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大手鉄鋼メーカーの経営研究~岐路に立たされる海外戦略

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大手鉄鋼メーカーの経営研究~岐路に立たされる海外戦略
調査レポート
2011/春
No.73
調査報告
大手鉄鋼メーカーの経営研究
~岐路に立たされる海外戦略~
本年2月3日に新日本製鐵㈱と住友金属工業
1.2000年以降の世界の動きと競争環境の変化
㈱が、経営統合に向けた検討を開始することに
2000年と2009年における世界の鉄鋼メーカー
合意したと発表した。世界の鉄鋼業界における
粗鋼生産量1上位10社をまとめたものが、図表1
量的地位低下と国内需要低迷のなか、今回の経
である。この10年で世界の鉄鋼業界勢力図は激
営統合は、望ましい動きと言えよう。本レポー
変し、群を抜いた生産量を有するアルセロー
トは、2社を含む、鉄鋼業のうち圧倒的規模を
ル・ミッタルが出現した。また、中国企業がラ
持つ高炉メーカーを研究対象とする。
ンクの半分を占め、インドのタタ・スチールが
ランクインした。
(図表1)世界の粗鋼生産量上位 10 社
(単位:万トン)
順位
会社名
2000 年
順位
会社名
(2008 年) 2009 年
1
新日本製鐵(日)
2,907
1
アルセロール・ミッタル(盧) (10,330)
7,320
2
ポスコ(韓)
2,848
2
河北鋼鉄集団(中)
(3,328)
4,024
3
アルベッド・グループ(盧)
2,410
3
宝鋼集団(中)
(3,544)
3,887
4
ユジノール(仏)
2,100
4
武鋼集団(中)
(2,773)
3,034
5
LNM グループ(英)
2,086
5
ポスコ(韓)
(3,470)
2,953
6
日本鋼管(日)
2,056
6
新日本製鐵(日)
(3,688)
2,761
7
コーラス(英)
1,998
7
江蘇沙鋼集団(中)
(2,330)
2,639
8
ティッセン・クルップ(独)
1,800
8
山東鋼鉄集団(中)
( - )
2,638
9
上海宝鋼(中)
1,772
9
JFE スチール(日)
(3,380)
2,628
10
リバ・グループ(伊)
1,557
10
タタ・スチール(印)
(2,439)
2,190
⇒
(資料)日本鉄鋼連盟「鉄鋼統計要覧」 (注)盧はルクセンブルク
かつて「鉄は国家なり」、「鉄は産業の米」と
び低下に伴い過剰となった生産設備集約や競争
称されたように、鉄鋼業は国の工業生産に欠か
力強化のため、旧共産圏では市場経済移行に伴
せない素材産業であり、各国とも自国鉄鋼業の
う国営企業の集約や民営化により、企業の合
育成に取り組んできた。また、鋼材は重量が嵩
併・買収や提携が進んだ。ヨーロッパではルク
み、長距離輸送はコストが高いことから販売地
センブルクのアルベッド・グループ、フランス
域は限定されがちで、ある程度の輸出入はある
のユジノール、スペインのアセラリアが2002年
ものの、鉄鋼業は基本的に世界の各地域で棲み
に合併して、アルセロールが誕生した。日本で
分けられていた。
は、日本鋼管㈱と川崎製鉄㈱が合併して2002年
2000年代に入り、先進国では国内需要量の伸
にJFEホールディングス㈱が誕生し、また、新日
―――――――――――――――――――――
1 鉄鋼の生産工程は、半製品である粗鋼をつくる上工程(製鋼)と、粗鋼から鋼板や型鋼、棒鋼、鋼管といった
最終製品である鋼材をつくる下工程に大別される。更に上工程には、日本で主流である鉄鉱石と原料炭から高炉に
より製銑した銑鉄を転炉により製鋼する方式、鉄スクラップから電炉により製鋼する方式、海外に見られる鉄鉱石
と天然ガス等から製銑した銑鉄を電炉等により製鋼する方式等がある。
13
中央三井トラスト・ホールディングス
本製鐵㈱と住友金属工業㈱、㈱神戸製鋼所の3
国のポスコは、2010年10月にインドネシアで、
社が資本・業務提携した。更に、2000年以前か
