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PDFダウンロード - Thermo Fisher Scientific

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PDFダウンロード - Thermo Fisher Scientific
2015 / October
No.32
NEXT Interview
し な や か にし て 確 実 な 生 命
エ ピ ジェネ ティク ス の メカ ニ ズ ム 解 明 から 、新 た な 可 能 性 を 探 る
仲野 徹 氏(大阪大学 大 学 院 教 授 )
P. 04
GeneArt Platinum Cas9 Nuclease(核移行シグナル付き), GeneArt CRISPR Search & Design tool
P. 08
PowerUp SYBR Green Master Mix
P. 09
QuantStudio 3D デジタル PCR システム
P. 14
Essential 8 Flex 培地
P. 15
NanoDrop シリーズ, NanoDrop Lite, NanoDrop 8000
P. 16
Superclonal 二次抗体
デジタルブックNEXT は こちらから ▶ www.thermofisher.com/NEXT
NEXT Interview
し な や か にし て 確 実 な 生 命
エピジェネティクスのメカニズム 解 明 から、新たな 可 能 性を探 る
仲野 徹 氏(大阪大学大学院教授)
「生命現象を観察して分子レベルで解き明かす時代から、ゲノム情報を基に生物を改変して検証する時代へ。
ライフサイエンス研究のメインアプローチは、私が研究を始めた 30 年前とは劇的に変わってきました」と
大阪大学教授の仲野徹氏は語ります。
「時代が変わってもライフサイエンス研究にいちばん大事なのは生物への健全な好奇心」と強調します。
20 年前、ES 細胞から血液細胞を試験管内で作り出す画期的な方法を開発し、
現在は、生殖細胞のエピジェネティクス制御機構の解明に取り組み、その新たな可能性を探っています。
仲野 徹(なかの とおる)
1981 年大阪大学医学部医学科卒業、84
年 大 阪 大 学 医 学 部 助 手( 北 村 幸 彦 教
授)、89 年ヨーロッパ分子生物学研究所
( EMBL )客員研究員( Thomas Graf 教
授)、90 年京都大学医学部助手(本庶佑
教授)、91 年京都大学医学部講師、95 年
大阪大学微生物病研究所遺伝子動態研
究分野教授。
2004 年より大阪大学大学院(生命機能
研 究 科 時 空 生 物 学 、医 学 系 研 究 科 病 理
学)教授、現在に至る。
page 02
インタビュアー: サ ーモフィッシャーサイエンティフィック 橋本裕子
page 03
▶
ES 細胞
▶
中胚葉コロニー
▶
造血前駆細胞
分化した血液細胞
ES 細胞から血液細胞への分化誘導
1993 年、仲野氏が開発したOP9システム。マウスES 細胞をストロマ細胞 OP9 上で培養することで、中胚葉コロニー、造血前駆細胞を経て、血液細胞に分化誘導できます。造血の制御機構解明などに広く
活用されています。この実験に関わる思い出は、研究室のホームページ「なかのとおるのつぶやき( No.007 )」のエッセイで紹介されています。
サイエンスの面白さを知る
「大阪大学医学部卒業後、血液内科を中
心に 3 年 間 臨 床に携わり、そ の 後 基 礎 系
の 血 液 学 関 係 の 研 究 室 の 助 手に採 用さ
れました。研 究 の 経 験は ありませ んでし
たが、教 授 の 北 村 幸 彦 先 生に、研 究 の 進
細胞から目的の血液細胞を作ることに成
功( 写 真 参 照 )。1994 年 、96 年と続けて
Science 誌で報告します。
遺伝情報を制御し、発生・分化に
関わるエピジェネティクス
「夢見て行い、考えて祈る」
「これは、大 阪 大 学 の 総 長を務 めた免 疫
学研究者の山村雄一先生の至言です。夢
を実行に移し、そして考え、後は良い結果
を祈る。新しいことを始める時に、考え過
ぎて夢を諦めたり、妄 想を膨らませ 過ぎ
いました 」と仲 野 氏 。業 績 は 出 たも の の
留学後、京都大学で成果を上げた仲野氏。 たりしないよう、この順序が大事です。い
ざという時は、考えすぎずに行 動する勇
30 代後半で大阪大学に教授として赴任し
研 究 者を続けることには迷 いが あり、最
ます。そこで心機一転、新しく生殖細胞の
気も必要なのです」と仲野氏。
「そして今
後に留 学して研 究に区 切りをつけようと
研 究を開 始 。
「 研 究を始 めて 数 年 かかっ
も夢があります。遺伝するエピジェネティ
します。
「北米よりもヨーロッパへの あこ
て、研究対象としてとりあげた 2 つの遺伝
め方から、研 究 室 の 運 営まで教えてもら
がれが強く、
ドイツの EMBL 研究所のトー
子が、DNAメチル化の制御に関与してい
クス変 異 は 存 在 するの か 。ゲノムという
確実な情報に加えて、環境や外的要因に
ることがわかってきました 。そ の 一 つは 、 対 応して 変 化 する、しなや か な エピジェ
ネティクス変 異 が 、受 け 継 が れることは
遺 伝 子 m y b をテ ー マに研 究 をしました 。 精 子 形 成 過 程でレトロトランスポゾンの
マス・グラフ博士のもとで、白血病のがん
トー マスは 、発 想 力 が 豊 か で 、次 々とユ
ニークなアイデアを思 いつきます。もち
ろんほとんどは使いものにならないので
すが、サイエンスがこんなに面 白 いもの
だと知りました。また世 界 中 の 人が集ま
る研 究 所で、彼らの 国 民 性を観 察するこ
とも楽しかった」と留学を懐かしみます。
ES 細胞から血液細胞を作る
DNAメチル化に関わり、その過程に機能
する piRNA という小分子 RNA の生合成
に必須であること突き止めました」。次の
世代に遺伝情報を受け継ぐ生殖細胞がで
きていく過程で、レトロトランスポゾンが
活性化すると正常な遺伝子に悪い影響を
与えかねません。仲野氏は、ほ乳類のゲノ
ムの 40% をも占めるといわれるレトロト
ランスポゾンから、大 事な遺 伝 情 報を守
ドイツ留 学から帰 国 後 、京 都 大 学 医 学 部
るメカニズムの一端を明らかにしました。
で ES 細 胞から血 液 細 胞を作る実 験に取
「また 哺 乳 類 では 、受 精 直 後にゲノム全
り組みます。それまで ES 細胞から骨髄細
体の DNA 脱メチル化によるリプログラミ
胞は作られていましたが、
リンパ球系を含
ングが生じますが、その際に、精子由来の
む複数の血液細胞を作りだすことはでき
雄 性ゲノムでは能 動 的 D N A 脱メチ ル 化
ていませ んでした。仲 野 氏はストロマ細
が起きます。私たちは、初期胚・始原生殖
胞と共培養して試しますが、マクロファー
細 胞・卵 細 胞において特 異 的に発 現する
ジに似た細胞ができてくるばかり。
「何度
PGC7/Stella が、能動的脱メチル化を抑
も研究を諦めようと思いました」とハード
制 する因 子で あることを見 出し、解 析を
な実験の日々を振り返ります。しかしマク
進 めています」と、生 殖 細 胞 の 発 生や 初
ロファージ刺激因子を産生しない OP9 ス
期 胚におけるエピジェネティック状 態 の
トロマ細胞を使うことで、試験管内で ES
ダイナミックな変化について語ります。
ないのか ? それを確かめてみたい」と語
ります。
「さらに留学中にトーマスから何
度も言われたアドバイスも忘れられませ
ん。
『 時々立ち止まり、斜め後ろから自分
を眺めること』。のめり込み過ぎることな
く、時として客観的に自分を評価してみる
ことが大切。そのためには自分の研究分
野以外にも、
『 健全な好奇心 』を持ち続け
ることをお勧めします。そして、生命が持
つ特性のように、
しなやかにそして確実に
研究ができたらいうことがありませんね」。
仲野氏からの若い方へのメッセージです。
Invitrogen
page 04
最大のゲノム編集効率、最小限のオフターゲット切断を実現
■ GeneArt Platinum Cas9 Nuclease(核移行シグナル付き)
NEW!
