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太陽光発電市場の変局点 - Nomura Research Institute

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太陽光発電市場の変局点 - Nomura Research Institute
10 年夏特別号Vol.12
本誌に掲載されているあらゆる内容の無
断転載・複製を禁じます。すべての内容は
日本の著作権法および国際条約により保
護されています。
Copyrightⓒ2010 Nomura Research Institute,
Ltd. All rights reserved. No reproduction or
republication without written permission.
太陽光発電市場の変局点
本号では、太陽光発電業界をとりあげます。バリューチェーンの活動毎に、市場に参入している
グローバル企業の戦略に鑑み、各活動における成功要件について分析します。加えて、周辺国市場
にも着目し、各国の産業構造の特徴や政策動向を捉えます。
太陽光発電市場のライフサイクルは、現在、大きな変局点を迎えています。技術力と開発力こそが
ビジネスの成功要件であった変局点前に対し、変局点後は、価格と物量が支配する競争へと豹変し
ます。日本企業がこの変局点を越えて市場で勝ち残るためには、大きな戦略転換が求められます。
【巻頭】太陽光発電市場の変局点の読解
近野 泰
【概説】太陽光発電業界の展望と日本企業の課題
向井 肇
1.《パネル業界》 急速な低コスト化でアジアの競合に対抗
浜本 賢一/加福 秀亙
2.《ポリシリコン業界》 需給バランス崩壊後の新たな競争軸の獲得へ
岩間 公秀
3.《フィルム部材業界》 材料技術の優位性で生き残りを目指す
中村 圭輔
4.《モジュール業界》 川下を制す企業が市場を制す
前田 佳宏
5.《インバータ業界》 変換効率だけでは勝ち残れない
加福 秀亙
6.《蓄電池業界》 大量普及の鍵は系統安定化技術が握る
重田 幸生
7.《製造装置業界》 装置単体ビジネスからの脱却へ
加福 秀亙
8.《ファシリティ業界》 外部環境変化は事業機会探索の好機
9.《日本市場》 不具合管理の仕組みを構築し市場を拡大
中島 崇文/小林 大三
滝 雄二朗/東海林 真之
10.《中国市場》 政府推進のもとで新エネルギー大国を目指す
何徳白樹
11.《韓国市場》 FIT から RPS への政策転換で質的成長を図る
黄文泰/徐絢桓
12.《台湾市場》 中国との連携でバリューチェーンの垂直統合を強化
江英橋/凌瑞鄉
10 年夏特別号
【巻頭】太陽光発電市場の変局点の読解
コストと系統安定化こそが事業自立への鍵
株式会社野村総合研究所 コンサルティング事業企画部 上席コンサルタント
近野 泰
■大きな変局点を迎えた太陽光発電市場
従来、太陽電池パネル市場は、日本の電機メーカが
イニシアチブを発揮してきた。しかし、近年、その日本企
業のポジションは変化しつつある。白物家電やデジタル
製品などでは、市場ライフサイクルにおいて、黎明期から
成長前期までの市場成長率が年々増加して行く時期に
は、日本企業が市場を立ち上げ、良い性能・機能、高品
質の製品を市場へ供給し、一つの産業を形成してきた。
しかし、市場ライフサイクルが成長後期へと転換する、い
わゆる市場の成長曲線のS字カーブの傾きが倒れ始め
る頃(S字カーブの変局点)から、日本企業がシェアを一
気に失うという歴史を繰り返している。市場ライフサイクル
の中で、大きな潮目の変化が生じている頃に中国、韓国、
台湾企業が、日本企業が想定する競争要件とは異なる
戦略で市場に参入し、シェアを拡大している(図1)。
局点の只中にあるといえる。この変局点の前と後では、
事業の成功要件が全く異なる。変局点前は、技術主導
型の市場であり、参入企業にとって、技術力や開発力が
重要な成功要件(KFS)となる。しかし、変局点後は、価
格と物量が支配する競争へと豹変する。市場競争に勝
ち残る条件がまったく様変わりするため、市場を立ち上
げてきた日本企業が、市場変局点を越えて粘り強く勝ち
残るためには、大きな戦略転換が必要となる。
本号では、太陽光発電市場における参入企業の戦略
ギアチェンジの動向、今後市場で勝ち残るための要件
変化、そして周辺国の業界動向に注目した。
図2 「太陽光発電導入量の推移(単年:対数ベース)」
(MW)
100,000
10,000
市場成長の変化
市場規模
市場変局点
図1 市場変局点と競争要件の変化
1,000
物量・コスト
系統安定
100
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
2016
2017
2018
2019
2020
技術力
開発力
(年)
価格>>性能・機能
性能・機能>>価格
出所)2005 年まで EPIA 「Global Market Outlook Until 2013」、2006 年
以降は NRI 推計
市場ライフサイクル
黎明期
成長前期
成長後期
成熟期
縮退期
■普及拡大に伴う業界構造の転機の到来
太陽光発電パネルは、従来から日系電機・材料メーカ
の独壇場であったが、ここ数年の間に供給量トップの座
を他国メーカに譲っている。日本での太陽光発電単年
導入量が世界でもトップクラスを維持していた時期は、市
場が黎明期にあり、材料開発や発電効率向上などを目
指した“技術開発期”と呼べる時代であった。それが
2004 年を境に、欧州での導入量が急峻に伸び、太陽光
発電産業は一気に物量競争の時代へと突入していく(図
2)。
太陽光発電市場のライフサイクルは、現在、大きな変
太陽光発電市場が急拡大し、成長後期への転換が急
速に進む要因の一つは、各国政府が産業政策として太
陽光発電産業を重視し、後押しすることである。【概説】
で述べているとおり、ドイツや中国などでは輸出産業の
育成、米国などでは緊急の雇用確保といった各国の経
済事情を背景に、太陽光発電導入の各国でインセンテ
ィブ制度が施行されている。加えて、低炭素社会の実現
に向け、化石燃料から再生可能エネルギーへのシフトは
追い風を受ける。しかし、太陽光発電は必ずしも発電量
当たりコストが低いわけではなく、純粋に商業ベースでビ
-1-
当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
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10 年夏特別号
ジネスを軌道に乗せるためには、第一に発電システムの
半分を占める太陽電池パネル(モジュール)の低コスト化、
第二にグリッドパリティ(グリッド電源と同等以上の価格の
実現)のクリア、第三にインバータを含む電力制御技術
や蓄電池を含めた系統安定技術の確立が鍵となる。
【概説】が述べるように、米国 First Solar は、低価格パ
ネルを武器に川下のシステムインテグレーション(SI)事
業までを扱う垂直統合モデルを展開し、大規模案件獲
得と、その結果として工場の稼働率を高めることにより、
低コスト生産体制を実現している。こうした海外の大規模
SI 事業の勝者が、世界のモジュール市場を制圧する可
能性がある。これは、太陽光発電産業が発電パネルの
開発・製造産業から、産業の KFS や収益の源泉を SI 事
業あるいは売電事業に求めるエネルギー産業に転換し
始めていることを示唆している。KFS は、SI 事業では施
工チャネルと管理ノウハウ、売電事業では資金調達と資
産管理能力とみられる。
■グリッドパリティへの挑戦
市場ライフサイクルの変局にあって、ここ数年、日本企
業の太陽電池パネルの供給シェアが急激に低下した。
物量競争の幕開けとともに、再びプレゼンスを上げられ
るか否かの動向が注目される。《パネル業界》では、政府
の後押しを前提にしながら、太陽光発電設備の低コスト
化によって、将来のグリッドパリティを実現し民間ビジネス
として自立するための条件を整える重要な時期を迎えて
いることを述べている。
多結晶型太陽電池で重要なポリシリコン業界において、
日本企業のプレゼンスは低い。《ポリシリコン業界》では、
ウェハ事業への川下化や、潜在的なコスト競争力を持つ
革新プロセス導入への期待を述べている。
材料技術で先行した日本企業が、世界で勝ち残るた
めの正念場を迎えている。《フィルム部材業界》では、
KFS がコストや装置メーカとの連携性に移行していること
を述べている。
太陽電池モジュールは技術の差別化が難しくなって
おり、コスト削減が勝敗を分ける要件へと変貌した。《モ
ジュール業界》では、KFS が技術からコストや拡販チャネ
ル≒川下化へ移行していることを述べている。政府の助
成金や売電収益など大半の利益を享受する川下の PPA
(Power Purchase Agreement)事業への展開で、モジュ
ール事業の閉塞感を突破し、SI 機能の取り込みを薦め
ている。
《インバータ業界》では、KFS が製品品質のみならず、
メンテナンス体制へと移行していることを述べている。イ
ンバータは最も故障頻度が高い複雑な製品であるため、
技術や品質のみならず、太陽光発電の売電利益に直結
するサービス(メンテナンス体制、稼働率保証体制)によ
る差別化余地が大きいからである。
太陽や風に依存する再生可能エネルギーは、天候に
左右されるという弱点をもつ。《蓄電池業界》では、発電
出力と負荷のバランスをとるための系統安定化技術こそ
が、大量普及の鍵であるとしている。中でも、来たるスマ
ートグリッド時代に向けて、蓄電池は最も重要な技術で
ある。車載・定置用市場での先行性が重要であり、官民
共同での家庭用蓄電池の普及促進を検討する意義に
ついて述べている。
《製造装置業界》では、装置業界の KFS が低価格に
加え標準ライン提供や稼働率保証にあるとしている。さら
に、日系装置メーカが、装置単品ビジネスから脱却した
新たなビジネスモデルを構築することが重要と述べてい
る。
部分最適で進む太陽電池製造工場を踏まえ、《ファシ
リティ業界》では、太陽光発電市場が変局点を越える今、
プロセスコストの低減に加え、CO2 排出量削減等の総合
的な提案力が KFS であることを述べている。
《日本市場》では、余剰電力の固定買取制度が再開さ
れたことにより、日本では太陽光発電の初期投資の回収
年が短縮し、導入意向も高まっている一方、販売や設
計・施工に伴う不良・不具合を管理する仕組みの普及が
市場拡大の課題であることを述べている。
《中国市場》では、中国の太陽光発電市場を概説して
いる。中国市場は発展初期段階にあるが、政府の太陽
光発電補助政策が公表されるとの期待が高いため、国
内外重電メーカなどの進出が本格化するとみられる。先
行する風力発電では、系統設備の脆弱さや黄砂も影響
して稼働率が上がっておらず、再生可能エネルギー発
展の鍵は、系統連係にあると述べている。
《韓国市場》《台湾市場》では、韓国と台湾の太陽光発
電市場を概説している。両国・地域とも FIT (Feed-In
Tariff)や RPS(Renewable Portfolio Standard)の導入によ
り、市場の段階的成長が見込まれている。半導体や液晶
産業での成功体験を踏襲した、太陽電池パネル(モジュ
ール)の海外市場開拓について述べている。
技術主導の時代から、物量やコスト競争が KFS である
普及拡大期に入った太陽光発電市場は、パネル産業か
らエネルギー産業へと脱皮する過渡期にある。電力の供
給において、発電システムや系統安定の重要性が高まり、
インバータや蓄電池などの技術に加え、売電事業者の
稼働率を保証できるサービス体制が競争要件に加わっ
た。技術で先行した日本企業が市場で生き残るために
は、今こそ競争要件変化を捉え、自社の事業を見直すこ
とが重要ではないか。
-2当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
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10 年夏特別号
【概説】太陽光発電業界の展望と日本企業の課題
株式会社野村総合研究所 技術・産業コンサルティング部 主任コンサルタント
向井 肇
1.市場規模は 2015 年で約 18GW に
太陽光発電市場は、一層の拡大が期待されている。
原油価格は、一時的な下落はあっても、長期的には
上昇基調にあると考えられる。各国はエネルギー安全保
障のために原油消費を削減しようとし、自動車燃料消費
を削減するため、プラグインハイブリッド車や電気自動車
の利用を推進している。これに電機電子機器利用が加
わり、世界中で電力消費量は増加し続ける。風力などの
再生可能エネルギーだけでそれを賄うことはできず、現
実的な選択肢としては、原子力やクリーンコールテクノロ
ジーを活用した石炭火力が採用される可能性が高い。し
かし、各国政府は、①輸出産業育成、②国内の建設関
連雇用創出、③環境重視の姿勢表明、等のために、今
後も積極的に太陽光発電への投資を行うと考えられる。
直近の政策でも、その姿勢がみて取れる。たとえば、
日本国内では、民主党政権は「2020 年の CO2 排出量
25%削減」に向けて、2020 年の太陽光発電の累積導入
量の目安を 30~50GW に設定しようとしている(2010 年 4
月時点)。09 年には、家庭向け余剰電力買い取り制度
や 補 助 金 の 復 活 を 受 け て 、 08 年 比 で 倍 増 と な る 約
480MW を達成した。全量買い取り制度や産業・業務向
けのインセンティブ制度策定に向けた検討が始まってお
り、今後は、さらなる市場の拡大が期待されている。
欧州においては、いわゆるスペインバブルの崩壊やリ
ーマンショック後の景気後退を受けて、09 年の市場は大
きく縮小することが予想されていた。しかし、09 年後半に
は、インセンティブ制度が功を奏し、ドイツで 08 年比倍
増以上の4GW 弱を達成するなど、結果としては前年と
同程度の導入容量を達成することになった。
米国でも、経済刺激策として太陽光発電が重用され、
豊富なインセンティブメニューが提供されている。さらに、
CO2 排出枠のキャップ&トレードや、すべての州に対し
て RPS(Renewable Portfolio Standard)を求める「ワクスマ
ン・マーキー法案」が、上院案との調整の結果成立すれ
ば、市場のさらなる拡大が期待できる。
中国も、産業育成の観点から、国内での導入拡大を
目指している。ポリシリコンなどの川上産業を持つだけに、
川下産業育成の意欲は高い。近年まで国内導入目標値
は低いものであったが、現在は 2020 年に 20GW 前後を
目指す計画が検討されている。すでに、電力会社などが
国内外モジュールメーカと連携し、多くの大規模発電所
建設計画を策定している。
以上にみられるように、各国政府が産業政策として重
要視する太陽光発電市場は、引き続き政府の支援を受
けて拡大し、2015 年の累積導入容量は約 100GW、単年
では約 18GW になると推計される。その内訳は、住宅用
途が4割強、産業・業務用途(独立系含む)が4割強、発
電所用途が2割である(図1)。
なお、これが実現した場合でも、各国の電力消費量に
占める太陽光発電由来の電力の割合は、上位でもほと
んどの国々で3%前後であり、この水準であれば、実現
可能性は高いと考えられる。
図1 世界の太陽光発電の用途別単年導入量
(MW)
20,000
18,000
16,000
電力
産業・業務
住宅
14,000
12,000
10,000
8,000
6,000
4,000
2,000
0
2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 (年)
注)2009 年以降は見通し
出所)NRI 推計
2.川下から生じる業界構造変化
上述のように、今後一層の拡大が期待される太陽光
発電市場であるが、業界構造は転機を迎えている。
まず、国内市場については、販売チャネルの構造が
変化し、外資モジュール(太陽光発電パネル)メーカがシ
ェアを大きく拡大する可能性がある。かつては、販売チャ
ネルの大きなシェアを、モジュールメーカ系の販売・施工
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10 年夏特別号
店が握っていた。日本の消費者は、海外よりも日本のブ
ランドを嗜好した。その結果、海外モジュールメーカのシ
ェアは皆無であった。しかし、近年では、ヤマダ電機など
の量販店、ハウスメーカや住宅リフォーム会社などの非
モジュールメーカ系チャネルがシェアを拡大している。ま
た、住生活グループや東芝など、OEM を活用した非モ
ジュールメーカが自社ブランドでモジュールを販売して
いる。これらの企業が国内外製どちらのモジュールを扱
うかは企業によって異なるが、海外メーカが参入する余
地が大きく増しているといえる。こうした変化が、国内モジ
ュール市場のシェアを大きく変化させる可能性がある。
海外市場では、大規模案件のシステムインテグレーシ
ョン(SI)市場の勝者が、世界のモジュール市場を席巻す
る可能性がある。米国では、ここ1~2年で、電力企業に
よる大規模な太陽光発電所案件が多数発生した。First
Solar は、低価格を武器に、SI までの垂直統合モデルに
よってこれらの案件を多数獲得している。同社が低価格
を実現できる第一の理由として、CdTl 方式であることが
あげられる。しかし、今後は上記のような大規模案件を確
保し、高稼働率の生産体制を実現できることが大きな意
味を持つ。供給過剰が危惧されるなかでこの意義は大き
い。中国でも、垂直統合モデルではないが、大規模案件
を獲得したメーカが価格優位性を持つ可能性がある。こ
のように、米国等の大規模案件を獲得したモジュールメ
ーカが、低価格を武器に各国市場で競争力を持ち、日
本で起こっているようなチャネルの変化に乗ってシェアを
高めることが予想される。
図2 川下の業界構造変化
モジュール
生産
SI (システムインテグレーション)
流通
設計
調達
施工
O&M
案件
開発
発電
