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本文 - 一橋大学経済学研究科
LCC 導入が地域経済に与える影響 ―奄美大島におけるバニラ・エア効果の実証分析― 一橋大学経済学部 学士論文 2015 年 1 月 21 日 学籍番号:2112108u 氏名:佐々木 響 ゼミナール指導教員:川口大司 概要 人口減少が進む日本において、観光が地域経済の発展に重要な役割を果たす と考えられている。近年普及した LCC は、旅客需要を喚起し、就航地域に経済 効果をもたらすことが期待されている。そこで、本稿は、日本の地方空港への LCC 導入の効果を明らかにするために、LCC のバニラ・エアが就航した奄美 大島を事例として、自然実験を行った。差の差推定法を用いた分析の結果、 LCC 就航前後で、東京-奄美間の旅客数は月間約 2 倍の増加が観察された。さ らに、LCC 就航による直接効果は、地域活性化をもたらすことがわかった。一 方、LCC 参入によって、競合路線の JAL の旅客数は月間約 17%減少したが、 LCC と JAL が正常にクールノー競争を展開する限り、旅客者余剰の増加が奄美 経済にプラスの効果をもたらすと考えられる。以上より、日本の地方空港への LCC 導入においては、地域経済の発展と航空会社の共存が重要であると結論付 けた。 1 目次 第1章 はじめに ......................................................................................... 3 第2章 現状分析-奄美大島とバニラ・エア- ........................................ 5 第3章 経済理論モデルの分析-複占クールノー競争-.......................... 7 第4章 分析方法 ....................................................................................... 15 4-1 使用データ ................................................................................... 15 4-2 差の差推定 ................................................................................... 16 第5章 実証分析-LCC 導入と旅客数の変化- ..................................... 19 第6章 分析結果 ....................................................................................... 22 6-1 分析結果及び解釈 ........................................................................ 22 6-2 LCC 導入と経済効果 ................................................................... 25 第7章 実証分析-LCC 参入と競合路線の旅客数の変化- .................. 28 第8章 分析結果 ....................................................................................... 29 8-1 分析結果及び解釈 ........................................................................ 29 8-2 LCC 参入と競争の実態 ............................................................... 30 第9章 結論 .............................................................................................. 33 謝辞.............................................................................................................. 34 参考文献 ...................................................................................................... 35 付表.............................................................................................................. 37 2 第 1 章 はじめに 近年、格安航空会社(以下、LCC)が普及している。日本においては、2012 年頃より本格的に導入されるようになった。LCC は、人件費の圧縮やサービス の簡素化などによって、大幅な低運賃化を実現させている。それは、旅客数の 増加を促し、就航地域に対する経済効果をもたらすと期待されている。人口減 少が進む日本において、観光が地域活性化に重要な役割を果たすと考えられて いる一方で、地域は地方路線の縮小という課題に直面している。図 1 より、 2006 年から 2011 年にかけて、旅客数は減少傾向にあり、景気低迷による航空 需要の減退や、原油価格高騰に伴う運航コスト増加を背景に、航空会社は、特 に地方低需要路線からの撤退を余儀なくされた。これに対し、国土交通省は、 2014 年から地方航空路線活性化プログラム 1などの施策を講じている。このと き、LCC 導入は、重要な方策となる。低需要路線の維持・拡充のためには LCC 導入が有効であるとの指摘もある2。LCC 導入が、旅客数の増加を促し、 就航地域に直接効果を及ぼすことで、地域活性化に大きく貢献すると考えられ る。 日本の地方空港への LCC 導入の効果に関する先行研究では、対象とする地 域、路線、航空会社の違いはあるものの、以下のことが示されている。LCC 就 1 国土交通省によれば、 「一定の旅客需要があるものの、代替交通機関がない、又は不便 な条件不利地域を発着する航空路線について、国として評価した路線維持に向けたモデ ル的取組として実証調査を実施するもの」である。 2 橋本安男・屋井鉄雄・伊藤誠(2014)「地方航空路線の撤退要因と維持・拡充に係る研 究」 、 『運輸政策研究 Vol.17 No.3 2014 Autumn』2~14 頁 3 航前後の旅客数の変化に関連した研究では、LCC 導入は旅客数を増加させるこ とがわかり、同時に就航地域に経済効果をもたらすことが示されている。LCC 参入に伴う競合路線の旅客数の変化に関連した研究では、LCC 参入によって、 競合路線の旅客数は減少することが示されている。渡辺(2014)は、奄美大島 のバニラ・エア就航効果について、国土交通政策研究所の調査によって分析を 行った。渡邉ら(2013)は、北海道のスカイマーク就航効果について、重回帰 モデルを用いて分析を行った。神末ら(2013)は、宮古島のスカイマーク就航 効果について、宮古島市及び航空会社の資料と、担当者へのヒアリングによっ て分析を行った。 しかし、日本の地方空港を対象に自然実験を利用し、差の差推定によって、 就航地域属性やマクロショックを制御したうえで、LCC 導入の効果を分析して いる研究は見られない。本稿は、LCC 就航前後の旅客数の変化に与えるバイア スをコントロールすることで、より LCC 導入の効果を正しく推定している。 以上をふまえて、本稿では、2014 年 7 月に LCC が導入された奄美大島を対 象に分析を行う。まず、航空輸送市場におけるクールノーモデルを仮定し、東 京―奄美路線のバニラ・エア参入効果を理論的に分析する。