同国国営鉄鋼企業との合弁による高炉一貫製鉄
ら世界各地の鉄鋼メーカー買収を繰り返してき
所の用地造成に着工した。また、地元住民の反
たミッタル・スチールが、2005年にアメリカの
対で着工が遅れているが、既に2005年にはイン
ISGを、2006年に前述したヨーロッパのアルセロ
ドのオリッサ州政府と高炉一貫製鉄所建設で合
ールを買収することで、地域を超えた圧倒的規
意しており、それとは別にカルナータカ州でも
模を持つアルセロール・ミッタルが誕生した。
高炉一貫製鉄所建設を計画している。更に、世
その狙いは、寡占化が進む上流の鉄鉱石や原料
界粗鋼生産量トップのアルセロール・ミッタル
炭の資源メジャーに、下流では主要な鋼材需要
も、インドの2地域で高炉一貫製鉄所建設を計
者である自動車メーカーの提携に対抗し、価格
画しており、世界の大手鉄鋼メーカーは、需要
主導権を握ることにあると言われる。また、買
増加が見込める新たな地域への高炉進出に取り
収により先進技術を手に入れることも目的であ
組んでいる状況にある。
ろう。2007年のインドのタタ・スチールによる
イギリスのコーラス買収も、同様の流れと位置
2.世界の鉄鋼需給
付けられる。
(1) 世界の生産・消費量
国家主導の色合いが濃い中国を含め、世界の
図表2のとおり、世界の粗鋼生産・消費量は、
各地域で合併・買収が進み、更には地域を超え
リーマンショックに端を発した景気低迷で、直
た巨大企業が出現するようになり、その結果、
近2年では減少したが、2000年代に入り大幅に
日本の高炉メーカーの世界における量的な地位
増加している。
は低下している。従来の技術力を中心とした競
地域別に見ると、アジアは生産・消費量とも
争に加え、地域を超えた規模の競争も求められ
に2000年比で倍増し、その生産・消費量は2008
るようになってきたと言えよう。
~2009年も増加を維持している。一方で、アジ
このような流れのなか、日本の高炉メーカー
と同様に世界における量的な地位が低下した韓
ア以外の地域の生産・消費量は、微増減にとど
まる。
(図表2)世界、主要な地域別の粗鋼生産量と粗鋼換算見掛消費量推移
生産量
(億トン)
14
12
12
10
10
8
8
6
6
4
4
2
2
0
0
00
01
02
消費量
(億トン)
14
03
04
05
06
07
08
09 (年)
世界合計
アジア
ヨーロッパ
CIS
北アメリカ
00
01 02
03 04
05
06 07
08 09 (年)
南アメリカ
(資料)世界鉄鋼協会「Steel Statistical Yearbook 2010」
(注)粗鋼換算見掛消費量=粗鋼生産量+輸入量(粗鋼換算)-輸出量(粗鋼換算) CIS:アゼルバイジャン、ウクライナ、ウズベキスタ
ン、カザフスタン、グルジア、ベラルーシ、モルドバ、ロシアの8カ国
(2) アジアの生産・消費量
た。また、中国に比べ絶対量は低いが、インド
アジアの粗鋼生産・消費量の増加は、図表3
の生産・消費量も、この間に約2倍に増加した。
のとおり、中国の生産・消費量増加による。こ
インドの生産量は韓国を上回り、その消費量は
の10年で中国の生産・消費量は4倍以上となっ
日本に迫っている。
14
調査レポート
2011/春
No.73
(図表3)アジア主要国の粗鋼生産量と粗鋼換算見掛消費量推移
6
5
消費量
(億トン)
6
生産量
(億トン)
5
中国
4
4
3
3
2
2
インド
1
1
韓国
0
0
日本
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 (年)
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 (年)
(資料)世界鉄鋼協会「Steel Statistical Yearbook 2010」
次に、アジア主要国の生産・消費の構造を、
のギャップが拡大していたが、逆に2006~2008
図表4で比較する。日本は一貫して生産量が消
年では生産量が消費量を大きく上回るようにな
