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10.閉経後高脂血症

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10.閉経後高脂血症
N―39
2004年3月
研修医のための必修知識
D.婦人科疾患の診断・治療・管理
Diagnosis, Treatment and Management of Gynecologic Disease
10.閉経後高脂血症
Hyperlipidemia in postmenopausal women
1)性,年齢階級別からみた高脂血症の現況
厚生労働省により報告された第 5 次循環器疾患基礎調査結果の概要(平成12年度実施)
によると,平成 2 年度に比較して,男女ともに各年齢階級別総コレステロールの平均値
はいずれの年齢階級においても減少している.男性においては高コレステロール血症
(血
清総コレステロール値220mg"
dl 以上)
の比率が最も高かった50歳代において,比率が
46.2%から29.1%へと大幅に低下した.女性においては逆に50歳代における高コレステ
ロール血症の比率が29.3%から44.4%へと著しく上昇した.平成 2 年度においては,男女
の高コレステロール血症の比率が逆転するのは60歳代からであったが,平成12年度にお
いてはすでに50歳代から逆転している.男性においては年代を追うごとに,総コレステ
ロールやトリグリセリド(TG)の平均値が減少していくが,女性においては50歳代を境
に総コレステロールや TG の平均値が逆に増加していき,HDL-コレステロール(HDL-C)
の平均値が減少していく.
国民の健康意識向上による食事,ライフスタイルの変化,また HMG CoA 還元酵素剤
(スタチン系)
の出現により,全体的に脂質プロファイルが改善された.一方,女性におい
ては閉経後に内因性エストロゲンの低下によって脂質プロファイルが著しく悪化する.こ
れらのことが今回の調査結果に強く反映されていると思われる.閉経後女性における脂質
プロファイルのさらなる改善がクローズアップされた.
2)エストロゲンが脂質に及ぼす影響
エストロゲンが脂質に及ぼす影響の作用機序を図 1 に示す.エストロゲンは肝性トリ
グリセリドリパーゼ(HTGL)
活性を抑制する.HTGL は TG-rich HDL2の異化代謝に関与
し,TG‐含量の少ない HDL3への変換を行うとともに,HDL の肝取り込みを促進する.
HTGL 活性の抑制により HDL2が蓄積することになる.さらに,エストロゲンは肝,小腸
でのアポ A-1を合成促進し,アポ A-1を主成分とする HDL が増加する.これらの相互作
用により HDL-C が増加すると考えられる.
エストロゲンは肝の LDL レセプターを増加させ,血中の LDL-コレステロール(LDLC)
の肝内取り込みが増加,その結果血中の LDL-C が低下する.
エストロゲンは肝臓における TG 合成の亢進とアポリポ蛋白 B の合成を亢進し,その
ため血中 TG の増加と VLDL の分泌が増加する.その他,TG への影響はエストロゲン
によるリポ蛋白リパーゼ(LPL)
の低下が影響していると考えられる.リポ蛋白リパーゼ
(LpL)
活性が抑制されると血中 TG が増加する.
妊娠中など血中エストロゲン濃度がかなり高いと,肝での TG を多く含む VLDL の産
生が著しく増える.VLDL の分解により LDL-C や TG が増加する.
3)ホルモン補充療法(HRT)
と脂質代謝
HRT に使用するエストロゲン,投与経路,投与量,併用するプロゲスチン,投与法(周
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期投与や連続投与など)
により脂質代謝
に及ぼす影響が異なってくる.経口剤は
血
血
清
清
腸管から吸収され,門脈循環を経て,肝
H
H
D
D
臓に達するが,高濃度のエストロゲンが
ア
L
L
ポ
3
2
肝臓に作用して蛋白代謝に影響を与える
リ
︱
︱
ポA コ
コ
(hepatic first pass effects)
.本 邦 で
レ
蛋︱ レ
肝リ
ス
白1 ス
性パ
頻用される結合型エストロゲン(CEE)
テ
テ
トー
ロ
ロ
リゼ
は0.625∼1.25mg"
day の中,高用量 投
ー
ー
グ︵
ル
ル
与では LDL-C は大きく減少し,HDLリH リ
セT ポ
H
C や TG は大きく増加する.0.3mg"
day
ラG 蛋
D
白︵
イ
L
の低用量では,LDL-C は軽度に減少し,
ト Lの
ド︶ リ L
リ の取
パp
エ
HDL-C は増加し,TG は軽度増加する.
