...

人材育成派遣に関する検討委員会(提言)

by user

on
Category: Documents
14

views

Report

Comments

Transcript

人材育成派遣に関する検討委員会(提言)
Vol.17 No.30
会報 JAMT ホームページ掲載
平成 23 年 11 月 7 日
人材育成派遣に関する検討委員会
臨床検査技師の新たな就業形態の構築
平成 17 年 8 月 12 日
社団法人日本臨床衛生検査技師会
会長
小﨑 繁昭 殿
(社)日本臨床衛生検査技師会
人材育成派遣に関する検討委員会
委員長
金子 健史
副委員長
富永 博夫
委員
今村 文章
大富 正壽
小林 克己
髙田 鉃也
野村 昌司
宮島 喜文
(あいうえお順)
提 言 書
当委員会は、昨今の雇用環境の変化に
対応した臨床検査技師の新たな就業形態
を構築し、また、その人材を育成するた
めのプログラム策定・システム構築の要
否・可否について、
平成 17 年 5 月 14 日(第
1 回)から同年 8 月 5 日(第 5 回)まで 5 回
にわたり委員会を開催し審議を重ねた結
果、別紙の結論に達しましたのでご提言
申し上げます。
Ⅰ.はじめに
Ⅰ.はじめに
医療機関等における近年の機械化・自
動化の進展は、労働形態を労働集約型か
ら資本集約型へと変化せしめ就業人口の
縮小を招いた。
また、医療制度改革の名の下に求めら
れた経済合理性の追求は、固定費の削減
という形で具現化した。医療機関等は挙
ってアウトソーシング、欠員の不補充あ
るいは契約社員・派遣社員のような非正
社員での補充をした結果、医師や看護師
等の宿命的に労働集約型の労働以外は内
部労働市場型から外部労働市場型へと雇
用形態が変化し、社員研修の外部化を招
来した。
徒弟制に近い OJT で人材を育成してき
た臨床検査部門も、人員合理化により内
部研修が不可能となった結果、医療機関
等は外部労働市場に即戦力を求め、新卒
者は行き場を失い正社員としての就業率
は下がり、彼らはいつになっても即戦力
になり得ない状況が生じている。
一方、労働者の価値観の多様化、特に
女性の意識変化に由来する社会進出とそ
れに伴う生活様式の多様化は雇用流動性
を促進し、非正社員の増加を加速した。
その結果、労働力価値は不変もしくは
上昇したにもかかわらず労働力価格は大
幅に下落した。このことは、同一資格で
同一労働をしているにもかかわらず、常
用雇用職員と非常用雇用職員との賃金格
差を比較すれば判然とする。
さらに、平成 16 年 3 月より改正労働者
派遣法が施行され、医療機関等への医療
職種の紹介予定派遣が解禁された。現在
はまだ派遣そのものが禁止されているの
で大きな動きは出ていないが、やがて全
面解禁になることも視野に入れて、労働
力価値の底上げと労働力価格の適正化を
図らなければならない。
上述したように、日本の雇用システム
は、終身雇用制・年功賃金制の崩壊と相
俟って、内部労働市場型から外部労働市
場型へと転換しつつある。
長期雇用と高い労働条件とを享受する
正社員が縮小し、短期雇用で労働条件が
低い非正社員が増加しつつある現在では
社会におけるバランスが崩れてきている。
外部市場型への変化は、個人が企業に
深くコミットすることで得られていた安
定を、何で代替するのかが大きな課題と
なる。労働者の就業上の価値観や働き方
が多様化するなかで、労働者が職業や職
務内容にこだわる傾向はますます強くな
るであろう。
企業の人事施策においては、人材ポー
トフォリオに基づいて、コア人材となる
マネジメント社員と、専門技術を活用し、
固定的な業務に従事するプロフェッショ
ナル社員、アソシエート社員への分化が
進む。特にプロフェッショナル人材につ
いては外部労働市場を活用して人材を調
達する傾向が着実に強まっていくだろう。
これまで、プロフェッショナル社員、
マネジメント社員のスキルは企業内にお
いて育成・蓄積されてきたが、企業の指
揮監督命令・拘束を強く受けない就業者