Invitrogen™ GeneArt™ Platinum Cas9 Nuclease 製品は、
核移行シグナル付きの野生型 Cas9タンパク質であり、CRISPR-Cas9システムで行うゲノム編集ツールです。
ガイドRNAと安定したリボタンパク質( RNP )複合体を形成して細胞へ導入し、
CRISPR-Cas9 ベクターやmRNAシステムよりもはるかに高い編集効率を実現します。
転写や翻訳を必要とせず、細胞へ導入後核まで移動し、すぐに反応を開始します。
しかも細胞から急速に除去されるため、オフターゲット切断を最小限に抑えます。
● 高い切断効率:実証試験済みの細胞株では、ほぼ全てにわたり切断効率 70% 以上を達成
● 最小限のオフターゲット切断:細胞からのクリアランスが迅速
● 難しい細胞株でも切断可能:多能生幹細胞や取り扱いが困難な初代細胞、血液細胞でも優れた結果
▶ iPS 細胞や ES 細胞でも優れたゲノム編集効率を実現
Gibco iPSCs
Control
切断効率( % ) 0
H9 ESCs
Cas protein
0
71
83
Control
83
0
0
Cas protein
58
64
58
Gibco™ Human iPS 細胞(左)、及び H9
ES 細胞(右)へ、GeneArt Cas9/gRNAリ
ボ核タンパク質( R N P )複 合 体をトランス
フェクトしました。
トランスフェクション 4 8
∼ 72 時間後に、Invitrogen™ GeneArt™
Genomic Cleavage Detection Kit を用
いて標的部位の切断効率を確認しました。
CRISPR の最適なデザインを簡単に見つけるには ?
■ GeneArt CRISPR Search & Design tool
▶ 600,000 以上のプレデザインされた gRNA のデータベースに
簡単にアクセス・検索できます
▶ 遺伝子ノックアウトに最適化済みで、最初の 3 つの転写された
エクソンまたは遺伝子をターゲットにしています。
▶ 検索結果には、以下の内容が含まれます。
PAM サイトを含めた上位 6 つの CRISPR 配列、潜在的結合部位、
gRNA の位置を含むエクソンマップ、各 CRISPR 配列ごとに
潜在的なオフターゲット効果も考慮した推奨デザイン
M ORE
INFO
Search & Design tool はこちらから → www.thermofisher.com/crisprdesign
※対応可能なブラウザは、InternetExplorer10 以上、Google Chrome25 以上、Safari5 以上、Firefox16 以上となります。
※ご利用には、オンラインアカウントの登録が必要です。ご登録はこちらから ⇒ www.thermofisher.com/iaam/loginDisplay
Invitrogen
page 05
▶ DNA や mRNAよりも高いゲノム編集効率を実現
Plasmid
mRNA
Protein
Cell Lines
Lipid
Electro
Lipid
Electro
Lipid
Electro
HEK293FT
49
49
70
40
51
88
U2OS
15
50
21
24
18
70
Mouse ES 細胞
30
45
45
20
25
70
Human ES 細胞( H9 )
0
8
20
50
0
64
Human iPS 細胞
0
20
66
32
5
87
N2A
66
75
66
80
66
82
Jurkat
0
63
0
42
0
94
K562
0
45
0
27
0
72
A549
15
44
23
29
20
66
Human Keratinocytes( NHEK )
0
30
0
50
0
35
Human Cord Blood Cells CD34+
n/a
0
n/a
0
n/a
24
Cas9ヌクレアーゼの導入フォーマットとゲノム編集効率の関係
Lipid: Invitrogen™ Lipofectamine™ 2000, Lipofectamine™ 3000, Lipofectamine™ RNAiMAX, Lipofectamine™ MessengerMAXのいずれかを使用。
Electro: Neon Transfection Systemを使用。
細胞への導入は、エレクトロポレーションや専用試薬がお勧めです !
エレクトロポレーションなら、Invitrogen™ Neon™ Transfection
トランスフェクション効率を最適化するためのパ
Systemがお勧めです。
ラメータ調整ができ、幅広い細胞に対応します。また、Cas9 Nuclease
タン パク質 専 用 の 導 入 試 薬「 I n v i t r o g e n ™ L i p o f e c t a m i n e ™
CRISPRMAX 」も近日発売。さらに高い導入効率が期待できます!
Neon Transfection System
製品名
サイズ
製品番号
価格
GeneArt Platinum Cas9 nuclease
25µg( 1µg/µL )
B25640
¥85,000
Neon Transfection System
Lipofectamine CRISPRMAX
NE W!
75µg( 3µg/µL )
B25641
1式
MPK1000
¥180,000
¥1,000,000
2015 年秋、発売開始 !
マンガで学ぶ「ゲノム編集」第二弾完成 !
ポ ー タ ル を 活 用し 、ゲノム 編 集
の 実 験 を 効 率 化しま せ ん か ?
600,000以 上 の デ ザイン 済 み
C R I S P R g R N A の デ ータベ ー
めです。最先端のゲノム編集技術をわかりやすく解
スの中から、目的に合った配列が
は販売代理店スタッフにお問い合わせください。
きっと見つかります。最 適 化され
た gRNA を見つけたら、そのまま
ご購入いただけます。
すでに始めている方も、
これから始める方へもお勧
説しています。冊子をご希望の方は、弊社営業また
下記 URLからもお申し込みいただけます。
⇒ www.thermofisher.com/jp-GenomeEditors
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抽選で100 名様にオリジナル
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締め切り:2015 年 10 月16日(金)
iontorrent
page 06
User's Voice
大 儀 和 宏 氏( 武 田 薬 品 工 業 株 式 会 社
医 薬 研 究 本 部 基 盤 技 術 研 究 所 リサ ーチマネ ージャー )
次世代シーケンサで 2 万種類のヒト遺伝子発現を効率的に解析
リアルタイム定量 PCR 法と同等の定量性を発揮するトランスクリプトームキットを活用
Ion Proton™ システムを組み合わせ、
解析を進めています。
迅速な解析で、
研究戦略の柔軟性に貢献
「標準装備の AmpliSeq plugin により
リードが遺伝子の発現データリストの状
態になれば、一般的なパソコンのハード
ディスクでデータの 処 理や保 存ができ、
測定結果を1 週間たらずで依頼者へ提供
できます。依頼者からは研究戦略を素早
く確認できると信頼を得ています。また
大儀氏(写真右)
と同じ部署の犬飼直人氏(主席研究員)。後ろは 3,800 羽の「折鶴モニュメント」。社員の方々が、
「 患者さん
への思い」を込めて制作しました。
新しい技術が創薬にどうつながるか、最
IonAmpliSeq テクノロジーを比較検討
したんです。前 者はすべての RNA の 配
大限の費用対効果をもたらすにはどうい
列を読み取るので、スプライシングバリ
う工夫が必要か、その追求はアカデミア
アントや新規融合遺伝子まで解析できる
よりシビアかもしれません。そのために
という利点があります。またサンプル増
は常に先端技術を選別し、次世代の技術
幅をしないでシーケンスをすれば、その
基盤をいち早く立ち上げ、効率的に使い
発現値もかなり正確です。これに対して
こなしていくことが、私たちの部署の使
後者は、PCRによる増幅バイアスの影響
命です」と大儀氏は語ります。大儀氏が
により多少正確性は RNA-seq 法より劣
率いる部署は、iPS 細胞を用いた病態モ
りますが、極めて少量のサンプルから簡
デル細胞や遺伝子改変モデル動物の構
便なプロトコールで誰でもライブラリを
築を中心に遺伝子発現解析など様々な
構築することができます。1 遺伝子につ
依頼業務が国内外の研究部門から舞い
き 1 領域だけを選択的に増幅して定量す
「企業ですから、取り組んでいる研究や
込みます。そんな中で、昨年 12 月に導入
るので、遺伝子の長さによるバイアスな
し、現在 2 人の担当者で月 100 件の解析
しに全ての遺伝子の発現を均等に定量
をこなすという、高い生産性で稼働中の
できます。何よりNGS 解析で一番悩まし
遺伝子発現解析の新しい手法について
話を伺いました。
網羅的な遺伝子発現解析法として
定量性を徹底比較
安価で簡便な実験で2 万種を超える遺伝
子群の挙動を一度に追うことができる点
は、高 価でここぞというときにしか使え
リアルタイムPCRシ
なかった NGS から、
