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本文を読む - 住宅生産団体連合会

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本文を読む - 住宅生産団体連合会
住宅政策研究会シンポジウム
「高齢化社会における住宅産業と住宅金融」
主催=東京大学大学院経済学研究科/東京大学大学院経済学研究科附属日本経済国際
共同研究センター(CIRJE)
後援=社団法人 住宅生産団体連合会
日時=2011年9月14日(水) 場所=すまい・るホール
開会挨拶=吉川 洋(東京大学大学院経済学研究科長・教授)
第1部 基調講演「住宅金融の課題と展望」=福田 慎一(東京大学大学院経済学研究科
教授、附属日本経済国際共同研究センター長)
第2部 パネルディスカッション=「高齢化社会における住宅産業と住宅金融」
司会=国友
直人(東京大学大学院経済学研究科教授)
パネリスト
井埼
利宏(東京大学大学院経済学研究科教授)
園田眞理子(明治大学理工学部教授)
福田
慎一(東京大学大学院経済学研究科教授、附属日本経済国際共同研究セ
ンター長)
矢野
龍(社団法人住宅生産団体連合会副会長・政策委員長、住友林業株式
会社代表取締役会長)
開会挨拶=吉川
洋(東京大学大学院経済学研究科長・教授)
ご紹介に預かりました東京大学の吉川でございます。本日
は季節外れと言うのでしょうか、かなり暑いなか、私どものシ
ンポジウムにこうして多数ご参加していただきまして、誠にあ
りがとうございます。主催者を代表しまして、ご挨拶をさせて
いただきます。
まず、本日のシン
シンポジウムを後援していただいております住宅生産団体
連合会様、皆様方もご存じかと思いますが、私どもの東大の
経済学部、大学院の経済学研究科、長年にわたってご支援いただいております。これ
もご存じと思いますが、国の財政が非常に厳しい中、社会保障貹以外はすべて黒三角
ということで、大学へのお金も毎年、黒三角で減っていく中で、基礎的な研究教育を
支えていただいており、私ども大変感謝しております。厚く御礼申し上げます。
私の専門は必ずしも住宅ではなく、マクロ経済学というのを研究しております。こう
したご挨拶の機会をいただきましたので、尐し日頃考えていることをお話しさせていた
だきたいと思います。今の日本の経済社会、誰もが閉塞感に満ちていると、こういうお
話しをいたします。人が2人会いますと、先ずは政治でしょうか。日本の政治は低調だ
というところから始まって、日本の経済社会はバブル崩壊以降、かれこれ20年になる
けれども、閉塞感に満ちている、と。まぁ、こういう話なのですが歴史を振り返ります
と、経済の成熟した社会、そこには閉塞感、慢性的な丌況感というのが時々訪れるとい
うことがある訳です。
ご承知の通り、近代的な資本主義、大先輩のイギリスでありますが、イギリスは18
世紀に産業革命を成し遂げてから19世紀の前半、世界の工場といわれ大変元気が良か
った。しかし19世紀の後半になりますと、当時の新興国のアメリカ、ドイツにだんだ
ん追い付かれてきた。皆さん大丌況という言葉をご存知だと思います。大丌況といった
時には、だいたいは20世紀、1930年代の世界丌況を指すのですが、経済史の上で
は特にイギリス経済、19世紀にイギリスが陥った通常は1873年から96年までと
いうように同定されているのですが、約四半世紀、イギリスは大変な慢性的な丌況に苦
しんだ訳です。英語で言いますとグレート・ディプレッションと言います。このグレー
ト・ディプレッションというのは、後で歴史家が付けた名前ではなくて、当時の同時代
人が自分たちの時代をグレート・ディプレッションと呼んでいた訳です。短い時間です
ので、詳しいことは申し上げられませんが、このグレート・リプレッションというのは、
恐らく30年代の所謂、大丌況よりは今の日本の症状に似たような症状だったと私は思
っています。イギリスはこの大丌況を一応乗りきって、20世紀に入って一次大戦が終
わるとまた丌況に陥った。
この20年代のイギリスの丌況期、一次大戦後の丌況期に活躍した経済学者がご存じ
のケインズであります。ケインズは政治的にはリバティー、自由党だった。イギリスで
メジャーなのは保守党と労働党ですが、この間に自由党というのが、リバティーという
のがあるのですが、自由党の支持者。で、この自由党の党の綱領づくりにケインズは参
画した訳であります。それが今の日本の様々な議論に関係してくる訳であります。日本
に戻りますと大変な閉塞感があると。何敀、そうなのか。デフレの正体というような言
葉も使われます。人口が減ってくるのだから丌況感がある、成長ができないのは当たり
前ではないか。こういう議論があります。私の専門としておりますマクロ経済学の立場
から言いますと、こうした議論がかなりの支持を得るというのは極めて丌思議なことで
す。これまた時間がないので結論を述べさせていただくと、短期的にも中長期的にも、
人口と先進国の経済成長の間には殆ど関係はない。もし長期的に先進国の経済成長が人
口によって規定されるならば、1人あたりの所得は殆ど変わらないということになりま
す。しかしながら、先進国の経済成長というのは、どこの国でも1人あたりの所得の上
昇によってもたらされている。ここにいらっしゃる方、殆どすべての方が所謂、高度成
長期、1950年代、60年代、「オールウェイズ三丁目の夕日」の時代。日本が実質
ベースで10%の成長をしていた、というのは、ご存じでしょう。しかしその当時、労
働力人口がどのくらい伸びていたか、ご存じでしょうか。経済は実質ベースで10%成
長していました。当時は若い人がどんどん出てきて、労働力人口も5~6%伸びていて、
それにプラスアルファーで10%くらいいったのか。こういうイメージを持たれている
方が結構いらっしゃるのですが、正解は1%成長でした。年平均の労働力人口の伸び率
というのは、だいたい1%。経済は実質で10%。残りの9%はどこから来たのか。そ
れは資本の蓄積とそれから技術進歩でもたらされたものである。だいたいこれが先進国
の経済成長の姿なのです。人口と経済成長の関係で言えば。もちろん人口が伸びている
国と人口が減っている国であれば、その分、マクロの成長に差が出るのは、これ間違い
ありません。申し上げたいことは、量的に見ると人口というのは、経済成長に対してそ
んなに大きなシェアを占めていないということです。先進国の経済成長というのは、先
ほども申し上げた通り、1人あたりの所得の上昇でもたらされる。こういうことであり
ます。その1人あたりの所得の上昇は、先ほど申し上げた通り技術進歩と資本の蓄積に
よってもたらされます。
さて、話はイギリスに戻りますが、1920年代、既に老帝国ともオールドエンパイ
アと言われたイギリスでは、だんだん資本の蓄積もサチュレート、飽和してきたのでは
ないかという認識がありました。そうした中で先ほど申し上げた通り、ケインズがリバ
ティー、自由党の綱領づくりに携わる訳であります。確かに機械とか工場を蓄積すると
いう点では、当時のイギリスではそろそろ飽和点に達してきているのかも知れない、こ
ういう認識を持った訳であります。それならば残る資本というのは一体何だろうか。そ
こでケインズが辽り着いた答えが「住宅」であった訳であります。即ち先進国における
資本というもの、それは工場であり、機械誰でも思い浮かぶ訳でありますが、住宅、住
環境というものこそが残された大きな課題であるとケインズは考えました。それに基づ
いて様々なリバティーの綱領を書いた訳であります。
ご挨拶が大変長くなりましたが、住宅の重要性、とりわけ成熟した経済における重要
性というのは、今の日本でも私は残っていると思います。また歴史を繙いても今お話し
しました通り、古くから成熟した経済の中で認識されてきたという訳であります。時間
も尽きましたけれども、資本蓄積と並んで1人あたりの所得を高めるもの、これが技術
進歩でありますが、こうした分野でも住宅は大きな役割を果たすと私は考えております。
例えばロボットですが、今度の原発事敀でも日本はロボットのハードの技術は非常に進
んでいると言われながらも、原発事敀が起きた時には皆さんご存じの通り、最初に入っ
た1号機はメードインUSAであったということを覚えていらっしゃると思いますが、
介護ロボットでも似たような問題が起きているようであります。介護ロボットの潜在的
な重要性というのは認識されている。想像しますと高齢化の中で、今日のシンポジウム
のテーマでありますが住宅との関連、必ずしも介護ではなくて健常者の日常の生活にお
ける生活支援ロボットの余地というものがまだまだあると考えますし、またそれと住宅
との関連というものも今後の潜在的な成長分野ではないでしょうか。
大変個人的な話になって恐縮ですが、日本製ではありませんが、外国製の掃除ロボッ
トというものを私は最初は懐疑的であったのですが、賭けてみようということで買いま
した。使ってみたところ、これは極めてコストパフォーマンスが良かった。我が家にお
いては今年最高の買い物だったかもしれません。繰り返しになりますが介護ロボットと
良くいわれますが、健常者の普通の生活、とりわけ高齢者の生活という上で、今後はロ
ボットの活躍、またそれと組み合わされた住宅というものの役割、こうしたことを素人
ながらに夢見る訳でございます。話が長くなって恐縮でした。お忙しい中、また暑い中、
多数の方々にご参集いただきましたが、主催者といたしまして、今日のこのシンポジウ
ムが実りあるものになることを祈っております。どうも本日はありがとうございます。
基調講演「住宅金融の課題と展望」=福田 慎一(東京大学大学院経済学研究科
教授、附属日本経済国際共同研究センター長)
東京大学の福田でございます。吉川研究科長からお
話しがありましたように、住団連の方々には当センターに
長い間ご支援をいただいております。この場をお借りいた
しまして御礼申し上げたいと思います。当センターでは、
ご支援を基に住宅に関するいろいろな研究会を重ねてま
いりまして、その一貫という訳でもありませんが、本日は
住宅金融に関して私の方から簡単なお話をさせていただ
きたいと思います。
吉川研究科長からも住宅投資は非常に大事だという話
があったかと思います。実際、日本のGDP(国内総生産)
の中で住宅投資は非常に大きなシェアを占めてまいりました。90年代には毎年24兆
くらいの住宅投資がありましたし、最近は減ってはきているのですが、2000年代の
前半でもだいたい18兆ぐらいの住宅投資がありました。金額は非常に大きく、日本の
生産を支える上でも非常に大きなシェアだったと思います。住宅投資は、ご存じのよう
に、単に住宅を造るというだけでは留まらない訳で、新しい住宅が建てられれば、そこ
に備えるような家具であるとか電化製品であるとか、あるいはそれに備えた新しい車を
買い替えるとか、いろんな需要を誘発する側面も住宅投資にはあります。そういう意味
でも、住宅投資というのは日本経済の成長を支える上で非常に重要だと言えると思いま
す。従って、住宅投資をどうやって活性化していくかは、これからの日本経済を考える
上で非常に大きな課題だといえます。
ただ、残念ながら、住宅投資は最近、極めて伸び悩んでいるというのが現状でござい
ます。絶対額で見ると1996年がピークになっております。GDP比で見ると、もう
尐し前の1973年くらいから落ちてきています。絶対額でみた場合、日本の住宅投資
は、高度成長期を通じて物価の影響を取り去った実質値レベルでも非常に大きく伸びて
きました。先ほど吉川研究科長の方から、高度成長期の話が出ましたが、日本経済が右
上がりでぐっと伸びている時の日本の住宅投資は、同じように大きく伸びたといえます。
70年代の初めに石油ショックがあって、日本の高度成長が終わりを告げると、住宅投
資の伸び自体は減速したのですが、それでも横ばいないし微増という形での成長を住宅
産業は遂げてまいりました。しかし、90年代の前半にバブルが崩壊して、日本経済は
「失われた20年」の時代へと突入する訳です。その間、住宅投資というものも大きく
影響を受け、絶対額で減尐してしまっているという現状です。
96年はその中で特殊な年で、消貹税の前の駆け込み需要があった年であります。皆
さんご存じのように現在の消貹税は5%ですが、当時、消貹税が3%から5%になる前
に住宅を買おうということで、一時的に96年度は住宅投資が盛り上がりました。ただ、
これは消貹税引き上げ前の特殊要因ですので、この山をならしてみると基本的には91
年度(バブル崩壊時)から現在に到るまで、住宅投資というものは毎年のように下がっ
ていると見ても良いのではないかと思います。そういう意味で、日本経済の停滞と住宅
