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日本人の幸福度決定要因~JGSS2008を用いた実証研究

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日本人の幸福度決定要因~JGSS2008を用いた実証研究
ISFJ政策フォーラム2011発表論文 17th – 18th Dec. 2011
ISFJ2011
政策フォーラム発表論文
日本人の幸福度決定要因1
~JGSS2008 を用いた実証研究~
大阪大学
山内直人ゼミ
大川
笠井
角
久保
平野
吉村
社会保障分科会
淳士
健司
太貴
大地
智
友里
2011年12月
1本稿は、2011
年 12 月 17 日、18 日に開催される、ISFJ 日本政策学生会議「政策フォーラム 2011」のために作成したも
のである。本稿の作成にあたっては、山内直人教授(大阪大学)をはじめ、多くの方々から有益且つ熱心なコメント
を頂戴した。ここに記して感謝の意を表したい。しかしながら、本稿にあり得る誤り、主張の一切の責任はいうまで
もなく筆者たち個人に帰するものである。
1
ISFJ政策フォーラム2011発表論文 17th – 18th Dec. 2011
ISFJ2011
政策フォーラム発表論文
日本人の幸福度決定要因
~JGSS2008 を用いた実証研究~
2011年12月
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ISFJ政策フォーラム2011発表論文 17th – 18th Dec. 2011
要約
2010 年、日本政府は『幸福度』について調査研究することを新成長戦略において発表し
た。なぜ今、日本で幸福度が注目されているかというと、国内総生産(GDP)などの物質的・
金銭的な側面を測る客観的な指標だけでは日本人の豊かさを捉えきれなくなったからであ
る。
「平成 22 年度国民生活に関する世論調査」を見てみると、今後の生活において心の豊か
さに重点をおく人の割合が、物の豊かさに重点をおく人の割合を上回った。また、1 人当た
り GDP は年々上昇しているのに対し、世界価値観調査によると幸福度は減尐傾向にあり、
経済成長と幸福度が相関していないことがわかる。これは「幸福のパラドックス」という現
象であり、経済成長が必ずしも人々の幸せに結び付いていない現状がうかがえる。
近年、日本だけではなく国際社会においてもこの幸福度に注目が集まっている。たとえば
イギリスやフランスでは幸福度を政策立案に取り入れようとしている。
このように国際社会
では幸福度を向上させようとする動きがあるのに対し、日本人の幸福度は「よりよい暮らし
指標」や世界価値観調査によると決して高くない。そこで、日本人の幸福度を高める政策を
提言するために幸福度に影響を及ぼす要因を分析した。
これまで幸福度に関する実証研究は数多くなされてきたが、幸福度と「経済要因」
、
「個人
属性要因」
、
「社会属性要因」などとの関係に着目したものがほとんどであった。しかし、
「平
成 22 年度国民生活選好度調査」によると、幸福度を判断する際に重視した基準として「将
来への期待・不安」を挙げた人が最も多く、幸福度は期待や不安といった精神的な要素から
も影響を受けると考えられる。そこで、本稿では「個人属性要因」
、
「社会属性要因」、
「経済
要因」に「安全・安心要因」を加えた 4 つの要因が幸福度の決定に与える影響を日本版 General
Social Surveys(JGSS)の 2008 年のデータを使用して、順序ロジット分析によって明らかにし
た。その結果、幸福度に影響を与える大きさ順に「結婚ダミー」、
「主観的健康感」、
「年金に
対する不安」
、
「相対所得」
、
「失業に対する不安」が説明力をもつことがわかった。
以上を踏まえて「年金に対する不安」、
「相対所得」
、
「失業に対する不安」それぞれに対し
て政策提言を行った。
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ISFJ政策フォーラム2011発表論文 17th – 18th Dec. 2011
目次
はじめに
第1章
現状・問題意識
第1節
第2節
第3節
第4節
第2章
幸福度の重要性
経済成長と幸福度の関係
幸福度をめぐる動き
問題意識
先行研究・本稿の位置づけ
第 1 節 先行研究
第 2 節 本稿の位置づけ
第3章
分析
第1節
第2節
第3節
第4節
第5節
第6節
第4章
本稿の分析
順序ロジット分析
変数選択
分析モデル
分析結果
分析に対する考察
政策提言
第1節
第2節
第3節
第4節
年金の世代間不公平の改善
所得格差の縮小
失業対策
政策提言の総括
おわりに
先行論文・参考文献・データ出典
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ISFJ政策フォーラム2011発表論文 17th – 18th Dec. 2011
はじめに
「あなたはいま、幸せですか」この問いに迷わず「はい」と答えることのできる人は、わ
が国にどれほどいるだろうか。
日本は戦後めざましい経済成長を遂げ、世界有数の経済大国として長らく GDP 世界第 2
位の座を守ってきた。2010 年にその座を中国に明け渡すことになったものの、依然として
経済的に豊かな国であることに変わりはない。では、そうした環境の中で暮らすわれわれ日
本人は幸せだといえるだろうか。もちろん、経済水準は個人の生活の質を決定する上で大き
なウエイトを占める。しかし、それだけが生活の質を決定しているわけではなく、経済水準
のみで個人の豊かさや幸せを推し測ることはできないのである。近年、個人の豊かさを構成
するものとして、物質的・客観的な要素だけではなく、より精神的・主観的な要素を重視す
べきだという論調が高まってきている。こうした中、個人の豊かさを測る指標として注目さ
れつつあるのが「幸福度」である。幸福度とは、個人に関するさまざまな要素を考慮した上
で、その個人が自身の幸せを主観的に評価するというものである。
100 年に一度ともいわれる世界同時不況に見舞われ、さらには今年 3 月 11 日に発生した
東日本大震災により経済的ならびに精神的に多大な被害を受けた今、
本当の幸せとは何なの
か、どうすればわれわれ日本人は幸せになれるのかということが問われている。未曾有の危
機にさらされ、苦境に立たされた今だからこそ、われわれは改めて幸せについて考え直す必
要がある。
そこで本稿では、日本人の幸福度の決定要因を把握・分析し、日本人の幸福度向上を推進
すべく、さまざまな側面から政策を提言する。
なお、本稿の構成は以下のとおりである。第 1 章で幸福度を取り巻く現状に触れ、第 2
章で先行研究について言及する。第 3 章でデータを用いて分析し、第 4 章で幸福度向上に向
けた政策を提言する。
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ISFJ政策フォーラム2011発表論文 17th – 18th Dec. 2011
第1章 現状・問題意識
第1節 幸福度の重要性
2010 年、日本政府は「幸福度」に関する調査研究を推進し、関連指標の統計の整備と充
実を図ることを新成長戦略において発表した。この「幸福度」とはどういった概念なのだろ
うか。幸福とは「人々の人生の肯定的な評価」2であり、「肯定的な感情、関与、満足と価
値が含まれている」3とされている。また、幸福を示す言葉として happiness や well-being の
他に life satisfaction(生活満足度)などの用語が用いられる。幸福度(happiness,well-being)は精
神面の幸福感を表すとされるが、
生活満足度はそこに収入や就業状況の影響が加味されて金
銭的、物質的な生活面の幸福感を表すという違いがある。Veenhoven(2004)はこの幸福を表 1
のように定義している。
Life-chance
Life-result
表 1 幸福の定義
Outer qualities
Inner qualities
Living in a good
Being able to cope
environment
with life
Being of worth
Enjoy life
for the world
出典:白石賢・白石百合子(2006)
表の横軸は、周囲の環境に存在する外的な性質(Outer qualities)と個人の内部に存在する内
的な性質(Inner qualities)であり、縦軸は良い生活のチャンス(Life-chance)と、生活の実際の結
果(Life-result)としている。これら 2×2=4 つの側面のうち、第 1 は生活環境の質(Living in a
good environment)であり、第 2 は個々人の生活能力(Being able to cope with life)である。第 3
は良い生活が生み出す良い状況(Being of worth for the world)であり、生態系の保護活動、文
化活動の推進などが具体例として挙げられる。最後の個々人の生活に対する良い意識(Enjoy
life)がまさに人々の心の中にある幸福なのであり、生活の主観的な評価(満足度、幸福度)
