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Rule B についての再考察

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Rule B についての再考察
GARD INSIGHT - JULY 2014
GARD INSIGHT
Rule B についての再考察
こちらは、英文記事「Rule B Revisited」(2014 年 5 月 14 日付)の和訳です。
損失や損害の発生に関して訴えられた場合に、その訴えられた当事者がその責任を負うべ
き立場にあると信じる第三者に対して、求償することは珍しいことではありません。しか
し、米国では、こうした求償者は、自身に向けられた原請求に関して判決が出る前や和解
がまとまる前でも、第三者への求償請求の担保(Security)を取得できるのでしょうか。
この問題については、過去の Gard Insight において一度取り上げました。1 その中では、原請求
に関する判決が出る前に Inter-Club New York Produce Exchange Agreement [ICA]に規定されて
いるカーゴクレームの担保を取得するために、米国の法的救済策としての海事請求のための
Rule B(Supplemental Rule B for Admiralty or Maritime Claims)(以下「Rule B」)を利用する
ことができるかどうか議論しました。その当時は、原請求であるカーゴクレームが未解決のま
までも Rule B に基づいて求償請求のための担保を取得できるかどうか連邦裁判所の間でも意見
が分かれていました。しかし、その後、ICA が改正され、判決が出ていないまたは和解がまとま
っていない状況であっても、カーゴクレームの原請求人に担保を提供した当事者は、求償請求
の担保を要求できると定められました。2
しかしながら、カーゴクレームに関連してないまたは改正 ICA が用船契約に組み込まれていな
いという理由で ICA がカバーしないケースについては、上記の論点がそのまま残ります。米国
1
2
Gard News 第 188 号「US Law – Hold that attachment(米国法―差し押さえを支持)(英文のみ)」
Inter-Club New York Produce Exchange Agreement 1996(2011 年 9 月改正)第 9 条
1
GARD INSIGHT - JULY 2014
では、Rule B に基づく差押申請との関連で、この問題が度々取り上げられています。Rule B の
規定によると、海事請求人は、被告に対する事前通告なしに被告の財産差押命令を要求するこ
とができます(ただし、被告は差押後に聴聞を要求することができます)。差押えが取り消さ
れない限り、被告は、財産を解放してもらうために保証状やその他の担保を設定しなければな
りません。
米国法における「Ripeness(成熟した)」とは、事件を提訴する準備が整っていることを意味
します。米国では、「もし請求が、予期されたとおりには起こらないかもしれないまたは全く
起こらないかもしれないような将来の偶発的な出来事に依拠している場合、判決を受ける機が
熟していない」と判断します。3 Rule B の差押えが関わるような事件のほとんどは、判決を受け
る機が熟している請求に関係するものです。すなわち Y が Z による海事契約違反や海事不法行
為によって被った損害に関して Z を訴えるといった事件がほとんどです。しかし、Y(求償者)
の Z(第三者)に対する求償の対象は、原請求に関する後の判断次第では、Y が X(原請求者)
に対して行わねばならない補償の対象と重なるという状況が起こり得ます。そのようなときに、
Y はどうすればよいでしょうか。Y による Z の財産を差し押さえるという行為は、原請求につい
ての判断が下る前または原請求が和解によって解決される前に認められるべきものでしょうか。
この問題について検討を重ねてきた米国の裁判所は、未だ見解の一致をみせていません。こう
した不一致は、矛盾する(と同時に、多くの場合、それぞれが理にかなっている)当事者の利
益をうまく調整することの難しさを反映しています。請求人(Y)にとっての利益は、求償請求
が「成熟した」時点では、既に支払不能となっていたりもはや存在していなかったりする可能
性のある、賠償者(Z)に対する請求を、実質的に強制執行できることであり、他方、賠償者
(Z)にとっての利益は、差押えによって担保される請求権が未成立の段階で、実際には発生し
ない可能性があるにもかかわらず、自身の財産が通告なく差し押さえられてしまう(しかも、
それを解放するには担保を設定しなれければならない)事態が避けされることです。
下記に、ボストン大学ロースクール最終学年の Francesco DeLuca 氏4によって書かれた論文を
ご紹介します。この分野における法律の予測不可能な現状を分析しています。
『The Peripheries of Rule B』:海事損害賠償請求における差押え
Rule B は、海事請求人に対し、判決が下される前にその請求を担保する手段を与えています
(被告に対して事前通告せずに、連邦裁判所の命令に従って被告に帰属する財産を差し押さえ
ること)。Rule B の差押えが妥当である状況は、「原告が(1)被告に対して有効な一応の
(prima facie)海事請求を有しており、(2)管轄区内で被告を発見できないが、(3)管轄区
内で被告の財産を発見する可能性があり、かつ(4)法令または海事法に差押えを妨げる規定が
ないことを、原告が示した場合」5です。「有効な一応の海事請求」とは、(1)「海事裁判に
関連する」請求、および(2)「一見したところ妥当」6であるか「成熟している」7 請求を指し
ます。連邦法は前者の審理、「関連する実体法」は後者の審理について規定しています。8 した
3
Texas v. United States, 523 U.S. 296, 300 (1998), citing Thomas v. Union Carbide Agricultural Products Co., 473 U.S. 568,
581 (1985) (quoting 13A C. Wright, A. Miller & E. Cooper, Federal Practice and Procedure s. 3532, p. 112 (1984)).
