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入門教室/Q & A 産業ガスの基礎知識
第5回 産業ガスの取り扱い上の注意事項
及び関連法規・規格
Q22
A22
「産業ガス」と「高圧ガス」とは
どのように違うのですか。
「産業ガス」とは、各種産業界において利用される幅広いガス種全体の総称(Q&A第
1回参照)であり、液体であるか気体であるか、またはその圧力などには一切関係しませ
ん。一方、「高圧ガス」とは、「高圧ガス保安法(平成8年に高圧ガス取締法という名称か
ら改称)」において明確に定義されており、この法律において、その製造・貯蔵・販売・
移動・消費など、あらゆる取り扱いが細かく規制されています。表1に、「高圧ガス」の
定義の概要を示しますが、詳細については、法律条文を参照願います。また、下記に該
当するガスであっても、他の法律(例えば「電気事業法」)が適用される場合など、適用
が除外される事例もあります。
表1 高圧ガスの定義概要
項 目
定義概要
常用の温度で、現に圧力1MPa以上の圧縮ガス、または35℃で1MPa以
1
上となる圧縮ガス
常用の温度で、現に圧力0.2MPa以上の圧縮アセチレンガス、または
2
15℃で0.2MPa以上となる圧縮アセチレンガス
常用の温度で、現に圧力0.2MPa以上の液化ガス、または35℃で0.2MPa
3
以上となる液化ガス
上記以外で、政令で定められているもの(液化シアン、液化ブロムメ
4
チル、など)
第5回 産業ガスの取り扱い上の注意事項および関連法規・規格 1
入門教室/Q & A 産業ガスの基礎知識
Q23
A23
産業ガス(高圧ガス)の一般的な取り扱い上の注意事
項には、どのようなものがありますか。
産業ガスは、一般的には「高圧ガス」の状態で運搬・貯蔵・消費されることがほとん
どですから、ここでは、高圧ガス状態の産業ガスについて、その取り扱い上の注意事項
を列記します。
(1)高圧ガス容器の取り扱い
① 高圧ガス容器は、法律でその製造方法や検査が厳しく管理され、検査に合格した容器
には、容器の肩の部分に刻印が打刻されています。刻印内容の詳細は、法律を参照願
います。
② 高圧ガス容器は、法律においてその塗色が定められていますので、容器の塗色でガス
種が概ね判別可能です。表2に各ガス種の容器の塗色を示します。
表2 高圧ガス容器の塗色1)
高圧ガスの種類
容器の塗色
酸素ガス
黒 色
水素ガス
赤 色
液化炭酸ガス
緑 色
アセチレンガス
かっ色
液化アンモニア
白 色
液化塩素
黄 色
その他の種類の高圧ガス
ねずみ色2)
注 1)上記塗色は、容器の表面積の二分の一以上に行う
2)ステンレス鋼、アルミニウムは地肌色で「ねずみ色」と見なす
③ 容器の打撃・落下など粗暴な取り扱いは、容器・弁・安全装置などを損傷する可能性
があるため、できる限り丁寧に取り扱って下さい。
④ 容器を直立させて置く場合には、転倒しないよう鎖やロープで壁や専用のジグに固定
して下さい。この際、容器の上下2ヶ所で緩み無く固定するのが望ましく、固定ジグを
用いる場合は、アンカーボルトなどで床に強固に固定したものを利用して下さい。
⑤ 容器を横にして置く場合には、容器が転がらないよう支持具を用いて固定して下さい。
⑥ 容器を長時間風雨にさらしたり、土砂その他の粉塵のある環境に放置したりしないよ
うにして下さい。
(2)高圧ガス貯蔵上の注意
容積3000m3以上の高圧ガスを貯蔵するためには、都道府県知事の許可が必要となりま
すが、ここでは、許可を必要としない場合の注意事項について示します。
① 貯蔵場所は、40℃以下に保ちながら通気性のよい構造として下さい。
第5回 産業ガスの取り扱い上の注意事項および関連法規・規格 2
入門教室/Q & A 産業ガスの基礎知識
② 容器の近くに、油・ガソリンなど発火しやすいものを置かないで下さい。
③ 電線やアース線近くに容器を貯蔵しないで下さい。
④ 容器の近くに、腐食性のある化学薬品などを置かないで下さい。
⑤ ガスは、その種類毎に置き場所を明確に区分して下さい。特に酸素などの支燃性ガ
スと水素などの可燃性ガスは、一緒に貯蔵しないで下さい。
⑥ 貯蔵所では喫煙をせず、また消火器を備えてください。
(3)高圧ガス運搬上の注意
① 原則的に容器運搬時は、圧力調整器を取り付けずに、弁キャップが付いた状態で、
できる限り専用の運搬台車を利用して下さい。
② 止むを得ず容器を吊り上げる場合には、十分な注意を払うとともに、滑りにくい専
用吊りベルトなどを用い、電磁石や金属チェーンを使用しないで下さい。また弁キ
ャップの部分は吊らないで下さい。
③ 容器を立てた状態で手で転がす場合は、安全靴を着用して、静かに運んでください。
④ 容器を床に置いて足で転がしたり、相互にぶつけたりしないで下さい。
(4)高圧ガス使用上の注意
① 手動の容器弁ハンドルがついていない容器の元弁を開ける際は、専用のハンドル
