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バングラデシュ研修レポート
Nara Women's University Digital Information Repository Title バングラデシュ研修レポート Author(s) 春田, 美沙子 Citation バングラデシュ研修レポート: 1-6 Issue Date 2016-03-03 Description URL http://hdl.handle.net/10935/4183 Textversion publisher This document is downloaded at: 2017-03-31T06:30:56Z http://nwudir.lib.nara-w.ac.jp/dspace バングラデシュ研修(2015 年 9 月 7 日~15 日)レポート 人間文化研究科 生活文化学専攻 M1 春田美沙子 ―はじめに― 私は今回バングラデシュに行くにあたって、「口腔衛生」を調査のテーマにした。このテ ーマにした理由は、学部の卒業論文・修士論文ともに私は日本の近代の口腔衛生や審美歯 科をテーマにしており外国の口腔衛生にも興味があったからである。バングラデシュに行 くのは今回の研修が初めてで、バングラデシュのについて未知な部分が多く勝手なイメー ジではあるが、バングラデシュと聞くと衛生環境がそれほど整っていない印象があった。 そこで歯磨きや手洗い、うがいといった習慣はごく普通に根付いているのだろうかと疑問 に思った。 また、この研修に申し込む前にテレビ番組でバングラデシュの特集を目にした。路上で 行われている仕事が紹介され、その中に歯医者があった。その道端の歯医者は、虫歯をた だ抜くだけの施術、また取れてしまった差し歯に関しては簡易接着剤で装着するといった ものだった。そして、その映像の中にうつっていた現地の人々(道端歯医者の施術を受け ている人以外も)は歯の色がくすんで黄色、茶色であったり、歯が抜けている人が多いと いう印象を受けた。そういったことからバングラデシュの歯磨き習慣や、歯磨き教育また 歯科治療の現状について調べることにした。 ―調査報告― 調査はラジョール村を中心にして行った。個別家庭訪問・小学校の先生・タナホスピタ ルの歯科医にインタビューをした。 1)歯磨き習慣 まず歯磨きの道具としては、私たちが使っている物と全く変わらない歯ブラシ、歯ブラ シの替わりとして木、指、また歯磨き粉を使用しているようだ。村の中の小売店には歯ブ ラシや歯磨き粉が売られている。値段は歯ブラシが約 30~70Tk(1Tk=約 1.5 円) 、歯磨き 粉は約 100~300Tk とのことだった(個別訪問・68 歳男性談) 。 図① 26 歳女性の歯ブラシ(個別家庭訪問時に執筆者が撮影) 1 図② 8 歳女児の歯ブラシ(個別家庭訪問時に執筆者が撮影) 図③ 30 歳女性の歯ブラシ(個別家庭訪問時に執筆者が撮影) 図④ 45 歳女性の歯ブラシ(個別家庭訪問時に執筆者が撮影) 2 図⑤ 65 歳女性の歯ブラシ(個別家庭訪問時に執筆者が撮影) 歯みがき粉は毎日使わず、1 日置きに使用する家庭もあった。木のブラシは自分で作るの か、売り物なのかは不明である。村の小売店で売っているのは普通の歯ブラシだけで、木 のブラシが売っているのは見つけられなかった。 また歯ブラシや歯磨き粉はインドからの輸入品が多いそうだ。(個別訪問・30 歳女性談) 歯磨きを 1 日何回磨くのかと質問したところ、4 家庭が 2 回(食後) 、1 家庭 3 回(食後) ということだった。日本の厚生労働省の歯科疾患実態調査 1によれば、日本人は 1 日に 2 回 磨くのは約 48%、3 回磨くのは 25%である。歯磨きの回数は日本とさほど変わらないよう だった。 何か月おきに歯ブラシを変えるかと質問したところ 1 家庭 3、4 か月に 1 回、3 家庭 2 か 月に 1 回、1 家庭 1 か月に 1 回だった。この質問におい てはバラつきが少し見られた。図Ⅱを見ると、かなりブ ラシが開いた状態で使用していることが分かる。 図⑥ 学級内に貼ってあった衛生教育に関するポスター また家庭での歯磨き教育は、インタビューにいった家庭 ではしっかりされているようで 3 歳でも自分で磨かせるように(個別訪問・26 歳女性談) 、 7~8 歳になると親が言わなくても自ら歯を磨くようになった(個別訪問・35 歳女性談)と 答えていた。 学校での教育は、歯磨きについては“science”の授業で取り扱うようで、他には何回手を 洗ったか、安全飲み物、食べ物といった衛生にまつわる内容は同じように“science”の授業 で指導するようだ。授業時間は 1 週間に 1 時間程度とのことだった。 1平成 23 年歯科疾患実態調査(厚生労働省)http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/62-23-02.pdf 3 2)噛みタバコの習慣 バングラデシュには「パーン」といった噛みタバコの習慣がある。植物の実や木、石灰 などを葉(キンマ)にくるむ。それを口に含み噛んで、少したってから吐き出す。葉や石灰の 影響から、唾液が赤く染まり歯にも色素沈着を及ぼすものである。これはバングラデシュ だけでなくインド、パキスタン等でも好まれる。もちろんこの噛みタバコだけでなく煙草 も吸っている人も多く見られた。 図⑦ パーン 図⑧ パーン愛好者(65 歳女性) 図⑨ 市場でのパーンの販売 図⑩ 市場でのパーンの販売 村の人を見ている限りパーンを噛んでいる人は若年層よりも年配の人が多かった。