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news_no82 - 日本食品分析センター
ヒ素の存在形態と分析について 1/4
No.82
Dec.
2008
ヒ素の存在形態と分析について
はじめに
食品中にヒ素が含まれていることは御存知でしょうか。特に海藻や魚介類の特定の海産
物 は ヒ 素 が 高 濃 度 に 含 有 し て い ま す 。2004 年 に 英 国 の 食 品 規 格 庁( Food Standards Agency、
FSA)か ら ヒ ジ キ が 無 機 ヒ 素 を 含 有 し て い る た め 摂 取 は 控 え る 旨 の 警 告 が 出 さ れ ま し た 。と
ころが海産物を比較的多く摂取する日本で海産物によるヒ素による健康被害は報告されて
いません。
今回はヒ素の存在形態と毒性,また,その分別方法についてご紹介します。
ヒ素の形態と毒性
ヒ素は地球を構成する元素の一つとして,土壌中や海水中にも含有しています。海洋生
物はヒ素を体内に吸収し,濃縮,蓄積します。ヒ素は毒性の観点から,無機ヒ素と有機ヒ
素 に 分 類 さ れ ま す 。無 機 ヒ 素 は 亜 ヒ 酸 (As 2 O 3 )や ヒ 酸 (As 2 0 5 )を い い ,急 性 毒 性 と と も に 発 が
ん 性 の あ る こ と が 知 ら れ て い ま す 。有 機 ヒ 素 と し て は モ ノ メ チ ル ア ル ソ ン 酸 (MMA),ジ メ チ
ル ア ル シ ン 酸 (DMA),ト リ メ チ ル ア ル シ ン オ キ サ イ ド ,ア ル セ ノ ベ タ イ ン ,ア ル セ ノ コ リ ン ,
アルセノシュガーなどをいい,これらの毒性は低いことが知られています。表-1 にヒ素
化 合 物 の 急 性 毒 性 を 示 し ま し た 。そ の 他 の 作 用 と し て ,無 機 ヒ 素 に よ り DNA が 損 傷 を 受 け ,
その結果細胞変異を誘発して腫瘍のイニシエーターとして働くのではないかと推定されて
い ま す 。 ま た , 無 機 ヒ 素 は 生 体 内 で メ チ ル 化 を 受 け MMA, DMA に な る こ と が わ か っ て お り ,
この形態変化によって無毒化していると考えられています
1)
。 JECFA(FAO/WHO 合 同 食 品 添
加 物 専 門 家 会 議 )で は 無 機 ヒ 素 の 暫 定 的 耐 容 週 間 摂 取 量 (PTWI)は 15μ g/kg 体 重 /週 と し て
います。
表-1
ヒ素の形態別急性毒性
LD 5 0
形態
(mg/kg 体 重 )
被 検 動 物 /投 与 方 法
亜ヒ酸
34.5
マ ウ ス /経 口
亜ヒ酸ナトリウム
42
ラ ッ ト /経 口
ヒ酸ナトリウム
87
ラ ッ ト /筋 肉
モ ノ メ チ ル ア ル ソ ン 酸 (MMA)
1,800
マ ウ ス /経 口
ジ メ チ ル ア ル シ ン 酸 (DMA)
1,800
マ ウ ス /経 口
ト リ メ チ ル ア ル シ ン オ キ サ イ ド (TMAO)
10,600
マ ウ ス /経 口
アルセノベタイン
>10,000
マ ウ ス /経 口
EHC 224,WHO,2001 Arsenic and Arsenic compound よ り 抜 粋
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ヒ素の存在形態と分析について 2/4
食品中のヒ素含有量
毒性の観点からは無機ヒ素の摂取量が問題となります。表-2 に食品のヒ素含有量の例
を示しました。
表-2
各 種 食 品 中 の 総 ヒ 素 及 び 無 機 ヒ 素 含 有 量 の 例 (抜 粋 ) 2 )
食品
穀類
肉類
野菜
果物
魚介類
海藻
総 ヒ 素 (μ g/g)
無 機 ヒ 素 (μ g/g)
0.01~ 0.76
0.01~ 0.51
とうもろこし
<0.004
<0.003
小麦粉
0.04
0.01
牛肉
0.05
<0.003
鶏肉
0.09
<0.003
豚肉
0.01
<0.003
レタス
<0.004
<0.003
たまねぎ
0.01
0.003
トマト
0.01
<0.003
にんじん
0.007
0.004
ジャガイモ
<0.004
<0.003
リンゴ
0.005
<0.003
バナナ
<0.004
<0.003
オレンジジュース
0.005
<0.003
ぶどう
0.01
0.004
ツナ缶
0.16~ 0.77
<0.003
えび
0.47~ 2.82
<0.003
19~ 75
<0.3
米
3)
こんぶ
のり
4)
4)
18~ 32
<0.3
わかめ
4)
29~ 42
<0.3
ひじき
4)
95~ 134
72~ 96
卵
卵
0.02
<0.003
その他
砂糖
0.01~ 0.02
0.004
塩
0.005
<0.003
海産物では毒性の低い有機ヒ素として多く蓄積されることが知られています。
一般に海洋生物は海水中のヒ素を吸収して,体内でアルセノベタインなどの毒性の低い
有機ヒ素に変換して蓄積します。海藻以外にも米も無機ヒ素を含有しています。日本のジ
