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米国の対日軍事援助の実態
【 第Ⅱ章 日米安保体制の成立とその論理構造 7 .米国対日援助と米軍経費負担のバランスシート 】 ‐7 ‐日本「タダ乗り」論の財政的源流‐ ●「ダダ乗り」イメージ(冷戦下で最も恩恵を受けた日本というイメージ)の元 米国に安全保障をしてもらっているという「観念」…先述のように根拠なし 再軍備それ自体が米国の軍事援助に依存せざるをえなかった「事実」 ↓ 「援助」と「負担」のバランスシートから「タダ乗り」か否かを検討 ①日本の受取り額と米国の対外軍事援助にしめる位置 ②日本は駐留米軍経費を支払っているが,その根拠と額面の検討 ③上二者のバランスシートの検討 (1)米国の対日軍事援助の実態 3つの「事実」…軍事援助の大きさ/防衛負担の小ささ/経済成長⇒「ダダ乗り」イメージを構成 でも,本当か?→●再軍備の過程で受けた援助額をみる 日米双方の資料より 日本:防衛庁 アメリカ:国防総省安全保障援助局発表 援助期間 1950∼69 「無償」を例に 5765 億円 3078 億円 日米間の差が(分類方法の違いを考慮しても)大きすぎる ↓ 考えられる原因 日本側過大評価 朝鮮戦争休戦で中古兵器あふれる 中古品受取りの際 「新品価格」換算 整備のあと日本に貸与(整備費加わる) MSA 援助対象になる つまり,日本側公表値に問題あり 二重計算や返還分の未控除…技術的に粗末な統計処理をしたこと 日本側の無償援助分の「新品価格」評価 そこで… ●米国発表値に基づいて検討する(日本のような杜撰さはない) 無償援助の実体を反映しているならば,対日援助は通常考えられているものほど大きくないだろう ↓ NSC 文書 5516/1 備蓄在庫兵器 1億 5800 万㌦(569 億円)とある →更新価格ならば 5 億 4000 万㌦(1944 億円)⇒日本の見積価格にほぼ対応 ↓ 対日交渉で 公式に公表するとき:国防総省安全保障援助局発表として 「更新価格」を示す 「新品ではない」換算…公正な基準の必要性 →援助額は大きいの →NATO 諸国などへの援助と比較するため だ,と意図的に示した また,議会に対して「巨額」でないことを示すため 顕著なコントラストとして… 日本:「防衛年間」1961 年度 アメリカ国防総省発表のものも載せる 51‐59 供与兵器 4632 億円 5 億 657 万㌦(1824 億円) 日本は 2.2 倍の評価をしている 別の例 50‐71 累計無償援助額総額:日米差 2700 億円も 日:米国の更新新品価格 米:「取得価格で値踏み」した市場コスト,実際価格に近い値 ↓ 米国が対日交渉上使用した「水増し」援助評価額と国際比較上必要な公正な援助額の差 ●アメリカの対外援助の世界的分布構造を見て,日本の位置をさぐる 欧州・NATO(そのうちドイツ) 日本 援助が優先された地域 有償 67% (32%) 2.3% ・東アジア太平洋地域の紛争地 無償 44% (2.2%) 2.0% ・欧州の戦勝国 ドイツ:無償は全体の 5 分の 1 有償は米国兵器購入にあてねばならばかった 日本 :最も厳しい取り扱いをうけた(西側で最も小額) 無償援助の少なさは,むしろ再軍備資金の多くを自前で捻出せざるを得なかった,ことを意味 日本政府が公表しているほど,巨大ではなく,考えられている以上に少なかった →「多額の援助のおかげで経済発展した」という従来の議論には留保が必要 しかし,再軍備プロセスで相当の援助をうけたことは事実である。 そこで,「受取るだけ」の「タダ乗り」であったか? No! 別ルートで,日本は安全保障上の支払いを行っていた⇒駐留米軍費負担である (2)防衛分担金の論理構造 占領期∼再軍備期 防衛費の範囲と性格について明確な説明は困難 終戦処理費(占領期の米軍駐留費)から防衛分担金への移行 意味解明が不十分 一般論 占領経費 敗戦国が負担するもの 独立国に駐留する経費 駐留軍を派遣している国が自己負担 ↓ だが,「防衛分担金」の名で,日本は駐留費を負担していくことになる なぜか? ●朝鮮戦争とかかわる 朝鮮戦争 朝鮮戦争 以前 勃発 ∼ 占領軍 占領軍+国連軍 という混合物 帰還兵維持 戦争経費 の負担という問題があがる 日米の共通認識:占領費と区別すべき 日 本 