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OECD政策フォーカス OECD政策フォーカス
O E C D 政策フォーカス
No. 25‐2001年 3 月
贈賄・汚職との闘い
The Fight against Bribery and Corruption
はじめに
1989年以来、OECDは国際的な贈賄・汚職との闘いで主導的な役割を果たしてきました。この闘い
は1999年の「国際商取引における外国公務員に対する贈賄の防止に関する条約」の発効でさらに弾み
がつきました。
この条約は、一定の条件を満たすすべての国に参加が認められています。その条件は、まず手続き
に従ってOECDの「国際商取引における贈賄に関する作業部会」の完全な参加国になること、そして条
約の規定を遵守する意思と能力があることです。現在、OECDの全加盟国30カ国と4の非加盟国(アル
ゼンチン、ブラジル、ブルガリア、チリ)が条約に署名しています。2000年10月末時点ではこのうち
の26カ国がすでに批准手続きを終えています(各国の批准日はwww.oecd.org/daf/nocorruptionを参照)。
条約はそもそも、「国際商取引における贈賄に関する作業部会」が様々な規定(1994年勧告、1996
年勧告、1997年勧告)をまとめたことに始まった野心的な活動で、ついには条約発効にまで至りまし
た。こうした規定の大きな目的は、国際的な商取引での贈賄を防ぐことにあり、各国に対して外国公
務員への贈賄を犯罪と定め、適切な処罰規定を設けたり、違反を発見し取り締まる有効な手段を確保
するよう義務付けています。またこの規定には、刑事処罰とは別に汚職を予防するための規定や、各
国の情報開示と相互協力についても盛り込まれています。さらには、賄賂を税控除の対象に認めない
ことも義務付けています。
贈賄との闘いに対してOECDは多面的なアプローチを取っています。というのも賄賂の供給サイド
(贈り手)と需要サイド(受け手)の両方と戦うには、それぞれ別々の手法が必要だからです。OECDは、
賄賂の供給を減らすには外国公務員への贈賄を犯罪と定めるだけでは足りないと考えています。企業
自体が一定の役割を果たすとともに、贈賄を温存させている企業文化の変革に向けて社内でこの問題
に取り組むことが必要です。企業にこの道筋を示すため、OECDは「1976年多国籍企業ガイドライン」
を改定し、賄賂の提供(並びに賄賂の要求)を防ぐために企業が取るべき方策について新たに1章を
設けました。さらには、財務情報などの公開や透明性の改善に関する「OECDコーポレート・ガバナン
ス原則」の条項でも、贈賄を防ぐための枠組みを示しています。
OECDは、賄賂を要求する側についても取り組みを行っています。例えば、「公務員の行動倫理の向
上に関する1998年OECD理事会勧告」では、加盟国に対し、公務員に倫理にかなった行動を促す制度
やシステムを確立するよう求めています。最近ではOECDの行政管理委員会(PUMA)がOECD閣僚理事会
に対し、この勧告の実施についての報告書を提出しており、その中では公務員の違反行為を発見、調
査、告訴し、処罰する手法にも触れています。また、OECDとEUの合同の取り組みで主にEUが資金を
提供している「ガバナンスと管理の改善支援(SIGMA)」では、中東欧諸国に対し、いかに公共部門の
責任能力や効率性、管理、透明性を向上させるかについて助言を行っています。さらに、「国際商取引
における贈賄に関する作業部会」では、賄賂を要求する側の問題を議題に取り込んでいく方法も検討
しており、すでに民間部門とこのための会合を何回か開いています。
さらに、「資金洗浄に関する金融活動タスクフォース」には、大部分のOECD加盟国および主要金融
センターとなっている非加盟国が参加しています。この作業部会も、贈収賄や汚職から得られる資金
の洗浄の問題を取り上げ、贈収賄の需給両サイドの問題に取り組んでいます。
OECD加盟国が自国の力だけで汚職を効率的に取り締まることは不可能です。そこでOECDでは、非
加盟国協力センター(CCNM)を通じて、非加盟国が贈賄や汚職と闘えるよう、賄賂の需給両サイドへ
の施策を働きかけています。特に途上国については、OECDの開発援助委員会(DAC)とOECD開発セ
ンターが汚職防止にの取り組みを行っています。
©OECD
OECD 政策フォーカス No.25
なぜ汚職と闘うのか?
