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ADDIE モデルに基づくWeb マンガ教材の開発とその評価
Nara Women's University Digital Information Repository Title ADDIE モデルに基づくWeb マンガ教材の開発とその評価 Author(s) 松本, 多恵 Citation 松本多恵 : 人間文化研究科年報 (奈良女子大学大学院人間文化研究 科) , 第26号, pp. 251-259 Issue Date 2011-03-31 Description URL http://hdl.handle.net/10935/2823 Textversion publisher This document is downloaded at: 2017-03-29T11:08:00Z http://nwudir.lib.nara-w.ac.jp/dspace ADDIE モデルに基づく Web マンガ教材の開発とその評価 松 本 多 恵* 1.はじめに eラーニングは、自学自習の学習スタイルである。今まで慣れ親しんだテキストを用いた学習 スタイルではなく、Web 教材を用いた学習スタイルを、学生に選択させるには、テキストには ない魅力的な付加価値を持つ Web 教材を提供する必要がある。テキストと Web 教材を比較した とき、テキストは、厚さ制限があるため、あらかじめ、学習対象者の学力を想定し、不必要な説 明は省いている。また、テキストは発売されるまで、タイムラグが生じる。その間、法律の改正 や学習指導要領の変更に即座に対応できず、訂正用紙などを使って対応している。それに比べ、 Web 教材はサーバに保存されるので、教材のページ数を考える必要もなく、データの変更も即 座に対応できる。しかし、これらの要素だけでは、テキストにはない魅力的な付加価値を持つと は言えない。むしろ、Web 教材そのものに、魅力を持たなければ、魅力的な付加価値とは言え ない。そこで、著者らは、様々なメディアの中から、マンガに着目した。 マンガによる学習効果として、 「面白さ」 、 「楽しさ」、「親しみやすさ」などがある。この効果 を用いた学習マンガは数多く出版されている。有名な学習マンガとして、石ノ森章太郎による 「マンガ日本経済入門」や、オーム社の「マンガで学ぶ○○」がある。マンガは「絵」「セリフ」 「コマ」の3つの要素で構成されているため、文章より10倍以上のスペースが必要になる。その ため、学習マンガの多くは、シリーズ化され、時には数十冊に及ぶものがある。シリーズ化した 学習マンガを全巻持ち運ぶことは難しく、必然的に限られた場所でしか学習できない。しかし、 Web 教材では、仮に数十冊に及ぶ場合でも、教材はサーバに保存されているため、パソコンが あれば、 「どこでも、いつでも」学習することができる。このように、マンガとeラーニングシ ステムそれぞれが持つ長所を組み合わせることで、既存のテキストにはない、魅力的な付加価値 を提供出来ると考える。しかし、様々な制約のもと製作された既存のマンガを、そのまま Web マンガに転用すると、学習者によっては、物足りなく感じる者、理解ができない者ができてしま う。 そこで、本稿では、既存の学習マンガにはない、多様な学習者のニーズに対応できる Web マ ンガ教材の開発を目指す。教材開発にあたり、本稿では、教育活動の効果・効率・魅力を高め るためるための手法、方法論であるインストラクショナルデザイン(Instructional Design, 以下 ID と明記する)を活用した。ID には、効果的・効率的・魅力的な学習支援環境を実現するための プロセス(ID プロセス)がある。代表的な ID プロセスには、システム的アプローチに援助して、 着実にステップを踏んで良いものを実現する手法「ADDIE モデル」、開発期間を短縮することに より効率化を目指す手法「ラピッドプロトタイピング」、Allen(2003)1)により提唱された「3段 *複合現象科学専攻 ─ ─ 251 階連続接近法」がある。 本稿では、着実にステップを踏んで良いものを実現する ADDIE モデルを活用した。この ADDIE モデルに基づいて教材を開発することで、効率的に開発し、かつ、多様な学習者のニー ズに対応することできるのかを、Web マンガ教材の開発を通して検討していく。 