次に、「航空輸送 統計調査年報」のデータを使用して、差の差推定による実証分析を行い、LCC 就航前後の旅客数の増加および経済効果について考察する。次いで LCC 参入に よる競合路線の JAL の旅客数の減少を示し、バニラ・エアと JAL の競争の実態 について考察する。これらの分析から、日本の地方空港への LCC 導入の効果を 明らかにし、地域経済の発展に LCC が重要であることを示唆する。 4 第 2 章 現状分析-奄美大島とバニラ・エア- 本稿は、LCC 導入の効果を分析する対象として、奄美大島に着目する。奄美 大島は、地方創生を課題としている地域であり、2014 年 7 月に新たに LCC の バニラ・エアが就航した地域である。 奄美大島は、1953 年に米軍の支配を脱して日本復帰を果たして以来、地域振 興のために国から特別予算が割り当てられていた。しかし、若年層の流出、老 齢化の進行、小中学校の統廃合、集落の消滅など、過疎化は止まらなかった。 しかし、2014 年 7 月 LCC のバニラ・エアが就航して以降、観光客数が増加し、 奄美大島がにぎわい始めた。政府の補助金ではなく、LCC が状況を打開したこ とが話題となり、「バニラ・エア効果」が注目された。 バニラ・エアは、地域や国、企業の LCC 誘致活動によって、2014 年 7 月に 成田空港に就航した。今までは、東京‐奄美間の運航は、羽田空港からの JAL 路線のみであった。東京-奄美間の航空運賃は、2016 年 1 月 12 日時点におい て次のように確認された。JAL では、普通運賃(片道)52,090 円、往復割引運 賃 46,990 円、特別割引運賃 36,890 円となっており、バニラ・エアでは、コミ コミバニラ 8,390 円、シンプルバニラ 6,390 円となっている。両社の航空運賃 差は、最低運賃で比較して、30,500 円であり、これが旅客需要を喚起している と考えられる。また、羽田空港、成田空港には、ハブ空港として、国際線から 地方空港への乗継を容易にできる大きな強みがある。これは、近年増加が著し い訪日外国人観光客を含め、多くの観光客を首都圏から直行便で奄美へ誘客す ることを可能にする。 5 奄美大島は、東京からのアクセス方法が空路主流であり、自動車や新幹線な どの他の交通機関との代替可能性が排除される地域である。さらに、JAL のみ の路線に新規に LCC が導入されたことから、LCC 導入が旅客数に与える効果 が推計可能な地域であると考えられる。 確かに、地域経済にとっては、観光客数が増加し、消費につながることが重 要であり、手段は LCC に関係なく、どのような形であれ関係ない。しかし、仮 に LCC 導入の影響が大きくない場合、地域は、誘客を促す観光政策を検討し、 実行していく必要があるだろう。したがって、LCC 導入の効果を正しく推定す ることは重要である。しかしながら、観光地域を対象にする場合、LCC 就航前 後の旅客数の変化が、単純に LCC 導入の効果であるかを判断することは難し い。LCC 以外で、旅客数に与える要因が多種多様だからである。例えば、観光 立国を掲げる日本政府のビジットジャパン政策、それをバックにした各自治体 の地域アピール活動や、SNS による情報発信によって、旅行者に観光地域に対 する特別なインセンティブが与えられれば、観光客数は増加するだろう。また、 好景気で国民生活にゆとりが生まれれば、観光客数が増加する可能性も考えら れる。したがって、データでは観察できない地域属性やマクロショックが、 LCC 導入の効果にバイアスを生じさせている可能性が考えられる。 そこで、本稿では、奄美大島における LCC 就航前後の旅客数を対象に、差の 差推定を用いることで、LCC 導入の効果をより正しく推定する。 6 第 3 章 経済理論モデルの分析-複占クールノー競争- 実証分析を行う前に、LCC 導入の効果について、航空輸送市場における競争 モデルを用いて分析を行う。 航空業界は、一般的に、路線ごとに数社が乗り入れていることから、寡占市 場であると考えられる。Brander and Zhang(1990)は、航空輸送市場では、クー ルノー競争が展開されることを示している。本稿のケースでは、JAL1 社独占路 線に、新たにバニラ・エアが参入したことから、複占状態になったと考えられ る。そこで、独占市場に1社が参入し、複占市場になったケースにおいて、単 純なクールノーモデルを仮定して、分析を行う。 まず、市場が独占状態であるケースを考える。図 2 は、独占市場のモデルを 表している。独占企業の財の供給量を 𝑥 、価格を 𝑝 とすると、市場の逆需要関 数は、 𝑝 = 𝑎 − 𝑏𝑥, 𝑎, 𝑏 > 0 (3-1) と表される。直線 AB は、総需要量が 𝑥 の逆需要関数である。 企業の総費用を 𝐶 = 𝑐𝑥 (0 < 𝑐 < 𝑎)とすると、限界費用と平均費用 (𝐶⁄𝑥) は、𝑐 で等しくなる。𝑔 は、限界費用曲線を表している。 このとき、企業の利潤 𝜋 は、 𝜋 = 𝑝𝑥 − 𝑐𝑥 と表される。よって、企業は、(3-1),(3-2)より、利潤最大化の一階条件 7 (3-2) 𝑑𝜋 𝑑 {(𝑎 − 𝑏𝑥)𝑥} − 𝑐𝑥 = 𝑑𝑥 𝑑𝑥 = 𝑎 − 2𝑏𝑥 − 𝑐 (3-3) =0 を満たすような 𝑥 を決定する。つまり、限界収入と限界費用が等しくなるよう に供給量を決定する。このときの供給量 𝑥∗ は、(3-3)より 𝑥∗ = 𝑎−𝑐 2𝑏 (3-4) となる。(3-4)のとき、企業の財の価格と利潤は、 𝑎+𝑐 2 (3-5) (𝑎 − 𝑐)2 4𝑏 (3-6) 𝑝∗ = 𝜋 = となる。したがって、独占市場の均衡は、図 2 の点 P で示される。𝑥∗ のときの 平均費用は 𝑐 であるので、企業の最大利潤は、𝑝∗ 𝑃𝑄𝑐 で表される。 ここで、図 3 は、独占市場の均衡点の推移を表している。任意の価格のもと で市場全体の需要量が増加し、需要曲線が直線 𝐴𝐵 から直線 𝐴′ 𝐵 ′ に右上シフト すると、限界収入曲線は直線 𝐴𝑟から直線 𝐴′ 𝑟 ′ にシフトする。限界費用曲線は、 𝑔 で変化しないので、利潤を最大化する供給量と価格の組み合わせは 𝑥∗′ , 𝑝∗′ と なり、独占市場の均衡は、𝑃′ 点に変化する。よって、𝑠 は、任意の価格のもと で需要量が一定量だけ変化したときの独占市場の均衡点の推移である。𝑠 をク ールノー曲線とする3。これをふまえて、図 4 より、複占市場におけるクールノ ーモデルについて考える。 3 池間誠(1990)「クールノー均衡と参入阻止:クールノー線による図解」『一橋論叢』 103(6),638-652 8 まず、複占企業は、同質の財を供給するものと仮定すると、競争相手企業の 供給量を所与として、利潤最大化条件を満たす価格と供給量の組み合わせを選 択する。このとき、各複占企業をそれぞれ企業 1、企業 2 とすると、競争相手 企業の供給量の各水準は、図 3 における需要曲線のシフトと同様にみなされる ことから、二企業は、図 4 の 𝑠 に沿って行動すると考えられる。よって、企業 1 と企業 2 の 𝑠 を水平に合計した直線 𝑆 が複占市場全体の供給曲線となる。こ のとき、クールノー均衡は次のように求められる。 企業 1 と企業 2 の財の供給量をそれぞれ 𝑥1 , 𝑥2 、財の価格を 𝑝 とすると、市 場全体の逆需要関数 𝐴′ 𝐵 ′ は、 𝑝 = 𝑎 − 𝑏(𝑥1 + 𝑥2 ), 𝑎, 𝑏 > 0 (3-7) と表される。 企業 𝑖 (𝑖 = 1,2) の総費用を 𝐶𝑖 = 𝑐𝑖 𝑥𝑖 (0 < 𝑐𝑖 < 𝑎)とすると、企業 𝑖 の利潤 𝜋𝑖 は、 𝜋𝑖 = 𝑓𝑖 (𝑥1 , 𝑥2 ) = 𝑝𝑥𝑖 − 𝑐𝑖 𝑥𝑖 (3-8) と表される。 先述したように、複占企業は、競争相手企業の供給量を一定として行動する ので、企業 1 は、(3-7),(3-8)より、利潤最大化の一階条件 𝑑𝜋1 𝑑 [{𝑎 − 𝑏(𝑥1 + 𝑥2 )𝑥1 } − 𝑐1 𝑥1 ] = 𝑑𝑥1 𝑑𝑥1 = 𝑎 − 2𝑏𝑥1 − 𝑏𝑥2 − 𝑐1 (3-9) =0 を満たすような 𝑥1 を決定する。