(派遣・業務委託・請負など)が増加するこ
とにより、今後は転職の市場原理のなか
で「自己責任」と「専門職組織の役割」
が重要になる。
中世のヨーロッパでは都市の商人や手
工業者の同業専門家集団である「ギルド」
が形成され、共存共栄・相互扶助を目的
として活動していた。
就業形態が多様化する現代においても、
日臨技のような専門プロ集団が、新しい
組織コンセプトのもとで、職業倫理の醸
成・人材の育成・検査ノウハウやスキル
の発展継承・就業斡旋等に取り組むこと
が社会にとっても会員にとっても喫緊の
課題となる。
企業内の人材育成から社会的人材育成
へ。多様な働き方を成立させるためには
このパラダイム転換が不可欠である。こ
れまで人材育成は企業内の OJT を含む訓
練に頼りきりであった。
しかし、雇用形態・就業形態が多様化
すれば、企業だけでは人材育成を担いき
れない。経済的負担が軽く、モラルハザ
ードを起こさない、効果的な社会的人材
育成システムを日臨技が構築しなくては
ならない。
人材育成派遣に関する検討委員会では、
「日臨技だからこそできる、日臨技でな
ければできない」というコンセプトの下、
職能団体のあり方をベースにして、流動
化する雇用形態、多様化する就労形態に
対応し、職域拡大をも視野に入れ、臨床
検査技師の雇用を促進し臨床検査職能の
向上を図るための、既成の概念を打破し
た人材育成プログラムおよび人材バンク
の要否・可否を検討し、今後の検討課題
を整理、提言する。
Vol.17 No.30
Ⅱ.雇用をめぐる現状と展望
会報 JAMT ホームページ掲載
平成 23 年 11 月 7 日
Vol.17 No.30
会報 JAMT ホームページ掲載
合計特殊出生率が 2004 年には 1.29 に
まで低下し、団塊の世代は 2007 年に 60
歳代に到達し、総人口も 2007 年には減少
に転ずる見通しであるなど、人口減少社
会の到来が眼前に迫っている。
平成 23 年 11 月 7 日
前頁の図は、各種対策、特に女性対
策を講じ、労働力市場への参加が進む
ことにより、労働力人口は、現状のま
ま推移した場合と比べて 2015 年で約
300 万人、2030 年で約 510 万人上回る
ことを示している。これに加え、労働
生産性の向上を図れば現在以上の経済
成長率を維持することは可能だと言わ
れている。
日臨技会員数の推移
60,000
総数
50,000
40,000
女性
30,000
20,000
男性
10,000
不明
日臨技会員の 6 割以上は女性である。
上図に示したように、男性会員数は
16,634 名(1987 年度末)から 1995 年度
19,215 名のピークを経て 18,160 名
(2004 年度末)と漸減しているが、女性
会員数は、18,430 名(1987 年度末)から
30,443 名(2004 年度末)と増加の一途を
辿っている。
また、2004 年には就業者に占める女
性比率が 41.3%になり、この比率は当
面高まることはあっても低下すること
平
成
13
年
度
平
成
9
年
度
昭
和
6
昭 2年
和
度
6
平 3年
成
度
1
平
年
度
成
2
平
年
成
度
3
平
年
成
度
4
平
年
成
度
5
年
度
-
はなく、社会においても男女の比率が
同じになる日は遠くない。
内閣府の男女共同参画社会における
世論調査によれば、女性の働き方につ
いては、男性・女性いずれにおいても
「子どもができてもずっと仕事を続け
る方がよい」と考える者が、
「子どもが
できたら仕事を辞め、大きくなったら
再び仕事を持つ方がよい」と考える者
を上回り、様々な分野で女性の活躍が
徐々に広がりつつあるが、女性が活躍
できていない職域は残っており、女性
の管理職比率も 7.7%(2003 年)と低い
等、能力発揮の機会は十分ではない。
女性が活躍する領域を拡大するため
のポジティブ・アクション・プランの
策定、妊娠・出産しても安心して働き
続けることができる環境整備や出産・