(設備投資含む)
大手SIer
流通事業者
地場工務店
電力会社/投資家
産業/民生業務
政府・自治体
一般家庭
米国における垂直統合モジュールメーカ
(一部中国など海外企業も)
大手SIer
(Phoenix、IBCなど)
デベロッパ
流通事業者
低価格を
武器に
各国で展開
中国(台湾)
における
水平分業
モジュール
メーカ
地場工務店
流通事業者
SIer
デベロッパ
電力会社/投資家
産業/民生業務
/政府・自治体
一般家庭
産業/民生業務
政府・自治体・一般家庭
電力会社およびその関連会社
重電メーカ
米国
市場
欧州
市場
中国
市場
日本では非メーカ系チャネルの台頭を活用(家電量販、ハウスメーカ、リフォーム会社、周辺機器メーカなど)
非メーカ系
流通事業者
日系モジュール
メーカ
メーカ系
流通事業者
地場工務店
大手SIer
電力会社/投資家
産業/民生業務
/政府・自治体
一般家庭
日本
市場
3.急務な収益源の明確化とリソース補完
上記のような競争環境の中で、日本のモジュールメー
カが国内外でシェアを落とす恐れがある。それを回避し、
むしろシェアを高めるために、以下のような取り組みを実
施すべきと考えられる。
①収益の源泉を明確にする
近年では、各国で川下展開を目指すモジュールメー
カは多い。川下は、設計・調達・施工・O&M(Operation &
Maintenance)を行ういわゆる「SI 事業」と、資産を保有し
て電力をユーティリティや電力需要家に販売する「売電
事業」に分かれ、これら2つの性格は大きく異なる。
「SI 事業」の場合、収益変動の大きさが問題になる。大
規模案件を中心に狙う場合、入札結果次第で、各年の
収支が大きく変動してしまう。落札しても、工事監督官の
能力や天候などの要因次第で利益が大きく変動する。
一方で、小規模案件を狙う場合は、収益は安定するが、
施工は地場工務店に頼ることが現実的な方法で、大きな
収益を獲得することは難しい。また、地場工務店を束ね
るには、各国の建設業界に精通し、高度な管理ノウハウ
を有することが求められる。
「売電事業」の場合、契約書上で適切なリスク管理を
行えば、比較的高い収益を安定的に獲得できる。ただし、
毎年の生産量の少なくない割合をアセットとしてバランス
シートに積上げることになる。メーカの立場としては、株
主説明の上で簡単ではない。また、従来のメーカビジネ
スとは大きく異なる人材や企業の仕組みを求められる。
こうした両者の違いと自社のリソースを評価した上で、
自社が進む道を選択する必要がある。
②上記①の方針に適したリソースの獲得
「SI 事業」と「売電事業」では求められる機能は大きく
異なり、それを保有するリソースも異なる。
「SI 事業」を行う場合、とくに求められる機能は、1)案
件初期段階から政府・自治体、地場産業関係者にアプ
ローチするチャネル、2)低コストの施工・維持管理網、で
ある。たとえば、太陽光発電市場で活躍する Phoenix や
IBC など欧州 SIer 各社は、現地デベロッパやコンサルタ
ント、施工業者を活用し、この機能を補完している。
「売電事業」を行う場合、とくに求められる機能は、1)
大規模・長期間の資産保有を実現する資金調達力、2)
オペレーショナルリスク、カントリーリスク等を管理・低減
するリスクマネジメントの仕組み、3)効率的な事業運営を
行うためのアセットマネジメントノウハウ、であると考えら
れる。これらは、一般に日本メーカが苦手とする項目で
あり、他社との連携が現実的な選択肢と考えられる。
川下展開を目指すモジュールメーカは、近年積極的
に海外の川下リソースを取り込もうとしているが、上記の
機能の有無に着目し、その相手を選定すべきである。
以上①②のような取り組みを、モジュールメーカは実
施すべきと考えられる。また、より川上に位置するメーカ
は、モジュールメーカのこうした動向をふまえた事業戦略
の構築が求められる。
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10 年夏特別号
《パネル業界》
急速な低コスト化でアジアの競合に対抗
株式会社野村総合研究所 技術・産業コンサルティング部
上 級 コン サルタン ト 浜 本 賢 一 /主 任 コン サルタン ト 加 福 秀 亙
1.パネルの方式別特性
太陽電池パネルには、大きく分けて結晶型と薄膜型
の2つのタイプがある。結晶型は、単結晶、多結晶、ハイ
ブリッドに代表される。シリコンウェハを主原料とするため、
一般的に高い発電効率を得やすいが、大面積化が簡単
ではない。一方の薄膜型には、アモルファスシリコン、
CdTe(Cadmium Telluride)、CIGS(Cu(In,Ga)Se2)、有機
薄膜などがある。蒸着法や印刷法などの製法で大面積
化が比較的容易であるが、発電効率を高めることが難し
い。
現状では、多結晶ウェハを用いた結晶型が先行して
いるが、アモルファスシリコン、CdTe、CIGS などの薄膜
型も単位発電量あたりのコストを急速に下げてきており、
互いに市場獲得で激しく競合している。CdTe は、1ドル
/W を切るレベルをすでに実現しており、これに影響さ
れ、他の方式も非常に強いコスト低減圧力にさらされて
いる。
2.技術開発動向
太陽光発電を商業ベースに乗せるには、グリッド電源
の価格を下回る必要がある。したがって、太陽電池パネ
ルのコストを劇的に下げることが必要である。正確にいう
と、単位発電量あたりの発電コストを下げる必要がある。
単位量あたりのコストを下げるには、「太陽電池パネルの
製造コストそのものを下げる方法」と、「太陽電池パネル
の発電効率を高める方法」の、大きく2つのアプローチが
ある。
「製造コストそのものを下げる方法」としては、パネルコ
ストの中で最も大きな比率を占めるシリコンウェハのコスト
を削減することが注力されている。シリコンウェハの厚み
を 0.25mm から 0.18mm などに薄くしたり、シリコンインゴッ
トやウェハの内製化を進めることで、コスト削減を行って
いる。もちろん、製造プロセスにおける条件の最適化や
品質管理を徹底し、製造歩留まりを高めることによるコス
ト削減も継続的に取り組まれている。
これに併せて、「太陽電池パネルの発電効率を高め
る」ことによる実質的なコスト削減も積極的に進められて
いる。たとえば、多結晶型シリコン太陽電池パネルの場
合、2000 年前後では発電効率が 13~15%程度であっ
たものが、2010 年現在、18~20%程度に到達する勢い
である。また、パネルの単位面積当たりの発電量を増や
すため、電極の配線幅を細くしたり、電極そのものをウェ
ハの背面に施すバックコンタクト技術が実現されている。
最近では、シリコンウェハの厚みが薄くなったことを利用
して、太陽電池パネルの表裏面の両方で発電する方式
も登場している。
シリコンウェハを必要としない薄膜型の技術開発も進
んでいる。現在、コスト競争力が最も高い CdTe は、ほぼ
グリッドパリティ1を実現するレベルまでコスが低減されて
いる。ただし、使用する原料に有毒なカドミウムを含んで
いるため、製造プロセスにおける廃液処理、製品および
廃棄品のリサイクルを含むカドミウムの循環システム構築
が必要とされるであろう。
これ以外には、CIGS や CIS(CuInS2)の開発に注目が
集まっている。CIGS は、銅・インジウム・ガリウム・セレン
の化合物半導体を太陽電池として利用しており、シリコン
のアモルファス薄膜よりも発電効率が高く、物性的に安
定性が高い。一方で、CIGS 薄膜を形成するにあたり、セ
レン化水素という危険な原料を取り扱う必要があるなど、
製造にはノウハウを要する部分もある。参入企業は少な
く、先行している企業では発電効率の向上が急速に進
んでいる。
このように、太陽電池パネルのグリッドパリティの実現
に向けて、様々な技術開発が進められているが、決して
十分ではない。太陽電池の研究開発が本格的にスター
トしたのは 1970 年代と古く、技術的にもすでに成熟して
いるといわれて久しい。しかし、ここ数年の新たなアイデ
アや開発テーマをみる限り、まだ様々な可能性がある。
1
風力発電や太陽光発電といった新たなエネルギー源による発電コ
ストが既存の系統電力の価格(電力料金)と同等になること、もしくは
その境界点となるコストを指す。2009 年末に米国国立再生可能エネ
ルギー研究所が定義した。
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10 年夏特別号
図1 方識別太陽電池パネルの製造コストイメージ
3.市場の区分とパネルの選択方法
(円/W)
300
アモルファスシリコン
太陽光発電市場は、家庭用、業務・産業用、発電プラ
ント用といった用途別のほか、高緯度地方と低緯度地方
などで区分することができる。それぞれの市場の特徴に
対応するための技術要因に加え、イニシャルとランニン
グを含めたトータルコストという経済性要因により、多くの
方式がある太陽電池モジュールの中から適正なモジュ
ールが選ばれる。したがって、太陽電池パネルの方式は、
必ずしも一種類に淘汰・集約されず、設置場所の条件に
応じていくつかの方式が選択されるようになると思われ
る。
たとえば、日本の家庭用市場であれば、屋根の限られ
たスペースにパネルを設置するため、より発電効率が高
いパネルが必要とされており、単結晶や多結晶シリコン
型が有望である。一方で、マンションやオフィスビルにお
いて、側面の窓ガラスを太陽電池にして発電する場合に
は、窓ガラスを半透明にするために薄膜型が採用される
であろう。
4.パネルコストの推移予測
250
244
216
200
CIGS
195
180
150
168
171
ポリシリコン
155
168
147
145
146
139
131
126
100
88
86
85
123
119
117
119
79
77
CdTe
69
109
109
100
106
100
91
64
50
60
0
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
2016 (年)
注)コスト試算の前提
・ NRI が保有する液晶パネルの製造コストモデルを太陽光発電モジュ
ールへカスタマイズした。
・ 原料費は、パネル・原料・装置メーカへのヒアリングにより調査した。
・ 設備投資は、液晶パネルなどの過去の投資行動を参考に、想定さ
れる範囲内で理想的な投資パターンを設定した。
・ 歩留まりや原料コストの下落は、過去の液晶パネルや半導体のデー
タを参考にした。
・ 2009 年のコストは、ヒアリングにより得た市場価格および代表的なモ
ジュールメーカの営業利益率などからシミュレーションモデルを調整
し算出した。
出所)NRI 推計
5.パネルメーカの動向
太陽電池の将来を語るには、パネルのコストがいくらま
で、また、どれだけ早く下がるのかを見通す必要がある。
繰り返しになるが、現在の太陽光発電システムによる発
電コストは、グリッド電源の電力料金に比べてもはるかに
高い。
ここでは、多結晶シリコン、アモルファスシリコン、CIGS、
CdTe の4タイプについて、太陽電池モジュールの製造コ
ストに関するシミュレーション結果を示す(図1)。最もコス
ト競争力が高いのは CdTe である。それ以外のタイプは
まだ十分にコスト競争力を有しておらず、グリッドパリティ
を実現するレベルに達していないが、2014 年頃にはい
ずれもグリッドパリティを実現できるレベルに近づくと予想
される。ただし、ここで示したコスト予想は、製造歩留まり
などの条件を甘めに設定したほぼ理想的なシナリオ条
件に基づいているため、これらのコスト水準を実現できる
のは、各パネル製造のトップグループ企業のみであると
考えてよい。
太陽光発電事業が、世界規模で成長を続けている。
2000 年代前半までは、シャープ、京セラ、三洋電機、三
菱電機といった日本企業がトップグループで、欧米やア
ジアの企業はそれほど大きな規模ではなく、一部のベン
チャーが参入しているといった状況であった。しかし、05
年にドイツが FIT(Feed-In Tariff)制度を導入してからは、
欧米にも Q-Cells、First Solar、SunPower のような大手メ
ーカが育つようになった。ここでは、太陽電池パネルの
主要メーカの動きを整理する。
①シャープ
シャープにおける太陽電池パネル事業の歴史は、
1959 年の研究開発からスタートする。1963 年には量産を
開始し、当初は主に宇宙利用などの特殊市場向けであ
った。現在「液晶のシャープ」というイメージを支える液晶
パネル事業は、太陽電池の製造技術を活用して育成さ
れたという経緯がある。
シャープは、様々なタイプの太陽電池モジュールの開
発を行っている。これまでの主流である多結晶シリコンは
もちろん、単結晶シリコン、薄膜シリコン、有機薄膜、
GaAs(ガリウム砒素)化合物半導体なども開発している。
この中では、薄膜シリコンの事業化を最も積極的に進め
ており、現在、大阪府堺市に製造工場を立ち上げている。
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10 年夏特別号
でのように国営企業から発展した企業とは、事業スタイル
もマネジメントもまったく異なる。事業スタート時は、
Q-Cells のようなセルメーカから太陽電池セルを調達し、
モジュールに受託加工していた。しかし、次第に自前で
もセルを生産するようになり、現在では世界第2位の生
産量を誇る太陽電池メーカに成長している。
リーマンショック以降、モジュールビジネスだけに留ま
らず、太陽光発電システムの供給ビジネスも手がけてい
る。主に、北米市場をターゲットとして考えているようであ
る。日本市場においても、リフォーム事業大手のウエス
ト・ホールディングスや、家電流通大手のヤマダ電機との
提携により、家庭用市場の開拓に注力している。
この工場のキャパシティは、当面 480MW であるが、最終
的には1GW まで拡張される計画である。
②京セラ
京セラは、1975 年から研究開発をスタートし、1979 年
に初めて製品として出荷している。これ以降、一貫して
多結晶型太陽電池を出荷している。京セラは、南米ペル
ーの海抜 4,000m やモンゴルの遊牧地のような無電化地
域への納品が特徴的である。
グローバル展開にも積極的であり、日本は滋賀八日市
工場と三重伊勢工場、中国は天津工場、北米はメキシコ
工場、欧州はチェコ工場と、世界四極体制を構築してい
る。国内は住宅市場、海外は大型発電プラント市場に注
力 し 、 太 陽 電 池 パ ネ ル の 生 産 計 画 を 2010 年 度 は
600MW、2012 年度は1GW に上方修正している。
⑥SunPower
SunPower は、単結晶シリコン型の太陽電池モジュー
ルを主力商品として、積極的な事業展開を図っている。
09 年の出荷実績で世界トップ 10 に入る規模であり、グロ
ーバルに事業を展開している。研究開発はカリフォルニ
ア、生産はコスト削減を狙ってフィリピンでと、自社内で
の分業体制が確立されている。
一方で、市場獲得のためのマーケティング活動も積極
化しており、米国カリフォルニア州最大の電力供給会社
である PG&E の大型太陽光発電プロジェクトに選定され
ているほか、東芝との提携を通じて日本市場にも積極的
に参入してきている。
09 年には、「プラネットソーラー」と呼ばれるプロジェクト
に参加している。このプロジェクトは、船舶の甲板上に
3.8 万個の太陽電池パネルを搭載したシステムを設置し、
太陽光エネルギーだけで外洋を自由に航海できることを
目的としている。
③ソーラーフロンティア
ソーラーフロンティア(旧昭和シェルソーラー)の太陽
電池パネル事業の取り組みも歴史が長く、研究開発を開
始したのは 1978 年である。当時は、シェルグループの脱
石油時代のコンティンジェンシープランの一つとして、昭
和シェル石油として取り組みを始めたといわれている。
1993 年には、(独)新エネルギー・産業技術総合開発機
構(NEDO)から CIS の研究開発を受託し、現在の事業の
基礎を築くことになった。本格的な事業化については、
06 年に昭和シェルソーラー(株)を設立、翌 07 年に宮崎
工場の第1工場、09 年には宮崎第2工場を稼動させて
いる。さらに同年、国富工場の建設計画を発表しており、
2010 年には 400MW のキャパシティを保有する。
④Q-Cells
Q-Cells は、09 年末時点で、世界で最も太陽電池パ
ネルのキャパシティを有するドイツ企業である。事業化ス
タート時は太陽電池セルの生産に特化していたが、川下
のモジュール工程や川上のインゴット、ウェハ生産までバ
リューチェーンを拡大した。この戦略は、原料であるシリ
コンウェハの安定調達および低コスト化対応と、自社へ
の付加価値吸収を目的に積極的に進められた。しかし、
08 年下期以降の急激な太陽電池モジュール、およびポ
リシリコン原料の価格下落により、同社の採った戦略は
裏目に出る結果となり、09 年の営業利益は赤字を記録し
た。
⑦First Solar
First Solar は、CdTe という非常にユニークな太陽電池
を製造・販売していることで有名である。この CdTe は、現
在最もコスト競争力の高い太陽電池モジュールで、1W
当たり1ドルのコストを実現しており、北米の大型発電プ
ラントなどで実績をあげている。太陽電池モジュールの
生産はもともと米国内であったが、さらなる低コスト化を
実現するために、今後はマレーシアのマラッカ拠点での
生産を拡大する予定である。
⑤Suntech
Suntech は、中国最大の太陽電池モジュールを製造
する民間企業である。同社のオーナーは、オーストラリア
の大学に留学・帰国したエンジニア出身者であり、これま
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10 年夏特別号
6.ビジネスモデル
これまで、太陽電池パネル産業は垂直統合モデルを
志向してきた。太陽電池パネルのコスト削減や発電効率
の向上のため、日本ではシャープや京セラが主要原料