にあたる。
それではなぜ今、幸福度が注目されているのであろうか。それは GDP などの客観的な指
標だけでは日本人の豊かさを捉えきれなくなったからである。
「国民生活に関する世論調査」
によると、
「今後の生活で心の豊かさと物の豊かさのどちらかに重点をおくか」という設問
に「物の豊かさ」と回答した人の割合は 1972 年に 40.0%であったのに対し、「心の豊かさ」
と回答した人の割合は 37.3%であった。高度経済成長期は池田内閣の所得倍増計画からもわ
かるように国民総生産(GNP)に基づいた物質的な豊かさを重視しており、その後の日本の経
済政策も公共事業中心であった。つまり、日本人の幸福を考えるうえで、Veenhoven の定義
2
3
Dinner and Seligman(2004)
Seligman(2002)
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ISFJ政策フォーラム2011発表論文 17th – 18th Dec. 2011
する生活環境の質(Living in a good environment)にあたる部分を考慮した政策で十分であっ
た。しかし、90 年代以降に社会構造・産業構造が変化し、経済成長が従来のように国民の
豊かさと繋がらなくなった。事実、上記の調査で 2010 年には「心の豊かさ」と回答した人
の割合は 60.0%まで上昇し、一方で「物の豊かさ」と回答した人の割合は 31.1%まで低下し
ている。経済的な側面はある程度満たされるようになってきたので、精神的な側面がより重
視される傾向が強まってきていると考えられる。したがって、Veenhoven の定義する個々人
の生活に対する良い意識(Enjoy life)にあたる主観的な部分を考慮する際に幸福度は重要な
のである。
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ISFJ政策フォーラム2011発表論文 17th – 18th Dec. 2011
第2節 経済成長と幸福度の関係
では、本当に経済成長が幸福度向上に結びつかなくなったのであろうか。ある一時点の一
国内の個人の所得と幸福度の間には正の相関が認められる。
大阪大学 COE アンケートでは、
日本とアメリカにおいて、世帯所得の階層別に幸福度の回答頻度を調査した。その結果が、
図 1 と図 2 に示されている。
図 1 日本の世帯所得と幸福度
注:階級値の所得(万円)の上の数字はその階級値の頻度を表す。
出典:筒井(2009)
図 2 アメリカの世帯所得と幸福度
出典:筒井(2009)
どちらのグラフも、所得が多い人ほど幸福である一方で、所得の高い階層になると所得と
幸福度の正の相関は見られなくなる、という 2 つの傾向を示している。この結果は、幸福度
が効用を表していると想定すると、
限界効用が逓減するという経済学の基本法則と整合的で
ある。しかし、クロスセクションデータでは、絶対所得の増加は相対的な所得の増加も意味
するので、この図で見られる「所得と幸福度の正の相関」が、絶対的な所得増加によるもの
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ISFJ政策フォーラム2011発表論文 17th – 18th Dec. 2011
なのか相対的な所得増加によるものなのかは明らかでない。
そのことについては後程考察す
る。
クロスセクションデータとは対照的に、
幸福度を時系列的に比較したときには所得と幸福
度の間には正の相関が認められない。1 人当たり実質 GDP の変化を見てみると、1990 年に
は 372 万 9 千円で、2005 年には 424 万 4 千円まで上昇している。一方、「世界価値観調査」
によると、
「全体的にいって、現在、あなたは幸せだと思いますか」の 4 段階評価の平均得
点は、1995 年の 3.25 が最高で、1995 年以降は減尐傾向を示し、2005 年には 3.18 となって
いる(図 3)
。
図 3 1 人当たり実質 GDP と幸福度の関係
1人当たり実質 GDP(千円)
4,400
4,244
4,200
3.25
3.17
4,000
3,800
3,729
3,600
3.00
3.50
3,847
3,867
3.18
3.00
3,400
実質一人当たりGDP
1人当たり実質GDP
3,200
幸福度
3,000
2.50
1990
1995
2000
2005
年
出典:GDP については「国民経済計算確報」、「人口推計」により
幸福度については世界価値観調査より筆者作成
経済成長と幸福度とが相関しないこの現象は「幸福のパラドックス」と呼ばれている。こ
の原因として相対所得仮説と順応仮説が挙げられる。まず、相対所得仮説とは幸福度は所得
の絶対水準ではなく、他人と比べた相対的水準に依存するという仮説である4。経済学にお
いてこの概念は、Duesenberry(1949)によって定式化された。その式は、次のように表される。
𝑢 = 𝛽 ln𝑦 + 𝛽 ln
̅
= (𝛽 + 𝛽 )ln𝑦 − 𝛽 ln𝑦̅
(1)
ここで 𝑢 は第𝑖個人の t 期の効用もしくは幸福度、𝑦 は第𝑖個人の t 期の所得、𝑦̅ は、
一般的には、第𝑖個人が比較対象とする所得であり、ここでは、当該グループの平均所得、
𝑦̅ ≡ ∑ 𝑦 /𝐼、であるとする。(1)式は、個人が絶対所得𝑦 と相対所得𝑦 /𝑦̅ の両方から効
果を受けることを示しており、その相対的な強さが𝛽 と𝛽 によって表されている。もし、𝛽 が
0 であれば相対所得のみから効用を得ることになり、𝛽 が 0 であれば相対所得は影響しない
ことを表す。そして、この式を用い、幸福のパラドックスが示すように、国民の平均所得が
上昇しても国民の平均幸福度はそれほど上昇しないことを示す。
人々の幸福感が相対所得だ
けに依存し、絶対所得に依存しないという極端なケース(𝛽 =0)を考える。今、t=𝑡 (>𝑡 )で
すべての国民の所得が、t=𝑡 の時の 2 倍になったとする。このとき、
4
Clark et al.(2008)
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ISFJ政策フォーラム2011発表論文 17th – 18th Dec. 2011
𝑈
≡∑
𝑢
/𝐼 = 𝛽 ∑ ln
̅
/𝐼 = 𝑈
(2)
となり、平均の効用は全く変化しない。このような均一の所得増加でなくとも、誰かの所得
増加は、その人の相対所得を上げることによってその人の効用を上げるが、同時に他の人の
相対所得を下げて他の人の効用を下げることになる。このように、効用が相対所得に依存し
ている場合には、
一国内のある人の所得増加がもたらす効用増加の一部分が他人の効用減尐
によって相殺され、平均的な効用の増加に結びつかない。このように個人の幸福感が相対所
得のみに依存しているなら、幸福のパラドックスはほぼ完全に説明される。
それでは、人々の効用はどの程度相対所得に依存するのであろうか。これについて、Clark
et al.(2008)のサーベイは、Clark and Oswald(1996)などいくつかの研究において、絶対所得の
係数(𝛽 + 𝛽 )と参照点の所得(𝑦̅ )の係数(-𝛽 )がほぼ同じ値で逆の符号である(したがって
𝛽 =0)という推定結果が得られることを紹介している。しかし、これらの研究を含め、多
くの研究は参照点の所得として社会の平均所得を仮定している点で不十分である。一方、中
国を対象に調査した Knight and Song(2006)は参照点を尋ねている点で優れており、効用の増
加にとって相対所得は絶対所得の 2 倍以上重要であることを示している。
幸福のパラドックスを説明するもう一つの有力な仮説が、順応仮説である。これは人間が他
の動物と同様、環境の変化にすぐに慣れるというものである。たとえば所得が増えて生活水
準が上がると一旦は幸福度が上がるものの、
すぐにその状況に慣れてしまって元の幸福度に
戻る。この考え方は、ベースライン仮説として表現されることもある。個人の幸福感には本
来備えられている先天的な要素も踏まえた「ベースライン」の水準がある。震災などのニュ
ースによって、幸福度は一時的にそのベースラインから乖離するが、速やかに元の水準に復
帰する。
第3節 幸福度をめぐる動き
日本政府は 2010 年、幸福度に関する調査研究を含む新成長戦略を閣議決定し、その研究
を推進するために幸福度に関する研究会を立ち上げた。さらに 2011 年には同委員会が幸福
度指標の試案を発表した。試案では、子ども・若者、成人、高齢者の三世代ごとに「経済社
会状況」
、
「心身の健康」
、家族などとの「関係性」の三つの側面について約 60 の評価項目が
設定されている。また、幸福度の研究を進める自治体もみられる。
福岡県は「県民幸福度日本一」を目指して県政モニターアンケートを実施し、ライフステ
ージごとの幸せの条件を調査した。小・中学校期では家庭における十分な愛情を幸せの条件
として挙げる人が最も多く、高校・大学期においては家庭の事情に関わりなく、能力や個人
の特性に応じて教育を受ける環境を挙げる人が最も多かった。25~64 歳では仕事・家庭の
充実を、65 歳以上では経済的な安心を重視していた。ライフステージ共通で幸せと感じる
