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岐阜弁話者の意識調査

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岐阜弁話者の意識調査
東京女子大学言語文化研究(
)22(2013)pp.17-38
岐阜弁話者の意識調査
大
野
樹里亜
1.はじめに
1.1.論文の目的と構成
本論文は、岐阜県美濃地方の方言について、母語話者による語の認知度と使用に関す
る意識を調査し考察を行ったものである。本論文では、岐阜県美濃地方の方言のことを
「岐阜弁」と呼ぶ。アンケート調査において美濃地方の人の呼び親しんだ名称を使うこ
とによって対象者の自然な回答を導くためである。
東(2009)は、
「社会言語学者の間では、二言語話者が、文章の中であるいは談話の中
で二言語を交互にあやつりながら話す話し方をコードスイッチング(code-switching)
あるいはコードミクシング(code-mixing)とよんでいる」と述べた上で、コードスイッ
チングが起きる理由は大きく
つに分類されると指摘している。
.場面、状況、話題が変化するにつれておこるコードスイッチング
.メンバーシップを確立するために使われるコードスイッチング
.聞き手と話し手の間で生まれるお互いの権利や義務について交渉するための手
段としてのコードスイッチング
.
つの言語のうちどちらの言語を選ぶべきかわからない場合に、どちらの言語
にすべきか見極めるために使われるコードスイッチング
二言語話者とは、通常、
つの言語を話す人のことであるが、
つの言語の
つの変種
を話す人にも同じ現象が起こっているのであろうか。対象者へのアンケートの回答を分
析することにより、主に、(1)話す相手により岐阜弁の使用に差があるか、(2)岐阜県
で育った人は岐阜弁をどのように思っているのかの
点を明らかにする。
井上(1992)は、東海道沿線で行った調査をもとに、実際の方言使用と方言意識の関
連について次の
点を指摘している。
― 17 ―
①
方言使用:方言と共通語の使い分けについて、日常的な場面では、東京に近い
ところほど標準語を多く使っている。その一方、改まった場面ではどの地域で
も標準語・共通語がいきわたっている。
②
方言意識:土地の方言について、嫌いだと考える人は東に多く、静岡付近と大
阪では、地方のなまりが出ることは恥ずかしいことではないと考える傾向にあ
る。
そこで本論文では、高校卒業後に関西、関東、愛知県に移動した人を対象に、次の
点
も上記(1)、
(2)と関連させながら明らかにする。
①
方言使用:日常的な場面では、岐阜県に近いところほど岐阜弁を多く使ってい
るのか、また改まった場面ではどうか。
②
方言意識:岐阜弁の好き嫌いは、移動した地域によって差があるのか。
1.2.岐阜県の地域と方言
岐阜県は、人口2,064,940人(2012年10月現在)、面積10,621.17平方キロメートル(2012
年
月現在)
、日本のほぼ中央に位置しており、周囲を富山県・長野県・愛知県・三重県・
滋賀県・福井県・石川県の
つの県に囲まれた数少ない内陸県の1つである。県内は、北
部の飛騨地方と南部の美濃地方(旧国でいう飛騨国と美濃国)に大きく二分することが
でき、美濃地方はしばしば、岐阜圏域・西濃圏域・中濃圏域・東濃圏域に分けられる。
「飛騨の山、美濃の水」という意味の「飛山濃水」ということばが示すように、飛騨地
方は飛騨山脈をはじめとする山岳地帯で、美濃地方は木曽三川が流れる濃尾平野である。
岐阜県では、地域の自然条件に応じて、トマト、大根、稲作などの様々な農産物が作ら
れているほか、牛の飼育や、鮎やにじますなどの漁業も盛んである。また、古くからも
のづくりが盛んで、ファッション、陶磁器、紙などの製造業の事業所の割合は全国の中
でも最も高い。i
このような地理的環境のもとで、岐阜県の方言は複雑に形成されているため、一口に
岐阜県の方言と言っても一様ではない。平山ら(1997)によると、岐阜県の方言は、日
本の方言を大きく東西に二分する場合の境界地帯に位置しているため、両方の言語要素
を取り入れて方言ができているという。
― 18 ―
2.調査概要
2.1.調査目的
本調査では、話す相手によって岐阜弁話者の岐阜弁の使用がどのように変化するかを
見ていく。方言の使用実態にかかわると思われる方言認知と、使用についての意識の調
査も併せ、アンケート調査の結果をもとに分析・考察する。
岐阜県は名古屋市をもつ愛知県に隣接し、関西と関東の間に位置している。このため、
高校卒業後に岐阜県に残留する人は多いものの、名古屋市を中心として愛知県、関西、
関東に移動する人も少なくない。そこで、岐阜県を離れた人の現在住んでいる地域の違
いによっても岐阜弁の使用や意識に差がありうると考え、関西と関東、また愛知県内に
移動した人の回答を比較し考察する。
2.2.調査方法
本調査は、インターネットによるアンケート形式で2012年11月上旬に実施し、岐阜県
の中濃圏域を中心として美濃地方で育った19∼23歳の男性88名、女性124名の合計212名
を対象とした。出生地が岐阜県でなくても少なくとも中学・高校時代を岐阜県で過ごし
ている人であれば調査の対象とした。対象者の職業は、大学生の153名が最も多く、次い