であるシリコンインゴット、ウェハの内製化を進めたほか、
パネル事業の安定化のため、海外の発電事業にまで参
入している。海外でも、Q-Cells、Suntech、First Solar、
SunPower が、太陽電池のパネル事業だけでなく川下の
電力発電・売電にも注力を始めている。
しかし一方で、太陽電池パネルも技術的に成熟の兆
しがみえ始めており、液晶パネルや半導体産業のように、
水平分業化する可能性もある。欧米の大手システムイン
テグレーターがコスト競争力に優れる台湾企業から太陽
電池パネルを調達し、欧米の発電プラントや業務・産業
用途のプロジェクトを実施する例も増えてきている。
太陽光発電は、まだ本当の意味で独り立ちした産業
にはなっていない。太陽光発電による発電コストは、グリ
ッド電力の価格にまだ追いついておらず、政府等の各種
補助金制度がなければ存在しえない。したがって、グリッ
ドパリティの早急な実現を目指すことが重要であり、その
ためには、産業のバリューチェーン上のすべての活動で
さらに低コスト化が進まねばならない。
垂直統合モデルも水平分業モデルも、これを実現す
るためのビジネスモデルの一つである。太陽光発電の将
来性に対する見方が前向きになってきた現在、世界中
の多くの企業が関連ビジネスへの参入を進めている。こ
のような事業環境になった場合、原料、部材、パネル、
BOS(Balance of System、システムのうち、モジュール以
外の構成要素を指す)、システムインテグレーション(SI)
などの各分野において、世界規模での熾烈な競争が起
こる。結果的に、今後は垂直統合モデルよりも水平分業
モデルによる低コスト化や事業再編が進むであろう。
な立場を維持するには、サムスンや LG といった韓国企
業や中国、台湾企業のように非常に高いコスト競争力を
持った企業との競争に勝ち抜かなければならない。現在、
先端技術開発力で優れている日本企業は、太陽電池パ
ネルの変換効率や品質管理の高さで勝負しているが、
単位発電量当たりのコストでの勝負を避けては通れなく
なるだろう。そもそも、現在の太陽光発電は通常のグリッ
ド電力に比べて発電コストが高く、グリッドパリティを実現
するには、これまで以上のコスト削減を確実に進めていく
必要がある。
08 年のリーマンショックを契機に、世界の市場は大きく
様変わりした。それまでの先進国中心の市場から、途上
国の市場に重心がシフトしたことにより、市場から求めら
れる商品像が大きく変化している。これまでの日本企業
の強みは、高性能・高品質の製品を安定供給することで
あったが、この強みが今後の世界市場では通用しない
可能性が高い。日本市場での成功体験が、世界の市場
では必ずしも再現されないことを、早急に認識する必要
がある。世界の市場に適した商品やプロセスを開発し、
これに対応した管理・マネジメントシステムを構築・運用
していく必要がある。
図2 グローバル市場で勝つためのモデル
太陽光発電と省エネソリューションを組み合わせた統合インフラシステム
実証実験
再生可能エネルギー
グリッド電源
エンジニアリング
&メンテナンス
太陽光発電
CSP(集光型
太陽熱発電)
地熱
風力
日本企業
世界標準
エコホーム
スマート
グリッド
LED照明
スマート
メーター
Secondly
Battery
電気自
動車
/プラグイ
ンハイブリ
ッド車
エコ家電
海外企業
政府・業界団体
7.激化する国際競争の中での日本企業
半導体および液晶パネル事業で成功した韓国のサム
スンや LG は、太陽電池パネル事業についても、万を期
して、再び日本企業の後追いする形で参入する。1990
年代の液晶パネルの時と同様、今回の太陽電池パネル
に関しても市場の成長性が確実となったことを確認した
上での参入である。05 年に欧州市場が FIT 制度の導入
により急成長したが、09 年の米国の「グリーン・ニューデ
ィール政策」の発表で、両社とも本格的な大規模投資を
決断した模様である。
先行する日本企業が、太陽電池パネル産業で主導的
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世界市場への
普及
10 年夏特別号
《ポリシリコン業界》
需給バランス崩壊後の新たな競争軸の獲得へ
株式会社野村総合研究所 技術・産業コンサルティング部 上級コンサルタント
岩間 公秀
一方、太陽電池セルメーカにとっては、ポリシリコンの
調達が最大の課題となっていた。そのため、太陽電池セ
ルメーカの中には、ポリシリコンを内製している企業も少
なくない。
1.出遅れた日系ポリシリコンメーカ
ポリシリコンとは、太陽電池ウェハに使用される原料で
ある。金属シリコンを多結晶化することによって得られ、
現在、シーメンス法というプロセスが業界標準となってい
る。ポリシリコンは、従来、主に高純度の半導体ウェハの
原料として用いられてきたが、太陽電池市場の急拡大に
伴い、脚光を浴びている。
太陽電池用ポリシリコンを供給している上位企業は、
半導体で実績のある Wacker(ドイツ)、Hemlock(米国)
の2強が占めている。しかしながら、日系の半導体ポリシ
リコンメーカの老舗であるトクヤマ、三菱マテリアルなどの
存在感はほとんどなく、グローバルシェアでは下位に留
まっている。
図2 ポリシリコン価格の推移と今後の予測
500
(US$/kg)
価格
400
スポット価格
長期契約価格
300
200
100
2006年
2007年
2008年
2009年
2010年
2011年
2012年
2013年
出所)NRI 推計
図1 世界の太陽電池用ポリシリコン市場の構成
(2008 年)
太陽電池企業の売上シェア順位の推移(図3)をみる
と、日本企業がここ数年で大きく順位を落としている。一
方で台湾、中国企業が急激に順位を上げている。この
光景は、一見、日本企業が後塵を拝した液晶や半導体
事業と同じような推移にみえる。しかし、太陽電池に関し
ては、迅速な投資判断と技術キャッチアップの要因に加
えて、ポリシリコンの調達力が影に潜んでいる。
三菱マテリアル(日本) 1%
Asia Silicon(亜州硅業)(中国) 1%
Emei Semiconductor(峨眉半導体)(中国) 1%
その他
7%
Wacker(ドイツ)
15%
Sichuan Xinguang Silicon(四川新光)(中国) 2%
Beconcour(Timminco)(カナダ) 3%
GCL Silicon(香港) 3%
トクヤマ 4%
Hamlock(米国)
13%
Luoyang Zhonggui
(洛陽中硅) 5%
Dow Corning
(オーストリア) 7%
エム・セテック(日本/台湾)
11%
図3 太陽電池企業の売上シェア順位の推移
OCI(DC Chemical)
8%
(韓国)
9%
10%
MEMC(米国)
REC(ノルウェー)
出所)NRI 推計
2.戦略調達に失敗した日系太陽電池企業
ポリシリコン市場は、スペインバブルが崩壊した 2008
年上半期まで供給不足が続き、需給が逼迫していた。
2000 年代以降、FIT(Feed-In Tariff)を導入した欧州諸
国が需要を大きく牽引する一方で、供給側のポリシリコン
メーカの参入企業が少なかったからである。そのため、
ポリシリコン価格は 300 ドル/kg 以上の高値で取引されて
いた(図2)。
売上順位
2005年
2006年
2007年
1
Sharp
Sharp
Q-Cells
2008年
Q-Cells
2
Q-Cells
Q-Cells
Sharp
First Solar
3
Kyocera
Kyocera
Suntech
Suntech
4
Sanyo
Suntech
Kyocera
Sharp
5
三菱電機
Sanyo
First Solar
Motech
6
Schott Solar
三菱電機
Motech
Kyocera
7
Suntech
Motech
Sanyo
Suntech
8
Motech
Schott Solar
SunPower
JA Solar
9
Isofoton
SunPower
Suntech
SunPower
10
Shell Solar
Isofoton
Deuch Solar/
Solar World
Deuch Solar/
Solar World
出所)資源総合システムの資料をもとに NRI 作成
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10 年夏特別号
シェアを急速に上げたアジアの太陽電池企業は、大
手ポリシリコンメーカと長期供給契約を締結することによ
り、ポリシリコンの調達を優位に進め、ここ数年の欧州の
太陽電池バブルにうまく乗じた。一方、日本の太陽電池
企業は、戦略的な調達に失敗し、08 年のスポット市場の
価格高騰の際は相当に苦しめられた。
4.激化する国際競争の中での日本企業の
打ち手
3.需給バランスの崩壊と中国の資源政策
これまで需給が逼迫していたポリシリコン市場であるが、
スペインバブルの崩壊と金融危機が相まって、現在は需
給バランスが崩壊し、一気に供給過剰となった。中国な
どの新興企業の後発参入が相次いだことも大きな要因
である。現在、70 社以上の中国企業が乱立しているとも
いわれ、ポリシリコンメーカとして名乗り出ている企業数
は、グローバルで 100 社程度あるとみられている。
この需給バランスの崩壊によるポリシリコンメーカへの
大打撃もさることながら、中国企業の相次ぐ後発参入は、
別の意味で日本企業にとっては脅威となる。それは、ポ
リシリコンの原料である金属シリコンの争奪戦になる可能
性をはらんでいるからである。
現在、日本企業は金属シリコンの約 80%を中国から
調達している。その他、豪州、ブラジル、南アフリカ、ノル
ウェーからも輸入しているが、コスト競争力と地の利の面
で中国への依存度は大きい。そのため、今後、中国のポ
リシリコンメーカの能力が高まり、中国の内需が拡大する
に伴い、日本企業は金属シリコンの安価で安定した調達
が難しくなる危険性がある。さらに、金属シリコンは光ファ
イバーの用途にも使われるため、中国の光ファイバー市
場の行方によっては、金属シリコンの調達難がまぬがれ
ない事態となる。
すでに中国政府は、この金属シリコンの原料に対して、
日本企業にとっては極めて不利な政策を打ち出してきて
いる(図4)。まさに、レアメタルの政策で世界各国を混乱
の渦に巻き込んだのと同様な道筋を辿ってきている。一
方で、乱立した中国ポリシリコンメーカの統制に向けて、
参入規制など厳しい条件も新たに設けている。
図4 中国の政策動向
年
2005
【12月】鉄合金業界
の盲目的な拡張と
低水準の重複建設
国内生産
を抑制するため、
『鉄合金業界参入条
件』を実施
輸出
2006
2007
2008
【1月】大部分の鉄合
金を対象にEL制度を
実施開始(Si-Feと金
属シリコンが、対象リ
ストに入っていなかっ
た)
【1月】金属シリコンに
対して10%の輸出関
税を徴収開始
【12月】金属シリコン
の輸出関税を10%
から15%に引き上げ
【10月】金属シリコン
を含む高いエネル
ギー消耗産業に対し
て、差別電力料金の
政策を実施
【5月】金属シリコン
の輸出税還付政策
を取り消し
上記のような競争環境の中で、筆者は、日系ポリシリコ
ンメーカは以下のような取り組みを実施すべきと考える。
①事業構造変革による勝ち組顧客との関係強化
前述のとおり、現在、日本のポリシリコンメーカは、市
場 の 低 位 に 留 ま っ て い る 。 ト ッ プ を 走 る Wacker や
Hemlock と比較すると、1万トン以上の生産能力の差が
生じている。現在の需給バランスが崩壊した状況を考え
ると、安易に能力を増強するのは得策ではない。しかし、
ここで投資を控えるとさらにその差は開き、トップの座を
狙う意欲が失われてしまう。
そこで、革新的プロセスを確立し、インゴットやウェハ
事業への事業領域の拡大を同時に推し進めながら、世
界の有力顧客企業を囲い込むことを、筆者は提案したい。
すでに、世界の大手太陽電池企業の中には、太陽電池
の効率、生産歩留まり向上のため、従来のポリシリコンの
調達から、より品質の高いウェハの大量調達に切り替え
ている企業も出てきている。今後、太陽電池企業の川下
展開が加速するにつれ、川上のウェハ工程をポリシリコ
ンメーカが取り込む余地も大きくなってきている。
②金属シリコンの調達ルートの多様化
日本企業の金属シリコンの調達難を避けるため、今後、
金属シリコンの調達ルートの多用化は最重要な経営課
題である。チャイナ・プラス・ワン戦略の実行、リデュース・
リサイクルによる対処、中国進出等による直接的な原料
確保を伴う海外展開等、複数の戦略オプションが想定さ
れる。中国進出にあたっては、すでに 70 社程度あるとい
われる乱立する中国企業の中で、有力企業とパートナー
シップを構築するという選択肢も想定される。今後は、中
国でも太陽電池市場の成長が期待されるため、資源確
保に加えてエマージングな中国のボリュームゾーン市場
を狙う意味合いも、日本企業にとっては大きいだろう。
③SOG プロセスの本格実現
最後に期待したいのは、潜在的なコスト競争力を持つ
SOG(SOlar Grade Silicon)プロセスによる起死回生の一
手である。つまり、現在の主流であるシーメンス法に代わ
る非連続な工法革新により、コモディティー化が急速に
進むポリシリコン市場を勝ち抜く新たな量産技術を早期
に実現することである。シーメンス法に匹敵する高い純
度と品質のばらつきを抑えられれば、ビジネスチャンスは
大きい。
今こそ、日本企業の技術開発力の底力に大きく期待し
たい。
出所)中国政府発表資料をもとに NRI 作成
- 10 当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
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10 年夏特別号
《フィルム部材業界》
材料技術の優位性で生き残りを目指す
株式会社野村総合研究所 技術・産業コンサルティング部 副主任コンサルタント
中村 圭輔
いえる(図3)。
1.注目を集める部材市場
図2 世界のバックシートの市場規模
太陽電池市場の爆発的な成長に伴って、有望市場と
して注目を集めるのが、それらの構成部材市場である。
本稿では、太陽電池向けのフィルム部材として、封止材
およびバックシートを取り上げる。
封止材は、太陽電池セルを固定し、衝撃から保護する
役割を担っている。一方のバックシートは、太陽電池セ
ルおよび封止材の保護を目的に、ガラスの反対面に貼り
付けられる(図1)。両部材が、モジュールのコストに占め
る割合は、それぞれ2%程度である。
太陽電池の部材は、電池の寿命を左右する重要な部
材と位置付けられており、モジュールと同等に 20~30 年
もの耐久性が求められる。そのため、部材選定において
は長年の実績が重視される傾向がある。また、両部材と
も材料のほとんどが汎用樹脂であるため、原材料コスト
は樹脂相場と連動しており、ユーザからの価格下落圧力
を受けにくい。これらの点が、液晶テレビや半導体などの
部材とは大きく異なる。
(億円)
1,400
1,200
1,000
800
600
400
200
0
2008
2009
2010
2011
2013
2014
2015
2016
2017
2018(年)
図3 世界のバックシート市場の構成(2008 年)
Dunmore(米国)3% その他4%
Coveme(イタリア)3%
SFC(韓国)4%
Isovolta
(オーストリア)
27%
MAパッケージング
(日本) 9%
Madico(米国)
13%
図1 太陽電池モジュールの構造(例)
ガラス
2012
注)2009 年以降は見通し
出所)NRI 推計
Krempel(米国)
14%
太陽電池セル
東洋アルミ
ニウム(日本)
23%
出所)NRI 推計
バックシート
封止材
2.バックシート市場における環境変化
バックシートの市場規模は、2009 年現在、約 400 億円
と推定される。太陽電池モジュールの市場拡大に伴い、
当市場は近い将来 1,000 億円を超える規模に成長する
と予想される(図2)。世界の市場構成をみると、
Isovoltaic(旧 Isovolta、オーストリア)や東洋アルミニウム、
Krempel(米国)、リンテックの子会社である Madico(米国)
などが高いシェアを獲得している。その他にも多くの現
地企業が存在しており、まさに群雄割拠の状況にあると
そして、ここ2~3年の間にバックシート市場へのさらな
る新規参入の波が国内外で押し寄せている。最近新規
参入を行った企業は、日本だけでも東レ、三菱樹脂、凸
版印刷、大日本印刷などがある。その背景として、主に2
つの要因が考えられる。1つ目は、技術的難易度が低い
ことである。バックシート技術は、食品や日用品の包装材
向けに複数のフィルムを張り合わせるラミネート技術から
展開されたものであり、ラミネート技術を保有する企業は
多数存在する。また、設備投資も小規模で済むため資
金力の乏しい中堅企業でも参入が可能である。2つ目は、
いまだ底知れない太陽電池市場がもつポテンシャルへ
の期待感である。太陽電池市場については様々な予測
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10 年夏特別号
がなされているが、各国の政策次第で、そのポテンシャ
ルはいくらでも大きくなり得る。したがって、部材の需給
関係が逼迫すれば、またとない事業拡大のチャンスとな
る。
バックシートは、使用するフィルム基材により PVF(ポリ
フッ化ビニル)系と PET(ポリエチレンテレフタラート)系の
2つのタイプに大別される。前者は耐久性が高いフッ素
樹脂を使用し長年の実績を有している一方で、基材の
PVF フィルムは Du Pont(米国)の Tedlar という製品が市
場を独占しており、価格と安定供給に問題を抱える。そ
れに対し、PVF 系を代替すべく日本企業を中心に開発
されたのが、基材にも PET フィルムを使用する PET 系で
ある。PET 系は、PVF 系に比べて圧倒的な低コストを実
