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これからの歯学・歯科医療における人材育成
公開シンポジウム 「これからの歯学・歯科医療における人材育成」 日 時:平成 27 年 2 月 7 日(土)13:00−16:00 場 所:昭和大学旗の台キャンパス 16 号館 2 階講義室 プログラム 1)開会挨拶 宮崎 隆*(日本学術会議連携会員、日本歯学系学会協議会理事長、昭和大学 歯学部長・教授) 古谷野 潔*(日本学術会議第二部会員、九州大学大学院歯学研究院教授) 2)シンポジウム 【司会:朝田 芳信*(日本学術会議連携会員、日本歯学系学会協議会副理事長、 鶴見大学歯学部教授)】 13:05~13:45 「これからの歯科医療を支える歯科医師の育成について」 座長 佐々木啓一*(日本学術会議連携会員、日本歯学系学会協議会副理事長、 東北大学大学院歯学研究科長・教授) 窪木 拓男先生(岡山大学歯学部長・教授) 中島 信也先生(日本歯科医師会常務理事) 13:45~14:25 「歯学部教育と臨床研修の連携」 座長 安井 利一(日本歯学系学会協議会常務理事、明海大学学長) 寺門 成真先生(文部科学省高等教育局医学教育課長) 鳥山 佳則先生(厚生労働省医政局歯科保健課課長) 14:25~14:40 質疑応答 14:50~15:30 「歯学における大学院教育・専門医教育のあり方」 座長 木村 博人(日本歯学系学会協議会常務理事、弘前大学大学院医学研究科教授) 丹沢 秀樹先生*(日本学術会議第二部会員、特定非営利法人日本口腔科学会 理事長、千葉大学大学院医学研究院教授) 永田 俊彦先生(特定非営利法人日本歯周病学会理事長、徳島大学大学院 ヘルスバイオサイエンス研究部教授) 15:30~16:00 全体討論 3)閉会挨拶 佐々木啓一*(日本学術会議連携会員、日本歯学系学会協議会副理事長、 東北大学大学院歯学研究科長・教授) (*印の講演者は、主催委員会委員) 超高齢社会に対応する歯学教育を如何に構築するか 岡山大学歯学部長 窪木拓男 歯科医療が超高齢社会に適応し,国民の期待に応える必要があることは自明である。なぜ なら,口腔は呼吸や摂食機能を介して命をつなぎ,尊厳や歓びを維持しながら生活を送るため に必須の器官であり,この器官の感染や機能不全は生命の危機や生活の質の低下に直結するか らである。これだけ超高齢社会において歯科医療の重要性が叫ばれているにもかかわらず,口 腔の感染を防ぎ,口腔機能を維持することが,目の前の病床に伏した有病者や要介護者の生命 や尊厳を守るために必須な要素であるという医療イメージを,歯科医療関係者が十分持てない でいるのはやはり歯学教育の対応が遅れているからであろう。 このような問題意識から,岡山大学歯学部では,平成 17 年より摂食嚥下リハビリテーショ ン従事者研修会を岡山県歯科医師会の協力のもと長年実施しており,歯科医師の生涯教育に大 きな実績を残している。また,全国に先駆けて平成 20 年に設置された岡山大学病院周術期管 理センターには開設当初から歯科医師,歯科衛生士,歯科技工士が参画し,医療支援・周術期 管理歯科における新規診療報酬収載のモデルとなった。さらに,平成 21 年より,卒前歯学臨 床教育における周術期管理・在宅介護に関するインターンシップ実習を開始,平成 24 年から 既に3度,周術期やがん治療における口腔機能管理を具体的に考えるシンポジウムを開催し, 全国から多数の実務者を受け入れた。これらを基礎に,本年より学外臨床講師等を利用した在 宅歯科診療参加型臨床実習を開始したところである。 医療はますます生活や福祉との境界を曖昧にしている.もしも,我々が在宅歯科診療を教 育に真面目に含めるのであれば,在宅現場における高頻度の疾患(認知症,がん,誤嚥性肺炎, ロコモティブシンドローム,サルコペニア,低栄養等)の知識はもちろん,摂食嚥下リハビリ テーションや食形態,医療保険や介護保険制度に関わる行政法規や倫理規律,多職種との連携, 地域包括ケア,死生学や Advance Care Planning,患者の体位変換や車いすへの移乗,高齢者 が住みやすい住居への改装支援,生活・介護支援等,幅広い知識を教育する必要があろう.