で会社員、フリーター、短大生や専門生などがいる。
調査方法は、約130名の対象者に、直接、アンケートの URL 付きのメールを送って協
力を依頼した。協力が可能な人には、URL にアクセス、回答をお願いしたところ、約
115名の回答が集まった。一部の対象者には、共通の友人を除いて、協力してもらえる友
人に同アンケートの協力依頼をお願いした。その結果、215名の回答が集まったが、15歳、
27歳、28歳の
名が含まれており、本調査の条件を満たさないため対象外とした。
アンケートには、13の質問を作成した。性別、年齢、現在の居住地、職業に関して問
うもの、選定語彙の認知や使用、岐阜弁に対する意識やエピソードを問うものを用意し
た。語彙の使用については、(1) 家族と話すとき
岐阜県以外の友人と話すとき
さない目上の人と話すとき
(2) 岐阜県の友人と話すとき
(4) 岐阜弁を話す目上の人と話すとき
という
(3)
(5) 岐阜弁を話
つの場面設定をし、選定した語彙を各々の状況で
使用するかを問いにした。選定語彙の認知や使用に関する問いの回答は複数選択形式と
し、岐阜弁に対する意識の回答は単一選択形式、岐阜弁に関するエピソードの回答は自
由記述形式とした。
― 19 ―
2.3.調査語の選定
方言認知や使用に関する質問の対象語彙は、名詞、動詞、助動詞、副詞の
つの品詞
から以下の23語を選定した。語彙の選定において、
『地方別方言語源辞典』
(2007)
、web
上のサイトより『ぎふ県雑学』、『岐阜県の方言一覧表』に記載されている方言を参考に
した。
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3.調査結果の分析と考察
3.1.方言語彙の認知
方言認知については、対象者に行った調査より、23語の中で、18語が認知度85%を上
回っており、今回選定したほとんどの語彙を調査対象の大部分の人が知っていることが
わかった。エピソードの回答より、
「なまかわは父や年配の人がよく使う。自分は使わ
ない。
」や「まわし、かんこうするはほとんど使用したことがない。使用するのは、祖母
のみ。
」などがあったことから、認知の背景として言語形成期に育った家庭環境が影響し
ていることが推測できる。
― 20 ―
3.2.場面差
本節では、2.2.に挙げた
①
つの場面設定における方言使用に関する意識を比較する。
全体の傾向
アンケートの回答では、 つの場面の間で使用率に差が見られた。最も近かったのは、
「家族と話すとき」と「岐阜県の友人と話すとき」であり、語彙の使用率の順番に多少
の違いはあるものの、使用率に類似が見られた。家族や友人は、一般的に目上の人より
も心理的距離が近い、かつ岐阜弁を話すという共通性があることから、このような結果
になるのだと考えられる。
使用率が最も多かった語彙のみを比較をすると、岐阜弁を話さない目上の人と話すと
きの割合のみ圧倒的に低く、方言をあまり使用しないで話していることがわかる。他の
状況では比較的岐阜弁が出てきていることを考慮すると、岐阜弁を話さない目上の人に
対しては、
多くの対象者が意識的に方言を使用しないようにしていることが読み取れる。
②
助動詞・終助詞
岐阜弁に特徴的に見られる助動詞・終助詞については図
図
に示す結果が得られた。
助動詞・終助詞の使用率(%)
「∼やお/やよ」は、相手の出身地にかかわらず、親しい間柄であれば多く使われてい
る言葉であることがわかる。「∼へん/ん」、「∼とる」の使用率も、岐阜県以外の友人と
話すときに家族や岐阜県の友人と話すときの使用率より低くなっているが、それでも
70%を上回っている。さらに、岐阜県以外の友人と話すときの使用率の順位が
位、
位でもあることから、多く使っていると断定できる。
家族、岐阜県の友人、岐阜県以外の友人の親しい間柄、すなわち、言葉使いを気にし
― 21 ―
なくてよい間柄での会話は、選定した23語のうち、
「∼やお/やよ」、
「∼へん/ん」、
「∼と
る」の終助詞・助動詞が上位にある。選定した終助詞・助動詞がすべて口語的であるこ
とから、これらの語彙が上位にあることは理解しやすく、目上の人に対してあまり使用
しないのも納得しやすい。ただし、
「∼かしゃん」、
「∼まい」に関しては、家族、岐阜県
の友人、岐阜県以外の友人と話すときでも、他の助動詞と比べて使用率が著しく低く、
30%未満の人しか使用していない。このことから、親しい間柄であっても多用される岐
阜弁ではないと分析できる。
図
より、終助詞・助動詞は、
つの場面の中では岐阜県の友人と話すときに一番用
いられていることがわかる。わずかな差ではあるが、家族と話すときよりも岐阜県の友
人と話すときの方が使用率が勝っているのは、家族からおおよそ独立しているであろう
20歳前後の若者の特徴なのではないか。この年代によくみられることとして、家族より
も友人といる時間の方が長かったり、家族よりも友人との心理的距離の方が近く感じて
いたりすることがある。そのような相手に自分が伝えたいことをより正確に伝えるため
に、共通して理解できる岐阜弁の文末表現を交えながら、微妙なニュアンスを表現しつ
つ会話をしているのではないかと分析できる。
③
動詞
図
動詞(%)
目上の人と話すときは、