ステムのように日常的な実験機器として
の NGSという発想に転換が出来ます。つ
まりどんなサンプルも測定さえしておけ
ば、取得した発現データリストは将来に
わたって使えるので、新たに同じサンプ
ルで別の遺伝子の挙動を追いたい時に、
もう一度実験をやり直す必要がありませ
ん。コスト的にも無駄がないですよね。も
ちろん 特 定 の 遺 伝 子を調 べる時はリア
ルタイム PCR システムやデジタル PCR
を使うなど、目的に応じて使い分けてい
くつもりです」と大儀氏は語ります。
さらに効率的な創薬のために
い 問 題であるデータ量が少なくてすむ
今、大儀氏が求めるのは、手法や技術の
のでそれに関わるコストも大幅に削減で
標準化。
「企業で製品化を進める場合、信
きます。また様々なデータ解析方法があ
頼性の高い技術基盤を共有できればさ
り、その手法ごとに解析結果が変わって
らに 創 薬 の スピ ードアップ が 図 れるは
くる RNA-seq 法に比べて、AmpliSeq
ず」と指摘します。
「もっと早く、もっと安
「 網 羅 的 な 遺 伝 子 発 現を精 度よく測 定
テクノロジー の 場 合 は 、遺 伝 子 の タ ー
く解析する工夫、機器の特長を活かした
する技術基盤を立ち上げるため、あらか
ゲッティングした部位に張り付いたリー
手法の選択、そういう情報を企業間で共
じめ数百遺伝子の発現データを定量性
ドの 数 を 数 えるだけというシンプ ル な
有すれば、各社のデータを再現・比較で
の 高 いリア ルタイム P C R で 測 定し、こ
デ ータ解 析 方 法 の ために、デ ータの 信
き、業界全体の技術力が向上します。そ
の デ ータを基に複 数 の 解 析 手 法を比
頼 性が特に求められる場 合にはとても
のために、現場で試行錯誤している人々
較しました」と大儀氏。
「その結果、次世
大きな強みとなります」と選定のポイン
の交流を深めていきたい」。企業として
代シー ケンサ( N G S )の 定 量 性 が 非 常
トを説明します。現在、大儀氏の部署で
果たすべきシビアな選 定 基 準と日々の
に優れていることを確認しました。そこ
は、Ion AmpliSeq™ Transcriptome
技術改良の積み重ねが、これからの技術
で N G S の 手 法として 、R N A - s e q 法と
H u m a n G e n e E x p re s s i o n キットと
革新をますます加速しそうです。
iontorrent
page 07
Technical Review 次世代シーケンサで定量性の高い発現解析
Ion AmpliSeq Transcriptome Human Gene Expression Kit を用いた網羅的遺伝子解析
[要旨] RNA-Seq 法で次世代シーケンサを利用する網羅的遺伝子発現解析は、従来のマイクロアレイを凌ぐ定量性で注目を集め
ています。Ion AmpliSeq™ Transcriptome Human Gene Expression Kit( Ion AmpliSeq Transcriptome Kit )は、mRNAや
全転写産物を対象とするRNA-Seq 法とは異なり、
トータルRNAを逆転写後、遺伝子上の特定個所を対象にPCR 増幅し、次世代シー
ケンサで定量します。増幅用のプライマーペアは、ゲノムと区別するため、イントロンを挟むエクソン領域に設計され、サンプル当た
りわずか10ng の RNA 量で2 万種を超えるヒト遺伝子の発現定量を行うことが可能です。ここでは、Ion AmpliSeq Transcriptome
Kitによる遺伝子発現定量の結果、及びRNA-Seq 法とリアルタイムPCR 法との比較を報告します。
[実験] 市販の肺がん由来 Total RNA をサンプルとし、3 通り
[結果] 実験の結果、Ion AmpliSeq Transcriptome Kitによ
の 解 析 法で遺 伝 子 発 現 量を比 較しました。手 法 ①と②は Ion
る解析では、90% 以上のリードが遺伝子へマップされ、そのうち
Proton™ システムで測定し、③は AppliedBiosystems™
ViiA™ 7リアルタイムPCRシステムで測定しました。
た結果も既報( 1 )
と良く一致しました(表 1 )。
10リード以上マップした遺伝子は 67% 以上でした。また得られ
次に3 種類の解析を比較した結果、すべてにおいて低発現から
● サンプル
高発現まで非常に良く一致しました(図 1 )。今後それぞれの特
FirstChoice™ Lung Tumor/NAT Total RNA
徴を活かした発現解析が可能であると考えられます(図 2 )。
● 発現解析法 ① AmpliSeq 法: Ion AmpliSeq Transcriptome Kitを使用し、
Technical replicate x3 の平均値で表示。
② RNA-Seq 法:Ion Total RNA-Seq v2 を使用。
③ 定量 PCR 法: AppliedBiosystems™ TaqMan™ Array
Human Molecular Mechanisms of Cancerを使用。
B
AmpliSeq Transcriptome Kit
A
mRNA-Seq
AmpliSeq Transcriptome Kit
Log2FC
Log2FC
遺伝子名
論文中のデータ
解析法①の結果
遺伝子名
論文中のデータ
解析法①の結果
AGER
down
-88.0052
GREM1
up
30.7879
CACNA2D2
down
-79.3556
TFAP2A
up
35.0358
CLEC3b
down
-19.1775
SLC6A8
up
37.8938
GPR116
down
-17.5908
COL10A1
up
41.521
COL4A3
down
-16.1268
SLC2A1
up
53.6183
ST3GAL5
down
-10.5896
KRT17
up
408.656
RHOBTB2
down
-7.39753
PKP1
up
459.591
THBS2
up
8.83319
KRT15
up
497.758
SULF1
up
10.7116
NKX2-1
down
#N/A
COL1A1
up
14.737
GATA2
down
#N/A
COL1A1
up
14.737
GJB2
up
#N/A
CTHRC1
up
20.5124
表 1 Ion AmpliSeq Transcriptome Kit の結果と論文データの比較
論文ではコントロールとサンプル遺伝子の発現比較を down/up で表していますが、Ion
AmpliSeq Transcriptome kit の結果はFold change で示しています。
RNA-Seq
qPCR
図 1 各手法間の解析結果の比較
( A )縦軸:Ion AmpliSeq Transcriptome Kit(解析法①)、横軸:RNA-Seq 法(解析法②)
( B )縦軸:青丸(解析法①)、赤丸(解析法②)、横軸:定量 PCR 法(解析法③)
[まとめ]
次世代シーケンサの普及とともに、様々なアプリケーションが
考案され、実施されています。遺伝子発現プロファイルを検討
アプリケーション
特徴
発現解析対象の領域例(ヒト)
RNA-Seq 法
新規転写産物、アイソフォーム
も区別
発現しているもの全て
Ion AmpliSeq
Transcriptome Kit
ターゲットを絞った解析
約 20,000 遺伝子
Ion AmpliSeq RNA Kit
より少数の遺伝子にフォーカス
数 10~1,200 遺伝子
いことから、多サンプル解析ではコストと解析データ量のバラ
定量 PCR 法
単一遺伝子からの発現解析
1~ 最大 380 遺伝子
ンスを考慮した実験デザインを慎重に検討する必要があります。
するために行われる、RNA-Seq もその代表的な手法として挙
げられます。RNA-Seqはマイクロアレイ法よりも詳細に発現動
態を把握できる有効な手法ですが、解析に必要なデータ量が多
今回の結果により、Ion AmpliSeq Transcriptome Kitを使う
Whole Transcriptome
ことで、網羅的かつ簡便に遺伝子発現プロファイルが得られ、
リ
Targeted RNA-Seq
アルタイムPCRを含めた定量性の高い遺伝子発現解析手法の
図 2 様々な遺伝子発現解析方法の比較
RNA-Seq の解析対象は広範に及びますが、データ量やコストとのバランスを考慮する必
要があります。これに対して、ターゲットを絞った Ion AmpliSeq 法での解析は、データ量が
RNA-Seq 法より少なく、簡便に遺伝子発現動態を把握できます。
一選択肢として非常に有用であることが示されました。
( 1 )Gene expression profiling reveals novel biomarkers in nonsmall cell lung
cancer. Sanchez-Palencia A, et al . Int J Cancer. 2011 Jul 15;129( 2 ):355-64
AppliedBiosystems
page 08
高い特異性、再現性、感度を兼ね備え、Power SYBR が進化 !
■ PowerUp SYBR Green Master Mix
NEW!
