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私の肖像画
私の肖像画 私はこどものころの写真を持っていません。私が大学生であっ た昭和 49 年の豪雨災害で、実家が床上浸水し、実家の離れの 私の部屋に置いてあった写真がすべて水に浸ってしまったから です。 何年か前に、近所に住んでいた親戚の人が所持する写真を焼 き増しして数枚の写真をくれました。そのうちの 1 枚は、私が 小学校 1 年生のころ撮られたものです。家のそばの真光寺の境 内にある大きな石の上に、近所の年上のこどもたちと兄たちと 一緒に写ったものです。 何故、こどものころの写真のことを話題にするかと言えば、 瀬戸内国際芸術祭の「醤(ひしお)の郷・坂手港プロジェクト」 左海醤油の倉庫 で、江戸時代創業の老舗のお醤油屋である左海醤油の倉庫にお いて、作品展示・制作をしているアーティストの加茂昴さんか ら、こどものころの写真を持ってきてくださいと言われ、実家 にあるたった 1 枚のこの写真のことを思い出したからです。 加茂さんは、まだお若いアーティストですが、展示された作 品を拝見すると確かな問題意識と確かな表現力をお持ちのアー ティストだと感じます。 作品は、雪山の尾根を歩く二人の登 山家であったり、東京の高層ビル群の夜景であったり、3・11 の大震災後の廃墟であったり、人物画であったりしますが、忠 実な写実画でようで、実はそうではなく、そこに深い意味が込 められているように感じます。 作風とは異なり、実際の加茂さんが、物静かで、謙虚な人柄 の方なのに驚かされます。その加茂さんから肖像画のモデルを 薦められ、折角の機会なので快諾しました。 仕事の合間をぬって、左海醤油倉庫のアトリエを時折訪ねて は、雑談をしながら肖像画を描いていただきました。肖像画は、 まだ 3 合目か 4 合目、残りは東京に戻って描かれるそうです。 こどものころの写真を持ってきてくださいというのは、単な 左海醤油の倉庫で展開中の 加茂昴さん、織咲誠さんの作品 「醤油倉庫レジデンスプロジェクト」 る現在の肖像ではなく、そこに、こどものころの何かを重ね合 わせることで、ひとりの人間の生き様、出来上がった肖像を、 加茂さん独自のかたちで表現されるのでしょうか。 1 ヶ月にも及んだ加茂さんの小豆島滞在最後の日、二人で真 光寺の石を見に行きました。写真では大きく見えた石が意外に 小さいのに驚きました。 小学校 1 年生の私の写真。引っ込み思案で、いつも年上のみ んなの後をおいかけている暗い感じの少年のはずが、写真では 満面の笑みで、腕を組み、年上の誰よりも、偉そうにしています。 あれから 50 年以上もたって、石の上で、あのころと同じポー ズをして、加茂さんに写真を撮ってもらいました。さて、どん な肖像画が完成するか、楽しみですね。加茂さんには、瀬戸内 国際芸術祭が飛躍の一助になればと思います。そして何度も、 これから小豆島を訪れてほしいと思います。 (平成 25 年 4 月 29 日) 先日は、谷町議会議員の肖像画を 描かれていました 小学校 1 年生の私の写真 あのころと同じポーズをして、 加茂さんに写真を撮ってもらいました 満面の笑みで、腕を組んでいます