こととして、日常生活に必要な交通基盤、豊かな自然環境、犯罪が尐なく、安全・安心を実
感できる社会などが挙げられていた。
新潟市の取り組みとしては、個々の市民の視点に立ち、それぞれが社会において置かれて
いる状況に合わせて生活の充実度を捉えようとする NPH(Net Personal Happiness)がある(表
2)
。 そのほかにも、幸福度に関して県や市で独自に取り組む自治体も数多く存在する(表
3)
。
10
ISFJ政策フォーラム2011発表論文 17th – 18th Dec. 2011
評価軸
子どもたちが
恵まれている
安心・安全、
温かい家庭生活
やりがいのある仕事、
経済的ゆとり
社会とのつながり、
規範意識
高齢者も
恵まれている
表 2 NPH(Net Personal Happiness)
データ
保育所待機児童率、不登校の児童・生徒の割合、尐年犯罪率、
児童虐待率、高校・大学進学率
犯罪・火災発生率、家事審判・家事調停受理率、離婚率、
20~30 代女性出産率、交通事故死率、不慮の事故死率、自殺者率
失業率、15 歳以上女性の有業率、転職希望者率、生活保護世帯割合
自治会加入率、子ども会加入率、老人クラブ加入率、NHK 受信契
約率、給食費未納額の割合
単身居住高齢者の割合、高齢者に占める要介護等認定者の割合、
平均寿命、要介護等認定者で居宅介護を受けている人の割合
出典:千田・玉村(2010)より筆者作成
表 3 「幸福度」に関する地方自治体の取り組み
福岡県
福岡県は「県民幸福度日本一」を目指して県政モニターアンケートを実施し、ライフ
ステージごとの幸せの条件を調査した。
新潟県
2007 年 4 月に新潟市都市政策研究所を設置。NPH(Net Personal Happiness)による市
民の幸福度評価を提案した。
次期総合計画の『富国有徳の理想郷“ふじのくに”のグランドデザイン』(案)の基本
構想(案)の柱の一つとして、
「Ⅳ県民幸福の最大化に向けた重点取組」を掲げてい
る。
平成 20 年に「くまもとの夢4カ年戦略」を策定。同戦略では、県民総幸福量の最
大化に向けて、経済・長寿・品格・教育の 4 つの分野で取り組むとしている。
福井県総合政策部政策推進課が、
「地域の幸福度(QOC)」を福井人が共有する指標
として位置付け、その活用・推進を提案。
2007 年 3 月に「荒川区基本構想」を策定。同構想の中で「幸福実感都市あらかわ」
をビジョンとして掲げ、区民幸福を実感できる街を目指している。また、2009 年
11 月に住民の「幸福度」を指標化する研究会を発足させた。
西日本で初めて、GNH(グロス・ナショナル・ハピネス)の考え方を取り入れ、柏
原市民の GKH(グロス・カシワラ・ハピネス)を高めていくことを理念として掲げ
ている。
出典:辻(2010)より筆者加筆作成
静岡県
熊本県
福井県
東京都
荒川区
大阪府
柏原市
近年、日本だけでなく国際社会においても幸福度が注目を浴びるようになってきている。
国際社会における取り組みとして代表的なものに OECD の「よりよい暮らし指標」が挙
げられる。これは GDP だけでは測れない豊かさを測るために OECD が 2011 年に発表した
ものである。この指標は、住宅、収入、雇用、共同体、教育、環境、ガバナンス、医療、生
活の満足度、安全、ワーク・ライフ・バランスの 11 分野において 34 カ国間の比較を可能に
するものであり、
これをもとに各国の政府が人々のよりよい生活のための政策を行うことが
期待されている。
また EU における取り組みとして、2010 年に「2020 年戦略」が採択された。この「2020
年戦略」では GDP の成長目標をあえて設定せず、smarter、greener、more inclusive といった
スローガンを掲げて幸福度の向上を図っている。smarter とは人的資本のことであり、大卒
率を現在の約 31%から 40%に引き上げること、高校中退率を現在の約 15%から 10%に引き
下げることを目標としている。greener とは環境への配慮のことであり、2020 年までに温室
効果ガスの排出を 1990 年比 20%削減すること、再生可能エネルギー比率を 20%まで高める
11
ISFJ政策フォーラム2011発表論文 17th – 18th Dec. 2011
こと、エネルギー効率を 20%引き上げることが目標である。more inclusive はより包括的な
政策ということであり、貧困者を 2,000 万人削減することを目標としている。
各国の動きで代表的なものとしてイギリス、
フランス、アメリカの取り組みが挙げられる。
イギリスでは 2010 年から、国民が実感している幸福度を示す新指標を導入しようとの動き
が進められており、2012 年夏までに全国、地域の満足度に関する指標を確立することを目
標にしている。まだ不確定な要素は多いものの、この調査では幸福度を測るために、(1) 生
活の満足度は 10 段階で何番目か、(2) 昨日はどれくらい幸せだったか、(3) 職場や家庭で男
性と女性は平等に扱われているか、などの質問を盛り込むことが想定されている。調査の結
果は四半期ごとに発表される予定であり、定期的に調査結果を発表することで政策立案に役
立てていく方針である。
フランスでは 2009 年、サルコジ大統領がノーベル経済学賞受賞のコロンビア大のスティ
グリッツ教授とハーバード大のセン教授らの提言に基づき、
経済発展を目指す際に幸福度も
加味すべきだとの報告書を公表した。そしてその報告書をもとに GDP の計算方法を見直し、
長期休暇や環境への貢献といった幸福度に関わる要素を GDP に加味する提案を行ってい
る。
アメリカでは 1989 年以降、多くの地域で重要指標開発が始まり、やがて全米に広がった。
それを受け、
2010 年には超 GDP 指標開発法がアメリカ国民健康保険法の一部として成立し、
非営利団体「アメリカの現状」が新指標 KNI とシステムの開発を開始した。KNI には健康
に関する指標なども組みこむ予定であり、米国医療研究所は健康 20 指標を KNI に組みこむ
べきであるという提言を行っている。この 20 の指標は健康度そのものだけでなく、健康に
関連する行動、健康制度に関連する指標も含んでいる。
第4節 問題意識
今まで国の経済水準を測る指標として使われてきた GDP は物質的な豊かさに焦点を当て
ているが、それだけでは国民の主観的な生活満足度や幸福度を測ることはできない。しかし
近年、日本人は物質的な豊かさだけでなく精神的な豊かさも求めるようになっており、国際
的にも幸福度の計測方法が研究されるようになってきている。このように幸福度への関心が
高まる中、OECD が発表した「よりよい暮らし指標」によると、日本では自分の生活に満足
している人の割合は約 40%にとどまり、加盟国平均の約 59%を大きく下回っている。また、
世界価値観調査(2005)によると、日本人の幸福度は世界 97 ヵ国中 43 位である。以上のこと
から、日本人の幸福度は決して高くないことがうかがえる。こうした現状を踏まえ、われわ
れは日本人がより良い生活を送るためには、精神的な豊かさにも焦点を当てた指標、それを
もとにした幸福度を高めるための政策が必要であると考える。そこで本稿では日本人の幸福
度に影響を及ぼす要因を分析し、
それにより明らかになった結果を踏まえ日本人の幸福度を
高める政策を提言する。
12
ISFJ政策フォーラム2011発表論文 17th – 18th Dec. 2011
第2章 先行研究・本稿の位置づけ
第1節 先行研究
従来、幸福度に関する研究は社会学や心理学が中心であり、経済学の分野における研究は
尐なかった。しかし、1998 年の Economic Journal の特集を契機に、幸福に関する経済学的な
研究が本格的に行われるようになった。その後は、急速に研究が蓄積され、定型的な事実も
確立されている5。
本節では、
まず幸福度に影響を与えるさまざまな要素を「個人属性要因」
「社会属性要因」、
、
「経済的要因」という3つの要因に分類し、先行研究に言及しながら紹介していく。次に、
先行研究を用いるデータごとに分類する。
〈個人属性要因〉
・性別
男性よりも女性の方が幸福度が高いことが一般的に知られている。大竹(2004)、山田(2007)
などの先行研究でも同様の結果が得られている。
・年齢
加齢に伴って、幸福度は U 字状を描く(Blanchflower and Oswald[2000])。つまり幸福度は
若いうちは高く、中年期に一度低下した後、高齢期に再び上昇するということである。辻
(2011)は 15~19 歳を除いたいずれの世代も男性より女性の方が幸福度が高く、U 字の底は
40 代であることを実証した。
・健康
主観的健康感が社会的活動のうち個人活動、社会参加・奉仕活動、学習活動と正の相関が
あったことから、
主観的健康感が高まると社会活動への参加意欲も増し幸福度も上昇すると
推測される(竹内他[2011])。豊田(2010)は、幸福度に影響を与える要因が幸福度の高さによっ
て異なり、幸福度が比較的高い回答者では、よい家庭が築けているということ、理想の自分
との比較の影響を受け、幸福度が比較的低い回答者は自分自身や家族・親友の健康に影響を
大きく受けることを実証した。
〈社会属性要因〉
・結婚,子ども
