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第二回 今後の電子・情報産業の技術開発プロジェクトの 在り方を考える

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第二回 今後の電子・情報産業の技術開発プロジェクトの 在り方を考える
第二回
今後の電子・情報産業の技術開発プロジェクトの
在り方を考える検討会
議事要旨
NEDO 電子・情報技術開発部
日時:平成 21 年 12 月 14 日(月) 10:00~12:00
場所:TKP 虎ノ門ビジネスセンター3 階
参加者
安宅委員、小川委員、川本委員、佐藤委員、下川委員、下東委員、
中島委員(座長)、藤村委員、甕委員、渡辺委員
議題
(1)開会
(2)我が国電子・情報通信産業が置かれた経営環境と技術プロジェクトの在
り方について(小川委員発表)
(3)我が国の技術の強みを事業の強みに変える国家プロジェクトの在り方に
ついて(藤村委員発表)
(4)自由討議
(5)その他
議事概要
(1)開会
○事務局から第二回検討会から安宅委員、下川委員、二見委員が新たに委員
として追加された旨説明。
(2)我が国電子・情報通信産業が置かれた経営環境と技術プロジェクトの在
り方について(小川委員発表)
○資料3に基づき小川委員より説明が行われた。説明要旨は以下の通り。
・半導体とその応用技術は、歴史上最も広く・深く人類社会に影響を与えた。特に 1990
年代から顕在化した開発途上国の急激な経済成長は、製品設計やシステム設計の深
部に半導体デバイス(デジタル技術)が介在して加速する“製品アーキテクチャのダイ
ナミズム、およびオープン標準化”によってもたらされた。
・我が国は優れた技術力で液晶テレビや DVD といった様々な革新的な製品の開発に大
きく寄与してきたが、必ずしもそれが競争力に直結していない。多くの場合新製品
1
の導入期には高い市場シェアを獲得するが、普及段階になるとシェアを奪われ撤退
を余儀なくさせられてしまう。
・日本のエレクトロニクス産業の研究開発の投資効率は、他産業に比べて突出して悪
い。このような現象は日本だけにしか観察されない。さらに詳しく分解してみると、
エレクトロニクス産業の中でも重電部門では高い利益があげられているが、コンピ
ューター・デジタル家電、液晶パネルや半導体デバイスといったオープン型の国際
分業が進んでいる市場で勝てていない。その背景には、1990 年代以降のグローバル
でオープンな産業構造の転換へ日本の企業制度が対応できていないという問題があ
る。
・米国の代表的な半導体企業では、パソコンの CPU、携帯電話端末やネットワーク型
デバイスの SystemLSI 等、様々な分野で自社の中核技術をブラックボックス化する
一方、周辺技術のオープン標準化を積極的に推進するビジネスモデルで躍進してき
た。ブラックボックス化によって価格を維持する仕組みを作り、自社以外の周辺技
術をオープン化させながら価格競争を促すことで大量普及させる。米国企業がグロ
ーバル市場で追求する高収益と大量普及の同時実現のビジネスモデルがここから生
まれた。1980 年代の米国政府は、このような企業群の興隆と連動して一体的に様々
な制度を変革させた。これによって自国でデジタル・ネットワーク産業を興隆させ
ただけでなく、グローバル市場の競争優位を確立した。今後電気自動車やスマート
グリッドでも同じようなことが起きようとしている。
・1970 年代の2度に渡る石油危機で、欧米諸国は長期のインフレと大量不況に直面し、
既存の経済政策・産業政策が通用しなくなった。また 1950 年代から営々と続けた巨
額の研究開発投資(特に基礎研究)が国の競争力に直結していない事実も、1970 年
代に明らかになった。確かに米国は基礎研究によって様々な技術イノベーションを
創出したが、それが国の競争力にも企業収益にもつながってなかった。この事実が
1970 年代には誰の目にも明らかになったのである。世界に冠たるIBMですら 15
万人ものレイオフに追い込まれた。このような中で米国は、1970 年代から興隆した
日本の産業構造や産業政策を丹念に分析した上で、これに対抗するために産業政策
の在り方を 1980 年代に根本的に見直した。欧州も同じである。欧米諸国のこれらの
政策によって、結果的に19世紀から欧米企業を支配したフルセット垂直統合型の