グ 肝り
ーL
ス
リ 内込
ゼ︶
ト
エストリオール(E3)
製剤は脂質代謝にほ
セ へみ
ロ
ラ
ア
ゲ
とんど影響しない.卵巣から分泌される
イ
ン
ポ
L
︵
ド
エストロゲンのうち最も作用の強いエス
リ
D
総
ポ
コ
L
血
トラジオール(E2)
は本邦では,貼付剤と
肝レ 蛋
︱
レ
清
セ
白
コ
L
ス
して使われる.貼付剤は hepatic first
総
レテ肝
Dプ B
コ
スロ内
Lタ
pass effects を欠くことや,血中濃度
レ
テーへ
ー
ス
の
ロル
が急激に上昇することなく安定した濃度
テ
ー︶移
ロ
肝
ルの行
が保たれるのが特徴とされる.LDL-C
リ
ー
性
パ
ル
ト
ト
の減少は軽度で,HDL-C, TG はほとん
ー
︵
リ
リ L︱
ど変化がみられないとする報告が多い.
グゼ
グ Dコ
︵
リH
リ Lレ
本邦で最も併用されるメドロキシ酢酸プ
セT
セ
ス
ラG
ラ
テ
ロゲステロン(MPA)
は LDL-C 減少を
イL
イ
ロ
I
ド︶
ド
ー
増強し,HDL-C や TG 増加を減弱する
D
ル
L
︶
ようである.欧州では経口で E2が投与
さ れ る が,E2 1mg と norethisterone
(図 1)低∼中用量エストロゲンの脂質に及
acetate(NETA)
0.5mg の 合 剤 又 は 倍
ぼす良好な影響
量の E2 2mg と NETA 1mg の合剤が使
わ れ る.E2 1mg と NETA 0.5mg の 合
剤は LDL-C を軽度減少させ,HDL-C
および TG には影響しない. E2 2mg と NETA 1mg の合剤は LDL-C を大きく減少させ,
HDL-C を軽度に減少させるが,TG には影響しない.HRT の代替療法となりうる第 2 世
代 SERM ラロキシフェンは,LDL-C を軽度減少させるが,HDL-C や TG には影響しな
いと報告されている.各 HRT レジメによる脂質代謝への影響を文献的考察によりまとめ
たので,参照されたい(表 1)
.
4)エストロゲンの心血管に対する作用
エストロゲンは心血管系に対する種々作用を有するが,凝固線溶系に及ぼす影響を除き,
総じて心血管系に対して有益な作用と考えられる(表 2)
.
エストロゲンの心血管系に対する直接作用には,急速に起こる非遺伝子作用と,より長
期的な遺伝子作用がある.エストロゲンは血管内皮細胞における NO 合成酵素を活性化
することにより,NO 産生を促進し急速に血管を拡張させる.血管平滑筋細胞膜上のカル
シウムチャンネルを開き,血管平滑筋を弛緩させる.長期的な作用は,エストロゲン受容
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(表1)ERT/HRT と脂質代謝
レジメ
CEE 0.625 ∼ 1.25mg 連続投与
CEE 0.3mg 連続投与
E3 0.5 ∼ 1.0 mg 連続投与
CEE 0.625mg・MPA2.5mg 連続投与
CEE 0.625mg・MPA2.5mg 周期投与
E2 貼付剤 50 μ g/24h
E2 貼付剤 50 μ g/24h・MPA5mg 周期
E2 1mg 経口
E2 1mg・NETA0.5mg 連続投与
E2 2mg・NETA1mg 連続投与
LDL-C
HDL-C
TG
Lp(a)
↓↓↓
↓
―
↓↓↓
↓↓↓
↓
↓
↓↓
↓↓
↓↓↓
↑↑↑
↑↑
―
↑↑
↑↑
―
―
↑↑
―
↓
↑↑↑
↑
―
↑↑
↑↑
―
↓
↓↓
―
―
↓↓
↓↓
?
↓↓↓
↓↓↓
↓
↓
?
?
?