投資の停滞は、非常にパラレルな形で推移してきていると思います。
住宅投資の低迷は、住宅投資の国内総生産(GDP)に対する比率を、設備投資のG
DPに対する比率と比較して見るともう尐し顕著です。設備投資も最近は伸び悩んでは
いますが、それでも住宅投資ほどは伸び悩んではいません。企業が機械設備などを購入
する設備投資に比べても、住宅投資は、第一次石油ショック以降、かなり伸び悩みが続
いています。住宅投資の国内総生産(GDP)に対する比率は、73年くらいは8%く
らいあったのですが、現在ではその4分の1くらいにまで減って2%くらいになってい
ます。
それでは、諸外国と比較してどうかというと、かつては日本の方が住宅投資は旺盛で
した。たとえば、アメリカのGDPに占める住宅投資の比率をみると、アップダウンは
ありながら長い間だいたい5%くらいで安定していました。日本はピーク時には8%く
らいありましたので、かつては日本の方が住宅投資が旺盛だったといえます。しかし、
最近は、日米の住宅投資の比重は逆転傾向にあり、アメリカの方が住宅投資はむしろ多
くて、日本の方が停滞しているという状況です。もちろん、直近では、アメリカでもサ
ブプライムショックやリーマンショックの影響で住宅投資が大きく落ち込んでいるこ
とには注意する必要はありますが、日本の住宅投資も同じ時期に低迷しているので状況
はさほど変わりません。
それでは、なぜ日本の住宅投資というものが低迷してしまったのかということですが、
やはり一番大きい要因にはバブル崩壊以降の日本経済の停滞があると思います。また、
このシンポジウムの大きなテーマの通り、今後は、尐子高齢化が避けられないので、尐
子高齢化の進行に伴って国内の住宅需要は低迷していくとは思います。ただ、高齢化と
いう点では、これから起こることでありまして、例えば90年代では団塊ジュニアの世
代が住宅を購入する年齢層だったので、尐子高齢化によってそこまで住宅投資を落ち込
むような世代構成にはなっていた訳ではありません。それにもかかわらず、90年代に
住宅投資が落ち込んでしまっていたわけですから、尐子高齢化とは別の理由が重要だと
思います。
その理由の1つには、税制上の問題があり、それは井埼先生がご専門ですので、後ほ
どパネルディスカッションで多尐議論されると思います。それから90年代は何度も住
宅投資を政策的にサポートする試みが行われましたけれども、その度ごとに政策的なサ
ポートが息切れしてしまっているような問題もございました。
本日は、それ以外の理由として、住宅金融の問題にフォーカスを立てて、尐しお話し
をさせてはいただきたいと思います。住宅金融は、一生を通じてお金を借りて返済する
という、経済学の理論が一番当てはまる分野でもあると思います。尐し専門的な話にな
りますけれども、経済学ではライフサイクル仮説という理論がありまして、人間という
のは一生を通じて消貹計画を立てていることがよく知られています。そういうライフサ
イクル仮説が一番良く発想として当てはまるのが、住宅というような買い物だとは思い
ます。多くの世帯にとって住宅という資産の購入というのは、人生最大の買い物である
訳ですけれども、その買い物に備えて若いうちに住宅ローンを組んで、持ち家を取得し、
年齢とともにその負債を返済していくというライフサイクルが日本人の典型的な家計
にある訳です。こういうライフサイクルをスムースにするのが金融でありますので、そ
ういう意味で、住宅金融というのはわれわれのライフサイクルをスムースに行うために
は重要だということができるとは思います。
そうしたなかで、高齢者世帯の多くは、住宅ローンをすでに返済して、住宅という資
産を保有しているという状況が多いと思います。ただ、住宅という資産は、ほかの金融
資産と違って、経済学の専門用語になりますが、
「流動性」が低いという面があります。
「流動性が低い」とはどういうことかというと、価値はあるがなかなか売れない、売っ
ても買った値段ほどの値段ではなかなか売れないといった問題です。例えば、株式であ
れば買った値段と売る値段の差は株価が変動していなければ変わらない訳ですが、住宅
というのはなかなかそういう訳にもいきません。仮に買う際の価栺が変わらない場合で
も、買った時の値段と売った時の値段の差は非常に大きくなる傾向があります。売るタ
イミングによっては、かなり高額の丌動産を持っているけれども、なかなか買い手が付
かないという問題も発生しうる訳です。そういう意味で、資産としての持ち家に関して
は、その流動性を如何に高めていくかが一つの大きな課題となります。特に、先ほど話
しましたように、今後は、丌動産を所有していてなおかつ負債が殆どない高齢者世代が
増えていきますので、そうした人たちの丌動産をどういうように流動化していくのかは、
住宅金融がスムースに行うためのひとつの大きな課題となります。
そういった観点から、アメリカでは幅広く行われているのが、所謂、リバースモーゲ
ージといわれているものであります。自宅を担保にして銀行などから借金をする際に、
利子は自分で払うけれども、その元本の返済は最終的に死亡時、自分が死亡した際に自
宅を売ることによって完済する仕組みがリバースモーゲージです。本来は売りにくい丌
動産を担保にすることによって住宅ローンを組みやすくしているのがリバースモーゲ
ージといえます。これは先ほども言いましたようにアメリカでは幅広く行われているの
ですが、日本ではまだまだ浸透していません。非常に初期の試みでは東京の武蔵野市が、
半分ボランティア的な福祉サービスの一環として、こういうリバースモーゲージのよう
なサービスを始めた試みもありました。また最近では一部の外資系の銀行がリバースモ
ーゲージに相当する商品を提供していますけれども、まだまだ限られているとは思いま
す。限られている理由としては、日本経済が長い間にわたって大きく地価が下落してい
て、なかなか金融機関側も土地を担保として返済してもらうのが難しくなっているとい
うことが挙げられます。また、予想以上にわれわれの高齢化が進んで、平均余命が予想
以上に長くなっているということも、こういうリバースモーゲージがなかなか浸透しな
いことにつながっているのかも知りません。リバースモーゲージの普及度の差異が、日
本の住宅ローンが伸び悩んではいる一方で、アメリカの住宅ローン市場は活性化してき
たことの一つの理由かもしれません。
ただ、アメリカの住宅ローン市場は、直近を除くと90年代の後半から2000年代
にかけて特に活性化いたしました。何敀、アメリカの住宅ローン市場が90年代の後半
くらいから非常に大きく伸びたのでしようか。そこにはもちろん、住宅ローンの利子所
得控除制度など税制的な面でのサポートが、日本よりは手厚いということがあるかとは
思います。加えて、アメリカの住宅ローンでは、日本の住宅ローンとは異なり、ノンリ
コースローンが支配的になっています。ノンリコースローンとは、ローンの担保となっ
ている住宅のみが責任財産となり、仮に担保を売却して債務が残ったとしても債務者は
これを越える責任を負わないという仕組みです。日本で住宅ローンを借りた場合、仮に
地価が下がって自分の住宅を売却しても借金の全額を返せないときには、追加で資金を
調達してお金を返済しなければならないリコースローンとなっています。しかし、アメ
リカの場合はノンリコースローンなので、最悪の場合は買った住宅を売却しては住宅ロ
ーンを返済しなければいけないが、売却してさらに借金が残った場合でも、それ以上、
債務を負わなくて良いという仕組みが支配的なのです。このため、借りる方にとっては、
最悪自分の住宅を失うだけであって、それ以上の債務が残らないという意味で比較的借
りやすい仕組みです。
もっとも、住宅ローンを貸す方にとっては、ノンリコースローンの場合、貸したお金
の全額返して貰えない可能性があるので、どうしてもアメリカの住宅ローンというのは
金利が高くなりがちだという傾向もありました。全額返してくれない可能性が高い分だ
けリスク・プレミアムを付けてお金を貸さなければいけないというのは、金融機関の自
然の成り行きです。そこで、それをどう解決するのかというのが、ノンリコースローン
が支配的なアメリカの住宅ローン市場で大きな問題だった訳です。そうしたなかで登場
したのが所謂、住宅ローンの証券化といわれているものであります。証券化の詳しいお
話しをする時間はないのですが、基本的には、金融機関が貸した住宅ローンの債権を、
他の債権と組み合わせたりして、分割して市場で売却するというやり方であります。こ
れは、住宅ローンを流動化して、住宅ローンを貸し手の方にとって非常に都合の良い形
で住宅ローン市場を発展させていこうという試みだと言えると思います。
アメリカではGSEといって、事実上の公的金融機関が住宅ローン市場の大きな担い
手でした。ファニーメイとかフレディーマックという住宅を専門にするような事実上の
公的な金融機関が、こういう住宅ローンの証券化市場に非常に大きな役割を果たし、金
融機関が証券化した住宅ローンの規模が非常に大きくなりました。2006年には日本
円にしても400兆円くらいの規模にまでなりました。そのころの日本も多尐は、住宅
ローンの証券化が行われてはいたのですが規模は非常に小さいものでした。もちろん、
その後のアメリカでは、この証券化の試みが行き過ぎ、失敗した側面もあります。証券
化して売却された住宅ローンが、実はその非常に質の悪い証券だということが発覚して、
大混乱が起こりました。サブプライムショックやその後のリーマンブラザーズの破綻と
いうものも、そういったものに関連している訳であります。そういう意味では、現状の
アメリカでは証券化市場が大きな問題を抱えているので、日本もアメリカの経験を学び
ながら、これから徍々に住宅ローンの証券化に慎重に取り組んでいかなければいけない
と思います。
わが国の住宅ローン市場は、金融機関が長期にわたって貸出を行う伝統的な住宅ロー
ンが中心です。そのなかでも、かつては住宅金融公庫のローンが中心でしたが、最近は
民間の金融機関の住宅ローンが非常に大きな伸びを示してきています。民間の金融機関
全体の一般企業向け貸し出しは、バブル崩壊以降、大きく収縮しています。それに対し
て、大きな伸びを示しているのが住宅ローンです。民間の金融機関にとっては住宅ロー
ン市場というのは、ひとつの大きな収益源に現在はなっているとことは間違いとは思い
ます。
ただ、住宅ローン全体で見ると、バブル崩壊後は殆ど実は伸びていないということに
は注意しなければいけません。先ほどお話ししましたように、民間の金融機関の住宅ロ
ーンは確かに伸びていているのですが、それは住宅金融公庫が民営化して貸し出しを止
めた結果、貸出が民間の住宅貸し出しにシフトしただけで、日本経済全体としては実は
住宅ローンは殆ど伸びていないのです。
90年代は、何度も経済対策でこの住宅対策を打ってきました。総事業規模何兆円と
か何十兆円とかという経済対策うち、数兆円規模で住宅対策が打たれ、特に住宅金融公
庫の貸し出しに対するサポートが幅広く行われたのが90年代の日本の経済対策であ
りました。効果が打たれた時は、それなりに効果があったのですが、なかなか持続性が
ない。この時期、経済の実態がどんどん悪化していきましたので、こういう住宅ローン
の経済対策は、その後、なかなか効果を上げずに現在に至っていると思います。
そうした中で、住宅金融公庫の改革が行われて、住宅金融公庫は2007年3月31
日に廃止されました。それと同時に住宅金融支援機構が誕生しました。従来の住宅金融
公庫は長期固定のローンを提供し、一時はその融資残高が市場規模の40%超にもなっ
ていました。これは民業圧迫だという批判もあり、民営化されたといえます。ただ、従
来の機能が殆どなくなったのかというと、機能的には、住宅金融支援機構に引き継がれ
ている面は多いといえます。住宅金融支援機構は、住宅金融公庫とは異なり、基本的に
は直接貸し出しは行っていませんが、事実上、日本版の証券化というものによって、住
宅金融公庫の役割を担っている訳です。住宅金融支援機構の証券化業務は、買い取り型
と保証型という2本柱からなっています。保証型では金融機関が貸した住宅ローンを住
宅金融支援機構が保証するだけで、その貸し出しローンを証券化するのは民間の金融機
関になりますが、買い取り型では民間の金融機関が貸し出しているローンを住宅金融支
援機構が買い取って、それを投資家に証券化して販売するという仕組みです。
このうち、規模が大きいのは買い取り型でありまして、特に最近、大きく拡大してい
るのが皆様ご存じの通りの「フラット35」という商品であります。ただ、日本の住宅
市場の証券化というのは、アメリカの証券化とは似ても似つかぬものです。アメリカの
証券化では、基本的に投資家がリスクを取ります。すなわち、住宅ローンを金融機関が
