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女性の能力発揮とワーク・ライフ・バランス施策
JC総研 経営相談部● 人事コンサルチーム 女性の能力発揮とワーク・ライフ・バランス施策 今年も10月1日に多くの企業で「内定式 」なるイ 担わないといけないし、肩代わりする仕事の配分や ベントが開催され、 過酷な就活を勝ち抜き、 リク 結果に対する評価が確立されている、とはいえない ルートスーツに身を固めた来年度の採用内定者を見 からだ。また、休職者は「休職明け」に対する仕事 かけた。本稿では彼らも必ず直面する、女性労働者 への不安「以前と同じように職場からの期待に応え の就業と結婚・出産・育児を考えてみたい。 られるか、30代の中堅として責任を果たせるか」を 大卒新人が3年もたつと、25歳。仕事の知識が豊 抱える。これらの大きな不安はそう簡単にはぬぐい 富になり、スキルアップもして、後輩からも「頼り 切れない。それまで、職場で男性と肩を並べて「頑 になる先輩 」 に近づいている。 職場の評価も高ま 張ってきた」 自分を自分だけがよく知っているから り、仕事が楽しくなる。 「この職場に入ってよかった である。自分は頑張れるけど、子どもは1人では頑 な」と小さな満足を感じる。一方で、そろそろ結婚 張れない。親が面倒見ないといけない。葛藤の末退 を意識し始めてもおかしくない年齢である。 職。日本ではこの段階で62%が退職する注1)。 日本の平均初婚年齢は、2011年は夫30.7歳、 妻 29.0歳注1)となっていて、就職して7年目から8年目 にあたる。このころ、女性は、仕事と結婚生活につ いて最初の決断を迫られる。すなわち、結婚しても 「自分は働く」 か「自分は仕事をやめる」 かの選択 「末っ子の妊娠・出産を機に退職した女性正規社 員の退職理由」は以下注1)。 ①「家事・育児に専念するため、自発的に辞めた」 (34.5%) (26.1%) ②「就業時間が長い、勤務時間が不規則」 である。 (21.2%) ③「勤務先の両立支援制度が不十分だった」 結婚後仕事を続けた場合でも、1年後に今度は2 ④「体調不良などで両立が難しかった」 (15.2%) 回目の大きな選択を迫られる。出産と仕事の両立の (13.9%) ⑤「解雇された、もしくは退職勧奨された」 問題である(2011年の第1子出産時の女性の平均年 56 「仕事を続けるか、 齢は30.1歳、第2子32.0歳)注1)。 実際の女性の意識は「子供ができても職業を続け やめるか」この段階の選択も非常に重い。単に「個 る方がいい(45.9%)注2)」で、結果的に「心ならず 人の家庭にとって」だけでなく、これまで勤務でき も退職してしまった」女性は少なくない。 ていた「企業にとって優秀な人材をみすみす失う」 一方、夫はどうしているか。妻が出産のころの夫 ことにもなるからである。 しかし、 多くの企業で (第1子32.1歳、第2子33.8歳)注1)は職場では働き盛 は、 「出産と仕事の両立は、個人の問題 」の認識が り、職場の中心選手で、昇進スピード競争の真った 強く十分な支援ができていない。 だ中である。 「できる人に仕事は集まる」ものでもあ まず、産休や育休を取る「当たり前感」が職場に り、 「5人に1人は週60時間以上の労働」注3)をして よって違う。人手不足などで仕事に追われるような いる。このようななかで、妻の期待に合致した「家 職場では周りの目も厳しい。休職中の仕事は誰かが 庭内の仕事分担」もできる夫がどのくらいいるのだ JC総研レポート/2013年 冬/VOL.28 【人事管理】女性の能力発揮とワーク・ライフ・バランス施策 ろうか。調査では、6歳未満の子を持つ夫婦で、夫 調査から見ると、 「ズレ」を感じる。企業も、若い夫 も妻も有業の場合の夫の1日の育児関連時間は、30 婦をもっと就労という観点から「支援 」 してほし 分にしかすぎない注3)。 い。例えば、労働時間(量)と労働内容(質)と対 価を職員側でも選択できる多様な働き方とその働き 夫婦どちらかの実家と夫婦の住居が近い場合(ま 方を行き来できる仕組みを構築する。うまく運用で たは同居)では、子どもが出来ても「自分たち夫婦 きれば、優秀な人材の流出の防止も期待できるだろ がやりきれない分は親(子どもにとっての祖父、 祖 う。また、働くモチベーション(ロイヤリティー)の 母)の助けを借りる」ことができる地域も多い。し 維持も可能であろう。さらに、高齢者引退へのソフ かし、今後JAでも「JA域が県域 」に近づくと、 トランディングとしての活用も視野に入ってくる。 職員の住居や実家から近い勤務地への人事異動が 「働きたいが、 今の職場や仕事を考えるとやむを ずっと可能なのだろうか。これまで記した話は、い 得ず退職」をもっと減らし、 「就業の継続化」も目指 つまでも「うちの職場には関係ない話」なのか。 すときではないか。いい人材は「いい組織」に集ま るものである。 さて、退職から10年あまり後の妻が45歳ころ、第 2子が中学生になったときに再就職しようと考える かもしれない。 子どもが中学生ともなると、進学資 金の大きさにあらためて驚くからである。 【参考資料】 注1)厚生労働省「人口動態統計」 注2)内閣府「男女共同参画社会に関する世論調査 」2009年10月 調査 参考までに筆者自身が大学を受験した昭和の時代 と、筆者の長男が大学を受験した平成の世を比較す 注3)厚生労働省「平成23年版 働く女性の実情」 注4)文部科学省「国立大学と私立大学の授業料等の推移 」 、同「私 立大学等の平成22年度入学者に係る学生納付金等調査結果につい ると下表のとおりである。昭和のころは、国立大学 て」 、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」 、産労総合研究所「2012 の年間の授業料は「大卒初任給程度 」 の認識でよ 年決定初任給調査」 かった。だから、子どもの学費は、まだ「なんとか なった」 。しかし、平成の世ではそうはいかない。現 在「国立大学授業料 」 並みの約50万円の初任給を 出す企業がどれほどあるだろうか。 私立大学では もっと大変なことになる。 教育のコストは賃金上昇 のスピードをはるかに超えている注4)。さあ、どうす る? 1977 (昭和 52) 年 現在 国立大学 授業料 私立大学 授業料 96,000 248,066 大卒 初任給 101,000(男性) 95,300 (女性) 535,800 (2005年度) 858,265 (2010年度) 203,362 (2012年度) これから夫だけの賃金で暮らせるのだろうか。 「あのとき妻が退職していなかったら」 にならない か。また、企業にとっての最大の競争力は「優秀な 人材の確保と育成」ではなかったか。しかし、各種 【人事管理】女性の能力発揮とワーク・ライフ・バランス施策 JC総研レポート/2013年 冬/VOL.28 57