ほぼ毎日のように世界中で汚職事件が報じ
られており、腐敗の根深さ、広がりをうかが
わせるスキャンダルには事欠かない。欧米に
おける政党への隠れた資金提供、多くの国で
の大型輸出案件をめぐる政府高官への贈賄、
アルゼンチンにおける健康保険基金の枯渇、
中国における高級官僚への死刑判決、ロシア
における国家資産の横領、そして途上国や移
行経済諸国に特有の金銭面での公私混同と、
枚挙にいとまがない。
こうしたスキャンダルや、東南アジアの金
融危機における汚職の役割が明るみに出たこ
とで、汚職がもたらす社会的、政治的、経済
的なコストにも関心が高まっている。いかな
る国もこうした腐敗のコストには耐えられな
いからである。汚職は政治に対する国民の信
頼を低下させ、法の軽視を招く。また資金分
配を歪め、政府調達コストを押し上げ、市場
の競争原理を損ねる。その国の投資や経済成
長、開発にも重い打撃を与え、さらには汚職
の結果、生活上欠かせない基本サービスが貧
困層の手には届かなくなり、この層に法外な
重荷を課すことになる。こうした壊滅的な打
撃が耐えられないほどにのしかかってくるの
につれ、市民や金融市場からも汚職に対する
国際的な戦いを求める圧力が高まってきてい
る。
贈賄とは何か?
贈賄防止条約の定義によると、贈賄は公務
員の職務遂行に影響を与える目的で、物品な
どを申し出たり、約束したり、贈ったりする
ことである。賄賂の形態は、金や、排他的ク
ラブの会員権や子供への学資提供の約束とい
ったそれ以外の金銭的優遇、あるいは好意的
な宣伝といった金銭とは異なるものがある。
社員の贈賄に関する企業側の倫理規範でも似
たような定義が使われている(6ページ参照)。
贈賄には必ず供給サイド(贈賄者)と需要サ
イド(公務員)がいるが、これは必ずしも単
純な二者取引ではない。贈賄の仲介者がいる
場合もあれば、実際の賄賂の受益者は別にい
て、公務員は賄賂を運ぶだけという場合もあ
る。通常は、民間人や民間企業が供給サイド
として賄賂を贈る立場になるが、皮肉なこと
には公務員も受け手として民間部門に賄賂を
働きかけることがある。最近では国際オリン
ピック委員会(IOC)委員、政府代表のスキ
ャンダルの例がある。
汚職との闘いにおけるOECD非加盟国との協力
OECD加盟諸国だけで汚職を効率的に取り締
まることはできない。OECD諸国は、汚職防止
戦略を成功させるには、非加盟国を含めた数多
くの広範な参加者が協調して行動することが必
要であると認識している。
OECDは非加盟国協力センター(CCNM)を通し
て、非加盟国が関係する幾つかの汚職防止イニ
シアチブを支援している。こうしたイニシアチ
ブは多くの場合、OECD加盟国に加えて、欧州
連合、世界銀行、米州機構、アジア開発銀行と
いった国際機関および地域機関との協力で実施
されている。
グローバルな取り組み
中東欧、旧ソ連地域
公的機関が組織的に脆弱で未発達であること
から、汚職やその他の倫理に反する行為が蔓延
する環境になっている。このためOECDは移行
◆2
経済諸国の政府機関を強化するための数多くの
イニシアティブを策定した。
「ガバナンスと管理の改善支援(SIGMA)」プロ
グラムは、1992年以降、中・東欧の移行経済諸
国を対象に、各国政府の中核的管理制度の改革
について助言してきた。現在、13カ国に対し、
行政事務や予算運営、財政管理、外部監査とい
った部門の行政の近代化について助言を行って
いる。
SIGMAプログラムでは、これらの諸国に対し、
公務員規則を定めたり、公務遂行における高い
倫理基準を設けたりするための法案作りや手続
きの作成を支援している。また、政府が効率的
に予算を計画したり、許認可手続きを進めたり、
会計監査や財政管理、資金管理、情報管理に必
要な構造やプロセスを確立することについても
支援を行っている。さらに、最高監査機関(SAI)
OECD 政策フォーカス No.25
が政府の説明責任に重要な役割を占めることか
ら、SAIの強化についても助言を行っている。
また、近代的な調達システムを構築したり、公
共部門が財とサービスの購入にあたって透明性
や説明責任を確保できるように促す法律を作っ
たりするための助言も行っている。
同地域に対するこの他のOECDのイニシアテ
