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花の竹の棒
よ にん し ょう 四章 「自然」 ~「四季」=「季語」と「年中行事」~ おもむき 日本の一年は気候の変化に富み、 「 春 、夏 、秋 、冬 」と い う 季 節 の 移 り 変 わ り に 独 特 の 趣 がある。 季節感溢れる言葉や、日本人ならではの美しい言葉が生まれた。 「春夏秋冬」を表す言葉が「季語」だ。四季折々の季語や言葉は、日本の多彩な表情と せんさい 「 俳 句 」に 詠 ま れ 、人 々 の 生 活 に 溶 け 込 人 々 の 豊 か な 暮 ら し 、繊 細 な 心 情 を 表 す 。そ れ は 、 んでいる。 各地では地方色豊かな「年中行事」が繰り広げられる。 「 俳 句 」 は 「 五 、 七 、 五 」 の 17 音 で 成 り 立 つ 「 世 界 で 最 も 短 い 文 学 」 だ 。 季 節 に 鋭 敏 な 日 本 人 は 、「 季 語 」 を 楽 し み な が ら 「 俳 句 」 を 詠 み 、 鑑 賞 す る 。 「季語」と「俳句」で、日本の「自然・四季」を紹介する。 「季語」は旧暦の言葉が多いため、新暦との間に時間的・感覚的なずれがある。 本 書 で は 、春 (3 月 ~ 5 月 )、夏 (6 月 ~ 8 月 )、秋 (9 月 ~ 11 月 )、冬 (12 月 ~ 2 月 )に 分 類 し た。 た だ 、 地 球 温 暖 化 や 、 ハ ウ ス 栽 培 (温 室 栽 培 )や 養 殖 、 冷 凍 ・ 冷 蔵 技 術 の 進 歩 な ど に よ っ て、野菜や魚介類が季節に関係なく手に入るため、季節の言葉が現代の人々の季節感と合 致しない場合が少なくない。 しゅん 食 生 活 が 豊 か に な っ た 半 面 、「 季 節 感 が 薄 れ た 」、「 食 べ 物 や 草 花 の 旬 が 分 か ら な く な っ た」という声が聞かれる。 087 一節 = 春 は 「 春 」の 語 源 は 、草 や 木 が 芽 を 出 し 、伸 び る こ と を 意 味 す る「 張 る 」、あ る い は 、万 物 が 発 生 す る と い う 意 味 の 「 発 」、 と い う 説 が あ る 。 暦 の 上 で は 、 立 春 (2 月 3、 4 日 頃 )か ら 立 夏 (5 月 5、 6 日 頃 )の 前 日 ま で が 「 春 」 だ が 、 人々が実際に春を感じるのは、3 月になってから。 草木が芽生え、花をつけ、虫などは冬眠から覚める。 「 春 」 は 穏 や か な 日 が 多 い が 、「 春 に 3 日 の 晴 な し 」 と 言 わ れ る よ う に 、 気 候 は 変 わ り やすい。 「 春 」は 卒 業 と 入 学 の 季 節 。児 童 、生 徒 、学 生 は 3 月 に 卒 業 し 、4 月 に 小 学 校 (6 年 間 )、 中 学 校 (3 年 間 )、 高 等 学 校 (3 年 間 )、 大 学 (2~ 4 年 間 )が ス タ ー ト す る 。 4 月上旬に一年生の入学式がある。 日 本 の 「 春 」 を 代 表 す る 花 は 「 桜 」 だ 。 代 表 的 な 「 桜 」 は 「 ソ メ イ ヨ シ ノ 」。 長 い 冬 が 終 わ り 、「 春 」 に 美 し く 咲 き 誇 る 「 桜 」 の 花 は 日 本 人 に 好 ま れ る 。 最も南の沖縄県では 2 月に咲き始める。3 月下旬から 5 月上旬にかけて「桜前線」が北 上し、九州から北へ開花していく。桜の下での「お花見」は「春」の風物詩だ。 「 桜 」は 、咲 い て い る 期 間 が 短 く 、パ ッ と 散 る 。さ ら に 、 「 淡 い 色 」で あ る た め 、日 本 人 の「潔さと優しさ」の象徴になっている。 もとおりのりなが 江戸時代の国学者・本居宣長は しきしま まくらことば や ま と ごころ 「 敷 島 (「や ま と 」の 枕 詞 )の 大 和 心 を 人 問 わ ば 朝日に匂う 山桜花」 と詠んだ。 や よい う づき さ つき 旧 暦 で は 、 3 月 は 「 弥 生 」、 4 月 は 「 卯 月 」、 5 月 は 「 皐 月 」 と 呼 ぶ 。 三月(弥生) ・春一番 「春」になって最初に吹く南寄りの強い風のこと。 人々は春の訪れを感じ、木の芽や花の蕾が膨らみ始める。 「春一番 砂ざらざらと 「声散って 春一番の ふく だ き 家 を 責 め 」 (福 田 し みず 雀 た ち 」 (清 水 ね お 甲子男) もとよし 基吉) ・春の雪 あわゆき 暖かくなって思いがけない時に降る雪。溶けやすい。淡雪ともいう。 「吹きはれて 「古郷や またふる空や 餅につき込む たん 春 の 雪 」 (炭 こ ばやし 春 の 雪 」 (小 林 たい ぎ 太祗) いっ さ 一茶) ・早春-初春 「春」の初め、木々の芽が膨らみ、水が温かく、空が明るく感じられる頃。 ひな ・雛祭り(ひな祭り) 3 月 3 日。女の子の幸せを願う祭。桃の花を飾ることから「桃の節句」という。 088 だい り びな しろざけ お 雛 壇 に 、内 裏 雛 や 五 人 囃 子 な ど の 雛 人 形 や 菱 餅 、白 酒 、桃 の 花 な ど を 飾 る 。雛 祭 り が 終 わったら、雛人形を早く片付けないと、女の子はお嫁に行けなくなるという言い伝えが ある。 「桃ありて 「野に出れば ますます白し 雛 の 顔 」 (炭 人みなやさし 太祗) たか の 桃 の 花 」 (高 野 そ じゅう 素 十 ) けいちつ ・啓蟄 3 月 5、 6 日 頃 。 気 候 が 暖 か く な っ て 、 冬 眠 し て い た 虫 が 穴 か ら 出 て く る 。 「けっこうな 「啓蟄を 御世とや くわえて雀 蛇 も 穴 を 出 る 」 (小 林 かわばた 飛 び に け り 」 (川 端 一茶) ぼうしゃ 茅舎) かえる ・蛙 冬眠から覚めて、土から出てきた蛙は田などで「ケロケロ」と鳴きたてる。 「古池や かわず 蛙 飛び込む 水 の 音 」 (松 尾 芭蕉) ・ 山 笑 ふ (う ) 木々が芽吹き、花が咲き始める山の明るい様子を表現する言葉。 「故郷や どちらを見ても 山 笑 ふ 」 (正 岡 子規) ・鶯(うぐいす) 「ホーホケキョ」と美しくさえずる。日本の「春」を代表する鳥。 「 春 告 げ 鳥 」 と も い う 。「 梅 に 鶯 」 は 、 春 の 訪 れ を 表 す 言 葉 。 「 ケ キ ョ ケ キ ョ ケ キ ョ 」と 鳴 き な が ら 、谷 か ら 谷 へ 、木 の 枝 か ら 木 の 枝 へ 飛 ぶ の を「 鶯 の谷渡り」という。 「鶯の とびうつりゆく よこみつ 枝 の な り 」 (横 光 089 り いち 利一) ぬる ・水温む 冬の寒さが緩んで、氷が解けて、川や池の水が温かくなること。 「これよりは たかはま 水 温 む 」 (高 浜 恋や事業や きょ し 虚子) ・春の海 きらきらと明るく輝きわたり、のんびりとした穏やかな「春」の海の様子。 魚は餌を求めて泳ぎ回る。漁も盛んになる。 「春の海 ひねもす よ さ 終日のたり の た り か な 」 (与 謝 ぶ そん 蕪村) ・お水取り 3 月 13 日 、 奈 良 ・ 東 大 寺 の 二 月 堂 で 行 わ れ る 。 たいまつ 関西地方では、これが終わると「春」がくる。午前 2 時頃、大きな松明を廊下で振り 回してから、井戸水を本堂に運ぶ。松明の火の粉を浴びたり、井戸水を飲んだりして病 気や悪霊を払う。 「水とりや 氷の僧の 沓 の 音 」 (松 尾 芭蕉) しらうお ・白魚 体 長 6~ 7 ㌢ の 半 透 明 の 細 長 い 小 魚 。 透 き 通 っ て 、 形 が 美 し い こ と か ら 、「 女 性 の 美 し い 手 ( 指 )」 を 「 白 魚 の よ う な 手 ( 指 )」 な ど と 形 容 す る 。 淡白で上品な味。吸い物、天ぷら、卵とじ、酢の物などにする。 「シラウオ」とよく似た「シロウオ」という小魚もある。 料 理 法 は ほ と ん ど 同 じ 。 生 き た ま ま の 「 シ ラ ウ オ 」、「 シ ロ ウ オ 」 を 、 酢 醤 油 を つ け て おど ぐ 食べるのを「躍り食い」という。 「白魚の か とう 思 ひ を り 」 (加 藤 目が見しものを しゅうそん 楸 邨) ひ がん ・春の彼岸 「春分の日」をはさんで、前後 3 日ずつの 7 日間をいう。 せん ぞ れい く よう 墓 や 寺 へ お 参 り し て 先 祖 の 霊 を 供 養 す る 。「 暑 さ 寒 さ も 彼 岸 ま で 」 と 言 わ れ る 。 「何迷ふ 彼岸の入り日 うえじま 人 だ か り 」 (上 島 おにつら 鬼貫) ・燕 気候が暖かくなると南方からやってくる代表的な渡り鳥。 のきした 家の軒下に巣を作ることが多い。 田や畑の上を飛びながら害虫を食べる益鳥だ。 「今来たと 顔を並べる つ ば め か な 」 (小 林 090 一茶) うすらい ・薄氷 こお 寒さが残る春先、水の表面が凍って薄い氷を張る。薄い氷、つまり「うすごおり」の こ と だ が 、「 俳 句 」 で は 「 う す ら い ( う す ら ひ )」 と い う 。 