...

イラン国テヘラン製油所での加熱炉省エネルギーの取り組み

by user

on
Category: Documents
17

views

Report

Comments

Transcript

イラン国テヘラン製油所での加熱炉省エネルギーの取り組み
イラン国テヘラン製油所での加熱炉省エネルギーの取り組み
高橋 秀人(出光エンジニアリング(株)
)
要旨
イランは国際的に複雑な状況を抱えた国であるが,重要な産油国として出光は一貫して友好な
関係を継続してきた。その関係は技術面にも及び,テヘラン製油所とは省エネルギーの取組みを
介した協力を実施している。加熱炉排ガスO2 制御システムは,出光の製油所では数十年前に構築
した古い技術であるが,テヘラン製油所では未実施で大きな省エネルギーメリットをもたらすも
のであり,モデル的に一つの加熱炉に導入するプロジェクトを実行して技術移転を図っている。
1
はじめに
イランは世界有数の産油国であり,また合計 150
2
テヘラン製油所概要
2.1 テヘラン製油所の装置構成
万バーレル/日の原油処理能力を持つ9つの製油所
テヘラン製油所は,イランの首都テヘランにある
を有している。
しかしその大半が 1979 年のイラン革
製油所で,1968 年に南製油所(第一系列)
,1974 年
命以前に建設された製油所であり,
その後約 10 年に
に北製油所(第二系列)が,アメリカU.O.P.
わたるイラン・イラク戦争による混乱,アメリカと
社の設計により建設された。イランの9製油所の位
の国交断絶による国際的孤立により,
省エネルギー,
置を図1に,テヘラン製油所の主要な装置構成と能
白油増産,環境対策等の近代化が立ち遅れていた。
力を表1に示す。
しかし最近ではイランを取り巻く国際情勢が変化を
見せており,またイランの所有する原油や天然ガス
▲製油所位置
処理能力(千BPSD)
を巡って各国・各社が様々な思惑でアプローチし,
製油所関連のプロジェクトも活性化してきている。
▲タブリーズ
118
そうした中,
出光は 1953 年の日章丸によるイラン
石油輸入以来イランとは良好な関係を築き,技術面
▲テヘラン
ケルマンシャー 235
▲35
▲アラク
150
▲イスファハン
280
アバダン
▲400
においても様々な協力をしてきた。
テヘラン製油所においても,1999 年に出光興産が
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
から「テヘラン製油所に関する省エネルギー調査」
イラン
▲シラーズ
40
バンダルアバス
▲232
▲ラバン島
30
を受託し,その後は出光エンジニアリングが(財)
国際石油交流センター(JCCP)産油国石油産業
等産業基盤整備事業の中で技術協力を継続している。
今回は,その中で実施してきた加熱炉省エネルギー
の取組みについて報告する。
図1
イランの製油所位置図
表1 テヘラン製油所の主要装置能力
(単位:BPSD)
常圧蒸留装置
減圧蒸留装置
ビスブレーカ装置
ナフサ水素化脱硫装置
ナフサ接触改質装置
減圧軽油水素化分解装置
灯軽油脱硫装置
アスファルト装置
プロパン脱歴装置
潤滑油製造装置
硫黄回収装置
水素製造装置
ボイラー設備
南製油所(第一系列)
1968 年完成
80,000 → 125,000
40,000 → 60,000
19,000 → 21,000
10,440 → 16,830
10,440 → 16,830
15,000 → 20,000
なし
1,675
3,700
21,000
なし
32 MMSCF/D
320 MLB/H × 4unit
北製油所(第二系列)
1974 年完成
100,000 → 110,000
43,900 → 64,000
19,000
16,000
14,500
15,000
13,500
8,000
なし
なし
140 T/D
33MMSCF/D
320 MLB/H × 4unit