子育てにより離職した者への再就職・
再就業への支援強化など、職能集団が
種々の女性対策を講じなければ、その
職能の底力が失われる。
Vol.17 No.30
2002 年にはついに全就業者に占める正
社員の割合は 53.2%になった。雇用形態
別雇用者数も非正社員が増加の一途を辿
っている。
雇用形態別人材ニーズのシェアを見て
も、1999 年から 2003 年の4年間で正社
員のシェアは 11.9%もダウンしており、
会報 JAMT ホームページ掲載
失業率の上昇と平行して雇用不安も増大
している。
自動化の進展による労働形態の変化(労
働集約型→資本集約型)がもたらした就業
人口の縮小と経済合理性追求の結果もた
らされた即戦力のニーズ、さらに OTJ の
崩壊によって新卒未就労者あるいはアル
平成 23 年 11 月 7 日
バイターが増加している。ちなみに、比
較的就職に有利な都内でさえ、某技師養
成校の本年 3 月卒業生 84 名の就職状況は
正職員雇用 60 名、非正職員雇用 9 名、未
就労 9 名、進学 6 名である。
Vol.17 No.30
派遣労働者は 2002 年に 200 万人を超
え、2004 年3月には改正派遣法が施行さ
れた。
改正のポイントは以下の通
りである。
1.派遣期間
① いわゆる 26 業種は無制限
② その他は最長3年間
2.直接雇用の促進
3.派遣対象業務の拡大
会報 JAMT ホームページ掲載
① 「物の製造」業務を派遣対象に、
但し当面は 1 年間
② 医療関連職種について、紹介予
定派遣による派遣を認める。高度な専門
性の担保が必要
4.許可・届出が事業所単位から事業主
単位へ
5.紹介予定派遣の解禁
6.派遣元・派遣先の講ずべき措置
平成 23 年 11 月 7 日
7.都道府県労働局での指導監督業務の
集中管理
医療関連職種については、現時点にお
いて、紹介予定派遣のみが法で許された
範囲であるが、低コストで高度な専門性
を担保する研修体制が構築できる団体は
日臨技をおいては存在しない。
Vol.17 No.30
会報 JAMT ホームページ掲載
日臨技無料職業紹介事業の平成 17 年5
月末日における申し込み状況は求職 321
件に対し求人は 213 件(有効求人倍率 0.64
倍;正社員の求人は 50%で世間並み)とな
っており、就職決定件数は 35 件と決定率
は 10%にすぎず、90%がミスマッチ(中途
採用市場 675 万人のミスマッチは4割)と
なっている。
平成 23 年 11 月 7 日
地方自治体の無料職業紹介が解禁と
なった今、求職者が希望する求人の掘
り起こしなどの有効な職業紹介のあり
方を検討しなければならない。
賃金の実態
平成 16 年賃金構造基本統計調査(全国)
結果の概況(厚労省大臣官房統計情報部)
を基に賃金の実態を概観してみた。
(1) 一般労働者の年齢階級別賃金
賃金がピークとなる年齢階級をみると、
男では、50~54 歳で 410,100 円となり、
女では、40~44 歳で 248,900 円となって
いる。
年齢階級別に前年と比較すると、男で
は、60~64 歳を除く各階級で下回ってお
り、女では、39 歳以下の各階級で下回り、
40 歳以上の各階級で上回っている。(第 1
図)
第 1 図 性、年齢階級別賃金(
性、年齢階級別賃金(産業計、企業規模計)
産業計、企業規模計) (注
(注) 線上の
(2) 一般労働者の企業規模別賃金
一般労働者の企業規模別賃金
男女各規模の賃金を前年と比較すると、
男の中企業を除き上回っている。賃金が
ピークとなる年齢階級をみると、男では、
大企業及び中企業で 50~54 歳、小企業で
下図からは、女性自立の時代にもかか
わらず、一家の家計を支えるのは男だと
する誤った考え方が読み取れる。
●印は賃金ピークを示す。以下同じ。
55~59 歳、女では、大企業が 45~49 歳、
中企業及び小企業が 40~44 歳となって
いる。年齢階級間格差は、中企業、小企
業が大企業に比べて男女とも小さくなっ