はくひょう ふ 危険を感じ、不安な気持ちのことを「薄 氷 を踏む思い」という。 せり たから い 「うすらひや わづかに咲ける 芹の花」( 宝 井 「会いたくて 逢いたくて踏む 薄 氷 」( 黛 うすごおり まゆずみ き かく 其角) まどか) はるさめ ・春雨 「春」の雨は、しとしとと長く降り続くことが多い。静かで趣のある雨。 草木を成長させ、花を咲かせる。 「春雨や よもぎ 蓬 をのばす 草 の 道 」( 松 尾 芭蕉) せんてい ・剪定 新しい芽が出てくる前に、果樹や樹木の伸びた枝を切って整えること。 風通しや日当たりを良くして、樹木の成長を促し、良い花を咲かせ、果実の生育を良 くする。庭木の形を良くするために枝を切る剪定もある。 ・木の芽 「春」になると木の芽が出てくる。可愛く、生命力を感じさせる。 「折々に 猫が顔かく 木 の 芽 か な 」 (小 林 「大空に すがりたし木の芽 一茶) わたなべ さ か ん な る 」 (渡 辺 すい は 水巴) ・若鮎 さかのぼ 海 で 育 っ た 幼 魚 (4~ 6 ㌢ )が 2、 3 月 頃 川 へ 遡 っ て く る の が 若 鮎 。 た だ 、 鮎 釣 り は 6 月 か ら 本 格 化 す る の で 、「 鮎 」 は 「 夏 」 の 季 語 。 「若鮎の 二手になりて 上 り け り 」 (正 岡 子規) かげろう ・陽炎 うららかな「春」の日に、地面から立ち上る水蒸気が、ゆらゆらと揺れて見える現象 を い う 。「 陽 炎 」 の 漢 字 は 、 燃 え て い る 太 陽 の 炎 の よ う に 見 え こ と か ら 。 「陽炎や 名もしらぬ虫の 白 き 飛 ぶ 」 (与 謝 蕪村) りゅうひょう ・流 氷 北海道のオホーツク沿岸では、春先になると、氷が溶けて漂流してくる。 広大な流氷の到来は大自然の雄大な光景だ。 北海道に遅い春の訪れを告げる。 091 ・霞 「春」になって、大気が薄く濁り、遠くのものが見えにくくなる。 秋にも同じような現象があるが、これは「霧」という。 おぼろづき よ 月の光が「霞」で薄くぼんやり光るのは 朧 月夜だ。 「春なれや 名もなき山の 薄 霞 」 (松 尾 芭蕉) つ く し ・土筆 早春の日当たりのいい土手や草むらに生える。 筆の形をしているので「土の筆」と書く。 つくだ に あ もの 佃 煮や和え物にする。ほろ苦みのある味が独特だ。 「土筆にて 飯くふ夜の 台 所 」 (正 岡 子規) ・春風 暖 か く て 、 穏 や か な 春 の 風 。「 し ゅ ん ぷ う 」 と も 読 む 。 「春風や 闘志いだきて 丘 に た つ 」 (高 浜 虚子) 四月(卯月) ・ こ ぶ し (辛 夷 ) 3 月から 4 月に、 6 弁の白い大きな花が咲く。 実が子供の拳に似ていることから「こぶし」の名が付いた。 「こぶし咲く あの丘 北国の ああ 北国の春♪♪~~」 と歌謡曲に歌われている。 「降りしきる 雪をとどめず 辛 夷 咲 く 」 (渡 辺 水巴) ・ た ん ぽ ぽ (蒲 公 英 ) キク科の多年草。黄色い野菊のような花を咲かせる。 白い綿のような冠毛をつけた種は風に乗って飛んで行く。 「蒲公英や 「顔じゅうを なかむら 日はいつまでも 大 空 に 」 (中 村 蒲公英にして 笑 う な り 」 (橋 092 はし ていじょ 汀女) かんせき 閒石) ・蝶 厳冬期を除いて見られるが、花の多い「春」に「卵から幼虫→さなぎ→成虫」に成長 していく。3 月頃飛び始める蝶を「初蝶」という。 「蝶の羽の 幾度越ゆる 「ひらひらと 塀 の 屋 根 」 (松 尾 芭蕉) 水 の 上 」 (正 岡 子規) 蝶々黄なり ・ の ど か (長 閑 ) 天気が良い春の日の穏やかで、ゆったりした静かな気分をいう。 「長閑さに 無沙汰の神社 回 り け り 」 (炭 太祗) ・菜の花 4 月頃、畑一面に咲きにおう黄色い花。花と浅緑の葉のコントラストが美しい。 種からは菜種油を採り、花や葉は茹でて「お浸し」で食べる。 「菜の花や 「菜畑に 月は東に 日 は 西 に 」 (与 謝 蕪村) 雀 か な 」 (松 尾 芭蕉) 花見がほなる ・入学-入学式 4 月上旬に小学校、中学校、高校、大学などで入学式が行われる。 満 6 歳になった「ピカピカの一年生」は喜びと不安を胸に、小学校の門をくぐる。 「ハイといふ 「入学の 返辞むづかし 吾子の緊張 しま だ 入 学 す 」 (嶋 田 とみ た わ れ に 似 る 」 (富 田 いっ ぽ 一歩) なお じ 直治) あけぼの ・春暁-春は 曙 夜明けの空が明るくなってくる様子。薄暗い早朝の「春」の雰囲気をいう。 平安時代の女流文学者・清少納言は、随筆「枕草子」に、 「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは すこしあかりて 紫だちたる雲の細くたなびきたる」と書いている。 ・春の宵 「春」の日が暮れて、まだ薄明るい様子をいう。 夜が始まった時間。感傷的な気分が漂う。 「目つむれば 若き我あり 春 の 宵 」 (高 浜 093 虚子) ・種蒔き 稲の苗を育てる苗代に籾を蒔くこと。 種蒔きの時期は、雀が鳴き始める頃、こぶしの花が咲く頃、山の残雪の形が変わる頃 など、地方によってさまざま。 「種蒔いて 暖かき雨を むらかみ 聴 く 夜 か な 」 (村 上 き じょう 鬼 城 ) ・桜 日本を代表する花。ソメイヨシノ、ヤマザクラ、シダレザクラなど。 開花は 3 月中 旬、南 の 沖縄県 から始 まる。段 々、日本 列島を 北上 し 、北海道 では 5 月 上旬に開花する。花が美しい満開の期間は短く、1 週間ぐらい。 りょう た 江 戸 時 代 の 俳 人 ・ 大 島 蓼 太 の 句 に 、「 世 の 中 の 移 り 変 わ り が 早 い こ と 」 を 例 え た 「世の中は 三日見ぬ間の 桜かな」がある。 散 り 際 の 潔 さ か ら 、「 桜 」 は 古 来 、 武 士 道 の 象 徴 に な っ て い る 。 塩漬けにした「桜」の花にお湯を注いだ桜湯はお祝いの席に出る。 塩漬けにした「桜」の葉で餅を包んだ桜餅も美味しい。 「さまざまの 「見かぎりし 事思ひ出す ふるさと 古郷の桜 桜 か な 」 (松 尾 芭蕉) 咲 き に け り 」 (小 林 一茶) ・花見 花 見 と 言 え ば 、 普 通 は 、「 桜 」 の 花 を 観 賞 す る こ と を い う 。 「桜」の花の下で、花を眺めながら、食事を楽しみ、酒を飲み、歌ったり踊ったりし て 、「 春 」 の 一 時 を 過 ご す 。 平 安 時 代 末 期 に 宮 中 で 行 な わ れ た の が 始 ま り 。 かく ち 3 月下旬から 5 月上旬にかけて、各地で行われる。 「花見つゝ よ そ 花を他所なる いちむら 思 ひ ご と 」 (市 村 094 ふ せん 不先) おぼろ づ き ・朧月 「春」の夜にぼんやりとかすんでいる月のこと。 「大原や 蝶の出て舞ふ ないとう じょうそう 丈 草) 朧 月 」 (内 藤 ・花曇 そら うす くも おだ き ぶん 桜の咲く頃、空が薄く曇っていること。穏やかな気分になる。 「音のみの 昼の花火や いわ や 花 曇 」 (巌 谷 さざなみ 小波) しお ひ ・潮干狩 潮 が 沖 へ 引 い た 海 岸 の 砂 浜 で ア サ リ や ハ マ グ リ (蛤 )を と る こ と 。 「ふり返る 女心の おおしま 汐 干 か な 」 (大 島 りょう た 蓼 太) ・竹の秋 青々とした竹の葉が、3 月、4 月頃になると黄色くなる。これが、草や木の葉が秋に 黄色になったり、紅葉したりする様子に似ているので、その頃を「竹の秋」という。 ・雀の子 のきした 4 月頃、家の軒下などに作った巣の中で雀の雛が生まれる。 餌をねだって鳴く子雀の声がよく聞かれる。 庭の木などで、親鳥と遊ぶ「雀の子」の姿が見られる。 「我と来て 「いそがしや 遊べや親の 昼飯頃の な い 雀 」 (小 林 親 雀 」 (正 岡 一茶) 子規) ・ わ さ び (山 葵 ) 根と茎をすりおろした「わさび」は刺し身や鮨の薬味に欠かせない。 「ツ~ン」と鼻を突く味と香りが独特だ。渓流に自生する。 奇麗な水の流れを利用して栽培もされる。晩春に小さな白い花が咲く。 ・行く春 終わろうとしている春のこと。ちょっぴり寂しい気持ちのこもった言葉だ。 「行く春や 鳥啼き 魚 の 目 に 涙 」 (松 尾 095 芭蕉) 五月 (皐月) や ・八十八夜 立 春 (2 月 4 日 頃 )か ら 88 日 目 の 5 月 1 日 か 2 日 。 霜 が 降 り る 日 が 少 な く な り 、野 菜 の 種 蒔 き や 稲 の 田 植 え 、茶 摘 み な ど 、農 家 は 忙 し い 。 「夏も近づく八十八夜♪♪~~」と、童謡に歌われている。 茶 摘 み は 、 八 十 八 夜 か ら 2~ 3 週 間 に 集 中 す る 。 「音立てて 八十八夜の かつら 山の水」( 桂 のぶ こ 信子) ・田植え なわしろ 苗 代 で 育 て た 稲 の 苗 を 水 田 に 植 え る こ と 。5 月 中 旬 に か け て 行 わ れ る こ と が 多 い 。 「田 植え」は「夏」の季語。