↓:5% 程度の減少,↓↓:10%程度の減少,↓↓↓:10% 以上の減少,―:変化なし,
↑:5% 程度の増加,↑↑:10%程度の増加,↑↑↑:10% 以上の増加,?:不明
(表2)エストロゲンの心血管系に対する作用
直接作用
Rapid, nongenomic effects
血管拡張:NO 合成酵素の活性化
Long-term, genomic effects
血管拡張:NO 合成酵素,プロスタサイクリン
合成酵素などの発現増加
血管障害の抑制:
血管内皮細胞の成長促進
血管平滑筋細胞の増殖抑制
間接作用
脂質への作用:
LDL-C 減少,HDL-C 増加 TG 増加,LP(a)
減少
凝固線溶系への作用:
凝固系亢進;第Ⅶ因子,プロトロンビン活性
の亢進
線溶系亢進;PAI-1, tPA 減少,D-dimer 増加
血管拡張:
レニン,アンギオテンシン変換酵素減少
エンドセリン―1 減少
抗酸化作用:
LDL-C 酸化抑制(17 β-estradiol )
接着因子(E-selectin, ICAM-1,VCAM-1)
の発現抑制し,単球の血管壁への侵入を抑制
体(ERs)
を介する作用で,遺伝子発現により起こるものである.血管傷害時に起こる血
管内皮成長因子や,血管平滑筋増殖抑制因子の発現,血管拡張に関わるプロスタサイクリ
ン合成酵素や NO 合成酵素などの発現などである.動脈硬化の進行機序において単球の
血管内皮への接着,侵入,血管壁での貪食,増殖という段階を経ることが知られている.
単球の血管内皮への接着も rolling, firm adhesion という 2 段階を経る.rolling には血
管内皮上に発現した E-selectin が,firm adhesion には血管内皮上に発現した intercellular adhesion molecule(ICAM)-1や Vascular cell adhesion molecule(VCAM)-1
が関与するといわれ,これら接着因子の産生はエストロゲンにより減少することが分子レ
ベルで示され,単球の内皮への接着が減少すると考えられる.In vivo においても HRT
によりこれらの接着因子が減少することが報告されている.
これらの直接作用に加えて,エストロゲンは脂質プロファイル,凝固線溶系に及ぼす作
用,抗酸化作用などの間接作用を有する.エストロゲンの脂質プロファイルに及ぼす作用
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については前項を参照されたい.経口エストロゲン剤投与を続けることにより第"因子抗
原(F"ag)
が増加し,プロトロンビン活性のマーカーである prothrombin fragment 1
+2(F1+2)
が増加する.経口エストロゲン剤により F"活性化やプロトロンビン活性化が
助長される.またプラスミノーゲン・アクチベータ・インヒビター1(PAI-1)
抗原や組織
プラスミノーゲン・アクチベーター(tPA)
抗原が減少する.D-dimer の増加を認めるこ
とから,線維素溶解も亢進していると考えられる.貼付剤では凝固線溶系に影響しないと
の報告もある.エストロゲンはレニン‐アンギオテンシン変換酵素,エンドセリン‐1血
中濃度の減少およびアンギオテンシン受容体 1 型の発現を抑制することによって血管拡
張を促進する.E2は LDL-C の酸化を抑制することが報告されている.
5)HRT による動脈硬化の予防
冠動脈性心疾患の発症は,女性の場合,閉経を境に急激に上昇することが知られており,
冠動脈性心疾患の増加は内因性エストロゲンの低下が主因であると考えられてきた.多く
の基礎研究でエストロゲンが抗動脈硬化作用を有することが示され,臨床的に高脂血症を
改善することや血管拡張作用を認めることから,HRT は動脈硬化の予防,治療しうるも
の と し て 期 待 さ れ て き た.と こ ろ が,HERS Study で,CEE 0.625mg"
day お よ び
MPA 2.5mg"
day の連続併用投与を,冠動脈性心疾患を有する患者さんに平均4.1年試み
たところ,再度の冠動脈性心疾患の予防,すなわち二次予防ができなかった.HERS Study
では HRT 開始 1 年以内の再度の冠動脈性心疾患の発症は52%増加したが,その後の観察
では再発の危険が減少することが示された.また Lp(a)
基準値の高い群では HRT により
再発の相対危険度が減少した.ERA Study では CEE 0.625mg"
day 単独又は CEE 0.625
mg"
day および MPA 2.5mg"
day の連続併用投与を平均3.2年,冠動脈性心疾患を有す
る患者さんに試みたが,やはり二次予防ができなかった.さらに2002年度の WHI の報告
によれば,健康な閉経後女性に対して,同様に CEE 0.625"
day および MPA 2.5mg"
day
の連続併用投与を平均5.2年試みたところ,ハザード比が1.29となり,冠動脈性心疾患の
一次予防にならないばかりでなく,かえって危険であることが報告された.HRT の一法
に関して冠動脈性心疾患の予防効果が否定されたにすぎないのではあるが,現在のコンセ
ンサスとしては,HRT は LDL-C や HDL-C を改善するが,冠動脈性心疾患の一次,二
次予防にはならないというところであろうか.