「(机を)つる」、
「(鍵を)かう」、
「
(お金を)こわす」、
「(ご飯
を)つける」
、「ほかる」などの動詞が上位にある。親しい間柄の人と話すときは必ずし
も上位でなかった動詞が、目上の人と話すときは上位にあるのは、親しい間柄の人と話
すときに上位にあった終助詞・助動詞の使用率の著しい低下が原因として挙げられる。
― 22 ―
動詞の使用率も低下してはいるものの、終助詞・助動詞ほどの大きな差は見られない。
動詞を目上の人に使うときは、岐阜弁の動詞のままで、
「です・ます調」にして丁寧形に
するなど、変化させることができる。そのため、口語的であったり使う相手が限定され
たりするような、助動詞や「たわけ」、「でら」、「ケッタ」などよりも、使用しやすいと
考えられる。
「かんこうする」は、全体的に使用率が低く、すべての場面で下位
位以内に入ってい
る。このことから、他の動詞に比べて使用率が低いことは明らかである。
④
使用度下位
語
図
どの場面でも下位の
しゃん」であり、図
中、この
下位
つ(%)
語は「かんこうする」、
「なまかわ」
「まわし」、
「∼まい」、
「∼か
に示すようにいずれもすべての場面で30%を下回っている。23語
語は、比較的使われていないことがわかる。これは、語の認知度と関係があ
り、認知度の下位
語もこれらの語であった。
選定した23語において、各語の認知度をそれぞれ100%としたときに、最も使用率が高
かった場面(たとえば、
「かんこうする」、
「なまかわ」、
「まわし」は家族と話すとき、
「∼
まい」
、「∼かしゃん」は岐阜県の友人と話すとき)の各語の使用率を見てみると、図
のようになる。下位
語は、それぞれ、「かんこうする」44.6%、「なまかわ」40.8%、
「まわし」36.5%、「∼まい」37.5%、「∼かしゃん」37.9%であり、やはり使用率の低
かった
語と一致している。同時に、対象者の半数を上回る人がそれらの語を知ってい
るにもかかわらず、使用していないことが明らかになっている。
― 23 ―
図
認知度を100%としたときに最も使用率が高かった場面の使用率(%)
3.3.居住地域差
本節では、現在の居住地によって、方言使用や意識にどのような差があるのかを見て
いく。居住地は、関西(大阪府、京都府、滋賀県、兵庫県)
、関東(東京都、千葉県、神
奈川県、群馬県)
、愛知県の
地域に分けて比較する。
3.3.1.方言使用
まず、方言語彙の使用について、場面ごとに居住地の間の違いを見る。
― 24 ―
①
家族と話すとき
図
使用実態
対家族(%)
<関西と関東の比較>
図
より、動詞は「ほかる」以外、関東の居住者よりも関西の居住者の方が、使用率
が高い。しかしながら、「ほかる」の使用率の差はわずか
%である。「ほかる」と同じ
意味で、関西では「ほかす」が使われているようだが、関東と関西の居住者の「ほかる」
の使用率には差が見られない。実際に、アンケートの岐阜弁に関するエピソードとして、
関西在住の対象者より「ほかるよ」と言ったらきょとんとした顔をされたという回答が
あり、
「ほかる」と「ほかす」は一見似ているが異なることに変わりはなく、関西で生ま
れ育った人は知らない言葉として認識していることがわかる。
終助詞・助動詞は、全体としては関西よりも関東の居住者の方が使用率が高いが、
「∼
たる(わ)
」と「∼かしゃん」のみ関西の居住者方が使用率が高かった。
<全体の比較>
使用率の低い
語を比較すると、わずかな差のものもあるが、
「∼かしゃん」を除く
語は関東の居住者の使用率が最も高い。普段関東にいるときに方言を使っていないと仮
定すると、気兼ねなく岐阜弁を使える家族には可能な限り使おうとしていることが考え
られる。ただし、この調査からは、それが意識的なものか無意識的なものなのかは判断
できない。
― 25 ―
②
岐阜県の友人と話すとき
図
使用実態
対岐阜県の友人(%)
<関西と関東の比較>
図
に示すように、全体として家族と話すときと同じような傾向が見られた。
<全体の比較>
「∼かしゃん」と「∼まい」を除いた終助詞・助動詞の使用率は、関東の居住者の「∼
たる(わ)
」の使用率を除いて一定して80%以上であり、多くの人が使用していることが
わかる。
「(机を)つる」と「がばり」の使用率は、関東の居住者のみ、家族と話すときよりも
岐阜県の友人と話すときの方がかなり高くなっている。これら
語は、学校生活の中で
頻繁に耳にする言葉であり家族と話すときには会話に出にくいとも考えられる。しか
し、実際に差が現れたのは関東の居住者のみであり、さらに、愛知県では「
(机を)つる」、
「がばり」が岐阜県と同様に方言として使用されているにもかかわらず家族に対してよ
りも低くなっている。したがって、
「(机を)つる」
「がばり」の使用に、学校生活の環境
や共通の方言をもつことは密接には関係していないと考えられる。また、岐阜県と愛知
県で「
(机を)つる」
、「がばり」の使用が衰退し始めている可能性も指摘できる。
― 26 ―
③
岐阜県以外の友人と話すとき
図
使用実態
対岐阜県以外の友人(%)
<関西と関東の比較>
図
より、岐阜県以外の友人と話すときは、上位半数の語彙は関西の居住者方が関東
の居住者よりも明らかに使用率が高いが、下位半数の語彙は関東の居住者の方が関西の