つまり、企業 1 は、企業 2 の供給量 𝑥2 に反応 して、限界収入と限界費用が等しくなるような 𝑥1 を決定する。 9 よって、企業 1 の反応関数は、 (3-9)より、 𝑥1 = 𝑎 − 𝑐1 𝑥2 − 2𝑏 2 (3-10) となる。 同様にして、企業 2 の反応関数は、 𝑥2 = 𝑎 − 𝑐2 𝑥1 − 2𝑏 2 (3-11) となる。 したがって、クールノー均衡における二企業の供給量は、(3-10),(3-11)より、 𝑎 − 2𝑐1 + 𝑐2 3𝑏 𝑎 + 𝑐1 − 2𝑐2 𝑥2∗ = 3𝑏 𝑥1∗ = (3-12) (3-13) となる。このとき、二企業の財の価格と企業の利潤は、 𝑎 + 𝑐1 + 𝑐2 3 (3-14) 𝜋1∗ = (𝑎 − 2𝑐1 + 𝑐2 )2 9𝑏 (3-15) 𝜋2∗ = (𝑎 + 𝑐1 − 2𝑐2 )2 9𝑏 (3-16) 𝑝∗ = となる。 図 4 より、クールノー均衡は、市場全体の需要曲線 𝐴′ 𝐵 ′ と直線 𝑆 の交点 𝑅 で示される。𝑐 = 𝑐1 = 𝑐2 , 𝑥∗′′ = 𝑥1∗ + 𝑥2∗ とすると、クールノー均衡は、 2(𝑎 − 𝑐) 3𝑏 𝑎 + 2𝑐 𝑝∗ = 3 𝑥∗′′ = (3-17) (3-18) となる。このとき、各企業の供給量は𝑥1∗ = 𝑥2∗ = 𝑥∗ 、各企業の利潤は 𝑝∗ 𝑃𝑄𝑐 と なり、消費者余剰は 𝐴′ 𝑅𝑝∗ となる。 10 ここで、𝑥2 = 0 のとき、つまり、この市場が企業 1 の独占状態であるとき、 その総供給量と価格は、(3-10)より、 𝑎−𝑐 2𝑏 𝑎+𝑐 𝑝∗′ = 2 𝑥∗′ = (3-19) (3-20) となる。これは、図 4 の𝑃′ 点で表され、このときの消費者余剰は、𝐴′ 𝑃′ 𝑝∗′ であ る。したがって、𝑅 点と𝑃′ 点より、クールノー複占市場では、独占市場のケー スに比べて、価格は下がり、数量は増え、消費者余剰は増大する。 以上では、企業 1 と企業 2 の限界費用が等しく一定であることを仮定し、一 般的なクールノー競争の分析を行った。ここで、限界費用が異なるケースを仮 定して、以下に同様の分析を行う。 図 5 より、𝑐1 > 𝑐2 とすると、二企業の限界費用曲線は、それぞれ直線 𝑔1 , 𝑔2 で表される。市場全体の需要曲線は、直線 𝐴′ 𝐵 ′ であり、クールノー曲線は、そ れぞれ、直線 𝑠1 、直線 𝑠2 である。𝑠1 と 𝑠2 の合計が、複占市場全体の供給曲線 𝑆 であり、点 𝑆 ′ で折れている。同様にしてクールノー均衡は、供給量 𝑥∗′′ 、価 格 𝑝∗ と求められ、点 𝑅 で示される。このとき、消費者余剰は𝐴′ 𝑅𝑝∗ である。ま た、クールノー均衡を達成する企業 1 の供給量は 𝑥1∗ 、企業 2 の供給量は 𝑥2∗ と なり、𝑥1∗ < 𝑥2∗ である。つまり、限界費用の低い企業の方がより多く供給する ことがわかる。 ここで、この市場が企業 1 による独占状態のとき、独占均衡は 𝑃′ 点で示され、 均衡供給量と価格は、それぞれ 𝑥1′ , 𝑝∗′ であり、消費者余剰は、𝐴′ 𝑃′ 𝑝∗′ となる。 しかし、この独占市場に限界費用が低い企業が参入し複占状態になると、総供 給量は 𝑥1′ から 𝑥∗′′ に増加し、価格は 𝑝∗′ から 𝑝∗ に減少する。これによって消費 11 者需要は、𝐴′ 𝑃′ 𝑝∗′ から 𝐴′ 𝑅𝑝∗ に増大する。一方で、企業 1 の供給量は 𝑥1′ から 𝑥1∗ に減少する。 限界費用が異なるケースにおいては、企業 2 の平均(限界)費用が、企業 1 の独占価格より低いことから、企業 2 の市場参入が可能となり、その結果、上 記のようなクールノー競争が展開された。しかし、企業 1 よりも限界(平均) 費用が低い企業 2 は、企業 1 とクールノー競争を展開するよりも、それを市場 から排除できる価格を設定することによって、クールノー均衡における利潤よ りも高い利潤を獲得できる可能性が考えられる。このとき、企業 2 は供給量の 価格を企業 1 の平均費用 𝑐1 より低い値に設定することで、企業 1 とのクールノ ー競争下における企業 2 の利潤 𝑝∗ 𝑈𝑓𝑐2 よりも、企業 1 を市場から排除したとき に得られる利潤が大きくなる。図 5 において、企業 1 は、例えば価格 𝑐1 (正確 には、これより僅かに低い価格)、供給量𝑥2𝑐 となる点 𝑇 を選択した場合、利潤 𝑐1 𝑇𝑑𝑐2 を得られる。この利潤を 𝜋2𝑐 とすると、 𝜋2𝑐 = (𝑎 − 𝑐1 )(𝑐1 − 𝑐2 ) 𝑏 (3-21) となる。よって、クールノー均衡における企業 2 の利潤は、(3-16)より 𝜋2∗ であ ることから、企業 2 が企業 1 を市場から排除する条件は、 𝜋2𝑐 − 𝜋2∗ (𝑎 + 𝑐1 − 2𝑐2 )2 (𝑎 − 𝑐1 )(𝑐1 − 𝑐2 ) = − 9𝑏 𝑏 (𝑎 − 5𝑐1 + 4𝑐2 )(𝑎 − 2𝑐1 + 𝑐2 ) = >0 9𝑏 (3-22) したがって、 1< 𝑎 − 𝑐1 <4 𝑐1 − 𝑐2 のときである。 12 (3-23) (3-23)を満たすとき、企業 2 は、企業 1 を市場から排除するだけでなく、市 場を独占し、独占利潤を獲得する可能性が考えられる。また、(3-23)は、企業 の市場参入を阻止する条件と等しい。ただし、以上のケースでは、固定費用を 考慮していないことから、企業は利潤機会がある限り常に参入を試みると考え られる。したがって、企業 2 は、企業の参入を阻止する価格戦略を採用し、市 場を占有すると考えられる。逆に、クールノー競争が行われるためには、以下 の条件 4< 𝑎 − 𝑐1 𝑐1 − 𝑐2 (3-24) が満たされる必要がある。したがって、上記のように限界費用の異なる企業を 仮定して、クールノー競争を分析するためには、(3-24)が満たされる必要があ る。 以上の経済理論から、バニラ・エアの限界費用が JAL より低いことを仮定し たとき、JAL が独占していた奄美路線に、バニラ・エアが参入し、複占状態に なった場合、次の影響が予想される。まず、バニラ・エアは、JAL に比べて限 界費用が低いことから、JAL よりも多くの供給量(輸送量)を得る。さらに、 奄美路線に参入企業数が増えることから、総供給量が増加して価格が下がり、 消費者余剰が増大する。これによって、旅客者が浮いた金額を現地消費に充て ることが十分可能となるならば、地域経済にプラス効果がもたらされる。一方 で、バニラ・エアの参入を受けて、JAL の供給量が減少する。条件(3-23)の とき、バニラ・エアは、JAL を市場から排除する可能性が考えられ、バニラ・ エアの独占市場に至るケースが考えられる。このとき、消費者余剰は元の水準 13 に戻り、複占状態に比べて、就航地域への経済効果を停滞させてしまう可能性 が考えられる。 Brander and Zhang (1993)によれば、LCC の限界費用は、一般的に FSC4に比 べて低い。さらに、竹林(2005)によれば、日本の LCC の限界費用は、欧米 に比べて、FSC との価格差が小さく、路線距離が長い程、FSC の限界費用に漸 近する傾向がある。これに従えば、本稿のケースでは、東京―奄美間のバニ ラ・エアと JAL の限界費用の差は小さいと考えられ、条件(3-23)は満たされ ない可能性が高いと考えられる。ゆえに、バニラ・エアと JAL が、クールノー 競争を正常に展開する限り、両社は市場に共存可能である。 以上の経済理論モデルの分析をふまえて、LCC 導入の効果について、実証分 析を行う。 4 Full service carrier : LCC に対して、JAL や ANA などの既存航空会社を意味する。 14 第 4 章 分析方法 4-1 使用データ 国土交通省による「航空輸送統計調査年報」の平成 24 年度~平成 26 年度の ものを使用した。同調査は、日本の航空運送事業や航空機使用事業の実態を明 らかにし、日本の経済政策と交通政策などを策定することを目的として行われ たものである。日本の航空運送事業者、航空機使用事業者を対象に、昭和 32 年 から平成 26 年まで毎月実施され、航空機稼働時間、燃料消費量、国内定期航空 運送事業輸送実績、国際航空運送事業輸送実績に関連する事項が報告されてい る。