2.インストラクショナルデザイン 2. 1 インストラクショナルデザインの定義 ID とは、1980年代半ばから、米国で広く浸透した理論である。日本では、eラーニング導入 に伴って2000年頃から注目されてきた。鈴木(2005)12)は、「ID を教育活動の効果・効率・魅力 を高めるための手法を集大成したモデルや研究分野、またはそれらを応用して学習支援環境を実 現するプロセス」と定義し、向後(2005)7)もこれと似た定義で、「ID とは、ゴールとする教授 学習過程を安定的に生み出すことを指向したデザインの科学」と述べている。 ID に は、 主 な も の と し て 次 の 2 つ の 理 論、 ア ー ク ス(Attention Relevance Confidence Satisfaction, 以下 ARCS と明記する)動機づけモデル(教授設計モデル)とガニェの9教授事象 (教授方略)がある。前者の ARCS 動機づけモデルとは、教育工学者 Keller(1984)3)によって 提唱されたものである。Keller は、学習者の動機づけに関わる理論を統合し、学習者の意欲を高 める手立てを次の4つの側面①注意(Attention)②関連性(Relevance)③自信(Confidence)④ 満足感(Satisfaction)で捉え、その頭文字をとって ARCS 動機づけモデルと名付けた。 後者のガニェの9教授事象とは、鈴木(200010), 200211))によれば、ガニェは、授業や教材を 構成する事象を「学びを支援するための外側からの働きかけ(外的条件) 」という視点でとらえ、 認知心理学の情報処理モデルに基づき、学びのプロセスを支援する構成要素を9種類(①学習者 の注意を獲得する②学習の目標を知らせる③前提条件を思い出させる④新しい事項を提示する⑤ 学習の指針を与える⑥練習の機会をつくる⑦フェードバックを与える⑧学習の成果を評価する⑨ 保持と転移を高める)提案した。 ID 理論に基づいて教材を開発するプロセスの1つとして ①分析(Analysis)②設計(Design) ③開発(Development)④実施(Implementation)⑤評価(Evaluation)のそれぞれの各フェーズの 頭文字を取って「ADDIE モデル」がある。この ADDIE モデルは、一連の5つのフェーズを繰り 返しながら、効率的、効果的に開発する。次の節では、この ADDIE モデルの具体的な流れにつ いて述べていく。 2. 2 ADDIE モデルの開発プロセス ADDIE モデルの第1フェーズ「分析」では、学習対象者を明確化し、学習対象者のニーズ、 教育活動、学習環境、学習目標の分析などを行う。このフェーズでは、コスト分析で教育の費用 対効果を考え、学習者コストも分析する。次に、第2フェーズ「設計」に移る。ここでは、第1 フェーズで実施した分析結果をもとに、教育目標の達成に必要な教材の設計仕様・期間・方法な どを検討するフェーズである。第3フェーズ 「開発」 では、第2フェーズで検討した教材の設計 仕様に基づいて、具体的な教材を開発する。第4フェーズ「実施」では、第4フェーズで開発し ─ ─ 252 た教材をもとに、授業や研修を行う。さらに、学習者の学習状況の確認、モチベーション維持の 支援なども行うフェーズである。第5フェーズ「評価」では、学習者の学習効果の分析、学習活 動全体や教材の問題点などを洗い出し、各段階へとフィードバックをして必要な改善を行う。 このように、ADDIE モデルは、この5フェーズを必要に応じて繰り返し、常に改善していく ことで、最終の教育目標に向けて、効率的・効果的に開発していくモデルである。 3.教材にマンガを用いる意義について 3. 1 マンガの定義 斎藤(1995)8)は、マンガを「絵=線・言葉・コマの緊密な結びつきから成り立っている」と 述べ、呉(1997)4)は、マンガを「コマを構成単位とする物語進行のある絵」と定義している。 竹内(2005)13)も、これと似た定義で、 「マンガは、構造化されたコマ配置のもと、吹き出しが 使われ、登場人物が連続して描かれる」と述べている。これらの定義から、マンガは「絵」「セ リフ」 「コマ」の3要素により構成されているため、絵と文字を使った挿絵や説明図入りの文章 とは異なるメディアであるといえる。 