居住者よりも使用率が高い。上位半数で関西の居住者の方が使用率が高いという結果が
起こる原因は
つ考えられる。
つめは、「∼へん/ん」や「∼とる」などの上位を占め
ている語彙は、イントネーションは違うものの同じ言葉を使用する関西では話されやす
いからだと考える。
つめは、関西の居住者の方が、岐阜県以外の友人に話すときにあ
る程度使用する(または使用できる)語彙を予め限定していて、それらの語彙に関して
は相手の出身地を問わずに使用している傾向にあるからだと考える。反対に、関東の居
住者は、岐阜県以外の友人と話すときに上位半数の語彙を意識的に話さないようにして
いるのではないかと考える。関東の居住者が、
「岐阜県以外の友人」と聞いて頭に浮ぶ友
人は、関東の人や、関東で出会った他の地方の人である可能性が高い。そうであれば、
標準語や標準語に近い言葉を使うように意識していると考えられ、これが使用率の低下
の原因になると推測できる。
佐藤(2003)によると、古くから打消しの助動詞は、東日本が「ない(または、ねー)」
、
西日本が「ん(または、ぬ)
」であり、現代も引き継がれているという。そこで、関東在
住の岐阜県の人が、関東出身の人や打消しの助動詞「∼ない」を使う相手と話すときは、
その相手に合わせて、意識的に「∼へん/ん」と言わないように心掛けていると予想でき
― 27 ―
る。これは、行動や言動などを周囲に合わせがちな日本人の特徴が現れているように分
析できる。関東の居住者は、標準語で話すように言葉に気を遣っているのであり、その
ように心掛ける人の割合が多いからこそ、関東の居住者が岐阜県以外の友人と話すとき
の岐阜弁の使用が減少しているのであると考えられる。関東の居住者は、出身地がわか
らないように、もしくは、あたかも元から関東にいたかのようなふりをしている可能性
すら考えられる。
<全体の比較>
全体としては、愛知県の居住者の使用率が関西、関東のどちらよりも高いことが明ら
かである。都竹(1994)は、日本語の諸方言を本州東部方言・本州西部方言・九州方言・
琉球方言と区分けした上で、岐阜県(一部地域を除く)と愛知県の方言をひとくくりに
して、岐阜県愛知県方言と名付けて本州西部方言に分類している。愛知県の居住者が、
「岐阜県以外の友人」と聞いて頭に浮ぶ友人は、愛知県の人や、愛知県周辺地域出身の
人である可能性が高い。そうであれば、同じかまたはよく似た方言を使用する人と話す
機会が多いことになり、関西や関東の居住者に比べて、岐阜弁を話さないように心掛け
るなどの意識をする頻度が少ないと推測できる。
以上のように、
「岐阜県以外の友人」と言われて、愛知県在住の人は愛知県周辺地域出
身の友人、関西在住の人は関西周辺地域出身の友人、関東の人は関東周辺地域出身また
は全国各地から東京に移り住んできた友人をイメージしやすくなっていると考えられ
る。この結果より、岐阜県以外の友人と話すときに関しては、井上(1992)が述べてい
る東京都に近いほど標準語を多く使っているという結果と同様に、岐阜県に近いほど岐
阜弁を多く使っていると断定できるように思われる。
― 28 ―
④
岐阜弁を話す目上の人と話すとき
図
使用実態
対岐阜弁を話す目上の人(%)
<関西と関東の比較>
図
より、関東の居住者の使用率は、50%を上回る語は一語もなく、唯一50%に近かっ
たものは、
「
(鍵を)かう」と「
(机を)つる」の46.2%であった。一方、関西の居住者は、
「
(鍵を)かう」
、
「(机を)つる」、
「どべ」、
「ほかる」の
語が50%を上回る使用率であっ
た。岐阜県の友人と話すときは関東の居住者の方が関西の居住者より、使用率が高かっ
たことを考慮すると、岐阜県の人ではあっても目上の人であれば、使用を制限している
ことがわかる。
<全体の比較>
図
と図
より、岐阜県の人という条件が同じでも、友人と話すときと目上の人と話
すときでは、目上の人と話すときの方が全体的に使用率が下がっていることは明確であ
る。特に話し言葉に多く見られる終助詞・助動詞はその差が明らかである。しかし動詞
はその差がこれらほどではない。「3.1.場面差」の③動詞で述べた通り、方言の動詞を使
いながらも文末表現で敬意を表す形で使用しているのであろうと考えられる。また、若
者よりも年配の方が岐阜弁の動詞の使用率が高いと仮定すると、若者が年配の視点に
立って会話をしている可能性もあると考えられる。
― 29 ―
⑤
岐阜弁を話さない目上の人と話すとき
図
使用実態
対岐阜弁を話さない目上の人(%)
<関西と関東の比較>
図
より、関東の居住者は、関西の居住者のほぼ倍の割合で「いずれも使わない」を
選んでいて、その割合は50%にも及んでいる。目上の人、特に異なる地方の人と話すと
きは、できる限り標準語を話そうとする、少なくとも、岐阜弁を話さないようにする意
識が特に強いことが推測される。
その一方で、それぞれの語を見てみると、使用率が
では
%の語が、関西では
語、関東
語と、若干関西の方が多い。まったく使わないわけではないが使用できる語彙を
いくつかに限定して使用していることがわかる。ただし、この場合もそれが意識的なも
のなのか無意識的なものなのかは明確にできなかった。
<全体の比較>
地域の中で愛知県の居住者が使用率が最も高いものが多い。特に「(鍵を)かう」は
