN
DEVELOP
IMPLEMENT
修正
修正
修正
修正
評価
EVALUATE
図2
(本書 p.25 より発表者作成)
4
著者によれば,各段階はシステム的な問題解決モデルにおける主要な手順を表し
ており,主要な構成要素のそれぞれにおける段階や下位活動は,そのモデルが用い
られる文脈に大きく依存して変化する。
各段階について概要をまとめると,「分析」は実際の状態と望ましい状態を正確に
描写し,望ましい状態の実現に何が影響を与えるかを調べることを目的として行わ
れる。その結果,設計段階での意思決定を支援するための重要な情報が提供される。
「分析」は,ニーズの決定,教授分析,学習者の前提スキルと動機づけの特徴の決
定,条件と制約の考慮,という流れで進む。
「設計」では,コースの目的をコースレベルの行動目標に変換するトップダウン
のアプローチによって,インストラクションの開発の指針としての計画が出力され
る。手順は,目的から目標への変換,時間の決定,単元の学習成果・目的の具体化,
単元をレッスンと学習活動に分解,レッスンと学習活動の仕様書を開発,評価方法
の計画,である。
「開発」では,学習環境において利用される教材の準備がなされる。既存教材の
統合,既存教材の目的の再設定,新コースへの既存教材の要素の組み込み,新規コ
ースの構築の4つに分類できる。
「実施」は2種類あり,一つは主にコースの作成や評価の最中の実施活動で,も
う一つは開発が終了した後のコースのリリースである。
「評価」は,評価のタイプと意思決定の種類を区別する必要がある。評価のタイ
プは,教材評価,プロセス評価,学習者の反応,学習者の達成度,インストラクシ
ョンの結果,の5種類ある。意思決定は形成的なものと総括的なものの2種類ある。
このことを,社会科の文脈の中で置き換えて考えてみる。教師にとっての ADDIE
モデルは,一時間の授業レベル,単元レベル,学期レベル,年間レベル,学校段階
レベル,など多元的なレベルで想定できる。また,授業一時間の授業ではなくカリ
キュラム単位でいえば,ハーバード社会科をはじめとするカリキュラムは,理想と
する市民像や市民に求められる資質を考え,それをゴールとして設定し,そのゴー
ルに到達するための単元設計・開発を行っていると捉えられる。
②については,一般的なモデルとしてディックとケリーのモデルが示され,個々
の組織における ISD プロセスを導き,制御するために開発されたモデルとして実施
環境依存モデルが示されている。
また,最後に ISD プロセスとその表現について言及されている。著者によれば,
螺旋モデルとして表現された ISD も提案されているが,ISD プロセスは必ずしも線
形とは限らず,高度に複雑なため,単一の構造や論理的なもの,ダイナミックな表
現にはしにくいという。
5
Ⅲ.第1章・第2章の分析――立論の構造の解明――
1.立論の構造
⑴
章・節に基づく整理
Ⅱでは各章全体の結論をまとめたが,Ⅲでは立論の構造を解明し,構造図として表
すために,章・節ごとにどのような記述がなされているのかをまとめていく。
①
第1章
「第1節
インストラクショナルデザインについての基本的な想定」に入る前に,
インストラクションの目的(人々の学習を助けること)や教育システムの目的(意
図的な学習を支援すること),本書の目的(意図的学習のためのインストラクション
を効果的にデザインする上で,学習の原理がどのように役立つかを述べること)
,イ
ンストラクションの定義(学習を支援する目的的な活動を構成する集合体),ティー
チングとの区別(インストラクションの一部)が述べられている。
続いて第1節で,学習プロセスの支援への焦点化などの六つの立場が示される。
「第2節
学習についてのいくつかの原理」では,ガニェの学習の定義,学習状
況(内側と外側の二つ)
,学習の条件というキーワード,学習原理のいくつかの例が
述べられている。
「第3節
学習の条件」では,学習のプロセスを提示し,制御プロセスに対応し
た教授事象を示している。また,記憶の役割,学習の種類,インストラクションの
構築単位としての知的技能の有用性が述べられている。
「第4節
インストラクショナルデザインの論理的根拠」では,インストラクシ
ョンの計画が「システム的アプローチ」であることや,教育・学習プロセスについ
てのヒューイットのシステムモデルが示されている。
②
第2章
はじめに,教育システムの定義(学習を促進するために用いられる資源(リソー
ス)や手続きの配列),教育システム設計の定義が述べられる。その後「第1節
仮