後ずさりしながら苗を植えていくのが昔ながらの田植え風景だ が、近年は機械による田植えが普及している。 「勿体なや 「やさしやな 昼寝して聞く 田 植 唄 」 (小 林 田を植えるにも 母 の 側 」 (炭 一茶) 太祗) はか た ・博多どんたく 5 月 3、 4 日 に 行 わ れ る 福 岡 市 の 祭 。 老若男女が思い思いの服装で三味線や太鼓、しゃもじを叩いて市内を練り歩き、商店 街の広場などの舞台で踊りを披露する。 毎 年 、200 万 人 を 超 え る 観 客 で 賑 わ う 。 「 ど ん た く 」の 名 前 の 由 来 は オ ラ ン ダ 語 の「 ゾ ン タ ー ク (休 日 )」 か ら 。 096 のぼり ・鯉 幟 (鯉のぼり) 5 月 5 日 は 「 こ ど も の 日 」。 昔 か ら 「端 午 の 節 句 」だ 。 男の子のいる家では、布や紙で作った「鯉幟」を家の外に高く掲げる。大空に浮かぶ 鯉の姿ように子供の成長を願う。家の中では、武者人形を飾り、柏餅や「ちまき」を食 べる。 がっさん やまがたけん 「 月 山 (山 形 県 の 山 )へ 尾を跳ね上げて 鯉 の ぼ り 」 (黛 まどか) ・葉桜 桜の花が咲き終わる頃から黄緑色の葉が芽吹いてくるのが葉桜だ。 緑一色の桜も、花とは別の美しさがある。 ・立夏 5 月 6 日 頃 。 暦 の 上 で は 、 こ の 日 か ら 夏 に 入 る 。「 夏 」 の 季 語 。 097 二節 = 夏 「 夏 」 の 語 源 は 、 気 温 が 高 い 意 味 の 「 暑 い 」・「 熱 い 」 や 、 植 物 が 成 長 す る と い う 意 味 の な 「生る」などの説がある。 暦 の 上 で は 、立 夏 (5 月 5、6 日 頃 )か ら 立 秋 (8 月 8、9 日 頃 )の 前 日 ま で だ が 、一 般 に は 、 6、7、8 月 の 三 ヵ 月 が「 夏 」。長 雨 や 厳 し い 暑 さ が 続 く が 、輝 く 太 陽 の 下 で 生 き 物 す べ て の 生命感がみなぎる季節だ。 7 月、8 月には、各地の神社を中心に夏祭りが繰り広げられる。 災難や疫病神を追い払うための神事が夏祭りの始まりだ。 盆踊りや花火大会、灯籠流しは日本の「夏」の風物詩だ。 子供たちや学生には長い夏休みがある。富士山などの登山客が増える。 「夏」は「お盆」の季節。先祖の霊を慰め、供養する仏教行事をお盆という。 東京など都会では 7 月中旬、地方では 8 月中旬に行う。 一週間前後の「お盆休み」をとり、お墓参りのため郷里に帰る人が多い。 新幹線や飛行機は「帰省客」で満席状態が続く。 じゅ ず 高速道路はノロノロ運転の車が“数珠つなぎ”になり、渋滞する。 み な づき ふづき・ふみづき 旧 暦 で は 、 6 月 は 「 水 無 月 」、 7 月 は 「 文 は づき 月 」、 8 月 は 「 葉 月 」 と い う 。 六月(水無月) ころも が が ・ 衣 更え(衣替え) き が 6 月 1 日に、薄手の衣服に着替えることをいう。 学校や会社の制服も「冬服・春服」から「夏服」に替える。 近年は 5 月中に衣更えをする人も。 「人は皆 かつお 衣など更へて 来 た り け り 」 (正 岡 子規) は つ がつお ・ 鰹 -初 鰹 初夏から「夏」にかけての代表的な魚だ。最初に出回るのを初鰹という。 周 り を 火 で 焦 が し た「 た た き 」、刺 身 、煮 魚 、蒸 し て 半 乾 き に し た「 生 節 」の ほ か 、蒸 してから乾燥させる「鰹節」など、いろいろな食べ方がある。 だ じる 鰹節は薄く削って、煮物や汁の「出し汁」に使い、ほうれん草などの「お浸し」にか けて食べる。 「目には青葉 やまほととぎす 山郭公 はつ が つ お やまぐち 初 松 魚 」 (山 口 そ どう 素堂) ( 注 ・ 鰹 を 「 松 魚 」 と 書 く こ と が あ る 〉。 ・鮎(アユ) すらりとした形をした鮎は川魚の王様だ。 ずし 味は淡白で、鮎の塩焼きや鮎鮨がおいしい。川底で孵化した稚魚は、水流に乗って海 に向か い 6 ㌢ ぐら いに なる 。夏に なる と 、生 まれた 川に戻 り川 上へ さかの ぼる 。上 流で 098 20 ㌢ ~ 30 ㌢ ぐ ら い に 育 つ 。 秋 に 産 卵 す る と 衰 弱 し 、 海 に 帰 っ て 一 生 を 終 え る 。 生まれて 1 年以内に死ぬ魚を「年魚」と呼び、鮎の別名になっている。 鮎釣りは 6 月 1 日前後に解禁になる。 「飛ぶ鮎の 底に雲ゆく 流 か な 」 (上 島 鬼貫) ば く しゅう ・麦 秋 -麦の秋 麦は黄色に熟した初夏に収穫する。この時期を「麦秋・麦の秋」という。 「麦秋や 子を負ひながら 「麦秋や 蛇と戦ふ い わ し 売 り 」 (小 林 寺 の 猫 」 (村 上 一茶) 鬼城) つゆ・ばいう ・梅 雨 梅 の 実 が 熟 す る 頃 に 降 る 長 雨 を い う 。「 梅 雨 」 と も い う 。 「梅雨入り・入梅」は 6 月上旬。約一カ月、じめじめした雨の日が多く、湿度が高い から つ ゆ 日が続く。梅雨に入っても雨が降らないのは「空梅雨」という。 「入梅や 蟹かけ歩く 大 座 敷 」( 小 林 一茶) あ じ さ い ・紫陽花 小さな花がたくさん集まって「手まり」のように大きく咲く。 青、白、紫、薄い赤など。 色が青から紫に変化するので「アジサイの花は七変化」と言われる。 花が少ない梅雨に咲く紫陽花の美しさは格別だ。 「紫陽花に 雨きらきらと いい だ 蝿 と べ り 」 (飯 田 だ こつ 蛇笏) さ み だ れ ・五月雨 旧暦の 5 月、今の 6 月頃に降る長雨のこと。 「五月雨を あつめて早し も がみがわ 最 上 川 」 (松 尾 芭蕉) (注 ・ 最 上 川 = 日 本 海 に 流 れ る 山 形 県 の 川 〉 ・蛍 水辺に住む昆虫。夜間、お尻で青白い神秘な光を点滅する。 きれいな小川が少なくなったので、子供たちが小川の周りを光りながら飛び交う蛍を 追いかける光景は、あまり見られない。 099 「草の葉を 「一命に 落つるより飛ぶ 長短はなし 蛍 か な 」 (松 尾 は せ がわ 蛍 の 夜 」 (長 谷 川 芭蕉) あき こ 秋子) ・蟹 川辺や磯で見られる甲殻類。梅雨時から「夏」にかけて活動する。 穴に入ろうとして、はさみを高く掲げて素早く横走りする姿はユーモラスだ。 「親蟹の 子蟹誘うて 穴 に 入 る 」 (高 浜 虚子) う かい ・鵜飼 川で、鵜に鮎を捕らせる漁法のこと。舟の上で「かがり火」を焚いて、鵜に鮎を丸呑 みさせた後、鮎を吐き出させる。鵜は首が長く、捕った鮎を喉に貯えておくことが出来 う しょう る。鵜飼を職業としている人を鵜 匠 という。 岐阜県の長良川の鵜飼が全国的に有名だ。 「おもしろうて やがてかなしき 鵜 舟 か な 」 (松 尾 芭蕉) ・ ほ と と ぎ す (不 如 帰 ・ 時 鳥 ) 初夏に日本にやってくる渡り鳥。俳句や詩歌に詠まれる。 鳴き声が「テッペンカケタカ」と聞こえる。 うぐいす たくらん 自分で巣を作らず、卵を 鶯 などの巣に産んで育ててもらう「托卵」という習性があ る。 「ほととぎす 大竹藪を も る 月 夜 」 (松 尾 100 芭蕉) すだれ ・簾 暑い「夏」の強い日差しを遮って、風通しをよくして、涼しく過ごすためのもの。葦 さ の茎を編んだり、青竹を細く裂いたりして作る。ビニール製もある。 ・お中元 6 月下旬から 7 月中旬頃までに、お世話になった人に感謝を込めて贈り物をする。 つみほろ 中 国 の 道 教 で 、 旧 暦 の 7 月 15 日 に 神 様 に 供 え 物 を し て 罪 滅 ぼ し を す る 「 中 元 」 と い う 習 慣 が 日 本 に 伝 わ り 、「 夏 」 の 「 贈 り 物 」 に な っ た 。 七月(文月) ・山開き-海開き 7 月 1 日から、富士山などの山で山登りが始まる。これを山開きという。 海では海水浴が出来るようになる。 たなばた ・七夕 7 月 7 日、星に願い事をするのが「七夕」祭。 けんぎゅうせい 夜 空 に 輝 く「 牽 牛 星 (ひ こ ぼ し )」と「 織 女 星 (お り ひ め )」が 最 も 近 づ く 、と い う 伝 説 に基づいている。 子供たちは色とりどりの細長い短冊に夢や願い事を書いて、笹や竹につるす。 「うれしさや 七夕 竹 の 中 を 行 く 」 (正 岡 子規) ・枝豆 黄色くなる前の大豆を塩茹でにする。 「夏」に出回る枝豆が一番おいしい。ビールの「つまみ」として喜ばれる。 近年は、冷凍の枝豆が一年中食べられる。 「枝豆や 三寸飛んで 口 に 入 る 」 (正 岡 子規) ゆうだち ・夕立 「夏」の夕方、突然激しく降り出す雨をいう。 局地的に降り、短時間で止むこと多い。 「夕立ちに ひとり外みる 女 か な 」 (宝 井 101 其角) ・朝顔 朝、ラッパ状の花が開き、昼にしぼむ「夏」の花。 いり や き し ぼ じんけいだい 7 月 7 日前後の三日間、東京都台東区入谷の鬼子母神境内を中心に鉢植えの朝顔を売 る「朝顔市」が有名だ。 「朝顔に 釣瓶とられて かがの も ら ひ 水 」 (加 賀 ち よ じょ 千代女) ぎ お ん まつり ・祇園 祭 7 月 1 日から一カ月、京都市の八坂神社で行われる祭。 