AppliedBiosystems™ PowerUp™ SYBR™ Green Master Mix は、
リアルタイムPCR の遺伝子発現解析に最適な試薬です。
高い特異性を軸に、優れた再現性と感度を兼ね備え、安定した実験が行えます。
● 新しい Dual-Lock™
DNAポリメラーゼで高いパフォーマンスを実現
● 豊富な経験から、bufferと添加剤組成を最適化
● 様々な機器に対する幅広い対応性
▶ 様々な技術革新で、幅広いニーズに応えます。
技術革新
特長
メリット
反応初期の低温下での非特異増幅を抑制。
高い特異性とプライマー最適化を含む条件検討にかける時間を最小限に。
サイクル反応前の実験設計の自由度が高くなります。
調製後の反応液は、72 時間 まで安定。
Dual-Lock™ DNA ポリメラーゼ
複数枚の実験や共通機器を使う実験などに、時間的余裕が生まれます。
安定したTaq 活性化により、重複実験におけるCT 値が
高い再現性によりフォールドチェンジの識別を改善し、
標準偏差値を小さくします。
データの信頼性を高めます。
と高い感度( 1コピー)。
広いダイナミックレンジ( 6 logs )
少ない転写産物でも、高い精度で信頼の結果が得られます。
最適化された SYBR Green 色素
様々な機器に幅広く対応。
プラットフォームを選ばない、最適な試薬。
Heat-labile ウラシル -DNA グリコシダーゼ
サイクル反応の前に、dUTPを含む増幅 DNAを分解。
他のウェルからの持ち込みによるコンタミネーションを回避。
15 年以上の定量 PCR 試薬開発から得られた、
最適な Buffer 組成と特別な添加剤組成
▶ 高い特異性で、クリアな結果を提供します。
他社製品 R
わずかな変化もキャッチ。
他社製品 Q
→
→
→
→
→
→
GAPDH
他社製品 QB
C T Standard Deviation
他社製品 B
PGK1
PowerUp SYBR
Green Master Mix
▶ 高い再現性で、
Average C T
→
→
→
ABCC2
90% of std dev ≤ 0.2
図 1 各社マスター Mixに対する解離曲線
図 2 C T値の標準偏差
3 種類の遺伝子に対して5 社のマスター Mixを比較しました。すべての遺伝子に対し、PowerUp SYBR Green Master Mix のみシン
複数回の実験を行い、C T 値の標準偏差をグラフ化しました。そ
グルピークの解離曲線となりました。矢印は、非特異的な産物の増幅を示すピークを指しています。
の結果、90% の実験において、標準偏差は0.2 以下でした。 製品名
サイズ
製品番号
価格
PowerUp SYBR Green Master Mix
1 mL
A25741
¥9,500
2 × 1 mL
A25779
¥17,100
5 × 1 mL
A25780
¥40,500
10 × 1 mL
A25918
¥78,500
5 mL
A25742
¥36,800
2 × 5 mL
A25776
¥71,400
¥173,300
5 × 5 mL
A25777
10 × 5 mL
A25778
¥336,000
50 mL
A25743
¥315,000
AppliedBiosystems
page 09
User's Voice
山田岳史 氏(日本 医 科 大 学
消化器外科 講師)
デジタル PCR 法で血中循 環 DNA から KRAS 遺 伝 子 のレア 変 異を検出
大 腸 が んにお け る EGF 受 容 体 阻 害 剤 の 高 感 度 な 効 果 予 測 へ
cfDNA からKRAS 、NRAS 、BRAF 遺伝
子など腫瘍増殖に関わる遺伝子を対象
PCR を使用し、多くの臨床サンプルから
1% 以下の KRAS 変異を検出し、KRAS
に変異スクリーニングを行いつつ、特に
変異が検出されない患者さんでは高率
変異率が高い KRAS の 7 か所とBRAF を
に抗 EGFR 抗体が奏効することを確認し
ています。またデジタル PCR では 0.1%
cell-free DNA: cfDNA )を調べ、がん
AppliedBiosystems™ QuantStudio™
3D デジタル PCR システムで測定して
います 。
「 2 0 1 2 年 、大 腸 が んにおける
EGFR 阻害剤治療奏効性は、突然変異し
たKRAS 遺伝子を持つ患者で低下すると
報告されました。EGFR の下流のシグナ
ル伝達分子であるKRAS が、変異により
常に活性化してしまうと、EGFR 阻害剤の
の診断や分子標的医薬品の治療効果を
薬効が落ちてしまうということです。大腸
プルの解析を終え、さらにペースを上げ
予測する研究が進んでいます。
「 cfDNA
がんでは、原発巣の KRAS が野生型の患
ていく予定」と山田氏は続けます。
組 織 から血 中に放 出され 、末 梢 血 中を
循環する血中循環 DNA ( circulating
には、正常組織からの DNAも含まれるの
者さんの約 10%で、転移巣にKRAS 変異
で、1% 以下の変異率を正確にモニター
が認められます。
しかし転移巣からの生検
する測定系が必要です」。こう語るのは、
は困難なため、従来法では転移巣の変異
日本医科大学の山田岳史氏。現在、大腸
は検出できません。また抗 EGFR 抗体投
がんにおけるEGF 受容体( EGFR )阻害
与で KRAS が変異する、あるいは KRAS
剤の感受性予測方法を始め、治療に役立
変異クローンの割合が増加することが示
つ臨床研究を精力的に進めています。
されており、
これを治療中にモニタリング
大腸がんバイオマーカーとしての
cfDNA の有用性
やかに次の治療に切り替えられます」
と研
「バイオマーカーの活用は、①診断、②予
後予測、③効果予測、④治療のモニタリ
ングの 4 つがあります。このうち大腸がん
では、従来からの腫瘍マーカーが使える
できれば早期の耐性予知につながり、速
究の意義を説明します。
レアな変異遺伝子を
正確に検出するために
「しかし多くの患者さんでは cfDNAにお
きざみで絶対定量できるので、KRAS 変
異 型 の 患 者さん の 腫 瘍マーカーとして
利用できる可能性があります。現在、2 人
の大学院生が週に数日、サンプルを解析
しています。操作が簡単なので、研究歴
が浅くても十分に機械を使いこなせます。
すでに私たちのグループでは、200 サン
治療に役立つ研究に集中
「基礎研究では、がんの発生や転移のメ
カニズムの解明は重要なテーマです。し
かし私 た ち は 臨 床 医 で すから、基 礎 研
究 の 成 果をいち早く臨 床 応 用すること
を目 指して います 。で すから未 知 遺 伝
子 の 探 索よりも 、臨 床 的に重 要 な 既 知
遺 伝 子を素 早く高 感 度に測 定すること
が重 要です。抗 体 製 剤が次 々に発 売さ
れ、personalized therapy の進展が目
覚ましい昨今ですが、今後は real time
な分子診断を組み込んだreal time
personalized therapy への発展が望ま
のは②と④、また、現時点において血中
けるKRAS の変異比率はわずか 1% 以下。
れます。デジタルPCRによるcfDNA の変
循環腫瘍細胞( CTC )は②のみです。一
次世代シーケンサは、網羅的な遺伝子解
異解析の臨床的重要性が増加しそうで
方、cfDNA は 4 つ全てに活用できる可能
析には向きますが、変異解析精度は 2%
性があり、採取できない症例も多い CTC
程度。またリアルタイムPCR でも基本的
に対して 、1 0 0 % の 方 から採 取 可 能 で
には1% 程度です。そこで私たちは、変異
す」と有用性を語ります。山田氏は、現在、
解析において最も感度が高いデジタル
す」。最新の基礎研究の知見や技術をい
かに臨床につなぐか、その一点に集中し
て取り組むことが、研究全体の存在感を
さらに強めていくようです。
デジタル PCR でレアな遺伝子変異にアプローチ
■ QuantStudio 3D デジタル PCR システム
コンパクトサイズで使いやすいデジタル PCRシステムです。がん研究で汎用される遺伝子変異検出キットを
AppliedBiosystems™ TaqMan™ SNP Genotyping Assaysとして続々とラインアップ中 !
製品名
サイズ
製品番号
QuantStudio 3D デジタル PCR システム ProFlex PCR システム付き
1式
QS3D-PF( 2 年保証)
価格
Custom TaqMan SNP Genotyping Assays for Rare Mutation Analysis
12 反応
4383547
¥ 11,500
450 反応
4332077
¥ 65,900
¥ 6,400,000
Thermo Scientific
page 10
新しい 時 代 を切り拓く
疾 患プロテオー ム 解 析 へ
高 精 度 質 量 分 析 計と解 析 キットで
網 羅 的 定 量 解 析を推 進
足立 淳
朝長 毅
氏
氏
医薬基盤・健康栄養研究所
医薬基盤・健康・栄養研究所プロテオームリサーチプロジェクト プロジェクトリーダー ,
プロテオームリサーチプロジェクト プロジェクト研究員
日本プロテオーム学会会長
質量分析計の急速な進歩に伴い、疾患プロテオーム研究が世界中で広がりを見せています。
「現在の技術を駆使すれば、数千、数万のタンパク質を一瞬にして同定できるだけでなく、
一回の解析で数万サイトのリン酸化部位などの翻訳後修飾の同定も可能です」と医薬基盤・健康・栄養研究所の朝長毅氏は語ります。
同研究室の足立淳氏と共に、高精度な質量分析計や安定同位体を利用した試薬キットを活用し、
疾患プロテオームという切り口で最新技術を今後の医療に役立てるために、日々精力的に研究を進めています。
お二人に、ライフサイエンス研究における質量分析計の利用について伺いました。
Thermo Scientific
page 11
分画しながら解析するため、感度・特異度が
医療分野への質量分析計の利用と
上がります。また、安定同位体標識した内部
今後の活用は?