費量を上回り、輸出超で推移している。韓国と
った。2009年は世界的な景気低迷もあり輸出量
インドは、生産量と消費量が均衡している。中
は減少したが、その生産量は、旺盛な国内需要
国は生産量が消費量を下回り、2003年まではそ
により大幅に増加した消費量を上回る。
(図表4)アジア主要国の粗鋼生産量と粗鋼換算見掛消費量のギャップ推移
5,000
輸出超
↑
(万トン)
3,000
中国
1,000
日本
(
-1,000
↓
00
01
02
03
04
05
06
07
-3,000
08
09
(年)
インド
韓国
輸入超
-5,000
(資料)世界鉄鋼協会「Steel Statistical Yearbook 2010」 (注)生産量と消費量とのギャップ=粗鋼生産量-粗鋼換算見掛消費量、プラス
は輸出超、マイナスは輸入超
更に、日韓中3カ国の鉄鋼輸出入量を比較す
入量は2004年以降2,000~3,000万トンで推移し、
る。日本の輸出量は、この10年間ほぼ3,000~
輸出量を上回る。中国は、汎用品を主とした輸
4,000万トンで推移し、輸入量は多い年でも900
出量が急増しており、ピークの2007年では7,000
万トンに達しない。韓国は、輸出量は概ね1,000
万トンを上回った。一方で、高品質・高機能鋼
~2,000万トンで推移しているが、上工程の生産
材については国内で十分に生産できずに、輸入
力が不足しており、半製品を輸入し最終製品を
量は概ね2,000万トンを上回り、直近の2009年は
輸出するという加工貿易の一面を持つ。その輸
再び3,000万トンに達した。
(図表5)日韓中の鉄鋼輸出入量推移
8,000
(万トン)
日本
韓国
8,000
8,000
7,000
7,000
7,000
6,000
6,000
6,000
5,000
5,000
5,000
4,000
4,000
4,000
3,000
3,000
3,000
2,000
2,000
2,000
1,000
1,000
1,000
0
0
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09
中国
輸出
輸入
0
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 (年)
(資料)日本鉄鋼連盟「鉄鋼統計要覧」
15
中央三井トラスト・ホールディングス
日本は、価格の低い鋼材の輸入はあるものの、
東南アジアやインドといった近隣市場への更な
粗鋼を生産する上工程から製品である鋼材を生
る輸出競争が見込まれる。
産する下工程を通して、また汎用品から高品
質・高機能鋼材までの国内生産が可能で、輸出
3.日本の鉄鋼需給
が多い、理想型な構造と言えよう。但し、輸出
(1) 日本の粗鋼生産・消費量
量を維持できなければ、国内生産設備が過剰と
日本の粗鋼生産量は、2001年度の1億200万ト
なるリスクを併せ持つ。韓国は上工程の生産力
ンから回復し、2007年度には1億2,000万トンを
不足を解消できれば輸入が減り、日本に近い構
上回った。しかし、2008年度後半からの景気低
造となることが見込まれる。中国は、生産量は
迷により生産量は落ち、2009年度は、輸出量は
圧倒的となったが、高品質・高機能鋼材の生産
回復したものの内需の落ち込みで、生産量は1
が課題である。これら3カ国は、基本的に国内
億トンを割り込んだ(図表6)。
需要を満たす生産力を保有していると考えられ、
(図表6)日本の粗鋼生産量と粗鋼換算見掛消費量推移
12,000
(万トン)
10,000
生産量
8,000
輸入量
6,000
輸出量
4,000
見掛消費量
2,000
0
-2,000
00
01
02
03
04
05
06
07
08
09
(年度)
-4,000
(資料)日本鉄鋼連盟「鉄鋼統計要覧」 (注)輸出入量、見掛消費量は粗鋼換算
(2) 日本の鋼材需要
2007年度までの内需用受注の増加を支えていた。
より詳しく日本の需要を、鋼材受注推移で見
しかし、2008年度の自動車用受注は1,280万トン
