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ヨーロッパにおける 化学物質管理の動向
化学物質ラベル の危険有害性情報 -その理解と活用- 平成27年度厚生労働省委託事業 ラベル表示を活用した労働者の教育推進事業 日本大学理工学部 まちづくり工学科 教授 城内 博 1 化学物質による災害 主な原因: “危険有害性に関する情報不足” 情報がなかった 情報が知らされなかった 情報を理解しなかった 2 顎骨壊死 黄リン製造作業に12 年間従事 3 ノルマルヘキサンによる多発性神経炎 ノルマルヘキサンに溶解された有 機チタンをセロファン紙に接着促進 剤として塗布する作業に5 ヶ月従事 4 次亜塩素酸ナトリウムによる皮膚障害 (消費者用製品) 5 印刷会社で発生した胆管癌で 問われていること 法律を守らない事業者の下で 働く労働者をどのように守るか? 労働者に直接、危険有害性を伝えること ラベル表示(危険有害性)の徹底 6 危険有害性に関する 情報が無ければ、 予防措置はできない 自分の身を守れない 7 化学物質による 事故や病気は どれくらいあるか? 化学物質による事故や病気 2015年9月現在、約1億種類の化学物質の登録 (CAS番号) 行政的に管理されている化学物質は数千 毎年110万人が労働災害で死亡し、このうち四分 の一は化学物質によるものと推定(ILO) 日本では化学物質により毎年600~700人が被災 (休業4日以上) 家庭での化学物質による不慮の事故死は毎年約 800人 日常的な化学物質による皮膚炎等も考慮すると 化学物質による外傷,疾病の数はさらに膨大 9 化学物質管理 の潮流 10 化学物質管理の潮流 法規準拠型 自主対応型 国は全ての化学物質を法規で管理することをあきらめた 安全衛生マネジメントシステム(自主対応型)により化 学物質管理を促進する 化学物質管理は国際的な枠組みで実行され、 各国はそれへの対応が求められている。 (モントリオールプロトコール(オゾン層破壊物質)、地球温暖化 対策(二酸化炭素)、バーゼル条約(廃棄物)、国連危険物輸 送勧告、GHSなど) 11 日本の制度で欠けていたもの 化学物質の危険有害性に関する 情報伝達 12 危険有害性に関する 情報が無ければ、 予防措置はできない! 自主対応のための前提 (リスクアセスメント) 13 日本で購入した化学 品のラベルには、危 険有害性が記載さ れているか? 14 日本で危険有害性の情報伝達に関する 法規は整備されているか? 健康障害を起こす化学物質の半数は未規制物 質である(厚生労働省) 適切に表示・伝達が行われていれば防ぐことが 出来た業務上疾病が少なくない(厚生労働省) 危険有害性に関する情報が記載されていないこ とは安全を意味していない 安全・無害ではないが、法律違反ではない (危険・有害であるが) 15 海外の危険有害性に関する表示制度 • 欧州の規則では、化学品の危険有害性を調査して、 その結果をラベルに記載しなければ市場に出せな い(1970年代には施行) • 米国には「危険有害性周知基準」があり、労働者に は危険有害性を伝えなければならない(1980年代に 施行) (欧米では法で規制する必要があると認識されている) • 以前は世界統一的なシステムはなかった GHSの策定 16 GHS 17 GHS 化学品の分類および表示に関する世界調和システム (Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals) • 目的及びメリット – – – – 健康の維持と環境の保護を促進する 世界中に国際的な枠組みを提供する 貿易が容易になる 化学品の試験及び評価の必要性が減少する • 規定する内容 – – – 危険有害性(危険性、健康有害性、環境有害性)に関す る分類基準 安全データシート(SDS)の内容および記述様式 ラベルに記載すべき項目 18 情報伝達の手段 19 情報伝達の手段 ・ ラベル ・ 