現したものの、実績面で劣るため、採用はまだ日本のモ
ジュールメーカに留まっているというのが現状である。現
在 PET 系の比率は、2割程度と推定される。
09 年は Tedlar の供給不足を不安視する声も多く聞か
れ、いよいよ PET 系による代替が進むかと思われたが、
2010 年に入り、Du Pont が Tedlar の増産を発表した。ま
た 、 PVDF ( ポ リ フ ッ 化 ビ ニ リ デ ン ) な ど の 新 規 部 材 も
Tedlar の代替を狙っており、バックシートのデファクトスタ
ンダードを巡る争いは今後も続くとみられる。
図5 世界の封止材市場の構成(2008 年)
サンビック(日本)
13%
その他
5%
三井化学ファブロ
(日本) 25%
ETIMEX
(ドイツ)
15%
STR(米国)
19%
出所)NRI 推計
しかし、寡占化が進んでいたこの封止材市場にも、近
年新規参入が相次いでいる。日本企業では、シーアイ
化成、クラボウの他、凸版印刷や大日本印刷、積水化学
のようにバックシートと併せて参入を試みる企業もある。
相次ぐ新規参入に加え、大手各社も大幅な増産計画を
発表しており、今後封止材が供給過多に陥る可能性も
懸念されている。
封止材は、その役割から、透明性、柔軟性、接着性な
どの特性が求められる。材料は、現在 EVA(エチレンビ
ニルアルコール)が主流であるが、EVA 以外の樹脂を使
用した封止材の開発も積極的に行われている。その代
表例が PVB(ポリビニルブラチール)封止材であり、PVB
樹脂メーカでもあるクラレや Solutia(米国)が積極的なマ
ーケティング活動を行っている。PVB 封止材の中には、
Oerlikon(スイス)や AMAT(米国)などのターンキー装置
メーカからの推奨を受けているものもある。新興メーカの
台頭やターンキー装置の普及に伴い、PVB 封止材もあ
る程度のシェアを占めるまでになると予想される。
また、PVB 以外にも、アイオノマー系、ウレタン系、ス
チレン系などの様々な封止材が提案されている。しかし、
「EVA が安価な汎用樹脂であること」、「EVA の需要のう
ち封止材が占める比率が1割程度に過ぎず、調達面で
の不安がないこと」を考慮すると、今後もやはり EVA 封止
材が主流であり続ける状況は変わらないであろう。
日本企業は、さらなる低コスト化を目指して、封止材と
バックシートの機能を併せ持つ複合部材の開発も進めて
いる。セル・モジュール市場では、日本企業は苦戦を強
いられている。部材市場においても、国内企業は、材料
技術での優位性を活かして、欧米や新興国の有望顧客
も獲得しグローバルで勝ち残っていけるかどうかの正念
場を迎えている。
3.封止材市場における環境変化
封止材の 09 年の市場規模は約 350 億円であるが、バ
ックシート市場と同様、今後確実な成長が見込まれる(図
4)。また、封止材市場は上位5社で9割以上のシェアを
占めており、バックシート市場に比べ寡占化が進んでい
る。これは封止材がモジュールそのものの性能に関わる
部材ゆえに、バックシートよりも技術的障壁が高いためと
考えられる。当市場では、三井化学ファブロ、ブリヂスト
ン、サンビックといった日本企業の健闘がしており、加え
て STR(米国)、ETIMEX(ドイツ)といった欧米メーカが高
いシェアを誇る(図5)。
図4 世界の封止材の市場規模
(億円)
1,400
1,200
1,000
800
600
400
200
0
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
2016
2017
ブリヂストン
23%
2018 (年)
注)2009 年以降は見通し
出所)NRI 推計
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10 年夏特別号
《モジュール業界》
川下を制す企業が市場を制す
株式会社野村総合研究所 技術・産業コンサルティング部 主任コンサルタント
前田 佳宏
2.PPA 事業参入の薦め
1.コモディティ化が進む太陽電池
モジュール
モジュールのコモディティ化によって、日系モジュール
メーカは、モジュール事業以上に大きな事業規模やキャ
ッシュフローを期待できる川下市場に、新たな付加価値
を見出すことが不可欠となってきた。川下市場において、
日系モジュールメーカの強みを発揮できる事業の一つ
に PPA(Power Purchase Agreement)事業がある。太陽
光発電市場において、政府の助成金や売電収益など大
半のプロフィットを享受しているのは、まさに川下の PPA
事業者である。
日系モジュールメーカの強みとは、品質の高いモジュ
ールを生産できることに加えて、巨大コングロマリット企
業しか持ち得ない資本力、信用力を保有していることで
ある。一部の中国系メーカも、最近になってモジュール
品質を改善してきている。しかし、太陽電池専業メーカで
あり、コングロマリット級の日系メーカと比較すると、資本
力や信用力に劣る(図1)。PPA 事業においては、この資
本力や信用力によって可能となるファイナンス能力が重
要となる。ファイナンス能力とは、強大な資本力を利用し
て大型太陽光発電プロジェクトへ出資へする、あるいは
強固な信用力を利用して大口投資家や融資を行う銀行
を集める能力のことである。
シャープ、京セラなどの日系モジュールメーカが世界
の太陽光発電市場を席巻していた時代がある。しかし、
最近では、中国系モジュールメーカが、さらなる低コスト
化のみならず品質の向上を図っており、世界のモジュー
ル市場で台頭しようとしている。日系モジュールメーカが
再び勝ち組に返り咲くためには、最大の競合となり得る
中国系モジュールメーカについて深く分析を行い、新た
な事業戦略の構築を行うことが不可欠となろう。
FIT(Feed-In Tariff)の導入により、ドイツ市場および
地中海市場が急激な立ち上がりをみせてから、チャンス
を逃すまいと、数十を超える中国系モジュールメーカが
こぞって欧州市場向けの売上を拡大した。しかし、品質
の悪化が露呈し、さらに金融危機の影響で太陽光発電
市場が冷え込んだことから、多くの中国企業が市場から
淘汰された。このような逆風の環境の中でも、Suntech、
Trina などの有力企業は生き残り、現在では世界の太陽
光発電市場の中でトップレベルの競争力を誇るまでとな
っている。その背景には、品質に追随してきた中国企業
の、日本企業に比べたコスト競争力の高さがある。この
理由としては、人件費や調達する部材の安さ、日本より
も低い実行税率、中国政府の補助などの要素が考えら
れる。
太陽電池モジュールは、もはや技術による差別化が
難しくなっているため、上記のように固定費・変動費をい
かに安くできるかが勝負の分かれ目になってくる。また、
中国政府独自の優遇策などもあり、日系モジュールメー
カは、Suntech など中国モジュールメーカに勝つ術を見
出せない状況まで追い込まれているといっても過言では
ない。このコモディティ化の流れの中で、日系モジュール
メーカの再逆転の戦略を次章で論じる。
図1 海外と日系モジュールメーカの資本力の比較例
会社名
海外モジュール
メーカA社
日系モジュール
メーカ(推計)
総資産
2.50
20~100
1243.65
771.46
539.31
純資産
1.2
10~40
86.97
34.47
28.07
現金及び現金等価物
0.7
5~15
283.71
175.20
10.11
投資額
0.2
2~5
71.79
4.47
-13.94
Wells Fargo
Morgan
Stanley
MetLife
税引き前利益
0.05
0.05~0.1※2
18.00
0.86
-4.33
法人税
0.02
0.01~0.05※2
5.33
-0.34
-2.02
税率(%)
47.00
40.00
29.61
-39.53
46.65
0.02
1~5
2.85
1.35
-2.37
当期利益
注)※1:全て 09 年度のデータ、※2:米国での収益の推定値
太陽光発電市場は、住宅などの小型用途から、大型
の業務・産業用途および発電プラント用途に軸足をシフ
トしつつある(図2)。大型の業務・産業用途、発電プラント
用途は規模が大きいため、電力消費者がアセットを保有
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10 年夏特別号
2)PPA 事業への参入
SIer 買収後は、本格的に PPA 事業への参入を目指す
(図4)。日系モジュールメーカの PPA 事業参入のメリット
は、次の2つに尽きる。
① コスト競争力のある中国系モジュールメーカ等との
競争から逃れること
② キャッシュフローの最大化を目指すこと
できるケースは少なく、第3者の PPA 事業者から電力を
購入するケースが大半である。つまり、太陽光発電市場
の大半が PPA 市場にシフトしていく。
図2 米国北東部の業務・産業市場の推移例
2009年
2011年
2013年
超大型Commercial
図4 PPA 事業への参入イメージ
大型Commercial
500kW~2MW
モジュール
小中型Commercial
50~500kW
Development ~ EPC
Structured Finance
Finance アレンジ
PPA契約取次ぎ
PPA事業参入
日系モジュール
メーカー
Structured Finance
Finance アレンジ
PPA契約取次ぎ
Asset Own
売電
3.早急な川下展開の必要性
この数年間で、欧州太陽光発電市場は急拡大し、米
国の同市場はまさに今爆発的な成長を遂げようとしてい
る。しかし、両市場ともにいまだ黎明期~成長前期の範
囲に留まっており、今後成長後期に移動するにしたがい、
業界再編が進むと思われる。強者が弱者を吸収し、まさ
に強者がドミナントな状況を築くと思われる。
前述の通り、今後は大型の業務・産業用途、発電プラ
ント用途が急拡大する。しかしながら、大型用途に対応
できる川下プレーヤー(SIer)は限定される。そのため、
日系モジュールメーカとしては、欧米メーカがこれらの
SIer を囲い込む前に、SIer の早急な買収活動を行う必要
がある。さもなければ、好条件の買収候補企業がなくなり、
強者連合の一角を築くことが難しくなる。
今こそ、日系モジュールメーカは、太陽光発電市場全
体を俯瞰し、海外の競合プレーヤーが保有し得ない強
みを十分に発揮することができる新たな事業展開に向け
た早急なアクションを起こす時にきている。日系モジュー
ルメーカの今後の活躍を祈って止まない。
図3 SIer の買収
Development ~ EPC
電力
消費者
①を実現するための条件は、できる限り多くの出資を
日系モジュールメーカ自らが行うことである。第3者の投
資家は高い利回りを要求するため、初期投資が低減で
きる中国系モジュールメーカのモジュール利用を要求す
るケースが多い。日系モジュールメーカ自ら出資すること
により、そのハードルレートを気にすることなく、ある程度
自社内でコントロールを行うことが可能となる。また、自ら
出資することにより、その額に応じた巨額な配当を数年
にわたって享受することが可能となる。この配当額は、モ
ジュール事業、SI 事業のキャッシュフローと比較して、相
当大きな額となる。太陽光発電事業者として勝ち組に入
るために、このキャッシュフローを獲得しない手はない。
1)システムインテグレーション機能の保有
システムインテグレーション(SI)機能とは、主に EPC
( Engineering 、 Procurement 、 Construction ) お よ び
Development(案件開拓)を指す。SI 機能の保有のため
には、システムインテグレーター(SIer)の買収(図3)が効
果的である。SIer 買収の最大の目的は、SIer の中間マー
ジンを省くことにある。SIer のオーバーヘッドを日系モジ
ュールメーカが負担できるため、より大きな中間マージン
の削減に繋がる。
モジュール
電力消費
PPA
日系モジュールメーカー
これからの太陽光発電市場において、日系モジュー
ルメーカが存在感を高め、マーケットシェアの奪回を図る
には、強みを発揮でき、今後市場規模が急拡大する
PPA 市場においてドミナントプレーヤになる必要がある。
PPA 事業として複数のスキームが考えられるが、それ
以前に PPA 事業に先んじて行うべき日系モジュールメー
カとしての事業展開がある。
Asset Own
電力消費
SIer
SIer買収
また、日系モジュールメーカのバイイングパワーを利
用することにより、インバータなどの主要部材を低コスト
で調達することが可能となる。1章で述べたように、日系
モジュールメーカは中国系モジュールメーカに迫るモジ
ュールのコスト低減が難しい状況にきている。そのため、
モジュール単体でのコスト削減に向けた努力を行うと同
時に、太陽光発電システムとしてのコスト削減を行う必要
がある。
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10 年夏特別号
《インバータ業界》
変換効率だけでは勝ち残れない
株式会社野村総合研究所 技術・産業コンサルティング部 主任コンサルタント
加福 秀亙
に際しては実績が重視されるため、この分野で製品を供
給できているのは重電メーカや一部のインバータ専業メ
ーカに限られている。また、家庭用の小型インバータは、
モジュールメーカの顧客に対する影響力が強いため、イ
ンバータメーカが直接顧客に販売することが難しく、代
理店ビジネスになりがちな市場である。しかし、今後北米
を中心に急速に拡大する可能性がある大規模システム
市場では、システムインテグレータがインバータ単体での
選定を行うため、インバータメーカ自身がインバータビジ
ネスの主導権を握ることが可能である。そのため、現在、
大規模システム向けのビジネスに、インバータメーカの
注目が集まっている。
1.太陽光発電インバータ市場
1)太陽光発電システムにおけるインバータの
位置づけ
太陽光発電システムにおいて、最大のコストはモジュ
ールコストであり、システムコスト全体の約半分を占める。
それに対して、インバータが占めるコストは全体の7%程
度であり、一見するとそれほど大きくはない(図1)。しか
し、コモディティ化したモジュールや技術的差別化が困
難な架台、ケーブル類等と比較すると、インバータは技
術やサービス(メンテナンス体制、保証体制等)による差
別化が可能な分野であり、企業の戦略的な取り組みや
努力によって、競争優位が確立できる市場といえる。
また、太陽光発電システムにおける現状のインバータ
コストを 32 セント/W とすると、太陽光発電インバータ市
場は 2020 年には 172 億ドルの市場規模になると想定さ
れる。今後、太陽光発電市場が世界的に拡大するに伴
い、インバータメーカにとっては、世界市場を見据えた戦
略的な取り組みが必要となる。
3)インバータの大型化
太陽光発電システムの中でも、発電所のような大規模
システムとなると、機関投資家主導のビジネスとなり、投
資対効果が重視される。つまり、太陽光発電システムの
W 当たり単価の低減圧力が強くなる。そのため、とくに大
規模システムの分野では、モジュールのみならず、イン
バータにおいても、W 当たり単価の下落を狙った大型化
が進行している(図2)。
図1 メガソーラを想定した場合の W 当たりコスト構造
図2 大型化に伴うインバータの W 当たり単価の下落
コスト(USドル)
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
3.5
4.0
4.5
5.0
30
2.02
モジュール
0.32
0.53
0.28
インバータ ラッキング BOS注
0.82
0.20 0.12
マージン
労働
設計
インバータ単価(¢/W)
25
注)Balance of System:ここでは、ケーブル類、変圧器、スイッチギアな
どを含んだ周辺機器を指す
出所)NRI 推計
20
15
10
5
0
250kW
500kW
1MW
インバータサイズ
出所)NRI 推計
2)インバータの市場セグメント
太陽光発電システムの規模によって、使われるインバ
ータの製品は大きく異なる。たとえば、家庭用システムの
場合は、数 kW 規模のインバータが主流であるが、MW
を超える大規模システムの場合は、主として 250kW や
500kW のインバータが使われている。とくに、大型インバ
ータでは高い技術力が求められ、顧客のインバータ選定
欧州太陽光発電市場が立ち上がった 07 年頃は
250kW が主流であったが、現在の主流は 500kW であり、
MW サイズのインバータも開発されつつある。ただし、大
型化しすぎると、高価な高圧 DC ケーブルが必要になる、
故障時のリスクが増す、システム低負荷時のインバータ
- 15 -
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10 年夏特別号
変換効率が下がるなどの問題も生じるため、今後は大型
化の動きも緩やかになるとみられる。
2)インバータ事業の KFS
インバータ事業の成功要件(KFS)は、メンテナンス体
制である。しかし、太陽光発電システムの中で最も複雑
な機器であるインバータで成功するためには、高い品質
とその保証も重要となる。
品質について変換効率は無論のこと、各国の電力イ
ンフラに適合させるシステム設計力も重要となる。また、
インバータの設置から5年以内に起きる初期故障の多く
が、据付時の問題であることが分っている。そのため、自
社のインバータの設置工事を高いレベルで実現できる
有能な協力企業を囲い込むことや、協力企業に対する
教育を行い設置時の品質を高めていく努力も重要とな
る。
このような製品品質の努力のみならず、保証体制も重
要である。インバータの保証には、「製品保証」、「メンテ
ナンス保証」、「稼動率保証」の3種類が存在するが、とく
に重要なのは、太陽光発電の売電利益に直結する稼動
率保証である。たとえば、Xantrex の場合、ユーザがイン