第 2 図 企業規模、性、年齢階級別賃金(
企業規模、性、年齢階級別賃金(産業計)
産業計)
ている。男女で比べると、各規模とも、
女が男に比べて小さい。(第2図)
同一価値の労働力価格が企業規模によ
って異なることの問題を解消しなけれ
ばならない。
Vol.17 No.30
会報 JAMT ホームページ掲載
(3) 一般労働者の学歴別賃金
男女各学歴の賃金を前年と比較すると、
男では大卒を除き各学歴で下回っており、
女では大卒及び高専・短大卒で下回り、
高卒で上回っている。賃金がピークとな
る年齢階級をみると、男では、大卒が 55
~59 歳、高専・短大卒及び高卒が 50~54
歳、女では、大卒、高専・短大卒及び高
卒とも 55~59 歳となっている。(第 3 図)
大卒とそれ以外では生涯賃金に大きな差
が生じるわけであるが、臨床検査の場に
おいては学歴の差が必ずしも職能の差に
平成 23 年 11 月 7 日
繋がっておらず、
「天下一品の知識・技術
を持ちながら学歴差別の下に泣いている
者のことを考えるのが職業団体」と思っ
ている会員も多い。
第 3 図 学歴、性、年齢階級別賃金(
学歴、性、年齢階級別賃金(産業計、企業規模計)
産業計、企業規模計)
(4) パートタイム労働者の賃金
パートタイム労働者の 1 時間当たり賃
金は、男 1,012 円、女 904 円、対前年増
減率は、男 0.9%増、女 1.2%増となって
いる。
賃金を年齢階級別にみると、男は 30 歳
以上で 1,100 円前後となっている。女は
25~29 歳で 949 円と高くなっているが、
25 歳以上でおおむね 900 円台となってい
る。(第 4 図)
下図をご覧いただければ一目瞭然であ
るが、パートタイマーの賃金は年齢に関
係なく一定である。これが職務給の基本
的な考え方である。これをベースにして、
どれだけ職能給を上積みできるか、とい
うことになる。
第 4 図 パートタイム労働者の性、年齢階級別1時間当たり賃金
パートタイム労働者の性、年齢階級別1時間当たり賃金(
産業計、企業規模計)
者の性、年齢階級別1時間当たり賃金(産業計、企業規模計)
Ⅲ.人材育成派遣に関する提言
前述の状況をふまえて以下の提言をし
たい。これらの課題を検討し具体化する
ために、例えば「人材育成派遣に関する
推進(準備)委員会(仮称)」のような機関を
設置し、具体的な事業プラン・作業日程・
作業工程等の策定を進めることを提言す
る。
1.事業会社等を設立して労働者
派遣事業を展開する
<全国の求人件数>
民間の求人件数の内訳ではすでにアル
Vol.17 No.30
会報 JAMT ホームページ掲載
バイト・パートの方が正社員の求人件数
を上回っている状態が続いている。企業
の人材ニーズは正社員以外の雇用形態で
拡大していることが分かる。
企業は人件費の削減を主たる目的として
非正社員を雇用する訳であるが、一方で
企業を存続していく上での専門能力の確
保も重視している。派遣やパートとして
平成 23 年 11 月 7 日
就業している間にスキルの高さをアピー
ルし、正社員化を促すことも重要な戦略
のひとつである。単なる職業紹介とは異
なる点はここにある。
<雇用形態別雇用・活用理由>
1)
当面の事業
①派遣
→ 新卒・既卒紹介予定派遣
② 職業紹介
→ 産前産後休業、育児休業等
を取得する労働者の代替業務(超音波・微
生物・輸血等、特に熟練を要する業務中
心)
2004 年度「女性雇用管理基本調査(厚生
労働省)」の結果によれば、育児休業取得
率は女性 70.6%、男性 0.56%。2002 年度
に比べ、女性は 6.6 ポイント、男性は 0.23
ポイント上昇している。男女雇用機会均
等法に基づく母性健康管理措置について
規定がある事業所の割合は「妊産婦の通
院休暇制度」で 37.7%、
「妊娠中の通勤緩
和措置」で 28.5%だった。
会員の育児休業取得率、会員施設の母
性健康管理措置の実態調査も必要。
2) 事業体の形態
新たな法人組織を作るか否か?