ィブは次の通り。
アジア太平洋地域
OECDとアジア開発銀行は1999年、「アジア
太平洋地域における汚職防止フォーラム」を発
足させた。フォーラムは今年で2年目を迎え、ア
ジア太平洋地域で汚職と闘っている諸国がそれ
ぞれの経験を報告し合ったり、制度改革につい
て議論する場を提供している。また中国やアジ
アの新興経済国・地域を対象にしたCCNMのプ
ログラムには行政管理部(PUMA)も参加して
いる。さらに、OECD開発センターの研究では、
パキスタンとフィリピンでの汚職防止イニシア
ティブが重視されている。
移行経済諸国のための汚職防止ネットワーク
(ACN):OECDの複数の部局が共同で関わっ
ている取り組みで、移行経済諸国の政府や、
企業、市民団体が参加し、企業取引における
中南米地域
健全性や、政府内の透明性、倫理規範の発達
OECDは1998年9月、米州機構、アルゼンチ
を促すための改革を進めている。米国際開発
ン政府と共同で「国際的な商取引における贈賄
庁(USAID)などの援助機関とも協力してい
防止に関するワークショップ」を開催した。ワ
る。
ークショップでは、汚職防止をめぐるOECDや
■ 行政管理部(PUMA):政府が予算作りや財政管
その他のイニシアチブを中南米諸国に説明し、
理の過程で汚職を発見したり、政府内の倫理 「米州汚職防止条約」の批准と実施を呼びかけた。
を奨励したりするのを支援している。
また、アルゼンチン、ブラジル、チリは「贈賄
■ 環境行動計画(EAP)実施のための作業部会:
防止条約」の調印国で、中南米地域での汚職と
欧州連合の支援によるイニシアティブ。旧ソ
の闘いを主導している。
連新興独立国(NIS)での環境規制の遵守や
取り締まりに関するネットワークとして最近
開発途上国
設立されたEAPは、環境規制の適用に関係し
OECD開発援助委員会(DAC)の汚職防止への
た汚職の問題も取り上げる予定。
取り組みは、基本的には健全なカバナンスを奨
励し、援助の効率化を目指した広範な活動の一
南東欧の汚職防止イニシアティブ
環になっている。汚職の蔓延は国家やその機関
OECD、欧州会議、欧州委員会、南東欧安定
の信頼と権威を損ね、限られた財源が誤った使
化協定特別調整官事務所、世界銀行、米国は、 途に使われるために援助の価値も低下するから
2000年2月にサラエボでの会合で採択された安
である。DACが関係するより具体的なケースと
定化協定に基づき、「南東欧汚職防止イニシアテ
しては、「1996年勧告」に基づく援助調達(な
ィブ」を発足させることで合意した。このイニシ
らびに政府調達全般)での汚職防止がある。同
アティブでは、汚職への対策として、既存の国
勧告は、汚職を100%認めないという強い政治的
際的な制度に基づいて有効な措置を取ることや、 メッセージを発している。
健全なガバナンスを奨励すること、法制度を強
OECD開発センターは1996年以来、開発途上
化して法原則の順守を奨励すること、商取引で
国における汚職に関する政策の研究を行ってい
の透明性や行動倫理を促すこと、市民の社会活
る。研究の目的は、途上国やその機関に対して
動を奨励することを呼びかけている。イニシア
汚職との戦いに関する政策を提案すること、な
ティブの全体的な運営や行動計画の実施につい
らびにOECD加盟国に対して途上国での汚職の
ては、OECDが欧州会議とともに主導的役割を
因果関係を説明することである。現在、様々な
果たしている。OECDが「汚職防止リング・オン
国の状況について分析しており、その中にはセ
ライン」の一部として運営する地域ウェブサイト
ネガルやマリでの税関の汚職やボリビア、モロ
(www.oecd.org/dag/stabilitypact/nocorrupti
ッコ、ベニン、パキスタン、フィリピンでの汚
on)でも、こうしたイニシアティブの実施と監視
職防止プログラムも含まれる。この研究では汚
を支援している。
職と闘う上で民間部門が果たす役割についても
着目している。
■
3◆
OECD 政策フォーカス No.25
指す。公的機関、公営企業を含め、その国
の公的機能を担う人間も「外国公務員」と
する。また公的国際機関の職員とその事務
受託者も含む。
OECDはどのように贈賄防止条約
を実施するのか?