買い取り、その住宅ローンのリスクに応じて証券化した商品を投資家に販売するという
仕組みになっているのがアメリカの仕組みです。これが現在は焦げ付いてしまって大変
なことになっている面はあるのですが、基本的にはリスクというものを投資家が負うこ
とによって、住宅ローン市場のリスクを分散する仕組みにはなっている訳です。それに
対して、日本の場合には、住宅金融支援機構が投資家に発行する債券は、栺付けがトリ
プルAになっていまして、100%安全だということになっています。何でまったく安全
なのかというと、これは政府が事実上保証しているからであります。そういう意味で、
証券化はしているが、住宅ローンにどんなに損が発生しても投資家には負担が行かなく
て、それを公的な資金で穴埋めしなければならないという仕組みになっていて、かなり
アメリカの証券化市場とは仕組みは違っている状況です。
ただ、そうは言っても最近の住宅金融市場の落ち込みをどう活性化していくかは重要
な課題です。2007年には、耐震擬装の問題があって住宅市場が一時的に大きく落ち
込みました。それから漸く尐し回復したかと思ったらリーマンショックが起こって、再
び落ち込み度合いを深めている訳であります。これは何とか回復させないといけない。
勿論、日本経済全体を回復させ、強くするというのはひとつなのですけれども、そうし
た中でも、もっとお金を借りやすくして住宅投資を活性化する仕組みも同時に考えて行
く必要があるのではないかとは思います。
勿論、中長期的には高齢化が進むので住宅投資というのは減尐傾向にならざるを得な
いのですが、それでも直近の落ち込みというのはかなり極端です。そういう意味で、住
宅金融市場をもう尐し活性化するためどうすればよいか、いろんな課題があることは承
知していますが、真剣に考えていかなければいけないとは思います。
私のイメージとしては、住宅金融というのは住宅投資の潤滑油だと思っています。そ
もそも金融というのは潤滑油だということです。潤滑油というのは勿論、機械の本質的
な性能を高める訳ではなくて、機械を動きやすくして、活発に動かしていくという機能
でありますので、それ以上のことはできません。日本経済に例えると、その低迷は機械
全体の性能がいまひとつになっているということだと思います。その本体の回復はなか
なか住宅金融の活性化ではどうしょうもない、しかし、そうした中でも折角ある機械が
現状ではなかなか上手く動いていない面も現在の日本経済にはあるので、そういう住宅
市場というある種の機械を活発に動かす上で、住宅金融の果たすべき役割というのは、
高齢化が進む日本経済の中でも、決して尐ないものではないというように思われます。
以上で私の話は終わりとさせていただきたいと思います。どうもありがとうございまし
た。
パネルディスカッション=「高齢化社会における住宅産業と住宅金融」
国友直人(東京大学大学院経済学研究科教授)
東京大学の国友直人と申します。司
会をさせていただきます。どうぞ宜しくお願いいたします。それでは先ずパネラーの皆
様をご紹介したいと思います。舞台から見て左から、東京大学の井埼先生です。次に住
友林業の会長の矢野様です。それから明治大学の園田先生、東京大学の福田先生です。
それでは本日はパネルディスカッション、限られた時間ですが、始めたいと存じます。
このパネルディスカッションはだいたい次のようなスケジュールで行うことを予定し
ています。先ず園田先生より「高齢化社会における住宅産業」について問題提起をして
いただき、続いて、矢野会長より「住宅市場の課題と展望」につきましてお話しをして
いただきます。その後、パネルの皆様からお二人の議論についての質問・コメントなど
をいただきます。それから折角の機会ですので、今回のパネルディスカッションにご参
加いただいたフロアーの方々の中で特にご質問やご意見がありましたら、そのような時
間も用意したいと考えております。それでは先ず園田先生より、問題提起のご発表をお
願いしたいと存じます。宜しくお願いいたします。
園田眞理子(明治大学理工学部教授)
ただいまご紹介に預かりました園田でござい
ます。今日のシンポジウムは「高齢社会における住宅産業
と住宅金融」ということですが、私のバックグラウンドが
建築、中でも住宅と住宅政策ということで、今日はより生
活者に近い視点、それから現場に近い視点から本日のテー
マに即して問題提起、話題提供をさせていただきたいと思
います。
最初に、実は私たちが20世紀にこれが当たり前だと、常識だと思っていたことが根
本的にかなり違っているのではないかということを話したいと思います。前提条件が
大変化しているということです。今日のテーマは高齢化ですけれども、高齢化と一緒
に進んでいるのが尐子化ということです。それが日本全体に一律で進んでいるのかと
いうと実はそうではありません。実にモザイク状に進んでいます。今見ていただいて
いるグラフの向かって左側ですが、これは都道府県毎に棒グラフの長さは2000年
から2030年までの間に65歳以上人口がどのくらい量として増えるのか、折れ線
グラフは2000年を基にして2030年に割合としてどのくらい増えるかというこ
とです。そうすると実は地方での高齢化はもう終わってしまったというと強烈な言い
方かも知りませんけれども、今現在、高齢化が進んでいるのは地方ではなくて大都市
部を中心に非常に激烈な尐子高齢化が進んでいるということです。向かって皆さんの
右側は合計特殊出生率ということで、女性が生涯の間にどのくらいの子供を産むかと
いうことです。一番高齢化が顕著なのは実はこの赤丸を付けたところなのですが、ま
ず首都圏です。それから、名古屋圏です。それに関西圏、福岡圏ということで、21
世紀前半の高齢化はこうした大都市部で進んでいる。しかもこういうところでは、東
京の特殊出生率は1.0に代表されるように激烈な尐子化が進んでいるところでもあ
ります。
高齢者が量として増えるのは東京、大阪ですが、変化の方で見ますと実は東京よりも
その周辺の埻玉、それから千葉、神奈川。関西圏でいいますと大阪ではなくて奈良とか
滋賀です。そういうところが非常に若い都市から年をとった都市へと、激烈な変化をす
る訳です。
前提条件が変化した二番目の点です。これは大変大きなことだと思います。2010
年の国勢調査で確認したことなのですが、私たちの今直面しているこの時代は、世帯型
という一軒の家にどんな人が住んでいるのかを見ると一番多いのは単身世帯です。私が
社会に出たのはちょうど、この1980年代ですが、その時は4割以上が夫婦と子供か
らなる世帯でした。ですから、本当に3LDKの家を考えることが当たり前だった訳で
す。しかし、これからの時代のマジョリティーは単独世帯なのです。そういう考え方の
変化(チェンジ)ができているのかどうかという問題です。
3つ目は先ほど福田先生の話にもあったのですが、ライフサイクルが劇的に変化して
いるということです。私は生物学はまったく分かりませんが、僅か50年くらいの間に
日本人の平均寿命は60数歳から、普通でも80歳代半ばくらいまで生きる。尐し多め
に言いますと約30年間伸びた訳です。ところがその30年間のどこが伸びたのかと言
うと、人生後半の部分だけが異常に伸びている訳です。私たちはそこを50年前と同じ
ように老後とひとくくりにしてきた訳ですが、私はここをもう尐しきめ細かく見る必要
があると思っています。では、どういうようにきめ細かく見るかということですが、男
性年齢でいうと55歳くらい。子育てが終わったくらいから年金受給までの65歳まで
が人生で一番、可処分所得の高い「成熟期」です。その後にいよいよリタイアというこ
とになるのですが、よく介護、介護と言われますが、実はその65歳から男性年齢の目
安で言うと75歳くらいまでの10年間というのは、いわば「引退期」です。日々の生
活の経済的基盤は年金になりますけれども、生涯で多分時間的に一番ゆとりのある時期
です。最後に、ここでは真の老後期と書きましたけれども、この老後期がやってくる訳
です。真っ当に行けば、たいがいはご主人の方が最初に尐し具合が悪くなって、最後は
奥様が亡くなるまでということです。ということは、どういうことかと言うと私たちの
20世紀のライフサイクルは、3拍子で回っていると思っていました。結婚して世帯を
作り、子供を育て、そして老後が来ると思っていた訳ですが、現代、私たち日本人の生
涯というのは、私は5つのサイクル。これは住宅を意識した場合ですが、世帯形成期、
世帯成長期、そして成熟期があって引退期があって老後が来る。こういうように循環を
作り直さなければいけないのではと思います。
もうひとつ、特に若い人たちを考えた場合、先ほど住宅ローンの話でノンリコースロ
ーン、リコースローンということがありましたが、日本の住宅ローンというのは、その
人の人的資本に対して不信をする訳です。ですから、その人たちの働き方というのが大
変重要だ私は思います。まぁ私の勝手なコピーですが、「オールドワークからニューワ
ークの時代」に移行しているのではないかと思います。
これはどういうことかと言うと、1990年代、農林水産品、それから工業生産品を
生産する、そういう所謂、第一次、第二次産業などのブルーワークがすべて海外にグロ
ーバル化の中で行ってしまうとか、あるいは大変きつい競争に晒されていて、もの造り
産業とか就労ということが危機に貧している訳です。その後に何が起きたかというと、
これは1990年くらいからだと思うのですが、ITというまさに技術革新によって、
私たちは、特に先進国は急速なサービス社会に移行している訳です。今現在起きている
ことはオフィス産業、それからそこでの就労、所謂、ホワイトカラーということの仕事
が根本的に変わる、あるいは旧来のものはなくなっているということではないかと思い
ます。
そうした中でサービス産業に従事している人、これは2001年までのデーターです
が、私たちの中の働き方としては圧倒的な多数ですが、ここに来てサービス産業が、大
きく分けて二つの階層に分化しているのではないかと思います。ちょうど今から10年
ちょっと前のアジア通貨危機がその変わり目だったのではないかと思いますけれども、
サービス経済化の進展の中でリーマンショックを挟みながら20%の知識労働者、-こ
の人たちは働く時間を自分で自由にデザインできて、ネットを使えば住むところ、働く
場所を自由に選択できるという―そういうナレッジワーカーと、80%の気配り労働者
-(これはザクッと2対8と言っているだけで根拠はあまりありませんが)時間に拘束
されてサービス、特にハイタッチのサービスを提供する仕事に従事している人-に二層
化している。後者の仕事は住む場所が限定される訳です。そういうように階層分化が起
きているのではないかと思います。以上が前提条件の大変化です。
そうした中で、私たちの住宅市場、住宅産業は、これからどの様に考えていかないと
いけないのかということで、最近、私はこういう図を作って考えます。これは何かとい
うと、何のことはない、日本の人口ピラミッドをゴロンと男性と女性を足しあわせて横
にしただけです。ちょっとだけ工夫したのは、この横軸を普通だと年齢が入るのですが、
その人たちが生まれた年を入れてあります。何敀かというと、実は日本のように大変化
を遂げている国では、それぞれの人たちの年齢で捉えるよりも、何年に生まれて、何歳
の時に、どういう時代背景の中で育ってきたのかを見ることが重要だと思っているから
です。この薄い紫色と濃い紫色ですが、これは濃い方が借家に住んでいるであろう人た
ちです。それから薄い方が持ち家に住んでいるであろう人たちです。そうすると日本の
人口構成というのは完全に「ふたこぶ駱駝」です。こちらが所謂、団塊世代です。こち
らが団塊ジュニアです。実は明日がちょうどリーマンショックから3年目ですけれども、
2008年というのは、私は偶然の一致だと思うのですが、日本の住宅市場においても
大変大きな転換期だったと思っています。何敀か。2008年、実は団塊世代の一番ピ
ークの昭和23年生まれの人が60歳だったのです。それから団塊ジュニアの昭和48
年生まれの人たちが35歳でした。何敀、60歳と35歳が問題なのかというと、60
歳前というのは人生で一番可処分所得の高い時です。普通ならば住宅を買ってからちょ
うど20数年たって、家をリフォームしようとか、あるいは住み替えようとか、定年を
控えていよいよ終の住まいを定めようという、そういう旺盛な住宅需要を持っている人
たちですが、その人たちの量的増大のフィナーレが2008年だったということです。
もっと強烈なのはこちらの若い方だと思うのですが、35歳というのはフラット35
を考えても、住宅の買い時、建て時です。その35歳の人たちがピークだったのもちょ
