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ギリシャの仕事

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ギリシャの仕事
エネルギー工学
山地憲治
(駒場、金曜9:00-10:30、@1108教室)
分担講義項目:
1.エネルギーと人間
(エネルギー利用の歴史、エネルギー消費の規模と形態)
2.エネルギー工学の歴史
(エネルギー概念の成立、エネルギー技術史、熱機関の基礎)
3.原子力発電と核燃料サイクル
(原子力基礎、発電炉型、核燃料サイクル)
8.エネルギー資源と環境問題
(各種エネルギー資源、酸性雨問題、地球温暖化問題)
エネルギー概念の成立(1)
・力学的エネルギー概念の成立過程:
-梃子の原理(ギリシャ文明)→ダヴィンチ「仕事の原理」
-17世紀の思索:デカルトの運動量(mv)保存則;ライプニッツの「活力(mv2」保
存則→力の時間積分が運動量、空間積分がエネルギー (mv2/2)
-ワット(18世紀):仕事量を「物体に加えられた力×移動距離」と定義して計量
・エネルギー保存の法則の発見:
-ヤング(1807年):仕事を行う活力を表す概念としてエネルギーという言葉を
使用。
-マイヤー、ジュール、ヘルムホルツ(19世紀前半):エネルギー保存の法則を
独立に発見。
-マイヤーは船医で熱帯地域での船員の血の色の変化についての探究から
出発してエネルギー保存の法則という考えに到達。
-ジュールはより直接的で、様々な実験を通して熱の仕事当量を見出した。
-ヘルムホルツは力学系における位置エネルギーと運動エネルギーの総和
が一定であることに基づいて考察を展開。
エネルギー概念の成立(2)
・熱力学第2法則(エントロピー増大の法則)の発見:
-熱と燃焼に関する科学の歴史:フロギストン(燃素)→熱素(ラヴォアジュ)
→熱運動論
-カルノー、トムソン(ケルビン卿)、クラウジウス:1824年のカルノーサイクル
の考察(熱効率の最大値)を基に、 トムソ ン(一つの熱源をすべて仕事に
は変換できない)とクラウジウス(低温から高温へ熱が自然に流れること
はない)が独立に定式化。
・エネルギーの哲学的背景:
「エネルギー」の語源となったギリシャ語の「エネルゲイア」は、仕事を意
味する “ergon” に接頭語の "en" が付加されて、「仕事をしている状態
にある」ことを表す。アリストテレスの哲学的解釈によれば、潜在的な本
質が現実化された状態(=現実態)が「エネルゲイア」。19世紀に成立し
たエネルギー概念には、熱のような目に見えない“活力”が具体的な仕
事に転換するという発想が背景にある。
熱の仕事当量(1cal=4.2J)は正しいのか?
-ジュールは仕事を熱に変えることで熱の仕事当量を計量した(熱力学第一法
則(エネルギー保存則)が適用される)。
-熱を仕事に変える場合には熱の温度を考慮しなければならない(熱力学第2法
則が関与する)。ここで、環境と平衡になるまでに取り出せる最大仕事量で定
義されるエクセルギーが重要な役割を果たす。エクセルギーはエネルギーの
質を考慮した概念。
例:周囲の環境より1℃温度の高い水1kgの仕事当量はいくらか?
-第一法則で考えると、水が周囲の温度と同じになるまでに1kcal=4.2kJのエネ
ルギーを放出する。このエネルギーを同じ1kgの水の位置エネルギーで表す
と、mgh=1x9.8xh=4.2kJより、h=430mとなる。実感に合わない?