安全データシート(SDS) (講習会では省略) (これらは事業者(供給者)が作成する) 20 ラベルに記載すべき項目(省略不可) 絵表示 注意喚起語(危険、警告) 危険有害性情報 注意書き(安全対策、応急措置、貯蔵、 廃棄など) 化学物質名、CASなどの認識番号/ 混合物の場合は成分 供給者名および連絡先 関連事項 21 GHSのラベル例 22 絵表示 • 労働者・消費者対象で用いるシンボルは 白地に黒、枠は赤色倒立正方形 • 輸送関連では国連危険物輸送勧告を使用 (日本では海上輸送、航空輸送で適用) 23 爆発物 自己反応性 有機過酸化物 高圧ガス 急性毒性 (高毒性) 絵表示 可燃性/引火性 自己反応性 自然発火性 自然発熱性 有機過酸化物 金属腐食性 皮膚腐食性 眼に対する重篤な損傷性 変異原性 発がん性 生殖毒性 呼吸器感作性 特定標的臓器毒性 吸引性呼吸器有害性 支燃性/酸化性 水性環境有害性 急性毒性(低毒性) 皮膚刺激性 眼刺激性 皮膚感作性物質 特定標的臓器毒性 24 オゾン層有害性 GHSのモデルとなった国連危険物輸送勧告の絵表示 (航空法施行規則、危険物船舶運送及び貯蔵規則関連で導入) 25 注意喚起語 • 「危険」 または 「警告」 • 危険有害性の強調およびその程度を表す • 例: 急性毒性 区分 1、2、3 「危険」 区分 4 「警告」 26 危険有害性情報 • 物質または混合物の固有な危険有害性着目し て分類した結果に関する情報をいう • 決められた危険有害性の区分に対しては共通の 表記を用いる 例: 引火性液体 区分 1 「極めて引火性の強い液体および蒸気」 区分 2 「引火性の高い液体および蒸気」 区分 3 「引火性液体および蒸気」 区分 4 「可燃性液体および蒸気」 27 危険有害性情報(続) 例 :急性毒性 区分1 「飲み込むと生命に危険」 区分2 「飲み込むと生命に危険」 区分3 「飲み込むと有毒」 区分4 「飲み込むと有害」 28 GHSの分類区分とラベルの項目例 例 : 急性毒性(経口) 区分 1 区分 2 区分 3 区分 4 危険 危険 危険 警告 飲み込むと 生命に危険 飲み込むと 生命に危険 飲み込むと 有毒 飲み込むと 有害 29 注意書き(安全対策、応急措置、保管、廃棄) 例 【急性毒性(経口)】 危険有害性区分 1、2 3 注意喚起語 危険 危険 危険有害性情報 飲み込むと生命に危険 飲み込むと有害 注意書き 安全対策 この製品を使用 する時に、飲食 または喫煙をし ないこと。 取扱い後はよく 手を洗うこと。 応急措置 保管 飲み込んだ場合 施錠して貯蔵す :直ちに医師に ること。 連絡すること。 口をすすぐこと。 廃棄 内容物/容器 を...に廃棄する こと。 30 注意を促すための絵表示 例 各国、独自で良い(下記は欧州の例) (日本ではスライド44のものなどがある) 31 化学物質特定名・番号 • ラベルには製品名や番号を記す • 業界あるいは国などで用いられている特 殊な名前も可能とする • 国連危険物輸送勧告に従う輸送の場合は 梱包表面に国連輸送番号を記す 32 製品の組成 • 化学物質 – 化学物質の特定 (IUPAC、 ISO、CAS などで定められ ている名前) • 混合物 – 急性毒性、皮膚刺激性/腐食性、眼に対する重篤な 損傷性/刺激性、変異原性、がん原性、生殖毒性、皮 膚・呼吸器感作性、標的臓器毒性などをもつ成分は 全て示す – 労働安全衛生法、規則では成分名は省略してもよい 33 世界のGHS実施 34 GHSはすでに世界標準となっている • 欧州(すでに実施) – CLP(分類・ラベル・包装)規則 – REACH(登録、確認、認可、制限)規則(SDSを規定) • 米国 – 労働(危険有害性周知基準 HCS)(改正済) – 農薬(連邦殺虫剤殺菌剤殺鼠剤法) – 消費者製品(消費者製品安全法) – 輸送(連邦危険物輸送) • 中国、ロシア – 規則レベルではすでに導入、法レベルの改正待ち • その他の国々 – 導入準備段階 35 