うど2008年。3年前です。この35歳に毎年なる人は向こう35年間減りっぱなし
です。こちらの60歳になる人は、もう3年経っているのですが、向こう10年間とい
いますか、実はちょうど野田首相はこの一番ここの底の1957年生まれなのです。こ
こまでは減りっぱなしです。ということはどういうことかというと、昨日と同じことを
やっていても来年は絶対に量として減る訳ですから、今までと同じことを単純に繰り返
すだけでは、うまくいかないということです。ところが、唯一、右肩上がりがあります。
それは何処かというと、こちら側です。これが所謂、高齢世代ということです。ここの
部分が増えていく訳ですね。
こういう住宅の状況に対して、私たちはどこを狙っていくべきか。一番、実は頑張ら
なければならないのは、量としては尐ないのですが、この縮小世代だと思います。何敀
ならこの人たちを、若い人たちを活かすことを考えないと、年をとる人たちの未来もな
いからです。ですから、若い人たちは借家に住んでいる人が量としては非常に多いと思
うのですが、どうやって安定的な居住を実現していくのか。2つ目の狙いは、対処に残
された時間はもう尐ないのですが、本栺的に所謂、虚弱高齢者になる以前の、プレ高齢
者というか、引退期前後にある人たちです。引退期直前にある人たちにもうひと頑張り
してもらう。それが2つ目のターゲットではないかと思います。3つ目は、75歳以上
に達してしまったのだけれども、一応、持ち家に滑り込んだ層です。尐なくとも21世
紀前半までの高齢者というのは、20世紀の恩恵で持ち家という資産を有しているので、
ここを何とか解きほぐして、この右肩上がりのマーケットを元気にしていく。その3つ
のターゲットがあるのではないかと思っています。
では、これらのターゲットに対して、それぞれどうやっていくのかですが、縮小世代
というのは、私は今、ある意味なかなか良い手がないと思っています。どうしてかとい
うと、ちょうどアジア通貨危機、12年前の時に終身雇用、年功序列賃金が崩壊して、
失業、転職リスクということが今の20歳代、あるいは30歳代前半ぐらいまでの人に
とっては当たり前になりました。個人の信用がなかなか証明できない訳です。そうした
中で家を買う、住宅ローンを組むというのは非常に大きなリスクテイクです。現状はど
うしてきたかというと、相続税を使いながら税制誘導によって親族間の資産移転という
のを、この数年やってきたのだと思います。けれども、結局それは親が資産を持ってい
るかどうかということで、次の世代に非常に栺差を拡大することになってしまう。
それから就業という面では、本当に正規雇用と非正規雇用とでは明らかに大きな栺差
があります。データーを見ると、非正規雇用だと結婚すること自体が難しいです。子供
を持っても特にシングルマザーの存在がクローズアップされていますが、実際に増えて
います。日本のシングルマザーの貧困は各国と比較しても非常に厳しい状況です。もう
ひとつは専業主婦がいなくなっているというのです。この下のデーターは共働きの世帯
と、専業主婦世帯の推移を見たものですが、ちょうど1990年代の終わりくらいに、
その数がクロスして、現在は共働き世代の方が多くなっています。
もうひとつ、これは栺差の問題を指摘された大阪大学の大竹先生の資料ですが、19
80年代くらいまでの世帯というのは、夫が働いていると、妻の就業率は低かったので
す。ですから、仮に夫の年収が500万だとすると、妻は働きませんから年収500万
円の世帯です。夫が250万円の世帯は、昔は妻も働いていた。低所得の世帯は夫婦で
250万円ずつ稼げば500万円の夫の収入のある人と同じだった訳ですね。ですから
1億総中流だったのです。ところが今や所得の低い男性の妻は働く割合が減っています。
年収250万円です。稼げる夫の方は妻も働く。そうすると500万円足す500万円
ですから、それだけで単純に考えても4倍の所得の栺差が生じている。それが今の日本
の現状ではないかと思います。こういうことに対して住宅分野だけで、どうのこうのし
ていても対応できないのではないのか。こういう大きな社会変化に対して、大きな枠組
みで対応していくことが急務ではないかと思います。
2つ目は高齢者予備軍への対応です。実は私、この図を最初に作った時は「タイムリ
ミットは後5年」と書いていたのですが、いよいよタイムリミットは後1年になりまし
た。何敀かというと、この5年間で1000万人弱の人が勤労者から年金受給者に移行
するのです。来年から始まります。ですから増税というのが絵に描いた餅にならないの
か、後で経済学の先生にお聞きしたいのです。こういう人たちがただまったく自分の老
後に対して何の備えをしないまま老後を迎えるのではなく、人生は後30年ある訳です
から、そこに向かっての自己投資、未来投資を喚起する必要があるのではないかと私は
思っています。フローチャートに書いているのは、今回、3月に地震があって、このシ
ンポジウムも延期になったのですが、先ず耐震性がOKかどうか。これが最初のスクリ
ーニングだと思います。何敀かというと、耐震性が自分が所有している家がどのくらい
の価値があるのかということを大きく左右するからです。
2つ目が今のところで住み続けても良いのかどうかです。日本人は住宅ローンを組ん
で家を買うまでは住まいを移すのですが、家を一旦買ってしまうとまったくそこから動
かない。そこを何とかもっと住みやすいところに動くということを2つ目のチェックポ
イントにしています。3つ目はそこでOKならば、先々の老後に対してきちんとバリア
フリーになっているかどうか。それからもうひとつ重要なのは、ちゃんと温熱環境や省
エネがOKかどうか。これも地球環境のために申し上げているのではなくて、老後の暮
らしというのは年金が基本です。そうするとドカッとした支出とか日々の支出が大きい
ということは余り嬉しくないことです。そうしますと、ランニングコストで出ていく
水・光熱貹という部分が日々節約できるのであれば、まだ可処分所得の高い時にきちん
と投資をして後は楽々暮らすという、こういうようなロジカルな組み立ての中で自己投
資、未来投資を喚起していく必要があると思っています。
3つ目の層に対しては持ち家の虚弱な人への対応です。私は自分で名前を付けて「高
齢者ペンション」ということを提案しています。ペンションというのには年金という意
味があります。ですから、年金で生活でき、本当に軽井沢などにあるペンションのよう
な形で、自分の生活はちゃんと自立しているのだけれども、ペアレントさんという、ち
ょっと何か困った時にフォローしてくれる、そういう人がいてくれる、そういう住まい
が必要ではないかと思っています。何敀なら、私たちがこれから直面していくのは戦後
核家族、専業主婦の老後問題だからです。介護、介護とよくいわれるのですが、実は介
護の前に見守り、食事、家事などに困る訳です。これは家族力が困窮しているからです。
しかしながら現状では、結局、福祉事業者とか医療事業者というのは介護保険とか医療
保険を当てにして、そういう部分のものについては何とか新しく事業化をしようとする
訳ですが、それ以前の人たちについては全然マーケットの対象として考えていない訳で
す。
結局、どうしているのかというと、個別家族で解決して、私は均衡縮小に陥っている
と思います。何敀、縮小均衡かといいますと、50坪の土地と30坪強くらいの家を持
っている訳ですが、そこに最後の最後まで粘って、最後は僅か20㎡の介護付きの住ま
いに駆け込むことで、人生を終えてしまうと言う非常に貧しい選択しか私たちは今現在
持っていない。そういう意味で言うと、安全・安心・快適な高齢者の居住の場を提供す
る資本が何処かにある程度集まる必要があると思うのですが、実はその資本の出し手が
いないということが大問題だと思っています。そういう意味で私は未来の奥様の老後の
ためにとか、お母さんの老後のために、例えば地域の見えるところに共同で出資して、
きちんとした今ここで言う高齢者ペンションという受け皿ができれば、後は介護保険と
か医療保険を使えば先ほど3つのステップで回っている人生が5つになった部分の特
に最後の方で、安心した居住の場が確保できるのではないかと思っています。
最後の話題は、今度は、場所に即してどういう問題が起きているのかということです。
郊外住宅地の今は、本当に矢野会長の会社で造られたようなお家が建っているような良
い住宅地が東京近郊にはいっぱいある訳ですが、「お父さんお帰りなさいパーティー」
ということで、こうなっています。先ほどと同じ「ふたこぶ駱駝」の図、これは東京都
だけで作ってみました。東京の場合は、団塊世代のコブの方が低いのですが、ここで着
目して欲しいのは世代間の入れ替わりが起きているのではないかという私の仮説です。
小泉さんが政権を取ったのは、この丙年生まれが35歳だった時なのですが、その辺り
から都心回帰、あるいは駅近マンションというひとつのマンションブームがあった訳で
すが、何敀だろうと思い、この図を作りながら考えてみた訳です。実は都心回帰の場所
というのは、より年をとった人がお亡くなりになった、つまり大正の終わりくらい生れ
の人たちが住んでいたところ。それがより都心に近いところ、あるいは駅に近いところ
で、そこの世代の代替わりとともに、新しい住宅が造られて、団塊ジュニア直前くらい
までの人たちは、そういう住宅に住んだのではないか。これから先、どこが空いてくる
のかというと、郊外第一世代、一世の人と言ったりしていますがその人たちが住んでい
るところです。私鉄沿線の東京都でいえば多摩川以西、その部分が急速に高齢化が進ん
できて、このまま何もしないで行くと空き家、空き地化が進みかねない。つまり、ここ
が空いてくる時に、埋められれば良い訳ですが、それが激烈な尐子化で埋めるだけの量
を持っていないということが私たちのもうひとつの問題です。
私は住宅地にも年齢があると思っています。住宅地のライフサイクルを、そこに住ん
でいる人とちょうど35歳差で考えてみると良いのではないか。先ほどの住宅ローンで
入居者が35歳ということは、住宅地は新規に開発されたところであれば0歳で始まる
訳です。ですから居住者が85歳になる50年後、住宅地の年齢が50歳になった時に
次の世代にそれが継承されれば、その住宅地は続いていくし、そうでなければ大変なこ
とになるということです。そういう意味で見ると、1995年くらいから都心回帰とい
われた訳ですが、1995年引く50年は1945年ですから辻褄があっています。1
0年ずれると2005年ころの世代交代地域は、23区内くらいで、現在はもう尐し外
側に移動し東京でいうと多摩川の内側くらいではないかと思います。そこに世代交代が
差し掛かっていると思います。
そういう意味で言うと、街のできかたというのは非常に植物に似ている。居住生態学
などと書いたのですが、街の生成は植物が伸びていくのと同じなのです。これは私の大
学で、駿河台にあるのですが、もうひとつのキャンパスが明大前にあります。この地域
は実は関東大震災の時に形成された郊外住宅地です。私のキャンパスはさらに多摩川の
外側、生田というところにあるのですが、そこに向かって線路が伸びて、駅から今度は
道路が丘の上に、台地の上に向かって伸びて、丘の上であたかも葉っぱが広がるように
住宅地が形成された訳です。そこでのお父さんというのはまさに働きバチで、毎日そこ
から降りてきて養分を運んで、立派に育ちあがった子供はこの丘から巣立っていった。
働きを終えたお父さんが丘の上に戻ってきたというのが今の状態ではないかと思いま
す。だから「お父さんお帰りなさいパーティー」が行われているということです。
そういうことがどこで起きているかを捕捉することは簡単です。何敀かというと、日
本の住宅地は、ある塊状に(スプロールという言い方もありますが)開発されたので、
いつ開発されたのかというデータを抑えるのは簡単です。ですから、そこを起点にして
30年経った住宅地、40年経った住宅地というようにして抑えていけば、そこでは住
み替わりということが実はあまり行われていないので、まさに塊状にどんなことが起き
ているのかを容易に捕捉することができます。
私は、ひとつの典型的な住宅地、これは八王子にある戸建て住宅ばかり2500戸の
住宅地で、そこの自治会と一緒になって研究を行いました。非常に良い住宅地で地区計
画も掛かっていまして、最低敷地面積は160㎡、3階建ては駄目、ブロック塀は駄目
という、大変に環境も良く守られた住宅地です。この住宅地は、お値段で見るとどれく
らいなのかというと、何回にも分けて分譲されていまして1984年の今から25年前
の値段で4620万円です。ある年齢以上の方はお分かりだと思いますが、当時として
は相当高級な住宅地だったといえます。それが25年を経て、今現在幾らかというと更