さらに、マンガの魅力の一つとして、養老・牧野(2005)16)によれば、「日本人は、漢字(表示 文字)を読んでいる時とカナ(表音文字)を読んでいる時に、脳の別の場所を使って脳機能をフ ル回転させる」というマンガの長所を強調している。このように、マンガとは、文章、アニメと も異なるメディアで、脳機能をフル回転させる長所があるメディアであるといえる。 3. 2 マンガの教育効果に関する先行研究 マンガの教育効果に関する先行研究をみていく。坂本(1964)9)は、「マンガは、抽象的なこと ばによるイメージ形成を省略し、視覚的に既存のイメージを提供するため、読み手には精神的な 労力を軽減できる」とマンガの利点と示している。次に、マンガを教材として使った時の効果 について、焦点を当てた研究は、次のようなものが挙げられる。村田(1993)15)は、大学生を対 象に、不動産屋の選び方を説明した内容について、マンガ(学習マンガ)を用いることの効果を 実験的に検証している。その結果、マンガの利点として、次の3つの利点を指摘している。第1 の利点は、重要な部分を要約的に強調するので理解を促進できる。第2の利点は、視覚的に一目 で状況を把握できる。第3の利点、学習者に楽しみと学習への動機付けを与える。続いて、向後 (1993)5)は、 「大学生を対象に、学習マンガを学習目的に読む場合と、学習目的を意識しないで 自由に読む場合を比較して理解や記憶に違いが見られるのかを検討した。その結果、学習マンガ を学習目的で読む場合も、自由に読む場合でも学習内容の記憶成績に差はない」と述べている。 さらに、向後ら(1998)6)は、 「学習を目的でマンガを利用することで、学習内容部分だけをマン ガで提示するだけでなく、ストーリー部分も併せて提示し文脈に連続性をもたせることで、深い 理解や記憶を促進させる」と主張している。これらの先行研究より、学習マンガを利用すること で、学習者に、わかりやすい、親しみやすさ、面白さ、イメージのしやすさなどを与え、深い 理解力と高い関心度、長期記憶に効果的であるなど様々な効果が示されている。本稿では、Web 上でも同様の効果を得られ、eラーニングのコンテンツとして有効なメディアであるか検証して ─ ─ 253 いく。 4.ADDIE モデルに基づく教材開発 4. 1 第1フェーズ「ニーズ分析」 ここでは、女子大学生の好むマンガ作品について調査していく。長沢ら(2008)14)が実施した 『漫画の人物表現のファッションデザイン画教育への活用「好きな漫画作品についての学生アン ケート集計結果上位14作品」 』によれば、好きな作品の順位 1.NANA(矢沢あい)2.SLAM DUNK (井上雅彦)3. ご近所物語(矢沢あい)4.天使なんかじゃない(矢沢あい)5.ONE PIECE(尾 田栄一郎)と続いていた。このデータをもとに、奈良女子大学生(10人)に直接面接し次のよう な意見を得た。調査結果は、表1に提示する。作品全てにおいて高い認知度であった。しかし、 好感度は、上記の長沢(2008)14)調査と違う結果であった。その理由を知るために、好感度が低 かった、矢沢さんの作品「NANA、ご近所物語」に関して「なぜ、NANA、ご近所物語が嫌い なのか」と尋ねたところ、 「嫌い」と答えた学生の全員が「絵柄、作風が嫌い、苦手」と回答し た。次に、好感度100%の次の2作品「ONE PIECE」「セーラームーン」に注目した。両方の作品 は、 「一般受けするような作風、絵柄を取り入れている」という意見が多かった。女性は、マン ガの好き嫌いに、 「絵柄、作風」が大きく影響することが今回の面接調査で分かった。 表1「マンガの作品の認知度と好感度調査」(回答者数10名) 認知度 好感度 1 NANA 作品名 矢沢あい 作者名 100% 20% 2 SLAM DUNK 井上雅彦 100% 70% 3 ご近所物語 矢沢あい 100% 20% 4 天使なんかじゃない 矢沢あい 100% 20% 5 ONE PIECE 尾田栄一郎 100% 100% 6 ちびまるこちゃん さくらももこ 100% 70% 7 パラダイスキス 矢沢あい 90% 50% 8 セーラームーン 武内直子 100% 100% 9 ピーチガール 上田美和 90% 50% 10 マーマレードボーイ 吉住渉 80% 80% 14) 長沢(2008) 「好きな漫画作品についての学生アンケート集計結 果上位14作品」より抜粋し、著者らの実施したアン ケート結果を加工した 4. 