る。図表7のとおり、輸出用鋼材受注は年度毎
と前年度比400万トン減少し、2009年度も同程度
の増減があるものの、増加基調を維持している。
にとどまっている。建設用受注は、直近2年度連
一方で、内需用鋼材受注は2002年度以降、堅調
続して各200万トン減少し、2009年度で1,000万
に増加していたが、直近2年度で激減した。内
トンと、2000年度を400万トン以上下回る水準に
需用鋼材の受注内訳を図表8で見ると、2004年
落ち込んだ。
度から自動車用受注が建設用受注を上回り、
(図表7)日本の内需・輸出用鋼材受注推移
7,000
(万トン)
(図表8)日本の内需用鋼材用途部門別受注推移
7,000
6,000
6,000
5,000
5,000
その他
販売業者用
容器用
電気機械用
産業機械用
船舶用
建設用
自動車用
4,000
4,000
3,000
内需用
3,000
2,000
輸出用
2,000
1,000
1,000
0
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09
(資料)日本鉄鋼連盟「鉄鋼統計要覧」
16
(万トン)
(年度)
0
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09
(資料)日本鉄鋼連盟「鉄鋼統計要覧」
(年度)
調査レポート
なお、日本鉄鋼連盟によれば販売業者用受注2
の約7割も建設用と推定されており、これを単
純に当てはめると、販売業者用を含む建設用受
2011/春
No.73
(3) 日本の鉄鋼輸出
次に、図表9で、日本の鉄鋼輸出を仕向先別
に見る。
注はこの2年度で800万トン、2000年度比で1,000
万トン以上も減少した計算となる。
(図表9)日本の鉄鋼仕向先別輸出量推移
4,000
(万トン)
その他
ヨーロッパ
中東
北米
その他アジア
インド
台湾
アセアン5
中国・香港
韓国
3,500
3,000
2,500
2,000
1,500
1,000
500
0
00
01
02
03
04
05
06
07
08
09 (年度)
(資料)日本鉄鋼連盟「鉄鋼統計要覧」
(注)アセアン5:インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、マレーシア
日本の主要な輸出先はアジアで、2002年度以
日本の鋼材受注のうち、内需用鋼材は、人口
降、全輸出量の8割以上を占める。うち、韓国
や公共工事の減少、大口需要者である加工組立
向け輸出量が一貫してトップで、2007年度と
メーカーの工場海外移転などで、今後の伸びは
2009年度は1,000万トンを上回った。韓国への輸
期待し難いだろう。輸出用鋼材は、高品質・高
出は半製品が多く、前述したように同国の上工
機能鋼材の競争力維持・向上にかかっているが、
程の生産力不足が一因である。但し、現代製鉄
海外鉄鋼メーカーの技術力向上により、予断は
の高炉新設(2010年1月に1基目、11月に2基
できない。
目が完工)により、韓国向けの輸出の水準が今
後も維持できるかは不透明と言える。
また、中国・香港向け輸出量は、2002~2003
4.日本の高炉メーカーの財務分析
(1) 大手3社の業績推移
年度に800万トン台に乗せた後、600~700万トン
大手3社(新日本製鐵㈱、JFEホールディング
台で推移している。近年ではアセアン5向け輸
ス㈱、住友金属工業㈱)3の業績推移を、図表10
出が増加しており、2007~2008年度は中国・香
にまとめる。3社の業績は、2001~2002年度の
港向け輸出を100万トン以上、上回った。中国や
当期赤字後、2005年度までは右肩上がりで回復
アセアン諸国への輸出は、同地域に進出した日
した。売上高は2008年度まで増加を続けたが、
本の自動車メーカー等の加工組立メーカー向け
利益率は2005年度をピークに低下に転じ、2009
を主とした、高品質・高機能な鋼材や半製品の
年度には売上高が大きく減少したことで、再び
