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西洋法制史講義レジュメ ナチ期の法と法学 1. 「新しい法学」の誕生 キール学派 キール大学の若手教授 ナチズム的な意味での「新しい法学」の提唱 キール大学法学部=「突撃隊学部」に Georg Dahm(刑法学) 、Friedrich Schaffstein(刑法学) Ernst Rudolf Huber(公法学) : Karl Larenz(民法学) 、Wolfgang Siebert(民法学) :学派の中核 Karl August Eckhardt(ゲルマニスト) :政治的にも活動、SS メンバー ― 現民法の全面改訂を志向 ・<主権的法=権利>が主たる攻撃対象の一つに:一般的には支持されず → 「権利能力」概念の否定 → <民族同胞の法的地位>による代置 民族共同体の一員として権限が付与される → ユダヤ人権利剥奪への思想的前段階 ・人法的な共同体的関係の観念 ⇔ 債権法上の契約における個人主義的モデル 労働関係、会社(団体)関係、賃貸関係 → 誠実義務 ・新たな所有関係:一連の具体的な所有概念(対象物の機能によって規定される) 世襲農地制 2.新たな解釈手法 法実証主義かそれからの違背か? ・ラートブルフ Gustav Radbruch →「自然法の再生」 ・リュタース Bernd Rüthers 『無制限解釈』1968 年 (1)裁判官の法律拒否 「一般条項への逃避」に対する警句 J.W.Hedemann 1933 ナチズム的法理念の前提に カール・シュミット「あらゆる不確定な法概念、つまりいわゆる一般条項のすべては、無条件か つ留保なく国家社会主義的な意味で適用されうる。 」1934 年 「裁判官の地位と任務に関する要綱」 :1936 年ドイツ法律家大会での宣言 ・ナチス革命以前の法律の否定(健全な国民感情に違背するもの) ・総統の決定への服従 (2)いくつかの判例 ・ユダヤ人牛取引商の牛売買の無効(1938 年) 「公序良俗」違反につき第 138 条に基づき無効 理由:今日ひとかどの民族同志はユダヤ人との取引を控えているから 1 被告側(買い手)は当該牛が約束された牛乳供給をしていないことを主張しただけ 契約解除との規定は考慮されず ・一般条項と不確定な法概念(ナチズム的世界に基づく思いつき)に依拠(多くの事例において) → 私法の無制限解釈へ ・国籍を剥奪されたユダヤ人の退職金減額:信義則に沿ったものに ・ある労働者が工場の饗宴で歌を歌う際に左手を掲げた行為(右手に支障があったため) 「新時代の象徴」に対する軽侮として即時解雇に ・ベルリン-シェーネベルク区裁判所判決(1938 年) ある住宅建設協同組合によるユダヤ人借家人に対する解約事例 1923 年の借家人保護法:借家人が家主に対し相当の迷惑をかけており、借家関係の継続が 期待できない場合にのみ解約可能 → 担当裁判官によれば、 この法律は異なった世界観が支配するもとで成立した法律であり、それは民族共 同体の一要素としての家共同体の観点から解釈されなければならないもの。その 際には、借家人の個人的特性が問題に。 「その借家人がユダヤ人であるという事実は、彼に関しては、本来的な意味では 責任とはならない。借家人保護法の第2条の意味においては、しかしながら彼 に責任が帰せられる。彼は、単にドイツ人住居人の共同体内において不適当な 人というだけではなく、それ以上に彼にはドイツ人との共同体にとって必要な 内的関係 Einstellung が欠けているのである。彼との借家契約を継続させるこ とを、ドイツ人借家人に対し、後者が真摯に住居共同体の形成を目指している 時に要求することはできない。 」 ・ライヒ裁判所判決:いわゆる「アーリア・ユダヤ異民族間婚姻の取消」 (1934 年) BGB 第 1333 条(現行婚姻法第 32 条) 理由:他方配偶者の個人的特性についての錯誤 これに一方配偶者がユダヤ人であることが他方配偶者による取 消理由に 第2判決:取消は BGB 第 1339 条によれば、錯誤の発見後6ヶ月以内になしうる。 → 当該期限の進行は、ナチ的世界観が出現するまでは、BGB 第 203 条に従い停止されていた、という見解をとった。 → ニュルンベルク諸法へ 1935 年 9/15 ユダヤ人の公民権停止と結婚等の制限 ・ 「ドイツ帝国公民法」 ・ 「ドイツ人の血と名誉を保護する為の法律」 3.BGB から民族法典へ (1)民法典 BGB の改正 1934 年以降ライヒ司法省で検討 1939 年 ドイツアカデミー総裁 H. フランク 2 新しい統一法典の編纂をアカデミーに委託 ○ 民族法典草案 1942 年 ・基本原則 25 条 ナチス党綱領に服する 第 1 章「民族共同体生活の諸原則」 第 2 章「法適用と法形成」 第 3 章「民族法典の適用範囲」 ・第 1 篇「民族構成員」80 条 42 年中に相続法を公表予定 → 公表されず (2)基本原則 ○ 第 1 章第 1 条 最高の法律はドイツ民族の福利である。 <党綱領第 24 項> 我々は、それが国家の存立を危うくせず、またはゲルマン人種の美俗・道徳感に反しない限 り、国内におけるすべての宗教的信仰の自由を要求する。 我が党は、かくのごときものとして、宗派的に一定の信仰に拘束されることなく、積極的な キリスト教精神の立場を代表する。党は我々の内外におけるユダヤ的唯物主義的な精神に対 して抗争するものであり、我が民族の持続的復興が、次の原則に基づいて、専ら内面から行 われ得ることを確信するものである――公益は私益に優先する。 ○ 第2条 ドイツの血、ドイツの名誉と遺伝的健全性の維持と擁護 ○ 第3条~第6条 家族生活の関する諸原則 第3条 婚姻 第 4 条 子と青少年の保護 第 5 条 子に対する両親の義務と国家と党の役割 第 6 条 自然子(非嫡出子)の平等と懐妊中の母親の保護 ○ 第 7 条~第 15 条 経済生活に関する規定 第 7 条 民族構成員の義務 = 民族共同体ための力の投入 基本原則が党綱領に奉仕するものであることを示す典型 第 8 条以下 民法の基礎的カテゴリーに科関わる規定 ・所有権、相続、団結、契約 3 ○ 第16条~第 18 条 権利の実現に関する諸原則 第 16 条 信義則と民族共同体に承認された 諸原則に基づく権利行使 第 17 条 権利濫用の禁止 第 18 条 国家による権利の強制的実現 自力救済の法律による限定 ○ 第2章 法適用と法形成 ・法律家の任務 ・裁判官のよるべき解釈方法=態度 ナチス的世界観 この『基本原則』の指導思想 ○ 第3章 民族法典の適用範囲 全ての国民 人種的に異なる者を排除 (3)民族法典とは ○ ナチズムイデオロギーの表明 ○ 政治的現実の規範的表現 → BGB(近代法原理)から 新たな法秩序への転換 4