やまぼこ 「 宵 山 」 と 「 山 鉾 巡 行 」 が 行 わ れ る 16 日 と 17 日 が 賑 わ う 。 絢爛豪華な「山鉾」が、暑い「夏」の京都市内を賑やかに巡る。 「 京 都 祇 園 祭 の 山 鉾 」 は 、 2009 年 9 月 、 ユ ネ ス コ (国 連 教 育 科 学 文 化 機 関 ) の 「 無 形 文化遺産」の代表リストに登録された。 うみ ・海の日 おんけい かいようこく 7 月の第 3 月曜日。 「 海 の 恩 恵 に 感 謝 す る と と も に 、海 洋 国 日 本 の 繁 栄 を 願 う 」国 民 の 祝日。 ・土用 「 土 用 」 と 言 え ば 夏 の 土 用 が 一 般 的 だ 。 7 月 20 日 頃 が 「 土 用 の 入 り 」。 かば や き 最も暑い時期に、元気をつけるために、脂がのった栄養のある鰻の「蒲焼き」を食べ ることが多い。 重箱にご飯を入れて、その上に蒲焼きをのせた「鰻重」や、丼のご飯に蒲焼きをのせ た「鰻丼」が人気だ。 むし ぼ ・虫干し 土用の頃の晴天続きの日に、衣類、書画、道具などの湿気を取り、カビや虫の害を防 ぐために太陽に干して風に当てることをいう。 特に、書物の虫干しを「曝書」という。 「なき人の 小袖も今や 土 用 干 し 」 (松 尾 芭蕉) や ・夏痩せ 暑 さ に 弱 い 人 が 、「 夏 」 に な る と 食 欲 が な く な り 、 体 重 が 減 る こ と 。 「夏痩せて 腕は鉄棒より 重 し 」 (川 端 102 茅舎) 八月(葉月) ・花火 夕涼みをしながら家族で楽しむ「線香花火」や、夜空を彩る大掛かりな「打ち上げ花 火」や「仕掛け花火」は「夏」の風物詩だ。 「暗く暑く 大群衆と 「なかなかに 「一瞬の さいとう 花 火 待 つ 」 (西 東 暮れぬ人出や 命はげしき さん き 三鬼) 花 火 待 つ 」 (高 野 うえ の 大 花 火 」 (上 野 素十) あき こ 章子) ・ねぶた祭 8 月 2 日から 7 日まで、青森県青森市で行われる勇壮な祭。 和 紙 や 竹 、 木 な ど で 作 っ た 巨 大 な 人 形 、 鬼 、 獣 な ど を 積 ん だ 車 や 屋 台 、 約 30 台 が 繰 り出す。夜は、内部の照明で、人形などが色鮮やかに光り輝く。 多くの人が笛や太鼓に合わせて「ラッセラー、ラッセラー」の掛け声とともに街を練 り 歩 く 。 睡 魔 を 払 う 行 事 が 始 ま り 。「 ね ぶ た 」 の 名 前 は 、「 眠 い 」 と い う 言 葉 が 訛 っ た 方 言「ねぶたい」からきている。 あおもりけん ひろさき し 同じ青森県の弘前市で 8 月 1 日から行われるのは「ねぷた祭」と呼ばれる。 かんとう ・ 竿 燈 (灯 )ま つ り ちょうちん むす さお た く さ ん の「 提 灯 」を 結 ん だ 竹 の 竿 を 、高 く 掲 げ て 練 り 歩 く こ と で 知 ら れ る 秋 田 市 の 祭。8 月 3 日から 6 日まで行われる。 最 も 大 き い 「 竿 燈 」 は 、 長 さ 12 ㍍ の 竹 の 竿 に 、 横 に 9 本 の 竹 の 棒 を 結 び 付 け て 、 そ れ に 46 個 の 提 灯 を ぶ ら 下 げ た も の 。 笛 や 太 鼓 の 囃 子 に 合 わ せ て 、「 竿 燈 」 を 、 手 を 使 わ ず、腰や肩、額に立てて提灯の灯を消さないように練り歩く。 す 200 本 近 い「 竿 燈 」が 光 を 発 し な が ら 波 打 つ よ う に 揺 れ 動 く 様 子 は 、 「 光 の 稲 穂 」の よ うで、夜空に美しい。 103 た な ば た まつり ・七夕 祭 七 夕 祭 は 7 月 7 日 が 多 い が 、宮 城 県 仙 台 市 の 七 夕 祭 は 8 月 6 日 か ら 8 日 ま で 。商 店 街 に は 、大 き な「 ク ス 玉 」や 細 長 い 紙 や 布 の「 吹 き 流 し 」、千 羽 鶴 、短 冊 な ど を 飾 り つ け ささだけ なら ごう か にん き た長い笹竹が立ち並び、豪華さと美しさが人気だ。 《 注 ・ 青 森 市 の 「 ね ぶ た 」、 秋 田 市 の 「 竿 燈 」、 仙 台 市 の 「 七 夕 」、 山 形 市 の 「 花 笠 祭 (8 月 5 日 ~ 7 日 )」 を 「 東 北 地 方 の 夏 の 四 大 祭 」 と 呼 ぶ 》。 ・立秋 8 月 8 日頃。暦の上では、この日から秋が始まる。 暑さは続くが、風や雲に秋の気配を感じる。 立秋の後の暑さを残暑という。 ・昼寝 「 夏 」 の 昼 間 、 疲 れ を と る た め に 、 15 分 前 後 、 寝 る こ と 。。 がくぜん 「愕然として 昼寝さめたる かわひがし 一 人 か な 」( 河 東 へき ご とう 碧梧桐) ゆ か た ・浴衣 入 浴 後 に 着 る 着 物 が 「 浴 衣 」。 今 で は 、 盆 踊 り や 夏 祭 り な ど に 着 て 出 掛 け る 。 「おもしろう 汗のしみたる 浴 衣 か な 」 (小 林 一茶) ・山の日 おんけい 8 月 11 日 。「 山 に 親 し む 機 会 を 得 て 、 山 の 恩 恵 に 感 謝 す る 」 国 民 の 祝 日 。 2016 年 ( 平 成 28 年 ) か ら 始 ま っ た 。 う ち わ ・団扇 何本かの細い竹を骨にして、紙や布を張って柄(持つところ)をつけて、それに絵を 描いた円形の道具。 暑い時に、涼しくなるように、扇子のように、あおいで風を起こして使う。 ・向日葵(ひまわり) 真夏の強烈な太陽の下で鮮やかな黄色い大きな花を咲かせる。 種は煎って食べたり、搾って食用油にする。 「向日葵の ゆさりともせぬ きたはら 重 た さ よ 」 (北 原 はくしゅう 白 秋 ) ・ そ う め ん (素 麺 ) - 冷 麦 小麦粉を食塩水で練り、サラダ油などで引き伸ばし、細切りにして干す。 細いのが素麺、少し太いのが冷麦。茹でた後、水で冷やして食べる。 醤油と調味料の「たれ」と、生姜、紫蘇、ねぎの「薬味」で食べる。 涼味たっぷりの夏の食べ物。 「ざぶざぶと 素麺さます 小 桶 か な 」 (村 上 104 鬼城) ひ や やっこ ・冷 奴 水や氷で冷やした豆腐。 小さく四角に切って、醤油と生姜、紫蘇、鰹節の「薬味」で食べる。 冷たくて淡白な味が好まれる。 「舌にふと その冷えまこと たかはま とし お 冷 奴 」 (高 浜 年尾) ところてん ・ところてん(心 太 ) 紅色の海藻・天草を煮て、どろどろに溶かして型に入れて固めた食品。 細長い木箱に入れて小さい穴から突き出して紐状にする。 りょう み 水で冷やして、酢醤油と辛子や蜂蜜などをつけて食べる。 涼 味満点だ。 天 草 の 別 名 「 心 太 (こ こ ろ ぶ と )」 を 「 コ コ ロ テ イ 」 と 読 ん だ こ と か ら 、「 と こ ろ て ん 」 の名が付いた。 「後から押されて、何の苦労もなく、自然に前に進む」状態を「ところてん式」とい う。 「清滝の 水汲みよせて と こ ろ て ん 」 (松 尾 芭蕉) ふうりん ・風鈴 軒 先 や 窓 に つ る し て 、風 が 吹 く と「 チ リ ン 、チ リ ~ ン 」と 、涼 し げ な 音 色 を 出 す 。鉄 、 ガラス、陶器製などがあり、形は釣鐘型、壺型など。短冊や重りを下げる。 う ら ぼん ・お盆-盂蘭盆 8 月 13 日 か ら 15 日 を 中 心 に 行 わ れ る 仏 教 行 事 。 東 京 な ど 都 会 で は 7 月 。 仏壇や墓に線香や花、水、果物、お菓子を供えて、亡くなった人たちの冥福を祈り、 霊を慰める。働いている人は「お盆休み」で帰省し、墓参りをして先祖の霊を慰める。 「盂蘭盆や あ 無縁の墓に 鳴 く 蛙 」( 正 岡 子規) わ おど ・阿波踊り とくしまけんとくしま し 8 月 12 日 か ら 15 日 ま で 、 徳 島 県 徳 島 市 で 行 わ れ る 。 ろうにゃくなんにょ 浴衣を着た老 若 男女が三味線、太鼓、笛などに合わせて踊り回る。 ひざ 独特の手の振りと、膝を少し曲げた足取りがユーモラスだ。 「踊る阿呆に、見る阿呆、同じ阿呆なら、踊らにゃ損々」と、歌われる。 ・終戦記念日 日 本 は 1945 年 (昭 和 20 年 )の 8 月 14 日 、 ポ ツ ダ ム 宣 言 を 受 諾 し 無 条 件 降 伏 し た 。 第 二 次 世 界 大 戦 に 終 止 符 が 打 た れ た 。 次 の 日 の 「 8 月 15 日 」 が 、「 戦 争 の 過 ち を 繰 り 返 さ ず、平和への誓いを新たにする」ための終戦記念日だ。 105 三節 = 秋 暦 の 上 で は 、 立 秋 (8 月 8、 9 日 頃 )か ら 立 冬 (11 月 7、 8 日 頃 )の 前 日 ま で 。 一 般 に は 9、 10、 11 月 の 3 カ 月 が 「 秋 」。 稲が黄色く実って田畑が「明るく」見えたり、草木が紅葉して「赤く」なったりするこ とが「秋」の語源だ。 澄み切った空、爽やかな風に安らぎを感じる。 読書の秋、芸術の秋、スポーツの秋、実りの秋、食欲の秋、行楽の秋だ。 