2 第2フェーズ「設計」 設計段階では、第1フェーズの分析結果、女性が 「絵柄、作風」 で好き嫌いが分かれる点を考 慮したマンガ教材を検討していく。 まず、著者らは、表現形式について考えてみた。マンガは大きく分けると、「コママンガ」と 「ストーリーマンガ」に分けることができる。前者の「コママンガ」には、風刺画のような1コ ママンガ、雑誌・新聞紙などに掲載されている4コママンガなどがある。後者の「ストーリーマ ンガ」は、手塚治虫が、読者の心を打つ物語性と、それまで単調であったマンガの画面構成に、 ─ ─ 254 複雑な映画的手法を導入した。現在のストーリーマンガの多くは、この表現手法を用いている。 今回の教材開発では、向後ら(1998)6)が主張する「学習内容部分だけをマンガで提示するだけ でなく、ストーリー部分も併せて提示し文脈に連続性をもたせることで、深い理解や記憶を促進 させる」この点を踏まえて、 「コママンガ」ではなく、「ストーリーマンガ」で表現することにし た。 次に、物語に登場する人物(キャラクター)について考えた。既存の学習マンガは、ドラえも ん、クレヨンしん ちゃん、名探偵コナンなどのキャラクターがわかりやすく説明していくもの がある。本稿では、教材対象者が大学生なので、上記のキャラクターでは、どうしても幼稚にな ってしまう。そこで、幼稚にならず、親しみを与えるキャラクターを新たに作成した。 4. 3 第3フェーズ「開発」 開発段階では、第1フェーズ、第2フェーズで考察した結果をもとに、教材開発を実施した。 今回は、手描き原稿をスキャンしたため、トーンレイヤー、画像解像度 、モニタ解像度 、モア レ、フォントの調整などに注意しながら開発した。今回は、印刷を前提としていないため、モノ クロで表示した。そのため、カラーにする作業や費用を削減できるなどの新たな利点を見出すこ とができた。開発した教材の一部を図1,図2に提示する。比較教材として、マンガ教材と同じ 内容の教材を、PDF を使って作成した(以後 PDF 教材と明記する)。 図1 キャラクターの例 図2 マンガの事例 4. 4 第4フェーズ「実装」 実装段階では、第3フェーズで開発した Web 教材・PDF 教材を、奈良女子大学が提供してい るeラーニングシステムの「Web class」上に教材を載せた。特に、学習者は、マンガを読むとき 1コマずつに書かれている文字を読む。そのため、モニタ上に表示させた文字の大きさなどを調 整し、文字が読めるか、見やすさ、操作方法の確認などを確認した。 4. 5 第5フェーズ「導入後の評価」 2010年6月28日(月)から2010年7月12日(月)にかけて、奈良女子大学の情報処理入門1を 履修している学生を対象にアンケートを実施した(回答216名)。回答者の属性は、文学部114名 , 生活環境学部58名 , 理学部40名 , その他(大学院生など)4名で、1回生200名,2回生4名,3 回生6名,4回生2名 , その他(大学院生など)4名である。実施手順は、マンガ教材・PDF 教 材の両方を学習した後に、アンケートに回答させた。設問の内容は、表2に提示する。 ─ ─ 255 表2:設問項目 設問項目 1 2 3 4 5 感性 評価 尺度 項目 比較 項目 6 7 8 マンガ教材は、面白かったですか 教材に登場したキャラクターは、親しみやすいですか マンガ教材を活用すると、やる気がでると思いますか このマンガ教材は、満足しましたか マンガ教材と PDF 教材比較して、どちら速く読み進めることができましたか マンガ教材と PDF 教材を比較して、どちらが見やすいと思いますか 理解値 教材の内容は理解できましたか ニーズ マンガ教材で、今後提供して欲しいと思う教科・科目を下記の中から選択(複数選択可)して ください ①語学②情報リテラシー③一般教養科目④専門科目⑤本学で提供されていない専門科目⑥資格 試験対策科目⑦大学入学までに未履修科目、苦手な科目 ⑧特になし 5.結果と考察 5. 1 感性評価尺度に基づくマンガ教材に評価 設問1のマンガ教材の「面白さ」は、 「面白い」「やや面白い」を含めると9割強、キャラクタ ーに関しても「親しみやすい」 「やや親しみやすい」で9割強の支持を得ることができた。「満足 度」も「満足」「やや満足」 で9割強と高い支持を得ることができた。