-第二法則を考慮したエクセルギーで考えると(環境の温度を15℃とする)、
1x9.8xh=(289-288)-288xlog(289/288)kcal=0.00173kcal=0.00724kJよ
り、h=74cmになる。
-この例は示すように、熱と仕事のように質の異なるエネルギーを単純に足し合
わせてはならない。
環境系に置かれた m(kg)の温度 T(K)、圧力 P0 の(圧力は外界と同じで温度のみ環境系と異
なる)資源の熱量(Q)とエクセルギー(E)は次のように計算される。
・この資源が環境系の温度 T0 と同じ温度になるまでに出す熱量(定圧比熱 Cp は一定と
仮定)
:Q=mCp(T-T0 )
:
・この資源から取り出せる最大仕事量(エクセルギーE;T から T0 への温度変化を考慮)
T’の熱δQ=mCpdT’から取り出せる最大仕事(カルノーサイクル)
:mCpdT’(1-T0 /T’)
2
⎧
T0
T ⎫ mC p (T − T0 )
E = ∫ mC p (1 − )dT ' = mC p ⎨(T − T0 ) − T0 ln )⎬ ≅
;
T0
T'
T
2
T
⎩
0 ⎭
0
T
T − T0
≤≤ 1
T0
・よって、外界との温度差が小さい場合には、熱資源のエクセルギーE は、通常の熱量 Q
から、E/Q=(T-T0)/2T0 によって近似計算できる。
動力革命の始まり
産業革命(第1次)へ
ニューコメンの
蒸気機関(真空
の力を利用)
ニューコメン
の蒸気機関
動力革命から電気と自動車の時代まで
20世紀初頭の第2次産業革命
1712:ニューコメン:蒸気機関
(石炭と蒸気から石油と電気の時代へ)
1769:ワット:分離凝縮器特許
1800:ボルタ:電池
1814:スチーブンソン:蒸気機関車
1831:ファラデー:電磁誘導の法則
1857:ドレーク大佐:石油生産
1860:ルノワール:実用ガスエンジン
1876:オットー:四サイクルエンジン→1885:ダイムラー:ガソリンエンジン
1879:エジソン:炭素電球、ジーメンス:電車
1882:エジソン:電気事業(会社設立は1881):電力システム
1884:パーソンス:蒸気タービン
1895:ディーゼル:圧縮着火エンジン(ディーゼルエンジン)
1903:ライト兄弟:飛行機
1938:ハーン:核分裂の発見
1942:フェルミ:原子炉
蒸気機関
1944:ホイットル:ジェット機(ガスタービン)
電気
1965:ジェミニ5号に燃料電池搭載
内燃機関
技術進歩の速度(1)
米国の輸送ネットワークの拡大 ⇒インフラの成長は遅い
技術進歩の速度(2)
Transition from Horses to Cars in U.S.
Model T: 16million cars for
1908-1926: corresponds
160GW (1億6千万kW)
introduction in less than 20
years assuming 10kW/car.
馬車から自動車への輸送手段の変化(米国)
⇒インフラ上の技術の変化は速い
Back to the future?
Steam
ICEVs
Steam
BEVs
Source: Struben and Sterman (2007), using data from Kimes and Clark (1996)
Struben, J. J. R. and J. D. Sterman (2007). Transition challenges for alternative fuel vehicle and transportation systems. Cambridge, MIT Sloan School of
Management.
Kimes, B. and J. H. Clark (1996). Standard Catalog of American Cars 1805-1942. Iola, Krause Publications
産業革命以降のいくつかの技術変遷(米国)
電動機が蒸気機関を凌駕したことは第2次産業革命の象徴の一つ
熱エネルギーの理解(熱機関の基礎、1)
・熱力学の視点:熱エネルギーをマクロに見る
・熱力学理論:平衡状態が基本、変化は準静的可逆過程を仮定した思考実験
・平衡状態:まずは、熱、仕事、物質の出入りのない孤立系(1モル)を考える
・2つの系の熱平衡:温度が等しくなる
・状態量:示強性(P, T)、示量性(V, U, S);独立変数は2個 (物質が1種類の場合)
・理想気体の状態方程式(1モル):PV=RT; R:気体定数
