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作業用ロボットへのマイクロ波送電 および通信技術の開発に関する
システム開発 17-F-10 作業用ロボットへのマイクロ波送電 および通信技術の開発に関する フィージビリティスタディ 報 告 書 - 要 旨 - 平成18年3月 財団法人 機械システム振興協会 委託先 財団法人 無人宇宙実験システム研究開発機構 序 わが国経済の安定成長への推進にあたり、機械情報産業をめぐる経済的、社 会的諸条件は急速な変化を見せており、社会生活における環境、都市、防災、 住宅、福祉、教育等、直面する問題の解決を図るためには技術開発力の強化に 加えて、多様化、高度化する社会的ニーズに適応する機械情報システムの研究 開発が必要であります。 このような社会情勢の変化に対応するため、財団法人機械システム振興協会 では、日本自転車振興会から機械工業振興資金の交付を受けて、システム技術 開発調査研究事業、システム開発事業、新機械システム普及促進事業等を実施 しております。 このうち、システム技術開発調査研究事業及びシステム開発事業については、 当協会に総合システム調査開発委員会(委員長:政策研究院 リサーチフェロー 藤正 巖氏)を設置し、同委員会のご指導のもとに推進しております。 本「作業用ロボットへのマイクロ波送電および通信技術の開発に関するフィ ージビリティスタディ」は、上記事業の一環として、当協会が財団法人無人宇 宙実験システム研究開発機構に委託し、実施した成果をまとめたもので、関係 諸分野の皆様方のお役に立てれば幸いであります。 平成18年3月 財団法人 機械システム振興協会 はじめに 本報告書は、財団法人無人宇宙実験システム研究開発機構が、平成17年度事業と して、財団法人機械システム振興協会から受託した「作業用ロボットへのマイクロ 波送電および通信技術の開発に関するフィージビリティスタディ」 の実施内容をま とめたものです。 被災地などの危険な状況下でロボット等を用いて作業を行うことが考えられる が、無線で指令を出すほかに動力となる電力も無線で送ることが可能ならば、ロボ ットの行動範囲および作業時間の拡大につながります。また、移動ロボット一般の 使い勝手の向上、自由度の向上にもつながります。この場合、送受電系も可搬で容 易に展開できるように小型・軽量化されたものでなければならず、通信機用の半導 体・平面アンテナ技術を有機的に結合しなければなりません。 また、この技術が実証されれば、将来の大規模・超長距離マイクロ波無線送電の 実現に向け、大きく寄与するものであります。 このため高効率・小型・軽量送受電システムの原型の設計を行い、作業用ロボッ トに利用する場合の概念検討および技術実証計画案を策定しました。 マイクロ波送 電にデータ通信を共存させる技術(電力伝送を情報通信に干渉させないための技 術)についても基礎データを取得するための検討を実施しました。 本フィージビリティスタディの成果が関連各位にとって参考となり、機械振興の 一助となれば幸いです。 平成18年3月 財団法人 無人宇宙実験システム研究開発機構 目次 序 はじめに 1. スタディの目的 ................................................................ 1 2. スタディの実施体制 ............................................................ 2 3. スタディの内容 ................................................................ 5 第1章 作業用ロボットに対する無線送電システムの有効性・方向性の検討................. 6 1.1 目的 ........................................................................ 6 1.2 作業用ロボットに対する制約 .................................................. 6 1.3 移動用ローバに対する無線送電 ................................................ 7 1.4 UAV,MAV等の小型航空機に対する電力伝送 ...................................... 9 1.4.1 概要 .................................................................... 9 1.4.2 空中用作業ロボット運用モデル ............................................ 9 1.4.3 空中作業用ロボットの必要電力 ........................................... 11 第2章 マイクロ波送受電システムの検討および技術実証計画............................ 13 2.1 開発の目的とねらい ......................................................... 13 2.2 システム仕様・構成 ......................................................... 15 2.2.1 システム仕様 ........................................................... 15 2.2.2 システム構成 ........................................................... 19 2.3 サブシステム仕様 ........................................................... 20 2.3.1 送電ステーション ....................................................... 20 2.3.2 無線ローバ ............................................................. 22 2.4 試験仕様 ................................................................... 26 2.4.1 単体試験 ............................................................... 26 2.4.2 システム試験 ........................................................... 26 第3章 マイクロ波電力送電部の検討 ................................................. 27 3.1 マイクロ波電力送電部の仕様 ................................................. 27 3.1.1 仕様 ................................................................... 27 3.1.2 送電電力分布 ........................................................... 28 3.2 マイクロ波送電系構成 ....................................................... 28 3.2.1 構成 ................................................................... 28 3.3 試作ステップ ............................................................... 30 3.3.1 RF部開発の流れ ......................................................... 30 3.4 課題の検討・考察 ........................................................... 32 第4章 マイクロ波受電部の試作および試験 ........................................... 33 4.1 マイクロ波受電部の仕様 ..................................................... 33 4.1.1 機能および構成 ......................................................... 33 4.1.2 要求条件 ............................................................... 33 4.2 設計検討結果 .............................................................. 35 4.3 試験・評価 ................................................................. 37 4.3.1 試験の概要 ............................................................. 37 4.3.2 レクテナ素子試験 ....................................................... 