43.3%で圧倒的に高く、
「(お金を)こわす」や「(机を)つる」も30.0%で高いと言える。
しかし、
「いずれも使わない」もほぼ同率で並んでいて、岐阜県と同じまたは近い方言を
持つ愛知県の居住者でも、岐阜弁を使用しないよう心掛けている人がいることが確認さ
れた。
― 30 ―
3.3.2.方言意識
つぎに、方言意識について、居住地別
に比較対照しながら結果を記す。
①
4%㧔䌃㧕
0%㧔䌄㧕
岐阜弁が好きか
図10、11、12からわかるように、岐阜
33%㧔䌁㧕
㪘 㕖Ᏹ䈮ᅢ䈐
弁について、
「非常に好き」、「やや好き」
㪙 䉇䉇ᅢ䈐
と回答している人が地域を問わず95%以
㪚 䉇䉇ህ䈇
上を占めていて、全体的に好感をもって
63%㧔䌂㧕
いることが明らかである。しかし、
「非
図10
㪛 㕖Ᏹ䈮ህ䈇
岐阜弁が好きか(関西)
常に好き」と回答した人のみに焦点を当
てると、愛知県、関西、関東の居住者の
順に割合が多く、好きか嫌いかを問うだ
㪋㩼䋨䌃䋩
㪇㩼䋨䌄䋩 㪉㪎㩼䋨䌁䋩
けの2択の質問ではわからなかった程度
㪘 㕖Ᏹ䈮ᅢ䈐
の差も明らかになっている。
㪙 䉇䉇ᅢ䈐
「やや嫌い」と回答している人は若干
いるが、
「非常に嫌い」と回答している人
は地域を問わずまったくいない。
㪚 䉇䉇ህ䈇
㪛 㕖Ᏹ䈮ህ䈇
㪍㪐㩼䋨䌂䋩
地域
図11
のどこに移動した人も、現在は岐阜県を
岐阜弁が好きか(関東)
離れているといえども、大半の人が、岐
阜弁、すなわち自分の育った地域の慣れ
㪊㩼䋨䌃䋩
親しんだ言葉に対してよい印象を持って
㪇㩼䋨䌄䋩
㪋㪇㩼䋨䌁䋩
㪘 㕖Ᏹ䈮ᅢ䈐
いる。
㪙 䉇䉇ᅢ䈐
②
㪚 䉇䉇ህ䈇
今後も岐阜弁を使っていきたいと思
㪌㪎㩼䋨䌂䋩
うか
図15からわかるように、今後も岐阜弁
を使っていきたいと「非常に思う」、「や
図12
㪛 㕖Ᏹ䈮ህ䈇
岐阜弁が好きか(愛知)
図10∼12:小数点以下四捨五入
や思う」と回答した愛知県の居住者は
97%であり、ほとんどの人に今後も岐阜弁を使っていく意思があることは明確である。
図13、14より、
「非常に思う」、
「やや思う」と回答した関西、関東の居住者は、それぞれ
87%、77%であり、愛知県の居住者の割合よりも低いが、それでも全体の
― 31 ―
分の
以上
の人がこれからも岐阜弁を継続して使っ
㪋㩼䋨䌄䋩
㪐㩼䋨䌃䋩
ていこうと思っていることがわかる。
「非常に思う」と回答した人のみに焦点
㪉㪐㩼䋨䌁䋩
を当てても、愛知県、関西、関東の居住
㪘 㕖Ᏹ䈮ᕁ䈉
者の順にその割合が高い。これは、移動
㪙 䉇䉇ᕁ䈉
した地域が岐阜県から遠いほど、岐阜弁
㪚 䉇䉇ᕁ䉒䈭䈇
に対する愛着がない、もしくは薄れてい
記①「岐阜弁が好きか」の回答にも対応
図13
していると考えられ、ここでは、思うか
思わないかを問うだけの
あっても、
㪛 㕖Ᏹ䈮ᕁ䉒䈭䈇
㪌㪏㩼䋨䌂䋩
るとも考えられる。これらの結果は、上
今後も岐阜弁を使っていきたいと
思うか(関西)
択の質問で
㪋㩼䋨䌄䋩
地域間における差が見られ
㪈㪐㩼䋨䌃䋩
たことになる。
㪉㪊㩼䋨䌁䋩
今後の岐阜弁の使用に対する意識と居
住地の関係について、次の
言えるであろう。
㪘 㕖Ᏹ䈮ᕁ䈉
つのことが
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つ目は、他の地域に
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移動してしまったために岐阜弁に対する
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思いが薄れることである。もともとは岐
阜弁を使っていく意思があったとしても
図14
岐阜弁が通じないことに不便さを感じて
いたり抵抗を持っていたりすれば、岐阜
弁に対する思い入れは薄れる。
今後も岐阜弁を使っていきたいと
思うか(関東)
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つ目
は、これからも岐阜弁を使っていくこと
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へのこだわりが大きい人ほど、岐阜県を
㪘 㕖Ᏹ䈮ᕁ䈉
離れてもその近辺に残りやすく、そのこ
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だわりが小さいほど遠くへ離れて行って
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しまうこと、あるいは、岐阜弁よりも標
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準語や関西弁など他の言葉や方言を好む
という理由から、その地へ離れて行って
図15
しまうことも考えられる。
今後も岐阜弁を使っていきたいと
思うか(愛知)
図13∼15:小数点以下四捨五入
― 32 ―
3.4. 「岐阜弁」に関するエピソード
「岐阜弁」に関するエピソードを自由回答で集めたところ、110名の回答が集計できた。
本節では、そのエピソードの中から様々な事例や指摘を取り上げて、実際に回答者の身
の回りで起こっていることより分析、考察する。
① 「∼やお」