本稿がこのデータを使用した理由は、同調査にまとめられている「国内定 期航空路線別、区間別、月別運航及び輸送実績」から、空港間別の月別旅客数 のデータを使用できるためである。本稿の分析対象である、羽田-奄美、成田奄美、羽田-宮古、大阪-奄美の各空港間における旅客数を使用した。また、 2012 年 1 月~2014 年 12 月までの旅客数を使用し、東日本大震災の起きた 2011 年以前のデータは使用しなかった。 上記データを使用して、後述する差の差推定のトリートメントグループとコ ントロールグループの月別旅客数のパネルデータをセットした。特に、東京-奄 美間の旅客数においては、東京地域から奄美への旅客輸送に関心があることか ら、羽田、成田の旅客数を合わせて、「東京」として扱っている。よって、成 田-奄美間の旅客数が観察されたのは、バニラ・エアが就航した 2014 年 7 月以 降であったため、LCC 就航以前の 2012 年 1 月~2014 年 6 月の東京-奄美間の 旅客数は、羽田-奄美間のものを使用している。 15 4-2 差の差推定 本稿では、差の差推定を用いた分析を行う。差の差推定では、LCC 就航の影 響を受けたグループをトリートメントグループ、LCC 就航の影響を受けていな いが、それ以外の点ではトリートメントグループと同質のグループをコントロ ールグループとして分析を行う。 まず、トリートメントグループについて、LCC が就航する前と就航した後の 時点で旅客数を比較し、LCC 就航が旅客数に与える効果を推定するケースを考 える。この場合、以下の式を推定することになる。 𝑦𝑖𝑡 = 𝛽0 + 𝛽1 𝐴𝑓𝑡𝑒𝑟𝑖 + 𝑢𝑖𝑡 (4-1) ここで、添え字 i は地域、t は時点を表し、𝑦𝑖𝑡 は旅客数、𝐴𝑓𝑡𝑒𝑟𝑖 は、LCC 就 航前の時点であれば 0、LCC 就航後の時点であれば 1 となるダミー変数である。 𝛽0 、𝛽1 は推定するパラメーターである。 (4-1)を推定した場合、仮に 𝛽1 の推定値がプラスになったとしても、LCC 就 航が旅客数を増加させたとは限らない。旅客数が増加した要因が、LCC 就航に よるものかどうかは定かではない。例えば、LCC 就航と同時期に、景気回復や 国民所得増加などのマクロ経済的なショック、観光政策の促進など国レベルの 政策の変更が発生したとする。このような場合、𝛽1が LCC 就航の効果であるの か、マクロショックもしくは国レベルの政策効果であるのか、どちらを表して いるのか識別できない。したがって、LCC 就航が旅客数に対してプラスの影響 を与えたとは限らない。 16 次に、LCC 就航後の時点において、トリートメントグループとコントロール グループの旅客数の違いを推定するケースを考える。この場合は、以下の式を 推定する。 𝑦𝑖𝑡 = 𝛽0 + 𝛽1 𝑇𝑟𝑒𝑎𝑡𝑚𝑒𝑛𝑡𝑖 + 𝑢𝑖𝑡 (4-2) ここで、𝑇𝑟𝑒𝑎𝑡𝑚𝑒𝑛𝑡𝑖 は、トリートメントグループならば 1、コントロールグ ループならば 0 をとるダミー変数である。 仮に、𝛽1 の推定値がプラスだったとすると、トリートメントグループは、 コントロールグループに比べて旅客数が増加したという解釈になる。ただし、 旅客数の違いは LCC の効果によるものなのか、二つの地域において元々存在す る違いによるものなのかは不明であり、この推定結果から LCC 就航によって旅 客数が増加したとは限らない。 以上の二つのケースをふまえて、トリートメントグループとコントロールグ ループの LCC 就航前後の旅客数を比較するケースが、差の差推定の考え方であ る。このとき、以下の値を求めることで、LCC の効果を推定する。 LCC の効果=A-B (4-3) A は、トリートメントグループにおける LCC 就航前後の旅客数の変化を表し ており、B は、コントロールグループにおける LCC 就航前後の旅客数の変化を 表している。理想的には、トリートメントグループで LCC が就航していない場 合の旅客数を比較に用いたいが、現実にはそれを観察することはできないため、 反実仮想の状態に代わるコントロールグループを設定する。つまり、もし LCC が就航しなかったら観察されたであろう旅客数を補完しうる別地域を選び、 LCC 導入の効果を推定可能にする。ゆえに、差の差推定においては、推定量の 17 バイアスを避けるために、LCC 就航の影響を受けない場合のトリートメントグ ループの旅客数の変化が、コントロールグループの LCC 就航前後の旅客数の変 化と等しいという、平行トレンドを仮定する必要がある。これによって、上記 の二つのケースで問題になった観察不可能なショックや属性による要因を取り 除くことができる。なお、差の差推定量が 0 であるという帰無仮説の検定を行 うために、標準誤差を計算する必要がある。そこで、以下の回帰式を OLS 推定 する。 𝑦𝑖𝑡 = 𝛽0 + 𝛽1 𝑇𝑟𝑒𝑎𝑡𝑚𝑒𝑛𝑡𝑖 + 𝛽2 𝐴𝑓𝑡𝑒𝑟𝑖 + 𝛽3 𝑇𝑟𝑒𝑎𝑡𝑚𝑒𝑛𝑡𝑖 𝐴𝑓𝑡𝑒𝑟𝑖 + 𝑢𝑖𝑡 (4-4) パラメーターの解釈は以下の通りである。𝛽0 は、コントロールグループにお ける LCC 就航前の旅客数の平均を表している。𝛽1 は、トリートメントグルー プとコントロールグループの旅客数に対して、LCC 就航前から就航後にかけて 共通の影響を与えた要因の効果を表している。𝛽2 は、LCC 就航前から存在す るトリートメントグループとコントロールグループの属性の違いによる効果を 表している。𝛽3 は、LCC 導入による効果を表している。したがって、最も関 心のある差の差推定量は、𝑇𝑟𝑒𝑎𝑡𝑚𝑒𝑛𝑡𝑖 と𝐴𝑓𝑡𝑒𝑟𝑖 の交差項の係数である。 LCC 導入前 LCC 導入後 差 𝛽0 + 𝛽1 𝛽0 + 𝛽1 + 𝛽2 + 𝛽3 𝛽2 + 𝛽3 𝛽0 𝛽0 + 𝛽2 𝛽2 差の差 トリートメント グループ コントロール グループ 18 𝛽3 第 5 章 実証分析-LCC 導入と旅客数の変化- 以下では、奄美大島の LCC 導入は、東京-奄美間の旅客数を増加させたとい う仮説を検証する。 東京-奄美間の旅客数をトリートメントグループとする。コントロールグルー プとしては、沖縄県の宮古島に着目し、東京-宮古間の旅客数を設定した。宮古 島は、奄美大島と同様に、地域活性化をモチベーションとしている地域である。 さらに、東京-宮古間は、JAL グループの JTA(日本トランスオーシャン航空) のみが、運航している路線であり、東京-奄美間に LCC が就航した 2014 年 7 月 以降も未だ LCC が就航していない路線である。 なお、航空運賃について、JAL のプレスリリースによれば、LCC 就航以前の 東京-奄美間の普通運賃は、46,200 円~48,400 円(片道)であり、往復割引運 賃は、41,600 円~43,600 円となっていた。東京-宮古間の LCC 就航以前の普 通運賃は、55,000 円~57,700 円、往復割引運賃は、47,700 円~50,000 円であ り、LCC 就航後の普通運賃は、62,000 円~64,600 円、往復割引運賃は、54,050 円~56,650 円となっていた。LCC 就航後の東京-奄美間のバニラ・エアの運賃 は、8,000 円となっている。 図 6 は、差の差推定が仮定する二つのグループの平行トレンドを確認するた めに、それぞれの 2012 年 1 月~2014 年 12 月における旅客数の推移を示したも のである。LCC が就航した 2014 年 7 月以前の時点では、東京-奄美間の旅客数 と東京-宮古間の旅客数は、同じような変動をしていることが観察できる。いず 19 れの区間の旅客数も、毎年 7 月から 9 月の夏季に増加傾向が見られ、12 月の冬 季にかけて減少傾向が見られる。 推定式は以下のとおりである。 𝑦𝑖𝑡 = 𝛽0 + 𝛽1 𝑇𝑟𝑒𝑎𝑡𝑚𝑒𝑛𝑡𝑖 + 𝛽2 𝐴𝑓𝑡𝑒𝑟𝑖 + 𝛽3 𝑇𝑟𝑒𝑎𝑡𝑚𝑒𝑛𝑡𝑖 𝐴𝑓𝑡𝑒𝑟𝑖 +𝐷1 + ⋯ + 𝐷6 + 𝐷8 + ⋯ + 𝐷12 + 𝑢𝑖𝑡 (5-1) 被説明変数は、2012 年 1 月~2014 年 12 月における東京-奄美間、東京-宮 古間の月別旅客数である。