図⑧ の女性は 1 日 3、4 回噛む。煙草は吸わないが、このパーンを愛用していると答えた。 図⑨、⑩はラジョール村の市場で売られていた。そこまで1分あれば市場の端から端ま で行き来することができる小さな市場だったが、その市場の中でもパーンを売っている店 は 4 つあった。それほどこのパーンの需要があるということだろうか。葉は 72 枚で 10Tk と現地の人でも比較的入手しやすい値段であった。 また個別家庭訪問の際に、 「煙草や噛みタバコは歯に悪いダメージを与えるのか?」 と 質問すると「良い草を使っているので問題ない。」 (30 歳女性)と答えたが、実際は口腔ガ ンの影響を及ぼす可能性があると考えられている。煙草や噛みタバコについての正しい情 4 報や知識については詳しくないという印象を抱いた。 3)バングラデシュの歯医者 今回、ラジョール村のタナホスピタルに勤務している歯医者 Dr. Ashraful にインタビュー することが出来た。彼は元々はダッカ市内にいたが、この村の口腔衛生の状況が悪いとい うことと、この村には歯科医がいないということでラジョール村にやってきたそうだ。 歯科にやってくる患者は大体 1 日 15 人~20 人で、患者の症状は虫歯、知覚過敏、歯周病 といったものが多いとのことだった。矯正の施術はしておらず、理由を聞くと道具がない、 施術を希望する者がいないと言っていた。 また村の人たちはこの村に 3 人の歯医者がいると口を揃えて言っていたが、歯科医とし ての資格を持っているのは Dr. Ashraful のみで、他の人たちは免許なしで施術をしていると 教えてくれた。バングラデシュには約 8,000 人の歯医者がいるそうだが、実際歯科免許を持 ち医師登録しているのが 5,076 人で、約 3,000 人は免許を持たずに施術をしているそうだ。 私が特に気になっていたパーンの習慣についても伺った。若い人はタバコ愛好者が大体 50%、年配の人はパーン愛好者が大体 50~60%。パーンはやはり歯に相当ダメージを与え るようで、年齢があがるにつれパーンの影響で、虫歯や歯茎の痛みで苦しんでいる人は多 いそうだ。 痛みだけでなく、歯の色が変わってしまう恐れについて人々は考えているのかと質問す ると、ほとんどの人が歯の色を気にしておらず女性に関しては 20~25 歳で結婚したあと女 性同士のコミュニティ間結びつきが強くなり、パーンを勧められたりすることで好む人が 増えるとのことだった。矯正に関しても歯並びについてコンプレックスを持っていないの で施術を希望する者がいないと Dr. Ashraful は述べていた。 ―まとめと課題― 朝の時間に村を歩くと歯ブラシを持っている男性や、家の外で歯を磨く子どもたちの姿 も見られ歯磨きの習慣はかなり一般的に行われているとは思われるが、それは虫歯になら ない為、歯の病気にならないためであり、歯を白く保つためという審美的な意味は含まれ ていないと感じた。しかし、噛みタバコの影響によって歯の健康状態が悪化するというこ とはあまり考えられておらず矛盾が生じていると思われた。また高齢であると、指や木で 歯を磨くことが多く日頃のケアが不十分なことが多いことも見受けられた。 今後、高齢者の歯磨き習慣の定着と噛みタバコによるダメージがあるということを認識 させる必要があるのではないかと思う。また、歯の色に対する意識も今後どのように変わ っていくのかも気になる点である。 5 図⑪ 家の外で歯を磨く子どもたち 図⑫ 歯ブラシを持って歩く男性 ―研修全体を通して― バングラデシュといえば、人がとにかく多いというイメージを持っていた。まずダッカ 空港から一歩出ると、柵にたくさんの人が群がっているのがとても印象的だった。市内を 車で移動する際も、たくさんの車、またバスの中にもまさに人が“押し込まれている”よ うな状態だった。バスの上にも人が乗っていてとても衝撃を受けた。 村では、ダッカ市内ほど人が多いという印象は受けなかった。しかし、私たち外国人が 大変珍しいのか、少し道を歩くだけでも老若男女問わず多くの人がどこからか集まってく る。村は、人が多いというより人がたくさん湧いてくるという表現が正しいかもしれない。 バングラデシュの『地球の歩き方』の表紙や、掲載されている写真、またテレビで流れ るバングラデシュはどれも「人の群れ」が写っている。私たちはそういった情報から、人 が多いというイメージが定着していた。 GUP のある男性が『地球の歩き方』を見て「なぜこのような絵や写真が使われているの か?」と質問を投げかけてきた。 「私たち日本人はバングラデシュにたくさん人がいるとい うイメージを持っている」と答えるしかなかったが、彼はその返答に納得してないようだ った。外国の人が抱いているイメージと自国の人が抱いてるイメージでこんなにも違いを 目の当たりにしたのは初めてだった。例えば日本ならサムライ、アニメといったイメージ を外国から持たれているしそれを日本人も認識しており、韓国人と話し合うと、韓国なら 唐辛子を使った辛い食べ物、韓国アイドルといった共通の認識で会話が出来る。今回バン グラデシュの人と、 “国のイメージ”という共通の会話は出来なかった。 このことから今後バングラデシュのイメージがどのように世界へ広まっていくのか、ま たそのイメージをバングラデシュの人々が受け入れるのかということに興味を持った。今 回の研修で、私は個人的に現地の人が紹介してくれたバングラデシュの自然に心地よさを とても感じた。こういったイメージが広がることを期待したいと思う。 また私たちはメディアに強く植え付けられているイメージのだということを強く感じ、 実際に自分の目で確認し、肌で感じることはとても重要なことだと再認識した。 6