4
ロジャーウィリアムス大学(文学士)、ボストン大学ロースクール(2014 年 5 月法務博士号取得予定)。
5
Aqua Stoli Shipping Ltd. v. Gardner Smith Pty Ltd., 460 F.3d 434, 445, 2006 AMC 1872, 1884-885 (2d Cir. 2006) (Walker,
C.J.), overruled on other grounds by Shipping Corp. of India Ltd. v. Jaldhi Overseas Pte Ltd., 585 F.3d 58, 61, 2009 AMC 2409,
2420 (2d Cir.2009) (Cabranes, J.).
6
Al Fatah Int’l Nav. Co. v. Shivsu Canadian Clear Waters Tech. (P) Ltd., 649 F. Supp. 2d 295, 298, 2010 AMC 523, 527
(S.D.N.Y. 2009) (Chin, J.).
7
N. Shipping Co. v. Ocean Eleven Shipping Co., 09 CIV. 4154, 2009 WL 1740025, at *2 (S.D.N.Y. June 19, 2009) (Chin, J.)
(「ここで、問題とは、差押えを求めている原告が有効かつ明白な海事請求を示さなければならないという要件を満たす損害
賠償請求であるかどうかということである。この問題は、具体的に言うと、成熟性の 1 つである」)。
8
Blue Whale Corp. v. Grand China Shipping Dev. Co., 722 F.3d 488, 495 (2d Cir. 2013) (Wesley, J.).
GARD INSIGHT - JULY 2014
がって、「当事者の紛争の原因である契約が準拠する実体法に基づいて、司法による判断がで
きる」ということであれば 9、その請求は成熟していると言えます。
ほとんどの訴訟において、海事法に精通した弁護士であれば、裁判所が Rule B の差押えを許可
するかどうか正確に予測することができます。しかし、裁判所は、損害賠償請求に関する一部
の訴訟で差押えの権利に疑問の余地があるような状況であってもそれを許可しておきながら、
他の訴訟では、損害賠償請求が「成熟してない」という理由で、差押命令を許可しなかったり、
取り消したりしている状況です。実際に、著名な判事が同一の訴訟事件に関して相反する回答
を与えています。10
2011 年に改正された ICA の第 9 条により、ICA でカバーされているカーゴクレームに関しては、
このような不確かさが一部取り除かれました。しかし、損害賠償請求に関する他の訴訟では、
Rule B 適用の可否は未だに、請求の「成熟性」についての事実関係の審理に拠るところが大き
く、すべてでというわけではないですが多くの事例において、裁判所には、Rule B の差押えを
許可するための裁量権行使ができるような特別の事情を見出そうとする積極的な姿勢がみられ
ます。
1. 成熟性に疑問のある請求および明らかに成熟がみられない損害賠償請求における差押え
「原告が実際に責任を負っている場合は、明らかに損害賠償請求が成熟しており、差押えが生
じる可能性がある」11 ことは疑う余地がありません。しかし、この基本的な原則を越えた状況
では、法律が不確かなものになります。請求の機が熟していることを示すには、原告が担保を
提供しているだけでは不十分で、支払いを行っていなければならないとする判決12もあれば、そ
れと全く反対の判決もあります。13
通常、成熟していない損害賠償請求によって差押命令が認められることはありません。14 米国
の裁判所は、成熟度の問題に対応するに際して、明示的ではないにせよ、審理事例の状況に鑑
みた「エクイティ15」による救済に依拠してきました。16 さらに裁判所は、請求が成熟してい
ないと判断した場合でも、限られた状況下で差押えを許可するエクイティ上の裁量を有してい
ます。17 これは、「原告が、原請求者である第三者から責任を負わされる可能性がある」18場合
に適用されています。
9
Vencedor Shipping Ltd. v. Ingosstakh Ins. Co., 09 CIV. 4779, 2009 WL 2338031, at *2 (S.D.N.Y. July 29, 2009) (Sullivan, J.).
