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ICT を活用した英語教育フレームワークの構築
ICT を 活 用 し た 英 語 教 育 フ レ ー ム ワ ー ク の 構 築 住 政二郎・流通科学大学 トーマス シャロー・流通科学大学 中川 典子・流通科学大学 濱田 真由美・流通科学大学 藤岡 千伊奈・流通科学大学 山本 勝巳・流通科学大学 〒651-2188 神戸市西区学園西町 3-1 078-796-4074・[email protected] 1.はじめに 本実践の目的は,(1)語彙・文法の側面から学生 の英語基礎力を養成し,(2)ICT を活用して 2 年間 を一貫した英語教育フレームワークを構築すること である。入試制度の柔軟化に伴い,多様な英語力を 持つ学生が入学するようになった。学生の中には基 礎的な語彙・文法が未定着な学生も在籍する。また, 高等教育機関における英語力の養成は急務の課題で あり,各大学は対応を迫られている。こうしたこと を背景に,本学では 2013 年 4 月より,入学時のプレ イスメント・テストから 2 年後の到達度テストまで 一貫した英語教育フレームを構築し,語彙・文法の 側面から英語基礎力の養成を計ることにした。 2.テストとレベル判定確率モデルの開発 プレイスメント・テストは 2004 年から 2012 年ま での本学の入試過去問題を電子化し,語彙・文法セ クションの問題項目(約 1,000 問)を正答率順に並 べて 100 問を抜粋して開発した。語彙・文法セクシ ョンの問題項目は,語彙・文法レベルを統制して作 成されており,その性格上,本学の求める語彙・文 法力の指標といえる。語彙・文法セクションを利用 した理由は,プレイスメント・テストの目的が入学 者を 3 つのレベルに大まかに分類することであり, ハイステイクス・テストのような精度が不要である ことと,文法的知識は英語力の基礎的な貢献的技能 (contributory skills)と考えられるからである。 テストの結果のレベル判定には,ナイーブベイズ 分類の手法を使った。ナイーブベイズ分類とは確率 モデルに基づきデータを分類する手法である。身近 なところでは迷惑メールの分類に利用されている。 この手法をプレイスメント・テストの結果に応用す ることで簡便にクラス判定を行うことができる。ま た,訓練と学習を繰り返すことによって教育機関独 自の分類ルールを構築することができる。プレイス メント・テストの結果を上級・中級・総合の 3 つに 分類する確率モデルは,ベイズの定理を展開するこ とで得られる。 公益社団法人 私立大学情報教育協会 平成25年度 教育改革ICT戦略大会 P (H1 |D) > P (H2 |D) > P (H3 |D) P (H1 |D) < P (H2 |D) > P (H3 |D) P (H1 |D) < P (H2 |D) < P (H3 |D) … (1) … (2) … (3) 式(1)は上級,式(2)は中級,および式(3)は総合クラ スの確率モデルを表す。H 1 は上級,H 2 は中級,およ び H 3 は総合クラスの事前確率を表す。ここでの事前 確率とは,あるテストを各レベルの学生が受験した 場合に正解する確率を表す。事前確率の設定は,各 レベルのクラス比,テスト実施側の期待値,および テストの難易度などを考慮して主観的に設定できる。 学生の状況や教育現場のニーズに応じて主観を確率 モデルに反映できる点がベイズ定理の特徴である。D は各テスト項目の正答率を表す(D: D 1 , D 2 , … D n )。 プレイスメント・テストの実施に先んじて,本学 の全学部生 1,489 名を対象に同じテストを使った予 備テストを行った(α = .799)。この結果から上級・ 中級・総合レベルに属する学生の正答率をテスト項 目ごとに算出した。この確率値をナイーブベイズ分 類で利用する確率モデルの各テスト項目(D: D 1 , D 2 , … D n )の尤度として設定した。各テスト項目はラッ シュモデルを用いて分析し,ミスフィットのテスト 項目には検討を加えた。また,クラス編成に合わせ て事前確率(H: H 1 ,H 2 ,H 3 )を設定し確率モデルを 構築した。構築された確率モデルを予備テストの結 果に適用し,既存学生の所属レベルとの一致度を検 証した結果は 68.33%であり,構築された確率モデル に基づくナイーブベイズ分類の実用性が確認された。 3.プレイスメント・テストの実施 開発されたテストを使い,英語専修の入学生 653 名の学生を対象にプレイスメント・テストを実施し た(M = 37.31, SD = 11.45, α = .855)。