標準語で「∼だよ」を意味する「∼やお」という表現については、110名の回答者の中
の27名が「∼やお」についてのコメントをしている。少なくとも約25%すなわち
人に
人がこの表現について岐阜県外の人から指摘を受けたことがあるということになる。
その指摘は、
(1)肯定的な意見(2)否定的な意見(3)中立的な意見(4)その他の意見
の
つのパターンに分けられる。
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図16 「∼やお」の意見
(1)肯定的な意見は、
「かわいい」と言われたという意見である。「∼やお」についての
コメントをした27名のうち、肯定的意見の10名全員が「かわいい」と言われたという。
さらに、10名のうち
名が女性、
名が男性の回答であり、女性が「∼やお」と使う方
が好感を持たれやすく、肯定的な印象を持ってもらえるのだと推測ができる。一方、
(2)
否定的な意見は、
「へんだ」や「気持ち悪い」と言われたという意見である。また、から
かわれたり、男性が使用した場合に「女の子か!と馬鹿にされた」という回答もあった
りして、女性が話す場合に比べて、男性が話す場合は否定的な印象を持たれてしまうこ
とがあることがわかる。
(3)中立的な意見は、「興味を持たれた」、「初めて聞いたと言われた」、「岐阜県民と当
てられた」などがあった。これらは肯定的な印象でも否定的な印象でもないが、岐阜県
外の人にとって、その言葉が珍しいから興味を持ってもらえるのだろうし、岐阜弁なら
ではの言葉だから特徴的・代表的に捉えられて、岐阜県の人だと当てることができたの
であろう。
(4)その他の意見は、主に何かにたとえられている意見として、「オカマ」、
「ぶりっ子」
、「ギャル男」、「オタク」、「アニメ用語」だと思われたことが挙げられる。
― 33 ―
岐阜県外の人から、
「∼やお」が方言ではなく、いわゆる流行語や若者用語、一部の人の
間で定着している言葉であると思われたことを示唆する。
②
世代差
回答の中には、対象者自身は使用しないが、
「なまかわ」、
「まわし」、
「かんこうする」、
アンケートには含まれなかった「こわい(硬い)」などは、主に年配が使用している方言
だという指摘もあった。図
にあるように認知はしているが使用はしていない人が多く
いることの背景に、このような年代差があると思われる。言語形成期に祖父母と暮らし
ていて、今もそれらの岐阜弁を使用している人もいる。祖父母などの年配の岐阜弁使用
が若者に影響していることは確かである。
③ 「岐阜弁」の位置づけ
日本のほぼ中央に位置している岐阜県であるが、岐阜弁は関西弁に近いと思った、ま
たは、そのように言われた経験がある人は、12名いた。このようなことを言われた回答
者の中には、関西に移動した人、関東に移動した人ともにいるため、
「岐阜弁」の位置づ
けに関する意識の居住地差はないと考える。一方、岐阜弁が関西弁とは異なると考える
人はわずか
し、この
名であり、そのように言われた経験がある人もわずか
名であった。ただ
名は、どちらも関西に移動した人であるので、関西では、岐阜弁が関西弁に
似ていると思う人もいれば、似ていないと思う人も一部いることがわかる。
また、
愛知県では、
おおよそ岐阜弁を理解してもらえるようである。しかし、
「∼やお」、
「
(机を)つる」
、
「ほかる」や、アンケートには含まれなかった「(歯に)こまった(は
さまった)
」などの一部の語彙は、理解されなかったという回答もあった。「(机を)つる」
は、愛知県にも存在する方言ではあるが、上記のコメントより、愛知県の中にも使用す
る地域と使用しない地域がある、すなわち、地域差があると考えられる。さらに、愛知
県だけでなく、富山県の言葉と似ていると感じている人もいて、方言の境界線は、必ず
しも都道府県ごとではないことを示している。
④
気付かぬ「岐阜弁」
回答者の中で、大学に入ったり、岐阜県外の人と話したりして、初めて岐阜弁だと気
付いて驚いた経験のある人が複数見られた。最も多くの回答者が驚いた語は、「
(机を)
つる」であり、他にも、
「がばり」、
「ばりかく」などが挙げられる。また、今回のアンケー
トを答えるにあたり、初めて方言だと気付いたというコメントもあった。高校卒業後、
岐阜県外の人とも多くかかわることになり、初めて岐阜弁だと気づき、そのような気づ
きの後に、コードスイッチングができるようにもなると考えられる。
― 34 ―
⑤
方言選択の意識
岐阜弁を話すときに相手を選んでいることが明らかになったが、その選び方は様々で
ある。回答者のコメントには、家族や地元の友人と話すとき、祖父母と話すとき、目上
の人以外と話すとき、相手が方言を使ってきたとき、相手が興味を持っていると思えた
ときなどが挙げられていた。その一方、相手を選んで岐阜弁を使いながら話そうと意識
してはいるものの、調子に乗ったりやけになったりすると岐阜弁が出てしまうというコ
メントもあった。
方言を使う相手を選んでいるのには、
「相手に通じないと嫌だから」という大きな理由
がある。その理由の真相は、円滑なコミュニケーションを図ろうとする前向きな考えと、
岐阜弁やそれを話す回答者自身が、馬鹿にされたり非難されたりすることから逃れよう
とする回避的な考えがあると推測できる。