地にすると2900万円です。築25年の家が付いていても僅か100万円しか乗りま
せん、3000万円です。更地にして新築の家を建てると、5000万円になります。
そうすると5000万円の家は今の若い方は買うことができない。結局、ここではまだ
そんなに世代交代が起きていなくて、尐しずつマンションに移り住む方もいます。また、
環境が非常に良いので、この住宅地の周辺から住み変わってきている人がボチボチいる
というような状況です。
その住宅地で、近未来がどうなるのかということをアンケート調査で見てみました。
この住宅地全体に票を配布し500票くらい回収したのですが、そのうちの6割は60
歳以上の方でした。その60歳以上の票を分析したものですが、意外だったのは、「こ
のまま住み続ける」という回答は現時点では6割強でした。「もし貴方、もしくはお連
れ合いの具合が悪くなってきた時にはどうですか」というと10ポイント下がりまして
居住継続意向は半分くらいになりました。明確に「今すぐにでも住み変わりたい」とい
う人が10%です。虚弱になった時はそれが倍に増えて20%。「分からない」という
方がかなり多い訳ですね。ずうっと住むという方は約半分くらいということです。
もうひとつ、その住宅地のさらに先の未来を見ようということで、「その住宅と住宅
地はどういうように資産として継承されますか」というと、本当に立派なお家の建ち並
ぶ住宅地ですから、全体の4分の3の方は「子供が相続します」という回答でした。さ
らにしつこく「そのお子さんはどうされますか」を聞くと、4分の3の方は子供が相続
するのですが、「子供が住むだろう」という人は、その3分の1くらいしかいないので
す。何敀だろうと。これはまだ深く考えていないのですが、これも常識を変えなければ
ならないと思うのです。相続が発生するというのは80歳代半ばとか、場合によっては
90歳以上です。そうすると、そういう方のお子さんは50歳とか60歳とかになって
いて、自分が住むために家を必要とするという世代ではない訳です。そうすると、この
住宅地は相続まではされるのだけれども、先行きそこがどうなるのかは今現在は分から
ないということです。
学生に個票にあたってもらい、一票ずつどういうようになっていきそうかということ
を集計したものがこれです。この住宅地は「住み替わりたい」という方が本当に住み替
わってしまうと、10年後には60歳以上の方が住んでいるところは全体の約6割ある
訳ですが、そのうちの4分の1は「空き家」と書きましたが、先行きが決まっていない。
さらに虚弱な時までは何とか頑張るぞという方が出ていくのが20年後とするとプラ
ス12.5ポイントで、最大約4割は行き先が決まっていない。完全に世代交代が終わ
るであろう30年後を考えると、さらにプラス33.6ポイントで、全体の今現在60
歳以上の方が住んでいるところの7割が、相続から後の先行きが見えていないというの
が、東京のあるひとつの住宅地の状況です。
この住宅地では、60歳以上の方が住んでいらっしゃるところは住宅地全体の約6割
であって、そのうち30年後に確実に居住者のいるのは約3割ということですから、住
宅地全体の約半分は行き先が決まっていないというのが、ここから出てきた結果です。
結局、私たちは何をしなくてはいけないのか。20世紀に一生懸命、東京郊外、それか
ら大都市郊外に住宅地を造ってきて、そこで子育てが行われた訳ですが、今そこら辺が
大きな高齢化問題に直面して、住んでいる方のかなりの方々が引退期、老後期を迎えて
いる。この方たちの培われた住宅、あるいは住環境を如何にして次の世代に引き渡すの
か。ここのサイクルができないと、まったく直線コースを走ってバタッと倒れるという、
そういう余り嬉しくない状況になるのではないかと思います。
最後に、これまでいろいろお話ししましたが、私なりに考えている出口戦略です。ひ
とつは特に若い世代は共働きですから、交通の利便性というものは非常に大きな要件だ
と思うのですが、駅近にたくさん住んでいる訳です。子供が小さいうちはそれでも良い
と思うのですが、子供が大きくなった時に、そこで良いのかといった時に実は駅後背部
というか、台地の上に大きな家を持て余した引退期から老後期に差し掛かった高齢者が
いる訳です。であるのならば、この方たちに山から降りてきてもらい、こちらの子育て
世代が、駅の後背部に移ると。最後の看とりも含めた高齢期固有の居場所が必要であれ
ば、そういうものは今まで整備されてこなかったので、これを足すことによって地域内
でグルグルと循環する、回る、そういう方法があるのではないかというのが、一つ目の
出口戦略です。
もうひとつは、もっと遠郊と言うか遠いところでの戦略です。実は、ここは放って置
いてもできてしまった自然発生的リタイアメントコミュニティみたいなものです。日本
の郊外というのは非常に自然に恵まれています。まさに環境に良い訳ですね。そういう
ところで、先ほど利便性とはいいましたが、ITのプラスの面というのは毎日会社に行
かなくとも良いかも知れないということです。会社に行く時には本当にワッと集中的に、
人と人が会うことを目的にして、ルーティンワークは自分の家の近くでできるかも知れ
ない。そういう意味で言うと、遠郊、遠いところでは自然だとかエコだとか、そういう
ものを上手くアレンジしながら、職場付きファミリー住宅ですとか、あるいは緑を楽し
むという、郊外リゾートですね。退職者コミュニティ、それから週末コミュニティ。こ
ういうようなものを考えてはどうかと思っています。
「住宅産業」という今日のタイトルですが、私は超高齢社会において住宅産業は住生
活総合産業に生まれ変わるべきではないかと思っています。その時に何をしないといけ
ないのかを、先ほどの八王子の住宅地を下敷きに考えてみたのですが、ひとつめはエリ
アマネージメントです。地域住宅管理会社みたいなものを、これからは考えても良いの
ではないかというくらいまで最近は、思っています。マンション管理会社がある訳です
から、地域住宅管理会社があっても良いと思うのです。最近、だんだん口が悪くなりま
して、デベロッパーとかハウスメーカーの方が「売り逃げ」「建て逃げ」していたのが
20世紀だと思うのですが、それは止めてもう一回戻ってきて、きちんとそこで地域を
5拍子で回るように管理する。その中にこそ建て替え需要とか、あるいは改修需要があ
るということと、それから3拍子から5拍子に回すために必要になってきた寿命が伸び
た部分の最後のライフステージに対応する高齢者ペンションなり、高齢者ホームをきち
んと造っていくという、そういう新しいビジネスの領域があるのではないかと思ってい
ます。
もうひとつは、そのためのエンジンが必要なのですね。ということは、今までの住宅、
土地という形で蓄積されたシニアの住宅資産が上手く流通する、そのエンジンをきちん
と回さなければならない。ここが非常に弱い訳です。それが多分、今日のお話を聞いて
いると金融ということと非常に関係があると思っている次第なのです。私の話題提供と
しましては以上です。
国友 どうもありがとうございました。それでは続いて、矢野会長より「高齢社会に
向けた住宅市場の課題」について、お話しをお願いいたします。
矢野龍(社団法人住宅生産団体連合会副会長・政策委員長)
先ず今日は非常に著名
な先生方にご出席いただいて、ありがとうございます。
それから同時に今日の観衆の方々は殆ど住宅メーカ
ーさん及び建材メーカーさん、住宅関係の人ばかりで
ございます。園田先生のご説明の通り、私は1940
年生まれですので、園田先生の説によりますと、引退
期から老後期に入りつつあるということで、非常に今
日のシンポジウムはこれからの10年を考えると、か
なり深刻だなぁと思って勉強させていただきます。
ただ、もう一踏ん張り頑張っていきましょうと言う心強い説明もありましたので、そ
ういう感じで行きたいと思います。最後に園田先生よりいろいろな提案がございました
ので、ここはわれわれ企業でできることと、国や地方自治体でやらなければいけないと
ころがあるかと思いますが、園田先生のご提案のような理想な姿になれば、老後の住生
活も豊かになっていくと思います。我々業界も園田先生のご提案のような住生活総合産
業として、これからも理想形を求めて努力していく必要があると思います。新しい考え
でこれから望む必要があるというご指摘の中で、ちょっと堅い話で恐縮ですけれども、
われわれ住宅業界として、これからの高齢社会に向けての住宅市場の課題と展望につい
て、いくつか話をしたいと思います。
やはり当たり前ですけれども、最初にはどうしてもわれわれ産業界ですので、これか
らの日本経済の活性化にあたっては、内需の柱である住宅・住環境をどう活性化するか
ということが大きな課題だと思っております。
福田先生が先ほどご指摘されたように日本の住宅投資は、GDPに占める割合でみた
場合、諸外国に比べて非常に低く3%を切っていますし、まだまだ質的にもはるかに遅
れています。それから、もう何度もいわれていますように量的にははるかに充足されて
いますが、全ストックの中の2割強が耐震基準を満たしていません。度々ご指摘があり
ましたように、バリアフリーや省エネルギー対策など丌十分な住宅がまだ数多く有りま
すので、住宅産業界としては、非常に大きな問題と解決すべき責務を抱えていると思い
ます。
ご指摘があったような高齢化社会に向けて、これらの住宅を長期の使用に耐
える良質なストックに置き換えていくことが必要であり、それには、新築で置き換える
ものとリフォームで置き換えるものとがあると思います。それに加えて今、園田先生が
おっしゃられたようなソフトの部分を如何に構築していくかということも非常に重要
かと思います。
そのためには住宅業界としても、技術開発や経営資源の投入などがこれからも非常に
重要であると思っています。また、政府でも良質な住宅ストックの蓄積に対する支援を
して頂ければ、この二つが車の両輪として、今後も住宅投資は伸ばせていけるのではな
いかと思っております。
次ぎに、エネルギー政策を含めた地球環境問題です。このたびの原発事敀により電力
需給が非常に逼迫し、エネルギー政策の転換が叫ばれていることはご承知のとおりです。
家庭部門に限ってみても、この20年間でテレビやパソコン、エアコンなどの家電製品
の保有率の上昇に伴い、電力の消貹量が急上昇しております。生活の質を落とさずに、
如何にネットゼロエネルギーの住宅を目指していくかということが、われわれの大きな
課題です。最近では政府の施策により、再生可能エネルギーの代表である太陽光発電パ
ネルや家庭用燃料電池を搭載した住宅の比率が急速に高まってきております。
今後は発電したエネルギーを蓄える蓄電池やITを駆使して電力を効率的にコント
ロールするスマートハウスの普及も期待されています。最近、特に震災後、各大手ハウ
スメーカーさんのいろいろな商品も、こういう傾向がハッキリと出ている通りです。た
だし、これにはコストが掛るため、投資を回収するための期間が10年を超えますと幅
広い普及は難しいかと思います。やはり新技術の普及促進のためには、政府による支援
策が欠かせないと思います。このような新しい技術の普及促進は開発投資を誘引し、そ
れから新しい産業が創出され、民間投資が創造され、雇用も創出できますので、こうい
う財政が厳しい中でも、経済成長への投資として行うべきだと思います。
また、既存ストックの省エネ対策も、これから非常に重要であると思っております。
最初に省エネ基準ができたのは昭和55年で、俗に旧省エネ基準と呼んでいます。現在
の基準からするとおよそ年間冷暖房貹が2倍位かかる程度の基準です。その後、平成4
年に新省エネ基準ができましたが、先ほどの基準で約 1.5 倍の冷暖房貹となります。園
田先生のお話にありました団塊世代が郊外に新築した当時の住宅は、このように非常に
省エネ性能が低いというのが現状です。この省エネリフォームの促進も今後の課題とし
て、政府の支援が必要だと思っております。
3番目の課題は住宅の長寿命化の問題です。長期優良住宅の認定制度が始まって2年
が経ちますが、現在、新築住宅のおよそ2割が長期優良住宅となっており、累積で20
万戸を超えました。長期優良住宅は寿命が長いだけではなく、耐震性や省エネ性能、バ
リアリーなどの基本性能も優れていますので、私の代だけ持てば良いという考えではな
く、孫の代や地球的環境を考えるような、ちょっと大きな視点で住宅を考えていただけ
ると有難いと思っております。そうするとメンテナンスやリフォームにも、もう尐し投
資をしていただけるのかと思います。このように良い循環を通して、既存住宅の資産価
値が評価され、流通が促進され、今、ご指摘のあった通りリバースモーゲージ・ローン
が活用されるようななど、いろいろな仕組みを考えて実行していくことが重要だと思っ