企業制度が、まずデジタル型のエレクトロニクス産業から崩壊した。多くの日本企
業は、1970 年代のアメリカと同じ企業制度を保っている。欧米諸国が危機に直面し
た 1970~1980 年代の日本は、Japan as Number One の時代であって産業構造も企
業制度も変える必要が全くなかったからである。
・デジタル技術(半導体デバイス)が設計の深部に介在した製品がオープン標準化さ
れると、技術の伝播速度が10~30倍も速くなる。ここから国際分業型の産業構
造が瞬時に生まれるので、たとえ技術の全体系を持たない国であっても分業化によ
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って生まれるオープン・サプライチェーンの特定領域を選んで集中すれば、グロー
バル市場の競争優位を築くことができる。この意味で途上国は競って比較優位の産
業制度設計を推進した。たとえば韓国や台湾は、税制等の優遇政策を核にした比較
優位の制度設計を 1990 年代に完成させている。彼らがデジタル型のエレクトロニク
ス分野で国際競争力を持つようになった背景がここにあったのである。半導体デバ
イスを例にとると、韓国と台湾が 1990 年代に後半からこの政策を強化した。韓国や
台湾の半導体デバイスメーカーは、2007 年に我が国企業の制度を基準にして年間
2000~3000 億円以上もキャッシュフローで優位に立つまでになっている。例え我が
国で業界再編が進んで SystemLSI メーカーやデジタル家電メーカーが1社に集約さ
れたとしても、我が国市場では業績が上がるかもしれないがグローバル市場では勝
てない。デジタル型のエレクトロニクス製品なら技術伝播し易いので瞬時に国際分
業構造が生まれ、比較優位の制度設計が理想的に機能する。その代表的な事例が半
導体デバイス産業だったのである。我が国の技術イノベーションの成果を企業収益
や国の競争優位に繋げるためには、このような国々とビジネス環境をイコール・フ
ッティングにする必要があるのではないか。今後電気自動車や蓄電池、およびスマ
ートグリッドなど、環境・エネルギー関連産業でも、半導体産業と同じようなこと
が必ず起きる。
・技術開発プロジェクトの在り方という観点では、あるべき社会ビジョンから必要な
技術に落とし込む Vision Driven 型で研究開発を立案し制度変革と連動させること、
研究の協調と競争の領域を明確に峻別すること、半導体デバイス/プロセス技術と組
込ソフトウェア技術とを連携して考えること、が必須である。その際は欧州等の諸
外国の優れた事例を学ぶことは大いに参考になるだろう。欧州は 20 年以上の歳月を
かけてこれらを産業政策に取り込むためのノウハウを手に入れた。2007 年から始ま
る第七次 Framework Program がその代表的な事例である。1980 年代の米国や欧州
の産業政策は、日本のそれを調査・分析して学ぶことからはじまったはずである。
現在の我が国の半導体産業が置かれている実態を冷静に判断すれば、従来のような
米国一辺倒ではなく、むしろ韓国・台湾の制度設計や代表的な企業のビジネスモデ
ルをまず調査・分析すべきではないか。我が国の半導体産業が置かれたグローバル
環境が 1980 年代の欧米諸国が強制した産業構造改革、およびこれに呼応した途上国
の比較優位の制度設計によって一変したという意味で、技術だけの視点から NEDO
の技術開発プロジェクトの在り方を議論すると同じ過ちを繰り返す。NEDO の主導
によって世界中の社会科学者を動員してほしい。1980 年代のアメリカでさえ日本企
業や日本の政策研究に多数の社会学者を動員したのだから。
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(3)我が国の技術の強みを事業の強みに変える国家プロジェクトの在り方に
ついて(藤村委員発表)
○資料4に基づき藤村委員より説明が行われた。説明要旨は以下の通り。
・製品開発と市場との関係は「部品・材料特性―製品機能―製品属性―顧客選考」と
いう要素に変換して考えることができる。この場合、製品機能というのは「作り手」
から見た製品の満たすべき条件、製品属性とは「受け手」から見た製品の満たすべ
き性質を指し、顧客選考というのはいわゆる効用関数・「消費者」の好みをさす。
・いわゆる「アーキテクチャ論」では製品機能と製品属性の関係を比較して、モジュ
ラー型とインテグラル型を峻別している。しかし製品機能というのは物理的に定義