標準ペプチドをサンプルに加えることで、臨
床検査に欠かせない定量性が保証されます。
朝長氏
臨床関係では、数年前から大学病院におい
て質量分析計を利用した細菌検査が実施さ
れるようになりました。現在は主に菌の種類
を迅速に同定できる検査法として用いられ
ていますが、今後は薬剤感受性検査も可能
となることが期待され、質量分析計を用い
た細 菌 検 査はさらに普 及しそうです。また
今後の可能性として、現在よいバイオマー
カーのない、種々の疾患のマーカーの探索
及び診断への応用はもちろんのこと、個別
化医療にも活用されることが大いに期待さ
れます。例えばがんにおけるコンパニオン
診断(個々の患者さんの薬の効きやすさの
判定)は、現在、主に遺伝子検査で行われて
いますが、抗がん剤(分子標的薬)の多くは
キナーゼ阻害剤であり、キナーゼ活性その
ものを直接リン酸化プロテオームで解析す
る研究を私たちは進めています。キナーゼ
活性が高い患者さんには阻害剤が良く効き、
活性が低い方には効果も低いはず。リン酸
化プロテオーム解析から薬剤への感受性を
予測したいと思っています。
足立氏
具体的には、がん細胞に対して、薬剤の有無
前述の細菌検査は、使い方が簡便なMALDITOFで測定しますが、それはサンプルがほぼ
細菌だけの単純な試料で、細菌の種類の同
定が目的だから。将来的に、複雑なサンプル
の解析を必要とする血液や尿の生化学検査
に質量分析計を応用するためには、使いやす
いLC-MSの開発が必須です。
足立氏
堅牢性と言う点も重要ですね。多成分を一
度に測定できても故障したり、精度が落ち
ては意味がありません。特に臨床での応用
医学部卒業後、8 年間外科医として臨床に携
わっていました。その頃は、がんの治療であ
に使います。私たちの研究室にも複数台の
れば手術、診断は画像解析が主流で、信頼で
LC-MS がありますが、それぞれの目的に合
きる高感度のバイオマーカーがほとんどあり
わせて使い分けています。さらに精度の高
ませんでした。今後、質量分析計による疾患
さは、
リン酸化部位の決定においても重要
プロテオーム解析を基盤に、医療や健康に役
です。現在、使用中の Q Exactive 質量分析
立つ研究を進めたいと思っています。そのた
計 ※ 2 の検出部にはオービトラップが使われ
めには血液中の微量なバイオマーカーを見
ており、他の検出装置よりも高い精度でしか
つけて病気の早期診断に応用したり、
リン酸
も堅牢性が高く安定して使えています。
化プロテオーム解析を用いて抗がん剤のコ
※ 2 Thermo Scientific™ Q Exactive™ ハイブリッド四重極
ンパニオン診断や治療法の選択に応用する
オービトラップ質量分析計
今後の抱負を聞かせてください。
足立氏
リン酸化プロテオーム解析に限らず、創薬に
ファイルを効率的に取得できて便利ですね。
など、多くの共同研究者とともに様々な局面
で役立つプロテオーム解析を実施していき
たい。数年後には、医療現場にも質量分析技
術をさらに浸透させたいと考えています。
べています。例えばサーモフィッシャーサイ
利用して一度に解析できます。リン酸化プロ
朝長氏
た質量分析計は、同定や定量などの目的別
おける細胞内リン酸化の変化を網羅的に調
種類の細胞における変化を、異なるタグを
経験によることなく、誰でも使える技術にな
るための技術開発も進めています。
を考えた場合、耐久性が必要とされます。ま
や投与後の時間経過など、複数の条件下に
エンティフィックの TMT 試薬 ※ 1を使えば 10
目標です。また質量分析が、熟練者の勘や
役立つ ATP 結合タンパク質の網羅的な解析
も進めています。新たな技術によって、これ
までできなかったことを可能にすることが
また私たちは前処理用にイエローチップの
先に陽イオン交換樹脂を詰めたカラムを用
いて、サンプルを 7 つに分画しています。こ
※ 1 TMT 試薬とは?
の方法により、現在分画に主に用いられてい
る煩雑な HPLC を使うことなく、簡易により
深い解析ができるようになりました。これを
使うと、例えば HeLa 細胞で、15,000 サイト
のリン酸化変動を追跡することもできます。
Thermo Scientific™ TMT 10 plex™
I s o b r i c 試 薬は、複 数 の サンプ ル 中 の
様々なタンパク質を質量分析計で同時
に同定、定量するための試薬です。最大
10 種類のサンプルに含まれるタンパク
質消化物を異なるタグでラベルして解
質量分析法の選び方のポイントは?
析します。それらのタグは、化学式は同
じですが、同 位 体 の 数と組 み 合わせが
それぞれ異なり、質 量 分 析においてレ
朝長氏
細胞抽出液や血液など、複雑なサンプルを
解析するには、
やはりLC-MSが適しています。
質量分析の前に、液体クロマトグラフィーで
ポーターイオンとして働きます。測定は
高分解能のオービトラップ LC-MS/MS
で行い、ペプチドを同定し、レポーター
イオンで比較定量します。
質量分析機器のお問い合わせはこちら ▶ TEL 0120-753-670
Invitrogen
page 12
細胞研究ワークフローを加速しよう!
細胞研究には、日々の地道な培養作業と目的に合わせた細胞解析システムが必要です。
サーモフィッシャーサイエンティフィックは、基本作業を最小限に抑え、
効率よく成果を積み上げていくワークフローを提供しています。ぜひご活用ください。
▶ お勧めのワークフロー
1. 細胞の世話 & 実験準備
2. 細胞数の計測
細胞の培地交換や継代を行い、解析用の細胞を目的に応じたディッシュに準
再現性の高い実験には、細胞数カウントが基本。Invtrogen™ Countess™
備。iPS/ES 細胞には、Gibco™ Essential 8 Flex 培地がお勧めです( P14 )。
Ⅱ FL 自動セルカウンターを使えば、素早く正確に測定でき、蛍光チャン
ネルで細胞生存率や蛍光タンパク質の発現を計測できます。
3. 細胞観察
4. フローサイトメーターで解析
Invitrogen™ EVOS™ FL
Imaging システムなら直接モニ
Invitrogen™ Attune™ Nxt Acoustic Focusing なら
独自のアコースティック技術で、最速1,000µL/minのサン
プル流量。最大4本レーザーで14色検出します。
ターで確認できるので、長時間の
細胞観察でも目が疲れません。し
かも明るい部屋でも蛍光観察で
きる優れもの。
5. 細胞イメージアナライザーで測定
Thermo scientific™ Array Scan™ HCSシステムは、細
胞1つ1つから500項目以上の観察データを定量化。使い
やすいハイコンテントスクリーニング
(HCS)
システムです。
DNA 修復機構に対するハイスループット解析法の開発へ
細胞イメージアナライザー ArrayScan HCSシステムで迅速かつ正確に病気の原因遺伝子を突き止める
DNA 修復機能の異常により、ゲノムの安
しました。研 究を進めつつ、DNA 修 復 活
雑で、検出までに時間を要することがネッ
定維持が困難な「ゲノム不安定性疾患群」。
性の測定法を開発し、効率よく細胞をスク
その多くは未だに発症メカニズムや分子病
リーニングするハイスループット解析法を
態が不明です。しかもこれらの遺伝性疾患
開発しています。
ニ ルデオキシウリジン( E d U ) やエチニ
DNA 修復機構に関わる
り込ませ、蛍光色素標識することで、核内
ルウリジン( EU )を DNA 損傷処理後に取
は様々な病態がオーバーラップし、確定診
断が困難なことから、遺伝子レベルでの理
解が期待されてきました。
名古屋大学の荻朋男氏らのグループでは、
遺伝子を特定する
年間で約 500 例の検体を収集し、疾患原
DNA 修 復 機 構 の 1 つであるヌクレオチド
除去修復機構( NER )には、全ゲノム修復
( GG-NER )と転写と共役した修復( TCNER )の 2つがあり、この 2つの修復活性を
測定することは、NER 欠損性疾患の正確
な診断につながります。これまで、RIを利用
して修復時のごく微量の DNA の取り込み
因となる遺伝子の変異を新たに 8 つ発見
を測定するのが一般的でしたが、操作が煩
細胞の DNA 修復機構に関わる疾患の原
因遺伝子の解析を進めています。これま
で、色素性乾皮症、コケイン症候群、紫外
線高感受性症候群、ゼッケル症候群、その
他小頭症を示すゲノム不安定性疾患等、5
クでした。
「 GG-NER や TC-NER の解析では、エチ
の蛍光強度から各々の修復活性を正確に