上野ら(2005)は、方言にはイメージがあり社会的評価と重なると指摘した上で、そ
のイメージを表す語をプラスイメージを持つものから中立のものを経てマイナスイメー
ジを持つものまで挙げている。本調査の回答者のコメントより、実際に回答者が思って
いる、もしくは、言われた経験のある岐阜弁のイメージを、上野ら(2005)の尺度を参
考にまとめると、以下のようになると考える。
プラスイメージ
←
穏やか・可愛い・柔らかい・穏やか・安心する・距離が縮
まる・ゆったりしている・やんちゃ・愛想がない・生意気・怒られている感じがす
る・きつい・汚い・恐い
→
マイナスイメージ
この結果より、岐阜弁に対して、プラスのイメージを持っている人がいる一方で、マイ
ナスのイメージを持っている人がいることは明らかである。人により捉え方に違いがあ
ることが、岐阜弁使用の程度に関係していることは予想できる。このような状況の中で、
どのような相手に対しても岐阜弁を使いやすいとは考え難く、やはり、相手を選んで岐
阜弁を使用しているのだと考えられる。
4.まとめ
この論文では、岐阜を離れた岐阜弁話者の岐阜弁の使用および岐阜弁についての意識
を調査した。
方言使用については、話す相手によって使用率に大きな差が見られた。岐阜県出身と
― 35 ―
いう条件が同じでも、家族や友人と話すときと目上の人と話すときとでは、前者の方が
全体的に岐阜弁の使用率が高かった。しかし、品詞別に見ると、その差は一様でない。
助動詞の使用率には大きな差があったが、選定語彙の助動詞は口語的であることを考慮
すると納得のいく結果である。その一方で、動詞は助動詞ほどの差がなかった。これは、
動詞が、目上の人に対しても「です・ます調」にするなど丁寧形にして、使用できるか
らであると考えられる。
また、友人であるという共通条件で、岐阜県の友人と話すときと岐阜県以外の友人と
話すときとでは、差こそあったものの、岐阜県民であるという条件が同じの家族や岐阜
県の友人と話すときと目上の人と話すときとの差ほどではなかった。親しい関係になれ
ば、相手が岐阜県外の出身の人であっても、岐阜弁を使って話している人が比較的多く
いることがわかる。
さらに、このような使用の差は、話す相手によってのみ異なるわけではないことがわ
かった。高校卒業後に関西、関東、愛知県に移動した人を
つの場面ごとに比較したと
ころ、その使用に差が見られた。特に、岐阜県以外の友人と話すときに大きな差が見ら
れ、よく似た方言や言葉が多い地域、また、それらを話す人が多いほど、岐阜弁を多く
使用していることがわかる。
方言意識については、岐阜弁に対して、好印象を持っている、かつ、これからも使用
していく意思のある人が目立っていることから、肯定的に捉えている人が多い。しかし、
関西、関東、愛知県に移動した人の比較では、その捉え方に差が表れた。愛知県、関西、
関東の居住者の順番で、岐阜弁を肯定的に捉えている。特に、愛知県に移動した人は、
97%に及ぶ割合の人が、岐阜弁に対して肯定的だ。岐阜弁を非常に好きだと思う人の割
合や、今後も岐阜弁を使っていきたいと非常に思っている人の割合も、圧倒的に愛知県
が高い。エピソードの回答より、岐阜弁に対して肯定的な人は、岐阜弁を使うことで距
離感を縮められ親密な関係になりやすいと考えている一方で、否定的な人は岐阜弁が通
じなくて不便と思っていたり、岐阜県外の人からよい印象を持ってもらえないと感じて
いたりしている。後者の場合、円滑なコミュニケーションを図ろうとしたり、岐阜弁や
それを話す人自身が、非難されることから逃れようとしたりする考えがあり、岐阜弁に
対して否定的であると推測できる。
本調査を通して、岐阜県美濃地方で育った人たちは、家族や居住する地域などの個人
をとりまく環境や、対話の相手が誰であるかということが、本人たちの岐阜弁の認知、
使用、意識のすべてに大きな影響を及ぼしていることがわかった。
― 36 ―
参考文献
東照二(2009)『社会言語学入門』研究社
井上史雄(1992)「東海道沿線の方言使用と方言意識」
『東京外国語大学論集』45号
pp.11-48, 東京外国語大学
上野智子、定延利之、佐野和之、野田春美(2005)
『ケーススタディ 日本語のバラエティ』
おうふう
小林隆、篠崎晃一(2003)『ガイドブック 方言研究』ひつじ書房
小林隆、篠崎晃一(2007)『ガイドブック 方言研究』ひつじ書房
佐藤亮一(2003)『生きている日本の方言』新日本出版社
真田信治、友定賢治編(2007)『地方別方言語源辞典』東京堂出版
都竹通年雄(1994)『都竹通年雄著作集
第
巻
音韻・方言研究編』ひつじ書房
平山輝夫、大島一郎、大野眞男、久野眞、久野マリ子、杉村孝夫、下野雅昭編(1997)
『日本のことばシリーズ21
岐阜県のことば』明治書院
Holmes, J. (2001).
. London: Pearson Longman
参考 URL
ぎふ県雑学
〈http://gifu-omiyage.sakura.ne.jp/zatsugaku/hougen.html〉2012年10月24日 閲覧
岐阜県の方言一覧表
〈http://gakuen.gifu-net.ed.jp/ contents/tyu_kokugo/japanese/hougen/index.html〉