37 4.3.3 整流回路の組合せ試験 ................................................... 38 4.3.4 レクテナアレイ送電試験 ................................................. 39 4.3.5 試験結果の評価 ......................................................... 40 第5章 技術実証計画における実験用ロボット検討 ..................................... 43 5.1 実験用ロボット選定 ......................................................... 43 5.2 インタフェース検討 ......................................................... 44 5.2.1 ロボット制御システムの構成とインタフェース ............................. 44 5.2.2 ロボット制御ソフトウエアの検討 ......................................... 47 4. スタディのまとめ・今後の展開 ................................................. 49 参考文献 ......................................................................... 51 1. スタディの目的 移動しながら作業を行うロボット等に、無線で電力やデータを送るマイクロ波送 電・通信システムの原型を構築し、送電能力、安定受電能力等を確認する。 被災地などの危険な状況下でロボット等を用いて作業を行うことが考えられる が、無線で指令を出すほかに動力となる電力も無線で送ることが可能ならば、ロボ ットの行動範囲および作業時間の拡大につながる。また、移動ロボット一般の使い 勝手の向上、自由度の向上にもつながる。この場合、送受電系も可搬で容易に展開 できるように小型・軽量化されたものでなければならず、通信機用の半導体・平面 アンテナ技術を有機的に結合しなければならない。 また、この技術が実証されれば、将来の大規模・超長距離マイクロ波無線送電の 実現に向け、大きく寄与するものである。 1 2. スタディの実施体制 本スタディの実施体制は、(財)機械システム振興協会内に「総合システム調査開発委 員会」を、(財)無人宇宙実験システム研究開発機構内に「マイクロ波技術委員会」を設 置し、マイクロ波送電技術や利用案について意見・アドバイスをもらいながら進めた。再 委託先は、小型軽量化のマイクロ波の送受電システムの研究を実施している京都大学、過 去京都大学のMILAX計画等に参画しマイクロ波の受電システムについて実績のあるアイエ イチアイエアロスペースおよび文部科学省/農林水産省等のロボット計画に参画した実績 のある次世代技術に決定した。 各役割・構成は以下のとおりである。 (財)機械システム振興協会 総合システム調査開発委員会 委託 (財)無人宇宙実験システム研究開発機構 (USEF) マイクロ波技術 調査研究部 委員会 再委託 京都大学:送電系、通信系の検討 アイエイチアイエアロスペース:受電系の設計、製作および試 験の実施 次世代技術:作業用ロボットの検討、インタフェース検討 ・ (財)無人宇宙実験システム研究開発機構(調査研究部)は全体まとめ、利用案の検 討、試作品の概念設計を行う。 ・ マイクロ波技術委員会は、京都大学、宇宙航空研究開発機構および情報通信研究機構 の専門家で構成し、利用案の検討、技術支援、設計レビュー、試作試験計画/試験結果 についての検討等を行い報告書原稿のレビューを実施する。 ・ 再委託先の京都大学は、送電系/通信系の検討を実施する。アイエイチアイエアロスペ ースは試作品の詳細設計・製作、動作試験の計画、実施、試験結果報告を行う。 ・ 次世代技術は作業用ロボットの選定、システム設計を行う。 2 総合システム調査開発委員会の委員名簿を以下に示す。 総 合 シ ス テ ム 調 査 開 発 委 員 会 委 員 名 簿 委員長 政策研究院 藤 正 巖 リサーチフェロー 委 員 独立行政法人産業技術総合研究所 太 田 公 廣 産学官連携部門 コーディネータ 委 員 独立行政法人産業技術総合研究所 志 村 洋 文 産学官連携部門 コーディネータ 委 員 東北大学 中 島 一 郎 未来科学技術共同研究センター センター長 委 員 東京工業大学大学院 廣 田 薫 総合理工学研究科 教授 委 員 東京大学大学院 藤 岡 健 彦 工学系研究科 助教授 委 員 東京大学大学院 大 和 裕 幸 新領域創成科学研究科 教授 3 また、(財)無人宇宙実験システム研究開発機構内に置かれた「マイクロ波技術委員会」 としては、下記の5名の先生方が委員となり、技術支援、設計レビュー、その他の作業を した。 氏 名 篠原 真毅 所 属 京都大学 生存圏研究所 助教授 (委員長) 佐々木 進 宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部 宇宙情報・エネルギ工学研究系 教授 田中 孝治 宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部 宇宙情報・エネルギ工学研究系 助教授 久田 安正 宇宙航空研究開発機構 総合技術研究本部 高度ミッション研究センター 主任開発部員 藤野 義之 独立行政法人情報通信研究機構 鹿島宇宙通信研究センター モバイル衛星 通信グループ主任研究員 4 3. スタディの内容 スタディは以下の5項目について行った。項目毎に本節1章-5章にまとめている。 (1) 作業用ロボットに対する無線送電システムの有効性・方向性の検討 マイクロ波による送受電システムを作業用ロボットに適用する場合の制約条件の 検討を行うとともに無人小型飛行機への無線送受電について概念検討を実施した。 (2) マイクロ波送受電システムの検討および技術実証計画 目途する技術(送電能力、情報通信との共存、変動負荷に対する安定受電など)を 実証(デモンストレーション)するための計画を検討し、マイクロ波送電・送信サブ システムとマイクロ波受電アンテナ部(レクテナ)および既存のロボット(6輪ロー バ)を組合せた無線送電技術実証試験計画案を策定した。 (3) マイクロ波電力送電系の検討 (2)項の技術実証計画案に基づき送電系増幅部のMMIC化の検討を行うとともに高 効率・小型・軽量のマイクロ波送電部・送信部の設計検討を行った。 (4) 受電システムの試作および試験 既存のロボット(6輪ローバ)駆動用電力を受電するマイクロ波受電アンテナ部(レ クテナ)の設計・試作・評価を実施した。 (5) 技術実証計画案における実験用ロボット検討 技術実証試験における実験用ロボットの駆動のための電力パターン解析、受電アン テナ、制御系とのインタフェース検討を行った。 5 第1章 作業用ロボットに対する無線送電システムの有効性・方向性の検討 1.1 目的 本項では、マイクロ波による無線送受電システムを作業用ロボットに適用する場合の制 約条件の検討を行うとともに、空中用作業ロボットへの無線送電について概念検討を実施 する。 1.2 作業用ロボットに対する制約 2025年における次世代ロボットの市場規模は7.2兆円と試算されている1-1)。 これらは産業や生活、公共の場でより身近な存在として役立つことが期待されている。特 に、職場における業務の効率化や、災害や治安等の現場でロボットが危険な作業や高度な 作業を行い、社会の安全に貢献することが期待されている。これらの作業のためのロボッ トについて、作業を行うときには、その作業に対応したエネルギを消耗する。この作業を 継続するためには、消耗したエネルギを補給する必要がある。エネルギ補給の方法として は、その消耗する機関により異なる。本項では、このエネルギとして電気エネルギを使用 することを前提として議論を進める。 固定作業用ロボット(自動車工場の溶接ロボット等)に対しては有線電力伝送が有効で あるが、移動用作業ロボットに関しては有線電力伝送では、その移動が極めて限定される。 移動作業ロボットに関しては、移動ロボットに発電機を持つ方法、電池を持つ方法、およ び外部から電力を無線で送電する方法がある。 それぞれの方法は、それぞれ利害得失があるが無線送電方法は以下の利点がある。1-2) (1) 送電側、受電側の移動の自由が飛躍的に大きくなる。送電点が1点とは限らない。 (2) 受電器を備えていればあらゆる送電器からの電気エネルギを受け取ることができ る。 (3) 受電器は従来のバッテリ等に比べて軽量にすることができる。また、基本的に電源 は送電側の電源なので、電気エネルギの供給が途絶える可能性は少なく、バッテリ 切れの心配が少ない。バッテリは運用時間に比例した質量が必要となるが、無線伝 送の受電部は運用時間に依存しない。 (4) 空間をエネルギ伝送するため、有線送電のような負荷損による損失は小さく、マイ クロ波を集中できれば、数万kmでも高効率で送電可能である。 ただし、無線送電を使用する場合には下記の制約もある。 (1) 効率よく作動をさせるために、ビームが受電面を指向する必要がある。 6 (2) 受電面がビームに対して正対しない場合には、受電効率が低下する。 (3) ビームのパスが途中の障害物や送受電側の相対的な関係から阻害される場合には、 無線電力伝送ができなくなる可能性がある。 (4) 周辺機器に対する通信障害、安全性の問題等に配慮を行う必要がある。 1.3 移動用ローバに対する無線送電 作業用ロボットに対して、無線でエネルギを送り長時間の運用を行うことは、災害対策 や、月面活動、惑星での活動、危険な領域での運用をフレキシブルにすることができるた め、無線送電の応用分野として注目されている。 