定量する手法を確立しました。EdU や EU
は細胞への影響も少なく、低分子なので
DNAにも問題なくアクセスできます。今後、
正確で迅速な修復活性測定法の 1つとなっ
ていくでしょう」と荻氏。近年、この測定方
法に、組み換えウィルスベクターによる相
補性試験を組み合わせ、疾患の原因遺伝
子を突き止めるワークフローを確立しまし
Invitrogen
page 13
一般的なフローサイトメーター
Attune NxT Cytometer
M ORE
INFO
詳しくはホームページをご覧ください。
Attune NxT Acoustic Focusing Cytometer ▶ www.thermofisher.com/Attune
Array Scan HCSシステム ▶ www.thermofisher.com/HCS
User's Voice
荻 朋 男 氏( 名 古 屋 大 学 環 境 医 学 研 究 所
発 生 遺 伝 分 野 教 授 )、中 沢 由 華
氏( 長 崎 大 学 原 爆 後 障 害 医 療 研 究 所
ゲノム 機 能 修 復 学 研 究 分 野 助 教 )
た。ここから未知の遺伝子変異が原因であ
かっていましたが、このシステムを使えば、
る症例が見つかれば、次世代ゲノム解析で
1‐2 時 間 で 結 果 がでるようになりました 。 ル稼働で研究中、と語る荻氏と中沢氏。信
疾患原因の候補遺伝子を探索し、再び相補
一つひとつの細胞を測定できるので、ばら
頼度の高い診断/解析法の開発にむけて、
性試験とDNA 修復活性測定を行うことで、
つきも正確に把握でき、再現性の高い結
再現性を高め、病態解明にもつながる研
複数の候補遺伝子の中から新規の原因遺
果を高速で得られます。また異なる蛍光色
究を精力的に進めています。
伝子を特定することができるそうです。
素を使うことで修復活性と細胞周期を同
細胞内の DNA 修復活性を
ArrayScan HCSシステムで
ハイスループット解析
検出できて楽ですね」と荻氏。
時に測定できるなど、2 つの標的を一度に
同研究室の中沢由華氏は「操作も簡単で、
1,2 回教われば誰でも同じ結果が出る再
細胞における核内蛍光強度を検出するに
現性の高さがメリットですね。ボタンが少
は、ハイスループットで細胞イメージング
なく操作もシンプルなので、学生実習の教
が行えるArrayScan HCSシステムを利用
材にも活用しています。プログラム改変も
している、
という荻氏。
「従来の細胞イメー
自分の設定したい環境にしやすいです」と
ジアナライザーでは測定と撮影に丸 1日か
評価します。
ArrayScan HCS システムは毎日ほぼフ
Gibco
page 14
週末の培地交換が不要 ! 新しい iPS/ES 培養用培地
■ Essential 8 Flex 培地
Gibco™ Essential 8™ Flex 培地は、FGF2 などの PSC ※培地に含まれる主要な熱感受性成分
の活性を、より長い期間持続するように改良しました。多能性幹細胞の性能に影響を及ぼすことなく、
週末の培地交換が不要になります。
※ pluripotent stem cell, 多能性幹細胞
● 毎日の培地交換から解放され、
フレキシブルな培養スケジュールを立てられます。
● オリジナルの Essential
8 培地から簡単に移行可能。
● 長期間の培養における多能性および正常な核型の維持を実証済み。
NEW!
▶ フレキシブルな培養スケジュールへ
Day 1
Day 2
Day 3
Day 4
Day 5
Day 6
継代か
培地交換
Day 7
▼
従 来の方 法
週
継代
培地交換
培地交換
培地交換
継代
培地交換
培地交換
Day 1
Day 2
Day 3
Day 4
Day 5
Day 6
Day 7
7日
毎日、培養作業。
Flex 培 地の方 法
継代か
培地交換
▼
週
継代
休日
休日
休日
培地交換なし
培地交換なし
培地交換なし
培地交換
継代
培地交換
4日
週末の休暇を確保 !
▶ 長期間でも安定に培養
外胚葉
Essentiak 8 Flex 培地
内胚葉
中胚葉
他社培地 1
他社培地 2
他社培地 3
図 1 PSC 培地における FGF2 活性
図 2 Essential 8 Flex 培地で培養
図 3 Essential 8 Flex 培地で培養した細胞の三胚葉系列への分化能を確認
の経時変化
した細胞の長期的安定性
Essential 8 Flex 培地で培養したPSC 細胞の内胚葉、中胚葉、および外胚葉
他社のフィーダーフリー培養培地と
は異なり、Essential 8 Flex 培地は、
Essential 8 Flex 培地で長期培養
した PSC で、正常な核型が観察され
発的分化と、神経幹細胞、心筋細胞、および胚体内胚葉細胞への直接的分化を
FGF2 などの不安定な成分の活性を
ました。 用いて確認しました。
系列への分化能は、長期培養の影響を受けません。分化能は胚様体からの自
高めるように最適化されています。培
地を毎日交換する必要がありません。
製品名
サイズ
製品番号
Essential 8 Flex Medium
構成品: Basal Medium 500 mL, Supplement 10 mL
1 キット
A2858501
価格
¥ 29,800
Thermo Scientific
page 15
0.5 µL からの超微量サンプルを測定 !
■ NanoDrop シリーズ
Thermo Scientific™ NanoDrop™
シリーズは、ライフサイエンス分野向
けに特 別 設 計された超 微 量 紫 外 可 視
分光光度計です。特許技術のサンプル
保持システムで、わずか 0.5 ∼ 2.0 µL
のサンプルを直接測定します。
NanoDrop 2000 / 2000C
NanoDrop Lite
NanoDrop 8000
NanoDrop 3300
▶ NanoDropシリーズ独自のサンプル保持システム
サンプル測定部は高度に磨かれ、疎水加工されたステンレス製台座で
す。サンプルをピペットで滴下するだけで、わずか0.5 µL(スタンダー
ドモデル)の超微量サンプルを正確に測定します。また拭き取るだけ
で次のサンプルを測定でき、キャリーオーバーの心配がありません。
サンプルをアプライ
アームを下ろして測定
拭き取り
NanoDrop 2000 / 2000C ※
NanoDrop Lite
NanoDrop 8000
NanoDrop 3300
機器タイプ
分光光度計
分光光度計
分光光度計
蛍光光度計
最小サンプル容量
0.5 µL
1 µL
1 µL
1 µL
測定波長
190∼800 nm
260/280 nm
200∼750 nm
400∼750 nm
吸光度測定範囲
0∼300 Abs
0∼30 Abs
0∼75 Abs
―
検出範囲
2∼15,000 ng/µL( dsDNA )
4∼1,500 ng/µL( dsDNA )
2.5∼3,700 ng/µL( dsDNA )
特長
スタンダードモデル
コンパクトモデル
多サンプル測定
(蛍光検出限界:<1 fmol )
(蛍光測定範囲:>4 logs )
蛍光測定
※ 2000Cはキュベットでも測定可能
Close
up
パーソナルユースにピッタリ
多サンプル測定にオススメ
■ NanoDrop Lite
■ NanoDrop 8000
● 測定波長を260/280
● マルチチャネルピペットで、
nmに
特化したコンパクト設計
最大 8 サンプルまでを同時測定
●ソフトウェア内蔵のオールインワンタイプ
[迅速測定]
サンプル量 1 ∼ 2 µLで、96 サンプルを6 分未満で測定
[手のひらに乗るコンパクト設計]
設置面積は、わずか16×11.5 cm
[ラベルシールで間違いなし]
内蔵プリンターでノートやチューブ用のラ
ベルシールを印刷できます。フリーザー保
存でも剥がれにくいラベルです。
製品名
サイズ
製品番号
NanoDrop 2000
1式
ND-2000-JPN
¥ 1,750,000
価格
NanoDrop 2000C
1式
ND-2000C-JPN
¥ 2,050,000
NanoDrop Lite
1式
ND-NDL-JPN
NanoDrop Lite(プリンター付き)
1式
ND-NDL-PR-JPN
NanoDrop 8000
1式
ND-8000-JPN
¥ 3,800,000
NanoDrop 3300
1式
ND-3300
¥ 1,900,000
¥ 920,000
¥ 980,000
Invitrogen
page 16
いいとこ取りの " 次世代 " 二次抗体 !