バータの稼働時間を 97.5%、98%、99%の3段階から選
択でき、保証した稼働率を下回った場合は、ペナルティ
として売電単価×ダウンタイムの分の補償金がユーザに
支払われる仕組みが設けられている。このダウンタイムの
測定は、インバータ稼動のモニタリングサービスによって
計測するため、インバータメーカにとってはモニタリング
サービスの展開も必須となる。
2.太陽光発電インバータメーカと KFS
1)メーカシェアと業界構造
太陽光発電インバータの世界トップシェア企業はドイ
ツの SMA であり、約 40%の世界シェアを有している。2
番手は Fronius(オーストリア)、3番手は KACO(ドイツ)
であり、欧州メーカが強い業界となっている(図3)。
インバータは、太陽光発電システムの中で最も故障頻
度が高いコンポーネントであり、モジュールなどと比較し
て、定期的なメンテナンスを要する。また、故障時には可
能な限り短時間で修理や交換を行い、太陽光発電シス
テムのダウンタイムを短縮して損失を防ぐ必要がある。そ
のため、システムインテグレータがインバータを調達する
際には、メンテナンス体制を非常に重視し、24 時間以内
での故障対応を要求することが多く、インバータメーカの
信頼性に基づいた調達を行う。このような中で、太陽光
発電インバータシェアトップの SMA は、インバータを販売
している国において自前のメンテナンス網を構築してお
り、顧客に対して安心感を売って自社の参入障壁を築い
ている。
これまでの太陽光発電市場の大部分は欧州が占めて
おり、そのため、必然的に太陽光発電インバータメーカ
も欧州企業のシェアが高くなっていた。しかし、今後は北
米市場の成長が加速するとみられることから、北米のイ
ンバータメーカである Xantrex や Satcon などがシェアを
伸ばす可能性が高い。Xantrex を有望視するフランスの
重電メーカ Schneider は、08 年 10 月に Xantrex を買収し
た。北米市場を狙う Schneider にとって、Xantrex の持つ
メンテナンス網を得られたことは非常に強みとなる一方、
Xantrex は Schneider の販売・メンテナンス網を使った世
界展開が可能となり、相互にメリットのある買収となった。
3.日本企業の欧米市場参入のための条件
現在の太陽光発電市場の大半を占める欧州市場と今
後の伸びが期待される米国市場に、日本のインバータメ
ーカが参入するためには、営業・メンテナンスチャネルと
顧客からの信頼を得るブランドが不可欠である。とくに、
欧米市場で知名度が低い企業が、欧米にリソースがな
い中で市場に参入することは、非常に困難である。よっ
て、日本のインバータメーカが、欧米市場に参入するた
めには、欧米企業との提携や欧米企業の買収を図ること
が重要となる。
現時点では、シェア上位のインバータメーカの多くが
自国主体に事業を展開しており、世界展開ができている
企業はわずかである。このような状況で、欧米企業と日
本企業が手を結べば、両者の間に地域的な営業・メンテ
ナンスチャネルや製品の補間関係を築きやすい。
これからの日本企業には、「技術的な差別化で競争す
る」という発想に捉われず、顧客が満足・安心するメンテ
ナンス体制といった、製品以外の品質や保証契約の実
現をも十分に検討した上で、ビジネスを展開することが
望まれる。
図3 世界の太陽光発電インバータ市場の構成
(2008 年)
その他19.7%
SMA(ドイツ)
40.0%
OutBack(米国) 0.4%
Voltwerk(ドイツ) 2.1%
Siemens(ドイツ) 5.3%
Xantrex(米国) 7.0%
Sputonik(スイス)
8.2%
8.4%
KACO(ドイツ)
9.0%
Fronius(オーストリア)
出所)NRI 推計
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10 年夏特別号
《蓄電池業界》
大量普及の鍵は系統安定化技術が握る
株式会社野村総合研究所 グローバル戦略コンサルティング部 主任コンサルタント
重田 幸生
大型の蓄電池では、日本ガイシが製造・販売する NaS
(ナトリウム・硫黄電池)がコスト・実績ともに最も先行して
おり、アブダビ、米国、フランスなどで実証試験が進めら
れている。スマートグリッド時代に注目される蓄電池技術
の一つである。欧米や中国では、大規模な蓄電技術とし
て、蓄電池以外にも、圧縮空気(岩塩の採掘後などの地
下の空洞部にコンプレッサーを使用して空気を圧入して
エネルギーを蓄える方法)や揚水発電なども検討されて
いる。
さらに、最近では、リチウムイオン電池(LIB)を自動車
で使用するための研究開発が活発で、日本、韓国、中
国、米国、欧州で新興企業も含めた熾烈な開発競争が
行われている。電気自動車では電池価格は 250 万円程
度ともいわれており、電池の価格が自動車価格全体の
半分程度を占める。普及に向けては、電池価格を現在
の 1/5 程度に下げなくてはならないと考えられている。そ
のために、素材や構造など、既存の LIB(ノート PC や携
帯電話など)とは大きく異なる系での電池開発が進めら
れている。自動車用 LIB は、これまでの携帯機器向けに
開発されてきた LIB とは異なり、大型、長寿命の電池で
ある。そのため、開発企業の多くは、用途の展開先として
定置用(系統安定化用途および負荷平準化用途)を視
野に入れている。
LIB は、NaS と比較すると容量サイズが比較的小さい
ため、発電所や大型の変電所への併設は難しいものの、
住宅などに設置することは十分に可能である。一方、
NaS はヒータなども必要であるため、家庭設置の小型化
は難しい。
1.太陽電池本格普及期における電力系統
安定化の必要性
太陽光発電は、日本のみならず世界的な需要の拡大
が見込まれ、本格的な普及期に入ると予想されている。
太陽光発電が大量に既存の系統システムの中に組み
込まれると、天候に発電出力が左右されることから、発電
出力と負荷のバランスを取るために、蓄電池などの系統
安定化のための措置が必要となる。風力発電でも同様
な課題がある。
系統安定化は、主に、安定化しなければならない時間
幅から、短周期変動対応と長周期変動対応に分けられ
る。短周期変動対応は、10~20 分程度の新エネルギー
の発電出力の変動幅を抑えることであり、長周期変動対
応は、一日でみて、電力の需要の低い時間帯から高い
時間帯に蓄電された電力を融通する“ピークシフト”を行
うことである(図1)。
図1 短周期安定化と長周期安定化
出力
出力
短周期
長周期
安定化後
安定化前
時間
時間
系統安定化のための有望技術として蓄電池がある。
様々な技術が検討されているが、設置場所によって各蓄
電技術には得手不得手がある(図2)。
2.時間帯別料金導入家庭における蓄電池
設置ニーズ
図2 蓄電池の設置場所と技術
発電
蓄電技術
送電
・揚水発電
・圧縮空気
変電所
配電所
NRI が、過去に複数回実施した消費者に対するグル
ープインタビューやアンケート調査から、とくに時間帯別
料金(TOU:Time Of Use)を利用している消費者は、10
年程度で回収できる初期投資であれば、ある程度高額
でも自宅に蓄電池を設置したいと考えていることがわか
需要家
・NaS
・LIB
・レドックスフロー ・NiMH(ニッケル水素電池)
・フライホイール
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10 年夏特別号
台頭により、三洋電機を除く日本勢はシェアを落とし、厳
しい競争を強いられている。
自動車とその後に続く定置用の市場が日本で先行的
に開花すれば、日本の LIB メーカにとっては海外勢との
競争で一歩先行できる可能性がある。すでに、米国では
定置用蓄電池に対する補助金の検討も進めてられてい
るようであり、素材産業から強みを持つわが国 LIB 産業
の育成の視点が重要であるといえよう。
った。TOU を契約している消費者は、電気料金に対する
感度が非常に高い。価格の高い昼間には電化製品の使
用を控え、夜間になるべく使用するように心がけており、
時間を気にせずに電気を使いたいというニーズは強い。
そこで、安価な夜間の電力を昼間に使えるようになる家
庭用蓄電池は、非常に魅力的な商品に映る。
たとえば、家庭に 10kWh の電池を設置し毎日充放電
を繰り返すと、TOU の昼夜間の料金差を 15 円/kWh と
仮定すれば、年間で約 5.5 万円の電気代削減につなが
る。10 年間で回収するとすると、55 万円の設備であれば
購入可能となる。直流電源である電池を交流負荷である
家庭につなぐにはインバータが必要になるが、その費用
を加味しても、将来の自動車用電池価格であれば可能
な出費である。
3.家庭への蓄電池導入可能性
家庭に蓄電池が導入されることで、消費者のみならず、
関連企業にとってもいくつかのメリットが想定される。
①LIB 関連産業に対する新市場の創出
現在の TOU を前提として、消費者アンケートから導い
た弊社の市場規模予測では、定置用(家庭用など)は
2020 年に 5,000 億円規模に成長する(図3)。約1兆円で
あった 09 年の LIB 市場の半分の規模の市場が創出され
る。また、自動車用電池で開発した製品を転用するなど
の相乗効果が得られる可能性もあり、LIB メーカにとって
は魅力的な市場であるといえる。
4.家庭への蓄電池導入に向けて
太陽光発電普及期には系統安定化のための措置が
必要となり、蓄電池も一つの手段である。蓄電池は様々
な場所に設置されうるが、家庭への設置は、消費者ニー
ズに加え、他産業との関連、わが国国際競争力の向上、
CO2 排出量削減などの観点からも意義があると考えられ
る。しかし、家庭への蓄電池の導入は、制度や規制次第
でその将来像が大きく変わってしまう。消費者は、あくま
で現在の TOU 制度を前提として、家庭に対する蓄電池
の導入を前向きに考えている。また、10 年回収のための
蓄電池システムの目標価格も、同様に現在の TOU 制度
を前提にしている。蓄電池導入家庭に対する制度変更
や法規制の強化などが生じた場合には、家庭に蓄電池
が導入されなくなる場合もある。
官民が共同で、様々な観点から家庭への蓄電池導入
の意義やリスクを検討し、制度や規制の方向性を示すこ
とが望まれる。
図3 LIB の市場規模予測
(億円/年)
45,000
40,000
35,000
30,000
定置用
25,000
自動車用
20,000
民生用
15,000
10,000
5,000
0
2009年
③低コスト・低 CO2 排出量の発電設備の実現
将来的な話であるが、家庭において蓄電池が積極的
に活用されると、最も低コストで低 CO2 排出量の発電設
備の運転が実現される可能性がある。これは、とくに、電
力需要が増加する国においては、社会インフラの効率
的な整備や運用につながるため、重要な観点である。こ
のためには、消費者に蓄電池を利用してもよいと感じる
料金上のインセンティブとを示し、スマートメータの普及
による発電と蓄電の連系を図ることが必要となる。
CO2 排出量の削減は、国や地域の電源構成により異
なるが、日本の場合、昼間と夜間の排出係数はそれぞ
れ 0.462kg-CO2/kWh、0.435kg-CO2/kWh と試算されて
いる1。320 万世帯が 10kWh 分だけ電力消費を夜間にシ
フトすることで、31 万トン分の CO2 排出量の削減効果が
見込まれる2。
2020年
出所)NRI 推計
②わが国電池産業の国際競争力の向上
携帯機器用 LIB は、1991 年にソニーによる実用化以
来、パナソニック、三洋電機など日本勢が高いシェアを
維持してきた。しかし、近年サムスン SDI(韓国)、LG 化
学(韓国)、BYD(中国)、Lishen(中国)などの海外勢の
1
2
環境省 「温対法に基づく事業者別排出係数の算出方法等に係
る検討会」 2009 年 3 月 27 日
資源エネルギー庁 「低炭素電力供給システムに関する研究会」
2009 年 5 月
- 18 当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
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10 年夏特別号
《製造装置業界》
装置単体ビジネスモデルからの脱却へ
株式会社野村総合研究所 技術・産業コンサルティング部 主任コンサルタント
加福 秀亙
1.太陽電池製造装置市場
1)太陽電池製造装置の概要
太陽電池産業は、規模を追求した典型的な設備投資
産業であり、日本企業よりも欧米企業が強い領域である。
以下、太陽電池製造装置市場の概要を述べた後に、日
本の装置メーカへの提言を行う。
太陽電池の製造工程は、「前工程」と「後工程」の二つ
に大別できる。このうち、後工程は結晶系と薄膜系でほ
ぼ同じである(図2)が、前工程は太陽電池の種類に依
存する。具体的には、結晶系の場合、インゴットからセル
配線の半田付け部分までを指し(図1(a))、薄膜系の場
合はガラスの投入から成膜を行い、双方で使う装置は異
なる(図 1(b))。
図1 太陽電池製造の前工程と装置
(a)結晶系太陽電池
インゴット
インゴット 拡散材
スライス 塗布
ワイヤー 塗布機
ソー
拡散
拡散炉
電極
印刷
焼成
スクリーン 焼成炉
印刷機
半田
付け
ハンダ機
(b)薄膜系(タンデムセル)太陽電池
ガラス
TCO
成膜
スパッタ
装置
表面
電極
形成
μc-Si
成膜
Plasma
レーザー
スクライバー -CVD
装置
a-Si
成膜
Plasma
-CVD
装置
裏面
電極
形成
トリミング
レーザー
レーザー
スクライバー トリミング
装置
図2 太陽電池製造の後工程と装置
配線
接続
配 線機
シート
レイ
アップ
ラミ
ネート
外観
検査
配線機 ラミネータ 外観検
キュア炉 査装置
トリ
ミング
トリミン
グ装置
端子
ボックス
取付
ガスケット
周辺
・フレーム
シール
取付
取り付
け装置
シール
装置
ガスケッ
ト・フレー
ム取り付
け治具
最終
検査
パネルシ
ミュレータ
EL検査装
置
前工程は、一般に太陽電池の品質(主に効率)に対し
て影響を強く与える工程である。結晶系の場合は、歩留
まりやパネルの製品品質が、投入材料であるシリコンイン
ゴットの品質に大きく依存する。一方、薄膜系の場合は、
成膜装置が製品品質(とくに効率)に最も影響を及ぼす
ため、装置の重要性がより大きい。すでに液晶パネル実
績のあるアモルファスシリコンの成膜とは異なり、タンデ
ム型薄膜太陽電池で成膜されるマイクロクリスタルシリコ
ンの成膜は、まだ実績に乏しい。さらに、成膜速度が遅く
ラインのボトルネックになっており、コスト面からも装置の
差別化が図りやすい。
一方、後工程は、主に製品寿命に大きな影響を及ぼ
す。太陽電池は、20 年以上の長期間にわたって、屋外と
いう過酷な環境にさらされるため、微細なラミネートの欠
陥や配線時の残留応力により、水分の浸入やクラックな
どが発生することもある。そこで、後工程の中でも、ラミネ
ートと検査装置(シミュレータや EL 検査装置)は、太陽電
池モジュールの品質を確保する上で非常に重要な装置
となっている。
2)装置市場の特徴と成功要件(KFS)
日本の太陽電池メーカは、長年の事業により独自のノ
ウハウが培われ、自社でエンジニアリング能力を抱えて
おり、自社独自の工程も保有している場合が多い。その
ため、装置メーカは、顧客ニーズを的確に把握し、顧客
が望む工程に合わせた装置開発が必要となる。
一方、海外のモジュールメーカの多くは新興企業であ
り、通常、自社で製造工程までノウハウを持っておらず、
外部のエンジニアリング能力に頼っている。また、日本と
は異なり、標準的な装置を好む傾向が強い。そのため、
装置メーカは、標準装置を用いたエンジニアリング活動
で顧客のニーズを実現するという、日本の顧客とは異な
るアプローチを必要とされる場合が多い。
さらに、モジュールメーカは、コスト競争力を確保する
ために、装置メーカに対し「ライン稼働率の向上のため
の装置の信頼性向上」や「装置自体の低価格化」を望ん
でいる。したがって、装置メーカは、迅速なサービス体制
の構築や、直販による中間流通マージンの削減が求め
られている。これらを実現するために、装置メーカは商社
などの代理店を通した商売ではなく、自社で構築した販
路とサービス網を使った商売を行う必要がある。
3)装置市場の規模
装置市場は、太陽電池市場の成長率と比例した規模
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10 年夏特別号
となる。つまり、太陽電池市場が一定規模で成長しない
限り、装置の更新需要を除いては、市場は存在しない。
そのため、非常にボラティリティの大きい市場である。
近年、太陽電池バブル崩壊によりパネルメーカの新規
の投資が控えられたため、装置市場は大幅な減少となり、
直近のピークだった 2008 年の水準に回復するのは 2014
年 頃 の 見 通 し と な る ( 図 3 ) 。 そ の 頃 に な る と 、 CIGS
(Cu(In,Ga)Se2)などの技術水準も上がり、市場の拡大が
期待される。新規太陽電池装置の市場もある程度の規
模に達すると予測され、装置メーカとしてはこれらに対応
した装置開発が求められる。
社の製造装置事業とのシナジーを出そうというモデルで
ある。また、Spire は米国市場において政府と強いコネク
ションを持っており、自社の SI 事業で、公共分野の太陽
電池市場を多く取り込めることも強みとなっている。
図4 AMAT と Spire のバリューチェーン上の展開
システムインテグレーション
装置単体
セル・
(ターンキー) モジュール
ライン
材料
前工程 後工程
BOS
EPC
O&M
評価能力
向上
Spire
過去に注力
Spire
R&D中
AMAT
(取り組まない)
検討中
評価能力を持っていることを強みと
考え、材料メーカと共同開発中
図3 系別太陽電池製造装置の市場規模推移
(億円)
6,000
3.日系装置メーカが勝つためのシナリオ