作るとして種類(会社、NPO など)は?
日臨技との関係は代理店契約?
3) 各種調査の実施
◇市場調査(人材ニーズ調査、会員の
育児休業取得率)
◇新卒者就労率調査(日臨技調査を利
用しながら補完する)
◇臨床検査技師賃金実態調査
4) 賃金体系の整備
◇賃金の定義
賃金は労働力の価格であり労働の
価格ではない。
◇要素
生理的な生活費・文化的な生活
費・家族の生活費・育成費
◇支払形態
時間賃金と出来高賃金
◇検査技師の社会的平均的賃金は
実態調査の必要性
◇賃金体系
・職務給:職務の範囲 検査を職
務とするか生理・病理・血液など
を職務と考えるか
・職能給:職能認定のモノサシは?
現存の技能認定でよいか?その他
の取り扱いは?
◇男女同一賃金を踏まえた女性対策
次の図は 2005 年8月1日現在
の日臨技男女別・年代別会員数で
ある。55~59 歳の階級を除いた
全階級において女性会員が男性
会員より多いことが分かる。また、
年齢階級が若くなればなるほど
女性会員の比率は高まり、20~24
歳の階級では実に8割以上を女
性が占めている。
このまま推移すると仮定した
場合、今から 10 年後には会員の
7割を女性が占めることとなる。
このことの原因についてはここ
では論じないが、明日の臨床検査
の担い手が女性であることだけ
は疑う余地のない事実である。
賃金構成のイメージ
職 務 給
職
能
給
臨床検査技師
その他
基本能力
専門能力 A1
専門能力 A2
専門能力 A3
(免許)
(宿直など)
松竹梅方式(
松竹梅方式(現在の平均賃金を梅として、それに付加価値を付け価格に転化させる)
現在の平均賃金を梅として、それに付加価値を付け価格に転化させる)の採用によって高賃金を目指す
男女別・年齢別 日臨技会員数(2005.8.1現在)
6000
男
5000
女
会員数
4000
3000
2000
1000
0
59~55 54~50 49~45 44~40 39~35 34~30 29~25 24~20
年齢階級
Vol.17 No.30
男女間賃金格差の年次推移をみると長
期的には縮小傾向にある。しかし、男性
会報 JAMT ホームページ掲載
一般労働者の平均賃金水準を 100 とする
と、女性一般労働者のそれは 2003 年にお
平成 23 年 11 月 7 日
いてさえ 66.8 と約3分の2であり、未だ
男女間でかなりの賃金格差がある。(下図)
また、国際的にみてもわが国の格差は大きい状態である。(下図)
男女間賃金格差の発生原因は多種多様であるが、最大の要因は職階の差であり、勤続年数の差、手当も影響している。
Vol.17 No.30
会報 JAMT ホームページ掲載
平成 23 年 11 月 7 日
また、経営団体トップや労働組合幹部に対するアンケート(下図)や企業ヒアリングによれば、業務の難易度、業務の与え方に男女間
で相違があることが指摘されている。
上述のように、男女間の賃金格差は賃金
制度そのものの問題というよりは人事評
価を含めた賃金制度の運用面や、職場にお
ける業務の与え方の積み重ね、配置のあり
方等雇用管理面における問題から生じて
いることがわかる。
男女同一賃金を目指しての課題を以下
に提起する。
① 男女間賃金格差の実態把握と要因
分析を行い、それを踏まえて議論する。こ
の場合、女性の意見が議論に反映できるよ
うにすることが効果的であるため、女性部
会との合同会議も検討する。
② 賃金決定が曖昧な賃金制度は男女賃
金格差の温床となるため、賃金決定基準の
明確化や賃金表の整備など、公正・明確・
透明な賃金制度の整備を進める。
③ 不透明で曖昧な人事評価制度は賃金、
昇進・昇格における男女差別の温床となる
ため、評価基準を明確で客観的なものにす
るとともに、評価者訓練のプログラムを整
備する。