(写真1参照)を用いて、ゆっくりと操作し、出口側に人などがいないことを確認し
て下さい。専用ハンドルの代わりに、スパナなどの汎用的な工具を用いないで下さ
い。
写真1 圧縮ガス容器スピンドル開閉専用ハンドルの例
② ガスの使用中は、元弁は十分開いておいて下さい。ただし、溶解アセチレン容器の
弁は、1.5回転以上開かないで下さい。
第5回 産業ガスの取り扱い上の注意事項および関連法規・規格 3
入門教室/Q & A 産業ガスの基礎知識
③ 出口側圧力が可変の圧力調整器(写真2参照)を容器に取り付ける場合、容器元弁
を開ける前に圧力調整器の調整弁が閉まっている(図中央のハンドルが左回りで緩
んでいる)状態であることを確認して下さい。
写真2 出口側圧力可変の圧力調整器(日酸TANAKA製)の例
④ 圧力調整器の取り付け部など、高圧状態のネジ接続部において漏洩が認められ、増
し締めを行う場合は、必ず容器元弁を締めて、圧力を低下させた後に操作して下さ
い。
⑤ ゴムホースを接続する場合は、ホース口径にあった接続金物を用い、専用のホース
バンドで漏洩のないよう確実に締め付けて下さい。
⑥ 夏の直射日光、炉、ストーブその他の熱源を避けて容器を設置して使用して下さい。
溶接・熱切断作業時にも、できる限り、スパッタや火花などが容器に直接飛び散ら
ないよう十分な距離を保つか、遮蔽板などの保護具を利用して下さい。
⑦ ガスの使用後は、元弁を閉じた状態で、圧力調整器内のガスを放出し、圧力調整器
を取り外して、弁キャップを取り付けてください。
(5)低温液化ガスの取り扱い
① 低温液化ガスの取り扱い作業時は、適当な素材の皮手袋を装着し、素手や軍手など
で液化ガスや低温部分に触れないで下さい。
② 低温液化ガスは、極低温によって鉄鋼材料などを脆化させるため、取り扱い時は周
囲にある設備などに十分注意するとともに、不用意に地面に撒き散らさないように
して下さい。
③ 可搬式小型液化ガス容器(LGC:Q&A第1回参照)は、真空二重断熱構造であり、
衝撃などによって容易に断熱性能が劣化するため、取り扱い時にぶつけたり、転倒
させたりしないよう注意して下さい。
第5回 産業ガスの取り扱い上の注意事項および関連法規・規格 4
入門教室/Q & A 産業ガスの基礎知識
④ 低温液化ガスは、少量であっても気化すると大量のガスとなるため、取り扱い作業
は、できる限り通風の良い場所で行って下さい。
⑤ 液化酸素は、支燃性ガスである酸素が大量に発生する可能性があり、その取り扱い
は特に注意を要します。液化酸素容器の周囲は、常に酸素が存在するという認識で
作業し、油脂類などの可燃物や着火源などは、確実に排除して下さい。また、作業
者の衣服への液化酸素の付着にも十分な注意が必要です。
第5回 産業ガスの取り扱い上の注意事項および関連法規・規格 5
入門教室/Q & A 産業ガスの基礎知識
Q24
A24
産業ガスの取り扱いにおいて、各ガス種毎に特有の注
意事項は、ありますか。
代表的な産業ガス種について、そのガス種の性質毎に注意事項を分類して以下に列記
します。
(1)酸素(支燃性)
① 酸素容器や酸素関連器具には、油脂類の付着などは、いかなる場合も厳禁として下
さい。圧力計も「禁油」と表示された酸素専用のものを使用して下さい。
② 圧縮空気の代用として、高圧酸素は絶対に使用しないで下さい。各種の圧縮空気利
用機械への利用だけでなく、塵埃の清掃用や夏季の冷風目的の利用は、大変危険で
す。
(2)窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素(不活性・準不活性)
これらのガスは、常温ではほぼ不活性の性質であるため、取り扱い上の注意事項もほ
ぼ同様です。
① 酸素欠乏による窒息が最も懸念されるため、特に大量消費に際しては、通風などの
換気状態に注意する必要があります。
② これらのガスを貯蔵または使用する部屋・設備内に入る場合は、予め酸素濃度計
(写真3参照)で十分な酸素濃度が確保されていることを確認して下さい。
写真3 酸素濃度計(新コスモス電機製)の例
第5回 産業ガスの取り扱い上の注意事項および関連法規・規格 6
入門教室/Q & A 産業ガスの基礎知識
(3)水素(可燃性)
① 水素は極めて爆発範囲の広い(Q&A 第4回参照)ガスであり、大気中でも大変危険
ですから、特に着火源となりうるものを近くから排除することが重要です。
② 水素の使用に際しては、基本的に逆火防止器(写真4参照)を取り付けてガス供給
するようにして下さい。
写真4 逆火防止器(日酸TANAKA製)の例
③ 水素は分子量が小さい(Q&A 第1回参照)ため、大変漏洩しやすいガスであり、ネ
ジ継手部やホースなどの接続部においては、入念な漏洩検査が必要です。
第5回 産業ガスの取り扱い上の注意事項および関連法規・規格 7
入門教室/Q & A 産業ガスの基礎知識