5,000
その他
CIGS(Cu(In,Ga)Se2)
/CIS(CuInS2)
4,000
CdTe
(Cadmium Telluride)
3,000
アモルファスシリコン
2,000
1,000
多結晶
単結晶
0
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015 (年)
注)2009 年以降は見通し
出所)NRI 推計
2.海外装置メーカの動向
08 年時点で、太陽電池製造装置の最大手は米国
Applied Materials, Inc(AMAT)であり、約 800 億円の売
上があったとみられる。AMAT は、薄膜太陽電池のすべ
ての工程を請け負うモデルである。新興の太陽電池パネ
ルメーカに対して、品質や歩留まりを保証する形で製
品・サービスを提供している。08 年に売上が急速に拡大
した理由は、太陽電池の新規参入企業が AMAT を頼っ
て事業を立ち上げようとしたという背景もある。新興企業
が多い太陽電池パネルメーカは、装置単体のみでなく、
ノウハウを含めてラインを提供し、最終的な品質と歩留ま
りを保証するというサービスを強く望んでいる。
一方、米国の後工程製造装置メーカである Spire は、
バリューチェーンの川下のシステムインテグレーション
(SI)事業に参入し、装置事業とのシナジーを出すという
戦略をとっている。具体的には、Spire は北米で業務・公
共、発電市場向け大型太陽電池の SI 事業を行っている。
Spire が SI を行う案件では Spire 自身がパネル調達を行う
が、そこに自社の製造装置の顧客のパネルを優先的に
採用することで、パネルメーカに対して販路を提供し、自
日本のパネルメーカは、かつては世界市場の大半の
シェアを有していたが、現在はドイツや中国をはじめとし
た海外メーカのシェアが年々増加しており、日本メーカよ
りも大規模な投資を実施している。そのため、製造装置メ
ーカにとって、欧米のモジュールメーカへの供給が、今
後事業を拡大する上で必須条件となる。
しかし、すでに欧米装置メーカが欧米のモジュールメ
ーカを囲い込んでいる状態では、日系装置メーカが海
外企業に参入することは容易ではない。また、太陽電池
の製造装置市場は太陽電池の製造キャパシティの増加
分だけの事業であり、今後しばらくは儲かりにくい事業と
なりつつある。さらに、半導体製造装置などと比べて、技
術的な差別化要素も少ないため、日本企業の持つ技術
力を生かすことが難しい市場でもある。以上の点から、日
系装置メーカは、装置単品ビジネスを追求するのではな
く、むしろ、そこから脱却した新たなビジネスモデルを構
築して、先行企業と差別化することが重要となる。
新たなビジネスモデルの一つの方向性がバリューチェ
ーンの拡大であり、装置事業をコアにバリューチェーン
の川上方向、川下方向への展開を柔軟に進めることで
ある。たとえば、川上の領域では、材料分野のノウハウを
身につけることで、装置と材料のセット提案も検討できる。
また、川下の領域では、Spire のように SI 事業に参入し、
パネルメーカの販路を提供することで、シナジーを高め
るという戦略なども検討できる。
このようなモデルを備えて海外に展開するには、単独
ではなく、海外企業との提携が最も効果的である。提携
によって、双方が持つ装置の補間関係や地域的なサー
ビス体制の補間関係を含めて戦略を構築することが重
要である。
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10 年夏特別号
《ファシリティ業界》
外部環境変化は事業機会探索の好機
株式会社野村総合研究所 技術・産業コンサルティング部
主任コンサルタント 中島 崇文/コンサルタント 小林 大三
数%~10%程度を占めるといわれている。世界同時不
況以降の太陽電池工場への投資の回復とともに、関連
ファシリティ産業の市場も拡大する見通しである。
1.太陽電池ファシリティ産業の概要
太陽電池産業は競争激化の一途を辿っており、とくに
海外企業とのコスト競争は、日本の太陽電池メーカの悩
みの種となっている。競争力のある太陽電池を作るには、
セル・モジュールの開発や設計もさることながら、工場の
設計が極めて重要である。生産にかかる費用は工場で
発生し、その削減の各種方策も工場で実行されるからで
ある。通常、工場において最も注目されるのは、成膜装
置やエッチング装置等の加工に直接関わる製造装置群
だろう。しかし本稿では、それらを縁の下で支え、間接的
に太陽電池の性能、品質、コストに影響を与える周辺設
備(太陽電池ファシリティ)に着目したい。
太陽電池ファシリティは、大きく3系統に分類できる。
①薬液・ガス系ファシリティ
タンク、ポンプ、処理槽、配管等から構成され、薬液や
ガス等のプロセス材料の貯蔵と供給、使用後の回収、処
理、再利用を担う。有害な薬液やガスを大量に使うプロ
セスを伴う太陽電池工場においては、安全操業と環境
保全のために高度な技術力が求められる。薬液・ガスメ
ーカ、化学系エンジニアリング会社等が手がけている。
②搬送系ファシリティ
ローラー、コンベヤ、アーム、自動棚等の機械で構成
され、固体の原材料や中間品の製造装置間の搬送や製
造装置への投入、および原材料・在庫倉庫の管理を担う。
自動搬送による人手の削減だけでなく、各製造装置の
処理能力の違いや装置・設備の配置、工場の形状を考
慮して、工場全体でスループットを最大化する工場運用
方法を設計する。主に、物流関連機器メーカが手がけて
いる。
③エネルギー系ファシリティ
空調やボイラー、発電・配電設備から構成され、工場
内の各種装置に電気や熱、冷気の供給を担う。近年、省
エネルギーや CO2 排出削減の実現が重要な課題となっ
ている。エネルギー会社、電設会社、プラントエンジニア
リング会社が手がけている。
太陽電池への投資は、太陽電池工場への投資額の
図1 太陽電池工場を構成するファシリティの概要
太陽電池工場
プロセス材料
排気・廃水
産業廃棄物
貯蔵・供給装置
処理・回収設備
①薬液・ガス系ファシリティ
配管
製造プロセス
原材料
原料倉庫
製造
装置A
製造
装置B
製造
装置・・・
搬送装置
完成品
在庫倉庫
②搬送系
ファシリティ
配管・配電設備
空調・ボイラ・
発電設備
熱回収設備
電気・燃料
排熱
③エネルギー系ファシリティ
2.外部環境変化と事業機会
太陽電池市場の成長に伴い競争が激化する中、様々
な外部環境変化が起こっている。これら外部環境変化を
もとにして、ファシリティメーカの事業機会について整理
する。
1)新型太陽電池におけるプロセス革新
太陽電池メーカによるセル・モジュールの技術革新に
より、従来の結晶系太陽電池ではなく、シリコン使用量の
少ない薄膜シリコン太陽電池や、化合物を使った CIGS
(Cu(In,Ga)Se2)が登場している。これらの製造プロセスは、
結晶系に比べてまだ日が浅く、最適なプロセスが定まっ
ていない。
たとえば、薄膜シリコン太陽電池においては洗浄工程
や特殊ガスを処理する工程で、CIGS においては薬液・
粉体の搬入工程や溶液の処理・再利用などに課題があ
り、それぞれプロセスの改善が検討されている。こうした
各メーカの課題に対し、プロセスの自動化や薬液の処
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10 年夏特別号
理・再利用によって製造コストの低減や品質の向上へ寄
与できれば、ファシリティメーカが太陽電池メーカを支援
できるチャンスはある(図1①に対応)。
出てきにくい。したがって、ファシリティメーカが、自身で
顧客の課題を先回りして設定することが必要となる。その
ためには、たとえば、展示会での情報収集、企業 OB や
業界専門家の活用が有効な手段となりえる。
2)トータルソリューションによるコストダウン
対応
2)社内外との連携による提案力向上
日本企業は太陽電池製造の経験を蓄積しており、工
場の個々の装置・設備やプロセスについてはスループッ
トが最大となるよう最適化されている。しかし、複数の装
置・設備の間でのエネルギーや材料のやり取りを含めた
工場全体では、さらなる最適化の余地がありそうだ。たと
えば、前述の排熱の空調・ボイラーへの再利用や、廃液
の再利用、階層の異なるフロア間の搬送自動化等が考
えられる。
全体最適化を提案する場合、求められるスキルや商
材の幅が自ずと広がる。したがって、ファシリティメーカの
一部署で対応できないケースも多くなる。そこで、社内の
他部署、あるいは社外の経営資産を活用することが求め
られる。
欧米の Q-Cells や First Solar、中国の Suntech など、
日米欧に中国や台湾の企業を加えた世界市場の競争
激化により、太陽電池製造におけるコストダウンの圧力
が拡大している。製造プロセスコスト低減のニーズが高ま
る中、必ずしも製造プロセス全体で最適な構成になって
おらず、各部分で最適な装置やシステムが採用されてい
るケースがある。また、CO2 排出量規制が強まる中、各社
の工場では、CO2 排出量の削減のために、使用するエ
ネルギー量を低減することも求められている。
製造プロセスコストや使用エネルギーの低減を実現す
る最適プロセスの提案として、ファシリティメーカの総合
力を活かし、薬液・ガス・搬送・排熱や廃液の再利用など
を組み合わせた提案が、事業拡大の鍵となると考えられ
る(図1③に対応)。
3)やりきる組織の編成
1)2)のような活動を実行するには、高度なマーケティ
ング機能が必要となる。すなわち、顧客を含むあらゆるソ
ースから得た情報をもとに課題を設定し、価値を提案す
るコンセプトを作り上げ、開発部門や生産部門と連携をと
りながら提案を具体化し、経営に対して必要な投資を促
す、という総合的な活動をやりきる力である。
このような活動は、一般的な販売機能を中心とした営
業組織では対応できないことが多い。NRI では、MTP
(Marketer、Translator、Promoter)の3つの機能を有す
る専門部隊の編成を推奨している(図2)。顧客と強固な
関係を構築しつつ情報を収集する Marketer、専門用語
が飛び交う技術部門と顧客の課題を翻訳しながら取り次
ぐ Translator、Marketer と Translator の動きに戦略性を
与えるとともに経営や他部門との連携を取る Promoter の
3つの機能が備わることで、新顧客の発掘、新商品の提
案を活性化することが可能となる。
3)日系太陽電池メーカの海外生産支援
国内外での競争激化に伴い、従来国内での生産にこ
だわってきた日本企業が、海外で生産を行うケースが出
てきた。たとえば、シャープはイタリアで薄膜シリコン太陽
電池のセルからモジュールまでを含め、一貫生産する合
弁契約を現地企業と交わし、2010 年から1GW 規模の大
規模な工場の稼働を目指している。また、国内における
薄膜シリコン太陽電池のトップシェアを占めるカネカや、
CIGS 太陽電池で同事業に参入した昭和シェルは、生産
工場の海外を含めた最適立地を模索している。このよう
に、海外での大規模な投資を検討する動きが出てきてい
る。
ファシリティメーカにとって、これら国内太陽電池メー
カの海外生産展開の動きは、ファシリティやサービスを
世界規模で提供する機会となる。さらに、世界での実績
を積むことにより、国内企業だけでなく海外企業を対象と
した事業展開の可能性が生じる(図1①~③に対応)。
図2 MTP 機能を持つマーケティング組織
3.日本のファシリティメーカの課題
日々の相談
営業部門
顧客情報の解釈・活用
1)顧客に先回りした課題の設定
太陽電池メーカは、業界の早い動きの中で多忙を極
めている。工場の設計においても、製造に直接関わる製
造装置を優先し、周辺のファシリティまではなかなか手が
回っていない。このような状況下では、太陽電池メーカに
営業訪問してみても、周辺ファシリティに関するニーズは
新しいニーズ
Marketer
重点顧客
(先進ユーザ)
マーケティング部門
Promoter
価値提案
Translator
技術提案
顧客の声を技術に翻訳
技術部門
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経営
経営方針
の反映
10 年夏特別号
《日本市場》
不具合管理の仕組みを構築し市場を拡大
株式会社野村総研総合研究所 事業戦略コンサルティング部
副 主 任 コン サ ル タント 滝 雄 二 朗 /副 主 任 コン サルタン ト 東海林 真之
1.国内太陽光発電の流通構造の現状
2.国内家庭向け太陽光発電の普及可能性
現在、国内の家庭の約 50 万軒に太陽光発電が設置
されている。これまでは、年間5万軒程度であった導入
ペースが、直近では 12~13 万軒に増大している。
本稿で焦点を当てる国内家庭用太陽光発電の流通
構造は、「新築戸建住宅」市場と「既築戸建住宅」市場に
大別することができる。「新築戸建住宅」向けは、大手ハ
ウスメーカによる販売が多い。一部の大手ハウスメーカで
は、太陽光発電を自社の主力商品に標準搭載するケー
スも増えてきている。大手ハウスメーカ以外に、地域ビル
ダーやフランチャイズメーカも、太陽光発電を組み合わ
せた商品を発売し始めている。また、地場の工務店など
は、消費者のニーズに即した太陽光発電設置業者を活
用し、ニーズに応えている。
「既築戸建住宅」向けは、メーカと特約店契約・FC(フ
ランチャイズ)契約を締結した地場のリフォーム会社や屋
根工事店、電気店などが訪問販売形式で太陽光発電を
販売しているケースが多い。また、電材商社が自社の販
売ネットワークを活用して販売しているケースもある。さら
に最近は、家電量販店やホームセンター、ガス会社や電
力会社の子会社など、大手企業の参入が活発化してい
る。
次に、国内家庭向けの太陽光発電普及可能性を、制
度、消費者ニーズ、システム価格低減可能性からみてい
く。
まず、太陽光発電の初期投資に対する回収年は、大
幅に短縮された。2009 年から再開された初期投資に対
する補助金に加え、09 年 11 月より導入された太陽光発
電の余剰電力の固定買取制度によって、新築であれば
10 年程度、既築であれば 15 年程度となった。さらに、地
方自治体によっては、追加の補助を行っているため、回
収年が一層短縮される。
次に、消費者ニーズも高まっている。NRI が 09 年に実
施したアンケート調査1より、太陽光発電の導入を真剣に
検討する消費者の割合は、太陽光発電の初回支払額に
対し、回収年が 10 年以下となると急激に増加するという
結果を得た(耐用年数は 20 年程度を想定)。また、新築
ユーザは、既築ユーザと比較し、回収年が 10 年以上で
も、導入を真剣に検討すると答える割合が高かった。
最後に、システム価格の低減可能性について、NRI が
09 年に国内の主要な太陽光発電メーカに対してヒアリン
グを行った結果から説明する。太陽光発電のシステム価
格は、2015 年までに現状の 2/3 程度、2020 年までに半
額程度まで低減すると想定される。主な低減要因は、
「変換効率の向上」、「量産体制の確立」、「工事要員の
稼働率の向上」、「競争激化によるバリューチェーン上の
利益率低下」などが想定されている。さらに、システム価
格は、今後海外メーカの低価格なモジュールが国内で
拡販されることにより、さらに低減することも考えられる。
新築住宅向け太陽光発電は、すでに 10 年の回収年
を切っている。既築住宅向け太陽光発電も、今後政策
的支援の拡大やシステム価格低減により、回収年がさら
に短縮されることで、ユーザニーズが高まる可能性があ
る。
図 国内家庭向け太陽光発電の流通構造
大手
ハウスメーカ
2.中規模以下
工務店チャネル
地場有力工務店
大規模工務店
広域FC
中小工務店
4.商社チャネル
5.家電量販店、
ホームセンター
その他大手企業
既築
特約店
・FC(注)
3.特約店チャネル
ユーザ
新築
メーカ
系列販売店
1.大手ハウス
メーカチャネル
商社
施工業者
注)工務店、リフォーム店、屋根工事屋、電設工事屋、訪問販売会、太
陽光専門業者 全国約 2,000~3,000
1
家庭における省エネ・新エネ器に関するアンケート調査を、日本全国
3,000 サンプルに対して実施した。
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10 年夏特別号
3.普及に向けた課題
1)現れつつある諸問題
普及拡大の可能性が高まる国内家庭向け太陽光発
電市場だが、下記のような問題も現れている。
①悪質な販売の強要
太陽光発電の既築市場では、訪問販売形式の販売
が多くを占めている。この販売事業者は、必ずしも優良
な事業者ばかりではなく、販売を強要する事業者も存在
する。国民生活センターに寄せられる同事業関連の 09
年の相談件数は、前年同時期より3割も多く、また、相談
全体のうち約8割が訪問販売に関する相談であった。
②設計不良および施工不良
太陽光発電の発電量は、システムの性能だけではなく、
設置位置、設置角度、周辺環境の影のかかり具合など
に大きく影響される。システムの構成次第では、一部分
にわずかな影がかかるだけで発電能力が半減することも
あり、事前の設置設計が非常に重要である。
また、発電のためには施工が必要であるため、工事方
法が設計に沿わない、システム間の電気配線の接続不
良がある等の理由で、発電効率が下がることがある。
欠陥住宅の相談を受ける住宅リフォーム・紛争処理支
援センターには、08 年度までほとんどなかった太陽光発
電に関する相談が、09 年度には 64 件寄せられたという。
③発電システムの不具合確認の困難
取付時の工事不良、メーカ出荷時点でのシステム不
良(断線など)、パネルへの汚れの付着、影の重なり等と、
様々な理由で発電量の低減は起こりうる。しかし、これら
不具合の発生に消費者が気づくことは難しい。普段の天
候変化でも発電量は変わるため、発電量が通常の範囲
内なのか、不具合が発生したための異常値なのか、消
費者には判断し難いためである。また、そもそも発電量
を日々管理していない消費者も少なくない。そのため、
不具合が起きながらも放置される太陽光システムが増加