大蔵省:上をふまえて独立後の財政準備を考えていく… ・再軍備必要だが実質的に財政負担はへるだろう ・駐留米軍の調達物資を「ドル払いの有償供給」し,国際収支赤字を解消するドル収入を期待 アメリカ 全く異なる費用分担形式を考えていた マッカーサー:ガリオア援助のかわりに「部分的ドル払い」を提案→トルーマン:陸軍省・国務省立案へ ・52 年度 日本の国際収支赤字 1 億 4000 万㌦=ガリオア援助額の根拠 ・占領経費全額ドル払いなら,2 億 8000 万㌦=日本の国際収支赤字の 2 倍 ・日本の占領経費(1025 億円)…50 年 6 月を水準とする予算=「ノーマル」な駐留軍経費と定義 ・A.)ノーマルを超える分(216 億円)を米国が負担しよう。合わせて 1241 億円 ・B.)「公正な外観」を与えるため,「ノーマル」部分を折半しよう ・日本は 1025 億円の半分ですむ→1 億 4230 万㌦の収入=ガリオア援助を相殺する額 →次年度以降は日米二国間協定で交渉する ↓考察 A. ノーマル? 唐突ではっきりしない。停止するガリオアの換わりという方針なら,たまたま 「ノーマル経費の半分である,ということが唯一の根拠 B. 「協定が,日本人に従来の負担より『お得』と思わせるものであり,かつ,相互の利益にな ると思わせる心理的効果をうみだすものであるように…。警察予備隊費用(300 億円)を占 領費に含めて折半すれば,心理的効果は大きいだろう」というもの ① 折半→日本がそれまで支払っていた占領費に比べ,半減し,ドル払いが増える→ガリオア援助 停止できる 浮いた財源→再軍備にあてさせる 吉田の立論「財政負担があるから再軍備できない」→成り立たない 分担経費は相互利益のために支出された,という理論をとれる ② ③ ④ 占領費(日本),駐留費(アメリカ)という区分を取り払い 占領費+朝鮮経費+日本再軍備 を日米で等分(共同負担) →朝鮮戦争後は「駐留費総額を共同負担する」という公式になる 日本の独立後も駐留を続ける上で, 「安価であること」,独立前に「折半」という実績を作っておくことに意味があった ↓ ・日本に分担させる第一歩を踏ませること(カネの面で米国の極東戦略費用を分担) ・日本の再軍備=日本の独自防衛 ↓ 極東平和のため日本に金を出させ,基地自由使用特権を得て,日本に再軍備させる(ベスト) ●結果 日本にとって最悪のケースになった 51 年度一度限りの公式だったが,「行政協定」に盛り込まれてしまった 名称:終戦処理費→防衛分担金 と変わっただけなのに,あっさり支払うことになった 日本から「懇願する」という条約であり, ・ 占領費がなくなって,他に予算を回せるはずがダメに ・ 日本を守ってもらうこともかなわず ・ 再軍備まで強要 アメリカにとって最悪のシナリオ 「日本独立後の,駐留経費自弁・日本と極東の防衛・対日援助継続」 →財政・軍事負担が極大化すること。 ↓ これを回避するために,ドル払い開始 駐留経費分担,極東平和維持活動を支援させながら,ガリオア援助を停止できる 自らの財政削減を達成しつつ,日本にはドル収入をよびこめる その分,再軍備を求めることで,日本防衛義務を回避できる 日本の「タダ乗り」を粉砕できる 日本の本格的再軍備を求める時期になると 軍事と直結した方向に対日援助をふりかえる必要が生じる MSA 援助にしぼるため,他の援助(ガリオアなど)を廃止し,ドル払いを節約する必要があった。 ↓ ●「通説イメージ:大規模な経済援助のおかげで,日本は復活した」は見直されるべき 防衛分担金は本来支払う必要のないものであった。 NATO 諸国などをみても,そんなことはしていないから。 (3)対日軍事援助と駐留軍経費のバランスシート 駐留米軍経費 億円 対日軍事援助(円換算)億円 50 年代 4203 4632 実績値 1824 60 年代 1375 915 / 計 5578 5764 3708 70 年∼ 一方的支払い 0 朝鮮戦争開始で 51 年から実質的 な駐留経費負担が始まる。 