ま た,人生のステージや全身状況に応じた口腔内の補綴物等の整理の方法に関する議論や,認知 症と診断されたら歯科に受診いただく運動も緒についたばかりである.一方,高齢者の「食」 を基盤とした健康増進,介護予防,虚弱予防の可能性が認識されつつあり,超高齢社会におい て歯科への期待は高まるばかりである.このようなタイミングで,文部科学省 課題解決型高 度医療人材養成プログラム(事業名:健康長寿社会を担う歯科医学教育改革)に採択されたこ とは大変光栄である.本事業は,岡山大学を申請担当大学とした計11大学に,東京大学 死 生学・倫理応用センター,東京大学高齢社会総合研究機構,国立長寿医療研究センター,東京 都健康長寿医療センターをあわせた歯学教育改革コンソーシアムを中心に,健康長寿社会を担 える歯科医師を育てるための文理融合,医科・歯科連携,多職種連携教育改革を実現しようと するものである. 本講演では,この超高齢社会において歯科医学が本当の意味で医療人の仲間入りをするた 1 めに必要な,具体的な努力の方向性を教育という側面から考えて見たい.もちろん,概念論を 話す時期は過ぎており,具体的な教育カリキュラムを策定し,全国的にそれを共有する時期に 来ていることは間違いがない.なぜなら,今カリキュラムが確立されたとしても,その教育を 受けた歯科医師が歯科大学から輩出されるのは数年後になるのだから. 参考)課題解決型高度医療人材養成プログラムの選定結果 http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/iryou/1350317.htm 現職: 岡山大学歯学部長 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 インプラント再生補綴学分野 教授 職歴ならびに教育歴: 2012-現在: 岡山大学歯学部長 2012-2013: 東京理科大学総合研究機構社会連携部 客員教授 2009-2011: 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 副研究科長 2007-2009: 岡山大学医学部・歯学部附属病院 副病院長(教育・研究担当) 2003-現在: 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 教授 2001-2003: 岡山大学大学院医歯学総合研究科 助教授 2000-2001: 岡山大学歯学部 助教授 1997-1998: 文部省在外研究員(短期)としてアメリカ合衆国に留学 NIH, Advanced Tissue Sciences 等を訪問 1994-1995: 文部省在外研究員(若手長期)としてアメリカ合衆国、 University of California, Los Angeles に留学 1991-2000: 岡山大学歯学部附属病院 講師 1990-1991: 岡山大学歯学部歯科補綴学第一講座 助手 1986-1990: 岡山大学大学院歯学研究科歯科補綴学専攻 資格: 2012: 日本静脈経腸栄養学会 中国地区 TNT 研修会 2011: 日本口腔顔面痛学会 暫定専門医,暫定指導医 2009: 日本老年歯科医学会 認定医,指導医 2008: 日本口腔インプラント学会 口腔インプラント専門医(420 号) ,指導医(420 号) 2005: 日本口腔インプラント学会認定医(52 号),指導医(52 号) 2004: 日本口腔リハビリテーション学会 指導医(5 号) 2003: 臨床修練指導歯科医(第 363 号) 2002: 日本補綴学会 指導医(867 号) 2 口腔リハビリテーション認定医(5 号), 2000: 日本顎関節学会 認定医(339 号) ・指導医(297 号) 1997: 日本補綴学会 認定医(1428 号) 1990: 岡山大学大学院歯学研究科修了 (歯学博士取得:博甲第 807 号,平成 2 年 3 月 28 日) 1986: 岡山大学歯学部卒業,歯科医師国家試験合格 (歯科医籍登録:98022 号、昭和 61 年 5 月 24 日) (保険医登録:岡国歯 1818、昭和 61 年 7 月 21 日) 3 これからの歯学・歯科医療における人材育成 日本歯科医師会 常務理事 中島 信也 日本の急速な高齢化は、平均寿命の延びに健康寿命が追いつかないといった深刻な課題を投 げかけている。