さ ん ま 「秋」を代表するものに、紅葉、赤とんぼ、秋刀魚、虫の声、稲刈り、ブドウや梨など の果物がある。 ながつき かん な づき しもつき 旧 暦 で は 、 9 月 は 「 長 月 」、 10 月 は 「 神 無 月 」、 11 月 は 「 霜 月 」 と い う 。 いず も 「 神 無 月 」は 、旧 暦 の 10 月 に 全 国 の 神 々 が 男 女 の 縁 結 び を 相 談 す る た め 、島 根 県 の 出 雲 大社に集まり、他の土地の神々が留守になる、という言い伝えから。従って、出雲地方で かみありづき は 10 月 を 「 神 有 月 」 と い う 。 九月(長月) ・防災の日 9 月 1 日 。1923 年 (大 正 12 年 )の こ の 日 、東 京 を 中 心 と し た 関 東 地 方 に 大 地 震 (関 東 大 震 災 )が 起 こ り 、 9 万 人 を 超 え る 死 者 が 出 た 。 こ の た め 、 こ の 日 を 「 防 災 の 日 」 と し て 、 各地で大地震を想定した防災訓練が行なわれる。 ・台風-二百十日 9 月は、暴風雨を伴う台風の時期だ。 立 春 (2 月 3 日 頃 )か ら 数 え て 「 二 百 十 日 」 目 に 当 た る 9 月 1 日 頃 は 、 特 に 、 台 風 が 襲 来 す る 。立 春 か ら 220 日 目 の「 二 百 二 十 日 」頃 に 上 陸 す る 大 型 台 風 も 多 い 。台 風 を 、 「野 の わき の草を吹き分ける風」という意味で「野分」ともいう。 「日照年 二百十日の 「吹きとばす 風 を 待 つ 」 (山 口 石は浅間の 素堂) 野 分 か な 」 (松 尾 芭蕉) ・敬老の日 9 月の第 3 月曜日。 「 多 年 に わ た り 社 会 に つ く し て き た 老 人 を 敬 愛 し 、長 寿 を 祝 う 」た め の 「 国 民 の 祝 日 」。 ・名月-月見 9 月半ば頃の、明るく、澄んで美しい月を「名月」という。 ス ス キ の 穂 を 飾 り 、団 子 や 里 芋 、柿 、栗 な ど を 供 え て 、月 を 眺 め て 楽 し む の が「 月 見 」。 満月が「中秋の名月」だ。 「名月や 池をめぐりて 「名月を 取ってくれろと 「名月や 畳の上に 夜 も す が ら 」( 松 尾 泣 く 子 か な 」( 小 林 松 の 影 」( 宝 井 106 其角) 芭蕉) 一茶) か か し ・案山子 すずめ わら ぬの 稲 な ど の 農 作 物 を 荒 ら す 雀 な ど の 鳥 を 追 い 払 う た め に 、竹 や 藁 や 布 で 作 っ た 一 本 足 の 人形。麦わら帽子をかぶせたりする。 と か 秋になると、稲穂が実り、雀が飛び交う田畑に、ユーモラスな案山子が立ち 並ぶ。 か 昔 、 魚 や 鳥 、 獣 の 肉 を 焼 い て 、 そ の 悪 臭 を 嗅 が せ た こ と か ら 、「 嗅 が し 」 が 「 案 山 子 」 の語源。 いのしし さる 「 案 山 子 」が 役 に 立 た な い 所 で は 、田 畑 を 近 年 は 猪 、猿 に よ る 農 作 物 の 被 害 が 増 え 、 金網で囲ったり、驚かすために花火を打ち上げたりする。 とう か ・灯火親しむ だんらん 秋の夜長に、 「 灯 り の 下 」で 家 族 が 団 欒 し た り 、読 書 で ゆ っ た り し た 気 持 ち を 楽 し む こ とを「灯火親しむ」という。 ・秋の七草 はぎ なでし こ おみなえし ふじばかま き きょう すすき くず 「 秋 」の 草 花 の 代 表 と し て 、「 萩 、 撫 子 、女 郎 花 、藤 袴 、桔 梗 、 芒 、葛 」の 七 種 類 をいう。 ・虫 秋の虫の声は、古くから人々に愛され、親しまれてきた。 鈴 虫 は 「 リ ー ン 、 リ ー ン 」、 コ オ ロ ギ は 「 コ ロ コ ロ 、 リ 、 リ 、 リ 、 リ 」、 松 虫 は 「 チ ン チ ロ リ ン 」、 キ リ ギ リ ス は 「 ギ ィ ー ッ 、 チ ョ ン 」、 クツワ虫は「ガチャ、ガチャ」と鳴く。 ぎょうずい 「 行 水の 捨てどころなし 虫 の 声 」 (上 島 鬼貫) ・稲刈り こ がねいろ 稲穂は黄金色に実り、早い地方では 8 月から稲刈りが始まる。 もみ す 近年は、稲刈りから脱穀、籾摺り、精米までの作業は機械化されている。 しんまい ・新米 その年に初めて収穫した米をいう。 九州など暖かい地方では 8 月には新米が出回る。 早い地方の新米は早場米、前の年の米は古米という。 「新米の くびれも深き あさ い 俵 か な 」 (浅 井 107 ていぎょ 啼魚) いわし ぐ も ・鰯雲 うろこ 秋空に浮ぶ白い雲が魚の 鱗 のように並んでいる様子をいう。 漁師の間で、この雲が出ると鰯の大漁、という言い伝えから。 さば うろこ 鯖雲、 鱗 雲ともいう。 こ ・天高く馬肥ゆる秋 空 が 高 く 澄 ん で 晴 れ わ た っ て い る「 秋 」は 、馬 は 草 を た く さ ん 食 べ て 、肥 え て 大 き く なる。人も食欲が増して、なんでも美味しいので、食べ過ぎてしまう。 そんな「食欲の秋」を象徴する言葉。 ・秋の風-秋風 人 々 は 、「 秋 」 に 吹 く 風 に 寂 し さ 、 わ び し さ を 感 じ る 。 あ 「厭きる」と「秋」をかけて、男女の心変わりを「秋風が吹く」という。 「石山の 石より白し 「物云えば 唇寒し 秋 の 風 」 (松 尾 秋 の 風 」 (松 尾 芭蕉) 芭蕉) ・菊-菊人形 「 菊 」 は 奈 良 時 代 (710 年 ~ 784 年 )末 期 に 中 国 か ら 渡 来 し た 。 香りが高く花は美しい。大菊、中菊、小菊などさまざまあり、色は黄色、白、赤紫が 多い。 薬 用 、 観 賞 用 、 食 用 と し て 親 し ま れ て い る が 、 江 戸 時 代 (1603 年 ~ 1867 年 )に は 主 に 観賞用として栽培された。 さんばい ず 三 杯 酢 (酢 、 醤 油 、 砂 糖 ・ み り ん )で 食 べ る 菊 の 花 は 、 歯 ざ わ り と 爽 や か な 風 味 が 好 ま れている。 もんしょう 「菊」は皇室の紋 章 になっている。 「 菊 」の 花 や 葉 を 衣 装 に し た の が「 菊 人 形 」。歌 舞 伎 の 場 面 を 再 現 し た り 、人 気 俳 優 や 物語の主人公に似せて作る。 「菊の香や 奈良には古き 仏 た ち 」 (松 尾 「黄菊白菊 そのほかの名は 芭蕉) はっとり 無 く も が な 」 (服 部 108 らんせつ 嵐雪) ・秋祭り こくもつ 穀物の実りに感謝して、豊作を喜ぶ祭。神社などで繰り広げられる。 ・秋分の日 9 月 23 日 頃 。 「 秋 」の 彼 岸 の 中 日 。 「 祖 先 を 敬 い 、亡 く な っ た 人 々 を し の ぶ 」た め の「 国 民 の 祝 日 」。 こ の 日 か ら 夜 の 時 間 が 長 く な る 。 ・秋の暮れ 「秋」の日はあっという間に暮れていく。人は、そんな「秋」の夕暮れに、特に、寂 しさと、わびしさを感じる。 清 少 納 言 の 随 筆 「 枕 草 子 」 は 、「 春 は 曙 」 と と も に 、「 秋 は 夕 暮 れ 」 を 称 賛 し て い る 。 「この道や 「枯枝に 行く人なしに 秋 の 暮 」 (松 尾 からす 烏 のとまりたるや 芭蕉) 秋 の 暮 」 (松 尾 芭蕉) 十月(神無月) も み じ が ・紅葉狩り かえで いちょう かき うるし 「秋」が深まると、落葉樹、なかでも、 楓 、ななかまど、銀杏、柿、 漆 などの葉が 赤や黄色に変わる。紅葉した山や木々の美しさを鑑賞することを「紅葉狩り」という 川や湖に舟を浮かべて岸辺や山の紅葉を眺めて楽しむ。 日本人は自然を愛し、自然の草、花、木を大切にする。 「きらきらと 「紅葉見や 紅葉まばゆし 顔ひやひやと 藪 の 中 」 (正 岡 たかくわ 子規) らんこう 風 渡 る 」 (高 桑 蘭更) ・秋深し 「秋」が深まると、周囲の光景に静けさや哀れさ、寂しさを感じる。 「秋深し 隣は何を す る 人 ぞ 」 (松 尾 芭蕉) ・時代祭 へいあんじんぐう 10 月 22 日 、 京 都 市 の 平 安 神 宮 で 行 な わ れ る 。 ご しょ 京 都 御 所 か ら 平 安 神 宮 ま で 4.5 ㌔ に わ た っ て 、 約 2 千 人 が 、 平 安 時 代 (794 年 ~ 1192 年 )以 降 の 歴 史 と 風 俗 を 再 現 し た 衣 装 で 練 り 歩 き 、 時 代 絵 巻 を 繰 り 広 げ る 。 みやこ かん む 平 安 神 宮 に は 、都 を 奈 良 か ら 京 都 に 移 し て 千 年 の 都 の 基 礎 を 作 っ た 桓 武 天 皇 が 祭 ら れ ている。 あおい ぎ おん 5 月の 葵 祭、7 月の祇園祭とともに「京都三大祭」の一つ。 ・鮭 「 鮭 」 は 、「 秋 」 か ら 「 冬 」 に 川 を さ か の ぼ っ て 産 卵 す る 。 卵 は 、 約 2 カ 月 で 稚 魚 に なり、春に海へ下る。4 年後の秋に産卵した川へ戻る。 