6)HRT が動脈硬化の予防につながらない理由
非特異的な炎症マーカーである CRP が,経口エストロゲン剤により増加する.CRP
は動脈硬化のマーカーでもあり,LDL-C と同程度に冠動脈性心疾患の危険因子であると
指摘されている.HRT により血栓が増加することが知られている.経口エストロゲン剤
は凝固系,線維素溶解系の因子に影響し,凝固系優位に作用すると考えられる.経口エス
トロゲン剤は TG を増加させることにより,LDL の小粒子化が起こり LDL の被酸化性を
亢進させてしまう.それにより,エストロゲンの抗酸化作用が相殺されてしまう可能性が
ある.以上のような理由が考えられるが,エストロゲン剤を低用量にすること,貼付剤に
することでこれらの有害作用を軽減できる可能性がある.プロゲスチンの併用により
CRP が減少することや接着因子が減少することも報告されている.
7)高脂血症のマネージメント
表 2 は NCEP
(National Cholesterol Education Program)
が示した閉経後女性にお
ける脂質プロファイルのガイ ド ラ イ ン ATP!(Adult Treatment Panel !)
で あ る.
HERS および ERA の結果から,NCEP ATP!は閉経後高脂血症の推奨される治療法の
リストから ERT および HRT を除いた.
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(表3)National Cholesterol Education Program(NCEP), Adult Treatment
Panel Ⅲ(ATP Ⅲ)Classification of Serum Lipoprotein and Triglyceride
Levels in Postmenopausal Women
ATP Ⅲ Classification
Total cholesterol(mg/dl)
HDL-C(mg/dl)
LDL-C(mg/dl)
Triglycerides (mg/dl)
*
Desirable
(Low Risk)
Borderline
(High Risk)
High Risk
< 200
≧ 40
< 130 +
< 150
200―239
< 40 *
130―159
150―199
≧ 240
< 40 *
≧ 160
≧ 200
ATP Ⅲ does not distinguish between borderline and high levels of HDL-C.
levels of < 100mg/dl are recommended for women with heart disease.
+ LDL-C
(表4)主な高脂血症薬の比較
エストロゲン
スタチン系
ニコチン酸
フィブラート系
イオン交換樹脂
LDL-C
HDL-C
TG
Lp(a)
↓
↓↓
↓
↓
↓
↑
↑
↑↑
↑
↑
↑
↓
↓↓
↓↓
↑
↓
―
↓↓
↓
―
↑:modest increase, ↑↑:marked increase, ―:neutral,
↓:modest decrease, ↓↓:marked decrease
NCEP ATP!ではスタチン系薬剤を高脂血症の第一選択薬として推奨している.スタ
チンは肝臓および小腸で HMG-CoA 還元酵素を特異的に阻害し,コレステロール合成を
阻害する.肝での LDL 受容体活性を亢進させる.スタチン系薬剤は LDL-C を大幅に低
下させ,HDL-C を中等度に上昇,TG を中等度に低下させる.冠動脈性心疾患の一次お
よび二次予防効果も多くの研究により認められている.副作用による服薬中断は5%以下
であり,副作用では肝酵素の上昇や横紋筋融解症などに注意する.
ニコチン酸は HDL-C を大幅に上昇させ,TG も大幅に低下させるが,LDL-C の減少
は軽度である.ニコチン酸は脂肪細胞における脂肪分解を抑制することにより,TG やコ
レステロールの合成を抑制する.主な副作用はほてり,消化器症状でまれに肝毒性や耐糖
能異常がみられる.
フィブラート系薬剤は LDL-C を軽度に低下,HDL-C を軽度に上昇,TG を大幅に低
下させる. LPL を活性化することにより, VLDL の異化促進するため, TG が低下する.
主な副作用は胆石症,胆"炎,ミオパシーである.
イオン交換樹脂は LDL-C を軽度に低下,HDL-C を軽度に上昇,TG を軽度に上昇す
る.陰イオン交換樹脂で腸管内で胆汁酸と結合し,胆汁酸の再吸収をブロックする.胃腸
障害が強くでることがある.
これらの薬剤の脂質プロファイルに及ぼす影響には違いがあり(表 3)
,それぞれの作用
を補完する意味で併用することは合理的であると考えられる反面,副作用の発現が増える
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ことに注意しなければならない.エストロゲンは Lp(a)
を低下させるので,スタチン系
薬剤と HRT の併用は大変有用であると思われる.経口エストロゲン剤は TG を増加させ
てしまうので,TG の高い症例に HRT を併用する時は,貼付剤にするなどの配慮が必要
であろう.