作業用ロボット/移動用無線ローバが必要とする電力と無線電力伝送の関係を図 1.3-1 に示す。送電側から送られたマイクロ波は受電側のアンテナ(以下レクテナと称す)で受 けられる。受電側ではマイクロ波の電力密度とレクテナの大きさに応じたマイクロ波エネ ルギが受けられるが、そのマイクロ波は整流器により交流から片極性の電力に変換され、 最終的に直流電力に変換される。(第 4 章参照)作業用ロボットを有効に作動させるため には、この電力により周辺回路およびモータに電力を供給する必要がある。 ローバの駆動に関しては、起動時の電力、定常移動時の電力がローバの重量、モータの 仕様その他で決定される。(第 5 章参照) 実際は第 2 章に示すように、通信(コマンド受信、テレメトリ送信)、制御等によりさ らに電力が必要になる。 ローバが稼動するため には、これらに必要な電 力を常に受け取る必要が 重量 レクテナ面積 S ある。ただし、これらの W Pp V 移動速度 ダイナ ミックス モータ駆 動電力 地上作業用ロボット レクテナ効率 Pm 必要電力はローバの状態 Pr ミッション 受電電力 機器等電力 により刻々変化し負荷の 受電側 電力密度 平準化は基本的には期待 Pr/S することはできない。一 送受電間距離 方、無線送電システムに おいては、基本的に刻々 無線送電システム 電力、アンテナ径 図 1.3-1 地上作業用ロボットが必要とする電力と 変化する状況に対応する ことは、困難であり、通 常は一定電力の伝送が行 無線送電の関係 われる。(第 3 章送電部) 7 この一定電力の伝送と変動する負荷の整合が必要である。(第 5 章参照) 本検討では、既存のローバを使用し、搭載可能なレクテナと室内試験/近距離試験にて 試験が可能な領域に限定する送電系の検討を行いローバに対するマイクロ波無線送電の 成立性を確認する。 8 1.4 UAV,MAV 等の小型航空機に対する電力伝送 1.4.1 概要 近年、欧米やアジア諸国では、大学を中心として無人小型飛行機の研究・開発が盛んに なってきている。これらは Unmanned Air Vehicle(以下 UAV)、Micro Aerial Vehicle(以 下 MAV)と呼ばれている。1-3) 特に小型の MAV においては、小型プロセッサや MEMS を使った小型慣性センサ、小型 GPS 受信機等を使った軽量化が実現されている。1-4)、1-5)特に長時間の運用を配慮した場合に課 題になるのが、電力の確保である。通常のバッテリの場合は必要な飛行時間とバッテリの 大きさは比例し逆にバッテリの重量を受け入れるためには更なる重量の制約が発生する。 マイクロタービンの開発、SOFC(固形酸化燃料電池)の利用等も検討されているが、東京 大学の小紫研究室ではマイクロ波を利用した MAV へのエネルギ伝送が研究されている。1-6) 本項では、空中用作業ロボットとしての無人小型飛行機に対する無線送電についての概 念検討を行う。 1.4.2 空中用作業ロボット運用モデル 空中用作業ロボットとしては、図 1.4-1 に示されている無人小型飛行機での災害監視、 を想定した。図において送電側は地上の発電機付の車両で、送電するマイクロ波を上空の 空中用作業ロボットに MAV Fz = L cos φ 送電する。空中用作業 φ ロボットは、受電した Fy = L sin φ エネルギにより一定高 度で定常旋回を行い周 ε =θ +φ りの状況を観測する。 このときに、旋回を行 θ 発電機 送電アンテナ うために、小型飛行機 はバンク角を取ること になる。このバンク角 図 1.4-1 無人小型飛行機 図 1.4-2 旋回モデル は図 1.4-2 に示すよう に、送電アンテナに対 の運用モデル してバンク角をとらない場合と比較して送電されるマイクロ波を避ける方向に傾けるこ とになる。また高度が低い場合には、同じ旋回を行っても地上からの角度は浅くなりビー 9 ム伝送上不利になる。 この関係を図 1.4-3 に示す。 図 1.4-3 においては、速度を 10m/s と設定している。このときに高度 200m以上ならば、 バンク角 15 度程度でマイクロ波エネルギを小型飛行機の直下から受ける場合の90% 程度は受電できる幾何学的な関係が維持できることがわかる。このときに必要な電力を送 ることができれば、小型飛行機は常に同じ高度で継続的に状況の観測等が可能となる。 旋回による受電効率の低下 1 0.9 0.8 高度(m) 0.7 50 80 128 205 328 524 839 1342 効率 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0 0 5 10 15 20 バンク角度(度) 25 30 35 図 1.4-3 旋回による受電効率の低下(幾何学的関係)V=10m/S 10 1.4.3 空中作業用ロボットの必要電力 次に、空中作業用ロボットの必要電力について検討する。図 1.4-4 に小型飛行機のダイ ナミックスと飛行に必要なパワー(電力)の関係を示す。 必要揚力=所要のバンク 角Φでの定常旋回維持用 W 重量 V 飛行速度 翼面積 S レクテナ効率 Pp ダイナ ミックス S 翼面積 プロペラ 必要電力 受電電力 受電側 電力密度 小型空中作業用ロボット Pr ミッション 機器等電力 Pr/S W V2 cos φ g R 1 W sec φ = L = ρV 2 SCL 2 1 Ta = D = ρV 2 SCD 2 CD = CD 0 + KCL2 W sin φ = W : 重量、S:翼面積 g:重力加速度、φ:バンク角 R : 旋回半径、V : 飛行速度 ρ:空気密度、L:揚力 D:抗力、C D0:ゼロ揚力抵抗係数 C:揚力係数、 K:誘導抵抗係数 L η:プロペラ効率、Ta : 推進力 P:必要パワー P Pm 送受電間距離 飛行高度 無線送電システム 地上系 電力、アンテナ径 Pp = ηVTa 図 1.4-4 ダイナミックスとパワー 図 1.4-2 に示す定常旋回を維持するための電力は旋回時に発生する空気抵抗につりあう電 力があれば一定高度で時間制限無く飛行することが可能になる。 実際に必要な電力は、内部の電子機器、観測用センサ、通信機器などにも電力を供給す る必要がある。また、空気抵抗が大きく左右するため、実際の飛行機の機体諸言によって も電力は変わる。ここでは機体の下面にレクテナを実装して電力を受けるものとした。 機体の重量と、翼スパン、翼面積の関係は、参考文献 1-3)を参考に推定した。図 1.4-5 は 資料の中の現在の世界の小型飛行機の状況を示した図である。ここで、指標として、もっ とも同じ重量での最大翼スパンをとるラインにのる飛行機を限界モデルとし、実例のある ラインを K モデルとした。 11 Kモデル 限界モデル 図 1.4-5 世界の小型飛行機の状況(重量と翼スパン) ここで設定したモデルに必要な電力、電力密度を計算すると、図 1.4-6 になる。 100 1000 電力(W)、電力密度(w/m2) 必要電力 P(k) P/S(k) P(low) P/S(low) 10010 Kモデル 電力密度 限界モデル 10 1 0.01 0.1 1 10 質量(kg) Kモデル ◇:既存機体より諸元推定 限界モデル △:表の下限値 レクテナ効率:85% バンク効率(旋回):90% 機器電力:飛行電力の30%加算 図 1.4-6 小型飛行機の質量と電力の関係 12 第2章 マイクロ波送受電システムの検討および技術実証計画 2.1 開発の目的とねらい マイクロ波伝送を無線動力システムに応用するための開発研究を行う。本研究開発を通 じ無線送電技術の産業応用の可能性を明らかにするとともに、宇宙太陽発電衛星(SSPS) の中枢技術であるマイクロ波送電システム技術の新たな展開を図る。 本研究で目指す主要な新技術の内容は、 (1) 半導体を用いた超軽量マイクロ波増幅システム技術(50g/Wクラス目標) (2) レクテナアレイ出力の変動負荷に対する電力利用技術 である。 また、 (3) 100W級の電力伝送用キャリアに10mW級(-40 dB)の通信情報を併用する技術(電力送電 を情報通信に干渉させないための技術) についても基礎的なデータを取得し検討を行う。 無線動力システムとして株式会社AAIジャパンから販売されている図2.1.1のような6 輪ローバ、SECT II(重量5.4kg、消費電力:20W(標準))を検討の対象とする。 図2.1-1 6輪ローバの例 これらの技術開発は、SPS技術開発ロードマップ上以下の意義を持つ。 (1) SPSでは輸送コストの観点から軽量小型(特に電力当たりの重量g/Wの値が小さい)の 送電システムが必須である。従来半導体では数百g/W、6 x 10-3 m3/Wのレベル(USEF試作実 績)であったが本研究で50g/W、1 x 10-3 m3/Wレベルまで技術を引き上げる。平成16年度の USEF試作から本研究計画を経て実証SPS、実用SPSに至る道筋を図2.1.2に示す。 (2) 太陽電池に類似した出力特性を持つレクテナから変動負荷に対し最大限の電力を取り 出すための技術を開拓する。レクテナ素子としての電力効率向上の研究はこれまで多くな 13 されてきたが、アレイとしての高効率電力供給技術の研究はこれまで殆どなされていない。 (3) SPSではビーム制御のためSPSからの電力伝送と地上からの誘導電波による情報のフィ ードバックループの構成が必須である。100W級電力伝送と10mW級通信情報の併用(電力キ ャリアに対し-40dB)により電力伝送を通信に干渉させないための技術を検討する。当初 電力伝送キャリアそのものに情報をのせて共存させることを構想したが、開発要素が大き いため、本計画では電力伝送キャリアと情報回線は別キャリア(周波数は同一あるいは近 接周波数)で併存させる方式について干渉の程度を検討し、今後の併用技術についての技 術的な指針を得ることを目指す。 