④ 業務の与え方や配置を意欲や適性、
能力に基づいて行なう仕組みを検討する。
自己申告制度、社内公募制度、フリーエー
ジェント制度などを軸に検討する。
5) 就業形態の整理
次の図は、企業とのコミットメントと
企業の期待勤続年数を座標軸にして主た
る雇用形態をプロットしたものである。
ここで注目すべきは就労形態の重なり
である。第2象限(企業の期待勤続年数/
長期)×(企業の指揮監督命令・拘束/強)
は、正社員がその範囲を占めるが、それ
と重なる位置にある就業形態との関係に
着目すると、契約更改を繰り返し長期間
同一企業で働く契約社員や準社員、元社
員である嘱託社員、フルタイムで働くフ
ルパート、派遣会社の正社員などが重な
る。
<現在の就業形態>
この中で、正社員と遜色のない働き方
をしている非正社員も少なくない。
改正パート労働指針に「同一価値労
働同一賃金」が盛り込まれているが、
就業形態間格差は依然として狭まっ
ていない。その原因は、以上述べた
就業形態に起因している。
Vol.17 No.30
<今後あるべき人材
ポートフォリオ>
正社員時代の終焉を迎えるにあたって、
労働力の価値と価格が見合った今後ある
べき就業形態を右図のように提案したい。
正社員・契約社員・パートタイマーの 3
つの雇用形態を、マネジメント社員・プ
ロフェッショナル社員・アソシエート社
員の 3 形態に再編し、再配置したもので
ある。
マネジメント社員は(企業の期待勤続年
数/長期)×(企業の指揮監督命令・拘束/
強)で、事業部長など、高いマネジメント
能力を要求される職に就く者を想定して
いる。
プロフェッショナル社員は(企業の期待
勤続年数/長期~中期)×(企業の指揮監督
命令・拘束/やや強)で、文字通りスキル
や専門技術の高い職に就く者で、即戦力
として期待され、企業へのコミットメン
トより職に対するコミットメントが強い。
アソシエート社員は(企業の期待勤続年
数/中期)×(企業の指揮監督命令・拘束/
中)で、一般社員や産休や育児・介護・教
育・家事による短時間労働者を想定して
いる。
矢印は就業形態間のトランジッション
を表している。今後、企業においても、
従来の正社員を中心とした人事施策(賃金
制度、教育制度など)から多様な社員に対
会報 JAMT ホームページ掲載
応可能な人事マネジメントへの転換が必
要となる。個別契約化が進めば個別人事
管理が進むであろう。
また、不安定要素の強い就業形態の者
に不安を増長させない対策を講じなけれ
ばならず、自由な働き方の選択・自助努
力への誘導・個別労働契約の支援・再就
職の支援・職業教育の拡大を図らなくて
はならない。
平成 23 年 11 月 7 日
併せて、各雇用形態間のトラジッション
に関する明確なルール作りも必要となる。
日臨技のような職能団体が、労働市場サ
ービスをも含む全体的なサポート機能を
果たさなければならない時代が到来した
ということである。
2.派遣技師・新卒技師を含めた臨床検査技師の社会的人財育成システムを構築する
「日臨技・プロフェッショナル大学
院」の設立
社会人を対象とした職業教育の場は専
ら企業内教育に依存しており、企業の枠
を超えた人材育成の場はないか、あって
も不完全であった。日臨技にも生涯教育
研修システムが存在するが散発的であり、
必ずしも系統的でもない。また、現在は
専門職大学院があるが、いまだプロフェ
ッショナルというよりはアカデミックの
価値観で運営されている。研究的態度で
研鑽を積むことは極めて大事なことであ
るが、会員の多くは優秀な技術者であり、
学者ではない。そこで、日臨技や会員施
設が持っているノウハウ・資金・人材を
十分に活かした形での、これからの臨床
検査のプロを育成する大学院を新たな枠
組みで立ち上げることを提案したい。
現在の資格制度は、国家資格、公的資