未婚者よりも既婚者の方が幸福度が高いということは一般的に知られている(山田
[2007]、Kristen and Ono[2008])
。しかし、近年、未婚者と既婚者の幸福度の格差に縮小傾向
がみられる(白石・白石[2006])
。さらに、白石・白石(2006)は子どもの出産と子育てに伴い
特に母親に負担がかかることから、結婚による女性の幸福度は低下するが、親は子育てを通
5
Frey and Stutzer(2002)
13
ISFJ政策フォーラム2011発表論文 17th – 18th Dec. 2011
じて子どもから positive な影響を受け、更に離婚を防止するという効果もあることを示した。
また、既婚女性に関しては、世代や就業形態に関わらず結婚生活が幸福度を高めている(山
田[2007])。Kristen and Ono(2008)は日本では男性は仕事、女性は家庭というような性別役割
分業を行ったほうが、幸福度が高まる傾向があることも示した。
・教育
教育年数と幸福度の関係は薄いとされる(Frey and Stutzer[2002])。実際に Chen (2011)は日
本・韓国・台湾・中国の 4 つの地域を調査し、教育と幸福度の直接的な関係を説明できなか
った。しかし、教育が広い視野や人とのつながりの獲得に影響を与え、そのことが間接的に
幸福度に影響を与えることを示した。学歴は将来の高い所得や地位につながるため、幸福度
に正の影響を与える(大竹[2004]、佐野・大竹[2007])とされる。
・組織への所属
Helliwell and Barrington-Leigh (2010)では 2006~08 年度の世論調査のデータを用いてカナダ
における幸福度の分析を行い、地域間での幸福度の格差は大きいことが実証されている。ま
た、隣人への信頼、地域コミュニティへの帰属感といった社会的要因が幸福度に大きな影響
を与えることを示した。
・信頼度,つながり
信頼度と幸福度は、他者に対する信頼度合いが高いほど、幸福度が上昇するという関係に
ある(松本[2009]、Kuroki [2010])
。しかし、他者に対する信頼度が高い人が多い地域におい
て、すべての人の幸福度が上昇するわけではなく、他者に対する信頼度が低い人は、たとえ
他者に対する信頼度が高い人が多く住む地域に住んでいてもその影響を全く受けない
(Kuroki [2010])とされる。松本(2009)は対人的関係の「数」ではなく、対人的関係の「多様
性」が主観的幸福度に正の影響を与えることを示した。また、高齢者は社会参加が積極的で、
ソーシャルネットワークが豊かであるほど幸福度が高い(小田[2003]、岡本他[2004]、石川
他[2009])という研究もある。
・政治
Frey and Stutzer(2002)は、スイスにおける直接民主制の参政権の有無に関し、政治プロセ
スに参加する権利が付与されていることは幸福度を高めることを実証した。また、参政権が
付与され、政治に積極的に参加している場合、政治プロセスに関わっているという満足感が
幸福度を高めることも示した。山村(2010)は、政府規模および政府の公式情報開示が幸福度
に与える影響を分析し、
政府と市民のあいだの情報の非対称性は公共サービスのコストを負
担する人の幸福度を減退させるが、
サービスの享受者の幸福度には影響が見られないことを
実証した。
〈経済的要因〉
・所得
所得の増加は幸福度に正の影響を与える(Blanchflower and Oswald [2000])。しかし、筒井
他(2005)はそれに加えて、一定以上の所得を超えると幸福度が上昇しなくなることを指摘
し、所得は絶対水準よりも相対水準に依存することを示した。これは、幸福度は他者との比
較 し た 相 対 所 得 の 影 響 を 受 け る と い う 相 対 所 得 仮 説 と 呼 ば れ る (Dynan and Ravina
[2007],Clark et al.[2008])。さらに、Dynan and Ravina(2007)は所得が平均より高い地域に住む
人の方が、
平均より低い地域に住む人よりも相対所得が幸福度に与える影響が大きいことを
示した。松浦(2002)により、高齢者の幸福感を支える経済的要因は所得ではなく、消費と資
産(貯蓄残高)であることが明らかになった。
14
ISFJ政策フォーラム2011発表論文 17th – 18th Dec. 2011
日本の地域間経済格差と幸福度について分析した山根他(2008)は、幸福度の地域格差は所
得格差に比べて小さく、
個人属性を調整すると幸福度の地域差はほぼ解消されることを示し
た。賃金の格差でみた場合、実質都道府県所得と幸福度との相関は見られなかったものの、
個人の幸福度に対して所得水準は一定の影響をもっており、
個人レベルでの所得再分配を行
うことは幸福度を高めるために有効であるとした(森川 [2010a])。小塩・小林(2009)は個人
の性格や地域の特徴の違いを考慮に入れても所得格差が大きい地域に住んでいる人ほど幸
福度が小さく、不健康であるということを実証した。
・雇用
大竹(2004)は所得水準や個人属性をコントロールしても失業、失業経験、失業不安が幸福
度に負の影響を与えることを実証した。仮に仕事があったとしても、雇用形態が非正規およ
び、雇用契約期間が短い場合は幸福度に負の影響を与え(鶴[2011])、特に非自発的な非正
規雇用や短い雇用契約期間が幸福度に与える負の影響は大きい(久米他[2011]、馬[2009])
とされる。森川(2010a)は幸福度に対して賃金は正、労働時間は負の影響を与えるが、男性
は女性よりも賃金の幸福度への影響が大きく、労働時間短縮への選好が弱いことを示した。
そのため男性のワーク・ライフ・バランスの達成が困難であることを示唆している。
業種に着目してみると、佐野他(2007)、森川(2010b)はサービス業や金融業や公務員といっ
た職種が労務職やパートタイマーと比べ幸福度が高いことを実証した。また、産業をコント
ロールした場合、管理職は幸福度が高いことを示した。
浅野・権丈(2011)は日・英・独の労働時間と幸福度の関係を分析し、3 カ国間で幸福度に
大きな差は見られないものの、
日本の労働者は労働時間や職場環境の影響を受けやすいこと
を実証した。
<データごとの先行研究一覧>
紹介した先行研究を分析に用いたデータごとに分類すると下表のようになる。(表 4)
表 4 データごとの先行研究一覧
JGSS,GSS
公的統計データ
独自アンケート
大阪大学 COE
Blanchflower et al.(2000)
Dynan et al(2007)
Kuroki(2010)
Kristen et al(2008)
Chen (2011)
小塩・小林(2009)
松本(2010)
山田(2007)
山村(2010)
Clark,et al(2008)
Frey,and Stutzer (2002)
Helliwell et al (2010)
久米他(2011)
白石他(2007)
辻(2011)
鶴(2011)
森川(2010a)
森川(2010b)
浅野他(2011)
石川他(2009)
大竹(2004)
岡本他(2004)
小田(2003)
竹内他(2011)
豊田(2010)
馬(2009)
松浦(2002)
筒井他(2005)
佐野・大竹(2007)
山根他(2008)
15
ISFJ政策フォーラム2011発表論文 17th – 18th Dec. 2011
第2節 本稿の位置づけ
本稿の目的は日本人の幸福度の決定要因を把握し、国民の幸福度を高めるための政策提言
を行うことである。そのため、本稿では日本版 General Social Survey(JGSS)2008 年度版のデ
ータを用いて順序ロジット分析を行う。われわれが JGSS を用いた理由として、公的統計デ
ータと比べ個票データの入手が容易であったこと、
回帰分析を行うために十分なサンプル数
が確保できることなどが挙げられる。表 4 からも、JGSS や GSS を用いた幸福度の実証研究
は数多くなされてきたことがわかる。
前節で述べたように、これまでの幸福度に関する実証研究の多くは幸福度と「経済的要
因」
、
「個人属性要因」、
「社会属性要因」などとの関係に着目したものであった。しかし、
「平
成 22 年度国民生活選好度調査」において、幸福度を判断する際に重視した基準として「将
来への期待・不安」を挙げた人が最も多く、日本が今後目標とすべき社会はという問いに対
して、安全・安心に暮らせる社会を挙げた人が最も多かった。このことから、幸福度は期待
や不安といった精神的な要素からも影響を受けることが考えられる。それにもかかわらず、
幸福度と「安全・安心要因」との関係に着目した先行研究はほとんどみられない。したがっ
て、われわれは幸福度に影響を与える要因を上記の要因のみに限定せず、新たに「安全・安
心要因」を加え、個人の幸福度に影響を与える要因、さらにはその影響の度合いを明らかに
する。また、先行研究はいずれかの分野に特化して分析したものが多く、幅広く分析したも
のはほとんど見られない。
幅広い分析を行うことでさまざまな側面から幸福度にアプローチ
することが可能となる。
16
ISFJ政策フォーラム2011発表論文 17th – 18th Dec. 2011
第3章 分析
第1節 本稿の分析