NEW!
■ Superclonal 二次抗体
Invitrogen™ Molecular Probes™ Alexa Fluor™ Superclonal™ 二次抗体は、
「モノクローナル抗体の特異性」と「ポリクローナル抗体の感度」を併せ持つ、これまでにはない新発想の二次抗体です。
● モノクローナル抗体同様、抗体産生細胞をクローニングしているのでロット間差が小さい。
● さらに遺伝子をクローニング・保存しているので、ロット間差が極めて小さい。
● 特異性が高く
(バックグラウンドも交差反応性も低く)、感度の高いクローンを選択し、
それらの抗体をプールして製品化しているのでポリクローナル抗体のように高感度。
▶ 抗体種類による性能比較
Superclonal 抗体
モノクローナル抗体
ポリクローナル抗体
感度
★
★
★
★
★
★
☆
☆
★
★
★
★
特異性
★
★
★
★
★
★
★
★
★
☆
☆
☆
特性の明確さ
★
★
★
★
★
★
★
★
☆
☆
☆
☆
エピトープ
複数のエピトープに結合
既知(確定済み)
1つ
既知(確定済み)
複数のエピトープに結合
未知(未確定)
▶ 一般的な抗体と組み換えによる抗体の比較
標準ウサギ ポリクローナル抗産生
免疫
標準マウス モノクローナル抗体産生
免疫
組換え抗体産生
免疫
ハイブリドーマの作製
抗体遺伝子の
クローニング
血清回収
ハイブリドーマの維持
抗体混合物の精製
単一クローンの
精製と発現
単一クローンか
混合物の精製と発現
血清を使い切ると、新ロットを作製する
細 胞クローンの 変 動によってロット間
抗体遺伝子をクローニングすることで、
ために、完全に新しい免疫作業が必要
差 が 生じたり、場 合によっては 細 胞ク
ロット間 変 動 性を極 限まで抑えられま
で、大きな変動性のリスクがあります。
ローンから抗体が発現しなくなるケー
す。Superclonal 抗体はこの方法を利
スがあります。
用して作製します。
Invitrogen
page 17
▶ Superclonal 二次抗体の作成手順
抗体遺伝子に対する複数の cDNAライブラリー
良い抗体だけをプールして製品化
HC(重鎖)
LC(軽鎖)
高い特異性と低いバックグラウンドを実現
A. Superclonal 二次抗体を使用
Alexa Fluor 488で標識したGoat Anti-Mouse IgG( H+L )
Superclonal 二次抗体を使用。鮮明な染色像が得られます。
HCとLC 遺伝子を様々に組み合わせたライブラリー
[ライブラリー 1 ]
[ライブラリー 2 ]
[ライブラリー 3 ]
HC
LC
HeLa 細胞の核を抗 Nucleostemin 一次抗体で反応後、異なる二次
抗 体で染 色しました( green )。右 図は、核を DAPI( blue )、actin を
Palloidin( red )で追加染色。
複数のモノクローナル抗体の発現
B. ポリクローナル二次抗体を使用
Alexa Fluor 488 で標識したGoat Anti-Mouse IgG( H+L )
ポリクローナル二次抗体を使用。非特異的な染色が観られます。
各モノクローナル抗体の特徴付け
親和性
交差反応性
免疫細胞化学
ウェスタン解析
ELISA
▶ Superclonal 製品の種類と製品番号
反応する生物種
ホスト
Anti-Mouse
Goat
Anti-Rabbit
Goat
Anti-Mouse
Rabbit
Anti-Goat
Rabbit
Alexa Fluor
Unconjugated
(非修飾)
488
555
594
647
680
790
ビオチン
Horseradish
Peroxidase
A28174
A28175
A28180
A28182
A28176
A28177
( ¥30,000 )
( 46,000 )
( 46,000 )
( ¥46,000 )
( ¥30,000 )
( 36,000 )
A27033
A27034
A27039
A27040
A27041
A27035
A27036
( ¥30,000 )
( 46,000 )
( 46,000 )
( 46,000 )
( 46,000 )
( 30,000 )
( ¥36,000 )
A27022
A27023
A27028
A27027
A27030
A27024
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( ¥30,000 )
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A27011
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A27017
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A27020
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( ¥36,000 )
( ¥36,000 )
※製品は今後も追加予定です。
Invitrogen
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User's Voice
西 川 恵 三 氏( 大阪大学
免疫学フロンティア研究センター 特任准教授)
破骨細胞への分化を制御する代謝エピジェネティクス機構の解明にむけて
初代培養細胞へも迅速かつ簡便な遺伝子導入が可能な Lipofectamine MessengerMAX を活用
マウス骨髄由来の単球・マクロファージ
系の前駆細胞が破骨細胞へ分化する過
程で、細胞内代謝とエピジェネティクス
が深く関わることを発見し、その機構の
一端を明らかにした、大阪大学の西川恵
三氏らのグループ。分化制御と代謝エピ
ジェネティクスが交錯するという新しい
概念で、西 川 氏は破 骨 細 胞 の 分 子 機 構
の解明を進めています。
への効率良い遺伝子導入法を検討中で
mRNAに変換すれば半永久的に保存でき
す。
「これらの細胞は初代培養細胞系な
ること
(レトロウイルスは、作製後速やか
ので DNA による遺伝子導入はほぼ不可
に使用)、3つ目は非増殖性の分化細胞で
能で、レトロウイルスベクターがゴー ル
も使えること」。今後確認を続け、実験の
ドスタンダードでした」と西 川 氏 。
「しか
幅を広げることも視野にあります。
「発現
し試しに昨年発売された Invitrogen™
が速いので特定の分化のタイミングで遺
止まる分化誘導 2 日後の細胞で試してみ
さらに詳細な分化制御機構の解明へ
ました。レトロウイルスは増殖期にしか導
「今後はゲノム編集と組み合わせ、細胞
伝子を導入したり、間葉系幹細胞から骨
Lipofectamine™ MessengerMAX™
を使い、YFP を mRNA で導入したところ、 芽細胞へ分化させる実験などでも使える
かもしれません」。
30 分で蛍光を確認でき、24 時間後には
7-8 割の細胞で発現が観られ、その速さ
ゲノム編集と組み合わせ、
に驚きました(図参照)。次に増殖がほぼ
入できないので、発現は観察されません。
しかしMessengerMAX では、導入後 24
内代謝とエピジェネシスが破骨細胞の分
化制御にどのように関わるか、転写因子
時間で YFP の発現が確認できました。従
来、分化誘導後の遺伝子導入ではアデノ
ウィルスベクターを使っていましたが、作
への影響を含め、そのメカニズムを明ら
かにしていきたい」。西川氏らは、すでに
骨粗鬆症のモデルマウスにおいて、破骨
製に1ヶ月近くかかることがネックでした」
細胞特異的に Dnmt3a 遺伝子を破壊す
破骨細胞における
好気的代謝経路と分化調節
と西川氏。
「今回はYFP の結果ですが、
こ
ると骨破壊が抑制されること、Dnmt3a
のトランスフェクション試薬はウイルスベ
酵素活性の阻害剤が骨破壊を優位に改
破骨細胞内はミトコンドリアが豊富に存
クターに代わる遺伝子導入法になる可能
善することを明らかにしています。新しい
在し、好気的代謝が盛んです。西川氏らは
性がありますね」と話し、3 つのメリットを
概念で切り拓いた破骨細胞の分化運命
破骨細胞の分化過程における網羅的な
挙げます。
「 1 つ目は導入効率が70-80%
の決定機構が、創薬や新たな予防法開発
メタボローム解析から、好気的代謝とと
と非常に高いこと、2つ目は導入遺伝子を
への基盤としても活用されそうです。
もに誘導される代謝産物の S-アデノシル
メチオニン( SAM )が分化に伴って上昇
細 胞 を R A N K L( 破 骨 細 胞 分 化 因 子 )と M - C S F( マ
することを突き止めました。続いて SAM
クロファージコロニ ー 刺 激 因 子 )で 処 理し、破 骨 細 胞
代謝酵素を探索するため、
トランスクリプ
( Multinucleated TRAP+cells )へ分化誘導しました。
トーム解析を行ったところ、Dnmt3aを同
定。さらにDnmt3aはSAMと協調して、破
骨細胞の分化を抑制する転写因子である
IRF8 遺伝子座の DNAメチル化を制御す
[実験条件]
細胞:マウス骨髄由来の単球・マクロファージ系細胞
ることを明らかにしました。
導入方法:MessengerMAX( MM 法、上段)、
レトロウイルスベクター(ウィルス法、下段)
導入遺伝子:YFP(黄色蛍光タンパク質)
レトロウイルスベクターに
代わる可能性
導入効率:遺伝子導入後に分化誘導 MM 法:79%
〃
ウイルス法:60%
分化誘導後 2日目に遺伝子導入 MM 法:54%
現 在 、Dnmt3a の 機 能や破 骨 細 胞 の 分
〃
ウイルス法:2%
化に関わるいくつかの転写因子の研究
を進める西 川 氏 。そ の 一 環として、マウ
投稿中論文から一部改訂。
ス骨髄由来の破骨細胞やその前駆細胞
製品名
サイズ
製品番号
Lipofectamine MessengerMAX( mRNAトランスフェクション試薬)
0.75mL
LMRNA008
¥ 71,200
AM1345
¥ 92,200
mMESSAGE mMACHINE T7 ULTRA Transcription Kit( mRNA 転写キット) 10 反応
価格
他のサイズ等、詳細はwebで www.thermofisher.com/lipoMM
Thermo Fisher Scientific
page 19
い つ 行く ? どうす る ? 海 外 留 学
Title
Name
留学先は自力で探し、真の「ラボの一員」に!