注:矢印(→)は,その後の改造による能力増強を示す。
2.2 テヘラン製油所における省エネルギーの位
置付け
テヘラン製油所が建設された時代の燃料コストは,
3.2 省エネルギープロジェクト実行の技術移転
1999 年度のNEDOスタディの結果,各装置の省
エネルギーポテンシャルが大きいことはテヘラン製
建設コストと比べて無視できる程安価であったと見
油所側も理解したが,プロジェクトを実行するため
えて,建設コスト削減が最優先で熱回収等の設備は
の経験に乏しく,技術移転を強く要望された。そこ
あまり導入されなかった。昨今は原油高から燃料コ
でNEDOスタディ時にも出光興産に協力してきた
ストも上昇してきており,省エネルギーの実施は利
出光エンジニアリングが,JCCPの産油国石油産
益を産む構造になってきている。また地球温暖化防
業等産業基盤整備事業スキームを活用した省エネル
止の観点からも,温室効果ガスである二酸化炭素を
ギーの技術移転を提案し,実施することとなった。
削減する省エネルギーの必要性は高まっている。
省エネルギーの技術移転項目としてはテヘラン製
テヘラン製油所では 2003 年に作成したマスター
油所と調整の結果,燃料消費量の大きい1つの加熱
プランの中で,省エネルギーも将来計画の項目の一
炉を選定し,加熱炉排ガスO2 制御システムをモデル
つとして取り上げられており,今後の実行が期待さ
的に構築することにした。このシステム構築を選定
れている。
した理由は,以下の通りである。
(1) 比較的投資採算性が良く,省エネルギー対策と
3
テヘラン製油所への出光の技術協力
3.1 1999 年度の NEDO 省エネルギースタディ
1999 年に出光興産がNEDOから受託した「テヘ
して最初に取組むべき項目として適している。
(2) 過去,出光の製油所では,DCS(分散型制御
システム)導入前でも実施してきた経験があり,
ラン製油所に関する省エネルギー調査」では,各装
DCSがないテヘラン製油所の現状でも構築
置の主要なプロセス加熱炉とボイラー設備を対象に
が可能なシステムである。
運転状況を調査し,各装置の改造等による省エネル
(3) 1つの装置で実施方法を習得すれば、次回以降
ギーのポテンシャルをスタディした。また改造等の
はテヘラン製油所自身で他装置への横展開が
プロジェクトを実行する際の技術,資金等の課題に
可能であり、技術移転対象として相応しい。
ついても検討した。
3.3 加熱炉排ガス O2 制御システムの構築
(5) アクチュエータ
3.3.1 モデル加熱炉の選定
① ダンパ開度調節用として信頼性の高いGO
排ガス中の酸素濃度制御システムを構築するモデ
モータ(エアモータ)を使用
ル加熱炉は,北製油所(第二系列)常圧蒸留装置の
② ダンパ直近にアクチュエータを設置する適
原料加熱炉とする。
当な場所がないので,既設のワイヤを活用し
(1) 対象加熱炉仕様
てダンパと繋げ,アクチュエータは地上の既
① 名称
常圧蒸留装置 原料加熱炉
設ウインチと置き換えて設置
(Crude Charge Heater)
② 形式
③ GOモータの動きは往復動だが,既設ウイン
箱型(放射部は2ボックス,
チと置き換えるためには回転運動とする必
対流部は1ボックスから成る)
要があり,往復動を回転運動に換えるスプロ
③ 燃焼方式
垂直燃焼
ケットホイールを追加(図4参照)
④ 通風方式
自然通風(煙突は単独)
⑤ 加熱管配列 水平管
⑥ 能力
237 GJ/h(燃焼熱量)
⑦ 製作会社
フォスターウィラ社
既設ダンパ
新設部分
アクチュエータ
コントローラ
酸素分析計
ドラフト圧力計
(2) 加熱炉まわりの現状システム
① 燃料油と燃料ガス(製油所オフガス及び天然
ガス)の混焼
② バーナ元の圧力で燃料油を供給
TIC
原油
③ 原油の出口温度を燃料ガス量で制御
④ 排ガス煙道にオンライン酸素分析計は付い
PIC
ていない(担当のエンジニアが週に1回程度,
手動にて測定)
燃料油