じんこう ふ か ち ぎょ 近 年 、「 鮭 」 の 人 工 孵 化 が 盛 ん で 、 稚 魚 を 川 に 放 流 す る な ど で 、 漁 獲 量 も 増 え て い る 。 りょう り 川を遡ってくる直前の「鮭」が美味しい。塩焼きやフライや鍋 料 理など。 あらまきじゃけ せい ぼ 一匹の鮭を塩に漬けた「新巻 鮭 」は、お歳暮や正月の贈り物に使われる。 つ 「 鮭 」 の 卵 を 一 粒 ず つ 食 塩 水 に 漬 け た の は 「 イ ク ラ 」。 「もの影の ごとくに鮭の あ べ さ か の ぼ る 」 (阿 部 109 けいげつ 慧月) たけ が ・茸狩り くち き きのこ 山 野 の 湿 っ た 地 面 や 朽 木 な ど に 生 え て い る 茸 を 採 る こ と 。一 般 に「 き の こ が り 」と い う。 まつたけ しいたけ 松茸、椎茸、まい茸、しめじ、なめこ、など。 「茸狩り」の代表格は松茸狩り。松茸はアカマツの根などに生える。香りがよく、歯 応 え が あ る 。 高 価 な 松 茸 は 、「 秋 の 味 覚 の 王 様 」 だ 。 もりかわ 「茸狩や 山よりわめく 台 所 」 (森 川 「茸狩や 見付けぬ先の 面 白 さ 」 (山 口 きょろく 許六) 素堂) ・柿 ようかん 古くから食用として栽培され、柿羊羹、柿酢などにも加工される。 「柿」の葉で巻いた「柿の葉寿司」もある。 葉が落ちた枝に真っ赤な「柿」の実が残っている秋の田園風景は美しい。 「渋かろか 知らねど柿の 初 ち ぎ り 」 (加 賀 「柿くへば 鐘が鳴るなり 法 隆 寺 」 (正 岡 千代女) 子規) 十一月(霜月) ・文化の日 1946 年 (昭 和 21 年 )11 月 3 日 、戦 争 放 棄 な ど を 定 め た 日 本 国 憲 法 が 公 布 さ れ 、2 年 後 に 、 こ の 日 が 、「 自 由 と 平 和 を 愛 し 、 文 化 を す す め る 」 た め の 「 国 民 の 祝 日 」 に な っ た 。 文化の向上・発展・発達に功績のあった人に文化勲章が授与される。 とり いち ・酉の市 おおとり 11 月 の 酉 (十 二 支 の 10 番 目 )の 日 に 、 各 地 の 鷲 神 社 で 行 な わ れ る 祭 。 開運の神として信仰され、特に商売繁盛を願う。 たいとう く わし 江戸時代から続いている東京都台東区の鷲神社の「酉の市」が有名。 えん ぎ もの ろ てん 参道に縁起物を売る露店が並ぶ。 くま で 主 役 は 、福 を か き 集 め る と 言 わ れ る 竹 製 の「 熊 手 」だ 。愛 嬌 の あ る「 お か め 」の 面 や 、 千両箱、大福帳、大判・小判などの縁起物で飾られている。 「酉の市」が 3 回ある年もある。 「世の中も 淋しくなりぬ 三 の 酉 」 (正 岡 子規) ・立冬 11 月 8 日 頃 。 暦 の 上 で は 「 冬 」。 北 の 地 方 で は 初 霜 や 初 氷 が 見 ら れ る 。 ・渡り鳥 雁、鴨、つぐみ、ひわ、マナヅル、タンチョウヅルなど。 「夏」にシベリア方面で繁殖した鳥が越冬のため、数千㌔以上を飛んで日本にやって ちょううん くる。大群となって飛ぶ光景は「 鳥 雲」と呼ばれる。 「喧嘩すな 「大風に あひみたがひに 傷みし木々や 渡 り 鳥 」 (小 林 かわひがし 渡 り 鳥 」 (河 東 110 一茶) へき ご とう 碧梧桐) ・七-五-三の祝い 11 月 15 日 を 中 心 に 行 わ れ る 5 歳 の 男 の 子 、 3 歳 と 7 歳 の 女 の 子 の お 祝 い 。 親 子 連 れ いの で、神社に参拝し、健やかな成長をお祈りする。 宮中や貴族の間で行なわれていた行事が一般社会に普及した。 けいだい ち とせあめ 神社の境内には、長寿にちなんだ「千歳飴」などを売る店が立ち並ぶ。 「よくころぶ はかま ぎ 「 袴 着や かみおき 髪置の子を 子の草履とる ほ め に け り 」( 高 浜 こ にし 親 ご こ ろ 」( 小 西 虚子) らいざん 来山) ( 注 ・ 髪 置 = 2、 3 歳 ま で 剃 っ て い た 髪 を 初 め て 伸 ば す 昔 の 儀 式 。 袴着=5 歳になった男の子が初めて袴をはく儀式) ・行く秋 「秋」が終わるのを惜しむ気持ちを込めた言葉。 「行秋や 抱けば身に添ふ ひざがしら 膝 頭 」( 炭 111 太祗) 四節 = 冬 「 冬 」 の 語 源 は 、「 冷 え る 」 と い う 意 味 の 「 冷 ゆ 」。 暦 の 上 で は 、 立 冬 (11 月 7、 8 日 頃 )か ら 立 春 (2 月 3、 4 日 頃 )の 前 日 ま で 。 一 般 に は 12、 1、 2 月 の 3 カ 月 。 長い日本列島の太平洋側は乾燥した晴天の日が多く、日本海側は大陸からの北西の季節 風が吹いて寒い日が多く、雪が降る。 北海道や東北、信越、北陸地方の人たちは雪との長い闘いが続く。 南の沖縄県では雪はほとんど降らない。 おお み そ か 大 晦 日 の 夜 が 明 け る と 、 元 日 (1 月 1 日 )だ 。 「一年の計は元旦にあり」という。人々はこの日を特別に大切にする。 2 月は寒さが最も厳しい。 しわす む つき きさらぎ 旧 暦 の 別 名 は 、 12 月 が 「 師 走 」、 1 月 が 「 睦 月 」、 2 月 が 「 如 月 」。 一年の 始まり であ る 1 月は 、家族 が揃 って 楽 しく過 ごし 、友 人 、知 人がお 互いに 新年 を むつ 祝う。 「 仲 良 く す る・親 し み 合 う 」と い う 意 味 の「 睦 む 」こ と か ら 、1 月 を「 睦 月 」と い う 。 十二月(師走) こ が こがらし ・木枯らし- 凩 「 冬 」 に 吹 く 冷 た い 風 を い う 。「 木 を 吹 き 枯 ら す 」 と い う 意 味 。 最初に吹くのを「木枯らし 1 号」という。 とうげ こく じ 「凩」は、 峠 、働くなどと同じで、日本で作った国字。 「凩や 海に夕日を 「木がらしや なつ め 吹 き 落 す 」 (夏 目 目刺にのこる そうせき 漱石) あくたがわ 海の色」( 芥 川 りゅう の すけ 龍 之介) せい ぼ ・お歳暮 日頃、お世話になった人に感謝の印として品物を贈る。 11 月 中 旬 か ら 12 月 上 旬 、 デ パ ー ト 、 ス ー パ ー 、 商 店 街 に は 「 お 歳 暮 コ ー ナ ー 」 が 設 けられ、買い物客で賑わう。 「師へ父へ 歳暮まゐらす いも 山 の 薯 」 (松 本 たかし) こ たつ ・ 炬 燵 (こ た つ ) も と も と は 、畳 や 床 に 炉 を 作 っ た 暖 房 設 備 。炭 、練 炭 、赤 外 線 暖 房 器 を 炉 の 中 に 入 れ 、 「やぐら」を置いて布団を被せたもの。四方から足を入れて、温まる。 こたつ 冬に、炬燵を囲んで楽しく過ごす家族の団欒風景が見られる。 電気ヒーター付きの炬燵もあるが、 「 エ ア コ ン 暖 房 」の 普 及 で 、炬 燵 そ の も の が 少 な く なった。 「炬燵出て 古郷こひし いけにし 星 月 夜 」( 池 西 112 ごんすい 言水) は ご いた ・羽子板-羽子板市 正月に、女の子たちが「羽子板」で「羽根」を突き合って遊ぶのが羽子板。 黒く堅いムクロジの実に、小さい鶏の羽を数枚差し込んで「羽根」を作る。 「 羽 子 板 」は 長 方 形 の 板 。 「 羽 子 板 」に は 、有 名 な 俳 優 や 歌 舞 伎 役 者 、ス ポ ー ツ 選 手 を 、 綿やきれいな布で作った立体感のある「押し絵」を貼り付ける。飾り物として人気があ る。 せんそう じ 12 月 17 日 か ら 3 日 間 、 東 京 ・ 浅 草 の 浅 草 寺 で 開 か れ る 「 羽 子 板 市 」 が 有 名 。 「羽子板の 役者の顔は み な 長 し 」 (山 口 せいそん 青邨) ひ なた ・ 日 向 ぼ こ (日 向 ぼ っ こ ) えんがわ 家 の 縁 側 や ベ ラ ン ダ 、 公 園 な ど で 、「 冬 」 の 日 光 を 浴 び て 温 ま る こ と 。 「うとうとと 生死の外や 日 向 ぼ こ 」 (村 上 鬼城) た き び ・焚火 暖 を 取 る た め 、 家 の 庭 な ど で 落 ち 葉 や 枯 れ 木 を 燃 や す こ と 。「 冬 」 の 風 物 詩 。 ・冬至 12 月 22、 23 日 頃 。 一 年 中 で 昼 の 時 間 が 最 も 短 い 。 ゆ ず ゆ かぼちゃ この日、柚子湯に入ったり、南瓜や「こんにゃく」を食べると、風邪を引かないと言 われる。 ・鍋物 【寄せ鍋】 「冬」の食卓に欠かせないのが「寄せ鍋」などの鍋物だ。 「寄鍋や たそがれ頃の すぎ た 雪 も よ ひ 」 (杉 田 ひさじょ 久女) 【おでん】 ちく わ 大根やこんにゃく、竹輪、卵などを煮込んだもの。冬の定番料理だ。 でんがく 「おでん」の名は、串刺しにした豆腐を焼いて味噌を付けた「田楽」から。 「おでん酒 わが家に むらやま 帰 り 難 き か な 」 (村 山 ゆ どう ふ 【湯豆腐】 こん ぶ 豆腐を鍋に入れ、昆布と一緒に煮て熱くする。 