その中にあって歯科医療、口腔保健が健康寿命の延伸に大きく寄与してくると いうことが国民にも認知されてきており、我々の責務もさらに重大なものになってきている。 高齢社会における歯科医療の問題とは、高齢者に特化した対応を考えるのではなく、そのず っと前に遡り、ライフステージにあった対応が問われており、さらに広い視野をもった疾病予 防、増悪化の防止をはかることが求められる。 この事は、実際の臨床にあたっている臨床医が十分な理解をし、対応していくことは勿論だ が、同時に歯科医療に携わるものそれぞれがチームとして共通の認識をもって対応していくこ とが必要であり、この対応こそが、社会から問われているのであろうと考えている。 歯科医師としての研修は、卒前教育に始まり、臨床研修、その後の生涯研修へと継続的に途 切れなくなされていくことが必要である。大学における卒前教育においては、平成 23 年 3 月 に歯学教育モデル・コア・カリキュラムが改定され、学生が卒業時までに習得して身につけて おくべき実践的能力が明確に提示された。さらに、文科省では、平成 26 年度事業として、健 康長寿社会の実現に貢献する歯科医療人養成を目的とし、大学における歯学教育改革の推進、 国民の期待に応える優れた歯科医師等の養成にかかわる課題解決型高度医療人材養成プログ ラムを公募し、2 つのプログラムが決定した。同時に、歯科衛生士、歯科技工士がチーム医療 に貢献し、高い指導能力を持ったメディカルスタッフの養成にかかわるプログラムも公募され たが、応募が少なく 1 つのプログラムのみが認定されるにとどまり、今後の課題を残す結果と なった。歯科医師臨床研修制度については、平成 18 年 4 月より義務化され、平成 28 年度に 見直しがなされるべく現在検討が行われている。この臨床研修制度には、「臨床研修は、歯科 医師が、歯科医師としての人格をかん養し、将来専門とする分野にかかわらず、歯科医学及び 歯科医療の果たすべき社会的役割を認識しつつ、一般的な診療において頻繁に関わる負傷又は 疾病に適切に対応できるよう、基本的な診療能力を身に付けることのできるものでなければな らない。 」といった基本理念がある。さらにその目的には、「患者中心の全人的医療を理解し, すべての歯科医師に求められる基本的な診療能力(態度,技能及び知識)を身に付け,生涯研 修の第一歩とすることである。 」とあり、まさしく歯科医師としての第一歩を踏み出すに当た っての、基本的な診療に必要な臨床技術や知識を身に付けることであり、この臨床研修終了ま での期間が、現状の制度の中で法制化された研修になっている。 一方、国民は歯科医学の進歩の恩恵を受ける権利があり、我々歯科医師は、進歩した歯科医 療を国民に提供する責務がある。そのために我々歯科医師は生涯にわたり研鑚を積まなければ ならない。このような社会状況の中にあって、日本歯科医師会は、歯科医師として生涯研修を 自ら進んで修得することが重要であるという考えのもと、会員に対し信頼性の高い歯科医療を 提供し、広く国民に安心安全な歯科医療を提供するために生涯研修事業を行ってきた。 4 しかし、現状すべての歯科医師が社会、国民が求める歯科医療に対応すべく、生涯を通じた 研修を受ける環境が整っているとは言えない。特に臨床研修医を修了した若手の歯科医師が、 すぐさま日本歯科医師会に入会され、このような生涯研修を受けることはなかなか難しく、将 来の歯科界を担う若手歯科医師が臨床医としての礎を築かねばならない重要な時期に、その社 会的責務を果たすための生涯研修を行う環境に身を置くことが容易でないことは問題である と考える。