日本のGHS対応 36 日本の化学物質管理に関する法規の特徴 • 災害や疾病の事後対策として策定された • 物質や作業列挙によるリスク管理の法規である • 危険有害性の情報伝達がリスク管理の一部とし て位置づけられている ⇒ 包括的な情報伝達システムが無い • 分類および表示の対象となる物質数が限定され (SDS対象で約1400)、その危険有害性情報も 十分ではなかった 37 日本のラベルの特徴 • ラベルを貼付すべき対象物質数が非常に少なかっ た(労働安全衛生法-104物質) • 混合物としての表示に関する規定はなかった • 危険有害性は「漢字」で知らせている • 絵表示(マーク)は業界等が自主的に対応していた • 製造物責任法(1995)以降、注意書きが増えた 38 日本のラベルの特徴(続) 日本では危険有害性情報は少なく、専門家向けの管 理対策や注意書きの記述が主である ー 火気厳禁、危険物第四類、医薬用外毒物 など ー 眼に入った時は流水で洗う など 危険有害性情報:物質が本来持っている性質 例: 「熱すると爆発のおそれ」 「飲込むと有毒」 「発がんのおそれ」 「皮膚刺激」 など 39 「危険有害性情報」 と「注意書き」の違い 注意書きでは危険有害性は伝わらない 対応が異なる場合もある 危険有害性情報 • 皮膚に接触すると有害 • 重篤な皮膚の薬傷 • アレルギー性皮膚反応 を起こすおそれ 注意書き • 皮膚についたときは 水で十分に洗い流す 40 ラベル例 41 表示に係わる法規の例(1) • 毒物及び劇物取締法関連:法第12条、施行 規則第11条の6 • ①化学品特定名、②会社名・連絡先、⑥注意 書き、⑦国内関連法規を記載する。 • ⑦国内関連法規において毒物(110物質)に 対しては 医薬用外毒物 、劇物(373物質)に対 しては 医薬用外劇物 と表示する。(対象物質 数は平成23年1月1日現在) 42 表示に係わる法規の例(2) • 消防法関連:危険物の規制に関する規則第44条 ①化学品特定名、⑦国内関連法規を記載する。 • 危険物を、第1類:酸化性固体、第2類:可燃性固体 、第3類:自然発火性物質及び禁水性物質、第4類: 引火性液体、第5類:自己反応性物質、第6類:酸化 性液体に分類。 ⑦国内関連法規で危険物の種類、危険等級及び以 下のような文言を運搬容器の外部に表示する:「水 溶性」、「可燃物接触注意」、「禁水」、「火気・衝撃注 意」、「可燃物接触注意」、「火気厳禁」、「火気注意」 、「空気接触厳禁」等。 43 従来ラベルとGHSラベルの比較(1) 44 従来ラベルとGHSラベルの比較(2) 45 GHS導入における日本の難題 日本にはGHSをそのまま導入できる 法規制が無かった(~平成18年) GHSへの対応(表示制度の充実) ● 労働安全衛生法及び規則の改正 ● 日本工業規格(JIS)の策定 46 日本のGHSへの対応 (法規) • 労働安全衛生法の一部を改正 危険・有害な化学物質について、容器・包 装の表示や、譲渡・提供の際の文書交付 に関する制度を改善する(施行期日平成18 年12月1日) 危険有害性分類、ラベル内容をGHSに一 致させた 47 改正労働安全衛生法における 表示対象物質 ①法第57条において、安衛令で定める104物 質及びその混合物に対する表示(ラベル)の 義務 – 製造許可の対象物質 – 労働安全衛生法施行令で定める表示対象物質 – 上記物質を含有する混合物(表示対象物質ごと に裾切値が定められている) 48 労働安全衛生法による表示制度に 違反した場合の罰則 • 表示(ラベル)制度の罰則は労働安全衛生法 第119条(3)で規定 「6月以下の懲役又は 50万円以下の罰金に処する」 49 表示対象とならないもの 一般消費者の生活の用に供される製品等は 除かれる 薬事法に定められている医薬品・医薬部外品 および化粧品 農薬取締法に定められている農薬 労働者による取扱いの過程において固体以 外の状態にならず、かつ、粉状又は粒状にな らない製品 対象物が密封された状態で取り扱われる製品 