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[[[不十分は承知の上での「速攻熱力学2008」]]] 熱力学:ここでは、平衡
[[[不十分は承知の上での「速攻熱力学2 008」]]] 熱力学:ここでは、平衡の熱力学を考える。 熱力学は巨視的な系(力学的には自由度の大きい系と思うと良い。例:粒子が たくさん含まれている系)を扱う。物質の性質は、状態方程式(例:理想気体 の PV=NRT)と熱容量(例:理想1分子気体1モルで C=3R/2)の式で与えられる。 熱力学第一法則と熱力学第二法則を通じて、仕事をされたり熱のやり取りされ た物質の熱力学的状態を予言する能力を持つ。物質の巨視的性質を閉じ込める 枠組みとも見なせる。 (以下では、定義や法則を規定する文に下線を引きました。ただし、式には引い ていません。) 1. 基本的な用語等 1.1. 系 孤立系: 外界と相互作用しない系 閉じた系: 外界と物質のやり取りをしない系 開いた系: 外界と物質のやり取りをする系 1.2. 熱平衡 孤立系を放置したときに至る終局的な状態。互いに平衡にある物は接触しても 状態変化しない。 1.3. 温度 実は、理解の難しい概念。当面、 『絶対温度とは、一定圧力の基での理想気体の 体積に比例する量』と覚えておくと良い。(すなわち、T=PV/NR) 本質は 4.5 と講義で触れます。 1.4. (熱力学における)状態と状態量 熱平衡の状態を通常は指している。そして、平衡状態は T, P 等の複数の巨視 的な変数で指定できる。ただし、状態を指定する変数としては、巨視的な変数 すべてが必要というわけではない。 例:P と T を決めれば N モルの気体の状態は決まってしまう。既に V は決まっ ている。分量が決まっているときの理想気体の状態は、2つの状態量(あるい は状態変数)で指定できるのである。2つで熱力学を使うのに十分な情報量と なっているのである。参照:PV=NRT なお、これらの T, P 等の様な物理量を状態量という。例:T, P, V, U, S(エント ロピー)等 1.5. 示量性と示強性(次元解析的に用いるのも便利。) 示量性の量:二つ全く同じ系を引っ付けて倍に成る量 例:V, U, S 示強性の量:二つ全く同じ系を引っ付けて倍に成る量 例:T, P 1.6. 準静的過程、可逆、不可逆 系が平衡状態を保ちながら変化する過程。可逆である。実際には非常にゆっく りと系を変化させる事でほぼ達成できる。可逆でない過程を不可逆過程と呼ぶ。 1.7. 仕事 系の内部エネルギーを変化させる方法は2つに分類されるがそのうちの1つ。 基本的には力学と同じく、力をかける事による作用点の移動によりもたらされ る。例:気体をかき混ぜる。 圧力による気体の体積変化に対する準静的過程としての仕事であれば、 "PdV 。 1.8. 熱の流入、流出 ! 内部エネルギーを変化させるもう1つの方法。系を温度の異なる別の系と接触 させる事で熱が流れる。例えば、0℃の気体の入った熱を通す器に90℃の熱 湯を接触させると、熱湯から気体に熱が流れる。cal を単位として用いるが、仕 事と同じ次元で扱う事から J(ジュール)という単位も用いる。1J=0.24cal である。 1.9. 熱容量、等温圧縮率 定積熱容量: $ d #Q ' $ *U ' $ *S ' CV " & ) = & ) = T& ) % dT (V % *T (V % *T (V 定圧熱容量: $ d #Q ' $ *H ' $ *S ' CP " & ) = & ) = T& ) % dT ( P % *T ( P % *T ( P ! ! エントロピー、エンタルピーは後に説明。ここでは、まず定義部分(三本線) を理解せよ。 等温圧縮率: 1 & %V ) "T # $ ( + V ' %P *T 2. 数学的準備 高校3年生までの数学は前提なので書かない。自習しておく事。教科書の方の ! 付録 A, B も参照する事。 2.1 偏微分と全微分 # "f & # "f & f (x, y) の全微分は、 df (x, y) = % ( dx + % ( dy である。 $ "x ' y $ "y ' x # "f & # "f & % ( や % ( が偏微分で、特定の変数のみで微分する。幾何学的解釈で意味を捉 $ "x ' y $ "y ' x ! # "f & df えよ。なお、高校までの は、算術的には、むしろ % ( に近い。 $ "x ' y dx ! ! ! 2.2 微少量 ! ! dx の d と、 d "Q の d " は、微少量である点は同じだが、微積分の中での役割はまる で違う。 ! ! ! ! 2.3 知っておきたい記号と積分 ln x = log e x (自然対数)、 " は、1サイクル積分するという事。サイクルについては後述。 ! 3. 基本法則 ! 1 " x dx = ln x + c 、 ! とりあえず、第1と第2で十分。第0と第3は各自興味があれば調べよ。 3.1 熱力学第一法則(第一種永久機関不可能の原理) 熱と仕事をエネルギーとして捉えたときの内部エネルギー保存則。 閉じた系を考える。何らかの操作(総仕事量 W と総熱流入量 Q で特徴付けでき る。)が行われると、一般に状態が変化する。その際の内部エネルギー変化量 "U は、 "U = W + Q となる。これが第一法則である。微小な変化に対して、 ! ! dU = d "W + d "Q とも書く。ここで、W と Q の d には、’が付いている事に注意。 単なる微少量であって微分量ではない事を意味する。 ! 3.2 熱力学第二法則(第二種永久機関不可能の原理、オストワルドによる。) いくつかの表現がある。実はそれらは等価である。 1)断熱されている系に操作をした場合、系のエントロピー変化は、0または 増加である。(エントロピー増大の原理1) 2)クラウジウスの原理 熱が高温の物体から低温の物体へ移動する過程はそれ以外に何の変化も残って いなければ不可逆である。あるいは、熱が低温の物体から高温の物体へそれ以 外の変化を残さずに移る事はあり得ない。 3)トムソン(ケルビン)の原理 温度の一様な1つの物体から熱を奪い、それを全部仕事に変えて、それ以外に 何の変化も残さない事は不可能である。 4. 追加の用語 4.1 サイクル、熱機関 熱力学的過程によって状態は変化するが、もと(初期状態)に戻る過程をサイ クルと呼ぶ。サイクルによって仕事を取り出す物を熱機関と呼ぶ。 4.2 カルノーサイクル、効率 カルノーサイクルは、断熱過程と(一般には熱の流出入を伴う)等温過程を組 み合わせて出来てきる準静的なサイクルである。その効率は、 " # (QH $ QL ) /QH と定義されている。(カルノーの原理にも注意。) ! 4.3 クラウジウスの不等式 n 温度が離散的に切り替わるなら、 # Qi /Ti (ex ) " 0 連続的なら、 # d"Q /T (ex ) $ 0。 i=1 ここで、外部の熱源の温度を (ex ) で表した。また、各熱の流出入のステップを i でラベルした。 ! 4.4 エントロピーS ! ! 示量的な性質を持つ。標準状態を St0 として、状態 St での系のエントロピーS を、次の式で定義。 St S= # d"Q /T (ただし、可逆過程)。 微分表現で、 S = d "Q /T とも書く。 St 0 統計力学のエントロピー S = k lnW (W は、場合の数)も知っておくと便利。 St 2 ! 第二法則は、 "S # ! % d$Q /T (ex ) ! (エントロピー増大の原理2)としても書ける。 St1 4.5 温度 T ! # "S & 1 温度は、S を使って、 % ( = で定義される。(5.熱力学の諸関数参照。) $ "U 'V T 5. 熱力学の諸関数 ! (全暗記をしても意味は無い。一つ覚えて他の物はルジャンドル変換で導出せ よ。数回行えば、いつでも出来る。) 例えば熱力学関数として内部エネルギー U(V,S) を用いて準静的な状態の変化を 追跡し、予測できる。その際、全微分 dU を使って、積分をすれば良い。 ! 二変数関数 U(V,S) の全微分表現 ! ! 有用な式、 ! ! dU = "PdV + TdS # "U & # "U & dU = % ( dV + % ( dS $ "V ' S $ "S 'V $ #U ' # "U & P = "& ) , T = % ( % #V ( S $ "S 'V から、 を得られる。 ルジャンドル変換を通して結ばれる熱力学関数は、内容(あるいは情報量)と ! ! しては同じ物を持っている。どれを使うかは、実験条件、考えたいモデルに応 じて便利な物を導出して使えば良い。主要な物をいくつか書いておく。 エントロピー: S(V,U) , dS = 1 P dU + dV , T T 1 # "S & =% ( , T $ "U 'V P # "S & =% ( T $ "V 'U # "H & # "H & エンタルピー: H(P,S) , dH = VdP + TdS , V = % ( , T = % ( $ "P ' S $ "S ' P ! ! ! ! ヘルムホルツ自由エネルギー: ! ! $ #F ' $ #F ' F(V,T) , dF = "PdV "!SdT , P = "! & ) , S = "& ) % #V (T % #T (V ! ! ! ! ギブズ自由エネルギー: # "G & $ #G ' G(P,T) ,dG = VdP " SdT , V = % ( , S = "& ) $ "P 'T % #T ( P 6. 