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悪性リンパ腫症例における 帯状疱疹合併例の検討
Session 3 基礎疾患 (医原性含む) と帯状疱疹 悪性リンパ腫症例における 帯状疱疹合併例の検討 高橋 直樹 先生 埼玉医科大学国際医療センター 包括的がんセンター 造血器腫瘍科 准教授 (56.5%) で、 化学療法後は10名 (43.5%) であった。 帯状疱疹 化学療法と帯状疱疹の発症頻度に 関連はあるのか? の発症パターンは、限局型が20名(87.0%)、汎発型が3名 (13.0%)、内臓型はなかった。化学療法別の発症頻度は、 多い順にR - C H O P:1 3 名( 5 6 . 5%)、B E A C O P P:5 名 悪性リンパ腫の治療はリツキシマブの導入により向上して (21.7%) 、 CyclOBEAP-R:2名 (8.7%) であった。 リツキシマブ いるが、 化学療法後の免疫不全に伴うウイルス感染症の合併 はしばしば難治性となり、患者の生活の質(Quality of Life: 表1 帯状疱疹合併例の患者背景 (23名) QOL) を低下させる。 特に帯状疱疹は化学療法を受けた患者 年齢(中央値) に多くみられ、帯状疱疹関連痛はQOLを著しく低下させる 28∼82(63) 8/15 性別(男性/女性) ため問題となる1)。 しかしながら、 化学療法後の帯状疱疹の発症 5(21.7%) (NS 2、MC 2、LR 1、 LD 0) 非ホジキンリンパ腫 18(78.3%) 組織型 4(FL 3、NMZL 1) 低悪性度 中・高悪性度 14(DLBCL 10、MCL 1、 ENKL 1、PTCL 1、 CTCL 1) Ⅰ 3 (13.0%) Ⅱ 2 (8.7%) 臨床病期 Ⅲ 2 (8.7%) Ⅳ 16 (69.6%) 化学療法中 13 (56.5%) 発症時期 化学療法後 10 (43.5%) 限局型 20 (87.0%) 顔部 2 頸部 3 帯状疱疹の 胸部 6 発症パターン 腰部 7 仙骨部 2 汎発型 3 (13.0%) 内臓型 0 (0.0%) 1 (4.3%) CHOP 13 (56.5%) R-CHOP 1 (4.3%) CyclOBEAP 化学療法 2 (8.7%) CyclOBEAP-R 5 (21.7%) BEACOPP その他 1 (4.3%) あり 15 (65.2%) リツキシマブの使用 なし 8 (34.8%) アシクロビル点滴 15 (65.2%) アシクロビル内服 4 (17.4%) 帯状疱疹の治療 バラシクロビル塩酸塩内服 3 (13.0%) 局所療法のみ 1 (4.3%) 帯状疱疹後神経痛(PHN)6 (26.1%) 合併症 運動神経障害 2 (8.7%) 眼病変 1 (4.3%) 改善 23(100.0%) 転帰 改善せず 0 (0.0%) ホジキンリンパ腫 頻度やリスク因子についての報告は少ない。 そこで我々は、 当院で悪性リンパ腫の化学療法中あるいは化学療法後に 帯状疱疹を発症した症例をもとに、 発症頻度およびリスク因子 を検討した2)。 悪性リンパ腫症例の患者背景 2007年4月から2009年12月までに当院を受診し、化学療法 を行った初発悪性リンパ腫患者188名をレトロスペクティブに 解析した。統計解析は、2群間の比較にはχ2 検定、Fisher 検定を用い、p<0.05を有意とした。患者の年齢は17∼91歳 (中央値65歳)、男性106名、女性82名であった。病理組織 型は、 ホジキンリンパ腫16名、非ホジキンリンパ腫172名で あった。非ホジキンリンパ腫のうち、 びまん性大細胞型B細胞 リンパ腫(Diffuse Large B-cell Lymphoma:DLBCL) が 115名と最も多くを占めた。