50 労働安全衛生規則の改正 厚生労働省令第9号(H24.1.27 官報 第5726号) • 第24条の14(ラベル) • 第24条の15(文書交付SDS) • 第24条の16(法第28条の2第1項を実施する ための指針の公表) <平成24年4月1日施行> 全ての危険有害な化学物質等はラベル の対象となる (努力義務) 51 労働安全衛生規則の改正(続) • 第24条の14(ラベル) – 厚生労働大臣が定めるもの:危険有害化学物質 等(令第18条各号及び令別表第3第1号に掲げる もの(法第57条1で定めているもの)を除く) – 本項で定める化学物質等はJISZ7253附属書A に定める物理化学的危険性又は健康有害性を 一つでも有するものとする – 労働大臣が定める標章: JISZ7253に定める絵 表示(GHS)とする 52 労働安全衛生規則の改正(続) • 第24条の16(法第28条の2第1項を実施する ための指針の公表) – 化学物質等の危険有害性等の表示に関する指 針(平成4年労働省告示第60号は廃止) – 化学物質の危険性又は有害性等の表示及び文 書交付に関する指針の公表 – 譲渡提供者による表示について、一般消費者の 生活の用に供するための容器又は包装について は適用しない 53 表 ラベルに関する労働安全衛生法・規則 ラベル 【根拠条文等】(改正日) 労働安全衛生法 104物質(640物質 H28~)-義務 【法第57条の1】 (H18.12.1) (H26.6.25) 労働安全衛生規則 危険有害化学物質等-努力義務 【労働安全衛生規則第24条の14】 (H24.1.27) 注記: ラベルの作成は JIS Z 7253 に従って行えば、 法規で定める記載要件を概ね満たすとしている 54 表 ラベルとSDSを規定している関連法規とその対象物質 ラベル 【根拠条文等】(改正日) SDS 【根拠条文等】(改正日) 労働安全 107物質(640物質 2016~)-義務 衛生法 【法第57条の1】 (H18.12.1) (H26.6.25) 640物質-義務 【法第57条の2】 (H18.12.1) 労働安全 危険有害化学物質等-努力義務 衛生規則 【労働安全衛生規則第24条の14】 (H24.1.27) 特定危険有害化学物質等-努力義務 【労働安全衛生規則第24条の15】 (H24.1.27) 化管法 ●指定化学物質(第1種462、第2種100)- ●指定化学物質(第1種462、第2種100)- 努力義務 義務 【指定化学物質等の性状及び取扱いに関 【指定化学物質等の性状及び取扱いに関 する情報の提供の方法等を定める省令】 する情報の提供の方法等を定める省令】 (H24.4.20) (H24.4.20) ●指定化学物質以外-努力義務 ●指定化学物質以外-努力義務 【指定化学物質等取扱事業者が講ずべき 【指定化学物質等取扱事業者が講ずべき 第1種指定化学物質等及び第2種指定化 第1種指定化学物質等及び第2種指定化 学物質等の管理に係る措置に関する指 学物質等の管理に係る措置に関する指 針】(H24.4.20)) 針】(H24.4.20) 注記: ラベル及びSDSの作成は JIS Z 7253 に従って行えば、 55 法規で定める記載要件を概ね満たすとしている。 日本のGHSへの対応 (JIS) • GHSの標準化(JIS) 法が引用 – JIS Z 7252 2014 (分類) – JIS Z 7253 2012(GHSに基づく化学品の危険有 害性情報の伝達方法ーラベル、作業場内の表示 及び安全データシート(SDS)) H24年以降 全ての化学物質が分類・表示 の対象になった 56 新しいラベル制度で 常識が変わる? 57 何が変わる? • 全ての化学物質が危険有害性に関する分 類、表示(ラベル、SDS)の対象になる • 分類・表示が世界的に(国内的にも)統一 される 危険有害性に関する意識改革が起きる リスク評価の基礎ができる 化学物質管理の責任を分担できる 58 情報は安全への道! 59