定」で,三つの仮定が示されている。それは,教示主義の学習環境と構成主義のそ
れはともに教育システムであるという捉え方,ISD は特定の教授法や学習理論を前
提とするものではないということ,ISD はパフォーマンステクノロジーと呼ばれる
より大きなプロセスにおける一つの特別なケースであること,の三つである。
続いて「第2節
ており,「第3節
基本プロセス:ADDIE モデル」ではⅡでまとめた内容が書かれ
他の種類のモデル」では,ディックとケリーの ID モデルについ
てと実施環境依存モデルが示され,
「第4節
ISD プロセス 対 プロセスの表現」で
は,ISD が,ある状況によっては線形・手続き的であり,異なる状況においては高
度に複雑であることが述べられている。したがって,インストラクショナルデザイ
ナーにとっては,与えられた状況において,どのようにプロセスを確立し,適用す
るかを知ることと,視覚的な表現によってそのプロセスをいかに他者に伝えるかと
6
いうことであると指摘されている。
⑵
構造図
第1章・第2章を,構造図として示すと図3のようになる。
RQ:インストラクションには学習の原理がどのように役立つのか
1-1
基本的想定
1-2
学習の原理
1-4
論理的根拠
1-3
学習の条件
2-1
仮定
2-2
ADDIE モデル
2-3
他のモデル
2-4
プロセスと
Q2:学習原理とは何か
その表現
図3(発表者作成)
Q1:インストラクションとは何か
このように,設定された RQ だけではなく,Q1 と Q2 の二つの隠れた問いを読み取
ることができる。そして Q1 と Q2 に対する A1 と A2 が,第1章と第2章を通じて描
かれている。具体的には,第1章第1節・第4節と第2章全体が Q1 に対する A1 とな
っており,第1章第2節・第3節が Q2 に対する A2 となっている。これらを通して得
られる ID の基本的イメージは図4のように表すことができる。
インストラクショナルデザイン
学習の条件
学習の原理
図4
(発表者作成)
なお,これら Q1 および Q2 は,RQ を解決するための Q というよりは,RQ そのも
のを把握するためのものであるといえる。したがって,これらに関して記述された第
1章・第2章を受けて,第3章以降ではより詳細に論じられることになる。言い換え
れば,第1章・第2章はそのための準備段階の役割を担っているといえる。
7
2.インストラクショナルデザインと学習原理の関係
「ID は,教育工学の中心的な研究領域として 40 年以上の歴史をもつ」6。そのルーツ
は,第二次世界大戦下の「戦争に勝つための心理学研究」にさかのぼることができ,ガ
ニェも米国空軍の一研究者であった。したがって,ID の発展は心理学とともにあったと
いえる。
1950-60 年代までの心理学界では行動主義心理学が優勢であり,その研究成果が ID に
生かされた。行動主義心理学とは,
「心理学の対象は行動であり,行動のみが心理学の唯
一の対象である」7というテーゼのもと,学習を刺激と反応の点から捉える心理学である。
この心理学の成果の中でも,教材の良否を実際に学習の成立を確認することで判断する
べきとする「学習者検証の原理」は,ID の中心的手法の一つとして受け継がれる重要な
考え方である。この考え方は「形成的評価」として受け継がれている。また,基準準拠
評価の考え方が提案され,目標を明確に記述する方法も提案された。こうして,行動主
義心理学の影響を受けながら,目標・評価観点を明確にしてから設計し,形成的評価で
改善していくというプロセスの基盤が形成された。
一方,心理学界において 1960 年頃から認知主義心理学が広まった。この心理学では,
人は受動的に刺激を受け取るだけの存在ではなく,能動的に処理していく生活体として
捉えられる。刺激入力と反応出力の間に情報処理の段階があると考えるのである。この
心理学では「システム」
「入力」などの情報工学の用語を多用する。このような用語を用
いて,「情報処理モデル」が展開される。ガニェはこの心理学に依拠して,学習の内的条
件を整理した(本書 p.11 の図)。
その後,心理学界においては構成主義心理学が台頭してきた。これに依拠して ID の分
野ではゴールベースシナリオ(GBS)理論8が提案された。
このように,ID は常に心理学の研究成果を活用してきたことがわかる。また,一つの
主義にこだわるのではなく,新たな知見はどんどん取り入れていくという姿勢が貫かれ
ているといえる。したがって,図4は図5のように描きかえられる。