する可能性は十分に考えられる。
2)今後の普及拡大に向けた課題
これら諸問題が生じる業界の課題を整理すると、以下
の2つの課題があげられる。
①消費者に太陽光発電の知識が浸透していない
太陽光発電は、設置箇所の周辺環境により、消費者
が得られる電気代の削減や売電量が変化する。さらに、
太陽光発電は設置後 20 年近く利用する製品である。そ
のため、消費者は、精緻なシミュレーションによる説明や、
設置後の発電量低下のリスクなどの説明を受けない限り、
太陽光発電によって得られる経済メリットを設置時点で
予想することは難しい。また、太陽光発電は、普及が黎
明期である上に工事も加わるため、適正価格がいまだ不
透明である。そのため、消費者は、支払いコストと設置後
に得られる経済メリットを想定しにくい。消費者は、訪問
販売事業者の説明や、Web 上にある玉石混交の情報な
どにより、手探りで情報を得、判断を下しているのが現状
である。
②事業者に太陽光発電の将来のリスクも踏まえた
営業・アフターフォローの体制が整っていない
太陽光発電を手がける既存事業者の中には、精緻な
シミュレーションをもとに、長期間にわたるリスクも踏まえ
たきめ細かい営業活動を行っていない業者も多く存在
する。また、業界全体として、設置後のアフターフォロー
の体制が十分とはいえない。事業者は、消費者に対し、
充分な情報提供を含むきめ細かい営業やアフターフォ
ロー体制を構築する必要がある。
4.課題に対する打ち手
これらの課題を解消するためには、まず、消費者が適
切な情報を与えられた上で設置の判断を下すことができ
る仕組みづくりが必要である。そのためには、事業者の
みならず、政府や自治体による啓蒙活動が必要となる。
また、必ずしも優良な事業者ばかりでなく、課題も多い市
場である現状から、消費者の信頼を得ている大手企業
が市場に参入し、消費者ニーズに対して適切な情報発
信やサービス提供を行うことも考えられる。ただし、事業
者がサービスを高品質化すれば、コストが増大する。そ
のため、すでに保有している他商材との連携を図る、獲
得した顧客接点を自社のサービス向上につなげるなど
の副次的な効果を検討する必要がある。
実際に、一部の事業者はすでに活動を始めている。
たとえば、山善は、商社という立場で築いた1万件以上
の設置実績やノウハウをもとに、Web サイトで消費者への
知識提供と優良施工店の紹介を行っている。他の商社
でも、太陽光発電と自社の他商材や断熱工事との連携
を検討する企業が現れている。また、京セラは、メーカで
ありながら、販売施工事業者の FC 化、独自施工認定制
度の整備、定期点検の義務化を進め、製品導入時や導
入後の消費者の安心感が高まる働きかけを行っている。
国内家庭向け太陽光発電市場は、拡大が予想されて
いる。しかし、多くの課題も抱えており、それらの顕在化
により普及が停滞する可能性も否定できない。これから
は、業界課題への取組みを他社との差別化の源泉とし
て捉え、他社より先に打ち手を検討しながら、市場拡大
を図ることが求められている。
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10 年夏特別号
《中国市場》
政府推進のもとで新エネルギー大国を目指す
野村総研(上海)諮訊有限公司 北京分公司
副主任コンサルタント
何徳 白樹
1.中国の太陽光発電市場
1)太陽光発電市場の規模
中国の太陽光発電市場は、まだ発展初期段階にある。
2008 年時点の累計設置量はわずか 12 万kW に過ぎず、
そのうち発電用途が半分を占めている。
ただし、今後中国で太陽光発電市場が急速に拡大す
る可能性がある。公表された「新エネルギー振興計画基
本草案」によると、太陽光発電の優先順位が上がってお
り、従来の太陽光発電計画値と比較して 12 倍も上方修
正され、2020 年での設置容量が 2,000 万kW に達する予
定である(図1)。
図1 中国の太陽光発電市場規模の推移
(MW)
25,000
20,000
15,000
10,000
5,000
現在当地域で確認された石油埋蔵量は約 54 億トンしか
ない。当地域での年間使用量は約 11 億トンであり、新た
な埋蔵量が発見されない場合、5年程度でアジア太平
洋地域の石油資源が枯渇することになる。
現在の中国は、一次消費エネルギーとして、最も埋蔵
量の多い石炭に大きく依存している。具体的には、一次
消費エネルギーのうち、石炭による発電量が占める割合
は、米国では約 23%、日本では約 19%であるのに対し、
中国では 56%以上である。しかし、石炭火力発電は、
CO2発生の面で大きな問題になっている。そのため、石
炭や石油に代替する新エネルギーの発展が急務となっ
ている。
石炭火力発電の代わりに、原子力を含めた新エネル
ギーの発電量を全体発電量の 45%以上まで上げること
が、中国の「再生可能エネルギー中長期発展計画」の目
標として掲げられた。また、新エネルギーは、グローバル
でみても市場成長の初期段階にあたり、各国での優劣
が定まっていない市場である。その中で、中国は国家の
国際競争力の向上手段として新エネルギー大国となるこ
とを目指しており、新エネルギー関連技術の輸入から、
自国による研究開発を政府が強力に推進している。
2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020
(年)
独立発電
産業、公共用途
大型PV 発電所
2.中国の太陽光発電の産業構造
住宅用
注)2009 年以降は見通し
出所)中国発展改革委員会エネルギー研究所
中国の太陽光発電市場を取り巻く環境が変化する中、
最近では、産業の川上に位置する企業から川下に位置
する企業へと、企業の立ち位置が日々変化している。中
国の太陽光発電事業に魅力を感じ、新たに参入する企
業が続出する一方、既存の企業の中には、激化する競
争の中で生き残るため、バリューチェーン上で事業領域
の拡大を図る企業も増えている(図2)。
たとえば、太陽電池の原材料となるポリシリコンの分野
では、新規参入する企業が続出して、競争が激化してい
る。この分野では、すでに淘汰の時代に突入しており、
今後2、3年間で数社の勝ち組企業のみが生き残るとみ
られる。
セル・モジュール分野に関しては、すでに淘汰の時代
が過ぎ、勝ち組み企業がはっきりとみえている。勝ち組
現在、中国政府は、新エネルギーの中でも水力発電
を優先しており、その他の新エネルギーである原子力、
風力、バイオ燃料と比較しても太陽光発電の優先度は
低い。しかし、今後は「新エネルギー振興計画基本草
案」に沿って太陽光発電の推進を一層強化し、太陽光
発電に対する助成措置も続々公表する予定であり、市
場が急激に伸びる可能性がある。
2)太陽光発電市場の発展背景
中国は、石油、天然ガスの埋蔵量が少ない。とくに、
石油の埋蔵量はアジア太平洋地域全体でみても乏しく、
- 25 -
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10 年夏特別号
表 中国の太陽光発電事業に関する計画と法規
は勝ち続けるために、新たな戦略を打ち出している。中
国のモジュールメーカーを代表するような企業として、
Suntech(無錫尚徳)、Yingli(保定英利)などの企業があ
げられるが、この2社はまったく異なる戦略を打ち出して
いる。Suntech が川下のシステム事業に範囲を拡大して
いるのに対し、Yingli は川上であるポリシリコン原料の製
造に事業範囲を伸ばしている。
一方で、太陽光発電事業の領域でも、新規参入者が
続出している。これまで、発電会社は、自社に課せられ
た RPS(Renewable Portfolio Standard)の目標値を達成
するために太陽光発電プロジェクトに投資していたが、
今後は充実した太陽光発電補助政策が公表されること
によって、国内の重電メーカーである東方電気、上海電
気に加え、不動産開発会社や海外の重電メーカーであ
る GE(米国)、Siemens(ドイツ)などの企業も発電ビジネ
スに進出してくると思われる。
計画・方針
電力関連メーカ
電力関連メーカ
モジュールメーカ
(Suntech、Yingli、
Torinaなど)
モジュールメーカ
(Suntech、Yingli、
Torinaなど)
モジュールメーカ
(Suntech、Yingli、
Torinaなど)
購入制度
(FIT)
発電会社
新規参入
発電会社
発電会社
発電会社
海外・国内
重電メーカ
地方政府
z 太陽光発電事業に対して、総投資額の50%を補助する制度が導入される予定
z 500MW以上の太陽光発電モデル事業、電気の通っていない辺境地域での太陽光
発電事業に対しては、総投資額の70%が補助される
z シリコンの高純度化など、太陽光発電の基幹技術の産業化に対しても融資金利が
補てんされる
„ 「江蘇省新能源産業調整振興計画綱要」
„ 甘粛などの太陽エネルギー豊富な地域では、メガソーラー発電所の建設応用は
多く、産業づくりはまだ整備されていないが、現在、地方政府が発展計画を作成中
z 現在発電会社に対してはRPSが導入されているが、2010年中に電網会社に対しても
RPSが導入される予定
„ 風力と同じ道をたどる、中国式FITが実施される予定
z 各地の経済発展状況に応じて、各地でそれぞれのFITが決められる
出所)中国発展改革委員会能源研究所、中電国際新能源公司等への
ヒアリングをもとに、NRI 作成
4.中国の太陽光発電産業の展望
モジュールメーカは
川上または川下へ
民間企業
„ 「金太陽工程」
„ 発電会社と電網会社の両方にRPSが導入される予定
投資
中小SIer
地方政府
シリコン原料メーカ
中央政府
補助金政策
システム
z 電力会社にRPSが導入される予定(2010年:1%、2020年:3%)
RPS制度
太陽光発電産業の構造
セル・モジュール
„ 「再生可能なエネルギー発電卸電力割当制基準に関する提案」
法律
図2 中国の太陽光発電産業の構造変化
原料メーカ
„ 「新能源産業振興計画(振興計画)」(2009年8月公表)
発電会社が
川上から川下へ
3.中国の太陽光発電関連の政策動向
09 年に「新エネルギー振興計画」の基本草案は公表
されたものの、計画自体はまだ公表されておらず、中国
の「第 12 次5ヵ年計画」に盛り込まれる形で公表されるよ
うである。関係者によると、「第 12 次5ヵ年計画」で公表さ
れる目標値は、基本草案で公表された数値よりも上回る
可能性もある。
中央政府および地方政府が、太陽光発電事業に対す
る補助政策をそれぞれ公表しており、太陽光発電事業
の発展を促進している(表)。その他に、最近の政府の動
きとして、国家発展改革委員会(国家発改委)エネルギ
ー研究所が起草した「再生可能エネルギー発電卸電力
割当制基準に関する提案」が、国家発改委に上程され
ている。この提案は、送配電会社に対しても、一定の再
生可能エネルギーの導入を義務づけるものである(送配
電会社に対する RPS 制度)。
太陽光発電を含めた、中国の新エネルギー市場が発
展する中、様々な問題点も浮き彫りになってきた。一つ
には、大規模な新エネルギー開発の技術障壁の存在に
よる、系統連係上の問題等がある。たとえば、風力発電
が盛んな西部地域は、系統設備が脆弱であるため、変
動の大きい風力発電が系統に悪影響を及ぼしている。ま
た、黄砂が原因で、風力発電設備の故障が頻繁に発生
しているなどの問題も生じている。このような理由から、
中国西部では、総じて風力発電の稼働率が極めて低く、
稼働率が 40%程度の発電所も多い。08 年の中国全土
の風力発電設備年平均稼働時間数は、2,000 時間以
下に過ぎない。
また、風力、太陽光で発電した場合、発電量が一定で
はなく変動が大きいため、発電量が多くなると、送配電
網にかかる負荷が高くなる。そのため、事故が発生して、
送配電できなくなる事態が多発する。実際、すでにその
ような状況が生じている。スマートグリッドの導入により、
その事故の減少が期待されるため、現在、中国ではスマ
ートグリッドが推進されている。しかし、スマートグリッドを
構成する部品(インバーター、蓄電池など)を生産する技
術力が足りないのが現状である。
系統連係上の設備投資やスマートグリッドの建設を、
新エネルギーの電源投資と並行して計画的に進めること
が重要だが、現在中国ではそれが実現できていない。ま
た、新エネルギーの導入計画値に合わせて、適切な系
統連係上の設備や送配電網の補強が行われる技術的
な規格設定も、今後の重要な課題の一つである。
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10 年夏特別号
《韓国市場》
FIT から RPS への政策転換で質的成長を図る
株式会社野村総合研究所 ソウル支店
コンサルタント 黄 文泰/コンサルタント 徐 絢桓
力を取り揃えたサムスンや LG などの大手中心のグロー
バル展開が予想される。
最近、KEPCO(韓国電力)のような政府のエネルギー
公社と、三星物産(サムスングループの総合商社)、そし
てモジュールメーカとの協業を通じた北米地域の市場開
拓などの動きがある。このような動きを通じて、韓国では、
今後の海外市場の開拓と太陽光産業の競争力が徐々
に強化されると考えられる。
1.韓国の太陽光発電市場の現状
韓国の太陽光発電市場は、FIT(Feed-In Tariff)の積
極的な施行で、2008 年には日本市場を超える世界第4
位の 278 MW 規模の市場(発電能力基準)を形成した。
金融危機以後、政府の FIT 制度が 50MW まで縮小し、
09 年は 170MW へと市場が大きく縮小した。しかし、2012
年からの RPS(Renewable Portfolio Standard)の導入が発
表され、今後の市場は段階的な成長が予想される(図
1)。
2.韓国の太陽光発電の産業構造
1)太陽光発電産業の構造変化
当初、韓国の太陽光発電産業は、FIT を狙ったセル・
モジュ-ル中心の S-Energy、KPE のような中小企業が
牽引してきた。しかし、これらの中小企業は、原資材価格
の急騰、内需市場の縮小で現在苦戦を強いられている。
一方、ポリシリコン分野の OCI(旧 DCC)やインゴット・ウェ
ハ分野の Woongjin Energy などの素材専門企業は、技
術力と顧客基盤によって高い成長を続けている。
近年、半導体技術を保有しているサムスンや LG のよう
な大手企業は、セル・モジュ-ル分野を中心に太陽光
発電市場に進出している。そして、グループ会社のリソ
ースを集中させ、垂直統合による事業の拡大を図ってい
る。また、日本から輸入に依存していたバックシートや封
止材などの部材関連分野も、SKC などの大手企業の参
入が進んでいる。システムインテグレーション分野では、
海外プラント施工の経験がある建設会社、KEPCO など
の政府機関、および総合商社が協力し、積極的に海外
市場に進出している(図2)。
図1 韓国の太陽光発電市場規模の推移
(MW)
500
400
300
産業、業務
住宅
200
電力
100
0
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014(年)
注)2010 年以降は見通し
出所)NRI 推計
韓国政府は、FIT による市場過熱を防ぎながら、RPS
導入とともに、関連産業の体系的な育成を通じて、太陽
光発電市場の成長と競争力強化を計画している。
韓国の住居形態は、戸建住宅よりも密集された住居
施設(集合住宅含む)が多く、主に住宅用の屋根よりも、
FIT による売電収益を目指した発電所形態の太陽光発
電システムが形成されてきた。しかし、他国に比べて高
い土地価格や安い電力価格が、太陽光発電市場の拡
大を阻んでいる。そのため、他国よりも、太陽光発電市
場の発展が遅れる可能性が高く、市場拡大に向け、政
府政策が大きな原動力となると考えられる。
一方、2010 年の韓国における太陽光発電の生産能力
は約1GW 位で、導入市場規模予想値の 120MW より大
きく上回っている。そのため、今後は、半導体技術と資本
図2 韓国の太陽光発電産業の構造
ポリシリコン
インゴット・ウェハ
セル・モジュール
システム
大手
企業
OCI / KCC / LGC
Woongjin Poly-Si
Nexolon / LGS
Woonjin Energy
SEC / LGE / HHI
Hyosung / STX solar
SECCなどの商社や
韓国プラント企業
中小
企業
HKS Silicon
Neosemitech / Rexor
Solmics / Smart-Ace
S-Energy
S-Energy // Shinsung
Shinsung
KPE
KPE // KE
KE Solar
Solar //
Simpony
Simpony Energy
Energy
S-Energy
S-Energy // Dongyang
Dongyang
政府
機関
KEPCO
KEPCO
Monosilane Gas(SiH4)
部材
Sodiff Advanced Material
SKC / Hanhwa
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10 年夏特別号
2)主要企業の動向
韓国の太陽光産業は、牽引役が、これまでの中小企
業中心から、全バリューチェーンにわたって参入する大
手企業へと移行し、成長が一層加速すると予想される。
サムスングループは、サムスン電子がセル・モジュ-
ル分野を中心に市場への参入を予定しているが、現時
点では R&D 技術を蓄積し、投資時期を検討している。既
存の半導体や液晶パネル事業と同じく、積極的な投資
を通じて、グローバルリーダーシップを確保すると考えら
れる。2010 年から本格的な投資を始め、短期間には1
GW まで増設することが予想される。また、三星精密化学
がポリシリコンへの投資を検討するなど、系列会社でも
太陽光発電市場への参入を検討しており、垂直統合に
よる競争力強化が予想される。
LG グループも、LG 電子を中心に、2010 年では