できる一様な「作り手の指標」であるのに対し、製品属性というのは「受け手の指
標」で単純に比較できるものではなく、このような考えは間違っている。
・最終的に顧客に訴求している製品属性はどこで決まっているのか、ということを考
える必要がある。パソコンや携帯電話といった電気機器では、製品の差別化がハー
ドの物理的な製品機能ではなく、中間財であるソフトウェアによって行われるよう
になっている。そのためハードを作る半導体メーカーが苦戦しているということで
はないだろうか。
・一方自動車では差別化の工程が内部に取り込まれており、物理的な製品機能を製品
属性に結びつけるためのソフトウェア等による複雑な調整が内製化されている。製
品属性と物理的な構成要素が比較的 1 対1対応すると言う意味で自動車はモジュラ
ー製品である。問題は差別化を生み出す工程が内製されているか、外製されている
かということである。
・自動車業界では一部電気機器のようにマーケティング力を上げても必ずしも最終的
な製品属性をコントロールできない。事前に想定した製品属性を製品機能に落とし
込み図面を策定しても、最終的にその図面を実現する部品は最終的な製品属性に影
響する想定した以上の性質を持つからだ。だから自動車メーカーは部品の製造部門
を抱え込んでいる。
・部品の性質には一部の材料によって実現される LP(Local Performance)と全体の組み
合わせによって実現される GP(Global Performance)がある。さらにその中で事前に
予 期 し た 性 能 (Performance) と 必 ず し も 予 期 し て い な か っ た 属 性 (Performance
Characteristic)に区分される。現実の部品の性質は、一部材料から実現される事前に
予期された性能である LPC(Local Performance Chacteristic)と、事前に予期して
いなかったものも含め実際に一部材料により達成される性能である LP、そして全体
の 組 み 合 わ せ に よ り 実 現 さ れ る 事 前 に 予 期 さ れ た 性 能 で あ る GPC ( Global
Performance Characteristic)と事前に予期していなかったものも含め実際に全体の
組み合わせにより達成される性能である GP の四つに分かれる。
・産業技術の研究開発には、セットメーカー等の川下産業から部品・材料等の川上産
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業にフィードバックされる GP の評価を踏まえ、GPC を GP に近づけることにより
想定外の要素を排除することが求められる。川下産業からすれば当然部品・材料の
性質を多く知っていれば知っているほど方が、アウトプット製品をよりよくコント
ロールできることになる。したがって、部品・材料の未知の性質を明らかにする研
究は非常に重要と言える。自動車はモジュラー製品であるけれど日本が強いのはこ
のような研究の蓄積があり、高い GP を作りこめるからである。
・さてこれまで述べたことは全て供給側の製造の論理の分析であるが、ユーザー側は
これとは全く分断されたニーズという異なる情報を持っている。したがって製造部
門における技術的協力関係の必要性とは別な次元の利害対立がプレーヤー間で生じ
ることがしばしばある。
・一例としてコストの問題がある。ソフトウェアを内製化している自動車業界では半
導体業界に対して高速・高温・高耐圧の車載用半導体のカスタム品の供給を望んで
いるが、半導体業界から見ればカスタム型の車載用半導体の市場には投資コストに
見合ったボリュームが無く採算性が取れないため利害が一致しない。そのため次世
代に必要な研究開発が遅れる可能性がある。
・一方でハードとソフトが結びついている分野は日本型の垂直統合企業の強みを生か
せる分野であり、このような異業種間の利害対立が生じる分野において国や NEDO
が介在して共同して研究開発を進めるきっかけを作るのは重要な役割であると思う。
・我が国の東証一部上場企業の社長層はこの 15 年間ほぼ年齢構成が変わっていない。
このような事実を踏まえると、劇的な構造の変換を望むよりも、なぜこういう事態
を招いたのかを考えその中で国や NEDO が果たすべき役割を考える視点が重要でな
いかと思う。
(3)自由討議
・技術のオープン化を議論する場合、技術の受け手の問題を考えなければいけない。