本稿では、順序ロジット分析6を用いて実証分析を行う。この分析により個人の幸福度の
決定に影響を与える要因、さらにはその影響の度合いを明らかにする。
最小二乗法(OLS)に代表される一般的な回帰分析とロジット分析・プロビット分析の最大
の相違点は両者が扱う変数の違いにある。OLS では被説明変数が連続変数であるのに対し、
ロジット分析・プロビット分析では被説明変数が離散変数であるという違いがある。ロジッ
ト分析とプロビット分析の最大の相違点は、
ロジット分析においてはある選択肢を選択する
確率がロジスティック分布に従う一方、
プロビット分析においてはそれが標準正規分布に従
うという点である。本稿ではロジット分析を用いる。また、被説明変数に幸福度に関する 5
段階の順序尺度7を用いるため、ロジット分析の中でも選択肢が 3 つ以上で順序のある場合
に用いられる順序ロジット分析を採用する。
第2節 順序ロジット分析
<理論>
本節の理論に関する説明は北村行伸「ミクロ計量経済学入門」を参照のうえ、執筆した。
被説明変数 𝑦 が 0 か 1 しかとらない 2 値変数である場合を考える。線形回帰モデル、
𝑦 =𝑥 𝛽+𝑢
(3)
を考える。𝑦 は 0 か 1 しかとらないので、𝛽 を 𝑥 が 1 単位増加したときの 𝑦 の変化
量と考えることはできない。(3)式の両辺の条件付期待値をとると、
E[𝑦 |𝑥 ] = 𝑥 𝛽
(4)
を得る。今、𝑦 は 2 値変数であるから、常に P[𝑦 = 1|𝑥 ] = E[𝑦 |𝑥 ] が成り立つ。すなわ
ち、
P[𝑦 = 1|𝑥 ] = 𝑥 𝛽
(5)
が成り立つのである。つまり、𝛽 は 𝑥 が 1 単位増加したときの成功率の変化を表す。ゆ
えに、これは線形確率モデルと呼ばれる。
6
7
順序ロジスティック回帰分析と呼ばれる場合もある。
質的変数のうち、与えられた数値に対し、それらの大小関係のみが意味を持つ尺度のこと。数値間の等間隔性は保証
されない。
17
ISFJ政策フォーラム2011発表論文 17th – 18th Dec. 2011
線形確率モデルは、推計が OLS により簡単に行うことができ、係数の解釈も明確である
が、以下のような欠点を持つ。
1、 推定結果で確率が 0 以下になったり、1 以上になったりする可能性がある。
2、 𝛽 が 𝑥 に対して一定である。
これらの欠点を解消するのがプロビット・モデルとロジット・モデルである。
G(z) をどんな実数 z に対しても0 < 𝐺(𝑧) < 1 を満たす関数とし、
P[𝑦 = 1|𝑥 ] = 𝐺(𝑥 𝛽)
とおく。
プロビット・モデルではこのG(z) を標準正規分布の累積分布関数、
G(z) = ∫
exp (− ) 𝑑 𝜈 ≡ Φ(z)
(6)
(7)
で特定化する。
一方、ロジット・モデルはこの G(z) を標準ロジスティック関数、
G(z) =
( )
( )
≡ 𝛬(𝑧)
(8)
で特定化する。
このように G(z) を特定化すれば、0 < 𝑃[𝑦 = 1|𝑥 ] < 1 となることが保証され、線形確
率モデルの欠点が回避される。
本稿のモデルでは、被説明変数は序数で表され、次のように定義する。
𝑦 = 1,2, ・・・5
本稿の分析では被説明変数の順序に意味がある。
このようなデータを通常の線形回帰モデル
で分析するのは不適切である。なぜなら、線形回帰モデルでは 1 と 2 の差を 2 と 3 の差と同
等に扱うことになるが、選択肢に与えられた 1、2、…という数値は便宜上のものであり、
これはあくまで主体の選択肢に対する順番を表しているに過ぎないからである。
この回答結
果は順番である、というデータの特性を反映するために用いられるのが順序プロビット・モ
デルや順序ロジット・モデルである。
順序選択モデルでは被説明変数 𝑦 が次のような連続潜在変数 𝑦 に対応していると考
える。
𝑦 =𝑥 𝛽+𝑢
𝑖 = 1,2,3, … 𝑛
(9)
ここで 𝑥 は説明変数、𝑢 は誤差項である。
定義により潜在変数 𝑦 は観察できないが、被説明変数 𝑦 は観察できる。この 2 つの変数
は次のような関係で表されると考えられる。
𝑦 =𝑗
⇔
𝑘
<𝑦 <𝑘
𝑗 = 1,2 … 5
(10)
この対応関係は閾値メカニズムと呼ばれている。すなわち、5 個の選択肢は実数を 5 個の区
間に分割して対応させればよく、区分するためには次のように閾値 𝑘 < 𝑘 … … < 𝑘 を決
める。
𝑦 =1 ⇔ 𝑘 <𝑦 <𝑘 ⇔ 𝑘 −𝑥 𝛽 <𝑢 <𝑘 −𝑥 𝛽
𝑦 =2 ⇔ 𝑘 <𝑦 <𝑘 ⇔ 𝑘 −𝑥 𝛽 <𝑢 <𝑘 −𝑥 𝛽
・
・
18
ISFJ政策フォーラム2011発表論文 17th – 18th Dec. 2011
𝑦 =5 ⇔ 𝑘 <𝑦 <𝑘 ⇔ 𝑘 −𝑥 𝛽 <𝑢 <𝑘 −𝑥 𝛽
(11)
ここで 𝑘 = −∞ , 𝑘 = ∞
J =5 より、決定しなければならない閾値は 𝑘 から 𝑘 の 4 つであり、𝑦 = 1 と 𝑦 = 2 の
境界で 𝑘 が決まり、𝑦 = 2 と 𝑦 = 3 の境界で 𝑘 が決まる。𝑦 がある値をとる確率は次
のように表せる。
𝜋 = 𝑃(𝑦 = 𝑗|𝑥 ) = 𝐹(𝑘 − 𝑥 𝛽) − 𝐹(𝑘 − 𝑥 𝛽)
(12)
ここで、𝑗 = 1,2 … 5、𝐹(−∞) = 0、𝐹(∞) = 1。また閾値を決めるため、説明変数には通常、
定数項は含めない。確率分布変数として、正規分布(𝛷(𝑢))を選べば順序プロビット・モデル
になり、ロジスティック分布(𝛬(𝑢))を選べば順序ロジット・モデルになる。順序プロビット・
モデルは一般的に結果の解釈が複雑である。
順序ロジット・モデルでは確率変数は次のように表せる。
𝜋 = 𝑃(𝑦 = 𝑗|𝑥 ) = 𝑃(𝑦 ≤ 𝑗|𝑥 ) − 𝑃(𝑦 ≤ 𝑗 − 1|𝑥 )
= 𝛬(𝑘 − 𝑥 𝛽) − 𝛬(𝑘 − 𝑥 𝛽)
𝑗 = 1,2, … 5
(13)
ロジット・モデルでは、確率比であるオッズ比で説明変数の効果を評価する。
(
| )
(
| )
= 𝑒𝑥𝑝(𝑘 − 𝑥 𝛽)= 𝑒𝑥𝑝(𝑘 )𝑒𝑥𝑝(−𝑥 𝛽)
⇔𝑙𝑛 (
(
| )
(
| )
) =𝑘 −𝑥 𝛽
(14)
オッズ比の相対比を次のように表す。
(
(
|
|
)
)
(
|
)
(
|
)
=
(
)
(
)
(15)
以上で定義した確率を掛け合わせた順序選択確率関数は次のように表すことができる。
𝑓 = (𝑦 |𝑥 ; 𝛽, 𝑘 , … 𝑘 ) = (𝜋 )
… (𝜋 )
(𝜋 )
=∏
(𝜋 )
(16)
ここで
𝑑 = {
1 選択肢 𝑗 が選ばれた場合(𝑦 = 𝑗)
0 𝑗 以外の選択肢が選ばれた場合
(17)
𝑛 人の個人に対する対数尤度関数は次のように定義できる。
𝑙𝑜𝑔 𝐿 (𝛽, 𝑘 , 𝑘 … 𝑘 ; 𝑦, 𝑥) = ∑
∑
𝑑 𝑙𝑜𝑔 𝜋
この式に対して最尤推定法を行うことで不偏推定量を得ることができる。
19
(18)
ISFJ政策フォーラム2011発表論文 17th – 18th Dec. 2011
<オッズ比>
ロジット・モデルでは、説明変数の効果を評価するのに確率比であるオッズ比を用いる。
事象が発生する確率を p とした場合に 𝑝/1 − 𝑝 の値のことをいう。8また、オッズの対数
はその確率のロジットと呼ばれる。オッズ比は、説明変数の値が 1 増加した時に、被説明変
数の値が 1 増加する確率が説明変数の増加前に比べて何倍になるかを表したものである。
よ
り直感的な説明をするならば、
オッズ比が 1 未満ならその説明変数は被説明変数に対して負
の影響をもっており、1 より大きければ大きいほど正の影響が大きくなる、ということにな
る。
第3節 変数選択
これらの分析の方向性を踏まえた上で、
「個人属性要因」、
「社会属性要因」、
「経済要因」
に「安全・安心要因」を加えた4つの要因が幸福度の決定に与える影響を順序ロジット分析
によって明らかにする。ここで「個人属性要因」とは、性別や年齢といった個人の性質に関
する要因である。また、
「社会属性要因」は婚姻状況や学歴など、個人の社会的地位に着目
した要因である。
「経済要因」については、所得を変数として用いることでお金と幸福の関
連を考察する。最後に「安全・安心要因」は個人の精神状態の安定に影響を及ぼす要因であ
る。
<被説明変数>
本稿では、被説明変数に個人の幸福度を用いる。また、個人の幸福度のデータには Japanese
General Social Survey (JGSS)の 2008 年のデータを使用する。JGSS は、全国の 20~89 歳の男
女個人を対象とした調査であり、複数の調査形態が存在するが、本稿では留置 A 票を用い
る。その中に、
「あなたは、現在幸せですか。
」という問いに「幸せ」から「不幸せ」の 5
段階で回答する設問があり、このデータを「不幸せ」を 1、
「幸せ」を 5 として数値化した
ものを各個人の幸福度とする。
<説明変数>
(1) 個人属性要因
個人属性要因には「性別ダミー」、
「年齢グループ(10 歳区切り)」、
「主観的健康感」を用
いる。説明変数についても被説明変数と同様、JGSS のデータを使用する。
「性別ダミー」は、
女性を 0、男性を 1 としたダミー変数である。Inglehart(2003)では、一般的に女性の方が男
性より幸福度が高いことが示されている。「年齢グループ(10 歳区切り)」とは、回答者の