表2.1-1にマイクロ波送電技術の現状と本研究での目標を示す。 10000 平成16年度試作 単位電力当たりの重量(g/W) 1000 100 平成17,18年度試作 実証SPS 10 実用SPS 1 図2.1.2 平成17、18年度試作で目指すマイクロ波アンプの単位電力当たりの重量 (平成16年度USEF試作結果および実証SPS、実用SPSでの目標との関係) 14 表2.1-1 マイクロ波送電技術の現状と本研究での目標 主要事項 技術現状 本研究での目標 半導体では100〜1000g/W 半導体で50g/W 送電アンプ軽量化 電子管では40〜100g/W 6 x 10-3 m3/W 送電アンプ小容積化 1 x 10-3 m3/W 半導体で23%(USEF実績)、電子管で60%以上 半導体40%以上目標 送電アンプ高効率化 程度 パイロット信号によるレトロ方式で4ビッ ビーム制御は行わないが、レ ト程度まで トロ方式の制御の前提とな ビーム形成・方向制御 る大電力電力伝送と微小電 力信号の共存技術の検討 100W/m2程度では素子単体で85%程度まで 稠密配列によるアレイ受信 レクテナ高効率化 達成 電力の向上 低電力密度の場合の高効率化に課題 薄型・軽量型レクテナアレイ 未開拓の分野 電力密度の空間分布のある場合のアレイ の実現 レクテナ電力利用 アレイと変動する負荷との 動作に課題 アレイと実負荷との電力インタフェース 高効率電力インタフェース (負荷変動も含む)に課題 技術の確立 2.2 システム仕様・構成 2.2.1 システム仕様 マイクロ波無線電力により、地形適応型ローバの駆動を行う。 システム電力 500W 送電マイクロ波 5.8GHz, 直線偏波、200W出力 送電距離 送電アンテナ面前方約4〜6m ローバ追尾 送電アンテナは回転して受電アンテナを追尾する、 追尾回転角範囲±40° アンテナ照射電力密度 215W/m2(最大受電効率値) 無線ローバの移動速度 0.1m/s(想定値) 15 無線ローバ駆動電力 6.2W(想定値) 制御・モニタインタフェース RS232C 無線LAN(キャリアは送電マイクロ波と同じ 5.8GHzあるいは2.45GHzを用いることにより送電マイクロ波と の干渉を調べる) 無線ローバ制御 駆動方向および速度制御 モニタ 電源および走行ステータス 運用モード バッテリアシストモード(標準)、直接駆動モード(オプ ション) 典型的な運用 バッテリアシストモード 20cm程度の起伏(偏波面への影響18°)を持つ障害物に適応し て左右・前後への移動を繰り返す。 直接駆動モード 起伏なしで左右の移動を繰り返す(電力的に余裕があれば 起伏を付ける)。 デモンストレーションシナリオ例 送電ステーションを中心とした円周上でローバを移動させることにより送電ア ンテナとレクテナを正対させる。図2.2-1にデモンストレーションの概念図を示 す。 バッテリアシストモード 図2.2-2に示すように、300W/m2 と194W/m2 のエネルギ密度 の間の領域を矢印のように走行する。 1サイクルの走行距離は、左右円周に沿って約5.7m(A-B, F-A) 7.1m(C-D-E),前後1m程度(B-C, E-F))計約15m程度。走行時 間サイクル約150秒。受電アンテナ方向はローバ上で固定。ロ ーバは受電アンテナの方向を送電アンテナ方向に維持したま まで円周上を走行。半径方向の移動時(B-C, E-F)は、受電アン テナを送電アンテナ方向に向けることができないためローバ への電力は供給されない。 直接駆動モード 図2.2-2に示すように、300W/m2 のエネルギ密度の円周上を走行 する。A-B-A-F-Aの順に円周に沿って1サイクル約10.4m走行。 周回時間約100秒。受電アンテナ方向はローバ上で固定。ロー 16 バは受電アンテナの方向を送電アンテナ方向に維持したまま で円周上を走行。半径方向の移動は電力が供給されないため行 わない。 レクテナ正面 送電パネル正面 送電部 通信系 レクテナ 通信系 レクテナ搭載架台 架台 電源 作業用ロボット(ローバ) 制御装置 図2.2-1 デモンストレーションの概念(例) 17 6m 5.1m E D 1 9 4 W/m 2 ロ ーバー 2 4.1m A 3 0 0 W/m 4 C B F 2 -4 0 ° +40° 0 -2 2m 図2.2-2 ローバの移動範囲 電力収支シナリオ(実際は方向変換があるため若干異なる) バッテリアシストモード:A− B− C− D− E− F− A(150秒) 充電電力(A− B,F− A) 11.7W 充電電力(C− D− E) 7.6W 充電なし(B− C,E− F) 0W(バッテリアシスト) 1パスの平均充電電力 8.1W 直接駆動モード:A− B− A− F− A(100秒) 最大電力 11.7W 最小電力 8.6W 18 2.2.2 システム構成 図2.2-3にシステム構成図を示す。 (1) 送電ステーション a. 電源部:100VAC商用電力をDC電力に変換して、制御・モニタ部、通信部、マイク ロ波送電部に配電する。 b. 制御・モニタ部:送電ステーションの制御と無線ローバの制御を行う。また無線ロー バの動作ステータスを表示する。無線ローバの制御と動作ステータス表示はパソコン で行う。 c. 通信部:RS232C無線LANアクセスポイント(周波数は送電マイクロ波と同じ5.8GHzあ るいは2.45GHz) d. マイクロ波送電部:アンテナ送電面を回転制御し受電アンテナを自動追尾して無線ロ ーバの受電アンテナ方向へマイクロ波電力を送電する。 (2) 無線ローバ a.マイクロ波受電部:送電ステーションからのマイクロ波電力を受電する。 電力処理部:レクテナ出力を処理して、駆動部に必要な電力を配電する。蓄電系を経 由するモード(バッテリアシストモード)と蓄電系を経由せず直接駆動部に電力を供 給する(直接駆動モード)モードの2モードを持つ。 b. 通信部:RS232C無線LAN c. 駆動部:電力処理部からの電力得て送電ステーションからの駆動コマンドに従って 駆動する。 図2.2-3 システムブロック図 19 2.3 サブシステム仕様 2.3.1 送電ステーション (1) 電源部 AC入力 100V500W DC出力 マイクロ波回路 12V 400W(TBD) 制御・モニタ部 TBD 追尾機構 TBD (2) 制御・モニタ部 制御項目 送電ステーション AC ON/OFF、DC ON/OFF、マイクロ波ON/OFF 自動追尾ON/OFF 無線ローバ ロボットON/OFF、速度およびステアリング角、 緊急停止 モニタ項目 送電ステーション AC ON/OFF、DC ON/OFF、マイクロ波ON/OFF マイクロ波出力電力 無線ローバ ロボットON/OFF表示、速度およびステアリング角表示 バッテリ電圧、パワーサプライステータス (3) 通信部 市販のRS232C 無線LAN(2.45GHzあるいは5.8GHz)を使用する。 RS232C無線通信機器の例(ADDO Japan) (図2.3-1) 図2.3-1 RS232C無線通信機器の例(R1601) 20 (4) マイクロ波送電部 送電系の基本構成を図2.3-2に示す。 周波数 5.8GHz、直線偏波(送受電の偏波面を±20°以内に合 わせる) 素子数 8x8素子アレイ アンテナ利得(1パッチ) 7dBi アレイアンテナ利得 25dBi(7+18) 素子間隔 3.2cm(0.62λ) アンテナサイズ 25.6cmx25.6cm 1素子あたりの出力 3.2W(標準)、4W(最大) 素子単体アンプ総合利得 30dB DC-RF変換効率 50% マイクロ波総出力 200W(正確には204.8W) 消費電力 400W 排熱 ファンによる強制空冷(約200Wの排熱) 送電電力密度 314W/m2 at 4m、201W/m2 at 5m、140W/m2 at 6m 遠方界境界3.3m 近似式P(W/ m2)=5040/d2 (d:送信距離) 図2.3-3に送電アンテナから4mの位置でのマイクロ波密度分 布を示す。 ローバ追尾 市販品の回転追尾装置を流用、回転角±40°、 追尾速度0.7°/sec 図2.3-4に市販の小型追尾装置の一例を示す。 A IAユニッ ト 1 0 d B以上 1 5 -1 2 -8 dB アン テナ 4 分配器 数m W 4 分配器 4 分配器 16 64 図2.3-2 送電系の基本構成 21 4W 図2.3-3 マイクロ波電力密度分布(距離4m) (a) 自動追尾機構 (b) 手動追尾機構 図2.3-4 市販の追尾機構の一例。(a)は超音波を利用した自動追尾機構。2-2)ただし、この 場合の搭載重量は1kgなのでモータ系は増強する必要がある。(b)は手動だが搭載重量は 7kg。自動追尾のためにはそのための装置が必要。 2.3.2 無線ローバ (1) マイクロ波受電部 受電系 52素子レクテナアレイ/34cmx34cm(受電パネル) 直線偏波(送受電の偏波面を±20°以内に合わせる) 受電アンテナ 絶対利得 9.1dBi 許容最大電力 570mW 最大許容電力密度 330W/m2 最大効率電力密度 120W/m2 22 運用電力密度範囲 150W/m2〜330W/m2 RF/DC変換効率 70%以上(最適負荷及び最適入力電力条件でのレ クテナ素子の変換効率) アンテナ方式 空洞後置型円形マイクロストリップアンテナ アンテナ構成とグループ化 三角配置(図2.3-5) 保護回路 無負荷時の保護回路を持つ 重量 1kg以下 外観形状 図2.3-6 出力電力 13.0W(4m), 9.3W(5m), 6.8W(6m) 電力分布を考慮した詳細な値(2006年2月)を表2.3-1に示す。 