そこで日本歯科医師会では、若手歯科医師へのアプローチの第一歩として、E‐シ ステムを利用して臨床研修医が生涯研修事業に参加できる第6種会員を新設したのをはじめ、 今後は若手歯科医師が歯科医師会に入会できるカテゴリーを新設し、歯科医療のさらなる発展、 国民の健康保持のため一緒に活動していただきながら、将来は正会員として生涯研修事業にも 参加してもらえることを目的として会員資格の見直しを図っているところである。 歯科医師の研修体制にも課題が残る中、歯科医療、口腔保健を担う歯科医療人全体がチーム として活動できるしっかりとした基盤を作ることも重要な課題であり、他のメディカルスタッ フとの機能的なチーム医療を進めていくための体制作りも急がなければならない課題である。 今回は、現状の社会状況に応じた高度な歯科医療を施すべき歯科医療人を育成すると共に環 境整備するための取り組みについて、日本歯科医師会としての意見を述べてみたい。 経歴: 1984 年:東京歯科大学卒業。 1990 年:東京歯科大学大学院歯学研究科修了(口腔外科学専攻) 、歯学博士 1990 年:東京歯科大学口腔外科第一講座助手 1992 年:日本口腔外科学会専門医取得 1993 年:中島歯科医院勤務 1993 年:東京歯科大学口腔外科学非常勤講師(現在に至る) 2012 年:医療法人信和会中島歯科医院理事長(現在に至る) 役歴: 1997 年 4 月~2001 年 3 月:川崎市歯科医師会学術部委員会委員 2001 年 4 月~2005 年 3 月:神奈川県歯科医師会医療保険委員会委員 2001 年 6 月~2005 年 5 月:神奈川県国民健康保険団体連合会審査委員 2005 年 4 月~2011 年 3 月:神奈川県歯科医師会理事 2005 年 6 月~2011 年 5 月:神奈川県社会保険診療報酬支払基金審査委員 2011 年 4 月:日本歯科医師会常務理事(現在に至る) 2011 年:日本歯科医学会常任理事(現在に至る) 2011 年:日本歯学系学会協議会監事(現在に至る) 2012 年:日本歯科医学会学会専門医制在り方検討会委員(現在に至る) 5 歯学教育に関する現状と課題 文部科学省高等教育局医学教育課長 寺門 成真 歯学教育については、従前より、質の高い歯科医師を養成するための取組が各大学歯学部の 創意工夫により行われていたが、歯学教育の質を担保することを目的に、平成13年度に歯学 教育モデル・コア・カリキュラムが策定され、また、平成17年度には、臨床実習に参加する 学生の能力を一定程度確保することを目的として、共用試験(CBT及びOSCE)が導入さ れている。 また、平成24年度からは、診療参加型臨床実習の充実や歯学教育認証評価の導入に向けた 補助事業を開始し、コア・カリや共用試験と併せて、各大学において6年間を通じた体系的な 歯学教育が行われるよう取組を進めているところである。 高齢化の進展に伴って歯科医療のニーズが大きく変化している中、文部科学省としては、今 後も、厚生労働省をはじめとした関係省庁、関係機関と連携の上、今後の歯科医療を支える優 れた質の高い歯科医師の養成に向けて、歯学教育の改善・充実に努めていきたい。 現職: 文部科学省高等教育局医学教育課長 職歴: 1997 年 7 月 高等教育局医学教育課専門職員(兼)病院指導専門官心得 1998 年 4 月 石川県企画開発部企画課高等教育振興室長(兼)総務部看護大学設立 準備室次長 1999 年 4 月 同 〃 情報政策課長 2000 年 4 月 同 〃 企画課長 2001 年 4 月 生涯局政策課専門官 2001 年 5 月 官房総務課補佐 2002 年 10 月 高等教育局高等教育企画課補佐 2003 年 9 月 官房国際課専門官 2003 年 10 月 在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官 2006 年 9 月 生涯局生涯学習推進課専修学校教育振興室長 2008 年 9 月 同 2009 年 10 月 高等教育局国立大学法人支援課企画官 2011 年 9 月 官房企画官 2012 年 7 月 復興庁統括官付参事官 2014 年 8 月 高等教育局医学教育課長 政策課教育改革推進室長 6 超高齢社会における歯科医療とは 厚生労働省医政局歯科保健課長 鳥山 佳則 WHO は、1990 年「変革か崩壊か」のタイトルのレポートを発表し、当時話題となった。