インストラクショナルデザイン
学習の条件
学習の原理
心理学の研究成果
図5
(発表者作成)
6
前掲書 2,p.78。
山内光哉・春木豊編著『グラフィック学習心理学――行動と認知――』サイエンス社,2001
年,第 12 刷 2010 年,p.4。
8 前掲書 2 の p.99 には,仮想的な一日の報道ニュースを組み立てる過程を通して社会科学
の基礎を高校生に学ばせる教材などが例示されている(根本・鈴木,2005 からとっている)。
7
8
3.日本におけるガニェの受容
ガニェや ID の理論が日本でどのように受容されているのかを明らかにするため,ガニ
ェや ID の理論が参照されている論文を調査した。
王らの研究(2007)9では,プログラミング教育において ARCS 動機づけモデルやガニ
ェの9教授事象が活用され,動機付け型教材と積み上げ型教材の比較を行っている。
また日本語教育の分野の論文もあった。島田ら(2005)10は,ガニェの9教授事象や鈴
木克明の考え方などの教授設計論の視点を教材作成に活用することが必要であることを
明らかにしている。イリーナ・プーリクらの研究(2013)11では,ロシアにおける日本語
教育のための教材づくりにガニェの9教授事象を取り入れて,実際に各課を構成すると
いう教材開発を行っている。
ADDIE モデルを参照している研究もいくつかある。例えば,林ら(2007)12は教員研
修プログラムの開発評価のプロジェクトプロセスに,ADDIE モデルを採用している。松
本(2010)13は e ラーニングにおける web マンガ教材の開発を ADDIE モデルに沿って行
っている。池田らの研究(2011)14では,システムの提案から評価のプロセスが ADDIE
モデルに沿って進められている。
最後に,社会科教育研究との関連をみていく。社会科では福田(1992)15が,社会科の
学習内容の階層的配列について,ガニェの学習階層論の視点からの分析も行っている。
そのなかで,
「社会科で学習階層を構成しようとすると,ガニエ自身も犯したように知識
自体の構造記述になりやすく,知的技能の階層にはなりにくい。社会科の教科内容にお
いて知的技能をどう析出するか,知識内容とどう峻別するかが問題となろう」と述べて
いる。このほか伊藤勝久「地図入門期の導入指導に関する一考察―ガニェの『学習の条
件』による階層的地図指導法の分析―」(『新地理』59(3),2011 年,pp.1-17)がある。
9
王文涌・池田満・李峰栄「プログラミング教育における動機づけ教授方法の提案と評価」
『日本教育工学会論文誌』第 31 巻第 3 号,2007 年,pp.349-357。
10 島田徳子・柴原智代「日本語教材作成のための三つの視点―教授設計論の適用、学習過
程への注目、教室活動の分析指標―」『国際交流基金日本語教育紀要』第 1 号,2005 年,
pp.53-67。
11イリーナ・プーリク,リュドミラ・ミロノワ,山口紀子「ロシア一般人向け日本語コース
用初級コースブック『どうぞよろしくⅠ』開発報告」『国際交流基金日本語教育紀要』第 9
号,2013 年,pp.135-150。
12 林徳治・沖裕貴・横田学・井上史子「校長・教頭等学校管理職を対象とした教員間の相
互理解を深めるコミュニケーション能力開発のための教員研修プログラムの開発・評価」
『年会論文集』(日本教育情報学会)第 23 号,2007 年,pp.78-81。
13 松本多恵「ADDIE モデルに基づく Web マンガ教材の開発とその評価」
『人間文化研究科
年報』第 26 号,2010 年,pp.251-259。
14 池田祐太郎・檜垣泰彦「理工系学生を対象とした知的財産オンライン教育システムの評
価」『電子情報通信学会技術研究報告 LOIS,ライフインテリジェンスとオフィス情報シス
テム』110(450), 2011 年,pp.179-184。
15 福田正弘「社会科学習内容の階層的配列について――R.M.ガニエの学習階層論の検討―
―」『長崎大学教育学部教科教育学研究報告』第 18 号,1992 年,pp.1-14。
9
Ⅲ.学習材開発への示唆
本発表では,第1章・第2章の結論と立論の構造を中心に分析し,その結果,ID が心理
学の研究成果を折衷的に活用し,システム的なプロセスの中に取り入れていることが明ら
かとなった。これを踏まえて,最後に,学習材開発への示唆を述べる。
1.ID のシステム的プロセスと学習材開発
学習材開発のプロセスに ID のシステム的プロセスを導入することが考えられる。すな