図2.3-5 アンテナ配置とグループ化 図2.3-6 受電アンテナの形状 表2.3-1 作業ロボットへの給電電力 レクテナは9.1dBi 送電ステーションからの距離(m) 4 5 6 中心部電力密度(W/m2) 314 201 140 平均電力密度(W/m2) 295 193 136 中心部入力電力(mW) 543 346 242 平均入力電力(mW) 510 334 235 総入力電力(W) 27 17 12 レクテナ出力 15 10.9 7.9 給電電力(W) 13.0 9.3 6.8 23 (2) 電力処理部 電力モード バッテリアシストモード(ノミナル) 直接駆動モード(オプション) バッテリ容量 12V,3000mAH(ローバ標準搭載品)(別途準備する場合は 2000mA程度でも可) 標準バッテリ GP社、1.2V NiMH(23mm径、45mm長)10ヶ、12V,3.3Ah、 645 g 効率 80 % 充電電力 典型値12(±TBD)V1A (0.3C充電、定電流)、標準搭載品より容量の小 さなバッテリを使用する場合は急速充電が可能なタイプを選定する。 直接駆動時電力 想定値6.2 W(12V0.52A) 初期駆動電流 最大8.4A、1ms 初期駆動電力をコンデンサで供給する場合の容量:35000μF(日本ケミコンの場合 25V,39000μF, 35mmφ、60mm長) 初期駆動電力をバッテリで供給する場合の内部インピーダンス:1.4オーム以下 重量 マイクロ波受電部と電力処理部を合わせて3kg (3) 通信部 方式 RS232C 無線LAN(2.45GHzあるいは5.8GHz) 電力 ローバの電力制御部(標準品)12V又は5V系より給電 重量 0.5 kg以下(標準品のバッテリ重量想定分) (4) 駆動部(http://www.aai.jp/products/sect2.htmlによる)2-3) 図2.3-7に候補のローバの図面を示す。 サイズ 622mm x 420mm x 222mm (LxWxH) 車輪サイズ 直径116mm 搭載パネル 250x267mm(エンベロープ) 重量 4.9 kg (バッテリ重量0.645kgを除く) 床下高 154mm、130mm(ペイロード下に標準バッテリを設置した場合) 回転角度 0度 水平方向安定性 37度 最大傾斜角 40度ピッチ、 ロール方向とも40度 (電力を下げる場合は実力 24 値) 運用上は偏波面が±20°以内になる範囲とする。 最大荷重 最大 3kg モータ Minimotor社、2224 012SR、ギヤボックス86:1 移動速度 0.5 m/sec 最大、運用上は0.1m/sとする。 フレーム材質 陽極酸化アルミニューム 消費電力 標準品としては20W、最大40W 。本研究では有負荷駆動電力の典型値 を6.2Wと想定する。 メーカーからの情報によれば、最小待機電流177mA(2.2W)、平面上無 負荷最小駆動電流217mA(2.6W) 入力電源 12 V DC/6A (外部電源駆動の場合) 出力電圧 定電圧発生部5V,12V モータ DCモータ(12V)6個、エンコーダ(16パルス/回転)、ギア比 86:1 フタバ・サーボ S9304 (ギア比は電力、運用検討により変更する 場 合あり) 連続走行 荷重と地形によって1〜3時間(12V/3000mAhの場合) 図2.3-7 SECT II外観図(AAIジャパン) 25 2.4 試験仕様 2.4.1 単体試験 (1) 送電ステーション 試験場所:京都大学 試験項目:マイクロ波特性(3次元電力密度プロファイル、規格は節2.3.1(4)) 電力特性(電力フロー、送電ステーション総合効率、規格は節2.3.1(4)) 電気構造特性(特にg/W、cm3/W、規格は表2.1-1) 温度特性(熱解析との比較) ビーム追尾特性(範囲、速度、規格2.3.1(4)) (2) 無線ローバ 試験場所:宇宙研(または次世代またはIA) 試験項目:マイクロ波整流特性(電力密度プロファイルに対する給電出力、規格は節 2.3.2(1)) 電力特性(電力フロー、無線ローバ総合効率、規格は節2.3.2(2)) 機械的特性(規格は節2.3.2(1)) ローバ駆動特性(規格は節2.3.2(4)) 無線LAN性能(ローバ制御性能、モニタ性能、規格は節2.3.1(2)) 2.4.2 システム試験 試験場所:京都大学 試験項目:総合電力特性(電力フロー、総合効率、規格は節2.2.1) ローバ制御特性(デモンストレーションシナリオ動作の確認、規格は節 2.2.1および図2.2-2) 送電キャリアと情報回線(無線LAN)の干渉レベル 26 第3章 マイクロ波電力送電部の検討 3.1 マイクロ波電力送電部の仕様 3.1.1 仕様 送電部アクティブ集積アンテナアレイの試作に関し、本報告では表3.1-1のような仕様を 本章の検討の前提とする。 表3.1-1 マイクロ波電力送電部の主な仕様目標値 項目 (全体) 仕様(目標値) 周波数 5.8GHz(送電のみ) 送電部の形状 2次元アクティブ集積アンテナアレイ 機能 増幅・放射 送電アレイアンテナ 8x8=64素子 (デバイス・回路部) 増幅器の形式 多段半導体増幅器 AIAユニット内アレイアンテナ1 30dB(高出力部のみの場合は3段20dB) 素子あたりの多段増幅器の総合 利得 アレイアンテナ1素子あたりの増 4W 幅器の出力 (アンテナ部) DC-RF変換効率 50%程度 偏波 直線 アンテナ利得 25 dB(パッチアンテナ単体7dB/アレイ因子18 dB) アレイアンテナ素子間隔 32mm(0.62λ) 送電部放射出力 200W(合成効率80%) アンテナサイズ 256mmx256mm 27 3.1.2 送電電力分布 上記仕様に基づき、送電部より放射された電力がどのように分布するかを検討する。以 下に、8x8素子のアレイアンテナから5.8GHzの電磁波が放射された場合のアレイ因子によ る放射電力密度分布とその断面でのパターンを4m、5m、6mの地点で計算した。なお、この 計算においては、3.3mが近傍界と遠方界の境界である。この電力密度分布の評価にあたっ ては、以下の表3.1-2にビームのピーク電力密度を示すことにより、密度の絶対値を評価 できるようにした。 表3.1-2 各受電距離でのピーク電力密度 受電面の距離 放射ピーク電力密度(法線方向) 4m 314W/m2 5m 201W/m2 6m 140W/m2 *遠方界境界 3.3m 3.2 マイクロ波送電系構成 3.2.1 構成 現在、通信、センサ等で用いられているマイクロ波機器と比較して、本検討における送 電系に要求される技術として、(1)軽量化、(2)薄型パネル化、および、(3)電力増幅器の 高効率化・MMIC化(Microwave Monolithic Integrated Circuit:マイクロ波用集積回路) が重要である。軽量化(=質量/電力)に関しては、同じ質量でも高出力化することによ り規定出力を得るのに必要な単位電力あたりの質量を下げることは可能である。しかし、 ある所望のビーム収集効率を得るのには、やはりある程度の大きさの送電アンテナが必要 であり、これをユニットパネルで構成する限り、ある程度の高出力送電の中で、パネルの 低質量化を図ることは重要である。さらにこの送電パネルは、携行性や輸送の簡易さを考 えると、やはり薄型化が必要となる。これには、平面回路と平面アンテナで構成し一体化 したAIAアレイ化が有力候補である。これにともない、回路内のデバイスを動作させるた めの電源配電部やデバイスの熱を処理する排熱構造に配慮した各機能ブロックのボード 積層化技術が付随する。特に、デバイスからの排熱は送電機能の安定性や出力劣化の防止 のために必要であり、この負担を低減するためには、高DC-RF変換効率をもつ高出力増幅 回路を作製しなければならない。この高効率増幅回路は、スピンオフテクノロジとして、 28 他への転用が大いに期待できる重要な技術であると考えられる。3-1)、3-2)、3-3)、3-4)、3-5)、3-6)、3-7) 本報告において検討する送電系の基本構成は、前述した仕様のように8x8=64素子に よるAIAアレイをユニットとするパネルである。物理的・電気的に結合しているアレイで あるが、作製上、さらに、2素子AIAアレイを AIAユニットとすることにより、試作上の 便宜を図ることにする。この中で、一般的な64素子送電パネルの電力の流れを示すと このダイアグラムを図3.2-1に示すと 図3.2-1 送電パネルの基本構成(ブロック図) となる。 29 さらに表3.2-1の構成によるパワーダイアグラムを考えると 表3.2-1 パワーダイアグラム AIAユニット 素子 入力 利得 出力電力 0dBm アンプ 分配器 アンプ 分配器 2分配器 アンプ 12dB -6dB 12dB -9dB -3dB 30dB 12dBm 6dBm 18dBm 9dBm 6dBm 36dBm 効率(目標値) 30% 45% 55% アンプ級 A-AB A-AB A-AB 本検討における試作に関わるAIAユニットの機能ブロックダイアグラムを図3.2-2に示 す。 図3.2-2 送電系・電源・冷却系・指令系の機能ブロックダイアグラム このAIAユニット試作のポイントは、多段の高出力増幅器に対して、排熱機構をICと平 面アンテナで構成されたAIAの中に立体構造で組み込み、省面積化を図っているところで ある。このアイデアでAIAユニットを実現すれば、さらに大きな数のAIAアレイの実現が容 易となり、地上無線電力伝送システムが具体化するものと思われる。 3.3 試作ステップ 3.3.1 RF部開発の流れ 前述した送電部の構成より、本報告で試作検討する5.8GHzAIAアレイにおいて、高出力 で高効率なアンプとそれに使用する半導体デバイス、および、排熱機構を有する小型・薄 型・軽量AIAアレイの開発がポイントであることを示した。この開発のためには、はじめ 30 に小型で高出力なアンプの基礎データを取得することを検討した。通常の高周波回路の小 型化開発ステップとして、表3.3-1に示したように、一般に3段階の開発ステップを経てア ンプの超小型化を実現する。 