年齢を 20~29 歳、30~39 歳、…、80~89 歳と 7 グループに区分して、グループごとに 2、
3、…、8 と数値化したものである。Frijters et al.(2001)によると、幸福度は若年から中年にか
けて一度低下するものの、高齢になるにつれて再び上昇する U 字型の関係があることが示
されている。
「主観的健康感」については、「あなたの現在の健康状態は、いかがですか。」
という問いに「良い」から「悪い」の 5 段階で回答する設問を用いて、
「悪い」を 1、
「良い」
を 5 として数値化したものを各個人の主観的健康感とした。佐野・大竹(2007)において、主
観的健康感の値が大きくなればなるほど、幸福度の値も大きくなることが示されている。
8
以下に簡単な例を挙げる。
事象が起こる確率 𝑝 = 0 2 とすると、1 − 𝑝 = 0 8 であり、オッズ 𝑝/1 − 𝑝 = 0 25 となる。また、事象の確率 𝑞 = 0 3
/
とすると、1 − 𝑞 = 0 7 であり、オッズ q/1 − 𝑞 = 0 43となる。このとき、オッズ比を求めると、
= 0 43/0 25 = 1 72
/
である。
20
ISFJ政策フォーラム2011発表論文 17th – 18th Dec. 2011
(2) 社会属性要因
社会属性要因には「結婚ダミー」、
「大卒ダミー」
、「組織への所属」を用いる。「結婚ダミ
ー」に関しては、
「結婚している」場合を1、そうでない場合を 0 とした。
「大卒ダミー」に
ついては、最終学歴を問う設問に対して「旧制大学・大学院」
、
「新制大学」
、「新制大学院」
と答えた場合を 1、それ以外の場合を 0 とした。
「組織への所属」では、
「あなたは、次にあ
げる会や組織に入っていますか。
」という問いに対して、業界団体、政治団体、ボランティ
アグループ、市民運動のグループ、宗教の団体や会、スポーツ関係のグループやクラブ、趣
味の会、生協の計 8 つのグループや団体にそれぞれ属していれば「はい」
、属していなけれ
ば「いいえ」と答える形式の設問を利用した。8 つのうち 5 つ以上「はい」と答えた場合を
2、1~4 つの場合を 1、いずれの組織にも所属していない場合を 0 とした。婚姻状態に関し
ては白石・白石(2007)によって、学歴に関しては Blanchflower and Oswald(2000)によって、
組織への所属に関しては Helliwell and Barrington-Leigh(2010)によって、それぞれ変数の値が
大きいほど、その値が 0 のときと比べて幸福度の値も大きくなることが明らかにされてい
る。
(3) 経済要因
経済要因には「相対所得」を用いる。日本人の国民性として、他者との比較により自身の
価値や地位を評価する傾向があるということが、先行研究により明らかにされている。そこ
で、本稿においては絶対所得ではなく、相対所得を使用した。具体的には、自身の所得を世
間一般の所得と比較して「平均よりかなり尐ない」と思う場合を 1、
「平均よりかなり多い」
と思う場合を 5 とする 5 段階で評価したものを変数として用いた。Clark et al.(2008)より、
所得と幸福度には正の相関があることが予想される。
そして、今回実際に JGSS2008 のデータを用いて、相対所得と絶対所得どちらのほうが幸
福度に与える影響が大きいかを調べた。JGSS において相対所得に関する設問は『世間一般
と比べて、あなたの世帯収入はどれぐらいですか。
』という問いであり、
「平均よりかなり尐
ない」
、
「平均より尐ない」
、
「ほぼ平均」
、
「平均より多い」、
「平均よりかなり多い」の 5 段階
で回答する。絶対所得に関する設問は『昨年 1 年間のあなたの家の世帯収入は、この中のど
れにあたりますか。
税金を差し引く前の収入でお答えください。仕事からの収入だけでなく、
株式配当、年金、不動産収入などすべての収入を合わせてください。
』という問いで、一番
年収が低い回答が「0 円」
、高い回答を「2300 万円以上」として 19 段階で回答する。
(4) 安全・安心要因
安全・安心要因には「救急医療体制への不安」、
「近隣の危険地域の有無」
、
「失業に対する
不安」
、
「年金に対する不安」を用いる。
「救急医療体制への不安」は、地域における救急医
療体制への不安をとても感じていれば 5、まったく感じていなければ 1 としている。
「近隣
の危険地域の有無」は、自宅周辺の 1 キロ圏内に危険だと感じる地域があれば 1、なければ
0 としている。
「失業に対する不安」は、今後 1 年間に失業する可能性がかなりあると思え
ば 4、まったくなければ 1 としている。
「年金に対する不安」は、
「現在年金を受け取ってい
る人たちに比べて、あなたが老後に受け取る年金の額はどうなっていると思いますか。」と
いう設問に対し、
「かなり良くなっている」、「尐し良くなっている」、「だいたい同じ」、
「現
在年金を受けている」
と回答した場合を年金に対する不安がない人、
「尐し悪くなっている」、
「かなり悪くなっている」
、
「わからない」と回答した場合を不安がある人とし、ある場合を
1、不安がない場合を 0 とした。将来に対して不安を抱いていることや、近隣に危険が存在
していること等の要因は、実際に現在、直接的に個人に何らかの害を及ぼしているわけでは
ない。しかし、こうした不安や恐れは必ずしも現在の幸福度と切り離して考えることはでき
ない。そのため、これらの要因はいずれも幸福度に負の影響を与えることが予想される。
21
ISFJ政策フォーラム2011発表論文 17th – 18th Dec. 2011
第4節 分析モデル
以上の変数を用いて順序ロジットによる分析を行う。分析に用いるのは 2008 年の JGSS
のアンケート調査の回答の中から、外れ値や無回答などを除いた 1021 のサンプルである。
分析式は以下のとおりである。
Y =∑
𝛽 𝑋
,
+𝜀
(19)
サンプル数:1021
Yi:主観的幸福度
X₁:性別ダミー
X₂:年齢グループ(10 歳区切り)
X₃:主観的健康感
X₄:結婚ダミー
X₅:大卒ダミー
X₆:組織への所属
X7:相対所得 or 絶対所得
X₈:救急医療体制への不安
X₉:近隣の危険地域の有無
X10:失業に対する不安
X11:年金に対する不安
ε::誤差項
第5節 分析結果
分析結果は以下 表 5 および 表 6 のとおりである。表 5 は相対所得を入れた場合、表 6
は絶対所得を入れた場合である。いずれの場合も表が示すように、主観的健康感、結婚ダミ
ー、所得、失業に対する不安、年金に対する不安が説明力をもつという結果がでた。絶対所
得を用いた分析では、性別ダミーも説明力をもっている。主観的健康感、結婚ダミー、所得
は正の影響力をもつが、安全・安心要因の 2 つはオッズ比が 1 未満であることから負に影響
している。変数の記述統計量については表 7 に記載する。
22
ISFJ政策フォーラム2011発表論文 17th – 18th Dec. 2011
表 5 分析結果(相対所得)
変数
オッズ比
標準誤差
P値
性別ダミー
0.975
0.123
0.838
年齢
1.001
0.055
0.899
主観的健康感
1.761
0.110
0.000
結婚ダミー
2.022
0.303
0.000
大卒ダミー
0.946
0.134
0.716
組織への所属
1.205
0.145
0.122
相対所得
1.333
0.099
0.000
救急医療体制への不安
0.929
0.053
0.194
近隣の危険地域の有無
1.137
0.143
0.306
失業に対する不安
0.727
0.056
0.000
年金に対する不安
0.588
0.128
0.015
Log likelihood
−1208 9536
Pseudo R
0 0759
Number of obs
1021
表 6 分析結果 (絶対所得)
変数
オッズ比
標準誤差
P値
性別ダミー
0.702
0.104
0.017
年齢
0.970
0.536
0.584
主観的健康感
1.832
0.115
0.000
結婚ダミー
2.140
0.319
0.000
大卒ダミー
0.930
0.133
0.611
組織への所属
1.201
0.145
0.128
絶対所得
1.091
0.240
0.000
救急医療体制への不安
0.926
0.526
0.178
近隣の危険地域の有無
1.100
0.381
0.450
失業に対する不安
0.733
0.057
0.000
年金に対する不安
0.512
0.113
0.002
Log likelihood
−1208 5649
Pseudo R
0 0762
Number of obs
1021
23
ISFJ政策フォーラム2011発表論文 17th – 18th Dec. 2011
表 7 記述統計量 サンプル数:1021
変数
平均
標準偏差
歪度
尖度
最小値
最大値
主観的幸福度
3.910
0.927
-0.560
2.883
1
5
性別ダミー
0.560
0.497
-0.239
1.057
0
1
年齢
4.286
1.353
0.121
2.341
2
8
主観的健康感
3.756
1.031
-3.000
2.195
1
5
結婚ダミー
0.749
0.434
-1.150
2.323
0
1
