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書評 - 武蔵野大学

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書評 - 武蔵野大学
書評
ストリート・ウォッチング
-路上観察と心理学的街遊びのヒント
(小林茂雄+東京都市大学小林研究室著、誠信書房、
2010 年 3 月発行予定、A5 判・158 ページ)
本書は、
「心理学」という用語が副題に付いている
ことわかるように、心理学、特に、専ら人間と環境
とのあり方の探究に日夜取り組んでいる気鋭の環境
られたものでもなく見せようとするものでもない、人々がつく
っていくドラマを、こっそりと発見していくのです。
街にいる人や太陽の位置は刻一刻と変わっていきます。ある
風景はその時にしか見ることができず、風景を使った楽しみ方
もその瞬間にしか味わえないものです。それをみすみす見逃す
のは、とてももったいないことです。楽しむ術を身につけて、
街を歩き、電車に乗り、ショッピングをしましょう。通勤中に
小説やマンガなんて読まなくても、メールなんてしなくても、
面白いドラマはまわりに隠されています。その手がかりもたく
さん転がっているのです。(まえがきより抜粋)
環境教育の分野において、近年、自然環境を対象
心理学者らにより執筆されたものである。
・・・とい
とした環境教育だけでなく、Built Environment
う書き出しで始まるこの書評を眼にした会員各位の
Education*(人工環境教育)も盛んになりつつある
中には、
「『環境教育』とは関係ない書籍だから、自
が、人工環境であるストリートを対象とした本書は、
分には関係がない話やね!」とつぶやいている、あ
人工環境教育で活躍されている実務家・研究者、そ
なたにこそ、ぜひ読んでいただきたく、本書を今回
して学生諸氏に役立つはずである。
の書評で紹介する。
また注目して頂きたいことは、本書の著者名であ
私は日本環境教育学会が刊行する当雑誌である
る。本書は、大学教員の小林さんと彼が主宰するゼ
「環境教育」の編集委員をしている関係で、職務上、
ミナールの学生が協働して取り組んだフィールドワ
投稿される論文にふれる機会が多い。ここ数年来、
ークの成果を、本づくりという形で結実したもので
とある傾向がみられることを発見した。それは、
「心
ある。これは、本学会で異彩を放つご活躍されなが
理学」関係の論文が急増しているという事実である。
らも、2007 年に惜しくも不帰の旅路に立たれた、下
例えば、ある環境教育の実践が行われた際に、参加
羽友衛先生が東京国際大学国際関係学部下羽ゼミの
者に対してその教育実践がどのような教育的な効果
学生と一緒に汗をかきながら出版された数々の珠玉
を及ぼしているかを把握することを目的とした質問
な書籍を彷彿させるものである。「本書を出版する」
紙法に基づく心理尺度を用いた研究報告や、研究対
という過程自体が、高等教育機関である、
「大学にお
象者が自らの経験や自分史に関して自らの言葉で発
ける環境教育」のグッドプラクティスの記録である
せられる語りを分析することで、人間と環境との関
と言えるのではないか。そういった意味でも、ぜひ、
係性を理解しようとするナラティヴ・アプローチに
本書を読んでいただきたい。
基づいた論文等々、環境心理学の学会誌でもそのま
※まちづくり学習、住教育、住環境教育、建築デザイン教育等と和訳される場合もある
ま掲載可能なものばかりである。環境教育学と環境
心理学のいずれも基礎研究よりも実践志向が強いと
いう、実践現場に対する立ち位置が似通っているに
もかかわらず、それほど接点が少なかったことをと
ても残念に思っていた。
閑話休題、遅ればせながらこの本の書評をはじめ
ていきたい。出版の趣旨については、執筆者自身の
言葉を引くとまず間違いないであろう。
この本では、街のどこに面白さが隠れているか、どういう見
方をしたらいいか、どういう遊びができるかについて、できる
限り多くのヒントを集めてみました。視点や時間をずらすこと
で見えてくる風景、ポイントを絞って観察することによって見
えてくるルール、街の風景が私たちの体を動かそうとする力、
人や風景を使ったゲームの仕方、などです。こうしたことをヒ
ントにして、街の魅力を発見して欲しいと思っています。与え
村松
陸雄(武蔵野大学 環境学部)
表 目次
第一章 かんさつの方法
観察の種類
観察の道具
観察時の心得
時間を絞って観察する
年齢と場所の相性を探る
姿勢に着目する
視線の高さを変える
①アンダー150の世界観
②オーバー180の世界観
影に着目する
第四章 人を動かす街の風景
思わず走りたくなる
思わず立ち止まってしまう
時を忘れてしまう
においから想像してしまう
思わず踏んでしまう
優越感に浸る
思わず歌いたくなる
寝ころびたくなる
人のまねをしたくなる
大声で叫びたくなる
第二章 おススメ観察スポットの条件
さぼり場
似たもの同士が群れる場所
イベントの裏側
サブストリートの魅力
聴覚と嗅覚で知覚する場所
雨の日だけの特別なこと
昔ながらの習わしがある場所
第五章 心理学的街遊び
今日を占う
他人と競争する
ファッションチェック
私生活を予想する
アテレコをつける
タイル遊び
写真で街にストーリーをつくる
足音で奏でる
影遊び
第三章 他人が持つ無意識の影響力
伝染する他人の仕草
行儀の悪い行為は連鎖する
三大欲求が人の行動を支配する
食欲・睡眠欲・性欲
集団心理が街を変える
人だかりは感動を呼ぶ準備になっている
似たもの同士は集まる
人を惹きつける行列の魔力
楽しみを待つ行列
並ばざるを得ない行列
行列のフォーメーション
行列を観察する
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