表3.3-1 高周波回路の小型化開発ステップ 目的 回路規模 ① ブ レ ッドボ ・パッケージ型デバイスで高出力アンプ回路を作製 ード(BB)モデ ・電気的特性の確認 ル ・アンテナ部との組み合わせでAIAアレイを実現 大 ・チップ型デバイスで目的にあわせた小型アンプ回路を作製 中 ② ハ イ ブリッ ・アンテナ部との組み合わせで小型AIAアレイを実現 (パッケージを除去した分小型 ドICモデル ・MMIC化の基礎データ 化) 小 ・高効率化を目指した多段増幅回路を超小型のMMICで実現 ③MMICモデル (高誘電率の基板と小型集中定 ・MMICアンプと平面アンテナで超小型AIAアレイを実現 数回路により超小型化) 31 3.4 課題の検討・考察 (1) 要素技術のポイント ここでは、SPSを含む無線電力伝送送電部におけるサブシステムの構成要素に適用する 技術の今後の動向を述べる。ただし、ここでは半導体技術を中心に解説することにする。 適用技術は、基本的にマイクロ波半導体技術であるが、近年の携帯電話に代表されるパー ソナル通信システムで使われている技術の発達が、主力である。表3.4-1は、これらの条 件のもと、無線電力伝送用に各要素技術の要点をまとめたものである。 表3.4-1 無線電力伝送用各要素技術のポイント 種類 素子 回路 材料 性能 Si, SiC, SiGe, GaAs, 高出力、高周波(ア InGaP, InP, GaN, ダイヤ ナログ)・高速(デ モンド ジタル)、低雑音、 デバイ ダイオード、FET、バイポ 低スプリアス ス ーラトランジスタ 能動回 増幅器、発振器、ミキサ 路 受動回 移相器、分配器、フィル 路 タ、整合回路、共振器、 機能 その他 高耐圧 安価 高出力、高効率、低 高周波、高安定(振 <通信機能 雑音、高安定 幅・位相・動作周波 >高速(デジ 高精度、低損失 数)、集積化() タル)、広帯 域 結合器 アンテナ 導波管スロット、 プリント型平面ア 高利得、円(両)偏 小型薄型、軽量、ア ンテナ 波 レイ、形状適合、適 応自立 送信パネ アンテナ・回路一体 量産安価、地 ル(サブシ 化(アクティブ集積 上・パネル間 ステム) アンテナ(AIA)化)、 / パ ネ ル 同 独立したサブシステ ム、多機能、小型薄 型化、軽量化、排熱 構造、電源・制御回 路 32 士間の通信 第4章 マイクロ波受電部の試作および試験 本章では、無線ローバに搭載され、送電ステーションからの5.8 GHzマイクロ波電力を受 電し、これをマイクロ波-直流変換して電力処理部に配電する機能を有する、マイクロ波 受電部について仕様、設計、試作および試験の内容を報告する。4-1)、4-2)、4-3) 、4-4)、4-5)、4-6)、 4-7)、4-8)、4-9)、4-10) 4.1 マイクロ波受電部の仕様 4.1.1 機能および構成 マイクロ波受電部は図4.1-1に示されるように、レクテナアレイユニットおよび給電制 御ユニットから構成されている。 レクテナアレイユニットは送電ステーションからの 5.8 GHzマイクロ波電力を受電し、マイクロ波-直流変換を行って給電制御ユニットに直流 電力を出力する。 給電制御ユニットはレクテナアレイユニットを最適な条件で動作させ る状態で直流電力を入力し、電力処理部の条件に適合するようにコンディショニングして 電力処理部に出力する機能を有している。 給電制御ユニット中の電子回路に必要な電力 は電力処理部より給電される。 マイクロ波電力入力 (5.8GHz) 送電ステーション レクテナアレイ ユニット 電力出力 給電制御ユニット 電力処理部 電源入力 電力処理部 図4.1-1 受電系構成図 4.1.2 要求条件 マイクロ波受電部に対する要求条件は表4.1-1に示すとおりである。(本年度試作はレ クテナアレイユニットのみ、給電制御ユニットは基本検討のみとする。) 電力処理部への電力の出力は、バッテリアシストモードと直接駆動モードの2つのモ ードが要求されている。 33 表4.1-1 マイクロ波受電部に対する要求条件 レクテナアレイユニット 1 送電マイクロ波 周波数 5.8GHz 偏波面 2 入力電力 垂直偏波 330W/㎡ 最大電力密度 運用電力密度範囲 図4.1-3、図4.1-4に基づくこと。 140W/㎡~315W/㎡ 偏波面傾斜 3 RF/DC変換 ±20°以内 方式 レクテナ 変換効率 70%以上 但し、最適負荷及び最適入力電力条件でのレクテナ 素子の変換効率 4 物理的特性 寸 法 34cmX34cm 重 量 1kg以下(目標) 運用最大出力 13WDC(目標)@送電距離4mで図4.1‐3の入射条件 運用最小出力 6.9WDC(目標)@送電距離6mで図4.1‐3の入射条件 給電制御ユニット 1 出力電力 2 出力形態 バッテリ・アシストモード/直接駆動モード 3 バッテリ・アシストモード出力 電力処理部バッテリーを充電できること。 典型値12(±TBD)VDC、0.3C定電流,充電) 4 直接駆動出力 5 入力電源 6 物理的特性 6.2W (12VDC、0.52A)(想定値) 初期駆動電流:8.4A,1m秒 TBD 寸 法 TBD 重 量 TBD 図4.1‐4 10 350 0 300 -10 250 -20 200 -30 150 -40 100 -50 50 -60 -2 -1.5 図4.1-3 -1 -0.5 0 X [m] 送電機からの照射電力 0.5 1 1.5 送電距離 : 4m 送電距離 : 6m 受電エリア 受電エリア 0 0.00 2 距離 4m レクテナ受電電力勾配 0.08 0.16 0.24 照射中心点からの距離(cm) 距離 6m 図4.1-4 レクテナ受電電力勾配 34 0.32 4.2 設計検討結果 マイクロ波受電部に対する上記の要求条件に基づいて4.2項で実施した設計検討の結果 を諸元表として表4.2-1に示す。 レクテナアレイユニットの重量は1kg以下を目標に設計し、製造完了後の実績値は890g となった。 表4.2-1 番号 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 レクテナアレイ・ユニットの主要諸元 項 目 基本周波数 アレイ形状・寸法 レクテナ素子数・配置 最大入力電力 アンテナ 方 式 絶対利得 VSWR 偏波面 整合回路 回路数 整流効率 入力フィルター 出力フィルター 回路接続方法 構 造 規 格 5.8GHz 正方形 340mmx340mm 52素子、三角形等間隔配置 500mW/素子 空洞後置型円形マイクロストリップ 9.1dBi 1.3以下 直線偏波 1回路/素子 70%以上 但し、最適負荷及び最適入力電力 減衰量40dBc以上、但し、二次高調波 有 3直列x17並列(2系統),18並列(1系統) レクテナアレイ・パネルの周辺をフレーム構造で縁 取られること。 フレームにはレクテナアレイをロボットに機械的に固 定するための片持ちの取り付け構造を有すること。 又、レクテナの出力の接続端子を有すること。 15 重 量 1kg以下(目標) (1) 整合回路 図4.2-1に整合回路を示す。 Diode <概略構造図> <等価回路> L1 Antenna C1 L2 C1 3Fo~5Fo 図4.2-1 整合回路 35 L3 L4 C2 L5 L6 C3 2x2Fo L7 C4 L8 L9 C5 L10 L11 C6 2xFo L13 L12 C7 2Fo DC Load (2) 回路接続方法 図4.2-2に回路接続方法および素子配置を示す。 グループA グループB 裏面 A グループ 並列数: 17 ヶ グループC B グループ C グループ 並列数: 17 ヶ 正面 3直列X 17or18並列接続 図4.2-2 回路接続方法 図 4.2-2 回路接続方法 (3) 定電圧制御方式 レクテナアレイユニットを定電圧で動作させるための回路を図4.2-3に示す。 レクテナユニットの出力を切断するためにレクテナユニットの出力側にフィルタを設 ける。 Vds フィルター L2 L1 レクテナ Vin C1 - Vf PWM 生成 + Vref (7.5V) 図4.2-3 定電圧制御回路 36 C2 Vo バッテリィ 4.3 試験・評価 4.3.1 試験の概要 マイクロ波受電部の内、レクテナアレイユニットに関して試作・試験を行った。目的は 4.2項の設計内容の確認と給電制御ユニットの設計データの取得である。 レクテナアレイユニットの設計に先立ってレクテナ素子およびその構成要素について 試験を行い、これ等の試験結果をレクテナアレイユニットの設計に反映した。 4.3.2 レクテナ素子試験 レクテナ素子試験としてはアンテナ単体試験、フィルタ単体試験、整流回路のRF/DC変 換特性試験、レクテナ素子のRF/DC変換特性試験を実施した。 アンテナ単体試験では、反射損失、放射パターン、動作利得を計測し、フィルタ特性試 験では、入出力特性を計測し、整流回路のRF/DC変換特性試験では整流効率、レクテナ素 子のRF/DC変換特性試験ではレクテナ効率を計測した。 試験系の一例として、レクテナ素子のRF/DC変換特性試験形態を図4.3-1に示す。 Anechoic Chamber Rectenna Element E 1.0m 5.8GHz Tx Antenna Amp 5.8GHz CW 図4.3-1 レクテナ素子RF/DC変換特性試験形態 試験結果の一例として整流効率を図4.3-2に、レクテナ素子のRF/DC変換特性を図4.3-3 に示す。 