120MW 規模のセル・モジュ-ル生産能力を備えている。
さらなる積極的な投資により、2015 年に1GW 規模の生
産能力を目指している。系列会社である LG 化学では、
ポリシリコン分野への投資を検討しており、また、LG
Siltron では、インゴット・ウェハ分野への投資を検討して
いる。一方で、LG ソーラーエネルギーと、今後のシステ
ムインテグレーション分野まで具体的な事業拡大を構想
していたが、金融危機以後は、投資を見合わせている。
現代(Hyundai)重工業は、330MW 規模の セル・モジ
ュ-ルの生産能力を保有しており、韓国のモジュールメ
ーカでは最も積極的に事業を拡大している。本流事業
であるプラントや造船の他に、太陽光発電や風力発電な
どの新エネルギー事業を強化している。系列会社である
KCC は、ポリシリコンとインゴット・ウェハを 2010 年から生
産する予定で、本格的な垂直統合を狙っている。
Woongjin グループは、米国の Sunpower とインゴット・
ウェハを生産する合弁会社を設立し、太陽光発電事業
に着手した。2010 年からは、ポリシリコンを生産する予定
で、川上まで事業を拡大する姿勢を示している。
一方、OCI はポリシリコン分野に集中し、Hamlock な
どトップ5社に寡占化されていた高い技術障壁を乗り越
えて、ポリシリコンの生産に成功した企業である。08 年当
初は 5,000 トン規模であった生産能力は、2011 年には
32,000 トンまで高まっており、世界市場の 20%シェアを
目標としている。OCI は、インゴット・ウェハ分野の子会
社も設立し、川上までの事業展開を図っている(図3)。
その他の企業では、SKC、Hanhwa グループなどが部
材分野に参入し、太陽光発電だけではなく、関連部品
素材分野などまで産業の裾野が拡大する見通しである。
図3 韓国の太陽光発電産業の主な企業の動向
企業
(グループ)
サムスン
LG
ポリシリコン
LG化学が検討中
Siltron 10MW(SoG)
KCC
6,000トン(2010年) Æ 18,000トン(2012年)
Woongjin
Woonjin Polysilicon 5,000トン(2010年)
OCI
16,500トン(2010年) Æ 32,000トン(2011年)
LGE
120MWÆ240MW(2010年)
HHI
330MW(2009年)
Woonjin Energy 検討中
(320MW, 80%以上 Sunpower納品)
Nexolon
150MW(2009年) Æ 500MW(2010年)
30,000t
韓国の生産
能力(2010年)
セル・モジュール
SEC
30MWÆ150MW(2010年)
Hyundai
OCI
インゴット・ウェハ
検討中
800~870MW
910~1,000MW
大手企業の能力
3.韓国の太陽光発電関連の政策動向
2010 年 3 月、RPS 導入を主要な内容とする「新再生
エネルギー促進法改正案」が発表された。FIT は 2011
年まで維持される予定だが、2010 年から小規模の RPS
制度を導入しながら政策を補完して、2012 年から RPS
を本格投入することを骨子としている。FIT による財政負
担の増加や、安価な中国産太陽電池中心の市場拡大
が関連産業の育成へと繋がっていない点などが、政策
転換の大きな要因と判断される。
FIT によって、2011 年まで 500MW を支援する計画で
あったが、RPS の導入により、発電量全体に占める新エ
ネルギーの義務割合を、2012 年の2%から、2022 年に
は 10%まで高める予定である(図4)。その中で、太陽光
発電には 2012 年に 120MW が配分されており、それが
2022 年の 200MW まで徐々に拡大される見込みである。
図4 韓国の太陽光発電関連の政策
内容
FIT
RPS
ƒ 太陽光発電などの新再生エネルギー価格が
基準価格より低い場合、韓国電力を通じて買入
(経済性保障)
ƒ 2012年からすべての発電量の 2%を、2022年
には発電量の10%まで新再生エネルギー義務
の割合を高める予定
ƒ 2011年までに段階的に支援金額を縮小予定
効果
ƒ 太陽光発電への早期投資を誘導
ƒ 目標量の義務化により太陽光発電産業を育成
ƒ 投資急増で補助金支給額急増になり、財政を
圧迫
ƒ 新再生エネルギー産業の安定的目標を達成
韓国政府は、製品認定制度を取り入れて技術改善を
促進し、製品の品質や信頼性の向上と販売拡大を目指
している。また、同時に政府は、太陽光発電市場拡大の
ために、「太陽光住宅 10 万戸普及事業」を 09 年から拡
大・改編し、新再生エネルギー基盤の拡大を推進してい
る。この推進策として、2020 年には約 100 万戸の住宅に
太陽光発電を設置することが含まれている。
上述のような政策転換により、韓国の太陽光発電市場
は、単純な量的拡大から、自国の太陽光産業の育成と
普及という質的成長が期待される。
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10 年夏特別号
《台湾市場》
中国との連携でバリューチェーンの垂直統合を強化
株式会社野村総合研究所 台北支店
顧問 江 英橋/顧問 凌 瑞鄉
1.台湾の太陽光発電市場の現状
2.台湾の太陽光発電の産業構造
2009 年の台湾の太陽光発電市場を振り返ると、大きく
3つのポイントがあげられる。①生産規模の拡大、②「再
生エネルギー発展条例」の設立、③台湾の大手電子メ
ーカの積極的な市場への参入(図1)である。
全般的にみれば、台湾の太陽光発電産業は、いわゆ
る典型的な“外熱内冷”市場である。09 年の生産額は、
金融危機の影響にもかかわらず、史上最高の1兆台湾ド
ルを超えた。その内訳は、主にウェハとモジュールが占
める。これらの分野が強いのは、台湾企業が半導体産業
の競争力を活かして、自社にノウハウのあるシリコンウェ
ハや成膜技術を応用しているためである。一方、台湾の
国内市場はまだ十分に発展していない。台湾政府が、
エネルギー政策の中で、太陽光発電の普及に対する重
要性を認識しておらず、政策の推進が遅れていることも
指摘されている。
台湾政府は、いくつかの公共建築物に対して、太陽
光発電システムの設置を推進しているが、現在の総発電
量はわずか 1.6MW に過ぎない。そのため、政府は、09
年末に「再生エネルギー発展条例」を策定した。その法
案で、政府は FIT(Feed-In Tariff)などを規定し、発展が
遅れている国内の太陽光発電市場を支援している。
1)バリューチェーン全体
台湾のウェハやセルは、世界の市場において重要な
役割をもっている。しかし、比較的利益率が安定している
川上のシリコン原材料の生産能力が低く、コモディティで
あるウェハやセル事業が中心であるため、台湾の太陽光
発電産業は、景気が悪化すると利益率が大きく減退しや
すいという問題を抱えている。また、エンドユーザへのチ
ャネルを持つ川下のモジュールやシステムインテグレー
ション(SI)の規模も、ウェハやセル産業と比較すると小さ
いため、太陽光発電産業の規模拡大という点で中国の
垂直統合メーカに後れを取っている。
ただし、台湾の大手電子メーカ各社が、潤沢な資金力
をもとに積極的に太陽光発電の各バリューチェーンに参
入し、垂直統合化を目指すことによって、台湾の太陽光
発電メーカの競争力が高まるとみられる。
図1 台湾大手電子メーカの
太陽光発電市場への参入状況
出資企業
被出資企業
分野
現況/動向
TSMC
Motech(茂迪)
多結晶太陽電池
z 2009年に台湾の半導体最大ファンドリーメーカのTSMCが台湾の太陽電
池の最大メーカMotechの20%の株を買収
億光
z GINTECH(昱晶)
z 昊晶能源
多結晶太陽電池
z 2005年に液晶パネル手の億光が昱晶を設立
z 2008年にSI分野の昊晶能源を設立
力晶
Neo Solar(新日光)
多結晶太陽電池
z 2006年にDRAM大手の力晶が新日光を設立
UMO(聯電)
NexPower
(聯相光電)
薄膜太陽電池
z 2008年に台湾の半導体ファンドリーメーカの聯電がULVACのTURNKEY
を受け、聯相光電を設立し、薄膜太陽電池分野に参入
AUO(友達)
z エム・セテック
z 友達能源
z ウェハ
z 多結晶太陽電池モ
ジュール
z 2008年に液晶大手の友達が日系のウェハメーカのエム・セテックを買収
z 2010年4月に友達能源の設立を発表し、中国で工場を設立し多結晶太
陽電池モジュールを生産する予定
CMO(奇美)
奇美能源
薄膜太陽電池
→多結晶太陽電池
z 2008年に液晶大手の奇美が奇美能源を設立し、薄膜太陽電池分野に
参入
z 2009年に多結晶太陽電池分野に転換
大同
z 緑能
z 宇駿新能源
z ウェハ
z 薄膜太陽電池
z 2005年に電機、液晶大手の大同は緑能を設立し、年産量300~400MW
のウェハを生産
z 2008年に中国の宇駿新能源に出資、薄膜太陽電池生産に投資
出所)PIDA「2009 太陽光電年鑑」等をもとに NRI 作成
2)シリコン
太陽光発電用シリコンを生産する台湾メーカは9社あ
るが、ほぼすべてが中小企業である。09 年の世界にお
ける台湾シリコンのシェアは、10%以下の見通しである。
台湾のメーカは、08 年前後に太陽光発電シリコンの工場
の設立や拡大を公表したが、09 年に世界のシリコン原料
の供給過剰により価格が下落し、台湾のシリコンの品質
が不安定であることから、生産実績と計画値とが大きく乖
離している。現時点では生産拡大の計画は見送られて
いるため、台湾企業にとって、価格競争を回避すること
はできたものの、生産量の面で世界の大手企業との差
が開いてしまった。
3)ウェハ
台湾企業は、半導体産業の優位性を持ち、太陽光発
電用ウェハ領域に早くから参入していた。現在、中美晶、
緑能を含め、8社の台湾企業がウェハを生産しているが、
この分野は、多数の中国メーカも参入しているため、供
給過剰により価格下落が激しくなっている。このような中
- 29 当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
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10 年夏特別号
でも、台湾企業は、より高品質なウェハで差別化し生産
規模の拡大を目指している。実際に、09 年後半から、大
手企業は再び生産を拡大する計画を発表している。
3.台湾の太陽光発電関連の政策動向
太陽光発電は、半導体、液晶パネル産業に続く3つ
目の兆元産業(1兆元の市場規模になること)として期待
されている。台湾の太陽光発電産業は、徐々に発展し
つつあるが、川上のシリコンと川下のモジュールや SI 等
の領域はまた不十分である。また、台湾の太陽光発電メ
ーカは中堅企業が多く、政府からの支援が必要である。
これに対し、台湾政府は、「台湾産業高度化促進条
例」において税金の減免などの優遇を掲げている。また、
「グリーンエネルギー産業グレードアップ計画」をもとに、
技術支援(重点支援技術に対する 200 億元の援助)、事
業資金援助(ベンチャーキャピタルへの融資)、法規整
備、輸出促進、内需拡大(設備補助に対する 250 億元の
援助)の5分野で、各種支援を実施している。
07 年 の 行 政 院 科 技 顧 問 会 議 で は 、 2025 年 に
1,000MW の太陽光発電の目標が掲げられた。これは台
湾の総発電量の約 1.8%を占める。さらに政府は、09 年
6 月に「再生エネルギー発展条例」を設けた。2010 年 1
月末に、その法案に沿って、FIT 価格や電力を購買する
義務や公共建築への太陽光発電の設置規制を策定し、
台湾の太陽光発電市場の発展を積極的に支援してい
る。
4)多結晶太陽電池
09 年現在、台湾の太陽光発電の生産量は世界第4位
であり、シェアは 08 年の 10%から 09 年は 16%に上昇し
た。その生産の内訳は、主に多結晶太陽電池である。
Gintech(昱晶)と Motech の 09 年の生産量は 368MW
に達し、2社ともに世界の第 10 位の太陽電池メーカとな
っている。2010 年始めには、ドイツ政府は太陽光発電の
FIT を削減する傾向にあり、ドイツ市場に参入している世
界各国のモジュールメーカは、価格競争力確保のため
に、OEM 方式で安価なアジアメーカへの注文を始めた。
その結果、2010 年の台湾の太陽電池メーカは好機を迎
える見通しである。
太 陽 電 池 の 将 来 性 が 期 待 さ れ る 中 で 、 TSMC は
Motech に出資すると同時に、自社の中国昆山工場でさ
らに 200MW を生産する計画を公表した。2010 年第四半
期には、欧州からの注文の殺到が予想されるため、すで
に 50MW の生産能力を確保した。しかし、他の企業も太
陽電池の生産量を拡大する計画を公表しており、太陽
電池の価格の下落が懸念されている。太陽電池の利益
率は 15~19%程度から7~8%程度まで低下すると推測
されるため、台湾の太陽光発電メーカは、公表通りに投
資するかどうかを再検討する必要がある。
図2 「再生エネルギー発展条例」の内容
項目
5)薄膜太陽電池
台湾では、多結晶太陽電池の生産量が総生産量の
99%を占めている。その中で、08 年から薄膜太陽電池
分野に参入する大手企業もあり、たとえば、UMC が投資
した聯相、COM(奇美)が出資した奇美能源などがある。
日本の太陽光発電装置メーカ大手の ULVAC が台湾で
R&D センターを設置することで、台湾がすでに持ってい
る多結晶太陽電池技術に加えて、薄膜太陽電池技術の
普及が期待されている。
概要
発電装置容量の拡大目標
20年以内に再生エネルギー発電装置の容量を650~1000MW拡大。
電力買取
経済部の関係部会、専門家らによる委員会が審議した上で、買取価格や
計算方法を公告。毎年検討を行い、修正する。
設備購入補助
再生エネルギー発電設備設置に対し補助(一定期間内の申請が必要)。
融資利息補助
„
市場利率の半分を優待利率とする。最高で年利4%を超えてはならない。
„
ローン期間は最長で15年間。限度額は投資額の50%とする。
„
「電業法」における再生エネルギーを含む自用発電機器の設置資格や
余剰電力の販売規制などを解除。
„
再生エネルギー関連産品の関税減免のほか、土地使用や各種書類取
得に伴う行政手続きを簡素化。
規制緩和
出所)「再生能源發展條例」をもとに NRI 作成
4.台湾の太陽光発電産業の展望
既述のとおり、台湾の太陽光発電産業のバリューチェ
ーンは偏っている。ただし、08 年からの国民党政権は全
面的に中国と友好政策を採るため、今後は中国と台湾と
で太陽光発電のバリューチェーンが統合されるケースも
ある。
台湾の太陽電池メーカは、中国の多結晶材料を購買
する一方、川下のモジュールの販売を交渉する方針で、
Win-Win の関係を目指す。その方針に沿って、台湾の
太陽光発電産業のバリューチェーンは、垂直統合が強
まることが予測される。
6)モジュールと SI
台湾の国内市場が十分に発展していないため、台湾
の太陽光発電のバリューチェーンにおいて、モジュール
と SI の規模はまだ小さい。しかし、近年、台湾の太陽電
池メーカは、モジュールと SI 分野に積極的に参入し始め
ている。たとえば、Motech は 2010 年 3 月末に GE Energy
(米国)を買収し、米国のモジュールおよび SI 市場に参
入した。昱晶も 09 年 3 月に子会社を設立し、50MW のモ
ジュール生産に投資した。川下のモジュールに参入する
ことで、太陽光発電事業の垂直統合を図っている。
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10 年 7 月号(特集 新興国の情勢)
10 年 5 月号(特集 組織・人材戦略の転換)
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ドバイ・ショック後の中東湾岸経済
役員会のチームマネジメント改革
生産性向上の手本としての KPO
コンビニエンスストア店舗の人材育成
組織外の人材がイノベーションを生み出す仕組み
“志”を再生するストーリーテリング
【コラム】 メディアをみればその人がわかるⅢ
10 年春特別号(特集 “エッジ産業”への期待)
10 年 3 月号(特集 来たるべき変容)
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ABL(動産・債権担保融資)の可能性
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10 年 1 月号(特集 2010 年の展望)
09 年 11 月号(特集 経営資源のクロスオーバー)
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【コラム】 メディアを見ればその人がわかるⅡ
09 年 9 月号(特集 攻めの糸口)
09 年 7 月号(特集 飛躍に向けた足元固め)
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広告宣伝最適化を通じた企業競争力の向上
【コラム】 “ニュース”というビジネスの転換期
09 年 5 月号(特集 日本の競争力を高める新産業・新技術) 09 年 3 月号(特集 日本企業のグローバル展開)
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NRI Knowledge Insight 10 年夏特別号 Vol.12
編集事務局
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〒100-0005 東京都千代田区丸の内 1-6-5 丸の内北口ビルディング
TEL: 03-5533-2631 FAX: 03-5533-2414 E-mail: [email protected]
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