格、民間資格、技能認定、能力検定、免
許など、多種多様なものが存在する。さ
らにそれは業務独占資格、名称独占資格、
必置資格といった適用や運用面の分かり
にくさと、有資格者のみを職業に任用す
る資格任用や、適用される期間が永久的
なものや更新制のものなどの違いもある。
一級、二級というようにランクを設けて
いるものもあるが、多くはその職業を行
なうための最低資格であり、職業人とし
ての実績を基に実力を問うものはほとん
ど存在しておらず、人材の採用基準や報
酬との連動性も低い。
変化の激しい時代では、臨床検査の第
一線で活躍できるプロフェッショナルの
認定基準をつくり、質の高い人材を育成
することが、臨床検査という職能を持
続・発展させる後押しとなる。
● 現在の専門職大学院の枠組みを超え
た、これまでの大学設置基準とは切り離
した「日臨技・プロフェッショナル大学
院」体系化のビジョンは以下の通りであ
る。
1) 新大学院の卒業時の学位は臨床検査・
プロフェッショナル修士とし、それぞれ
の専門分野のプロフェッショナル認定と
して機能するようにする。
2) 卒業試験(認定試験)不合格者のカリキ
ュラム受講・実習の免除は 3 年間とする。
3) 現在の大学設置基準は適用せず、教
員の任用、校舎等の規制は考慮しない。
Web を最大限に活用することによって、
企業人の兼職を標準モデルとする。また、
職務経験の有る者のみで教員を構成する。
4) 実務2年、知識1年の合計3年を修
士の取得に必要な期間とするが、当該職
務が実務2年以上に相当すると認められ
る場合は免除される。
5) 一般の入学者に対する教育にとどま
らず、企業の社内教育の受託、企業内教
育への保有知識資源のカスタマイズを行
い、授業料収入、寄付金、企業への営業
収入を3本柱にする。
6) 臨床検査・プロフェッショナル認定
試験の実施主体者になる。
7) 会員施設等の現場を活用したOJT
教育を取り入れる。
8) 臨床検査・プロフェッショナル認定
の有効期間を4年間とする。更新にあた
っては、プロフェッショナルとしての鮮
度を保つために補講を必須とする。補講
は、スキルや技能が陳腐化することを防
ぐため、過去4年間で与えるべき内容を
考慮して行なう。必要ならば実習も課す。
9) 教員には高齢者を積極的に登用し、
高齢者の持つ知識、技能、経験や知恵を
若い世代に継承する役割も果たす。
10) 企業派遣の学生を歓迎する。入学の
敷居は低くし、卒業は厳しくする。卒業
には実務経験先の評価とプロジェクト報
告書(修士論文に相当)の評価を必要とす
る。
Vol.17 No.30
●「臨床検査・プロフェッショナル認定
試験」を導入する。
1) 学位と連動した臨床検査・プロフェ
ッショナル認定試験を実施する。
新大学院の卒業試験を臨床検査・プロ
フェッショナル認定試験と位置付ける。
2) 企業派遣など既に社会人で一定の要
件を満たした者は実務を一部免除する。
3) 試験は、実務 2 年のうちの最終 1 年
会報 JAMT ホームページ掲載
間の就業そのものを査定する。受け入れ
医療機関・企業等の育成担当者と新大学
院により指定された認定評価者(アセッサ
ー)の複数人が、臨床検査プロフェッショ
ナルとしての受験者の実業務を査定し、
判定する仕組みとする。
4) 査定を行なう受け入れ医療機関の育
成担当者、認定評価者(アセッサー)につい
ては、医療機関・大手コマーシャル・ラ
平成 23 年 11 月 7 日
ボ等の第一線で働く医療人で構成する。
認定評価者は考課者研修を必須とし、受
け入れ医療機関の環境の違いなどによっ
て評価軸が変動しないような配慮や査定
の仕組みを作る。
5) 最終的な認定組織は賃金決定権者で
構成する。
日臨技・プロフェッショナル大学院
日臨技・都道府県技師会
医療機関・企業など