これらの結果は、先行研 究でも指摘している、マンガが持つ「面白さ」 「親しみやすい」などが WEB 上においても、同 様の結果を得ることができた。またeラーニングは自学自習の学習スタイルであるため、継続し て学習することが難しいと言われている。しかし、「やる気」に関しても、「思う」「やや思う」 で9割強の学生が支持をしていることから、マンガを使いことで 「やる気」 が起き、動機づけを 与える一要因になりえることが本調査でわかった。 表3:感性評価尺度に基づいた形容詞対比較 (回答者数216名) 非常にある ややある ややない 非常にない 面白みがある 59 128 24 5 面白みのない 親しみがある 96 104 13 3 親しみのない やる気がある 98 96 14 8 やる気がない 満足感がある 54 149 11 2 満足感がない 5. 2 マンガ教材と PDF 教材の比較評価 設問5の読む速度に関する質問は、 「マンガ教材は、PDF 教材より速く読み進めることができ る」と8割強の学生が答えている。学習時間のログ分析より、平均して、マンガ教材では、1ペ ージ当たり36.5秒で PDF 教材は、1ページ当たり47.5秒であった。Berndt(1990)2)は、日本人の マンガ(4コマ漫画ではなく、ストーリーマンガ)を読むスピードは、平均して1分16ページだ と指摘している。Berndt が指摘する数値よりも、今回のマンガ教材は読むスピードが遅かった。 その理由として、第1に、学習目的で読む場合は、自由に読む場合では、読むスピードがどうし ─ ─ 256 ても遅くなる。第2に、設問6のマンガ教材と PDF 教材の両者の教材を比較しても、見やすさ に設問5のように大きな差はなく、必ずしも、マンガ教材だから見やすいとは言えなかった点 も、読解速度が遅かった理由として考えられる。今後、見やすさを工夫する必要があることがわ かった。 表4:マンガ教材と PDF 教材に比較表 (回答者数216名) 速く読み進めることができる教材 見やすい教材 マンガ教材 186 マンガ教材 135 PDF 教材 30 PDF 教材 81 5. 3 教材の理解度、マンガ教材の利点の理解 6) 設問7の理解度に関する質問では、向後ら(1998) が主張する、「物語部分の提示と深い理解 に関する相関性」があることが、本調査でも明らかになった。特に、表5「理解できなかった」 と回答する学生が0人であった点は、特筆すべき点である。 表5:マンガ教材の理解度(回答者数216名) 理解できた 134 やや理解できた 81 やや理解できなかった 1 理解できなかった 0 5. 4 学生が求める Web マンガ教材へのニーズ分析 設問8では、学生が求めている新たなニーズを分析した。結果は以下の表6に提示する。最も 高いニーズを示したのが、情報リテラシーであった。次に高いニーズは、大学入学までの未履修 科目、苦手な科目で、この項目が高いニーズを示したことは、予想外であった。しかし、この調 査から、学生の新たなニーズを読み取ることができた。この調査結果を次回の教材開発へ活かし ていきたい。 表6 :今後提供して欲しいと思う教科・科目(回答者数216名 複数回答) 語学 64 情報リテラシー 72 一般教養科目 62 専門科目 57 本学で提供されていない専門科目 26 資格試験対策科目 67 大学入学までの未履修科目、苦手な科目 69 特にない 26 ─ ─ 257 6.おわりに マンガとeラーニングそれぞれが持つ長所を組み合わせた既存の学習マンガにはない、Web マンガ教材を開発するにあたり、著者らは、ID プロセスである ADDIE モデルに基づき開発を実 施した。本稿では、マンガの特徴を活かした Web マンガ教材開発の設計方法、設計結果を具体 的に提示してきた。 ADDIE モデルに基づいて開発した Web マンガ教材では、先行研究で示されているようなマン ガの長所・効果(「やる気」 「面白さ」 「楽しさ」「高い理解力」)について、Web 上でも同様の効 果を得ることができた。Web マンガ教材を活用することは、eラーニングが抱えている、途中 で学習を止めてしまう、つまりドロップアウト率が高いという問題を解決する手段として有効で あるといえる。 [参考文献] 1.Allen, M.W. (2003) Michael Allen's guide to e-Learning: Building interactive, fun, and effective learning programs for any company. Willy: Hoboken, NJ 2.Brendt, Jaqueline(1990) 「Bilder fluten - Phanomen Manga」著 佐藤和夫 , 水野邦彦 / 訳(1994) 『マンガの国ニッポン』花伝社 3.Keller, J.M (1984) The user of the ARCS model of motivation in teacher training. In K.E. Shaw & A. J. Trott (Ed.), Aspects of educational technology volume XVII: Staff development and career updating. London: Kogan Page. 4.呉智英 (1997) 「現代マンガの全体像」双葉文庫 5.向後千春(1993) 「学習マンガにおける学習内容とストーリーの記憶」日本教育心理学会第 35回 総会発表論文集38 6.向後智子 , 向後千春(1998) 「マンガによる表現が学習内容の理解と保持に及ぼす効果」日 本教育工学論文誌 22(2), 7.向後千春(2005) 「e ラーニングの土台:行動主義、認知主義、状況主義学習論とその統合」 第3回 Web CT 研究会予稿集 8.斉藤宣彦(1995) 「マンガの読み方」宝島社 9.阪本一郎(1964) 「学習漫画のあり方―特集・漫画と子ども―」児童心理18(3) 10.鈴木克明(2000) 「ガニェの9教授事象」教育工学事典 , 実教出版 11.鈴木克明(2002) 「教材設計マニュアル―独学を支援するために―」北大路書房 12.鈴木克明(2005) 「e -Learning 実践のためのインストラクショナルデザイン」教育工学論文 誌 29(3) 13.竹内オサム(2005) 「マンガ表現学入門」筑摩書房 14.長沢幸子 , 長沢伸也(2008) 「漫画の人物表現のファッションデザイン画教育への活用」デ ザイン学研究 54(5) 15.村田夏子(1993) 「教授方略としての漫画の効果」読書科学 第37巻4号 16.養老孟司 , 牧野圭一(2005) 「マンガをもっと読みなさい―日本人の脳はすばらしい―」晃 洋書房 ─ ─ 258 Development of manga based e-Learning contents in accordance with the ADDIE model and its evaluation MATSUMOTO Tae In this paper, we have developed manga based e-Learning contents. Different from the usual text based e-Learning contents, manga based contents have advantages such as it is easy to read and easy to understand. We have used the ADDIE model to create contents. The ADDIE model is one of the instructional design model and is constituted by the following five phases; Analysis, Design, Development, Implementation and Evaluation. Using this model, we can clarify the critical point of the problem and develop the e-Learning contents effectively. We use thus created manga contents for the learning questionnaire. The result show that manga media make the contents more creativity and keep student ユ s motivation of learning high. ─ ─ 259