2012年10月24日 閲覧
美濃大垣方言辞典
〈http://www.k3.dion.ne.jp/ hougen/siryou/jiten.htm〉2012年10月24日 閲覧
岐阜県庁ホームページ
岐阜県の概要
〈http://www.pref.gifu.lg.jp/kanko-bussan/shiru/gifuken-shokai/gaiyo.html〉2012
年11月30日閲覧
― 37 ―
岐阜県庁ホームページ
岐阜県の位置(地図)
〈http://www.pref.gifu.lg.jp/kanko-bussan/shiru/gifuken-shokai/map.html〉2012
年11月30日閲覧
岐阜県庁ホームページ
県内の市町村一覧
〈http: //www. pref. gifu. lg. jp/kensei-unei/shichoson-joho/chiiki-joho/shichosonichiran/〉2012年11月30日閲覧
Abstract
This article reports on a survey of Gifu dialect use by young speakers who grew up in the
Mino district of Gifu Prefecture. The main purposes of the survey was to find out 1) whether
these speakers vary their use of the dialect depending on the age and the linguistic background
of their conversational partners and their social relationship with them, and 2) how they feel
about the Gifu dialect.
The data were collected using an on-line questionnaire. A total of 212 people, 88 men and
124 women, aged 19 to 23, all of whom had grown up in Mino, Gifu, participated in the survey.
The questionnaire aimed to discover whether the participants recognized 23 expressions typical
of the Gifu Dialect, whether they used the expressions when talking to: 1) family, 2) friends
from Gifu, 3) friends from other areas, 4) older people from Gifu and 5) older people not from
Gifu, and how they felt about the Gifu dialect.
The results of the survey showed that speakers code-switch and vary the extent to which
they use the Gifu dialect depending on who they are talking to. The differences were larger with
auxiliary verbs and sentence-final particles than with verbs. The survey also showed that many
of the informants like the Gifu dialect. Differences were found between people who had moved to
the Kansai area, Kanto area, and places in Aichi Prefecture after graduating from high school.
While all three groups tend to avoid using the Gifu Dialect when they are talking to older people
not from Gifu and use it more often with their family and friends, the difference was greater
among those who had moved to the Kanto area than those who had moved to the Kansai area.
Those in the Kansai area also appear to use a limited number of typical Gifu expressions
regardless of situation.
― 38 ―
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