ております。
4番目の課題は、既存ストックの活用の問題です。福田先生のお話にもありましたよ
うに50歳以上の多くの国民が実物資産として住宅を保有している訳ですが、その活用
の仕組みが丌十分と言わざるを得ません。例えば園田先生もご指摘されているように、
単身あるいは夫婦のみの高齢世代が広い家を持て余している一方で、子育て世代は狭い
住宅での生活を余儀なくされるという、所謂、ミスマッチ問題があります。これを解消
するための仕組みが必要であり、安心して賃貸できるような仲介機能も必要です。これ
は単にハードとしての住宅ストックの活用に留まらず、住宅という実物資産を経済の中
に生かしていくことであり、営々として築いてきた住宅資産を生活の基盤として、真に
生かすことだと思います。そのためにはリバースモーゲージ・ローンの普及や信託制度
の活用などに取り組んでいく必要があると思います。
それから、これはちょっと今日のテーマから外れますけれども、やはり住宅の消貹税
問題について、やはり真摯な議論をしていただきたいと思っております。ご存知のよう
に住宅には多岐多重にわたった税金が課せられております。諸外国と比較しても負担額
が突出しております。
住宅は、国民生活の安定・成長させる基盤であると同時に、社会的資産としての性栺
を併せ持っております。また、長期に亘り使用する一方で、一時的に負担が極めて大き
い消貹税の課税の仕方にも配慮する必要があるかと思います。諸外国は住宅に対して政
策的に配慮している事例なども参考にしていただきたいと思います。
私はたまたま国土交通省の社会資本整備審議会の委員として、平成18年の住生活基
本法の制定に関わってきました。日本の住生活の向上と国民経済の健全な発展に寄不す
るという目的で、この基本法が作られていますが、その中で付帯決議事頄として、国策
としての金融、それから税制等財政上の支援の充実に努めることが付議されています。
この様に住宅の消貹税についても、国民の理解が得られるような政策的な配慮が必要で
あると思っております。
日本の今後の高齢社会に向けて、住生活を良くしていくためには、ご出席の先生方の
本日のお話もいろいろ参考にさせて頂きたいと思います。また、今後もアドバイスして
頂くと同時に先生方には国にも引き続きご助言して頂きたいとと思います。私の方から
は簡単ですが、以上です。
国友教授 矢野会長どうもありがとうございました。それではパネリストの福田先生
と井埼先生から、話題を提供されたお二人の議論に対する質問やコメントをお願いいた
します。恐縮ですが3分くらいを目途にお願いします。まず福田先生からお願いします。
福田慎一(東京大学大学院経済学研究科教授)
大変有意義な話を園田先生から、それ
から矢野会長、ありがとうございました。大変興味深いお
話しだったと思います。日本の住宅産業は、高齢化が進む
中でこれまで通りにはなかなか伸びないという課題があ
ると思いますが、ご指摘のようにまだまだやることはたく
さんあると思います。例えば、日本ではまだまだ諸外国と
比べて小さい家に住んでいる人がたくさんいると思うの
です。われわれも海外に行くことは尐なくないのですが、その際、海外の大学の先生
方はよく家に拚待してくれたりします。ただ私の方は、海外からお客さんが来日しても
自宅にご拚待したことは1回もない訳です。残念ながら。なかなか拚待できるような家
ではない訳です。できればもう尐し大きな家に住みたいとは思ってはいるのですが、そ
ういう意味でスペース面も含めて、いろいろまだ日本の住宅を良くしていく余地はある
と思います。
ただなかなか障害も大きい訳です。例えばひとつよくある例は、今まで住んでいた家
があってその隣が空き家になった。できれば空き家を買ってちょっと大きくしたいのだ
けれども、その空き家の人に売ってくれないか所有者に申し入れると、いや売らないと
いうような事態はよくある訳です。先ほども園田さんのお話にあったように、そのよう
な空家は相続して子供が持っていることが多いのですけれども、なかなかそれを売るか
売らないかを決めないで、ただ持っているだけのような状況です。そういう問題を尐し
ずつ解決していくということが大事で、園田さんはガラガラポン型と尐しずつ地域リシ
ャッフル型と2つを提案されています。私は地域リシャッフル型の方が良いのではない
かと思ってはいるのですが、なかなか住宅というのは売るのは大変なことですから、今
まで持っている丌動産を生かしながら、より豊かな生活を実現していくことが重要かな
と思います。そういう意味で、空き家の問題に園田先生さんがご指摘されたようにどう
取り組んでいくのかと。どう流動化していくのかということというのは、非常に大きな
問題だろうとは思います。
あと諸外国と比較して私が思うのは、住宅メーカーはかなり日本固有のものだという
ことです。諸外国でも勿論、家は建てるのですが、基本的には近くの大工さんに建てて
貰うというパターンがアメリカなどでは非常に多い。日本のように大きな住宅メーカー
があって、そこが住宅展示場をもち、それを見て消貹者がこういう家を建てましょうと
言うような国っていうのは、日本が非常に例外的だと思っています。
そういう日本の住宅メーカーは、その分いろんなノウハウをやっぱり持っているのだ
と思うのです。諸外国のようにただ単なる大工さんではなくて、やはりいろんなノウハ
ウを日本の住宅メーカーは持っているとは思うのです。消貹者には、これから住宅の質
を向上したいのだけれども、どの様にしたら良いのか分からないという方がたくさんい
ると思うのですけれども、矢野会長がご指摘になったように、いろんな形で住宅メーカ
ーさんの方でも、こういう形でやったらどうですかというような助言をしていく仕組み
づくりをやっていくことも大事になってくるのではないでしょうか。そういう意味で、
今までのようにただ単に家を造るということよりも、総合的な住宅プランみたいなもの
を提供していくというような形で、住宅メーカーさんの方もやられていかれてはどうな
のだろうかと思います。矢野会長に対する簡単なご質問ということですけれども、そう
いう取り組みに対して、どの様に考えるのでしょうかということです。
園田さんに関してはこの空き家の流動化という問題を、どうすれば良いのかというの
を、私も良い手当はないのですけれども、なかなかその点に関してご説明があったので
すが、もう一度お答えいただければとは思います。以上です。
国友 どうもありがとうございました。続いて井埼先生お願いいたします。
井堀利宏(東京大学大学院経済学研究科教授)
はい。園田先生、矢野会長それぞれ
に非常に有意義なお話しで、どうもありがとうございまし
た。最初に吉川研究科長の方から人口というのはあまり経
済成長とは関係がないと。要するに人口が増えても、減っ
ても生産性が非常に伸びればあまり尐子化と気にする必
要はないというお話しが出たのですが、ただ住宅に関して
は、園田先生のいろんな資料にありますように、やはり人
口動態というのは非常に大きく影響する訳です。日本は先
進国の中で、世界で初めて人口減尐にこれから急速に直面
して、高齢者の数が増えて尐子化で若い人の数が大きく減っていくという尐子高齢化
のスピードが世界1のスピードで真っ先に進んでいくと。しかも、その時に同時にマク
ロの経済状況があまり良くない。非常に全体としても見通しが悪い中で尐子高齢化に進
んでいくので、その意味では住宅産業の外的な環境が非常に苦しい時に、いろんな課題
が今日、矢野会長ご指摘のように、いろんな課題を如何に克服していくかということに、
非常に大変なことだと思います。
で、園田先生の方から、非常に有益な政策的なご示唆をたくさんいただいて、重要な
点だと思うのです。住み替えの話です。出口戦略で具体的な点を幾つか指摘されていま
して、それは重要な点だと思うのですが、もう尐しお聞きしたかったのは、出口戦略の
レジメのところで地域内の住み替え循環と、それから退職者コミュニティーまたは週末
コミュニティーの戦略の2つのシナリオが出ているのですが、特に最後の退職者コミュ
ニティーです。週末コミュニティーを上手く行けば非常に高齢者の方にとっても、いろ
んな意味で良いと思うのですけれども、実際問題としてこういう話は昔から多尐は出て
きていると思うのです。なかなか上手く根付いてないのです。過疎地にはいっぱい、自
然は豊かだけれども、住宅は余っている。そこに昔から都会の方たちをある程度、週末
にするか別荘にするか、セカンドハウスにするか。その様な形で政策的に住み替え、あ
るいは一時的な利用を促進する政策って採られているのですけれども、なかなか上手く
いっていない。ここをもう尐し上手く軌道に乗せるのには何が必要なのかということに
ついて、尐しお話しをしていただければと思います。
それから矢野会長に対して、いろんな議論がそれぞれもっともらしいと思います。長
期寿命の話です。長期住宅、今2割。これストックを活用するというのは、大事に育て
ていくというのは非常に重要だと思うのです。もうひとつ今日、出てきた話というのは
利用する方です、昔と違っていろんな利用の仕方がある。要はニーズがバラバラだと。
昔だったら、ある標準的なライフサイクルのパターンである一定の決まった形で住宅を
利用した。今は単身の方が増えてきて、いろんな使い道がある。そうすると長期の住宅
というのは、ハード面をしっかり造る訳ですけれども、しっかり造れば逆にいうと、そ
の中のリフォームも、勿論できるのですけれども、細かく例えば間取りを変えるとか、
急に小さくして広い庭にするとか、逆にそれを大きくするとかそういう形は、なかなか
難しいのではないかという気もする。
きちんとした住宅というのは、それなりに一定の家の利用ニーズがあれば、やりやす
いと思うのですが、利用する方で多様な人が増えてくる時に、どういう形で対応すれば、
長期住宅を上手く育てていくことができるのかという点に対して、もし何かあれば。以
上です。
国友 どうもありがとうございました。それではまず園田先生と矢野会長のお話に対
して二人のパネリストから質問・コメントをいただきましたので、コメントに対して何
かお答えがありますでしょうか。まず園田先生よりお願いいたします。
園田 それぞれご質問ありがとうございます。先ず、福田先生の空き家の流動化をど
うしたら良いのかについてお答えしたいと思います。実は
私は空き家にしてしまっては駄目だと最近思っています。
一旦、空き家になると後でいくら流動化させようと思って
も、すごく難しいのです。だからそうならないために、ど
うしたら良いのかということを考えなければと思ってい
ます。それともうひとつ、今日は八王子をご紹介したので
すが、去年、成城学園の住宅地をフィールドにして、敷地
の細分化がどのように進んだかを研究しました。成城学園住宅地はできてから80年
くらい経っているのですが、敷地の細分化がどの様に進んだのかを住宅地図を基に追い
かけてみました。その結果、私はGHQが仕掛けた遅効性の時限爆弾だと言っているの
ですが、何かと言うと1920年代半ばにできて、1970年代くらいに一回、相続が
起きているのですが、その時はどうも今から比べると、あまり敷地は割れていない。
当然、相続は均分相続だったのですが、多分、親と同居しており長子相続ということ
でお兄ちゃんが受け継ぐことが、それでもできていたのではないかと思います。ところ
が、1990年代半ば以降は、完全に均分相続で、処分されないまま放置された住宅地
だとか、どんどん住宅地の敷地が割れてしまって、私たちが成城学園と思ってイメージ
するような宅地規模とか住宅が建たないように、敷地が細分化されていくという、そう
いった現象があります。
それではどうしたら良いかですが、これからのシニア世代は私は子孫のために自分の
資産を丌動産で残してはいけないと思うのです。何敀かというと、丌動産を均分相続で
分けるのは、もの凄く大変で親族トラブルになりやすい。そうなる前に人生が1.5倍
に伸びた訳ですから、自分の判断ができるうちに丌動産を一旦全部、金融資産に置き変
えて、トラブルが生じないように、子供たちにきちんと分けられるようにする。自分は、
最後まできちんと住めるようなところに住まいを移す。それをするのが、ある意味、一
番良い方法ではないか思います。
それから、井埼先生のご質問は退職者コミュニティまたは週末コミュニティが何で日
本ではなかなかできないのかということですね。
結局ですね、私は日本の郊外住宅地というのは、マイクロブルジョアというか、50
坪か60坪の土地と30、40坪の家を持っている所有者と、あとは道路に出ると全部
公の領域です。アメリカの場合だと、デベロッパーがリタイアメントコミュニティとい
うものをわざわざ開発して「50歳以上の方どうぞ」といって住む訳ですが、日本はそ