輸出が多いと考えられる。
当期赤字に至る。
―――――――――――――――――――――
2 日本の鋼材販売は、鉄鋼メーカーと大手需要者が数量・価格を直接交渉し、販売業者が商流に入るが在庫リス
クを持たない「ひも付き取引」と、販売業者が自らのリスクで鉄鋼メーカーから鋼材を仕入れ需要者に販売する「店
売り取引」に大別される。販売業者用受注は、概ね「店売り取引」に該当する。
3 上記3社の連結ベース売上高に占める鉄鋼部門売上高比率は概ね8割以上を占める。㈱神戸製鋼所は高炉を保
有するが、鉄鋼部門連結ベース売上高比率は5割以下で、対象から外している。日新製鋼㈱も高炉を保有するが、
表面処理製品・ステンレス鋼等の薄板部門に特化していることから、対象から外している。
17
中央三井トラスト・ホールディングス
(図表 10)大手3社の売上高、当期純利益、利益率推移(連結ベース)
12
(兆円)
(%)
30
10
25
8
20
6
15
4
10
2
5
0
0
00
-2
02
01
03
04
05
06
07
08
09
-5
売上高 (左軸)
当期純利益 (左軸)
当期利益率 (右軸)
(年度)
(資料)各社有価証券報告書
(注)2000~2001年度のJFEホールディングス㈱については、日本鋼管㈱と川崎製鉄㈱を単純合算、以降の連結ベース数値も同様の扱い
まず売上高を見ると、2003年度からの売上高
売上高比率は、2000年度の22%から、2009年度
増加は、海外売上高の寄与が大きい。特にアジ
には36%に上昇した(図表11)。
アにおける売上高増加により、大手3社の海外
(図表 11)大手3社の海外売上高と海外売上高比率推移(連結ベース)
(%)
(兆円)
40
35
3
2
30
その他地域売上高 (左軸)
25
アジア売上高 (左軸)
20
海外売上高比率 (右軸)
15
1
アジア売上高比率 (右軸)
10
5
0
0
00
01
02
03
04
05
06
07
08
09
(年度)
(資料)各社有価証券報告書 (注)鉄鋼以外の部門の売上高を含む
次に利益率だが、図表12で単体ベースの主要
石の価格推移を見る。
費目対売上高比率推移、図表13で原料炭と鉄鉱
(図表 12)大手3社の主要費目対売上高比率推移(単体ベース)
(単位:%)
年度
売上高
00
01
02
03
04
05
06
07
08
09
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
39.8
41.9
42.4
46.4
46.0
48.9
53.7
55.8
62.6
61.5
主要費目
材料費
製造原価減価償却費
8.2
8.2
7.7
8.0
6.5
5.2
5.1
6.3
6.2
8.3
労務費
8.6
8.8
8.2
8.7
7.7
6.8
6.6
6.0
5.4
7.4
荷造・運賃費
3.1
3.0
2.7
3.0
2.8
2.5
2.7
2.7
2.2
2.5
従業員給料手当
2.2
2.1
2.0
1.9
1.7
1.5
1.2
1.0
0.8
1.0
販管費減価償却費
0.2
0.2
0.2
0.1
0.1
0.1
0.2
0.2
0.1
0.2
研究開発費
1.9
1.8
1.7
1.7
1.5
1.3
1.3
1.2
1.1
1.7
1.9
1.8
1.6
1.4
1.0
0.6
0.6
0.8
0.8
1.2
△ 0.0 △ 4.3 △ 0.2
3.5
7.2
11.5
11.3
9.7
4.9 △ 0.8
支払利息
当期利益
(資料)各社有価証券報告書
(注)2000~2002年度のJFEスチール㈱については、日本鋼管㈱と川崎製鉄㈱を単純合算
18
調査レポート
2011/春
No.73
(図表 13)原料炭、鉄鉱石の通関価格推移
(千円/トン)
20
15
原料炭
10
鉄鉱石
5
0
00
01
02
03
04
05
06
07
09 (年度)
08
(資料)財務省「貿易統計」
この10年で材料費の対売上高比率は大幅に上
(2) 大手3社の財務内容推移
昇し、2006年度以降は50%、直近2年度は60%