⑤ 炉内圧力は,数箇所のポイントを切り替えら
れるマニホールドを通して現場で測定でき
るようになっていたが,メンテナンスが悪く,
現在は使用していない
FIC
燃料ガス
(天然ガスも使用)
図2 制御システム図
⑥ 排ガス煙道中にあるダンパは,ワイヤで地上
のウインチと繋がっており,手動で開度調整
が可能
パソコン
(データ解析)
3.3.2 新制御システムの構築と供給機器類
今回新たに構築した制御システムを,
図2に示す。
また供給した機器類は,以下の通りである。
(1) 酸素分析計
既存システム
(原油流量計、
燃料ガス流量計等)
データ収集システム
フロッピー
デスク
データメモリー付
記録計
(2) ドラフト圧力計
変換器
(3) 記録計
現場計器
今回設置する機器類以外にも,対象加熱炉の省
エネルギー管理のために重要と考える既設データ
(原油量,燃料ガス量他)も取り込み(図3参照)
(4) コントローラ
図3
既設データの記録計への取り込み
3.3.4 結果
システム構築前には排ガス中の酸素濃度は 5~6%
ダンパ
で推移していたのに対し,ダンパ開度の調整により
排ガス中の酸素濃度は3%程度まで低下することが
確認された。排ガス中の酸素濃度を3%まで余剰空
ワイヤ
気量を削減すれば,燃焼熱量として約5GJ/h,燃料
アクチュエータ
(GOモータ)
ガス削減メリットとして年間約 80 千ドル
(燃料ガス
単価は熱量当たりの天然ガス単価を使用)の省エネ
ルギーが可能である。
3.4 今後の予定
(1) 現段階では計器類の設置と記録,ダンパ開度調
整による排ガス中の酸素濃度低下については
スプロケット
ホイール
確認したが,制御オンラインは未実施である。
ダンパ開度と排ガス中の酸素濃度及びドラフ
ト圧力の関係を把握した上で,制御オンライン
図4
の実施と,必要であれば空気洩れ込み等の改善
アクチュエータ設置図
を図っていく。
3.3.3 設置工事
(2) 加熱炉排ガスO2 制御システム構築による一連
設置工事については,出光エンジニアリングから
の省エネルギープロジェクト実行(計画~設計
提示した仕様に応じて,テヘラン製油所側の所掌で
~工事)に関し,次回からはテヘラン製油所が
実施された。供給機器設置の様子を図5に示す。
主体となり実施できるよう,ワークショップ等
を通して技術移転していく。
(3) 出光エンジニアリングとしても,今回は実際に
海外で省エネルギープロジェクトを実行した
ものとして貴重であり,建設コストと燃料消費
量削減によるメリットを把握する。また,省エ
ネルギーのLCA(ライフサイクルアセスメン
ト)評価を実施し,将来的なCDM(クリーン
開発メカニズム)事業としての可能性について
確認する。
4
おわりに
今回構築した加熱炉排ガスO2 制御システムは,出
光の製油所ではもう数十年前に実施した古い技術で
図5
供給機器設置の様子
ある。こうした技術も,国によっては広めていく余
地があることが判った。
出光エンジニアリングによるテヘラン製油所への
技術協力は,
省エネルギー以外にも 2003 年からは地
下水汚染対策も新たな内容として加え,広がりを見
せている。
こうした産油国に対する技術協力は,出光が石油
業を中心としたグループ経営を継続していくために
必要不可欠であり,それを今後もエンジニアリング
技術の面から貢献していきたい。
最後に,本件は経済産業省の補助金を受けて(財)
国際石油交流センターの参加型事業として実施され
ているものであり,関係の方々にこの場を借りて謝
意を表したい。
参考文献
1)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NED
O) 共同実施等推進基礎調査「テヘラン製油
所に関する省エネルギー調査」
(2000)
2)(財)国際石油交流センター(JCCP) 産
油国石油産業等産業基盤整備事業「イラン・テ
ヘラン製油所の排ガスおよび用水対策に関す
る調査」
(2004)
Fly UP