そして,ナ イーブベイズ分類を使いクラス分けを行った。また, ナイーブベイズ分類を使って自動的にレベル判定す る Moodle モジュールも開発した(図 1)。この結果, これまで公式な標準テストを使い発生していた負担 を大幅に軽減できるようになった。 は,学年別,学部別,レベル別,クラス別,そして担 当者別に集計することができる。受験結果は,テスト 項目,教材,そして授業方針の見直しなどに活用する ことを予定している。 図1. Moodle モジュールによるレベル判定 4.英語教育フレームワークの構築 プレイスメント・テストから,必修英語科目の提供 が終わる 2 年次の到達度テストまで,一貫した英語教 育フレームワークを構築するために,電子化した語 彙・文法セクションの入試過去問題(約 1,000 問)を再 利用した。まず,約 1,000 のテスト項目を入試過去問題 の正答率順に並べ替え,20 問ずつを 1 セットに分割し, 合計 48 セットの問題群を作成した。さらに,48 セット の問題群を 12 セットずつに 4 分割し,セット 1 からセ ット 12 までを「基礎問題」(正答率 99.1%–66.4%),セ ット 13 からセット 24 までを「標準問題」(正答率 66.4%–52.7%),セット 25 からセット 36 までを「応用 問題」 (正答率 52.6%–39.5%),セット 37 からセット 48 までを「発展問題」 (正答率 39.5%–3.2%)とした。1 年 生前期の配当科目である英語Ⅰでは「基礎問題」に,1 年生後期の配当科目である英語Ⅱでは「標準問題」に, 2 年生前期の配当科目である英語Ⅲでは「応用問題」に, そして,2 年生後期の配当科目の英語Ⅳでは「発展問題」 に授業時間を使って取り組むことにした。全学部のす べての共通英語科目の毎回の授業で 20 分から 30 分間 問題に取り組み,翌週には前週分の問題の小テストを 行う授業サイクルをガイドラインとして定めた。 問題項目はすべて英語科が独自に運用する Moodle (http://gengo2.umds.ac.jp/)に配置した。図 2 は,Moodle に配置された基礎問題である。Moodle には,入試過去 問題の他に,語学研修プログラムの動画,独自に開発 した動画文法教材,外部リンクを利用した単語学習問 題,および多読用の動画などが提供されている。これ らの教材は,インターネットに接続された端末であれ ば学外からも利用することができる。 問題項目への取り組みの成果は,各学年の前期およ び後期の最終授業(第 15 回目授業)でテストを行い測 ることになっている。2 年生の後期のテストは,到達度 テストの役割を果たす。到達度テストも入試過去問題 のアイテムバンクから作成されており,プレイスメン ト・テストと等化されている。つまり,必修英語科目 を履修する学生は,プレイスメント・テストの受験を 含め,2 年間を通して在学中に合計で 5 回のテストを受 験し,語彙・文法力定着の伸長チェックを受けること になる。すべてのテストは Moodle で行い,テスト結果 公益社団法人 私立大学情報教育協会 平成25年度 教育改革ICT戦略大会 図2. 基礎問題一覧 5.まとめ 入試制度の柔軟化に伴い,多様な英語力を持つ学生 が入学するようになった。一方,高等教育機関におけ る英語力の養成は急務の課題であり,各大学は対応を 迫られている。大学における英語教育は,一方で外部 環境の変化を視野に入れつつ,他方で内部環境の変化 にも目を向ける必要がある。従来のような担当者任せ の英語教育では,内外の環境変化には対応できない。 本実践では,学生の英語力の伸長を定期的に測定す る問題項目を整備し,プレイスメント・テストから, 到達度テストまで,必修英語教育 2 年間を一貫した英 語教育体制を構築した。この結果,これまで客観的な 指標で観察することができなかった学生全体の英語力 の分布状況を把握することができるようになった。ま た,この英語教育体制を構築することによって,入口 と出口の明確化と成長プロセスの構造化 1 を行い,より システム的な英語教育が可能になった。今後は,電子 化された問題項目と経年的に更新される確率モデルを 活用して,学生一人ひとりの英語力と学習進捗状況に 対応して学習を支援する適合型学習支援システムの開 発を取り組む予定である。 謝辞 本研究は JSPS 科研費 25870967 の助成を受けたもので す。 注 1. 鈴木克明 (2012) 大学における教育方法の改善・開発. 日本教育工学会論文誌, 36(3): 171–179