この レポートでは、歯科医療の需要を、技術のレベルにより、軽度、中度、高度に分類し、将来、 中度または高度の技術を用いた歯科医療の提供が減少すると予想した。その根拠となったのが、 先進国における、う蝕の減少である。その後、予想どおり、う蝕は減少した。しかしながら、 レポートは、今日の日本が直面している超高齢社会を想定していなかった。 高齢化のピークである 2050 年には、100 歳以上の人口は 60 万人、一方、出生数は 50 万人 と推計されるが、歯科医療の需要は、どう変化するのであろうか。 14 歳以下では、人口は減少し、一人当たりのう蝕も減少すると考えられるので、歯科医療 の需要は減少すると予想される。15 歳から 64 歳の人口も、同様の傾向が予想される。65 歳以 上は、歯科受診が困難な患者も多いので、人口の増加が、直ちに歯科受診の患者増となるかど うかは不明である。また、患者一人当たりの歯科治療の需要は、患者の個人差が大きいことか ら、定量的な予測は困難である。ただし、高齢者の人数が増加することに併せて、多くの歯を 持つ高齢者が増加することも重要である。 残存歯数に着目すると、2011 年調査結果の 70 歳~74 歳は、24 年前の 55 歳~59 歳と同じ歯 の本数であり、80 歳~84 歳は、24 年前の 65 歳~69 歳と同じ歯の本数である。 生涯を自分の歯で食事をすることは、全身の健康にも寄与し、また、幸福な人生につながる ものである。一方、寝たきりで、歯科治療を受けることが困難な人にとっては、残った歯が、 不幸にして、健康上のトラブルを起こす可能性がある。 今日までの歯科医療は、 「健康な患者」を対象とした治療体系で構成されており、健康では ない患者は、 「特殊な患者」とみなしてきた。しかしながら、将来、 「特殊な患者」の数が「健 康な患者」の数より多くなることが予想される。 平成 24 年度および 26 年度の歯科診療報酬改定では、高齢者歯科モデルを提示し、改定が行 われた。従来の歯科医療を「健康人モデル」、今後の歯科医療を「高齢者モデル」と名付け、 高齢化による歯科治療の困難さ、複雑さを四つに分類した。一つめは、う蝕や歯周病による「歯 の喪失」 、次に「加齢による口腔領域の変化」、さらに「全身の疾患や合併症・服作用」 、最後 に「身体の活動性の低下」である。ほとんどの高齢者が、少なくとも、これらの内、一つ以上 のリスクを持っている。 高齢社会における歯科医療モデルを構築するため、歯科医師は何をし、何ができるのであろ うか。最も重要な課題は、人材育成である。多くの歯科医師がいわゆる一人開業の経営者とな るが、このことは、利点欠点を併せもつ。女性歯科医師の増加を踏まえて、歯科医師のキャリ アパスを検討していく必要がある。 上記の課題について解決の道筋を見いだし、超高齢歯科モデルを築き、外国のロールモデル となることを期待する次第である。 いずれにしても、歯科医師、歯科医療の将来を大きく左右する課題であり、皆さんと共に考 えたい。 7 現職: 厚生労働省医政局歯科保健課長 学歴・職歴: 1987 年 3 月 大阪大学歯学部卒業 1987 年 4 月 厚生省入省 2010 年 7 月 厚生労働省保険局歯科医療管理官 2012 年 9 月 社会保険診療報酬支払基金歯科専門役 2014 年 1 月 厚生労働省医政局歯科保健課長 8 歯学における大学院教育・専門医教育のあり方 特定非営利活動法人日本口腔科学会 理事長 丹沢 秀樹 大学院教育の目的は、各分野における研究を通じて、自立した基礎および臨床における研究 者/臨床家を育成し、将来の大学教育、大学院教育の担い手や、臨床におけるリーダーを供給 することにある。特に、歯学・医学分野における大学院教育の理学・工学分野における生物系 大学院教育との相違は、人体の生理現象や病態の解明を中心とした学術的な思考方法を身に着 けさせるという点である。