影響力の大きい Greenwich Marine, Inc. v. S. S. Alexandra のケースでは、Thurgood Marshall 判事が多数意見を書いたが、
それには損害賠償請求は機が成熟してないという見解が示されていた。339 F.2d at 905. 1965 AMC at 80-81 を参照。反対意
見では Friendly 判事が反論し、損害賠償請求は成熟していると結論付けた。同上 at 909, 1965 AMC at 112 (Friendly, J.,
dissenting)を参照。
11
N. Shipping Co. v. Ocean Eleven Shipping Co., 09 CIV. 4154, 2009 WL 1740025, at *2 (S.D.N.Y. June 19, 2009).
12
Aosta Shipping Co. v. OSL S.S. Corp., 594 F. Supp. 2d 396, 399, 2009 AMC 1692, 1695 (S.D.N.Y. 2009) (Rakoff, J.) を参照。
(「ただし、担保の提供は、請求の和解または解決に相当するものではなく、また率直に言って、損害賠償請求を成熟させる
ものではない」)、その他の理由により取り消される。350 F. App’x 505 (2d Cir. 2009); Sanko Steamship Co., 536 F. Supp.
2d at 367, 2008 AMC at 1348(「ICA に基づく損害賠償請求は、貨物の原請求に対する支払いが行われるまでは成熟しな
い ...」)
13
Navalmar (U.K.) Ltd. v. Welspun Gujarat Stahl Rohren, Ltd., Navalmar U.K. (Navalmar) 485 F. Supp. 2d 399, 400, 2007 AMC
1033, 1034 (S.D.N.Y. 2007) (Hellerstein, J.).
14
Beluga Chartering GMBH v. Korea Logistics Sys. Inc., 589 F. Supp. 2d 325, 330, 2009 AMC 1232, 1240 (S.D.N.Y. 2008)
(Sweet, J.) を参照。
15
エクイティ:英米法の国々においてコモン・ローでは救済されない分野について裁量で与えられていた救済。
16
Sanko Steamship Co. v. China Nat. Chartering Corp., 536 F. Supp. 2d 362, 366, 2008 AMC 1343, 1347 (S.D.N.Y. 2008)
(Marrero, J.)を参照。
17
Patricia Hayes Associates, Inc. v. Cammell Laird Holdings U.K., 339 F.3d 76, 82, 2003 AMC 2357, 2364 (2d Cir. 2003)
(Parker, J.)(「地方裁判所は、ある状況において、原告の請求の未成熟さを裁量の範疇に入る事柄として無視することができ
る...」)。Greenwich Marine, Inc. v. S. S. Alexandra, 339 F.2d 901, 906, 1965 AMC 76, 82 (2d Cir. 1965) (Marshall, J.)(「稀
な事件」において、裁判所が成熟していない損害賠償請求に基づき、差押命令を発令することを認める)。Complaint of
Murmansk Shipping Co., 2002 AMC 2495, 2500 (Vance, J.) (E.D. La. June 18, 2001) に関して、(「当裁判所は、それゆえ、
差押えを保持することが公平であると判定する」)。The Lassell, 193 F. 539, 543 (E.D. Pa. 1912)(「請求権が成立する前に
海事裁判所に提訴することもできるものと決定する...」)。Greenwich Marine 事件において、少なくとも 1 つの裁判所が
10
GARD INSIGHT - JULY 2014
a. 差押えを支持する判例
賠償責任を回避する余地が残されているケースでは、裁判所は、海事損害賠償請求に基づく差
押えを支持してきました。一連のケースでは差押えを求める原告と第三者との間で訴訟が開始
されれば、被告の財産差押えを支持する十分な根拠となり得るとの見解が示されてきました。19
この点に関して、Staronset Shipping Ltd. v. N. Star Nav. Inc.における裁判所の決定を紹介しま
す。20 Staronset Shipping が自社の船舶を North Star Navigation に用船に出しました。そこで、