Q25
A25
産業ガスについての公的規格はありますか、また
溶接・熱切断用のガスに関する規格はありますか。
各種産業ガスについて、現時点で有効な日本工業規格(JIS)を以下に列記します。ま
た、溶接・熱切断用のガスの規格として、平成15年に新しく公示されたJIS(アーク溶接
及びプラズマ切断用シールドガス)を紹介します。
(1)各種単体ガスのJIS
以下に各規格名称を列記するとともに、表3∼表7に各規格の品質規定の一部を示しま
す。なお詳細は、規格本文を参照願います。
①「JIS K 1101
酸素」
②「JIS K 1107
高純度窒素」
③「JIS K 1105
アルゴン」
④「JIS K 1106
液化二酸化炭素(液化炭酸ガス)
」
⑤「JIS K 0512
水素」
表3 酸素の品質規定
項 目
規 定
純度vol%
99.5以上
水 分
凝縮した水分を認めないこと
表4 高純度窒素の品質規定
項 目
1級
2級
純度vol%
99.999以上
99.99以上
酸素volppm
5以下
50以下
水分volppm
10以下
15以下
表5 アルゴンの品質規定
項 目
1級
2級
純度vol%
99.99以上
99.90以上
酸素volppm
10以下
20以下
窒素volppm
50以下
−
水分volppm
10以下
20以下
第5回 産業ガスの取り扱い上の注意事項および関連法規・規格 8
入門教室/Q & A 産業ガスの基礎知識
表6 液化二酸化炭素の品質規定
項 目
1種
2種
3種
二酸化炭素vol%
99.5以上
99.5以上
99.9以上
水分vol%
0.12以下
0.012以下
0.005以下
臭気
臭気のないこと
臭気のないこと
臭気のないこと
表7 水素の品質規定(抜粋)
標準物質
項 目
工業用
1級
2級
3級
4級
純度vol%
99.9999以上
99.999以上
99.99以上
99.9以上
露点
(℃)
[水分]
−70以下
−60以下
−50以下
凝縮しないこと
酸素volppm
0.3以下
0.5以下
4.0以下
100以下
窒素volppm
0.2以下
5.0以下
25以下
400以下
二酸化炭素volppm
0.1以下
1.0以下
10以下
―
(2)溶接・熱切断用ガスのJIS
海外の溶接シールドガスに関する規格としては、米国のAWS(American Welding
Society)規格において、
「Specification for Welding Shielding Gases(A5.32)」が規定さ
れており、またISOとしては、「Welding Consumables−Shielding Gases for Arc
Welding and Cutting(ISO14175)」が1997年に制定されました。
日本国内においては、最近まで、JISとしては存在しておりませんでしたが、ISOとの
整合化も踏まえて、ISO14175に準拠したJISが平成15年1月に制定・公示されました。以
下にその概要を示します。
① 規格名称
「JIS Z 3253
アーク溶接及びプラズマ切断用シールドガス」
②適用範囲
この規格は、アーク溶接、プラズマ切断及びバックシールドガス用などの各種シール
ドガスに適用され、混合ガス以外に単一組成のガスも対象です。
なお、ガス溶接やガス切断に用いられるアセチレンやLPガスなどの燃料ガスや、支燃性
ガスとしての酸素は対象外となっています。
③シールドガスの種類
表8にシールドガスの種類の概要を示します。大分類のグループは、ガスの組成により、
還元性(R)、不活性(I)、弱酸化性(M1)、強酸化性(M2、M3、C)、無反応性(F)、
と区別されています。ここで、「無反応性」とは、プラズマ切断やバックシールドガスと
して利用される100%N2ガスの性質を示す言葉です。小分類は、更にガス組成範囲によっ
て番号により分類され、一般的に数値が大きいほど、添加ガス濃度が大きくなる傾向と
なっています。
第5回 産業ガスの取り扱い上の注意事項および関連法規・規格 9
入門教室/Q & A 産業ガスの基礎知識
表8 シールドガスの種類(概要)
④シールドガスの品質
この規格で要求される品質として、混合ガス濃度の許容差(表9参照)、シールドガス
の純度と水分(表10参照)があります。
表10は、JISとISOの規定値を比較して示していますが、純度と水分ともに、JISの方が
概ね厳しい水準となっているがわかります。これは対象とするシールドガスが国内で流
通している工業用ガスを原料として製造されるとの前提で、前述の単体ガスのJIS規定値
を考慮して規定されたためです。
表9 混合ガス濃度の許容差(単位:vol.%)
表10
シールドガスの純度及び水分の比較
第5回 産業ガスの取り扱い上の注意事項および関連法規・規格 10
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