贈賄防止条約は現在のところ、外国公務員
への贈賄行為に対抗するための主要な手段と
なっている。条約の署名国は、作業部会への
参加に加えて、「贈収賄防止に関する1997年
理事会改定勧告」と1996年4月11日に採択さ
れた「外国公務員への賄賂の課税控除に関す
る勧告」に従うことも求められている。この
条約は、締約国に対し、外国公務員への贈賄
に対する刑法規定を国内法に設けること、そ
して違反企業(条約では「法人」と表現)に
は法的責任を課す規定を設けることを義務付
けている。また条約の別の条項では、締約国
に対して関連法の適用と実施を求め、条約の
遵守義務を一段と強化している。(条約の目的
は各国が足並みを揃えて外国公務員への贈賄
を防ぐことであるが、締約国がそれぞれの法
律制度に合わせて条約を実行するという点で
は柔軟に対応している。)
条約の締約国は、次の方針に基づいて外国
公務員への贈賄を犯罪とすることで合意して
いる。
■
すべての人に適用。
■
賄賂の申し出、約束、提供に適用。これらの
行為はいずれも、仲介者の有無を問わず、
また当該の公務員の利益になるか第三者の
利益になるかを問わず、犯罪と認定。
■
賄賂の形態を問わず適用。有形無形、金銭的
か否かを問わず、優遇措置を申し出ること
は禁止。
■
「国際商取引において商取引又は他の不当な
利益」を獲得したり保持したりするために
贈賄することを禁止。その適用範囲は政府
調達契約に限らず、税務、税関、司法、立
法の手続きに関係した許認可や優遇措置を
獲得した場合も含む。贈賄の当事者が最適
な入札者であったり、賄賂なしでも適正に
落札できたとしても、違反とみなす。さら
には、「贈賄で得た優遇措置の価値や結果、
地元の慣習、贈賄に対する地元政府の許容
度、必要に迫られた支払いだったと主張で
きるか否か」にかかわらず、違反とみなす。
■
「外国公務員」は、任命か選出かを問わず、
外国で立法、行政、司法の職務にある者を
◆4
また条約の締約国は次の義務を果たさなけ
ればならない。
■
締約国は、外国公務員への贈賄行為に対して、
有効で累進的かつ抑止力のある刑事罰を設け
る。調印国の法律制度が法人に刑事責任を適
用しない場合には、同行為に対して有効で累
進的かつ抑止力のある民事罰を設ける。
■
締約国は、外国公務員への贈賄行為がたとえ
一部でも自国領内で起きた場合には、国内
法を適用できるようにする。海外での違法
行為に関わった自国民を国内法で告訴でき
る法律制度がある場合には、外国公務員へ
の贈賄も同じ原則に従って告訴できるよう
にする。
■
締約国の国内法に、国内の汚職に絡んだ賄賂
や不当利益の資金洗浄を禁じる規定がある
場合には、この規定を外国公務員への贈賄
にも適用する。
■
締約国は、外国での贈賄を隠蔽できるような
会計上、監査上の慣行を禁止する。
■
締約国は、他の調印国から外国公務員への贈
賄を調査、摘発するための支援要請を受けた
場合には、迅速かつ有効な法的支援を提供す
る。また外国公務員への贈賄事件での容疑者
引き渡しに関しても、調印国の国内法および
犯罪者引き渡し協定の対象に含める。
さらに、「1997年勧告」を遵守するために、
締約国は国際的な贈賄を抑制、防止したり、
そうした贈賄行為と闘うために、次の措置を
取ることを約束しなければならない。
■
企業に対し、適切な内部管理体制の導入を奨
励する。この中には行動規範の策定や現場
レベルにまで及ぶ管理体制作りを含む。ま
た政府調達では、外国公務員への贈賄に関
与した企業は、将来の公共入札で参加資格
を停止する。
■
二国間援助での調達にも汚職防止条項を入れ
る。また、国際開発機関で汚職防止条項を
適切に実施することを奨励し、あらゆる開
OECD 政策フォーカス No.25
発協力案件で相手国と協力して汚職防止に
努める。
実施状況をどう監視するか?