・熱(d’Q)は入る、容積仕事(d’L)は出る を正とする:d’L=PdV(容積仕事)
・第1法則(エネルギー保存)は容易:d’Q=dU+d’L=dU+PdV,
U:内部エネルギー、H=U+PV: エンタルピー(熱関数)
・第2法則(エントロピー増大)の数学的記述:dS≧d’Q/T(後で証明)
・エントロピー(S)は準静的可逆過程で定義:dS=d’Qr/T (思考実験で定義!)*
・容積仕事のみ考える可逆過程の第1法則の表現:TdS=dU+PdV
(TdSが出てきたら熱のことと考える)
*可逆過程で状態1から2へ変化した場合dS=d’Q
r/Tは経路によらず一定である(クラウジウスの式)
熱エネルギーの理解(熱機関の基礎、2)
・実世界は不可逆、熱は高温から低温側へ流れ逆流しない。
・環境の圧力(P0)より高い圧力(P)なら系は膨張する:PdV≧d’L(=P0dV)
可逆過程で変化しても不可逆過程で変化してもP,Vが同じなら同じ状態
→ PdV≧d’L=d’Q-dU → PdV+dU≧d’Q → TdS≧d’Q → dS≧d’Q/T
・熱機関の1サイクル:熱と仕事の出し入れ後同じ状態(状態量変化無し)に戻る
カルノーサイクル(可逆過程)、オット、ディーゼル、ブレイトン、ランキン
・カルノーサイクル(図参照)でのSの変化:
断熱過程ではdS=0;等温過程ではdS=d’Q/T:
高熱源でエントロピー増SH=QH/TH、低熱源でエントロピー減SL=QL/TL、
1サイクルで元にもとるからエントロピーは等しい → SH=SL → QH/TH=QL/TL
第1法則よりL=QH-QLだから、
カルノー効率=L/QH=(QH-QL)/QH=(TH-TL)/TH
・カルノー効率は理論最大効率:自然に低温部から高温部へは熱は流れないこ
とから導ける(後で証明)。
カルノーサイクル
(準静的過程の思考実験)
カルノーサイクル(準静的過程)
T-S 線図
p−V 線図
この面積が系が
する容積仕事(L)
T
この面積が系に入
る正味熱量(Q)
1
2
4
dS=d’Q/T
3
S
1サイクルで同じ状態に
戻るのでエネルギー保存
則により、L=Q
カルノーサイクル(C)より効率の良い熱機関(X)が存在すると、
クラウジウスの原理と矛盾する。
高温熱源
カルノーサイクルは可逆→逆転(ヒートポンプ)
(TH )
XがCより、高効率であれば
QH
QH’
QH’
この時
QH
QH- QH’(= QL -QL’ )>0
の熱が、低温部から高温部へ自然に流れたことになる。
L
X
<
これはクラウジウスの原理に反する。
C
よって、
QH’ >
QH
カルノーサルクルより効率の高い熱機関は存在
しない
QL’
QL
L
注) 熱機関の効率:
低温熱源 ( TL )
QH
ヒートポンプの成績係数 :
(COP)
エネルギー保存則 :
QH
L
QH - QL =L
トムソンの原理によるクラウジウスの不等式の導出
準静的でなく,熱源と平衡でない
4
3
2
1
n
カルノーサイクルCi
Li = Qi − Qi 0
n-1
n
∑Q
i =1
熱源
R1
熱源
R2
i
・・・
= L (1st law)
熱源
Ri
Qi
Q2
Q1
各隣接2点は,温度Ti(e)の熱源Ri(Ti(e))
と作用して熱Qiを受ける(マイナスあり)
i
系
熱源
・・・ Rn
Qn
熱源
R1
+
熱源
R2
(i = 1,2,...n )
熱源
Ri
・・・
Q1 L1 Q2 L2 Qi
C1
Q10
C2
・・・
Li
Ci
Qi0
Q20
補助熱源R0
L
R0 (T0 )から∑ Qi 0の熱 → 外部への仕事 : L − ∑ Li
i
i
熱源
Rn
Ln
Qn
Cn
Qn0
)
Clausius
の不等式(Inequality
Clausiusの不等式
(Inequality of
of Clausius
Clausius)
総合サイクル
熱源R1, R2, ...,Rnは元に戻る
R0 (T0 )から∑ Qi 0の熱 → 外部への仕事 : L − ∑ Li
i
Thomsonの原理より
i
L − ∑ Li ≤ 0
i
L − ∑ (Qi − Qi 0 ) ≤ 0
i
L=ΣQi
Qi
∑i T ≤ 0
i
dQ
連続変化
∫ T ≤0
Clausiusの不等式
逆カルノーサイクル
Qi Qi 0
=
Ti
T0
準静的サイクルの仕事
p
準静的
過程R
L = ∫ pdV
(2)
(1)
準静的過程R’
V2
V1
V1
V2
V2
V2
V1
V1
= ∫ p( R ) dV + ∫ p( R ') dV
= ∫ p( R ) dV − ∫ p( R ') dV
V2
0
V1
V2 V