大卒ダミー
0.276
0.447
1.001
2.002
0
1
組織への所属
0.589
0.512
-0.132
1.540
0
2
相対所得
2.703
0.857
0.477
2.867
1
5
絶対所得
7.410
3.440
0.492
3.247
1
19
救急医療体制に対する不安
3.071
1.065
0.982
2.161
1
5
近隣地域の危険地域の有無
0.628
0.484
-0.529
1.280
0
1
失業に対する不安
1.623
0.797
1.082
3.343
1
4
年金に対する不安
0.883
0.321
-2.390
6.712
0
1
第6節 分析に対する考察
本節では、前節で得た分析結果に対し、先行研究の内容と照らし合わせながら考察を加え
る。表 5・表 6 のいずれでも説明力をもつという結果を得た、主観的健康感と結婚ダミーに
関しては、先行研究と同じように、自分が健康であると感じていれば幸福度の値も大きくな
り(佐野・大竹[2007])
、既婚者であれば幸福度の値も大きくなる(白石・白石[2007])とい
う結果を得た。次に所得に関しては、前述のように、日本人の国民性として他者との比較に
より自分の幸福度を判断することが先行研究により明らかにされている。前節の分析では、
相対所得のオッズ比が 1.333、絶対所得のオッズ比が 1.091 であることから、前者のほうが
より大きな正の説明力をもつことがわかる(筒井他[2005])。絶対所得を用いた場合に影響
力をもつ性別に関しては、オッズ比が 1 未満であることから、先行研究と同様、女性のほう
が幸福度が高いということがわかる(Inglehart[2003])。上記のいずれも、先行研究と整合的
な結果を得ることができた。年金に対する不安、失業に対する不安の 2 つは、いずれもオッ
ズ比が1未満であり、負の影響力を持つ。このことから、将来に関して不安に思う事柄があ
る場合、現在の幸福度が下がってしまうということが明らかになった。以下では、コントロ
ール変数である主観的健康感および結婚ダミーを除いた変数に関して政策提言を行う。
24
ISFJ政策フォーラム2011発表論文 17th – 18th Dec. 2011
第4章 政策提言
本稿の分析では主観的健康感、相対所得が主観的幸福度と正の関係にあること、年金に対
する不安、失業に対する不安が主観的幸福度と負の関係にあることがわかった。そこで、幸
福度向上のために、年金制度の改革、所得格差の縮小、失業対策の 3 つを提言する。
第1節 失業対策
1980 年代に平均 2.5%だった失業率は 90 年代に上昇し、2000 年代には平均 5.1%となって
いる。この背景には雇用が不安定な非正規労働の増加による労働者の失業頻度の高まり、求
人状況の悪い時期に就職した新卒者の転職率の高さ、非正規労働者が正規労働へ転換するこ
との難しさがある。
失業率の上昇は個人の幸福度を下げることが先行研究からわかっている
ため、幸福度を向上させるには雇用創出、就業支援などに力を入れることで失業率を改善す
ることが必要である。
失業者が新たな職に就くには、職業訓練が重要となってくる場合があるが、現在の職業訓
練には技術系が多く、介護や医療、情報通信産業といった成長分野に関する訓練が尐なく、
産業構造の変化に対応できていないといえる。
<政策提言>
① 職業訓練制度の改革
高齢化が進む日本社会において、介護、医療分野に対する需要は今後増大すると考えられる。
職業訓練に関しては、将来の成長分野となりうる介護、医療分野における訓練に力を入れ、現在
の構造にも対応するため情報・通信分系職業訓練を増加させる。
② 新たな正規公務員の雇用
新たな正規公務員の雇用の財源には所得の比較的多い管理職を中心に公務員給与を 5%程
度削減し充てる。日本の公務員数は国際的にみても尐ないため(表 8)、新たな職員を雇用
することで業務の効率化が見込まれる。
表 8 公務員の国際比較
日本
イギリス フランス アメリカ ドイツ
人口千人あたり公務員数(人)
42.2
97.7
95.8
73.9
69.6
各国公務員総人件費(2002 年)
対 GDP 比(%)
6
8
14
10
8
対政府歳出比(%)
17
19
26
28
16
出典:野村総合研究所『公務員数の国際比較に関する調査報告書』平成 17 年より筆者作成
25
ISFJ政策フォーラム2011発表論文 17th – 18th Dec. 2011
<政策の効果>
現代の産業構造に対応し、
かつ将来の成長産業を見据えた職業訓練によって失業率を低下
させることができる。また、新たな正規公務員の増加は安定した雇用の創出につながる。よ
ってこれらの政策による失業率の低下は幸福度の向上に寄与すると考えられる。
第2節 年金制度の改革
年金の財政方式には積立方式と賦課方式がある。
積立方式とは勤労世代が将来自分たちの
世代の受給する年金を積み立てる方式であり、
賦課方式とは勤労世代が拠出した保険料でそ
の時の高齢者世代に対する給付を賄う方式である。
現在日本の年金制度は賦課方式となって
おり、尐子高齢化が急速に進む中、財源の確保が問題となっている。よって保険料の引き上
げと給付のカットが必要となるが、これは世代間の不公平を生む。さらに、保険料の引き上
げには上限、給付のカットには下限があるため、2006 年に発表された人口推計(出生率 1.26)
と、2004 年の年金財政再計算の経済前提9をもとに厚生年金の積立金残高の推移を計算した
ところ、2060 年ごろに積立金の残高がなくなるという試算もある(図 4)
。
また国民年金保険料は定額であるであるため、国民年金保険料を納められない低所得者が
多いことも問題の1つである。
しかし現在の低所得者に対する減免制度では保険料の減額は
給付の減額につながり、低年金の人を生み出すことになる。
そこで幸福度向上に向け、不公平感を解消し、将来世代にわたって安定的に財源を確保で
きる年金制度を提言する。
図 4 厚生年金積立推移 (脚注 9 参照)
出典:中田大悟「新人口推計を契機に
建設的な年金論議を(II) 」
<政策提言>
① 基礎年金財源の消費税方式化と厚生年金の積立方式への移行
現在 5%の消費税率を 10%に引き上げて基礎年金の財源に充て、国民年金保険料を廃止す
る。ここで、基礎年金財源を税方式化しても、過去の保険料納付実績に応じて給付を減額す
る場合、自営業者世帯では負担は増えない(表 9)
。
② 厚生年金の積立方式への移行
約 100 年かけて厚生年金を賦課方式から積立方式に移行する。賦課方式から積立方式へい
きなり移行すると、
勤労世代が自分たちの積立金に加えて移行時の受給世代への給付まで負
担せねばならない。そこで、移行時の受給世代への給付を国の負債で賄い、その負債を長い
名目賃金上昇率 2.1%、名目積立金運用利回り 3.2%、物価上昇率 1.0%
マクロ経済スライド:年金給付の伸び率を物価の伸び率より低くすることで給付をカットする。
9
26
ISFJ政策フォーラム2011発表論文 17th – 18th Dec. 2011
期間をかけて尐しずつ返済することで、勤労世代の負担を軽減する。さらに基礎年金財源の
消費税化を同時に行うことで、
厚生年金保険料を引き上げることなく積立方式へ移行するこ
とができる。これは現在、厚生年金の保険料のうち約 4%が基礎年金の財源に充てられている
ためであり、基礎年金財源を消費税化して厚生年金保険料を据え置くことで、積立方式に移行す
るための財源を生み出すことができる。
<政策の効果>
基礎年金財源の消費税方式化と同時に積立方式に移行すると、厚生年金保険料を引き上げ
ずに積立方式へ移行することができ、世代間の不公平も大幅に改善される。また、積立方式
に移行することで、年金制度の長期的な安定を確保することができる。
さらに基礎年金財源を消費税方式化によって、無年金・低年金になる人が減るため、高齢
者の所得格差が縮小し、全体の所得格差も縮小する。また現在、厚生・共済年金加入者の年
収 130 万円以下の配偶者は国民年金保険料を負担していないが、
基礎年金財源の税方式化に
より消費税という形で負担するため、自営業者の専業主婦(夫)との不平等も解消される。
世代間の公平性が改善され、安定的な財源を確保できるという観点から、この政策は幸福度
向上に寄与すると考えられる。
表 9 社会保障国民会議の試算(経済前提は脚注 9)
年度
基礎年金 現行制度国 税方式化による追加
給付費
庫負担10
負担
(兆円)
(兆円)
消費税換算
2009
19
10
9
3.50%
2015
24
12
12
3.50%
2025
29
14
15
4.00%
2050
49
29
26
6.00%
出典:社会保障国民会議 HP より筆者作成
第3節 所得格差の縮小
近年、非正規労働比率の増加や高齢化の進展によって所得格差が拡大している。1980 年代後
半から 90 年代にかけて、中堅所得者層の負担累増感を緩和する観点から、所得税率の累進度
の見直しが行われた。その結果、給与収入が 500 万円から 1000 万円の中所得者層の所得税
負担額は昭和 61 年の半分以下となり、給与収入 1500 万円以上の高所得者層の所得税負担額
は 6 割になった。
さらに低所得層への社会保険給付は社会保険料の負担が大きさの割に手厚