このため、人材育成の目的は、臨床や疾患を理解できる基礎研究者、 ならびに基礎研究を理解できる臨床家の育成であろう。近年、大学院教育が単なる学位という 資格を取得するための手段に成り下がっているような気配を感じることがあり、この点が非常 に危惧される。重要な課題に研究指導者とともに取組み、医科学・歯科学を俯瞰し、展望でき る能力を育む教育姿勢が強く望まれる。さらに、国際化も含んだ課題として、論文発表や学会 発表などに関し、単なる「発表」で終わることなく、国際的な舞台でディスカッションが可能 な能力の開発が必要である。これは、英語によるコミュニケーションを直接的に指すものでは ない。如何に英語力があっても内容の伴わない発表は世界の場では相手にされない。逆に、多 少英語に難点があっても内容を伴う発表であれば、真摯にディスカッションが行われることも ある。単なる語学教育ではなく、国際言語による思考とディスカッションの訓練が日常的に求 められている。ささやかな研究であっても、国際的な広い世界の場で、多くの研究者と課題を 共有し、ともに展望を語り合う喜びを体感させることは、人間教育としても非常に大きな成果 が期待できる。さらに、現在、論文の剽窃や捏造などの問題が起こり研究者を苦しめているが、 原点に返り、一番乗りや名誉欲にかられた研究ではなく、あくまでも患者のための地道な研究 を継続する姿勢を習得させる必要がある。 専門医教育の目的は、臨床各分野における臨床のスペシャリスト育成が目的である。しかし、 多くの分野における、いわゆる「専門医制度」が卒後6年目程度の非常にレベルの低いもので あり、「専門医=スペシャリスト」とは言い難く、さらに、新しく発足する「専門医制度」に 関する最近の情報では、この点に関しては、改善には遠く及びそうもない。この点に関する改 善のための方策としては、日本外科学会における2階建方式や日本口腔外科学会における臨床 実地試験などが参考になる。また、専門医とはいえ、総合的な臨床力が高齢化を中心とした社 会のニーズへの対応に強く求められる。歯科において、高齢者は慢性の全身疾患を持つ歯科患 者であり、歯科医療における安全の確保の重要性は高齢者の増加とともに日増しに高まってい る。患者の全身状態を的確に把握し、全身状態と歯科治療の相互的関わりを十分に考慮した上 で、安全で安心な歯科治療を行いうる歯科医師の養成が急務であり、単にそれぞれの分野の知 識や技能に優れているだけでは信頼される「専門医」とは言えない。この意味で、各分野にお いて独り立ちできる技能・知識の習得を保証するだけの「専門医」制度とは別に、全人的な医 学・医療を理解し、歯科医療と関連した全身管理が可能であることを認定する制度の設立が必 要ではないかと考える。この制度においては、「総合的な広い視野に立ち患者の状態の把握と 9 必要な医療を判断する能力」が認定される必要がある。このため、細分化され、職業的に過ぎ る各分科会などによる認定ではなく、領域横断的な集学的立場からの認定が必要となる。 さらに、この目的の達成のためには、歯学部教育、卒後臨床研修制度、専門医制度や生涯研 修制度などを再検討して、一貫性のある教育システムを構築する必要がある。そのために、以 下のような課題を考えてみた。 1)学部教育と卒後臨床研修における知識・技能の習得のさらなる充実 2)専門医制度や生涯教育における充実した基礎学力に基づく問題解決能力の開発 3)学部教育と卒後臨床研修における総合病院における医学臨床実地研修(単なる有病者歯科 ではなく、医科の高頻度疾患の実体験、on the job training) 4)卒後臨床研修と生涯研修における有病者歯科の実践教育 5)卒後臨床研修と生涯研修における、介護、在宅、高齢者医療の実践教育と他職種とのスム ーズな連携教育 現在の歯学における不足している教育システムは、医学における実践的なon the job training であり、この意味で、医学部や医科総合病院の活用が検討されなければならない。 