あるステベが、役務に対する支払いを求めて Staronset の船舶を差し押さえました。21Staronset
はそれに対して、そのステベを雇用したのは North Star であるから、ステベの料金について責
任を有するのは専ら North Star である、と主張し22、North Star に帰属する財産をステベの請求
に対する担保として差し押えることを求めました。23 裁判所は、Staronset の懸案事項を「妥当
である」と判定し、この差押えを支持しました。24
この他にも、原告とその原告が責任を負うとみられる第三者との仲裁において差押えが支持さ
れる事例がいくつかあります。例えば、Daeshin Shipping Co. v. Meridian Bulk Carriers, Ltd.で
は、Daeshin Shipping が PanOcean から船舶を再用船しました(PanOcean は船主から用船し
ていました)。 25 Daeshin はこの船舶を Meridian Bulk Carriers に再用船に出しましたが、
Meridian Bulk Carriers もまたこれを Al Kahlejia に再用船に出しました。26 この船舶が所有者に
返還された後、船主および PanOcean は、Daeshin に対して物理的損害を理由とする賠償請求
等を申し立てました。27 その後、Daeshin が Meridian の財産を差し押さえ、Meridian は差押
えの取り消しを求めました。28 Meridian は、物理的損害に関して差し押さえられた請求金額分
についての損害賠償請求は成熟していないと主張しました。29
PanOcean も船主も、Daeshin に対して裁判所では訴えを提起していませんでしたが 30、当事者
間の紛争はロンドンで仲裁に付されました。31 Meridian が Daeshin 側の差押命令の無効を求め
るまでに当事者の間で請求の要点についての議論は交わされていませんでしたが、すでに誰を
仲裁人とするかは合意済みであり、具体的な損害賠償額の話し合いがなされていました。32 裁
判所は、こうした事実に基づき、Daeshin が、自身が有責となる可能性に直面していると合理的
に考える程度にまでこの仲裁が進展していると判断し33、(物理的損害の賠償を求める原請求に
Marshall 判事の意見(判事が最高裁判事となる前、第二巡回区の判事だった時の意見)を、「裁判所は、成熟していない請求
を成熟した請求に変換する裁量を有している」という意味に解釈している。Staronset Shipping Ltd. v. N. Star Nav. Inc., 659 F.
Supp. 189, 191, 1987 AMC 1932, 1934 (S.D.N.Y. 1987) (Knapp, J.)を参照。これは Greenwich Marine 事件に関する正しい解
釈ではないが、連邦裁判所の慣例に関する正しい意見である。Sanko Steamship Co., Ltd., 536 F. Supp. 2d at 366, 2008 AMC
at 1347 を参照。
18
J.K. Int’l, Pty., Ltd. v. Agriko S.A.S., 2007 AMC 783, 789 (S.D.N.Y. Feb. 13, 2007) (Karas, J.).
19
Complaint of Murmansk Shipping Co., 2002 AMC at 2500 に関して; Staronset Shipping Ltd., 659 F. Supp. at 191, 1987 AMC
at 1934.
20
659 F. Supp. 189, 1987 AMC 1932 (S.D.N.Y. 1987).
21
同上 at 190.
22
同上
23
同上
24
同上 at 191.
25
Daeshin Shipping Co. v. Meridian Bulk Carriers, Ltd., 05 CIV. 7173, 2005 WL 2446236, at *1 (S.D.N.Y. Oct. 3, 2005)
(Buchwald, J.).
26
同上
27
同上
28
同上
29
同上 at 2.
30
同上 at 2.
31
同上 at 1.
32
同上 at 2.
33
同上
GARD INSIGHT - JULY 2014
関して Daeshin に対して請求された金額についての)Daeshin による(Meridian の財産に対す
る)差押命令を認めました。34
同様に、原告が被告との仲裁の最中であり、第三者との訴訟を抱えている場合に、Rule B の差
押えを原告が利 用すること を裁判所が 支持した 事例があります 。 Navalmar (U.K.) Ltd. v.