数学的な武器 ! ! ! ! 6.1 ルジャンドル変換(あえて一般性は低いが結構便利なスタイルの例で示す。) 例: dU = "PdV + TdS を ルジャンドル変換 F = U " ST で変換すると、 (上のヘルムホルツの自由 dF = dU " d(ST) = dU " TdS " SdT = "PdV " SdT を得る。 エネルギーのところを見よ。)ここでは、U(S,V ) から、F(T,V ) への変換になって ! いる。変数は、S から T へ置き換わっている。このように変換したい変数の積 ! ! (ここでは、ST )を引くか足すかして、全微分表現を求めれば実行可能である。 ! ! 教科書では、もう少し深いお話がある。まずは、手を動かして出来る様にして おく事。 ! 演習:上の各種の熱力学関数の間をルジャンドル変換で繋げ。 6.2 マックスウェルの関係式 要は2次の偏導関数の微分順序を変える事で得られる一般式。ここでは、熱力 学での狭義の意味でとる事にして、 # "P & # "T & # "V & # "T & # "S & # "P & # "S & # "V & % ( = )% ( , % ( = % ( , % ( = % ( , % ( = )% ( $ "S 'V ,N $ "V ' S,N $ "S ' P,N $ "P ' S,N $ "V 'T ,N $ "T 'V ,N $ "P 'T ,N $ "T ' P ,N を示す。なお、下付きの N は系の粒子数。 (以下の化学ポテンシャルで粒子数変 化を考え始めるまでは、上のすべての下付きの N を外して考えて良い。) ! ! ! ! 7. 追加の知識 7.1 化学ポテンシャルμとギブズーデュエムの式 系に粒子を1つ追加するときの仕事。(モル単位の場合もある。)そのような場 # "G & 合、定義は、 µ = % ( である。従って、全微分式は、次の様になる。 $ "N 'T ,P G(P,T,N) に対して、 dG = VdP " SdT + µdN 。 # "G & # "F & # "U & なお、 ! µ = % ( = % ( = % ( である。 $ "N 'T ,P $ "N 'T ,V $ "N 'V ,S ! ! ! 7.2. ギブズーデュエムの式 m m 多成分になると、 "SdT + VdP " # N i dµi = 0 , 等温等圧で " N i dµi = 0 i=1 i=1 7.3. 熱力学第3法則とその帰結 ! ! 絶対零度でエントロピーは0になる。すなわち、 lim S = 0 T "0 。(第3法則) $ #P ' $ #V ' 上の式から、 lim C = 0 , lim& ) = 0 , lim& ) = 0 が示せる。最初の式から理想 T "0 T "0% #T ( T "0% #T ( V P ! 気体は、熱力学第3法則を満たさない系である事がわかる。この事から予想で きると思うが、第3法則は無くても熱力学は成立する。 ! ! ! 7.4. 相転移 系が(物理的にも化学的にも)一様な場合、1つの相を成している。例えば、 全体が一様な固体の相になっているアルゴンを考えよ。状態変数を変えると別 の相、例えば液体になる事がある。この様な移り変わりを相転移と呼ぶ。エン トロピーの不連続と体積変化を伴う様な相転移を1次の相転移と呼ぶ。さらに 自由エネルギーの2次以上の導関数の不連続を生ずる相転移を高次の相転移と 呼ぶ。 7.5. 相平衡、クラペイロン−クラウジウスの関係式 例えば、気相と液相が共存している様に2つの相が共存しているとき、相間に 平衡が成り立っている。T1 = T2 = T , P1 = P2 = P , µ1 (T,P) = µ2 (T,P) が成り立ってい る。この平衡を保ちつつ T, P を変えるときにはクラペイロン−クラウジウスの関 係式、 dP s1 " s2 = ! が成り立っている。ここで、小文字で書いている変数は、1 ! ! dT v1 " v2 分子あたりの熱力学変数である事を指している。 ! 7.6. ギブズの相律 平衡条件を満足した上で、なお自由にかえる事の出来る変数の個数を自由度と 呼び、f で表す。自由度は、ギブズの相律 f = " # r + 2 で表される。 ここで、νは成分数、r は相の数。例えば、1成分系の相図を書いて考えると当 たり前のこととわかると思う。 !