図表14のとおり、2002年度からの業績回復に
を超えた。2009年度は景気低迷で鉄鉱石と原料
より、2005年度までは有利子負債負圧縮による
炭の価格はやや下落したが、売上高の大幅な減
財務内容の改善が取り組まれた。また、2006年
少で、当期赤字を余儀なくされた。
度からは、手控えられていた投資も実施される
ようになった。
(図表 14)大手3社のキャッシュフロー推移(連結ベース)
1.5
(兆円)
営業CF
1
財務CF
0.5
投資CF
0
01
00
02
04
03
05
06
07
08
-0.5
09
(年度)
-1
-1.5
(資料)各社有価証券報告書
2000年代前半の営業キャッシュフロー増加
己資本比率)は2001年度の3.27倍から2006年度
と投資抑制により、図表15のとおり、大手3社
には0.73倍まで低下し、貸借対照表は大幅に改
の総資産は圧縮され、D/E比率(有利子負債自
善された。
(図表 15)大手3社の資産、負債・純資産内訳推移(連結ベース)
12
(兆円)
資産
その他
資産
10
8
6
4
2
12
10
投資その
他の資産
8
固定
資産
4
6
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 (年度)
負債・純資産
4 (倍)
3
2
1
2
0
0
(兆円)
その他
負債等
有利子
負債
純資産
D/E比率
0
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 (年度)
(資料)各社有価証券報告書
19
中央三井トラスト・ホールディングス
2000 年代後半には、
原料価格高騰による在庫額
株式持ち合い、後述する原料炭と鉄鉱石権益への
増加と、投資に資金が振り向けられたことで、再
出資や、下工程の海外進出に際しての海外現地法
び総資産は増加する。投資の内訳を見ると、この
人への出資等による。これら投資により、D/E
10 年で設備投資額は概ね減価償却費相当に見合
比率は直近で1倍前後に再度上昇したが、2000
っており、固定資産は微増にとどまる。一方で、
年代前半に比べれば低水準を維持している。
投資その他の資産が増加し、なかでも投資有価証
また、営業キャッシュフロー増加と有利子負債
券が大幅に増加している。これは、前述した世界
償減少により、債務償還年数も短縮化傾向にある
的な業界再編の動きに対する買収防衛のための
(図表 16)
。
(図表 16)大手3社の債務償還年数推移(連結ベース)
(年数)
12
10
8
6
4
2
0
00
01
02
03
04
05
06
07
08
09
(年度)
(資料)各社有価証券報告書 (注)債務償還年数=有利子負債÷営業CF
2000 年代初めに悪化していた大手3社の財務
本の高炉メーカーの原料購入価格は、四半期毎
内容改善は一段落し、今後は 2000 年代後半に実
の値決めへの変更を余儀なくされた。高炉メー
施された権益確保や海外進出といった、将来の
カーは安定した価格での原料調達と、鋼材需要
成長に通じる投資が更に求められよう。ストッ
者への価格転嫁に苦慮している現状にある。
ク、フローともに3社の資金調達力は向上して
原料安定調達のために、原料炭と鉄鉱石の権
おり、財務内容にはマイナスとはなるが、借入
益確保が進められている。権益確保により必ず
による資金調達も含めた、縮小均衡にとどまら
しも原料費が低くなるとは限らないが、原料価
ない成長戦略が期待される。
格の高騰を緩和できる。既に、各社とも個々に
権益確保に取り組んでいる。また、2008 年には
5.経営課題と戦略
伊藤忠商事㈱と日本高炉メーカー5社、韓国ポ
(1) 原料費高騰への対策~権益確保~
スコが連合して、ブラジルの鉄鉱石採掘企業ナ
前述したように原料炭、鉄鉱石といった原料
ミザ社の株式 40%を取得した。企業連合による
費高騰への対策が、高炉メーカーの経営課題の
権益取得は、資金調達力の拡大や、個社では負
ひとつである。鉄鉱石で言えば、2002 年までは