化学療法に関しては、R-CHOPが 112名と最も多く、CyclOBEAP-Rが31名、CHOPが12名、 BEACOPPが11名などであった。 悪性リンパ腫症例における 帯状疱疹合併例の検討 FL :濾胞性リンパ腫 NMZL:節性辺縁帯B細胞リンパ腫 MCL :マントル細胞リンパ腫 ENKL :節外性NK/ T細胞リンパ腫 PTCL :末梢性T細胞リンパ腫 CTCL :皮膚T細胞リンパ腫 NS :結節硬化型ホジキンリンパ腫 MC :混合細胞型ホジキンリンパ腫 LR :リンパ球豊富型ホジキンリンパ腫 LD :リンパ球減少型ホジキンリンパ腫 初発悪性リンパ腫患者188名のうち、帯状疱疹を発症した のは23名 (12.2%) であった (表1) 。 発症例の年齢は、 28∼82歳 (中央値63歳) で、男性8名、女性15名であった。組織型は ホジキンリンパ腫5名(21.7%)、非ホジキンリンパ腫18名 (78.3%) であった。非ホジキンリンパ腫のうちDLBCLは10名と 最も多かった。帯状疱疹の発症時期は、化学療法中が13名 Ⅰ:病変が1ヵ所に限局している Ⅱ:病変が横隔膜を越えない 同じ側に限局 Ⅲ:病変が横隔膜を越えて 逆側にもある Ⅳ:リンパ節以外に病変がある 高橋直樹他. 埼玉医科大学雑誌. 37 (2)93(2011) 7 使用別の発症頻度は、 あり15名(65.2%)、 なし8名(34.8%) で 強度」 と帯状疱疹発症との関連性を調べた (表3) 。 BEACOPP あった。 はステロイド投与期間が84∼112日と最も長く、 帯状疱疹の発症 帯状疱疹の合併症として、帯状疱疹後神経痛(Post- 頻度が最も高い化学療法であった。 ステロイド積算量が最も Herpetic Neuralgia:PHN) を6名(26.1%) に認めた。 ビンク 多いのはR-HyperCVAD/MA、治療強度が最も高いのは リスチンにより軸索障害を起こしている神経細胞に水痘・帯状 CyclOBEAP-Rであったが、 発症頻度はそれぞれ0% (0/4名) 疱疹ウイルスが感染することでPHNに移行しやすくなっていると および6.5%(2/31名) と低かった。 したがって、 ステロイドの 考えられる。 なお、PHNは帯状疱疹発症後1ヵ月以上、痛みが 積算量や治療強度よりもステロイド投与期間が帯状疱疹発症 持続する場合とした。 帯状疱疹治療には主にアシクロビル点滴 に関連すると考えられた。 静注を用い、全例で皮膚症状は改善した。 まとめ 悪性リンパ腫症例における 帯状疱疹発症のリスク因子 初発悪性リンパ腫症例における帯状疱疹の発症頻度は 12.2% (23/188名) であった。 また、 リスク因子は、 女性、 ホジキン 悪性リンパ腫症例における帯状疱疹発症のリスク因子を リンパ腫、 初回化学療法がBEACOPP、 ステロイドの投与期間 単変量解析により調査した (表 2 )。 その結果、統計学的に が長い、 などであることが明らかとなった。 リツキシマブの投与 有意差を認めた因子は、性別では女性(p=0.0261)、組織型 は帯状疱疹の発症には関連しないと考えられた。 ではホジキンリンパ腫(p=0.0152)、 ステロイド投与期間では 今後、 さらに症例を集積し、発症リスクが高い患者、特に 61日以上(p<0.001) であった。 ホジキンリンパ腫に対する化学 ステロイドの投与期間が長い患者に対する内服抗ヘルペスウイ 療法のBEACOPPも有意な傾向が認められた (p=0.0509)。 ルス薬の予防投与について、 至適投与方法や有効性を検討 リツキシマブ使用の有無では発症頻度に差はなかった。 次に、 する必要がある。 