変数の値は、「航空輸送統計年報」の国内定期航空 路線別、区間別、月別運航及び輸送実績における羽田-奄美間、成田-奄美間、 羽田-宮古島間の旅客数を用いた。 説明変数について、𝑇𝑟𝑒𝑎𝑡𝑚𝑒𝑛𝑡𝑖 は、「奄美ダミー」を表しており、東京-奄 美間の旅客数のとき 1、東京-宮古間の旅客数のとき 0 をとるダミー変数であ る。 𝐴𝑓𝑡𝑒𝑟𝑖 は、「LCC 就航時点ダミー」を表しており、LCC が就航した 2014 年 7 月以降の月のとき 1、就航以前の月のとき 0 をとるダミー変数である。なお、 LCC 就航「告知」5は、2014 年 4 月であるが、対象路線の旅客数がデータで観 察された時点は、就航「開始」時点の 2014 年 7 月であったため、本分析では、 就航時点を 2014 年 7 月と定めた。 5 バニラ・エアは、2014 年 4 月 4 日の同社プレスリリースで、成田-奄美路線就航を告知 している。 20 𝐷1 , … , 𝐷6 , 𝐷8 , … , 𝐷12 は、それぞれ「月ダミー」を表しており、例えば、1 月の とき 1、その他の月のときは 0 をとるダミー変数を、1 月~12 月まで変数にと ったものである。これは、各月ごとに旅客数が変動する影響を制御するために 入れた。分析では、7 月をベースとして、それ以外の月ダミーを変数に入れた。 21 第 6 章 分析結果 6-1 分析結果及び解釈 表 1 は、東京―奄美間と東京―宮古間の LCC 就航前後の旅客数に関する記述 統計量を表しており、表 2 は、上記の差の差推定式の OLS の結果を表してい る。表 1 の値は、旅客数の月平均値である。LCC 就航前後でトリートメントグ ループとコントロールグループの旅客数の差の差をとった値が正であることか ら、LCC の導入が東京‐奄美間の旅客数を増加させたことがわかる。さらに、 表 2 より、差の差推定量が統計的に有意であるかどうかを確かめるために、標 準誤差を計算した推定結果を見ると、「奄美ダミー×LCC 就航時点ダミー」の 係数は、正であり、1%水準で統計的に有意であることがわかった。したがっ て、奄美大島に LCC を導入することによって、旅客数は月間約 6,300 人増加 し、就航前に比べて 1.94 倍に増加したことがわかった。 以上の分析は、宮古島をコントロールグループに設定して行ったものである。 しかし、仮に、奄美大島の LCC 就航によって、宮古島に行こうとしていた者 が、旅行先を奄美大島に変更した場合、LCC 就航の効果が過大に推定されてし まう可能性が考えられる。この問題を考慮して、新たに大阪-奄美間の旅客数 をコントロールグループに設定し、分析を行った。大阪-奄美間は、東京-奄 美間と同様に都市部から奄美大島へ運航している路線である。さらに、大阪- 奄美間は、JAL のみが運航している路線であり、東京-奄美間に LCC が就航し た 2014 年 7 月以降も未だ LCC が就航していない路線である。なお、航空運賃 については、JAL のプレスリリースによれば、大阪-奄美間の LCC 就航以前の 22 普通運賃は、36,200 円~38,400 円、往復割引運賃は、32,500 円~34,100 円で あり、LCC 就航後の普通運賃は、40,500 円~43,100 円、往復割引運賃は、 36,500 円~3,8300 円となっていた。 図 7 は、2012 年 1 月~2014 年 12 月までの東京―奄美間の旅客数と、大阪― 奄美間の旅客数の推移を表している。大阪-奄美路線は、毎年 8 月のみ一日二 便運航されているため、毎年 8 月の旅客数のみ一便あたりの値で表されている。 LCC が就航した 2014 年 7 月以前の時点における東京-奄美間の旅客数と大阪 -宮古間の旅客数の推移から、トリートメントグループとコントロールグルー プの平行トレンドを仮定した。 分析モデルは、(5-1)を用いる。被説明変数は、2012 年 1 月~2014 年 12 月における東京-奄美間、大阪-奄美間の月別旅客数である。同様に変数の値 は、「航空輸送統計年報」の国内定期航空路線別、区間別、月別運航及び輸送 実績における各空港間の旅客数を用い、特に、大阪‐奄美間の毎年 8 月の旅客 数のみ便数あたりの値に計算している(以降の分析でも同様である)。 説明変数については、𝑇𝑟𝑒𝑎𝑡𝑚𝑒𝑛𝑡𝑖 は「東京ダミー」を表しており、東京-奄 美間の旅客数のとき 1、大阪-奄美間の旅客数のとき 0 をとるダミー変数であ る。その他の説明変数は、先述したものと同義である。 表 3 は、東京―奄美間と大阪―奄美間の LCC 就航前後の旅客数に関する記述 統計量を表しており、表 4 は、差の差推定式の OLS 推定結果を表している。表 3 の値は、旅客数の月平均値である。LCC 就航前後でトリートメントグループ とコントロールグループの旅客数の差の差をとった値が正であることから、 LCC の導入が東京‐奄美間の旅客数を増加させたことがわかる。さらに、表 4 23 より、「東京ダミー×LCC 就航時点ダミー」の係数は、正であり、1%水準で統 計的に有意であることがわかった。したがって、奄美大島に LCC を導入するこ とによって、旅客数は月間約 7,400 人増加し、就航前に比べて約 2.1 倍に増加 したことがわかった。このことから、宮古島をコントロールグループとして設 定した推定結果が、LCC 就航の効果を過大に評価しているとは限らないことが 示された。ここで、大阪-奄美間の旅客数をコントロールグループとして設定 した場合においても、推定結果にバイアスが生じている可能性は否定できない。 今まで奄美大島に行くために大阪の伊丹空港を利用していた者が、LCC 就航に よって、成田空港を利用するようになった場合、LCC 就航の効果は過大に推定 されると考えられる。しかし、以上の二つのコントロールグループを設定した 推定結果が整合的であることから、推定量がバイアスから生じたものであると は考えにくい。 以上の分析結果をふまえて、バニラ・エア就航によって、東京-奄美間の旅 客数は約 2 倍増加したと考えられる。渡辺(2014)によれば、2014 年 7 月~ 12 月の東京‐奄美間(直行便)の旅客数は、対前年同期間に比べて、月平均で 約 7,300 人増加し、旅客数は 1.92 倍に増加したことがわかった。このことから、 本稿で得られた分析結果は、国土交通政策研究所の推計結果と整合的であると 考えられる。また、鹿児島県の観光統計によると、2014 年の奄美群島への入域 者数は月間約 43,500 人である。本稿の分析結果より、LCC 導入によって、東 京―奄美間の旅客数が月間約 6,700 人増加したとすると、LCC 導入による増加 分は、入域者数全体に対して、約 15.4%の大きさを占めていることになり、 LCC 導入のインパクトが大きいことがわかる。 24 6-2 LCC 導入と経済効果 国土交通政策研究所は、LCC 導入が地域に及ぼす経済効果について、定量的 な推計方法を示している。それによれば、LCC による経済効果(直接効果)は、 図 8 に示すように、LCC が就航しなければ来なかった旅客による経済効果とな る。LCC 利用者でも FSC や他の交通機関からの転換分は経済効果として計上 しないとしている。直接効果の算出式は以下のとおりである。 直接効果=LCC が就航しなければ来なかった入込客数×旅行中消費額 ×当該県への滞在率 (6-1) 「旅行中消費額」及び「当該県への滞在率」は、国土交通省が、LCC 利用者 へアンケート調査を行った結果を用いている。「LCC が就航しなければ来なか った入込客数」は以下の式で算出される。 LCC が就航しなければ来なかった入込客数 =LCC 利用者×1/2×入込客割合×(LCC 新規誘発需要の 割合+他地域からの転換需要の割合) (6-2) 「LCC 利用者数」は国土交通省の推計方法で算出したものであり、旅行の往 復ともに人数としてカウントしているが、経済効果への算出に用いるのは旅行 者数であることから 2 で割っている。 「入込客割合」、「LCC 新規誘発需要の割 25 合」、「他地域からの転換需要の割合」はいずれも LCC 利用者アンケート調査に よって得られた結果を用いている。 