くないため、再分配によっても中所得者と低所得者の所得格差があまり縮小せず、相対的貧
困率11の低下が小さい。
低所得者を支援する施策としては住宅支援がある。
これは住宅確保が困難な低所得者に対
して低い家賃で公営住宅を賃貸する制度である。
しかし、
公営賃貸住宅は家賃が低いものの、
一旦退出すると新たに公営住宅に入居するのは困難であるため、低所得者・失業者が就職機
会のより豊富な地域に転居することを妨げ、公営・公団借家比率の高い都道府県の失業率を
高める一因となっている。
国庫負担割合が 3 分の 1 から 2 分の 1 に引きあげられたが、財源が手当されていない(消費税約 1%
分)。
11等価所得(世帯所得を世帯人数の平方根で割ったもの)の中央値の半分に満たない人の割合
10
27
ISFJ政策フォーラム2011発表論文 17th – 18th Dec. 2011
<政策提言>
① 所得税の累進度緩和の是正と低所得者に対する家賃補助
課税所得12195 万円 以下の部分の所得税率を現行の 5%から 1%に引き下げ、課税所得
195~330 万円の部分の税率を 10%から 16%、
課税所得 330~695 万円の部分の税率を 20% か
ら 27%、695~900 万円の部分の税率を現行の 23%から 35%、900~1800 万円の部分の税率
を 33%から 40%、1800 万円以上の部分の税率を 40%から 50%に引き上げる(表 10・11)
。
表 10 所得の構成比
給与所得(万円)
構成比(%)
~600
82.4
600~1000
13.7
1000~1500
2.8
1500~2500
0.8
2500~
0.2
出典:国税庁『平成 22 年分民間給与実態統計調査』より筆者作成
表 11
給与収入
500
700
1000
1500
2000
3000
給与所得者(夫婦子 2 人)の所得税負担額の推移(万円)
1986 年度
86 年以降の改革
2007 年度
政策提言による
負担額
による軽減額
負担額
増減額
22.5
52.2
117
278
490
990
-16.6
-35.7
-57.8
-114
-168
-314
5.95
16.5
59.1
164
321
676
-4.74
4.05
20.7
62.6
95.4
190.2
出典:鳴島(2009)より筆者作成
② 低所得者に対する家賃補助
現行の低所得・失業者に対する住宅支援は老朽化した公営住宅13の建て替え・新築を進
め、そこに入居してもらうという形をとっている。これを、公営住宅と同種の民間住宅をあ
っせんし、公営住宅とその民間住宅との家賃の差額を補助するという形に変えていく(表
12)
。その際、家賃補助の財源には老朽化した公営住宅の跡地を民間業者に売却した資金を
充てる。
表 12 公営住宅の家賃算定基礎額14
入居者の月収
家賃算定基礎額
~10 万 4000 円
3 万 4400 円
10 万 4000~12 万 3000 円
3 万 9700 円
12 万 3000~13 万 9000 円
4 万 5400 円
13 万 9000~15 万 8000 円
5 万 1200 円
15 万 8000~18 万 6000 円
5 万 8500 円
18 万 6000~21 万 4000 円
6 万 7500 円
21 万 4000~25 万 9000 円
7 万 9000 円
25 万円~
9 万 1100 円
出典:公営住宅法施行令より筆者作成
12
13
14
給与所得―給与所得控除額―所得控除額
入居資格三原則は同居親族の存在、月収 15 万 8000 円以下、現に住宅に困窮していること。
このほかに地価、広さ、築年数、利便性を考慮して家賃を決定する。
28
ISFJ政策フォーラム2011発表論文 17th – 18th Dec. 2011
<政策の効果>
所得税の累進度を強化することで、所得の再分配をより進めることができる。また住宅支
援を家賃援助の形に変えることで低所得者の転居を容易にし、彼らの就業の機会を増大させ
る。これらの政策によって所得格差が縮小することで、低所得者の幸福度が自らの所得状況
によって低下することを緩和できる。また先行研究では、所得再分配は高所得層の所得の減
尐につながるにも関わらず、
それによる貧困層の減尐は高所得層の幸福度を上昇させること
がわかっている。 そこでこれらの政策による所得格差の縮小が低所得層、高所得層双方の
幸福度の上昇に寄与すると考えられる。
第4節 政策提言の総括
ここではそれぞれの政策と幸福度との関連性に注目して、3つの政策提言を整理する。
分析の結果から、失業や年金といった、将来に関して不安に思う事柄がある場合、現在の
幸福度が下がることが明らかになった。そこで、失業対策、年金対策の政策を提言すること
でこれらへの不安を軽減し、幸福度の向上につなげる。失業対策としては、正規公務員を新
たに増やすことで雇用を生み出し、
職業訓練を多様化することで求職者が就職しやすくなる
ようにする。これによって社会全体で就業者が増えて失業率が低下し、失業に対する不安が
軽減される。年金対策としては、賦課方式から積立方式へ移行させることで年金制度の長期
的な安定を確保し、世代間の不公平を改善する。また、基礎年金の財源を消費税化すること
で未納を防ぎ、無年金や低年金になる人を減らす。これによって将来の年金に対する不安が
軽減される。
以上のように失業対策、
年金対策の政策が将来に対する不安を軽減することが、
幸福度の向上につながる。
また本稿の分析では、相対所得も幸福度に対して大きな影響を与えていることがわかっ
た。
これは現在の自分の暮らし向きが他者と比較して相対的に豊かであれば幸福度が高いと
いうことを示している。よって、所得の再分配政策は低所得層の相対的な豊かさを高め、幸
福度を向上させると考えられる。また先行研究は、高所得層についても再分配政策による貧
困率の低下が幸福度を向上させることを示している。以上のことから、所得の再分配をすす
めて所得格差を縮小することが社会全体の幸福度を向上させると考えられる。具体的には所
得税の累進度をすすめ、低所得者への家賃補助を行うことで、所得の再分配をすすめる。ま
た前述の年金政策にも無年金、
低年金者を減らすことで高齢者の所得格差を縮小する効果が
ある。
このように人々の所得格差を縮小し、貧困率を低下させることで幸福度を向上させる。
29
ISFJ政策フォーラム2011発表論文 17th – 18th Dec. 2011
おわりに
本稿では、人間の豊かさを測る指標として近年注目を浴びつつある幸福度に焦点を当て、
われわれ日本人が幸せになるための方策を模索した。幸福度の決定に影響を及ぼす複数の要
因に関して、個別に新たな政策を提言することを試みた。具体的には、幸福度向上のために、
所得格差の縮小、年金の世代間不公平の改善、失業対策の 3 つを提言した。
しかし、本研究には以下のような課題も残っている。分析において用いた JGSS のデータ
ではアンケート対象が 20 歳以上であったため、すべての年代を網羅できたわけではないこ
と、また、アンケート回答の際に無回答であった等の理由から外れ値となってしまったサン
プルも多いことから、より多様なデータで分析の信憑性・信頼性を向上させることも必要で
あると考える。
ひと口に幸福度といっても、
幸せの定義が個人によって異なることは紛れもない事実であ
る。そうした中で、われわれは既存の諸研究を参考にしながら変数を選定し、日本人の価値
観に則して幸福度向上の可能性を検討した。日本経済の将来が危ぶまれる今、経済力のみに
頼らず生活に充足感を見出すことが、
われわれ日本人が幸せに暮らしていくためには必要不
可欠である。
最後に、本稿が日本人の幸福度向上の一助となることを願って、本稿を締めくくる。
30
ISFJ政策フォーラム2011発表論文 17th – 18th Dec. 2011
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『税務
大学校論叢』
・小林美樹(2010)「地域の貧困と人々の幸福度」
『生活経済学研究』31, 1-11
・鈴木亘(2009)『だまされないための年金・医療・介護入門』東洋経済新報社
・照山博司(2010)「1990 年代以降の労働市場と失業率の上昇」
『日本労働研究雑誌』No. 597
・大竹文雄・太田聰一(2002)「デフレ下の雇用対策」
『日本経済研究』No.44
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ISFJ政策フォーラム2011発表論文 17th – 18th Dec. 2011
《データ出典》
・内閣府『平成 20 年度国民生活選好度調査』P9
・内閣府『平成 21 年度国民生活選好度調査』P2~6
・内閣府『平成 22 年度国民生活選好度調査』P2~8
・内閣府『平成 22 年度国民生活に関する世論調査』図 37
・内閣府『国民経済計算確報』
・内閣府『人口推計』
・総務省 HP
・福岡県庁 HP
・経済協力開発機構(OECD) HP
・世界価値観調査(World Value Survey)1981,1990,1995,2000,2005
・日本版 General Social Surveys(JGSS)2008
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