現職: 千葉大学大学院医学研究院 口腔科学 教授 千葉大学医学部附属病院 歯科・顎・口腔外科 科長 日本学術会議 会員 日本学術振興会学術システム研究センター 専門研究員 中央社会保険医療協議会 専門委員 日本口腔科学会 理事長 千葉県歯・口腔保健審議会 会長 10 岐路に立つ歯学系大学院教育 特定非営利法人日本歯周病学会 理事長 永田 俊彦 歯学研究に携わる若手研究者の数が年々減少しているように思われる。現在、日本学術会議 歯学委員会からの「口腔疾患グローバル拠点の形成」の提案など、日本から新たな歯科医学の 潮流を発信し、同時に日本の歯学研究のレベルアップを図ろうとする取り組みが進められてお り、これから若い研究力は益々必要とされる。しかしながら、次代を担う歯学研究者育成のた めの大学院教育の現状や課題に関して、これまで本シンポジウムを含めて真剣な議論が展開さ れていないように思われる。 文部科学省がまとめた平成 25 年度の歯学系大学院入学状況をみると、国公立 12 大学の博 士課程の定員 812 名に対して入学者数は 603 名(充足率 74%)、私立 17 大学の博士課程の定 員 412 に対して入学者は 317 名(充足率 77%)となっている。平均すると国公立私立ともに 約 7 割の充足率であるが、定員を充足している大学は、国立 1 校、私立 5 校のみであり、残 りの 23 大学では定員割れという現実がある。また、都市部の大学では充足率が高く、地方大 学での充足率は低いという傾向が認められる。直近の大学院入学者の動向は不明であるが、大 学院入学者総数の減少と地方大学での大学院入学者の減少については、今後の大きな課題であ ろう。その原因を探ってみると、1)研修医制度の必修化による研究志向の低下、2)経済的 問題、3)国家試験対策を重視した学部教育、4)若者の留学希望者の減少、5)若者の地方 離れ(大都市志向) 、などが考えられる。とくに研修医制度の必修化によって臨床教育の標準 化は前進したのかもしれないが、一方で研修医制度が大学院離れの大きな要因になっているこ とも事実である。また、歯学部の定員削減によって卒業生の絶対数が減少していることも一要 因になっている可能性がある。いくつかの大学では、専門医を意識した職業的医療人の育成を めざした専攻を設けているところもあるが、その成果については全く未知数である。もし、現 在のような状況が続くと、10 年、20 年単位で考えたときに、世界の歯学研究をリードできる 日本の歯学研究者の減少と研究レベルの低下がおおいに懸念される。学問を追究する場である 大学が単なる臨床医養成機関であってはならない。シンポジウムでは、大学院教育の現状と課 題を提示して、問題点の明確化を図りたい。 現職: 徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部歯周歯内治療学分野 教授 学歴・職歴: 1978 年 3 月 九州大学歯学部卒業 1978 年 6 月 徳島大学医学部附属病院歯科口腔外科 医員 1979 年 4 月 徳島大学歯学部附属病院第二保存科 助手 1979 年 4 月 徳島大学歯学部歯科保存学第二講座 助手 11 1986 年 5 月 徳島大学歯学部附属病院第二保存科 講師 1988 年 9 月 トロント大学歯学部客員研究員(2 年間) MRC Group in Periodontal Physiology, University of Toronto 1995 年 5 月 徳島大学歯学部歯科保存学第二講座 教授 2004 年 4 月 徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部 歯周歯内治療学分野 教授 主な公的役職: 2004 年 4 月〜2007 年 3 月 徳島大学学長補佐(国際関係担当) 2007 年 4 月〜2009 年 3 月 徳島大学歯学部長 2013 年 4 月〜2015 年 3 月 特定非営利活動法人日本歯周病学会理事長 資格: 1978 年 6 月 歯科医師免許 1986 年 7 月 歯学博士(九州大学) 1992 年 1 月 日本歯周病学会認定医 1993 年 10 月 1993 年 3 月 1995 年 10 月 同指導医 日本歯科保存学会認定医 同指導医 12