日臨技・プロフェッショ
ナル大学院
上述のような遠大な構想が容易に実現
するとは思えない。しかし、このような
壮大な設計図を描き、年度毎に到達目標
を定め、逐次モザイク的に整備すること
を提言したい。その際、まず形ありきで
徒に資金を投入するのではなく、知恵と
工夫を凝らして既存の人・物の活用を図
るべきと考える。
当面の検討課題として以下の事項を提
言する。
1) 会員構成特性を考慮して女性が受講
しやすい体制整備を検討する。
2) コミュニケーション能力はどのよう
な仕事をするためにも必要な能力である
が、社会においてそうした能力を身に付
ける機会が乏しい。その他、目標発見力、
継続学習力、文脈整理力、人間開拓力、
委任力、教授力、コーディネート力等を
養う講座も検討する。
3) 当面、生理・輸血・微生物等の分野
から検討を開始する。
4) 早期にインストラクターを育成する。
5) 研修施設認定の基準を検討する。
Vol.17 No.30
6) 技術だけの教育から職能教育への転
換を図る。
7) 技能認定から職能認定への転換を意
識したカリキュラムを策定する。
8) 講義方法は必ずしも対面教育にこだ
わらず、通信教育、Webによるバーチ
ャルカレッジなども検討する。
2.相場を形成するために人材紹介
会社による概念的インソーシング
の仕組みを作る
今までに提案してきたような大学院や
職業コミュニティに欠かせないのが、人
材と仕事の仲介・斡旋機能である。しか
し、高度の専門性を身につけた人材が、
それにふさわしい仕事の機会を手に入れ
るには出会いを司る場と機能が必要にな
ってくる。求人情報が入手しやすい環境
であることは当然としても、情報流通が
偶発的・散発的では用をなさない。
さらに、意思決定を支援するために、
賃金などに関する相場情報が公開される
必要がある。賃金相場の確立には、プロ
フェッショナルとして備えるべき力量を
具体化したり、そのレベルの維持、一定
のレベルへの誘導など大きな効果がある。
会報 JAMT ホームページ掲載
人材紹介会社があたかも企業における
人事管理を「インソーシング」するよう
に関わりを持つことで賃金などの相場形
成が図れる。
● 大学院および職能団体にキャリア
センターを設け、人材紹介会社と協力し
てセンター運営を行なう。
1) 人材紹介会社は求職者と面談して、
そのプロフェッションや志向に合致する
求人を開拓する。
2) 人材紹介会社は自ら保有する労働市
場情報により賃金などの労働条件の評価
を行なうほか、条件が一定の水準に収束
するように求人側と調整を行なう。
3) 人材紹介会社は、大学院、日臨技、
都道府県技師会を接続するハブの役割を
果たす。
● 大学院は就職決定者の賃金情報を
収集・公表するほか、人材紹介会社がこ
れらの情報と自ら保有する労働市場情報
をもとに妥当な賃金水準を吟味し、賃金
相場情報として公開する。
1) 日臨技大学院は、カリキュラムを検
討する際に会員の協力を得るのみならず、
実際の就職先としても想定される会員施
設と協議して、あらかじめ学位取得者の
賃金水準を決定する。
平成 23 年 11 月 7 日
2) 日臨技大学院は、就職希望者に関す
る情報を公開し、賃金をはじめとする処
遇について企業のオファーを受け付け、
就職希望者にフィードバックする。企業
へのプレゼンテーションやオーディショ
ンなどの方法で処遇を決定することも検
討する。
3) 業務内容、賃金に関する情報を継続
的に収集し、ベンチマークする。
4) 人材紹介会社は、これらの情報を日
臨技大学院から収集し、自ら保有する市
場情報を踏まえて妥当な水準を吟味し、
その結果を公表する。
5) 一般紙、業界紙に特集記事を掲載し
てもらい、日臨技大学院の評価や賃金相
場情報を紹介することで社会的認知度を
高める。
<了>
Fly UP