pv線図上で囲む面積が仕事
=∫
V1
{p
(R)
− p( R ') }dV
理想気体の比熱
du
U:内部エネルギー、H:エンタルピー
cv = cv (T ) =
(単位質量(モル)当りで表記する時は小文字)
dT
単原子分子の場合:u=3/2RT, pv=RT なので
dh
h=u+pv=5/2RT, 比熱比は5/3
c p = c p (T ) =
dT
c p = cv + R
Mayerの関係 (h=u+pv=u+RT)
1
κ
完全ガスの比熱比
cv =
R, c p =
R,
単原子分子:1.66
κ −1
κ −1
κ = c p / cv 比熱比(Specific Heat Ratio)
u = u0 + cv (T − T0 )
h = h0 + c p (T − T0 )
等圧過程では等積過程より温度(内部エネルギー)をあげるのに余計に熱量が必要になる。
準静的過程(等温変化)
(Isothermal change)
p
(1)
pv=RT (1モルでの表現)
等温
(2)
0
V
pv = const. = p1v1 = p2 v2
2
l12 = ∫ pdv = p1v1 ∫
1
2
1
⎛ v2 ⎞
1
dv = p1v1 ln⎜ ⎟
v
⎝ v1 ⎠
du = cv dT = 0 ∴ dq = pdv
q12 = l12
:等温変化では入熱は
すべて体積仕事になる
理想気体ではUはTのみの関数
準静的過程(断熱変化)(Adiabatic Change)
du = − pdv
RT
R
RT
dv
cv dT = −
dv →
dT = −
v
v
κ −1
dT
dv
∴
= −( κ − 1)
T
v
(1)
p
断熱
(2)
0
V
q12 = 0
:断熱過程では体積仕事分だけ内部エネルギーが減る
Tv κ −1 = const. = T1v1
κ −1
= T2 v 2
κ −1
or pv κ = const., T / p (κ −1) / κ = const.
κ −1
⎧
2
p1v1 ⎪ ⎛ v1 ⎞ ⎫⎪
κ 2 1
1− ⎜ ⎟ ⎬
l12 = ∫ pdv = p1v1 ∫ κ dv =
⎨
1
1 v
κ − 1 ⎪⎩ ⎝ v2 ⎠ ⎪⎭
( κ −1) / κ
⎧
⎫⎪
p1v1 ⎪ ⎛ p1 ⎞
R
(T1 − T2 ) = u1 − u2
=
⎨1 − ⎜ ⎟
⎬=
κ − 1 ⎪⎩ ⎝ p2 ⎠
⎪⎭ κ − 1
不可逆過程に対する第二法則
不可逆過程R
(1)
dQ
∫ T ( e ) < 0 (不可逆) :クラウジウスの不等式
dQ
dQ
dQ
(2)
=
+
∫ T ( e ) (1) R∫( 2) T ( e) ( 2)∫R '(1) T ( e )
dQ
= ∫
+ ∫ dS
(e)
T
(1) R ( 2 )
( 2 ) R '(1)
準静的過程R’
微小変化過程: dS>dQ/T
一般に、
≧:可逆過程では等号成立
=
dQ
+ ( S1 − S 2 )
(e)
∫
T
(1) R ( 2 )
dQ
∴ S 2 − S1 > ∫
(e)
T
(1) R ( 2 )
断熱の場合:dQ = 0
∴ S 2 > S1
エントロピーの増大
第一法則と第2法則を組み合わせた表現(一般力も考慮)
dS≧d’Q/T → TdS ≧d’Q=dU+PdV
(第2法則)
(第一法則)
T, P(示強性):広義の力
一般力jによる仕事jdX(入力を正とする)の考慮すると、
d’Q+jdX=dU+PdVより
TdS ≧d’Q=dU+PdV-jdX → dU+PdV-TdS≦jdX
等温等積変化の場合(ヘルムホルツの自由エネルギーF):
F=U-TS → dF=dU-TdS ≦jdX
等温等圧変化の場合(ギブスの自由エネルギーG):
G=H-TS=U+PV-TS → dG=dU+PdV-TdS =dH-TdS≦jdX
Helmholtzの自由エネルギー
p
等温等積変化
等積
T = T ( e ) = Const., dV = 0
A
dU ≤ T ( e ) dS + j ( e ) dX
等圧
B
(均質物体)
0
d (U − TS ) ≤ j ( e ) dX
等温
V
-dF≧-J(e)dX
Helmholtzの自由エネルギー: F=U-TS
j ( e ) = 0の場合 dF ≤ 0
Helmholtz自由エネルギーは,減少する
系が外部にする仕事ーj(e)dXは,一般に
Helmholtzの自由エネルギーの減少量ーdFより小さい
Gibbsの自由エネルギー
等温等圧変化
p = p ( e ) = Const , T = T ( e ) = Const.