日本にはその技術の受け手にあたる人がいない。ベンチャー振興などもなかなか上
手くいっていないという印象だ。これらは技術開発プロジェクト以前の制度上の問
題ではないか。
・韓国、台湾といった国が特定産業にかかわる分野の育成・支援に力を入れているの
に対し、日本には産業政策のメリハリがきいていないように思える。思い切ってト
ップランナーを支援するという考え方をとってもいいのではないか。
・国家プロジェクトをやっていてオープン化とブラックボックス分野の扱いでもめる
ことが多い。国家プロジェクトは世界一の技術、ということにこだわりその成果を
喧伝したがる傾向があるが、ブラックボックス分野ではもっと違う切り口でプロジ
ェクトを考えるべきではないかと思う。例えば、みんなが利用できる、とか、成果
の波及効果が大きく雇用に結びつく、とかそういった指標が考えられる。
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・事業のガバナンスという観点は重要である。携帯会社もガラパゴス化という批判は
受けているが、少なくとも国内の市場はそのシステムのもとで動いている。国とし
て産業全体をどうカバナンスしていくかという考えが必要。
・今の企業の在り方のまま、制度だけ変えてもうまくいくとは思えない。アジアをラ
イバル視するのみではなく、グローバルファウンドリをうまく利用してアジアを内
需化する道筋を検討するべきであると思う。
・今の産業の枠組みを前提として、産業強化策を考えることは難しいと思う。実際の
製品がインテグラルされていくということは、異なる産業間でもインテグラルされ
る動きが起きているということである。アメリカでは人材が流動化してその調整が
行われているが、日本の雇用慣行ではそういうわけにはいかない。NEDO としても
技術的な観点から産業間の調整をすることが求められていると思う。
・材料メーカーとして、自社独自のブラックボックス技術を有する企業とコモデティ
企業両タイプのデバイスメーカーと取引している。その際、前者の企業はこちら側
が提供するプロダクトの性質のみに着目するので取引が円滑に進むが、後者の企業
は自分のブラックボックスがないので当社のプロダクトのみならず技術も吸い上げ
ようとする傾向があり調整が難しくなる。オープンなコモデティ化された領域に巻
き込まれると価格競争を強いられ苦しくなるので、ブラックボックス領域を中心に
して戦略を立てることが重要だ。
・国や NEDO には産業を生態学的な観点でとらえてほしい。企業としてはどうしても
既存の枠組みにとらわれてしまい、そのような大きな視点を持つことは難しい。具
体的には医療や環境といった分野で新たな制度の可能性を示すようなプロジェクト
を立てると面白いのではないかと思う。
・藤村先生の発表の中で指摘のあった GPC という概念は非常に重要だと感じた。当社
でも世界的に圧倒的シェアを取っている製品があるが、必ずしも戦略的にそれを狙
ったわけではない。顧客の多様なニーズを製品に反映させるためにカスタマイズの
研究開発をしていった結果、製品のパフォーマンスが高まりシェアが上がった。医
療とヘルスケアはよく混同されるが、医療の分野はある程度標準化されていて GPC
がわかりやすいが、ヘルスケアは個別化の要素が高くまだ不明瞭な部分が多いので、
全く異なる研究開発のアプローチが必要という感じがする。また制度上の課題があ
るので、そこを打ち破るような研究開発プロジェクトが必要だと思う。
・最終的な製品に与えられた設計と実際に消費者が捉える製品の属性は分離しており、
一致していない。この差を埋めるには2つのアプローチがある。一つは出口側から
のアプローチで製品の受け手と作り手の評価のギャップを解消すること。国や
NEDO は特に産業間の枠組みを超えた問題の解決で資することができるのではない
かと思う。もう一つは川上からのアプローチで部品・材料における未知の領域の解
消を深めることである。
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・今回は様々な観点からご議論いただいたが次回以降は焦点を絞って将来あるべき社
会像から見て今後電機情報通信産業にはどのような研究開発が求められるか、とい
うことについて議論いただきたい。
了
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