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災害時の「緊急避難路」整備について
「四国技報」第12巻24号 平成25年1月1日 災害時の「緊急避難路」整備について 中村河川国道事務所 中村国道出張所 技術係長 敷地 貴 1.はじめに 平成24年8月29日に、南海トラフの巨大地震による津波高・浸水域等が、国(内閣府)から公 表されました。今回の公表は、本年3月31日に公表された震度分布・津波高の第1次報告(50m メッシュ)を、10mメッシュ単位の微細な地形変化を反映したデータを用いて、震度分布、海岸部 での津波高や到達時間、陸域に遡上した津波の浸水域・浸水深を推計したものです。 その結果、高知県幡多郡黒潮町では同県土佐清水市と共に、「最大震度7」「海岸での最大津波高 34m」という、日本一厳しい数字が示されました。 2.児童88人の命を救った避難階段 平成23年3月11日に発生した東日本大震災における大津波により甚大な被害を受けた岩手県岩 泉町小本小学校では、校舎、体育館、校庭とも浸水したが高台を通る国道45号につながる避難階段 が整備されていたことで、児童88人全員が無事に避難することができました。 このことから、津波襲来時には安全で円滑に高台へと避難できる施設の整備が重要であることが改 めて確認されました。 3.中村河川国道事務所の取り組み 当事務所では、東日本大震災による津波被害を教訓に、来るべき東南海・南海地震に備え、津波な ど災害発生時に浸水が想定される国道沿いの山側法面や既設ストンガード裏のスペースを改良するこ とにより、道路利用者や沿道住民の皆さんが高台への「緊急避難路」としても利用可能な道路点検用 通路を整備する取り組みをはじめました。 図-1 今回整備箇所 2 「四国技報」第12巻24号 3.1 幅 平成25年1月1日 員 階段やスロープの幅員については、現地の状況にも よりますが、歩行者一人の占有幅0.75mであるこ とから2人が並んで通れる幅1.5mを基本とするこ とにしました。 津波襲来時(緊急時)には、車椅子・松葉杖使用者で も介助者との並行歩行が可能な幅員を確保しておりま す。 写真-1 3.2 スロープ プラスチック階段 山側法面の避難階段にはプラスチック階段を採用し ました。現場打ちのコンクリート階段と比べ軽量であ ることから危険を伴う高所での施工性や安全性の向上 を確保しました。 また、現道上で作業を行う際に度々問題となる規制中 における追突事故やもらい事故に対しても二次製品を 使用することでコンクリート打設に伴う交通規制が不 要となり、円滑な道路交通の確保、工期短縮等による現 道交通への負荷の低減が図られました。 3.3 写真-2 プラスチック階段 手摺り・転落防止柵 避難階段・スロープには手摺りを設け、子供からお 年寄りまで安全で円滑に避難できるよう工夫しまし た。 併せて、スロープや法面の小段など避難者の溜まり場 となるスペースには、余震などの揺れから転落を防止す るため縦格子型の転落防止柵を設置しました。 【 写真-3 3.4 手摺り付き転落防止柵 点検用扉付き蹴破り門扉 平時における道路点検用の扉と津波襲来時(緊急時) には蹴破って避難できる扉を一体にしました。 蹴破り板は石膏ボード(繊維強化セメント板)を使 用しており、子供や女性の方でも簡単に蹴破って避難 することができます。 写真-4 3 蹴破り門扉 「四国技報」第12巻24号 3.5 平成25年1月1日 避難誘導灯 夜間における津波襲来時(緊急時)の避難誘導灯として、ソーラーL ED誘導灯を設置しました。緊急時には内蔵バッテリーにより停電に関 係なく効果を発揮します。 また、法面の影や覆い茂った草木により日射量の確保が困難な場所で はソーラーと発光部を分離させることで、どのような条件下においても 最大限の効果が発揮できるよう工夫しました。 避難路への入り口となる門扉には、その存在を常に知らしめるため夜 間になると常時点灯するタイプを採用し、そこから先の避難路について は、獣類が通る度に感知し誤点灯を繰り返すセンサー式ではなくスイッ チ式を採用し、緊急時にはスイッチを入れて避難できるようにしました。 写真-5 避難誘導灯(分離タイプ) 3.6 避難誘導看板 避難路への入り口及びお遍路さんや一般ドライバーの方々が休憩する東屋には、逃げる方向を示す 「矢印」と「ピクトグラム(絵文字)」を一体にした避難誘導看板を設置しました。 津波襲来時(緊急時)には、土地勘のない人でも迅速な避難行動をとることができます。 写真-6 3.7 避難誘導看板 防草対策 避難階段やスロープ脇の法面には防草対策を実施し、津波襲来時(緊急時)には安全かつ円滑に避 難できるよう配慮しました。 写真-7 防草シート設置状況 4 「四国技報」第12巻24号 平成25年1月1日 4.広報誌への掲載 今回完成した緊急避難路は積極的な広報活動を行った結果、地元の広報誌にも掲載され一般の方々 に広く周知して頂くことができました。 図-2 図-3 【広報くろしお 2012年10月号】 【広報四万十 2012年12月号】 黒潮町広報 四万十市広報 5.地元住民による避難訓練 緊急避難路の整備を行った黒潮町灘地区・四万十市 坂本地区では、地元住民の方々による避難訓練がおこ なわれ、実際に門扉を蹴破ってもらい最上段まで上が っていただきました。 参加者からは、「下から見るより意外と上りやすか った」「しっかりしていて安心感があった」「これで 安心して避難できる」「良い物を作ってもらいありが とうございました」などの声が多く寄せられました。 写真-8 避難訓練の様子 5 「四国技報」第12巻24号 平成25年1月1日 6.今後の課題 最大クラスの巨大な地震・津波に対応できる高さまで整備することが最終目標ではありますが、一 部官地内の整備だけでは最大津波高に達しない箇所もあることから、自治体および地権者の協力を得 ながら最大津波高以上まで到達できるよう整備をおこなっていくことが必要と考えています。 また、今後においても自治体や地元と協議・協力しながら整備箇所数や避難高さを充実させていき たいと考えています。 7.おわりに 「最大震度7」「海岸での最大津波高34m」という衝撃的な数字が公表された地域では、これま での防災計画や対策事業の抜本的な見直しを迫られ住民からはあきらめや不安を訴える声が数多く寄 せられているそうです。 今回の取り組みは、道路利用者や沿道住民の皆さんはもとより、新聞・テレビ等にも大きく取り上 げられ世論の関心の高さを改めて知る結果となりました。 この度の緊急避難路の整備が、道路利用者や沿道住民の皆さんが避難する選択肢のひとつとして有 効に活用していただければと考えています。 また、今後緊急避難路等の整備を計画・検討されている道路管理者や自治体の皆様のご参考になれ ば幸いです。 参考 - 完成写真 国道56号 国道56号 黒潮町佐賀(トンネル上に避難) 黒潮町白浜(斜面上に避難) 中村宿毛道路 国道56号 黒潮町灘(斜面上に避難) 四万十市坂本(トンネル電気室付近に避難) 6