「贈賄防止条約」と「1997年勧告」には、
それが完全に実施されているかを監視したり、
奨励したりするためのシステム化された追跡
審査制度(フォローアップ)がある。実際には、
2段階からなる厳しいピア・レビュー(相互査
定)が実施される。第一段階にあたるフェー
ズ1は1999年4月に始まっている。ここでは
各締約国について、条約の規定に該当する国
内法や判例を調べ、それらが条約の定める義
務に従っているかどうか判断を下す。フェー
ズ2では実際の法律の運用状況が焦点となる。
フェーズ1のレビューに備えて、締約国は
それぞれ条約の遵守状況を評価するための質
問書に回答しなければならない。その後、こ
の回答書ならびにレビューを担当する2カ国と
OECD事務局のコメントに基づいて、暫定的
な報告書が作成される。
暫定報告書が作業部会に回ると、2回の協議
が実施される。この目的は、当該国の法律制
度や条約の実施方法が他の参加各国にもよく
理解できるようにすること、そして具体的な
疑問点について質問する機会を作業部会に与
えることである。その後、作業部会は評価報
告書を採択してフェーズ1を終えるが、同報
告書では具体的な問題点が指摘され、そうし
た問題点はフェーズ2でさらなるレビューが必
要となる。また報告書で是正措置が勧告され
る場合もある。最終的なレビューと評価は、
「条約」および「1997年勧告」の実施状況に
関するリポートにまとめられる。
1999年4月から2000年6月までの間に、条
約批准国のうちの21カ国が作業部会によるフ
ェーズ1のレビューを受けた。条約の遵守状
況は総じて良好だったものの、作業部会は幾
つかの国については一部の遵守状況について
不十分と判断した。また大半の国についても、
程度の差はあれ特定の問題点を指摘した。作
業部会は、法律上の抜け穴や矛盾点になりか
ねない部分や、条約が定める水準に達しない
とみられる条項については、具体的に是正措
置を勧告した。こうした諸国に関する結果報
告は、www.oecd.org/daf/nocorruption/
report.htmで入手できる。
賄賂の課税控除については?
最近まで、外国公務員への贈賄は、多くの
OECD加盟国で商取引上の通常コストとして
容認されていた。外国と取引する企業は、相
手に気に入られて契約してもらうには賄賂を
支払う必要があったと主張することが多く、
これまではこうした賄賂については収入を得
るための経費として課税控除の対象に認め、
贈賄の慣行を大目に見てやる政府もあった。
OECDの租税委員会(CFA)では、外国公
務員への賄賂を課税控除の対象に認めないこ
とによって、贈賄をある程度抑制できると考
えられている。特に贈賄の犯罪化と組み合わ
せることで、効果は大きくなると見られてい
る。また、賄賂を課税控除から外すことは、
企業に対して贈賄がもはや許容されない商慣
行であるとの強いメッセージを送ることにな
るし、また汚職防止に対する国際的なコミッ
トメントにとっても政治的によく目立つシン
ボルになると考えられる。こうした理由から、
OECDは1996年、「外国公務員への賄賂の課
税控除に関する勧告」を採択し、さらに
「1997年勧告」でその迅速な実施を求めた。
「1996年勧告」に合意して以降、それまで
外国公務員への賄賂を課税控除の対象に認め
ていたOECD加盟国の大半が、法改正して賄
賂を控除の対象から除外した。現在も数カ国
が議会で改正法案を審議している。ただ、「条
約」の場合と同様、こうした改正後の法律が
うまく働くかどうかは、有効な取り締まりが
できるかどうか、また法律の具体的な条項が
どうなっているかに左右される。「外国公務員
への賄賂を発見するためのOECD監査指針」
では、こうした取り締まりの問題を取り上げ
る予定で、現在その準備を進めている。この
「指針」は、例えば、通常の納入業者とは異な
る人物に繰り返し支払いが行われている場合
には詳細な調査が必要であるなど、疑わしい
支払いを発見する手引きを税務監査官や会計
士向けに提供するものである。また、賄賂を