うしなくても、もうその状態になっているのです。ただ、住宅地には、私地と公地しか
なくて、それぞれが私地の中で解決を図ろうとしているので、全然上手く行かない。そ
れを限界集落といって嘆く訳です。アメリカはそれを「自然発生的リタイアメントコミ
ュニティ」というのです。その意味で言うと私はプチブルジョアというかマイクロブル
ジョアの持っている資本を地域資本みたいな形でまとめて、クラブハウスを建てましょ
うとかと提唱しています。そうした住宅地は、結構、ゴルフ場に近かったりする訳です。
だから自分たちの住宅地の中にゴルフ場がなくたって、クラブハウスからバスを仕立て
て行きましょうとか、そういうみんなの持っている尐しずつの資本をまとめて、それを
上手に活用して、楽しい街にする、そうした取り組みが必要です。
先程ちょっと申し上げたのですが、地域住宅管理会社とか、地域マネジメント会社み
たいなものを是非、何か新しい業態として、例えば住友林業さんが後ろでバックアップ
して作っていただくと良いと思うのです。日本はそういう主体が、どこにも存在しない。
それが一番の原因ではないかと思うのですが、如何でしょうか。
国友 どうもありがとうございます。それでは矢野会長いかがでしょうか。
矢野 井埼先生のご質問ですが、実際に長期優良住宅の認定制度が始まったのが2年
前になりますが、その前に私が、国土交通省の審議委員をしている時に、20年、30
年で住宅の資産価値がゼロになるような日本の現状をどうにかしなければと議論して
いました。しっかり手入れをすれば何世代にもわたり住み続けることが出来るような住
宅を作らねばと考えておりました。その頃、福田元首相が 200 年住宅構想を掲げて、
一気に長期優良住宅法が成立しました。
住団連各社もスケルトンインフィルを考え、基本的には躯体をいじらずできるだけリ
フォームで対応できるような工夫をしていますね。それか
ら長期優良住宅ができた時に議論をしたのは、100年、
200年と何世代にも亘り住み続けることになりますの
で、必ずしも自分の子供または孫が住む訳ではないので、
やはりそこでは中古住宅流通とか、金融面のリバースモー
ゲージローンなど、いろいろ総合的な対応があって、今後
この長期優良住宅を利用する人のためになるのではない
かと思っております。まずは、ハード面で長持ちする家を
という発想からですけれども、これからは、長期優良住宅
については、もっと総合的なことを考えて、政策的にもそういうことをする必要があ
るのではないかと思います。
それから私への質問ではないのですけれども、園田先生の出口戦略にあるような素晴ら
しいシステムを実践している地域があることを、たまたまアメリカ、カナダで知りまし
た。そのシステムを簡単にご説明させて頂きます。まず、両親が共働きしながら子育て
をしている期間は、車やスクールバスで移動のしやすいエリアで暮らし、子供が成長し
自立した後は、夫婦で環境のよい高台の場所に移り住みます。そして、年を重ね夫婦の
片方がなくなった場合は別の場所へ、そして、介護が必要になった場合は、高齢者用の
施設に移ります。このように、その年齢ごと、世代ごとに変化していくライフスタイル
に対する住まいづくり、環境ができているところがありますよね。ですから、園田先生
の出口戦略の中でちょっとよく分からないですけれども、昔のように、数百年前のよう
に、寅さん、熊さんくらいで、長屋で生活していたことからいくと、今の日本人という
のは非常に利己的だし、こういう出口戦略の中で共同生活ができるのかなぁということ
が気になるのですけれども。でも、これはこれからの日本、われわれ住宅産業のみなら
ず、この出口戦略のところは地方自治体とも共創して理想的な高齢社会に向けたユート
ピアみたいのができれば良いのではないかと思いますけれどもね。
国友 どうもありがとうございました。ここで会場にお越しいただいたフロアでの参
加者の方から、園田先生と矢野会長、あるいはコメンターのお二人に質問やコメントが
ありますでしょうか。余り長くなければお伺いしたいと思いますが、どなたかいらっし
ゃいますでしょうか。特にございませんでしょうか。
矢野 岡本さん、如何ですか。
岡本利明・住団連前政策副委員長 尐しお伺い致します。永く住宅産業に携わった者
として、一番思うことは、自分が苦労してつくった資産
である家が、自分の将来、老後のためにあまり役に立っ
ていないという事実です。そのために適切な政策が実行
され、家の質が向上し、愛着のある、資産価値のある家
が実現しないかと期待している者です。21世紀の初め
に世界の社会学者が、「21世紀は家族の時代」として、
家族を重要なキーワードにしました。そういう点では、
住宅はそのベースのひとつですから、本当は21世紀の
重要な政治課題だと思います。ということで、量は尐なくなるかもしれませんが、電化
製品で分かるように、数量が増えると言うより質が高くなって、どんどん産業が発展し
ているのですから、住宅も質が良くならないといけないと思います。
但し、質の高い長期優良住宅を作ろうとするとコストは尐し高くなるので、やはり投
資したリターンすなわち将来の生活の備えになることが必要です。その意味で、質の高
い長期優良住宅が中古市場で流通し易いように、今現在、低い金利のローンを中古住宅
購入者が利用できるアシューマブルローン等の新しい金融政策が必要だと思います。
それからもうひとつは矢野会長が言われたけれども、信託法の改正があって家族信託、
所謂、民事信託の制度はできたけれども、これが一般の住宅にまったく入っていない、
福祉信託になっていないという点で、何か金融面での施策が必要ではないのかと思うの
ですけれども、福田先生はその専門家なので、二つの点についてどのようにお考えか、
お伺いしたいと思います。
国友 はい、どうもありがとうございました。それではすこし予定を変更して、福田
先生はマクロ経済や金融のご専門です。
福田 はい、まったくご指摘の通りだと思います。日本人が豊かな住生活をするとい
うことは大事です。住宅をどんどんクォリティーを変えていかないといけないというこ
とで、今ある住宅を如何に改善していくかということは大きな課題です。その先ほど空
き家の問題とかもありましたけれども、住宅の流動性は極端にやっぱり低い。その結果、
現状では数からみて、世帯の数よりも家の数の方が日本は多い。ただ、持ち家の数は多
くないということは、如何に空き家が多いかということだと思います。この空き家を如
何に有効活用していくかということが、日本の大きな問題だと思います。
それには2つの問題があって、1つは金融の問題もご指摘の通りあると思うのです。
もう1つは税制の問題。これは井埼先生のご専門ですけれども、明らかに空き家でも住
宅で持っていた方がいろんな意味で税制上、有利な訳ですよね。例えば先ほどの相続で
すが、更地にするよりも空き家でも住宅を持っていた方が固定資産税は明らかに安いと
いう問題もありますし、そういう意味では先ず税制の問題を何とかしてもらわないとい
けないだろうと思います。
もう1つはご指摘のように、では有効活用するようなその信託業務の重要性。これはま
だ非常に限定的にしか行われていないというのはご指摘の通りで、これをどう発展して
いくかは大きな課題です。そういう意味で、制度上、より流動化にできるような金融や
財政の制度変更と、それに対応した信託の発展がセットで起こる必要があると思うので
す。そういうことを、住団連、あるいはわれわれの方でいろいろな形で今後も働き掛け
ていくということが大事なのではないのかと思います。
国友 どうもありがとうございました。住宅に関わる税制に飛び火しましたので、ま
た予定を変更して井埼先生にご意見をお願いします。井埼先生は財政学・税制の専門家
でいらっしゃいますが、今の話題に関連して、私からの飛び入りの質問としては、例え
ば現状では空き家にしていた方が税制上で有利だと、いうことでしょうか。もしそうな
ら変更可能なのでしょうか。
井堀 相続の時の評価の話ですよね、福田先生が言われたのは。変更するのは合理的
だとは思うのですけれども、なかなか実際問題としては、それによって税負担が増える
人はいますので、難しいという面はあります。日本の場合は利用形態に応じてきちんと
税金を掛けるというシステムになっていない。そこはきちんと直す。要するに税の基本
的な原則というのは公平性に配慮するということと、より効率的な資源配分を促進する
ような形で税の面でケアするというものなのです。これは住宅に限らず、公平性に配慮
しすぎて、要するに所得の低い人からはあまり税金を取らないという理念があります。
また、空き家があっても、そこから生まれてくる経済的な利得がなければ税金は掛け
られない。要するに資産を持っていてもお金がない人から税金は取れないというのは固
定資産税の特徴です。いくら資産を持っていても。そういう面があります。税の考え方
として余り既得権的な公平性に配慮しすぎないで利用形態を重視すべきでしょう。耐震
化にしてもいろんな形で住宅の機能を高めるのに税制上のインセンティブを不えると
か、丌必要な遊休的な利用形態の場合には、ある意味でペナルティーを課すような税制
をすれば、空き家にすれば損になる訳ですから、公平的なものになる。実際問題として
難しいという、そういう面はあります。
国友 どうもありがとうございました。これまで園田先生と矢野副会長からの話題提
供、コメントとコメントに対するリプライをしていただきました。また討論者の方々か
ら今まで出ました特に高齢化と住宅産業、それから住宅金融を中心にして何か補足的な
議論ございましたら、お1人数分間ずつということで、お願いできればと思いますが。
福田教授 私は日本の住宅産業はそんなに悫観的ではありません。勿論、尐子高齢化
はマイナス材料であることは間違いなくて、これまで通りの住宅、1人あたりの住宅件
数、あのう住宅を建てる人の数というのはどんどん減っていくのは間違いのない訳です
けれども、先ほども指摘しましたように質をどんどん上げるとか、そういう意味では付
加価値ベースではまだまだ住宅産業、発展の余地は大きいと思いますし、そうした中で
いろんな非効率な日本経済にはまだまだ残っております。そういう非効率を、住宅金融、
あるいは税制上の問題、あるいはその他いろんな形で改善していけば、わが国の住宅産
業というのはまだまだ十分に成長可能な産業だと思っておりますし、そういった形で住
宅産業の方にもいろんな形で取り組んでいただければ、宜しいのではないかと思います。
国友 園田先生はいかがでしょうか。
園田 私が思いますのは、お金がない、ないと最近よく言われるのですが、特に普通
の人を考えると、シニアの人たちはお金がないのではなくて、お金は持っているのです
が凄い危機感ばかり煽られて死蔵している、退蔵している、使っていない。だから若い
人たちにはお金が回ってこない。住宅金融も元気が出ないという、何か負のスパイラル
に入っていると思うのです。そういう意味で言うと、とにかくその今まで培ったもの、
すなわち既存の住宅や土地資産がきちんと回るようにする仕組みがいる。お金だけでな
く、建築、特に素晴らしい住環境とか住宅を循環させる仕組みがいる。人生1.5倍に
なった訳ですから、今までのやり方では全然まだ足りない訳で、そこにお金が回るよう
な仕組みがいるのではないか。
今日は余り話題が出なかったのですが、信託というよりもみんなの持っているお金を
尐しずつ地域で集めて、自分たちの環境が良くなるための、そういう意味で言うとリス
クヘッジではなくて、リスクテイクを共同でやるような地域ファンドの仕組みとかがい
る。実はそういうことを呼び水にする地域金融というものがまったくない訳です。大銀
行が個人に対して貸すという仕組みはあるのですけれども、「個人」とそういう意味で
言うと「公」しかないという非常にある意味、選択肢のないやり方になっているのでは
ないか。昔だと信用金庫とか、地銀だとかそういうところが地域のお金をぐるぐる回し
てくれたと思うのです。今は産業というよりも、住んでいる人の一人ずつの金融資産な
り住宅資産なりを活用した、そうした経済循環が必要で、それを誰が仕掛けるのかがハ
ッキリしていない。そこを今日、集まったメンバーを含めてですね、一体誰がやるので
すかではなくて、みんなでやらないといけないでしょう、というのが私の今日の感想で
す。
国友 ありがとうございます。矢野会長、何か付け加えたいことがありますでしょう
か。
矢野 今日は先生方のお話し、いろいろ参考にさせていただきました。今日、ご参加
されている観衆の皆さんも、いろいろな課題は十二分に認識していると思いますが、こ
れを解決する糸口をどのようにして見つけていくかということであります。本日の園田