10mW 50mW 100mW 150mW 200mW 250mW 10 9 出力電圧 (V) 8 7 6 5 4 11 300mW 350mW 400mW 450mW 500mW 550mW 600mW 10 9 8 出力電圧 (V) 11 7 6 5 4 3 3 2 2 1 1 0 0 50 100 150 200 250 300 350 400 450 500 50 100 150 直流負荷抵抗 (Ω) 200 250 300 350 直流負荷抵抗 (Ω) 図4.3-2 整流回路/負荷抵抗~出力電圧特性 37 400 450 500 80 60 50 40 30 316mW 367mW 421mW 470mW 528mW 575mW 70 60 変換効率 (%) 変換効率 (%) 80 10.8mW 54mW 107mW 160mW 213mW 267mW 70 20 50 40 30 20 10 10 0 50 100 150 200 250 300 350 400 450 0 500 50 100 150 直流負荷抵抗 (Ω) 200 250 300 350 400 450 500 直流負荷抵抗 (Ω) 図4.3-3 レクテナ素子/負荷抵抗~出力電圧特性 4.3.3 整流回路の組合せ試験 特性が同じ2つの整流回路A及びBを直列・並列に接続し、整流回路Aへの入力電力を 500mW一定とした状態において整流回路Bへの入力電力を変化させ、合成の出力電力を 測定した。計測系を図4.3-4に示す。試験結果を図4.3-5に示す。 図4.3‐4 整流回路/組合せ試験の試験・計測系 20 直列接続 並列接続 18 出力電力低下率 (%) 16 14 12 10 8 6 4 2 0 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 入力電力比 Rp 図4.3-5 整流回路/入力電力比と出力電力低下率 38 1.0 1.1 4.3.4 レクテナアレイ送電試験 レクテナアレイに対する送電試験として、レクテナアレイRF/DC変換特性試験を実施し た。試験としては、レクテナのアレイとしての効率を計測するもので、正面対向送電、20 度傾斜対向送電、38mmオフセット対向送電に関する実験を実施した。試験形態の一例を図 4.3-6に示す。試験結果の一例を図4.3-7に示す。 Anechoic Chamber Rectenna Array E 1.0m 5.8GHz Tx Antenna Amp 5.8GHz CW 図 4.3-6 レクテナアレイ/正面対向送電試験の試験系 レクテナ効率の負荷特性(正面対向) 60 32.4W 29.8W 26.8W 24.1W 20.7W 17.8W 14.8W 11.8W 8.9W 6.0W 3.0W 0.58W 55 50 レクテナ効率 ( % ) 45 40 35 30 25 20 15 10 5 0 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 負荷抵抗 (Ω) 図4.3-7 レクテナアレイ/負荷抵抗~変換効率特性 39 4.3.5 試験結果の評価 上記の試験結果について以下の観点から評価を行う。 ・レクテナアレイユニットの受電能力 ・電力処理部への給電方式 (1)レクテナアレイユニットの受電能力 マイクロ波受電部は受電機能を有するレクテナアレイユニットと給電機能を有する給電 制御ユニットから構成されるが、ここでは、試作したレクテナアレイユニットを受電能力 面から評価する。 レクテナアレイユニットの受電能力は、レクテナ素子のマイクロ波-直流/変換効率とレ クテナ素子のアレイ化に伴う損失によって左右される。レクテナ素子の変換効率に伴う技 術は比較的成熟しており、設計・製作に対して要求を設定できる段階にある。ここではレ クテナ素子に対する変換効率に対して最適入力電力、最適な負荷抵抗の条件で70%以上を 要求としている。(表4.1-1 参照) 製作した整流回路単体の変換効率の試験結果、レクテ ナ素子単体の変換効率の試験結果をそれぞれ、図4.3-2 及び図4.3-3 に示されるが、最適 条件として設定した負荷抵抗350Ω、入力電力200mW の最適条件でそれぞれ、70.2%、70.5% が達成されており、要求を満足する成果が得られている。 次にレクテナ素子のアレイ化に伴う電力損失の問題であるが、この電力損失の要因とし て、レクテナ変換効率の試験結果の受電面積に対するレクテナ素子のアンテナの占有面積 比率、レクテナ素子の組合せ接続に起因する損失、グレーチングローブの発生による効率 低下等が挙げられる。面積比率による損失低下は、今回の三角形配列では約10%の犠牲を 伴うことが推測はできる。同様に、グレーチングローブの発生による効率低下は素子間隔 と密接に関わるパラメータで、一部にアレイ化に関連して研究4-11)が行われており、正方 配列で素子間隔が0.9波長の場合は0.7波長の場合と比較して10%程度の効率低下があるこ とが示されているが、素子アンテナ利得や配列方法との関係など、未知数の要因もあり、 本アレイにおける影響の程度についてさらに検討する必要がある。また、多数のレクテナ 素子の直並列の組合せ接続は問題があり、相互作用を伴う個々のレクテナ素子の挙動につ いて一部に研究が行われているものの十分に把握されていないのが現状であるが、特に今 回の無線ロボットにおけるマイクロ波送受電のようにレクテナアレイユニットに対する 照射電力が一様ではなく、大きな電力勾配を有する場合は特に設計上大きな不確定要素を 伴うことになる。 40 従って、2 個のレクテナ素子を用い、個々のレクテナ素子の照射電力に差を付けた状態 で変換効率への影響を調査するために整流回路の組合せ試験を実施した。試験結果を図 4.3-5(前述)に示す。 以上より、アレイ化に伴う損失を推定し、レクテナアレイユニットの受電能力として表 4.3-1 に示すように送電距離4mにおける出力電力を15W(目標)と設定した。 製作したレクテナアレイユニットについて、3つの条件(正面対向、斜め対向、オフセ ット対向)でマイクロ波電力による送電試験を実施し、いずれの条件においても問題なく 表4.3-2に示すとおり、DC 電力を得ることができた。 受電電力については、表4.3-2 で示す12.75W は4mの要求レベルの平均電力密度で補正す ると13.30W となる。これは、目標の15W に対して、89%のレベルになる。(目標値は、レ クテナ単体の性能と入力電力密度とレクテナ配置を考慮して推定したもの) 今後、レクテナアレイとしての効率向上を図るため以下の検討をさらに行う必要があ る。 ・ レクテナの円偏波対応化による相対的な姿勢変動の影響の除去 ・ 今回取得したデータの詳細解析(アレイ化による効率低下の解析を含む) 41 (2) 電力処理部への給電方式 レクテナアレイユニットの試験結果のまとめとして、正面対向、20度傾斜対向、34mmオ フセット対向の出力電流/出力電圧特性計測した。結果の一例を図4.3-8に示す。 レクテナ素子単体の試験結果を基に電力処理部への給電制御方式を提案したが、試験結 果もこの制御方式が無線ロボットへの送電実験では最も適しているように思われる。 700 32.4W 29.8W 26.8W 24.1W 20.7W 17.8W 14.8W 11.8W 8.9W 6.0W 3.0W 0.58W 20Ω 65Ω 600 出力電流 (mA) 500 400 300 200 100 0 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 26 出力電圧 (V) 図 4.3-8 出力電流/出力電圧特性(正面対向) 42 第5章 技術実証計画における実験用ロボット検討 5.1 実験用ロボット選定 作業用ロボットは、市販のロボットから選定する方針であるので、開発計画書により以 下の基準で選定した。 (1) 消費電力が10W程度であること (2) 受電部をマウントできること (3) 価格、入手が容易であること (4) 技術情報が公開されていること ロボットには、ヒューマノイド型と非ヒューマノイド型とに分類することができる。市 販のロボットにも両者がある。今回は、以下の理由でヒューマノイド型ロボットは選定の 対象としなかった。 ・制御方式が複雑 ・受電部をマウントするためには非常に大型になる。 ・モータの個数が多いので、動作解析が困難 最終的には、図5.1-1に示す株式会社AAIジャパンから販売されている6輪ローバ型ロボ ットSECT II(「セクト・ツー」と称する)5-1)を作業用ロボットとして選定した。これは、 上記の選定基準を、(4)については制限があるが、その他については消費電力が標準20W、 最大40Wであるほかは満たしている。消費電力についても、車輪型のため平坦路での消費 電力が軽減しうることから選定した。 ほかには、東京工業大学広瀬・米田研究室で開発され、東京精密工業で販売されている、 普及型4足歩行機械 TITAN-VIII5-2)(図5.1.2)が候補にあったが、平坦路でも消費電力が 大きいことが予想されるのと、歩行型であるので動作が複雑なことから、最終的には除外 した。 図5.1-1 SECT II 外観5-3) 図5.1-2 TITAN VIII 外観5-4) 43 5.2 インタフェース検討 5.2.1 ロボット制御システムの構成とインタフェース 特定の経路で、ローバを制御するにはパソコンなどの制御システムが必要である。ロー バ自体にはコマンドを受けて自立的に駆動するためのCPUが搭載されているが、その経路 を制御するためには、上位のコントローラが必要である。これは、飛行機の姿勢を安定化 させるオートパイロットと、経路を制御する操縦士の関係と同様である。 ここでは、そうした制御系をローバに付加したシステムをロボットと呼ぶことにする。 ロボットのシステム構成は、ローバの経路制御方式と密接に関係する。ローバの位置を 外部から測定して経路を決定し、ローバに制御コマンドを送るのであれば、制御コンピュ ータはローバとは別の場所に設置するのが望ましい。一方、ローバにナビゲーション機能 を搭載して自律的に位置決定をするのであれば、制御コンピュータはローバに搭載するこ とが望ましい。前者を外部制御方式、後者を自律制御方式と仮に呼ぶ。これらについてそ れぞれ制御方式とシステム構成を検討した。 (1) 外部制御方式 この方式は、外部に設置した測定器によってローバの位置を計測する。この位置情報を もとに経路を制御するには、測定器のそばに置いたパソコンで経路を計算し、ローバにコ マンドを送る。 図5.2-1にレーザ距離計によるローバ位置と姿勢の計測の概念図を示す。レーザ距離計 は回転しながらローバ周囲をスキャンする。ローバ機体に取り付けた反射シートにレーザ があたると、光軸と反射シートの角度が45°程度の傾き以内であれば入射方向に反射光が もどり、反射シートまでの距離を測定できる。 反射シートをローバの2箇所に取り付けておくことによって、ローバの位置と姿勢とを 測定することができる。 図5.2-2にレーザ距離計の例(Sick DME2000)を示す。5-8) 44 図5.2-1 レーザ距離計によるローバ位置と姿勢の計測の概念図 図5.2-2 レーザ距離計の例(Sick DME2000) 図5.2-3に外部制御方式のシステム構成を示す。 制御コンピュータ ヒューマン インタフェース 経路マップ 位置検出 コマンド発生 通信モジュール ローバ 通信モジュール ローバCPU ローバ駆動系 ローバ運動 ローバ位置 図5.2-3 外部制御方式のシステム構成 45 (2) 自律制御方式 自律制御方式は、ローバ自体に計測制御システムを搭載し、自立的に航法誘導を行う方 式である。しかしながら、狭い範囲で移動するので慣性航法のような高価なシステムは有 効ではなく、床に経路を敷設し、経路センサでそれに沿って移動する方式が実用的であろ う。 経路センサとしては、光センサ、磁気センサなどが適用可能である。それぞれに応じて 床に敷設する経路を、白(あるいは黒)テープ、磁気テープなどが考えられる。 図5.2-4に自律経路制御方式の概念図を示す。 この図では、経路の追尾だけを行う2個のセンサを記載しているが、さらに第三、第四 のセンサを併用し、コマンドテープを別途利用することで、一時停止や逆転などの動作を シーケンス制御的に行うことも可能である。 図5.2-5に自律制御方式のシステム構成を示す。 図5.2-4 自律経路制御方式の概念図 ローバ 制御コンピュータ 通信モジュール 通信モジュール ローバCPU コマンド発生 ローバ駆動系 偏差検出 ローバ運動 + ローバ位置 - 経路テープ 図5.2-5 自律制御方式のシステム構成 46 5.2.2 ロボット制御ソフトウエアの検討 ロボットをある目的のために動かすソフトウエアの構造について検討する。たとえば、 障害物のある空間での特性の物体の探索である。このようなミッションは、災害救助など において必要かつ不可欠である。 通常の制御システムの考え方によれば、この目的のために構築されるソフトウエアは階 層構造をもち、最上位に物体の探索、中間には経路の制御、最下位に障害物を検出して回 避する動作といった構成になる。図5.2-6に階層構造の制御システムを示す。 この階層構造システムでは、上位の制御モジュールが下位のモジュールにコマンドを送 り、下位のモジュールはそれを実現する。そのときにさらに下位のモジュールにコマンド を送る。こうした構造は、ロケットの航法誘導系と制御系との関係に見られる。航法誘導 系はロケットが所望する軌道に沿って飛行するための姿勢制御コマンドを発生する。制御 系はそのコマンドを受けて、要求される姿勢を機体の安定を損なわずに実現する。 このような階層構造の制御システムは、ロボットの制御においても有用なアプローチで あり、従来からの産業用ロボットをはじめ、宇宙用ロボットにいたるまでに適用されてい る。 目標物探索 経路制御 障害物回避 センサ信号 アクチュエータ 図5.2-6 階層構造の制御システム これに対して、それぞれの機能に上下関係をつけずに、並列に実行させる構成方法があ る。これは、MITのRodney Brooks教授によって考案され、サブサンプション(subsumption) アーキテクチャと名づけられた方式である。5-9) 図5.2-7にサブサンプション・アーキテクチャの制御システムを示す。この方式では、 最初に障害物回避のタスクを実現させる。これはちょうど原始的な昆虫のように障害物を さける反応を常時実行している。次に、経路制御のタスクを実現させるが、その際に、障 害物回避はそのまま並列的に実行している。経路制御のタスクは、経路を設定して歩き回 るが、その際、障害物があったときには、回避タスクの出力との論理和が実行されるので、 47 経路制御タスクにとっては、「自動的に」障害物が回避される。同様に、目標物探索のタ スクが追加されるが、その際にも、経路制御と障害物回避とはそのまま実行される。 この目標物探索のタスクにとっても、探索が完了するまで、「自動的に」経路が設定さ れ、障害物が回避されて、ミッションが遂行される。 このような、制御方式は明らかに階層的な方式とは異なる。階層的な方式では、信号が 上下するのに時間がかかるが、サブサンプション方式では、すべてのタスクが並列で動作 しているので、応答速度が速い。さらに、CPUを複数搭載して並列処理をする構成にも適 している。 センサ信号 目標物探索 経路制御 障害物回避 X X アクチュエータ 図5.2-7 サブサンプション・アーキテクチャの制御システム 以上のことから、災害救助用のようなフィールドで活動するロボットには、サブサンプ ション・アーキテクチャの適用は有用である。 48 4. スタディのまとめ・今後の展開 今年度は、マイクロ波による送受電システムを作業用ロボットに適用する場合の制約条 件の検討を行うとともに、空中作業用ロボットへの無線送受電について概念設計を実施し た。特に作業用ロボットへの具体的な無線送受電技術の検討として、ローバに対する無線 送電系のシステム設計、送電系の小型軽量化の検討、搭載用受電系の検討、ローバとのイ ンタフェースの検討を行った。また、受電系の検討においては、実際にレクテナを設計、 試作、試験し評価を実施することができた。 今年度の成果を以下の方針で、今後さらに発展展開させていくことで、マイクロ波送電 の具体化を図る必要がある。 (1)レクテナの改善:円偏波対応レクテナ、レクテナアレイ効率向上 今年度の試験では、直線偏波に対応したレクテナで基本的な特性を取得し、設計を確認 したが、移動体への無線送電を行うときには、送信側と受信側の偏波面の不整合がある状 況であると受電効率が低下してしまう。そのための対策として、円偏波対応レクテナの検 討を進める必要がある。さらに、今年度の試作試験結果をベースに、レクテナアレイとし ての効率向上に対する検討を進める必要がある。 今後さらに移動体に適したレクテナにするためには、改修および確認を実施する必要が ある。 (2)送電系高排熱 送電系の高出力化に伴い効率の良い排熱を実現する必要がある。本年度は、一部の要素 の試作による確認だけであったが、アレイ化した送電パネルの排熱設計の実施および効果 の確認をする必要がある。 (3)高誘電率基板への回路移植 今年度は設計データ取得のための一部試作であり、ハイブリッドICまでの試作試験にと どまったが、送電部の劇的な小型化を実現するためには、高誘電率基板に回路を移植し MMICを製造し、その性能を評価する必要がある。将来の大規模システムのためには、この MMIC技術の適用が不可欠であり、早急に確認すべき技術である。 49 (4)負荷変動に対する安定電力供給 受電システムであるレクテナにおいては、負荷に応じて効率が変動する特性がある。こ のため、実用システムにおいては、実際の負荷の変動が存在する状況でもレクテナの効率 が変動せずにマイクロ波エネルギを効率よく取り出す必要がある。今年度検討した給電制 御ユニットの検討を進め、設計試作し実際の動作を確認する必要がある。 (5)作業用ロボットに対する無線送受電試験 今年度は作業用ロボット(ローバ)に対しては、システム設計を実施したが、今後さら に用途を考慮に入れて詳細に検討を行っていく必要がある。 無線送受電システムについては、今後ともさらに継続的に試作評価を実施することで課 題抽出を行い将来の大規模システム実現に向けて問題点を解決していく必要がある。設計、 試作、実証、再設計というループを繰り返すことにより、一歩一歩進めていくことが重要 である。 50 参考文献 1-1)「次世代ロボットビジョン懇談会」報告書、経済産業省製造産業局産業機械課、 平成16年4月 1-2)財団法人 無人宇宙実験システム研究開発機構、平成16年度 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IAC-05-C3.3.07 2-1)アドージャパン R1601カタログ http://www.addo-japan.com/R1601.html 2-2)旭フォトマイクロウエア株式会社 楽々ツイビーカタログ http://www.jmw.co.jp/html/twi-bee.html 2-3)株式会社AAIジャパン SECT II http://www.aai.jp/products/sect2.html 3-1) 七日市一嘉, 川崎繁男, 篠原真毅, 松本紘, ”排熱構造を有する高出力アクティブ 集積アンテナの検討”, 信学会技報MW2005-08,2005,9月, pp. 17-21. 3-2) S. Kawasaki, “A Unit Plate of a Thin, Multilayered Active Integrated Antenna for a Space Solar Power System”, The Radio Science Bulletin, 310, Sep. 2004, pp. 15-22. 3-3) S. Sasaki, K. Tanaka, S. Kawasaki, N. Shinohara, K. Higuchi, N. Okuizumi, K. Senda, K. 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