課税控除の対象から除外するという条項に関
しては、賄賂の定義を狭めすぎないことが重
要である。外国公務員への賄賂を控除の対象
外と明文化していない場合は、税法の中で交
際費や手数料といった賄賂に適用できそうな
項目を作らないことが必要だ。関連の税法の
審査は、「条約」と「1997勧告」の実施状況
を調べるフェーズ1の過程で、「国際商取引で
の贈収賄に関する作業部会」が租税委員会
5◆
OECD 政策フォーカス No.25
(CFA)と協力して行っている。
公務員に高い倫理観を奨励するに
はどうしたらよいのか
OECDは、公共部門での適切な倫理原則と
は何かを考える上で主導的な役割を負ってい
る。公務員の倫理は、国民の信認を得るため
の前提条件であり、国民の信認の基礎である。
また、健全なガバナンスの基盤でもある。こ
うした認識から、OECD加盟国は1998年4月、
「公務員倫理を管理するための12原則」を
OECD勧告の中で承認し、公務員倫理の向上
に対する政治的な決意を表明した。この「12
原則」は参考用のチェックリストで、その狙
いは、各国政府が公共部門の広範な業務環境
を見直すのに役立てたり、汚職を防ぎ公務員
に高い倫理観を持たせるのに有効な制度を維
持する上での一助とすることにある。また、
最近の報告書「政府への信頼:OECD諸国の
倫理政策」では、「公務員の行動倫理向上に関
する1998年勧告」の実施状況を個別に示して
いる。これは、OECD加盟29ヶ国の倫理政策
を網羅した初の報告書で、全体的な傾向やモ
デル、効果が期待できる施策、進歩的な解決
法などを盛り込んでいる。
公共部門の環境を変えるには、中核的倫理
を周知させることが必要である。公職者とし
て期待される行動についての共通認識が公務
員、社会の双方に生まれるには、中核的倫理
と行動規範をはっきりと示すことが大切な一
歩になる。行動規範に関する法律を作ること
も、中核的倫理を具体的に示す主要な手段に
なる。すでにOECD加盟国の3分の1以上が過
去5年間に公務員の基本倫理規定を改正してお
り、さらに多くの国がこれに続く見通しだ。
中核的倫理の実践は、日々の職務の中で、
意思疎通を図り、誠実でいることから始まる。
OECD諸国の政府はいずれも、公務員に対し、
主に公務員倫理への理解を深めるためのトレ
ーニングを受けさせている。また透明性を高
めるための措置を取ることで、公的な責務と
私的な利益との間の相反を招く可能性も減ら
せる。政府調達のような特に汚職の罠に陥り
やすい立場の職員に特別の注意を払うという
点についても、OECD諸国の間で関心が高ま
っている。OECD諸国はまた、個人の不正行
為や制度的欠陥を発見する内部管理制度を確
立するために、現行法を強化したり新たな法
制度を設けたりしている。内部告発者を守る
◆6
措置の必要性も高まっており、現在では
OECD加盟国のほぼ半数が、内部告発者に対
して公務員規則に基づいた全般的な保護措置
を取っている。
汚職に関わった公務員を迅速に処分する責
任は主にその管理職にあるが、こうした管理
職は、公務員の違法行為を調査、告訴する責
任を負う司法当局からも支援を受けることが
できる。
開発途上国では、社会、政治、経済、そし
て行政上の要因が複雑に絡み合って、汚職の
機会やインセンティブを生んでいる。OECD
開発援助委員会(DAC)では、DAC加盟国と
開発途上国との間の開発援助をめぐる汚職に
取り組んでおり、主に次のような措置を講じ
ている。
■
1996年に「援助調達における汚職防止に関す
る勧告」を採択し、その中で参加国に対し、
二国間援助での調達を対象とする汚職防止
条項を設けることや、あらゆる開発援助案
件で被援助国と汚職防止に向けて緊密に協
力することを求めた。
■
DAC参加国は援助案件での調達手続きに関
して、汚職防止条項やそれに相当する対策
を明文化して盛り込む。
■
こうした措置はDAC参加国が被援助国や国
際開発機関、OECDの他の汚職防止イニシ
アティブと協調して策定したものである。
民間部門の役割は?