ャ ポ ニ カ 種 の 短 粒 米 は 総 ヒ 素 中 の 無 機 ヒ 素 の 割 合 が 60%以 上 と 比 較 的 高 い こ と が 知 ら れ て
います。日本人は米を主食としていますが,米の総ヒ素含有量は少ないため,問題となっ
てはいません。
英 国 で 問 題 と な っ た ホ ン ダ ワ ラ 科 の ヒ ジ キ は ヒ 素 を 5 価 の 無 機 ヒ 素 (ヒ 酸 )と し て 蓄 積 し
ています。そのため,英国での警告となったわけです。ところが英国人より多量のヒジキ
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ヒ素の存在形態と分析について 3/4
を食べている日本人はなぜ平気なのでしょう。
調理による減衰
ヒジキの煮物は日本の家庭料理としてよく知られています。その調理方法は,乾燥した
ヒジキを水戻し,味付けして煮付けとして摂取します。この水戻しの過程で無機ヒ素が水
に溶け出してヒ素は減少することが知られています
4),5)
。また,味付けも濃く,1 回の摂
取量は限られています。厚生労働省では通常の食習慣による摂取は健康に影響がないとの
見解を示しています。伝統的な日本食はヒ素を摂取しない上手な工夫がされているといえ
るでしょう。一方で海外では海藻を摂取する習慣の国は少ないのですが,最近,ヘルシー
フードとして前菜などで摂取することがあります。そのために調理方法も確立されておら
ず,水戻しの水を捨てるなどの知恵が徹底されているかは定かではありません。
無機ヒ素の分析方法
ヒ素の毒性を評価するために無機ヒ素を分別して含有量を評価することが重要となりま
す。ヒ素の有機,無機の分別方法にはいくつかありますが,古くから行われているものと
してヒ素化合物の蒸気圧の違いを利用したコールドトラップ法や溶媒抽出分離法がありま
す。近年ではヒ素化合物を抽出後,イオンクロマトグラフィ-や液体クロマトグラフィー
に よ り 分 別 し た 後 に , ICP-MS(誘 導 結 合 プ ラ ズ マ ー 質 量 分 析 法 )に よ り 形 態 別 に 測 定 す る
HPLC-ICP-MS 法 が 開 発 さ れ ま し た 。 選 択 性 が 高 く , 低 濃 度 の 検 出 が 可 能 な た め 一 般 的 に な
り つ つ あ り ま す 。 抽 出 条 件 は ,ヒ 素 の 形 態 に よ っ て 抽 出 率 が 異 な る た め , 水 -メ タ ノ ー ル 混
液 , ト リ フ ル オ ロ 酢 酸 , 硝 酸 (希 硝 酸 ), 水 な ど が 報 告 さ れ て い ま す 。 無 機 ヒ 素 の 抽 出 は 硝
酸 (希 硝 酸 ), ト リ フ ル オ ロ 酢 酸 が 優 れ て い る と す る 報 告 が あ り ま す
4)
。弊財団では操作が
簡便な希硝酸による部分分解抽出法を採用して海藻の無機ヒ素を分析しております。分析
方法のフロー及びクロマトグラム例を示します。
<分 析 フ ロ ー >
粉 砕 試 料 0.1 g
+0.3 mol/L 硝 酸
2ml
80℃ 1 時 間 抽 出
遠心分離
中和,メンブランフィルターろ過
HPLC-ICP-MS 測 定
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トリメチルアルシンオキサイド
アルセノベタイン
MMA
DMA
As 2 O 3
As 2 O 5
cps
ヒ素の存在形態と分析について 4/4
min
図-1 クロマトグラムの例
おわりに
ヒ素を含有する食品は少なくありません。しかし,それらの食品にも必須の栄養素を多
く含んでいます。いたずらに食品を排除するのではなく,食品中の無機ヒ素の含有量を把
握した上で,適切な量の摂取を心がけることで,健康で安全な食生活が送れるのではない
でしょうか。
参考文献
1) Jerome O.Nriagu,Aresenic in the environment PartⅡ
2) R.A.Schoof et al .,A market basket survey of inorganic arsenic in food,Food
Chemical Toxicology, 37,839-846 (1999)
3) P.N.Williams et al .,Variation in arsenic speciation and concentration in paddy
rice related to dietary exposure,Environ.Sci.Technol.,39,5531-5540 (2005)
4) Food Standards Agency.,2004,July
5)
M.H.Nagaoka
et
al .,Nitric
acid
partial-digestion
method
for
selective
determinaton of inorganic arsenic in Hijiki and application to soaked Hijiki( 食
品 衛 生 学 雑 誌 ,49,88-94(2008))
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