かつおぶし 醤油と刻んだねぎ、 鰹 節などで食べる。 113 こ きょう 古 郷 ) 簡単に出来る「冬」の人気料理。 なんぜん じ 京都・南禅寺の湯豆腐が有名。 「湯豆腐や え ぞ 蝦夷の板昆布 跳 上 が り 」 (渡 辺 水巴) ほっかいどう (蝦 夷 = 昆 布 の 生 産 地 と し て 知 ら れ る 北 海 道 の 古 い 呼 び 名 ) し め なわ ・注連縄-注連飾 稲の藁で作った縄の輪に、細工をした紙を垂らしたのが「注連縄」だ。 かみだな 新年に神様を迎えるため、神社の社殿前や家の神棚に飾る。 おおみそか 大 晦 日 (12 月 31 日 )ま で に 取 り 付 け る 。 し め 大 小 、さ ま ざ ま な 形 が あ る が 、3 本 、5 本 、7 本 の 藁 を 使 う こ と も あ る こ と か ら「 七 五 三 なわ 縄」とも書く。 だいだい い せ え び ま よ 「 注 連 縄 」 に 橙 や 昆 布 、 伊 勢 海 老 な ど 付 け て 、 縁 起 物 の 飾 り と し て 、「 魔 除 け 」 や 願いを込めて、家の玄関などに飾るものが「注連飾」だ。 日頃使っている機械、農機具、自動車、自転車、船などにも、安全を願って「注連 縄」や「しめ飾り」を飾る。 「女手に 注連飾打つ ひ の 音 き こ ゆ 」 (日 野 そうじょう 草 城 ) ・童謡「お正月」 ひがし たきれん た ろう 東 くめ・作詞、滝廉太郎・作曲。 子供たちのお正月が待ち遠しい気持ちを歌った唄。 明治時代の後半に作られたが、今でも、よく歌われている。 ♪♪♪ もう いくつねると こまをまわして お正月 たこ お正月には 遊びましょう 凧あげて はやく来い来い お正月 ♪♪♪ ご ようおさ ・御用納め 12 月 28 日 頃 、 一 年 の 仕 事 を 終 え る こ と 。 1 月 4 日 頃 ま で が 年 末 年 始 の 休 暇 。 ・行く年 終 わ ろ う と す る 年 の こ と 。 次 の 年 は 「 来 る 年 」。 「行年や 何に驚く お ざき 人 の 顔 」 (尾 崎 こうよう 紅葉) ・なまはげ あき た けん お が はんとう 12 月 31 日 に 行 な わ れ る 秋 田 県 ・ 男 鹿 半 島 に 伝 わ る 風 習 。 みの わらぐつ 大 晦 日 の 夜 、 村 の 青 年 が 2~ 3 人 一 組 に な っ て 、 鬼 の 面 を か ぶ り 、 蓑 と 藁 靴 で 、「 ウ オ は もの ー、ウオー」と奇声を発し、大きな木と銀紙で作った刃物や棒を振り回し「泣く子はい 114 ね が ぁ (泣 く 子 は い な い か )」 と 大 声 を 上 げ な が ら 家 を 回 る 。 子供たちは、 「 な ま は げ 」の 恐 ろ し い 姿 に 脅 え な が ら 、親 に す が っ て 泣 き じ ゃ く る 。親 が「なまはげ」に謝り、酒や餅を渡して、家族の無病息災をお願いする。 おお み そ か ・大晦日 一 年 の 最 後 の 日 。「 お お つ ご も り 」 と も い う 。 そ ば 12 月 31 日 に 、こ れ か ら も「 細 く 長 く 」生 き る こ と を 願 っ て 、 「 年 越 し 蕎 麦 」を 食 べ る 風習がある。 「掃かれざる じょ や 道も暮れけり いまむら しゅんぞう 大 晦 日 」 (今 村 俊 三) かね ・除夜の鐘 12 月 31 日 の 夜 か ら 、 寺 で 108 回 突 く 鐘 の こ と 。 ぼんのう 人 間 に は 「 心 身 を 悩 ま す 迷 い や 怒 り や 欲 望 」 と い う 煩 悩 が 108 あ る と 言 わ れ て い る 。 この煩悩を消滅させて、新しい年を清らかな気持ちで迎えようというのが除夜の鐘だ。 鐘 が 終 わ る ま で 40~ 50 分 か か る 。 人々は、その間。一年間をしみじみ思い返す一時だ。新しい年(1 月 1 日)の午前 0 時に突き終るのが本来だが、近年は、午前 0 時を挟んで突く寺が多い。 む つ き 一月(睦月 ) ・新年 新しい年。なかでも新しい年の初めの時期をいう。 がんじつ むろ う 「新年の 山見てあれど 雪 ば か り 」 (室 生 「三面鏡 ひらきて素顔 年 迎 ふ 」 (橋 本 はしもと さいせい 犀星) み よ こ 美代子) は つ もうで ・元日-元旦-初 詣 新 し い 年 の 初 め の 日 の 1 月 1 日 が 元 日 ・元 旦 。「 国 民 の 祝 日 」。 はつもうで 神 社 や 寺 院 で 、 一 年 の 健 康 と 幸 福 を お 願 い す る の が 「 初 詣 」。 正 月 三 が 日 ( 1 日 ~ 3 日 )に お 参 り す る 。 おが 「元日」の「初日の出」を拝むために山や海岸へ行く人も多い。 「元日や 「日本が 「初詣 このこころ 此 心 にて ここに集る ぜんなんぜんにょ 善男善女の 世 に 居 た し 」 (高 桑 やまぐち 初 詣 」 (山 口 誓子) こうざい 代 に 似 た り 」 (香 西 115 蘭更) せい し てる お 照雄) ・正月 一 年 の 最 初 の 月 が 「 正 月 」。 せち にしん 「 正 月 」の 特 別 な 料 理 が「 お 節 料 理 」だ 。昆 布 巻 、玉 子 焼 き 、か ま ぼ こ 、数 の 子( 鰊 の卵)や、里芋、蓮根の煮物など。 と そ お 節 料 理 の 前 に 飲 む お 酒 が 「 屠 蘇 」。 正月の楽しい浮かれた気持ちを「お屠蘇気分」という。 ぞう に ・雑煮 お餅を、鶏肉や野菜、かまぼこ、シイタケなどの汁に入れた料理。 「三が日」の朝、家族そろって雑煮と「お節料理」を食べて祝う。 関東地方では「切り餅」を焼いて醤油味の汁が一般的。 関西地方では「丸い餅」で白味噌の汁が多い。 ぬりわん 「塗椀の 家の久しき 雑 煮 か な 」 (正 岡 子規) はつはる ・初春-迎春 「 新 年 」 を 迎 え た 気 持 ち を 表 す 言 葉 が 「 初 春 」 や 「 迎 春 」。 賀 春 、「 春 」 も 新 年 の こ と 。 「初春や 眼鏡のままに 「目出度さも う と う と と 」 (日 野 草城) お ら が 春 」 (小 林 一茶) ちう位なり ・年賀-年賀状 「新年」のお祝いを述べることを年賀という。 親 戚 や 友 人 、 知 人 に 「 年 賀 状 (年 賀 は が き )」 で 年 始 の 挨 拶 を し た り 、 一 年 間 の ご 無 沙 汰のお詫びをする。 ・お年玉 「正月」に親や大人が、子供たちや孫、親戚の子どもに贈るお金。 子供たちにとって正月の大きな楽しみ。 「年玉を 「とし玉の 「お年玉 まくらもと 枕 元 」 (正 岡 並べて置くや く さいそくに来る ちらと見くらべ 子規) 孫 子 か な 」 (小 林 なかやま 姉 い も と 」 (中 山 116 一茶) きりを) かどまつ ・門松 「正月」に家の玄関や門口に立てて飾るもの。 いっつい 一対の松に竹などを加える。 まつ うち 普通、門松は 1 月 7 日まで立てる。その期間を「松の内」という 「酔ひつれて せっ た 雪駄鳴らすや 松 の 内 」 (尾 崎 紅葉) はつゆめ ・初夢 「元日」の夜か 2 日の夜に見る夢。 どんな夢を見たか、で一年間を占ったりする。 枕の下に宝船の絵を敷いて寝ると「いい夢」を見る、言われている。 たか なすび 初 夢 は 、「 一 ・ 富 士 、 二 ・ 鷹 、 三 ・ 茄 子 」 の 順 に 縁 起 が 良 い 、 と い う 言 い 伝 え が あ る 。 「初夢の 忘れやすさの 目 出 度 け れ 」 (高 木 「初夢を 話しゐる間に 忘 れ け り 」 (星 野 晴子) 立子) ぞ ・書き初め 「新年」になって最初の書道。 「 夢 」、 「 希 望 」、 「 平 和 」、 「 春 」な ど 、め で た い 文 字 を 選 ん で 、2 日 に 書 く こ と が 多 い 。 「書初の ことさら太き ますなり 筆 選 ぶ 」 (増 成 くり と 栗人) ・正月の遊び 子 供 た ち が 、「 正 月 」 に 遊 ぶ の は 、 家 の 外 で は 凧 (タ コ )揚 げ 、 独 楽 (コ マ )回 し 、 羽 根 すごろく 突 き 。 家 の 中 で は 双 六 、 歌 留 多 (カ ル タ )、 ト ラ ン プ な ど 。 しかし、近年は、テレビ・ゲームで遊ぶ子どもが増えている。 117 たこ あ 凧揚げ =竹で作った枠に紙を張ったのが凧。それに糸を付けて空高く飛ばして遊ぶ。 「凧抱いた こ ま まわ なりで すやすや 寝 た り け り 」 (小 林 一茶) しんぼう 独楽回し =丸い木に鉄の心棒を差し込んだのが独楽。それに紐を巻いて、その後に 糸を強く引いて、回転させる。 「独楽うつや は ね なかに見知らぬ むらかみ 子 が ひ と り 」 (村 上 しゆら) つ 羽根突き 羽子板で羽根を突き合って遊ぶ。 羽根を落とした人が負け。 負けると、顔に墨を塗られるのが昔からの遊び方。 「羽子板や さ 「音冴えて 唯にめでたき 羽根の羽 白し う ら お も て 」 (服 部 いずみ 松の風」( 泉 118 嵐雪) きょう か 鏡 花) すごろく 双 六 = 大 き な 紙 に い ろ い ろ な 絵 を 描 い て 、十 数 カ 所 の「 中 継 点 」を 作 る 。