国土交通政策研究所が、新千歳空港、松山空港、大分空港を対象に、地方空 港の LCC 導入による経済効果を定量的に推計した結果、LCC は、就航地域に 相当の経済効果をもたらすことが示された。 本稿では、奄美大島を対象とした旅行中消費額、LCC 入込客の滞在率、LCC 新規誘発需要の割合、他地域からの転換需要の割合に関するデータを得ること ができなかったため、バニラ・エアによる定量的な経済効果の推計は行ってい ない。定性的な経済効果については、渡辺ら(2014)が、自治体、観光協会な どにヒアリング調査をした結果をまとめている。それによれば、具体的に次の ような変化がもたらされたことがわかった。宿泊施設の稼働率の向上、地元企 業の経済効果の実感、旅行商品の増加が見られ、在京メディアのロケ、高校生 の部活などの合宿が行われるようになった。また、若年層や個人客が増加し、 小規模宿泊施設の利用者数、レンタカー、レンタバイク利用者数が増加、地元 の食堂や居酒屋などでの消費が増加したことがわかった。 確かに、地方空港の LCC 導入は、旅客数の増加だけでなく、若年層や個人客 などの FSC とは異なる客層を増加させることから、新たな観光需要をもたらす 可能性がある。しかし、LCC 利用者の消費額が FSC 利用者に比べ小さい可能 性や、逆に LCC 利用により浮いたお金を旅行中の他の消費に回す可能性が考え られる。しかし、国土交通政策研究所によれば、LCC 就航に伴う経済効果は、 LCC 就航期間中は継続的に発生する。そのため、地域にとっては、LCC が長 期的に運航することがより望ましい。しかしながら、村上(2008)によれば、 26 LCC と同一路線上の FSC との間で旅客数をめぐる競合が発生するならば、 LCC が撤退に陥る可能性が懸念される。LCC 参入によって、既存の FSC が航 空運賃を下げ、価格競争が発生すると、LCC は業績にダメージを被ることとな り、採算のとれない路線から撤退を余儀なくされるというメカニズムである。 確かに、価格競争による航空運賃の低価格化は、消費者に恩恵をもたらし、航 空需要を押し上げるという社会的にプラスの効果をもたらす側面もある。神末 ら(2014)は、スカイマークの宮古島参入が、航空運賃の下落をもたらし、航 空需要の拡大をもたらしたことを指摘している。しかし、LCC 撤退は、地域活 性化を停滞させてしまう恐れがあり、地域にとっては大きな問題となる。LCC 就航によって、観光需要増加を見込み、設備投資を積極的に行った観光産業に とっては、損害となってしまう可能性も考えられる。しかし、第 3 章で考察し たように、LCC と FSC がクールノー競争を展開するとき、仮にバニラ・エア の限界費用が JAL のそれより低いならば、JAL が市場から駆逐される可能性が 考えられる。いずれにせよ、地域経済にとっては、路線縮小と旅客需要の低下 が問題視される。したがって、LCC 参入と FSC の競合が引き起こす問題につ いて、奄美大島の事例で検証することは、意義がある。 27 第 7 章 実証分析-LCC 参入と競合路線の旅客数の変化- 以下では、バニラ・エア参入が、東京‐奄美間の JAL 路線の旅客数を減少さ せたという仮説を検証する。 図 9 は、2012 年 1 月~2014 年 12 月までの JAL の羽田―奄美間の旅客数と、 同じく JAL の大阪―奄美間の旅客数の推移を表している。これを見ると、2012 年 1 月から 2014 年 6 月までは、羽田‐奄美間の旅客数を示すグラフが、大阪 ‐奄美間の旅客数を示すグラフの概ね上の位置を推移していることがわかる。 しかしながら、2014 年 7 月に成田―奄美間にバニラ・エアが参入してからは、 羽田‐奄美間の旅客数を示すグラフが、大阪‐奄美間のそれより下の位置を推 移するようになったことがわかる。つまり、バニラ・エアの参入が JAL の羽田 ―奄美間の旅客数を減少させた可能性が考えられる。この仮説を検証するため に、同様に差の差推定法を用いる。羽田-奄美間の旅客数をトリートメントグ ループに、大阪-奄美間の旅客数をコントロールグループとして分析を行う。 なお、LCC 就航以前の JAL の羽田-奄美間の旅客数は、LCC 就航以前の東京 -奄美間の旅客数に等しいことから、同様に、トリートメントグループとコン トロールグループの平行トレンドを仮定する。 分析モデルは、(5-1)を用いる。被説明変数は、2012 年 1 月~2014 年 12 月 における羽田-奄美間、大阪-奄美間の月別旅客数である。説明変数について は、𝑇𝑟𝑒𝑎𝑡𝑚𝑒𝑛𝑡𝑖 は「羽田ダミー」を表しており、羽田-奄美間の旅客数のとき 1、大阪-奄美間の旅客数のとき 0 をとるダミー変数である。その他の説明変数 は、先述したものと同義である。 28 第 8 章 分析結果 8-1 分析結果及び解釈 表 5 は、羽田―奄美間と大阪―奄美間の月別旅客数に関する記述統計量を表 しており、表 6 は、モデルの推定結果を表している。表 5 の値は、旅客数の月 平均値である。表 5 より、LCC 就航前後でトリートメントグループとコントロ ールグループの旅客数の差の差をとった値が負であることから、バニラ・エア の参入が、JAL の羽田‐奄美間の旅客数を減少させたことがわかった。表 6 よ り、 「羽田ダミー×LCC 就航時点ダミー」の係数は、負であり、1%水準で統計 的に有意であることがわかった。したがって、東京‐奄美間にバニラ・エアが 参入したことによって、JAL の旅客数は月間約 1100 人減少し、参入前に比べて 約 17%減少したことがわかった。渡辺(2014)によれば、2014 年 7 月~12 月 における羽田‐奄美間(直行便)の月平均旅客数は、対前年同期間の月平均旅 客数に比べて、約 1250 人減少し、バニラ・エア参入によって、旅客数は約 16%減少したことがわかった。このことから、本稿の推定方法で得られた分析 結果は、国土交通政策研究所の推計結果と整合的であると考えられる。 29 8-2 LCC 参入と競争の実態 まず、バニラ・エア参入による奄美路線の航空運賃の変化について考える。 航空運賃は、利用クラス、航空券のタイプ、曜日、空席状況、原油価格といっ た外的要因など、多様な要因で日々変動している。企業が開示している観察可 能なデータから過去の航空運賃を見てみると、就航時のバニラ・エアの運賃は、 同社プレスリリースによれば、片道最安運賃で夏期 8,000 円~となっている。 一方、JAL の航空運賃のタイプは多様であり、大人普通運賃、小児普通運賃、 往復割引などの基本運賃や、シルバー割引、介護帰省割引などの利用者属性別 運賃、また、事前予約の日数が早いほど運賃が安くなる特便割引運賃、先得割 引運賃などが設けられている。JAL のプレスリリースによれば、バニラ・エア 参入前の 2012 年~2014 年 3 月までの東京―奄美間の航空運賃は、普通運賃 46,200 円~48,400 円(片道)、往復割引運賃 41,600 円~43,600 円で推移してい たが、バニラ・エア参入後に、対象路線に特便割引運賃や先得割引運賃が設け られており、その価格帯は 15,200 円~20,300 円となっていたことがわかった。 このことから、LCC 就航前後の東京―奄美間の運賃差は、最低価格で比較して、 約 7,000 円となり、LCC 就航前後の JAL の航空運賃差は、最低価格で比較し て、約 25,000 円となることがわかる。実際の両者の航空運賃について、国土交 通省が調査した結果を図 10 に示した。東京‐奄美間のバニラ・エアと JAL の 航空運賃を、両者の価格の下限で比較すると約 28,000 円の差となる。同調査に よれば、首都圏発着の LCC と FSC の下限運賃の平均運賃差が幹線で約 10,000 円、地方路線で約 17,000 円であることから、東京‐奄美路線は LCC と FSC の 30 運賃差が比較的大きい路線と考えられる。これは、LCC 就航以前まで、東京- 奄美路線が JAL1 社独占路線であったためだと考えられる。 