財産は世界中の研究者と対等に渡り合う力
胡 桃 坂 仁 志 氏( 早 稲 田 大 学
Number
14
理 工 学 術 院 先進理工学部 電気・情報生命工学科 教授)
「ドクターをとってアメリカに行こう」。なんとなく日々過ごし
も多くのことを学びました。特に香港出身の優秀な大学生が、
ていた大学 4 年生の胡桃坂氏の心を揺さぶったのは、広々と
アメリカ大学院生のポジション探しの実際を見せてくれたん
したキャンパスのスライドと、クロマチン研究の魅力を熱く語
です。指導教官のツテで留学すると、ラボのお客様ですが、僕
る留学から一時帰国中の先輩の姿でした。
「僕でもアメリカ
はラボの一員として研究したかった。だから彼らと同じプロセ
「簡単だよ。
ドク
で研究できますか ? 」と指導教官に尋ねると、
スで、自分が興味を持ったラボヘッドに手紙を書き、関係者の
ターをとればよいだけ」と背中を押されます。
評判を確かめ、面接に臨みました」。そしてクロマチン研究の
世界各地の研究者と連携し、クロマチン研究を牽引する胡桃
権威であるNIH のアラン・ウルフ氏のもとに留学します。
坂氏。留学にあこがれ、研究者の道を歩み始めた頃のお話を
伺いました。
喧嘩と交流、刺激あふれる留学生活
「当初、クロマチン研究は地味な分野でした。しかしデビット・
ドクター取得へのまわり道
勢 い 込 んで博 士 課 程に進 みますが、そこには試 練が待ち受
けていました。実験結果を重ねて理論を組む実験生物学アプ
ローチが肌に合う胡桃坂氏は、研究室の理論先行方針に面白
味を見出せず、さらに人間関係にもつまずき、共通機器の使
用ができなくなるという事態に。実験が進まず、博士研究がス
トップする中、胡桃坂氏が思いついた戦略は「壁は乗り越えず
迂回する」こと。研究室を飛び出し、憧れていた理化学研究所
の柴田武彦研究室の門をたたき、再度ゼロから博士課程を歩
み始めます。
アリス氏がヒストンアセチル化酵素を発見したことで、状況
が一 変します。彼はアランの 研 究 室も時々訪 ずれていたの
で、僕は間近でこの研究が表舞台に出る瞬間に立ち会いまし
「ラボ内外で密なコミュ
た」。刺激にあふれた濃密な 2 年間。
ニケーションを取り、時には喧嘩もしました。テーマが面白く
ないとアランに伝えたら『 出ていけ ! 』と言われたこともあり
ます。仕 方がない ので別 の 研 究 室 のボスに進 退を相 談した
り・
・」。しかしそれでもアランのもとで研究を続け、独自の実
験を立ち上げ、最 後はそ のデータでアランを納 得させます。
この時テーマが、試験管内でのクロマチン再構成系。その後
日本で 10 年越しに実を結び、2011 年に Nature 誌に論文が
留学先選びは現地ドクターと同じプロセスで
掲載されます。
ところが迂回によって道が開けます。柴田研では、バクテリア
財産は、世界に広がる人脈
舞台は世界中どこにでも
の組み換え酵素の変異体を生化学的手法で解析することに。
そこで修士時代に培ったミリグラム単位でタンパク質を精製
する技術が威力を発揮し、4 月に研究開始、5 月には学会発表
に申し込 み 、10 月には論 文 投 稿と猛スピードで研 究が進 み 、
翌年 2 月、柴田氏の古巣のエール大学へ短期留学に送り出さ
れます。初めての海外生活、成果をあげて論文を執筆せよと
いう強いプレッシャーの中、研究に邁進します。
「実験以外で
グローバルな研究が当たり前の時代、海外の研究者と対等に
交流する力が必要です。
「それには留学中の経験や感覚が役
立つ」と胡桃坂氏。留学したことで物事の捉え方の違いを肌で
感じ、研究をとりまく海外のシステムを知りました。また当時の
仲間とのつながりは強く、今でも世界各地の著名なラボヘッド
たちから、卒業生をポスドクにほしいと声がかかります。
「若い
人は海外に行くべき。学ぶのは実験技術ではなく、経験のすべ
てが糧になる」。そして最後に一言、
「 外国人は人生を生きるの
がうまい。ライフをエンジョイする手段の 1 つがサイエンス。日
本人はサイエンスをするために苦痛を耐え忍ぶ。その差に愕
然としました」。留学は、胡桃坂氏のサイエンスとの向き合い
方にも大転換をもたらしたようです。
Yale 大学医学部前で
アラン氏と胡桃坂氏
1989 年東京薬科大学卒業後、95 年埼玉大学理工学研究科博士後期課程修了(学術博
士)、95-97 年アメリカ合衆国 国立保健研究所( NIH )博士研究員、理化学研究所研究員
などを経て、2003 年早稲田大学 理工学部助教授、08 年より現職。
2015 / October / No.32
INFORMATION
[開催報告]Gibco@FORUM 2015
再生医療・幹 細胞研究は細胞解析で進化する !
パーティーでは、
「川柳 in the ラボ」の各賞を発表。最優秀
2015 年 7 月9 日、品川・コクヨホールで Gibco@FORUM2015
を 開 催し、多くの 方 にご参 加 い た だ きました 。当 日 は 、i P S
細 胞 など多 能 性 幹 細 胞を使う疾 患 研 究 の 最 前 線を 3 人 の 研
ばれました ! 今年も力作ぞろいの川柳。他の賞は、下記 URL
究者の方々にご講 演 いただくとともに、本音を交えたパネル
でご覧いただけます。
ディスカッションも盛り上 がりました。また第 2 部 サイエンス
www.thermofisher.com/jp-gf2015
人気作品賞は投票で選出し、
「私より 食費が贅沢 iPS 」が選
抽選で 10 名様
にQuoカードを
プレゼント!
NEXT 10 月号はいかがでしたか ?
今号の特集は、大阪大学の仲野徹氏。次世代へ遺伝情報を受け継ぐ生殖細胞で、その情報を守る仕組みに興味が湧きます。そし
てついにゲノム編集の真打登場 ! 遺伝子導入が難しく、諦めていた細胞で、Cas9 ヌクレアーゼタンパク質をぜひお試しくださ
い。また前号に続き、質量分析計の情報を掲載しました。ライフサイエンス研究における活用法の参考にどうぞ。新製品情報や
ユーザーボイスも充実の NEXTに、コメントや感想をお寄せください。抽選で 10 名様にQuoカードをプレゼントします。
製品 & 読者アンケートはこちら → www.surveymonkey.com/s/NEXT32
photographs: ryoichi morikawa(p.02-03, p.10-11)
illustration: ryuji nouguchi(P04-05), motonobu hattori(p.13)
art direction & design: masami furuta, yuka uchida(opportune design)
edition: yuko hashimoto
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