担が大きい複数の権益を保有することによるリ
日本が世界最大の輸入国であった。その価格交
スク分散の観点から、今後も期待される。
渉力により、日本の高炉メーカーの原料購入価
更には、権益確保以外の対策として、従来は
格は年1回で値決めされていた。しかし、新興
製鉄に適さないとされていた低品位の石炭や鉄
鉱石4を利用する技術の開発も進められている。
国台頭による日本の価格交渉力低下により、日
―――――――――――――――――――――
4 原料炭より発熱量が低い一般炭や、鉄分含有量が低い鉄鉱石。㈱神戸製鋼所は、一般炭や低品位鉱による製鉄
が可能な製鉄法「ITmk3」を開発し、北米で1号機を稼動させている。「ITmk3」は高炉に比べ設備投資額が低くす
み、CO2 排出量も少ない。同社は今後ベトナムやインドでのプロジェクトを予定しており、他の高炉メーカーと異
なる戦略での海外進出が可能である。
20
調査レポート
(2) 海外進出~現地進出によるボリュームゾー
ン需要の取り込み~
2011/春
No.73
ムゾーンである新興国のインフラ用や建設用と
いった現地汎用品需要を取り込んでいく必要も
もうひとつの経営課題が、海外進出による規
あるだろう。そのためには、上工程である高炉
模拡大である。これまで日本の高炉メーカーは
の海外進出検討も必要であろう。高炉一貫製鉄
国内生産を基本とし、高品質・高機能鋼材の開
所の建設には 0.5~1兆円を要すると言われ、高
発に注力して、同製品の輸出を伸ばすというス
炉新設はリスクが高いことに加えて、海外進出
タンスであった。海外進出については、主要取
には技術流出の懸念もある。また、高炉の海外
引先である自動車メーカーの工場海外移転に際
進出は、国内高炉の生産能力過剰を招き、再び
し、高品質・高機能鋼材を輸出することで、或
生産設備集約が求められるリスクと裏腹ではあ
いは現地企業との合弁等により海外進出し、日
る。技術力に基づいた高品質・高機能鋼材へ注
本で生産した半製品を輸入し下工程を現地生産
力することは、引き続き重要な戦略のひとつで
することで、対応してきた。
ある。しかし、新興国市場の需要を取り込むこ
リーマンショック後、低コストでの生産が可能
とが、今後の世界の鉄鋼業界における競争力を
で、今後の販売増加も見込まれる新興国への、加
決めるポイントのひとつとなる可能性は高い。
工組立メーカーの進出が加速している。特に鉄鋼
既に大型高炉を多数保有し、また、国の政策
業の大口需要者である自動車業界では、価格帯を
による影響が大きい中国は別として、汎用品を
抑えた世界戦略車を新興国で生産し、同国内だけ
主とした需要の伸びが見込めるインドや東南ア
ではなく世界への輸出拠点とする動きが現れて
ジアへの高炉進出は、巨額の投資となるが、事
いる。これらのケースでは、自動車メーカーは、
業として成り立つ可能性が高いだろう。なかで
上下工程を通して現地で生産された価格の低い
も、インフラ用や消費財用の需要の大幅な伸び
鋼材の利用に取り組んでいる。既に数年前から、
が見込め、東南アジアや中近東市場にも近く、
日本国内で生産している自動車の鋼材にも、為替
鉄鉱石資源を保有するインドへの高炉進出は注
の影響もあり、日本製より価格の低い韓国ポスコ
目される。日本の高炉メーカー各社も、新日本
の鋼材が使用され始めている。今後、自動車業界
製鐵㈱はタタ・スチール、JFE ホールディング
に限らず日本の加工組立メーカーの海外生産拠
ス㈱は JSW スチール、住友金属工業㈱はブーシ
点では、生産する製品の価格帯に適う品質を再検
ャンといったインド企業と連携し、現状では下
討したうえで、鋼材の購入先見直しや現地調達が
工程にとどまるが、インド市場への取り組みを
進んでいくことが予測される。
進めている。引き続き、各社の新興国市場への
更に、新興国に進出した日本の加工組立メー
カーの需要に加え、世界の鋼材需要のボリュー
取り組みに注目したい。
(森豊
浩基)
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