航空運賃は、上記に示したように確かにばらつきがあるが、本稿の分析結果 と上記の運賃情報を用いることで、奄美路線における旅客需要の運賃弾力性を 計算することができる。LCC 就航前後の東京-奄美間の旅客数の変化が 2 倍で あることから、LCC 就航前後の旅客需要の変化率は 100%、国土交通省の調査 結果より LCC 就航前後の東京-奄美間の運賃差を 28,000 円と仮定すると、そ の運賃の変化率は、-78%となる。ゆえに、旅客需要の運賃弾力性は、1.28 と 求められる。このことから、バニラ・エア就航による航空運賃の下落が旅客数 の変化に与えるインパクトが大きいといえる。 では、奄美路線の航空運賃の下落によって、実際に、バニラ・エアと JAL の 競争はどのように行われたのか。図 11 は、LCC 就航以降におけるバニラ・エ アと JAL の旅客数の推移を示している。バニラ・エア旅客数(輸送量)の方が、 JAL 旅客数(輸送量)より多く、これは、バニラ・エアの限界費用が JAL のそ れより小さいと仮定したクールノーモデルと整合的である。さらに、バニラ・ エアと JAL 旅客数の差が、短期的に一定となっていることから、クールノー競 争が正常に行われていると考えられる。この場合、一方が路線撤退を余儀なく され、奄美路線が縮小するという可能性は低いと考えられる。また、JAL の運 賃低下の様相は、LCC 就航による供給の増加以外に、FSC ゆえに高級感を演出 することで、LCC との差別化戦略を図っている結果であるとも考えられる。つ まり、バニラ・エアを市場から排除できる低価格設定を行なうとは限らない。 31 以上より、バニラ・エア就航以降の観察期間が短いという問題があるが、奄美 路線においては、LCC と JAL が共存しうる可能性が高いと考えられる。 一方で、日本の LCC は、FSC との競争に敗れ、路線撤退を余儀なくされる 傾向にあるとの指摘がある。村上(2008)によれば、日本の LCC は、高額な 機体費用と燃料、整備支援を FSC に委託していることから、経費削減は人件費 となり、費用が割高となっている。そのため、思い切った低運賃設定は困難で あり、発着枠制限という外的要因と合わせて、需要が伸びにくい傾向が強い。 しかし、FSC の経営支援を受けて、財務的に優良である LCC が、親会社の FSC と競合しない路線で独自に事業を展開していくならば、LCC は存続する可能性 が高いと考えられる。バニラ・エアは、ANA から 100%出資を受けており、財 務体質が強い。さらに競合が JAL のみであり、ANA が参入していない路線上 で独自に事業を展開している。このことから、バニラ・エアは、奄美路線にお いて存続する可能性が高いと考えられる。また、航空会社が、営利企業である とは言え、地域に根差して行動していることもバニラ・エアと JAL の共存を可 能にしていると考えられる。バニラ・エア就航以降、奄美群島航空・航路運賃 軽減協議会が、奄美経済活性化をモチベーションとした「奄美群島交流需要喚 起対策特別事業」を実施し、奄美路線の運賃値下げを要請した。この要請に応 じて、JAL が割引運賃を設定した。この場合、本稿で行った推定結果は、地域 政策の効果を含んでいることになるため、LCC 導入効果が過大に推定されてい ることが考えられる。いずれにせよ、奄美路線においては、地域と航空会社が 一体となり、バニラ・エアと JAL が共存することによって、航空運賃が軽減し、 旅客需要が喚起され、地域経済の発展に寄与すると考えられる。 32 第 9 章 結論 本稿は、日本の地方空港への LCC 導入の効果を明らかにするために、奄美大 島を事例に、自然実験を行った。まず、航空輸送市場における複占クールノー 競争モデルを仮定し、東京―奄美間のバニラ・エア参入効果を理論的に分析し た。次に、LCC 就航前後の旅客数の変化について実証分析を行った。差の差推 定の結果、東京-奄美間の旅客数は月間約 2 倍増加し、国土交通省の推計と整合 的な結果となった。このことから、地方空港の LCC 導入は、旅客数の増加をも たらすことが示された。さらに、LCC の直接効果は、地域活性化をもたらす可 能性があることがわかった。一方、バニラ・エア参入後の競合路線の JAL の旅 客数の変化について、同様に差の差推定を行った結果、JAL の羽田-奄美間の旅 客数は、約 17%減少したことがわかり、国土交通省の推計と整合的な結果とな った。このことから、LCC 参入は、競合路線の旅客数を減少させることがわか った。実際に、LCC 就航前後で、奄美路線の航空運賃の下落が観察された。し かし、JAL とバニラ・エアにおける競争の実態は、クールノー競争と整合的で あると考えられることから、LCC と JAL が共存する可能性が示唆された。した がって、二企業の競争が正常に行われるならば、旅客需要の維持向上を通じた 地域活性化をもたらす可能性が高いと考えられる。以上より、日本の地方空港 への LCC 導入効果は、地域経済の発展と航空会社の共存を考慮することが重要 であると結論づけた。 33 謝辞 川口大司教授には、大変お世話になり、心から感謝申し上げます。丁寧にご 指導していただき、誠にありがとうございました。また、本論文の作成に助言 していただいたゼミナール同級生の方々にも感謝しています。ありがとうござ いました。 34 参考文献 1. Brander, J.A., and A. Zhang (1990), “Market conduct in the airline industry: An empirical investigation”, RAND Journal of Economics Vol.21 No.4, pp.567-83. 2. Brander, J.A., and A. Zhang (1993), “Dynamic oligopoly behavior in the airline industry”, International Journal of Industrial Organization, 11, 407-435. 3. 池間誠(1990)「クールノー均衡と参入阻止:クールノー線による図解」 『一橋論叢』103(6),638-652 4. 神松武彦・加藤彰(2014)「運賃競争による新規航空需要の拡大と地域活性 化に関する研究-那覇・宮古路線をケーススタディとして-」『共栄大学研 究論集』 12 号 101‐118 5. 竹林幹雄(2005)「わが国国内航空旅客輸送市場への LCC 参入に関する一 考察」、土木計画学研究・講演集、No.31,CD-ROM,2005 6. 橋本安男・屋井鉄雄・伊藤誠(2014)「地方航空路線の撤退要因と維持・拡 充に係る研究」、『運輸政策研究 Vol.17 No.3 2014 Autumn』2~14 頁 7. 村上英樹(2008)「日本の LCC 市場における競争分析:米国の LCC 事例を 参考に」『日本大学経済学部経済科学研究所紀要』 p.83~p.95 8. 渡辺伸之介(2015)「LCC 参入による地方路線活性化と地域経済への影響~ 奄美大島の事例紹介~」、『国土交通政策研究』、56 号 35 9. 渡邊麗・斎藤優太・源野雄輔・東本靖史・鈴木聡士(2013)「地域間誘因潜 在度を考慮した LCC 導入の新規需要誘発効果分析」、『土木学会北海道支部 論文報告集』第 69 号 部門 D-17 10. 