わち,ADDIE モデルに沿って学習材の分析,設計,開発,実施,評価を行っていくとい
うことである。
分析段階では,学習材の必要性を吟味し,教授分析を行ってゴールを決定する。また,
生徒の前提スキルや時間的な制約も考慮する。
設計段階では,ゴールをより下位の目標に変換し,単元を具体化して主要な目標を特
定し,レッスンと学習活動を定義しなければならない。
開発段階では,学習活動と学習材の種類について意思決定し,学習材の草案を準備し
なければならない。
実施段階では,教師や生徒に教材を使用してもらうこととなる。
評価段階では,学習材自体の評価や学習材開発プロセスの評価などが行われる。学習
材の評価は,学習目標と学習材の初期草案を含んだ設計書を SME が吟味することで開始
される。学内の専門家に吟味してもらうことも考えられる。
また,特に分析段階や設計段階ではどのような学習材を開発するのかということを共
通理解しておかなければならない。理念を共有しつつ,ADDIE モデルのシステム的プロ
セスによって学習材を開発していくことが,よりよい学習材開発に必要である。
2.ID に活用される学習原理と学習材開発
ID には,多くの学習原理が取り入れられている。したがって,ID の理論を活用すれば
自然と心理学的知見を活用することになるが,学習原理を十分活かすためにはそれらを
意識化させて用いる必要があるのではないだろうか。もちろん,社会科の学習内容にな
じまないものもあるかもしれない。しかし,生徒の内的な情報処理プロセスを支援する
ような学習活動を学習材に盛り込んだり,社会文化的な原理に基づいた活動を促すよう
な項目を設けたりすることによって,学習効果を向上させることも考えられる。
初期社会科時代の「はいまわる経験主義」などの文言によって,「活動」に対するイメ
ージがあまりよくないかもしれない。しかし,本書の p.8・9 にもあるように,状況的認
知や活動理論などの学習原理は,学習を支援する手立てになると考えられる。学習材に
適切に取り入れていけば,抽象的な概念ばかりになりがちな学習を転換することができ
るのではないだろうか。
10
【参考文献】
・福田正弘「社会科学習内容の階層的配列について――R.M.ガニエの学習階層論の検討―
―」『長崎大学教育学部教科教育学研究報告』第 18 号,1992 年,pp.1-14。
・Gagné, Robert M.著,金子敏・平野朝久訳『学習の条件(第三版)』学芸図書,1982 年。
・林徳治・沖裕貴・横田学・井上史子「校長・教頭等学校管理職を対象とした教員間の相
互理解を深めるコミュニケーション能力開発のための教員研修プログラムの開発・評価」
『年会論文集』(日本教育情報学会)第 23 号,2007 年,pp.78-81。
・池田祐太郎・檜垣泰彦「理工系学生を対象とした知的財産オンライン教育システムの評
価」『電子情報通信学会技術研究報告 LOIS,ライフインテリジェンスとオフィス情報シ
ステム』110(450), 2011 年,pp.179-184。
・イリーナ・プーリク,リュドミラ・ミロノワ,山口紀子「ロシア一般人向け日本語コー
ス用初級コースブック『どうぞよろしくⅠ』開発報告」『国際交流基金日本語教育紀要』
第 9 号,2013 年,pp.135-150。
・松本多恵「ADDIE モデルに基づく Web マンガ教材の開発とその評価」
『人間文化研究科
年報』第 26 号,2010 年,pp.251-259。
・野嶋栄一郎・鈴木克明・吉田文『人間情報科学と e ラーニング』放送大学教育振興会,
2006 年。
・島田徳子・柴原智代「日本語教材作成のための三つの視点―教授設計論の適用、学習過
程への注目、教室活動の分析指標―」『国際交流基金日本語教育紀要』第 1 号,2005 年,
pp.53-67。
・王文涌・池田満・李峰栄「プログラミング教育における動機づけ教授方法の提案と評価」
『日本教育工学会論文誌』第 31 巻第 3 号,2007 年,pp.349-357。
・山内光哉・春木豊編著『グラフィック学習心理学――行動と認知――』サイエンス社,
2001 年,第 12 刷 2010 年。
・http://mailer.fsu.edu/~jkeller/JohnsHome/vita.htm(2013 年 4 月 30 日)
・http://opac.lib.hiroshima-u.ac.jp/scripts/mgwms32.dll(2013 年 4 月 30 日閲覧)。
11
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