各化学療法の 「ステロイド投与期間」 および 「積算量」 「治療 1)Johnson RW et al. BMC Med. 8 37(2010) 2)高橋直樹他. 埼玉医科大学雑誌. 37(2)93(2011) 表2 帯状疱疹発症のリスク因子 (単変量解析) 因子 10/71(14.1) 13/117(11.1) 男性 8/106 (7.5) 性別 女性 15/82(18.3) ホジキンリンパ腫 5/16(31.3) 組織型 非ホジキンリンパ腫 18/172(10.5) 1/2(50.0) LR 組織型 2/4(50.0) MC (ホジキンリンパ腫) NS 2/9(22.2) 0/1 (0.0) LD 組織型 低悪性度 4/28(14.3) (非ホジキンリンパ腫) 中・高悪性度 14/144 (9.7) Ⅰ、 Ⅱ 5/63 (7.9) 臨床病期 Ⅲ、 Ⅳ 18/125(14.4) あり 8/80(10.0) 合併症 なし 15/108(13.9) <800 12/79(15.2) 診断時IgG値 8/41(19.5) 800≦ 1/12 (8.3) CHOP 13/112(11.6) R-CHOP 1/8(12.5) CyclOBEAP 2/31 (6.5) CyclOBEAP-R 化学療法 5/11(45.5) BEACOPP 0/4 (0.0) R-HyperCVAD 0/5 (0.0) ABVD その他 1/5(20.0) あり 15/147(10.2) リツキシマブの使用 なし 8/41(19.5) 12/103(11.7) 0∼30 ステロイド 5/76 (6.6) 31∼60 投与期間(日) 6/9(66.7) 61∼ 10/75(13.3) ステロイド 0∼2, 999 13/113(11.5) 積算量(mg) 3, 000∼ 年齢 <60 60≦ 症例数(%) 注: CHOP=シクロフォスファミド+ドキソルビシン+ビンクリスチン+プレドニゾロン R-CHOP=リツキシマブ+CHOP CyclOBEAP-R=シクロフォスファミド+ドキソルビシン+ビンクリスチン+プレドニゾロン+ブレオマイ シン+エトポシド+リツキシマブ ABVD=ドキソルビシン+ブレオマイシン+ビンブラスチン+ダカルバジン BEACOPP=シクロフォスファミド+ドキソルビシン+ビンクリスチン+プレドニゾロン+ブレオマイシン +エトポシド+プロカルバジン R-HyperCVAD/MA(以下のコースA→コースB) R-HyperCVAD(コースA) =リツキシマブ+シクロフォスファミド+ドキソルビシン+ビンクリスチン+ デキサメタゾン R-MA(コースB) =リツキシマブ+メトトレキサート+シタラビン p値 0.5493 0.0261 0.0152 0.6198 表3 各化学療法のステロイド投与期間、 積算量、 治療強度と 帯状疱疹発症頻度 0.4764 0.2017 ステロイド ステロイド 帯状疱疹 治療強度*2 1 投与期間(日) 積算量*( mg)(mg/m2/週) 発症頻度(%) 0.1985 0.1078 84∼112 5199.0 8.3 (5/11名) R-CHOP 30∼40 2488.9 16.7 (13/112名) 42 2476.9 25.0 32 8966.0 16.7 (0/4名) 0 0 12.5 (0/5名) 0.0509 CyclOBEAP-R R-Hyper 0.1078 CVAD/MA <0.001 ABVD 0.7079 *1 ステロイド積算量は、 プレドニゾロン換算量で計算 *2 治療強度は、 ドキソルビシンの用量強度で計算 高橋直樹他. 埼玉医科大学雑誌. 37 (2) 93(2011) 8 45.5 BEACOPP 11.6 6.5 (2/31名) 0.0 0.0