「LCC 参入による地域への経済波及効果に関する調査研究」 国土交通政策研究所 国土交通政策研究第 122 号 36 国土交通省 付表 図 1 日本の国内線旅客数の推移 国内定期旅客数の推移(暦年) 120,000 100,000 旅 客 数 ( 千 人 ) 80,000 60,000 40,000 20,000 0 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 合計 出所:国土交通省 ローカル 「航空輸送統計調査」 37 幹線 図 2 独占市場モデル 価 格 𝑝 𝐴 𝑝∗ 𝑃 𝜋 𝑐 𝑄 𝑔 𝑥∗ 𝑟 数量 𝑥 𝐵 図 3 クールノー曲線 価 格 𝑝 𝑠 𝐴′ 𝐴 𝑝∗′ 𝑝∗ 𝑃′ 𝜋′ 𝑃 𝜋 𝑐 𝑔 𝑥 ∗ 𝑟 𝑥 ′∗ 𝑟′ 38 𝐵 𝐵′ 数量 𝑥 図 4 複占市場におけるクールノーモデル 価 格 𝑝 𝑠 𝐴′ 𝐴 𝑆 𝑝∗′ 𝑃′ 𝑃 𝑝∗ 𝑅 𝑝 𝑄 𝑐 𝑥∗ 𝑔 𝑥∗′′ 𝑥 ′∗ 数量 𝑥 𝐵′ 𝐵 図 5 限界費用が異なる複占企業のクールノー競争 価 格 𝑝 𝑠1 𝐴′ 𝑝∗′ 𝑝∗ 𝑠2 𝑃′ 𝑆 𝑈 𝑃 𝑅 𝑆′ 𝑐1 𝑒 𝑓 𝑐2 𝑥1∗ 𝑥1′ 𝑥2∗ 𝑇 𝑑 𝑔1 𝑔2 𝑥∗′′ 𝑥2𝑐 39 𝐵′ 数量 𝑥 2012,1 2012,2 2012,3 2012,4 2012,5 2012,6 2012,7 2012,8 2012,9 2012,10 2012,11 2012,12 2013,1 2013,2 2013,3 2013,4 2013,5 2013,6 2013,7 2013,8 2013,9 2013,10 2013,11 2013,12 2014,1 2014,2 2014,3 2014,4 2014,5 2014,6 2014,7 2014,8 2014,9 2014,10 2014,11 2014,12 図 6 東京-奄美間、東京-宮古間の月別旅客数の推移 区間別月別旅客数の推移 18000 16000 14000 旅 客 数 ( 人 ) 12000 10000 8000 6000 4000 2000 0 東京‐奄美 出所:国土交通省 「航空輸送統計調査」 40 東京‐宮古 表 1 記述統計量(東京‐奄美間、東京-宮古間の LCC 就航前後の旅客数) 東京‐奄美 月平均旅客数 LCC 就航前 LCC 就航後 差 (2012~2014,6) (2014,7~12) 6722.4 13767.8 7045.4 [766.2] [1911.0] (455.6) 5919.3 6668.0 748.7 [1260.6] [1552.2] (584.8) 東京‐宮古 月平均旅客数 差の差 6296.7 [ ]は、標準偏差、( )は、標準誤差を表している。 41 表 2 LCC 就航前後の東京-奄美間の旅客数の変化( vs 東京-宮古) 月別旅客数 東京‐奄美 奄美ダミー×LCC就航時点ダミー 6,297*** (463.8) 奄美ダミー 803.1*** (189.3) LCC就航時点ダミー 346.5 (347.8) 定数項 6,996*** (325.6) ( 観察数 72 決定係数 0.925 )は、標準誤差である。 *** p<0.01, ** p<0.05, * p<0.1 月ダミー変数の結果は省略した。 42 2012,1 2012,2 2012,3 2012,4 2012,5 2012,6 2012,7 2012,8 2012,9 2012,10 2012,11 2012,12 2013,1 2013,2 2013,3 2013,4 2013,5 2013,6 2013,7 2013,8 2013,9 2013,10 2013,11 2013,12 2014,1 2014,2 2014,3 2014,4 2014,5 2014,6 2014,7 2014,8 2014,9 2014,10 2014,11 2014,12 旅客数(人) 図 7 東京-奄美間、大阪-奄美間の月別旅客数の推移 区間別月別旅客数の推移 18000 16000 14000 12000 10000 8000 6000 4000 2000 0 東京‐奄美 出所:国土交通省 「航空輸送統計調査」 43 大阪‐奄美 表 3 記述統計量(東京‐奄美間、大阪-奄美間の LCC 就航前後の旅客数) 東京‐奄美 月平均旅客数 LCC 就航前 LCC 就航後 差 (2012~2014,6) (2014,7~12) 6722.4 13767.8 7045.4 [766.2] [1911.0] (455.6) 6224.7 5899.8 -325.0 [847.3] [431.4] (357.7) 大阪‐奄美 月平均旅客数 差の差 7370.4 [ ]は、標準偏差、( )は、標準誤差を表している。 44 表 4 LCC 就航前後の東京-奄美間の旅客数の変化(vs 大阪-奄美) 月別旅客数 東京‐奄美 東京ダミー×LCC就航時点ダミー 7,370*** (405.7) 東京ダミー 497.7*** (165.6) LCC就航時点ダミー -505.2 (304.3) 定数項 6,581*** (284.9) ( 観察数 72 決定係数 0.935 )は、標準誤差である。 *** p<0.01, ** p<0.05, * p<0.1 月ダミー変数の結果は省略した。 45 図 8 経済効果の推計方法の概念図 LCC が就航しなければ来なかった入込客数 LCC 就航前の入客込 経済波及効果 LCC 就航後の入客込 直接効果 FSC FSC LCC が就航しなければ 転換需要(FSC→LCC) + 転換需要(他モード→LCC) 生産誘発額 他地域からの転換需要 LCC LCC 新規誘発需要 来なかった旅客 (1 次) + 生産誘発額 (2 次) <算出式> LCC 旅客数×1/2×入込客の割合×LCC 新規需要と他地域からの転換需要の割合 × 旅行中消費額 × 産業連関分析 LCC 入込客の都道府県別滞在率 出所:国土交通政策研究所 「LCC 参入による地域への経済波及効果に関する調査研究」 46 2012,1 2012,2 2012,3 2012,4 2012,5 2012,6 2012,7 2012,8 2012,9 2012,10 2012,11 2012,12 2013,1 2013,2 2013,3 2013,4 2013,5 2013,6 2013,7 2013,8 2013,9 2013,10 2013,11 2013,12 2014,1 2014,2 2014,3 2014,4 2014,5 2014,6 2014,7 2014,8 2014,9 2014,10 2014,11 2014,12 図 9 JAL の区間別月別旅客数の推移 JALの月別区間別旅客数の推移 18000 16000 14000 旅 12000 客 数 ( 人 ) 10000 8000 6000 4000 2000 0 羽田‐奄美 出所:国土交通省 「航空輸送統計調査」 47 大阪‐奄美 表 5 記述統計量(羽田‐奄美間、大阪-奄美間の LCC 就航前後の旅客数) 羽田‐奄美 月平均旅客数 LCC 就航前 LCC 就航後 差 (2012~2014,6) (2014,7~12) 6722.4 5253.3 -1469.1 [766.2] [886.1] (351.1) 6224.7 5899.8 -325.0 [847.3] [431.4] (357.7) 大阪‐奄美 月平均旅客数 差の差 -1144.1 [ ]は、標準偏差、( )は、標準誤差を表している。 48 表 6 LCC 就航前後の JAL の旅客数の変化 月別旅客数 羽田‐奄美 羽田ダミー×LCC就航時点ダミー -1,144*** (328.1) 羽田ダミー 497.7*** (134.0) LCC就航時点ダミー -505.2** (246.1) 定数項 6,495*** (230.4) ( 観察数 72 決定係数 0.725 )は、標準誤差である。 *** p<0.01, ** p<0.05, * p<0.1 月ダミー変数の結果は省略した。 49 図 10 東京-奄美間の航空運賃 東京-奄美間の航空運賃 60000 50000 52,090 46,990 40000 37,200 36,600 30000 35,800 20000 13,500 10000 11,000 10,500 8,000 0 バニラ・エア バニラ・エア コミコミバニラ シンプルバニラ 出所:国土交通政策研究所 JAL JAL JAL JAL 普通運賃 往復割引 特便割引1 特便割引7 「LCC 参入による地域への経済波及効果に関する調査研究」 50 図 11 バニラ・エアと JAL の旅客数の推移 企業別月別旅客数の推移 18000 16000 14000 旅 12000 客 数 ( 人 ) 10000 8000 6000 4000 2000 0 2014,7 2014,8 2014,9 バニラ・エア 出所:国土交通省 「航空輸送統計調査」 51 2014,10 JAL 2014,11 2014,12