8)診断
高脂血症はコレステロール又は TG が異常に高値を示すことで容易に診断される.血清
TC が220mg"
dl 以上又は LDL-C が140mg"
dl 以上で高コレステロール血症,血清 TG
が150mg"
dl 以上で高トリグリセリド血症と診断できる.
9)治療,管理
検査は血清 TC,HDL-C,LDL-C,TG は必須として,糖尿病を合併していないか空
腹時血糖および HbA1c も計測しておく.できれば Lp(a)
も計測しておくとよい.食事
制限,体重減少,運動が治療の第 1 選択であることはいうまでもなく,十分なコントロー
ルが得られない症例が薬物治療の対象となる.高脂血症の管理について表 4 に示す.LDLC の値を危険因子に応じて調整することが主眼となる.危険因子に挙げられるのは,喫
煙,高血圧(血圧>140"
90又は降圧薬の服用)
,HDL-C<40mg"
dl ,冠動脈性心疾患の
家族歴(男性血縁者で55歳未満,女性血縁者で65歳未満の発症),年齢(男性45歳より上,
女性55歳より上)の 5 つである.糖尿病は,冠動脈性心疾患と同等の危険とみなされる.
また HDL-C>60mg"
dl は,抗危険因子として危険因子の総数からひとつ減らす.この
ようにして危険因子を数え,LDL-C の目標値を決める.冠動脈性心疾患又はそれと同等
の危険をもつ者の LDL-C の値は100mg"
dl 未満に下げる必要があるが,このような症例
は循環器や内分泌を専門とする内科医に管理を委ねるべきと思われる.危険因子が 2 つ
以上であれば,LDL-C を130 mg"
dl 未満に下げる必要があり,危険因子がないかひとつ
であれば,LDL-C を160 mg"
dl 未満に下げる必要がある.我々婦人科医が治療に当たる
のはこれらの症例であり,治療法の選択については,
「7)高脂血症のマネージメント」の
項を参照されたい.各薬剤の特徴を把握して,治療に当たることが望ましいのはいうまで
もないが,LDL-C の調整が管理の主眼であることから,LDL-C を最もよく下げるスタ
チン系の薬剤が第 1 選択薬となる.HRT に関しては,補助療法として使い,HRT のみ
を高脂血症の治療目的に使わないほうがよい.TG が高い症例では,経口による HRT は
(表5)高脂血症の管理(JAMA, 2002)
LDL-C の目標値を決めるための危険因子
・
・
・
・
・
喫煙
高血圧:血圧> 140/90 又は降圧薬の服用
HDL-C < 40mg/dl
冠動脈性心疾患の家族歴:男性血縁者で 55 歳未満,女性血縁者で 65 歳未満の発症
年齢:男性 45 歳より上,女性 55 歳より上
危険因子分類
・ 冠動脈性心疾患又は同等の危険
・ 上記危険因子が 2 つ以上
・ 上記危険因子がないかひとつ
LDL-C の目標値(mg/dl)
< 100
< 130
< 160
*糖尿病は冠動脈性心疾患と同等のリスクとみなす.HDL-C > 60mg/dl で総危険因子
の数からひとつ減らして考える.
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避けたほうがよく,TG が高くなく,Lp(a)
が高い症例にはむしろ HRT が向いている.
また HRT と抗高脂血症薬との併用は特に問題とならない. LDL-C がそれほど高くなく,
TG が高い症例にはフィブラート系の薬剤が適している.LDL-C と TG がともに高い症
例に,抗高脂血症薬を併用する場合,スタチン系とフィブラート系の併用は LDL-C およ
び TG が非常によく下がるのであるが,原則的に併用禁忌である.このような症例には,
スタチン系とエイコサペントエン酸(EPA)の併用が安全性の面から推奨される.
《参考文献》
1)Mendelsohn ME. Protective effects of estrogen on the cardiovascular
system. Am J Cardiol 2002 ; 89(suppl)
:12E-18E
2)Executive Summary of The Third Report of the National Cholesterol Education Program(NCEP)Expert Panel on Detection, Evaluation, and Treatment of High Blood Cholesterol in Adults(Adult Treatment Panel!). JAMA
2001 ; 285 : 2486―2497
3)Davidson MH, et al. Management of hypercholesterolaemia in postmenopausal women. Drugs Aging 2002 ; 19 : 169―178
〈岩佐 弘一*,本庄 英雄*〉
*
Koichi I WASA, *Hideo HONJYO
Department of Obstetrics and Gynecology, Kyoto Prefectural University of Medicine, Kyoto
Key words : Hormone replacement therapy
(HRT)
・LDL-C・HDL-C・Lp(a)
*
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