d (U + pV − TS ) ≤ j ( e ) dX
G = U + pV − TS = H − TS
j ( e ) = 0の場合 dG ≤ 0
Gibbs自由エネルギーが減少する
Gibbs自由エネルギー
− dG ≥ − j ( e) dX
系が外部にする仕事ーj(e)dXは,一般に
Gibbs自由エネルギーの減少量ーdGより小さい
dG=dH-TdS:燃料電池の理論効率は、熱機関と逆
に、温度が上昇すると小さくなる。(dH=化学反応熱)
Gibbsの自由エネルギーとエクセルギー
・状態変化に伴うエネルギー:
dH=dG(仕事としてとりだせる自由エネルギー)+TdS(熱)
・環境の温度T0として、温度Tの熱からとりだせる最大仕事量:
TdS(1-T0/T):カルノーサイクル効率
・環境と平衡になる状態変化に伴って最大とりだせる仕事量:エクセルギー
dG+TdS(1-T0/T)=dH-TdS+TdS-T0dS=dH-T0dS
・つまり、環境と平衡になる状態変化に伴うエネルギーdHの内、
エクセルギーdH-T0dSは仕事に変えることが可能であるが、
T0dSは廃熱とならざるを得ない。
・Gibbsの自由エネルギーとエクセルギーは似ているが違う。
(ガスタービンサイクル)
相変化(液体ー気体)がある場合のP-V曲線
p
圧縮液
(Compressed
Liquid)
臨界点
(Critical
Point)
加熱蒸気
(Superheated
Vapor)
飽和液線
(Saturated
Liquid Line)
湿り蒸気(Wet Vapor)
V
飽和蒸気線
(Saturated
Vapor Line)
ジュールトムソン効果の不可
逆性によるエントロピー増大
ジュール・トムソン膨張
2つの状態paとpbの間(pa≧pb)で断熱的に気体を移動させる(部分的に準静的だが不可逆)。
移動する気体の容積:Va→Vb
この気体は、移動する前の状態からpaVaの仕事をされ、移動後の状態に対してpbVbの仕事
をしたことになる。
断熱的なので、移動した気体の内部エネルギー変化は△U=Ub-Ua=paVa-pbVb
よって、Ua+paVa=Ub+pbVb, つまり、Ha=Hb:ジュール・トムソン膨張は等エンタルピー過程
理想気体では、エンタルピーは温度のみの関数なので、温度変化はない。
ジュール・トムソン効果:
実在気体では、分子間力が働くので、ジュール・トムソン膨張により気体の温度が変化す
る。逆転温度以上では温度が上昇し、以下では温度が下がる。これをジュール・トムソン
効果という。通常は冷却に応用する。特に、液体から気体への変化を伴う場合には、気
化熱(これも分子間力の開放)と液体の容積が気体より大幅に小さいことにより冷却効果
が大きくなる。
カルノーサイクルの断熱膨張とジュール・トムソン膨張との違い
・カルノーサイクルの断熱膨張:
準静的可逆変化;断熱的なので等エントロピー変化
ピストンを動かして外部に仕事をするだけ
外部へ仕事をしただけ内部エネルギーが減少して温度が低下
ミクロに見れば、系を構成する分子の速度が低下して運動エネルギー減少
・ジュール・トムソン膨張(断熱):
部分的に準静的だが不可逆変化;断熱的なので等エンタルピー変化
(マクロには不可逆変化なのでエントロピーは増大)
高圧部からは仕事をされ、低圧部には仕事をする
理想気体ではエンタルピーは温度のみの関数なので、温度は変化しない
つまり、内部エネルギーは一定、「された仕事」と「した仕事」は等しい
ミクロに見れば、分子の速さは変わらず(内部エネルギーは変わらず)、低圧
側で容積が増大したことにより衝突頻度が減ることにより圧力が低下する
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