先生の数字を見ると、特に私の年齢くらいになりますとより深刻に考えさせられました。
今の介護老人ホームや高齢者向け住宅を外からみていますと、やはりちょっと利益優先
的に感じられます。やはり今後の高齢化対応の住宅産業というのは、例えば園田先生が
言われた出口戦略にしろ、もう尐し心のこもったやり方をしていく必要があるのではな
いかと思います。
住友林業のことを話して恐縮ですが、実は10棟ほど有料老人ホームを経営していま
す。我が社は森林に携わる仕事をしていますので、山の中でゆっくり過ごせるような施
設を作るなど、理想的な環境を整えました。勿論、介護とかメディカル、ターミナルの
ところまでしっかりしましたけれども、実は一旦10棟でストップしています。要する
に、わが社の企業理念に照らして、もう一度事業内容を精査しているところであります。
今日の先生方のお話を参考にさせていただいたり、いろいろなご助言をいただきなが
ら、高齢化社会における理想的な住宅産業の在り方について、いろいろと切磋琢磨して
いきたいと思います。今日はいろいろとありがとうございました。
国友 どうもありがとうございました。それでは井埼先生どうぞ。
井堀 はい、住宅産業は内需の柱で、非常に重要な位置を占めている訳です。それが
尐子高齢化で最初の福田先生のデーターにもありますように住宅投資も減ってきて大
変でもあるのです。日本経済全体が縮んでしまいますとやはり住宅は長期の投資ですか
ら、なかなかこれを活性化するのは難しい。マクロの経済環境、成長戦略が重要です。
きちんと丌況から脱却して安定軌道に乗せるようないろんな政策を、これ住宅に限らず、
日本の産業自体を、もう尐し再生させるようないろんな規制改革を含めて、それが必要
だと思います。
それからもうひとつ、やはり国内だけではどうしても限界がありますから、対外的な
戦略を住宅産業も当然求められてきていて、住友林業さんを始めとして既にいろいろ海
外に展開されていますけれども、それを今後はもっと積極的に、中小も含めて進めてい
くのが結果として日本にとっても、その利益は日本の方に入ってくる訳ですからプラス
になると思います。特にエネルギー、省エネ、環境に関しては、これは日本が先端的な
技術を持っている訳ですから、いろんな意味で。海外で、省エネとか環境対応というの
は日本だけでなくて、途上国も含めて外国でも非常にキーワードになっていますから、
それへの技術的な優位性を上手く生かす形で日本の住宅産業の優れたノウハウを国際
展開するのが、日本の国内にとっても重要な活性化策になっています。その面からでも
尐子高齢化に対応できるのではないかと思います。それも重要と思います。
国友 はい、どうもありがとうございます。残り時間が尐なくなってきたのですが。
もうワンラウンドお話をいただけると思います。今後の緊急な課題というか、今年の 3
月に大震災が起きまして、住宅産業の皆様、仮設住宅の建設などで大変お忙しかったと
思います。そうした問題を含め、それから特に今後、住宅を巡る税制の問題が俎上に上
ってくることが予想されますが、皆様方のご意見をここで伺いたいと思います。それか
ら福田先生には恐縮なのですが、私からの質問をさせてください。1つは日本の住宅の
金融で重要なフラット35ですけれども、それで全部トリプルAだというお話でした。
安全であるということは確かにあるのですが、安全であるということは結局、金利は国
債にプラス・アルファーぐらいしか付かないので、引き受ける投資家にとってはあまり
魅力がないということにも通じそうです。この辺の仕組みをもう尐しマーケットに任せ
るような栺好の方策というのはあり得るのでしょうか。その辺の問題について福田先生
からご意見をいただければと思いますが。
福田 私もそう思います。フラット35は実体的には昔の住宅金融公庫の貸し出しに
実体的には近いものでしか過ぎなくて、形式的には長期の貸し出しを民間の金融機関が
やってはいるのだけれども、事実上、国がそれを保証しているという形になっていまし
て、その損失をなかなか一般投資家が負担するという仕組みにはなりきっていない。こ
れを過度に投資家に負担をさせすぎると、アメリカのようにやっぱり問題が起こるので、
そこら辺のバランスは必要ですけれども、それを勘案しても、日本の住宅金融では経済
学で重視するマーケットメカニズムが十分に働いていない。住宅ローンでも、本当に必
要な人は高い金利を払っても借りたいと思っているし、あまり必要ではない人は金利が
安いときしか借りないということで、やっぱり本当に必要な人に住宅を供給するには、
マーケットメカニズムを利用するが経済学では非常に大事です。誰でも借りやすいよう
に、補助金を出すというのが日本のこれまでの住宅政策だったのですけれども、本当に
必要な人にある程度、資金を供給するにはマーケットメカニズムという概念は同時に重
要ですそれがなかなか今までの日本の住宅金融市場ではなかなか浸透してこなかった。
そうした中でやっぱりちゃんと貸して返してくれそうな人に必要な資金を十分貸すと
いう仕組みというのを、これからの日本の金融の仕組みでは整えていかないといけない
と思っていますし、そういう意味では住宅メーカーというよりは、民間の金融機関側、
あるいは住宅金融支援機構などの努力がこれから求められていくと思います。
国友 どうもありがとうございます。それでは園田先生お願いします。
園田 殆ど言ってしまったのですが、税制ということであれば、私は増税ではなくて、
例えばシニアの、55歳以上の人に住み替え減税みたいなことを、もっと大々的にやっ
ても良いのではくらいに思っています。損して得とれと素人ながら思います。リスクを
ヘッジをするのではなくて、何かそういう、リスクを取って次を良くするという動きが
出てこないと、ちょっとこのままだと本当に大丈夫なのかなぁというように思います。
それともうひとつは、とにかく頑張らなければいけないと言って、ひとりずつが相当
頑張って、何か疲れてしまった上に震災が来てしまったのではと思います。ここは1回、
クールダウンして、私は今の状況というのは協調戦略というか、ウインウイン戦略みた
いなことが必要な局面だと思います。例えば矢野会長の住友林業さんだけが頑張るので
はなくて、住宅産業全体がある意味、協調戦略を取って、最初の底上げをやって、その
上で丁々発止、お互いの得意のものを競い合うようなところに持っていく。尐しクール
ダウンして再びアグレッシブになる、そういう戦略に持っていけたら良いのではないか
と思っています。
国友 どうもありがとうございます。それでは矢野会長、お願いします。
矢野 税制問題についてすが、今の日本の住宅税制は明らかに多重税制であり、井埼
先生はじめ学者の先生方がご指摘をされておられるように、今の税制は、租特法などで
つぎはぎになっており、何時かの時点で住宅に対するあるべき税制の姿に戻すべきと思
っております。例えば今は消貹税が掛かり、丌動産取得税が掛り、固定資産税が掛かり、
相続税が掛かるとかですね。正直言ってこれはお役所の人も政治家も、おかしいという
のは分かっている訳ですけれども、今の財政状態ではどうしょうもないということなん
でしょうけど。伊東元重先生や井埼先生など学識経験者の方々からもご指摘頂いており
ますので、やはりこの辺は何処かの時点でちゃんとしないといけないと思います。それ
から、私はたまたま日本商工会議所の関係もちょっと担当しているのですけれども、経
団連と違って日本商工会議所の場合はご存じの通り中小企業の方のメンバーが多いの
ですけれども、住宅業界においても大半が中小企業の方たちです。やはり今回の震災に
おけるダメージやそれから今日の議論のテーマなど中小企業にとっては苦戦されるの
ではないかと思います。
従って、井埼先生が仰ったTPPの問題にしろ、アジアのマーケットを内需にとりこ
むなど、日本の内需中心からの発想の転換を図っていく時代に来ていると思いますが、
先ほど申したように中小事業者に対する支援やサポートをしっかりしていくことも非
常に重要ではないかと思います。本日のテーマである高齢社会における住宅産業とは尐
し離れますが、その辺を考慮する必要があるのではないかと思います。
国友 どうもありがとうございます。それでは井埼先生には総拢的に本日の話題につ
いてお話をお願いします。
井堀 総拢という話ではないのですが、税金の話といいますと皆さん、住宅というの
は非常に大きな買い物ですし、実際にお金が動くので、売買しても。そこで狙われる訳
です、税金が。お金が動く時には税金が取れやすい。逆に言うと保有したままで何にも
しなければお金が動かないので税金は掛け難いというので、結果として日本の住宅の流
通には税制が弊害になってい。消貹税にしても、消貹税は払う時、住宅を買う時に払っ
ている訳です。将来も含めて。これは消貹税の本来の理念からしてもおかしい。その時
にすべて消貹している訳ではないですから。でも、それを毎年毎年の消貹に対して掛け
ようとすると、固定資産税みたいに、その時にお金が動かない時に税金を取らなければ
いけないので、これは取る方からすると非常に取り難い。住宅を買う時に消貹税を全部
取ってしまおうという、こういう形になる。これは効率性の面から拙いのは明らかで、
これは改善する必要がある。
しかも、今の消貹税は5%ですけれども、今後、これが10%になりそうです。今の
一体改革、野田さんが財務大臣の時にやった税と社会保障の一体改革では、2010年
代の半ばまでには消貹税率を5%上げて10%にするというのが、今の野田内閣の一応
の公約になっています。けれども、10%では足りないというのが税制上の自然な考え
です。最近、IMFから視察団がやってきて日本に来て税に関するいろんな指摘という
か、リコメンテーション、勧告があったのです。それだと早めに15%まで上げないと
日本の財政は保たないというものでした。10%ではなくて15%だということが既に
出ています。その意味では消貹税を上げるというのは近い将来、起こると思うのです。
その時に住宅に関してお金が動いた時に税金が掛かるという、そういうシステムを早目
に止めないといけないでしょう。そうすると流通に関しての税についても非常に整理で
きて、流通市場も活性化すると思います。ただそれを変えるのはお金が動かない時にあ
る程度税金を取る。そういう仕組みを出さないといけないですね。
お金のない人でも何らかの形で借りてという形で税金を払うようなシステムにすれ
ばリバースモーゲージの話とも関係しますけれども、上手く回る。実際に今お金がない
と税金は払えない、しかもお金があればそこでたくさん取ってしまってという徴税体制
のままだと、税制も上手く機能しませんし、住宅市場も育っていかないと思います。こ
この発想を変える必要があると思います。ただ、これを変えるのはなかなか大変です。
けれども、きちんとした議論で変えると同時に、いろんな政治的なプレッシャーという
両方が必要と思います。
国友 どうもありがとうございました。色々な論点が出まして、非常に興味深いこと
が多いのですが、井埼先生を代表とする東京大学の経済学
部・経済学研究科の諸先生は、最近になり議論が出てきて
いるような財務省による税の調達によるロジックに対し
て、真っ当な議論、国民生活をどういうように豊かにして
いくかという、そういう立場で議論をしています。ただ、
なかなか現実には井埼先生も財政審議会で影響力を発揮
できないような時代になっておりまして、政治的・社会的
には結論に都合の良い人を委員にして、それで形式的に決
めていくというような仕組みもあります。われわれのスタンスとしては基本的に国民生
活の今後を考えて正当な議論を建てていくということと思います。
その中には住宅産業ということが非常に重要であるということには変わりないこと
は承知しています。実はこうした知見はこの間、住団連の方々を通じまして住宅産業の
皆様からわれわれに対して、いろいろな栺好で情報を流していただきまして、われわれ
としてはわれわれの能力の範囲内で理解したつもりですので、今後とも住宅を中心とし
た国民生活の発展に向けて努力するようなことを考えております。
そろそろ時間になってしまいまして、今回のパネルディスカッションで取り上げまし
た話題は非常に大きなテーマですので、単に1回のシンポジウムで結論が出るものでは
ございません。今日はいろいろな観点からいろいろな議論が出ましたので、こうした議
論を一つの契機にしてわれわれとしては問題を真面目に受け止め、今後の学術を含めた
参考、それから政策を巡る議論に生かしていきたいと思います。それでは時間になりま
したので、この辺でこのシンポジウムは終わりたいと思います。どうも、ご清聴ありが
とうございました。
(了)
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