企業の中には、独自の汚職防止戦略を確立
しているところもあり、その中では企業間、
および公的部門・民間部門間の贈賄や財物強
要についての行動規範が定められている。こ
うした行動規範は、汚職防止への国際的な取
り組みに従おうとする企業側の真摯な姿勢が
表れており、また汚職のリスクを減らすため
に企業文化や従業員の態度を変えようとする
企業の意思もみえる。多くの場合、行動規範
の策定とともに、その遵守状況を監視したり
評価したりする管理制度も作られている。
2000年6月のOECDの年次閣僚理事会では、
「多国籍企業ガイドライン」(OECD加盟国が
作成した法的拘束力を持たない企業向けの勧
告)の改訂版が承認された。「ガイドライン」
OECD 政策フォーカス No.25
では、賄賂の贈り手、受け手両面からの汚職
防止ルールを盛り込んでいる。公務員と取引
先企業の社員との間の贈収賄に焦点をあてて
いるほか、公務員や取引先社員、親戚縁者、
事業の提携相手に対する賄賂の支払い経路と
して、下請け契約や物品発注、コンサルティ
ング契約を利用することを防ぐことについて
も注意を向けている。
「ガイドライン」はまた代理人の謝礼の問題
も取り上げている。また、贈賄や他の汚職行
為を防ぐために、財務、税制、監査上の慣行
を対象にした経営管理制度を設けることを義
務付ける条項もある。さらには、そうした汚
職防止策や企業方針を一般の人々や社員に周
知させることを義務付ける条項も入っている。
最後に「ガイドライン」は、公職への立候
補者や政党、その他の政治団体への違法な寄
付を禁じるとともに、企業の政治献金の情報
を公開することを義務付けている。
この先の見通しは?
「条約」と「勧告」は、国際的な汚職との闘
いを大きく進展させる土台を作ったが、やる
べきことはまだたくさん残っている。条約批
准国は増加しており、これらの諸国はフェー
ズ1の査定を受けなければならない。加えてフ
ェーズ2――外国公務員への贈賄防止に関連し
た法律や規制を実際にどう運用しているかを
実地調査する――もこれから実施しなければ
ならない。
さらに、OECD理事会は、優先順位に従っ
て5つの汚職をめぐる問題について作業部会に
調査させることを決めた。これらは、1. 外国
政党に関係した贈賄行為、2. 将来的にその人
物が公職につくと見込んで利益を約束したり
贈ったりする行為、3. 資金洗浄を招くような
外国公務員への贈賄(つまり利益が洗浄され
るケース)、4. 贈賄における外国企業の子会
社の役割、5. 贈収賄におけるオフショア・セ
ンターの役割、である。
OECDは、この先も加盟国、非加盟国が公
務員の行動倫理を強化する上での支援基盤を
提供していく。将来的な倫理関連の課題とし
ては、ガバナンスをめぐる重要な問題に焦点
をあてたい。例えば、公的部門も民間部門が
変化していく状況での両者間の倫理問題、政
治家と行政の間の倫理問題、それに透明性と
説明責任を制度化する方法などが挙げられる。
また「移行期経済諸国のための汚職防止ネッ
トワーク」では引き続き、一連のネットワー
クや運営グループの会合を通じて、援助国、
政府、民間企業、市民団体を取りまとめ、
中・東欧や旧ソ連新興独立国(NIS)での汚
職防止に向けて支援し合ったり、経験を共有
できる場を提供していく予定である。
またOECDの貿易委員会では現在、世界貿
易機関(WTO)の制裁措置がどの程度まで汚職
防止に活用できるかを判断するための分析を
進めている。今のところWTOの協定は贈収賄
やその他の汚職の問題を具体的には取り上げ
ていないが、WTOの基本原則やWTO加盟国
がそれを実施することによって、賄賂の申し
出、要求、受け取りの機会や動機は減るため、
汚職防止効果はあると考えられる。
国際的な汚職との闘いに勝つためには、こ
うしたイニシアティブに対して各国が継続し
てコミットすることと、重要な役割を負う関
係諸機関が参加することが不可欠である。こ
のため、多くの機関が価値ある貢献をしてい
ることをここで指摘しておきたい。例えば、
欧州連合、欧州会議、米州機構、国際通貨基
金、世界銀行、アジア開発銀行、世界貿易機
関、国連開発計画、国際労働機関、世界税関
機構などの国際機関が関与している。また、
トランスペアレンシー・インターナショナル
やオープン・ソサエティ・インスティチュー