正式には 安保発効後の 52 年か ら「防衛分担金」が開始) ●掲載のまま(援助額は新品価格)判断すると 5∼60 年代 日米負担はほぼつりあっているが,巨額 ●「評価の過大さ」を考慮してみる(実績値を算出) 5∼60 年代 駐留経費 > 援助額 中古品を購入したことで起こった現象 中古品を新品評価したが,実勢価格としては 50∼59 年 4849 億円ではなく 1824 億円 数年後には新品をそろえなければならなくなる →1960 末 防衛計画の達成度 (赤城防衛庁長官) 陸海空自衛隊 「整備のおくれ・老朽化・施設,補給整備,必要物資の備蓄不十分」 ↓ めざすべき項目 陸:装備品の改善強化 海:旧式艦の代艦建造 空:予定に合わせて整備を (MSA 開始 6 年後にこのような状況だった) 駐留経費負担は米国の対日援助額を大きく上回っていると読み取れる ●米国の戦術 MSA ⇔ 日本の再軍備促進,対日軍事コミットメント回避 (余剰中古兵器が巧妙に役割を果たした) 太平洋の列島チェーンに基地保有→巨額の経費の必要と日本からの削減要求 (「共同防衛」意識を持たせる ⇔ 経費分担させるため折半方式採用) ↓ ① 余剰兵器の注入(軍事援助名目 大量の援助額であると認めさせる) ② 巨額な名目額に匹敵する金額を「共同防衛」の名のもと駐留米軍経費負担という回路を通じて, 強制的に回収 実体 ・基地自由使用特権と駐留経費面で「タダ乗り」 ・折半の基準は 51 年米軍 26 万人が基準でその半額を負担するという根拠 ・撤退ペースではなく日本の再軍備ペースに合わせた削減 急速撤兵した米軍は「お得」 しかし,日本は再軍備を加速していかなければいけなくなった。 最前のパターン形成 財政的観点:駐留軍を維持しつつ海外ドル払いを節約 援助費用=駐留費用 ならば 新たな負担は全くない 中古品を新品価格で販売し,自国が払う分の駐留経費を賄ったことになる 軍事的観点:日本を極東戦略の一環にすえ,米国の直接関与を減らせる ●一方 日本にとって 「逆援助」ともいえるものだった 70 年代には「MSA 援助打ちきり」⇒日本の負担だけ残る やがて 1978∼ 「思いやり予算」がスタート 西側の一員論 の合唱とともに負担が重くのしかかるばかりとなる (4)日本「タダ乗り」論の財政的源流とその影響 ●「タダ乗り」論 第一の柱「巨額の援助」イメージは虚構 「米国の援助が大きい」イメージ…政府公表値によるといえる 米側の世界的対外援助にしめる日本の割合は「最小」 政府公表値 対外的に 国内的に タダ乗りイメージの自己生産→国益を損じた タダ乗りの根拠を提供し,イメージを創り出す要因 ↓ 政府(防衛庁)にとって,防衛力予算確保のために有効だったといえるが・・・ 国益を損じた点でよくない手法だった ●「タダ乗り」論 第二の柱 防衛努力の低下は本当か 再軍備過程を特徴づけたものに「防衛分担金」がある…巨額で逆援助といえるもの →本来払うべきものではないが「共同防衛」名目が,「逆援助」という実体を隠した 防衛費の対 GNP 比という方法も問題 ・見通し GNP であり,実際の GNP ではない ・防衛関係費の性質→「駐留米軍経費」を差し引くべき ・高度経済成長期には「防衛費低下イメージ」→防衛努力低下⇒タダ乗り論第二の柱 しかし 防衛関係費=自衛隊経費+防衛支出金 のため見かけ上にすぎない 実 際 自 衛 隊 経 費 は 2.6 倍に膨れ上がり,規模は拡大している 75000 の 警 察 予 備 隊 → 陸 海 空 自 衛 隊 人員増員と装備の整備 実績値で見ると はっきりする 対 GNP 比 0.92 からスタートし,増減ありながらも 1%未満を維持 第一の山 創設時∼60 年安保改定 骨幹的防衛力整備期 第二の山 大綱システム下から 80 年代 質的向上期 しかし 政府公表値 第一の山を覆い隠す作用をはたした 「防衛白書」 他分類(社会保障費や文教費など)との比較で,防衛費が「小さい」ことを示す 「福祉国家」を志向してきたことは確か → 防衛費の抑制イメージを再検討しなければ 三つの統計数値 (防衛支出金 防衛負担金 防衛関係費) ⇒米国の「対日軍事援助の小ささ」を過大評価・日本の防衛努力を過小評価 ↓ 政府が公表値のまずさを「逆利用」したことが「タダ乗り」イメージを作り上げた 防衛費と防衛分担金の性格の違いを定義し,別々に計上しておれば, →少なくとも「防衛分担金」に対する「タダ乗り」イメージは払拭できたはず →日本側の負担の大きさも示せたはず 原則論で自己の論理を定義せず,米国の論理を受け入れた上での条件闘争になってしまった ‖ 「タダ乗り」を認めた上で,さらに「値切る」交渉をする形式 対米交渉自体がタダ乗りの動かぬ証拠であると映るはめになった。