サ イ コ ロ を 振 っ て 出 た 目 の 数 だ け 進 む 。「 振 り 出 し (ス タ ー ト )」 か ら 早 く 「 上 が り (ゴ ー ル )」 に 到 着 し た 者 が 勝 ち 。 サイコロの目でぴったりゴールに着かなければ勝てない。 例 え ば 、『「 上 が り 」 ま で 「 あ と 三 つ 」 の 所 で 、 サ イ コ ロ を 振 っ た ら 「 5」 が 出 た 』 場 合 、「 上 が り 」 ま で 「 3」 進 ん だ 後 、 残 り の 「 2」 は バ ッ ク す る 。 ま た 、 途 中 で 、「 振 り 出 し へ 」 と い う 「 中 継 点 」 に 止 ま っ た ら 、「 振 り 出 し 」 に 戻 る 。 「双六の 絵をたのしみて ふかがわ 遊 び け り 」 (深 川 しょういちろう 正 一郎) かるた =カードを使って、数人で遊ぶゲーム。 「百人一首」や「いろは・がるた」など。トランプもある。 「とられたくなし か る た 歌留多 いけがみ 眼 に て 押 へ 」 (池 上 ふ じ こ 不二子) ・御用始め 役所や会社などが4日頃、その年の仕事を始める。 この日は、役所や企業のトップが念頭の抱負を述べ、職員や社員は発展と努力を誓い 合う。 で ぞ しき ・出初め式 1 月 6 日頃、都道府県、市町村の消防署や消防団が消火演習をすること。 ひ ろう 江戸時代からの「はしご乗り」や最新鋭の消防機器が披露される。 ななくさ がゆ ・七草-七草粥 「せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ」を春の七草 という。 1 月 7 日の朝、お粥に春の七種類の野菜を入れた「七草粥」を食べる。 ご馳走を食べ過ぎて疲れている胃を休める効果もある。 「七草や 兄弟の子の 起 き そ ろ ひ 」 (炭 太祗) ふくじゅそう ・福寿草 寒い季節に黄金色の花を咲かせる高さ 3 ㌢~6 ㌢の花。 縁起のいい名前と、花の少ない時期に咲くことから珍重される。 かん げい こ ・寒-寒稽古 い 「 寒 の 入 り 」( 1 月 5、6 日 頃 )か ら「 寒 の 明 け 」( 2 月 4 日 頃 )の 前 日 ま で の 約 30 日 間 うち が 「 寒 の 内 」。 1 月 21 日 頃 、 寒 さ が 最 も 厳 し い の を 「 大 寒 」。 この時期の手紙は「寒中お見舞い申し上げます」と書き出す。 じゅうどう けんどう きゅうどう 柔 道、剣道、 弓 道などの武術の修行をする人たちが心身の鍛錬のため、寒さの厳し い時期の早朝にする稽古を「寒稽古」という。 119 かがみ び ら ・ 鏡 開き 「正月」に、床の間や神棚に大小二つの丸い餅を重ね、みかんや伊勢海老などをのせ て飾ったのを「鏡餅」という。 しる こ 1 月 11 日 に 、 雑 煮 や お 汁 粉 で 食 べ る 。 かなづち 「切る」という縁起の悪いことをしないために、鏡餅を包丁で切らないで、金槌など で 叩 き 割 る こ と か ら 、「 鏡 開 き 」 と い う 。 「傍観す おんな で さいとう 女 手に鏡餅 割 る を 」 (西 東 さん き 三鬼) ・成人の日 満 20 歳 に な っ た 男 女 を 祝 福 す る 日 。「 1 月 の 第 2 月 曜 日 」。 「おとなになったことを自覚し、みずから生き抜こうとする青年を祝いはげます」国 民の祝日。 20 歳 を 「 は た ち 」 と い う 。 し も ばしら ・霜 柱 地中の水分が寒さで柱状の氷になって地面を押し上げる。 霜 柱 の 上 を 歩 く と 、「 サ ク 、 サ ク 」、「 ザ ク 、 ザ ク 」 と い う 音 が す る 。 ふゆごも ・冬籠り 冬の間、人や動物が家の中や巣の中に閉じこもって外に出ないこと。 「腰あげて 「読みちらし すぐ又坐る 冬 籠 」 (高 浜 書きちらしつつ 虚子) 冬 籠 」 (山 口 青邨) ・雪 日本の「四季」の景観を代表する「雪月花」の一つ。 多くの詩歌や俳句の題材になっている。 雪は六角形の結晶が多いので「六つの花」ともいう。 かざはな 細かい雪が風に乗ってちらちら舞う様子を「風花が舞う」という。 雪は、形や状況によって、様々な呼び方がある。 ささめ ふぶき 白 雪 、粉 雪 、牡 丹 雪 、ざ ら め 雪 、 細 雪 、小 雪 、淡 雪 、根 雪 、な ご り 雪 、風 雪 、吹 雪 な ど。 「降る雪や 明治は遠く なかむら な り に け り 」 (中 村 120 くさ た お 草田男) みぞれ ・霙 ま 雪が解けて雨混じりになり、雪と雨が一緒に降る現象をいう。 「古池に 草履沈みて み ぞ れ か な 」 (与 謝 蕪村) かじか ・悴む 寒さで手足の指先の感覚がなくなること。 「手がかじかむ」という言い方をする。 ・しばれる 厳しく冷え込むことを、北海道、東北地方では「しばれる」という。 つ ら ら ・氷柱 家の軒や木から落ちる水のしずくが、凍って棒のように垂れ下がったもの。 み ほとけ 「御 仏 の お はな 御鼻の先へ つ ら ら か な 」 (小 林 一茶) たまご ざ け ・卵酒 かん お燗をした日本酒に生卵を入れてかき混ぜ、砂糖を加えたのが卵酒だ。 風邪気味の時に飲むと、体の芯から温まって、風邪を治してくれる。 「親も子も 酔へばねる気よ 卵 酒 」 (炭 太祇) 二月(如月) せつぶん ・節分-豆まき 季 節 の 変 わ り 目 が「 節 分 」だ が 、一 般 に は 立 春 の 前 日 の 2 月 3 日 か 4 日 頃 。春 を 迎 え 、 悪 魔 を 追 い 払 う た め に 、「 豆 ま き 」 を す る 。 日 本 で は 宮 中 で 約 1300 年 前 に 行 な わ れ た の が 始 ま り 。 だい ず 室 町 時 代 (1392 年 か ら 約 180 年 間 )に 大 豆 を ま く 習 慣 が 始 ま っ た 。 い 子供たちが「鬼は外、福は内」と叫びながら、炒った大豆を鬼の面をかぶった人にぶ つける。 え と としおとこ としおんな 神社や寺では、その年の干支に当たる「年 男 ・年 女 」の俳優やスポーツ選手が高い 所から豆をまく。 ひいらぎ いわし 鬼 や 悪 魔 が 家 に 入 っ て こ な い た め に 、 戸 口 に 「 柊 の 枝 」 を 挿 し た り 、「 鰯 の 頭 」 を 121 刺しておく地方もある。 「豆を打つ 声のうちなる 笑 か な 」 (宝 井 其角) ・立春 「節分」の翌日の 2 月 4 日頃。暦の上ではこの日から「春」だ。 北海道や東北、北陸などではまだ雪の季節だが、人々は春の兆しを感じ取る。 「春立つや 誰も人より さ き に 起 き 」 (上 島 鬼貫) ・春浅し 暦の上では春だが、冬の気配が残り、まだ春は浅い、と感じる。 そうしゅん ふ しょう か 「 早 春 賦 」 と い う 唱 歌 に 、「 春 は 名 の み の 風 の 寒 さ や 、、、 ♪ ♪ 」 と あ る 。 ・雪まつり さっぽろ 「札幌雪まつり」が有名。 毎年 2 月 6 日頃の金曜日から一週間、北海道札幌市の大通り公園で繰り広げられる。 かいじゅう ア ニ メ の 主 人 公 、役 者 、ス ポ ー ツ 選 手 、物 語 の 名 場 面 、有 名 な 建 築 物 、怪 獣 な ど に 似 せ て 作 っ た 大 き な 迫 力 あ る 雪 像 が 立 ち 並 ぶ 。 大 き い の は 高 さ 15 ㍍ 近 く あ る 。 使われる雪は、自衛隊などが何十台ものトラックで運んでくる。 毎 年 、 200 万 人 を 超 え る 観 光 客 が 訪 れ る 。 はり く よう ・針供養 さいほう 2 月 8 日。裁縫などで折れた針の供養をする。 感謝を込めて、針を軟らかい豆腐や「こんにゃく」に刺して神社に奉納する。 ・かまくら みちばた 道端に高く積み上げた雪を固めて、中をくり抜いて作った部屋のこと。 大 き い の は 縦 横 約 2 ㍍ あ る 。敷 物 を 敷 い て 明 か り を つ け 、中 で 食 事 や ゲ ー ム を 楽 し む 。 東北地方に多い。 毎 年 2 月 11 日 頃 か ら 秋 田 県 横 手 市 内 の 各 地 で 作 ら れ る 「 か ま く ら 」 が 有 名 だ 。 122 ・梅 せい そ 寒さに耐えて咲く「梅」の花は、清楚で香りがよくて、気品高い。 し だ めでたいことの代名詞である「松竹梅」の一つ。白梅、紅梅、枝垂れ梅など。 うぐいす 「梅」の枝で 鶯 が「ホーホケキョ」と鳴く情景を表した「梅に鶯」は、早春を象徴 する言葉だ。 ろうばい 「 梅 」の 種 類 で は な い が 、こ の 時 期 に 、黄 色 く て 香 り 高 い 花 が や や 下 を 向 い て 咲 く「 蝋 梅 」 ゆ し じょう もある。 「 梅 」と 同 じ よ う な 形 の 花 で 、色 が「 蝋 」 ( 黄 色 い 油 脂 状 の 化 学 物 質 )の よ う な ので、この名前が付いた。 「梅一輪 一輪ほどの 暖 か さ 」 (服 部 123 嵐雪)