トといった非政府組織、公的および民間の国
際援助団体も、汚職の危険性に対する社会的
関心を高めるのに貢献しているほか、各国の
汚職防止策作りに技術的な支援も提供してい
る。企業や業界団体、労働組合の協力もまた
不可欠である。同様に、腐敗を暴き、公務員
に責任ある行動を促す独立系報道機関の役割
もまた極めて重要である。
7◆
OECD 政策フォーカス No.25
OECDの汚職防止ユニットは、汚職・贈賄に関する世界最大の情報センターの一つ、「OECD
汚職防止リング・オンライン(Anti-Corruption Ring Online:AnCorR)」を創設した。
AnCorRは、汚職防止に関連する資料を5000種以上収蔵するほか、汚職防止活動を計画したり
実行する際に必要となる具体的な情報を、汚職防止に携わる機関や個人に提供している。
AnCorRはまた、OECD加盟国、中南米、中東、アフリカ諸国の地域イニシアティブに直接
アクセスするための窓口の役割を果たしている。また3つの地域ネットワーク――「移行経済
諸国のための汚職防止ネットワーク」、「安定化協定に基づく南東欧汚職防止イニシアティブ」、
「アジア太平洋地域における汚職防止フォーラム」――ともリンクしている。
AnCorRの詳細情報についてはウェブサイトwww.oecd.org/daf/nocorruptionweb/ を参照
願いたい。
[関連図書]
No Longer Business as
Usual: Fighting Bribery
and Corruption
ISBN: 92-64-17660-8
¥4050 pp. 280.
Trust in Government:
Ethics Measures
in OECD Countries
ISBN: 92-64-18519-4
¥6900 pp.332
Public Sector Corruption: An International
Survey of Prevention Measures
ISBN: 92-64-17071-5 ¥3650 pp.120
The Role of Governance in Economic
Development: A Political Economy Approach
ISBN: 92-64-15559-7 ¥1900 pp.94
Corruption and Integrity Improvement
Initiatives in Developing Countries
ISBN:92-1-126096-5 US$9.95 Sales No.
E.98.III.B.18 (UNDP report)
(UNのウェブサイトから注文可能
www.un.org/Pubs/whatsnew/orderfrm.htm)
<インターネット上で公開>
European Principles for Public Administration,
SIGMA Paper No. 27
www.oecd.org/puma/sigmaweb/
Determinants of Customs Fraud and
Corruption: Evidence from Senegal and Mali Technical Paper No.138
www.oecd.org/dev/PUBLICATION/tp/Tp138.pdf
Corruption: The Issues - Technical Paper No.122
www.oecd.org/dev/PUBLICATION/tp/Tp122.pdf
OECD Anti-corruption Unit Internet site
www.oecd.org/daf/nocorruption/
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本資料は、OECDパリ本部情報局広報課が、事務総長の責任下で作成した『OECD Policy Brief』の邦文仮訳です。
英語版はOECDパリ本部のウェブサイト(http://www.oecd.org/publications/Pol_brief/)でご覧いただけます。
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