Welspun Gujarat Stahl Rohren, Ltd では、トルコからイエメンへの貨物輸送を目的として、
Welspun Gujarat Stahl Rohren (WGSR) が Navalmar U.K.から船舶 1 隻を用船しました。35 積荷
はアデンで荷揚げされましたが、その際、荷受人が積荷の損傷を発見しました。 36 その結果、
荷受人がアデンで提訴し、船舶は差し押さえられました。37 Navalmar が 100 万米ドルの銀行
保証状を出することで、アデンの裁判所は当該船舶を解放しました。38 一方、アデンで荷受人
の請求が審理されている中、Navalmar は、ニューヨークにおいて WGSR の財産の差押えを求
めました。39
Navalmar はそれ以前にロンドンにおいて WGSR に対して未払い用船料の仲裁を行っていまし
た。40 その仲裁において、仲裁人は、WGSR が当該船舶を使用できなかったことは「Navalmar
側の用船契約違反の結果」ではなかったと認定し、WGSR に対して 271,350 米ドルに利息を加
えた用船料の未払いの支払義務を認める 仮裁定を出していました。 41 しかし WGSR は
(Navalmar のニューヨークでの申し立て時点で)この裁定額を Navalmar に支払っていなかっ
たのです。42
そのため、ロンドンでの仲裁と並行して、Navalmar はニューヨークで WGSR の財産の差押え
を求めました。43 具体的に言うと、Navalmar は、ロンドン仲裁での仮仲裁の担保、およびアデ
ンで船舶を解放するため担保として提供した銀行保証、さらに、アデンとロンドンでの法的手
続きに伴う弁護士費用を請求しました。44 裁判所は、Navalmar が(1)船舶を解放するため担
保を提供したこと、および(2)WGSR に対する仮裁定を得ていることを理由に、Navalmar の
損害賠償請求は成熟しているとし、Rule B の差押えを認めました。45
b. 差押えを取り消した判例
損害賠償請求に関して差押えを求める当事者が、原請求について不確かな責任しか有していな
い事例では、裁判所が差押命令を取り消しています。通常、裁判所は、第三者である原請求者
が原告にクレーム・レターを送付したというだけで差押えを支持することはありません。46
Beluga Chartering GMBH v. Korea Logistics Sys. Inc.では、この規則がそのまま適用されている
34
同上
485 F. Supp. 2d 399, 400, 2007 AMC 1033, 1034 (S.D.N.Y. 2007) (Hellerstein, J.).
36
同上 at 400, 2007 AMC at 1034.
37
同上 at 400, 2007 AMC at 1034.
38
同上 at 400-01, 2007 AMC at 1034-035.
39
同上 at 400, 2007 AMC at 1034.
40
同上 at 400, 2007 AMC at 1035.
41
同上 at 400-01, 2007 AMC at 1034-35 (first alteration added).
42
同上 at 401, 2007 AMC at 1035.
43
同上 at 401, 2007 AMC at 1035.
44
同上 at 401, 2007 AMC at 1035.
45
同上 at 405, 2007 AMC at 1041.
46
Beluga Chartering GMBH v. Korea Logistics Sys. Inc., 589 F. Supp. 2d 325, 330, 2009 AMC 1232, 1240 (S.D.N.Y. 2008)(連
邦法およびイギリス法を適用)。Precious Pearls, Ltd. v. Tiger Int’l Line Pte Ltd., 07 CIV. 8325, 2008 WL 3172998, at *2-3
(S.D.N.Y. July 31, 2008) (Koeltl, J.)(イギリス法を適用)。ただし、Hibiscus Shipping, Ltd. v. Novel Commodities S.A., No.
04 Civ. 2344, at 3-4 (S.D.N.Y. July 8, 2004) (Berman, J.)を参照のこと。(第三者からのクレーム・レターを原告が受け取って
いる場合の差押えを認める)。Hibiscus 事件は、Aqua Stoli 事件における第二巡回区の意見の前に判決が下されているので、
Hibiscus 事件の実行可能性が存続するかどうかは不確かである。Precious Pearls, Ltd., 07 CIV. 8325, 2008 WL 3172998, at *3
を参照。(差押命令を認めるには不十分なクレーム・レターを判定し、成熟していない請求に対する海事差押命令を認める裁
判所の裁量を限定するものとして Aqua Stoli 事件を引用している)。
35
GARD INSIGHT - JULY 2014
ことが分かります。47 Beluga Chartering GMBH が船舶のオペレーターであり、サムソン向けの
商品を運搬するために船舶を Korea Logistics Systems にさらに用船に出しました。48 船舶が航
海中悪天候に遭遇し、Beluga は Korea Logistics に対して、「Korea Logistics が適切に貨物の積
込み・積付けを行わなかったために生じたと考えられる船舶の損傷、滞船料、避難港および離
路費用ならびに燃料」49 に関する損害賠償請求を行いました。裁判所は、Beluga の主張を受け
入れて Rule B の差押えを認めました。50 とりわけ重要な点は、Korea Logistics が、サムソンか
ら受け取ったクレーム・レター、すなわち「適切な措置が講じられなければ、当社は利用可能
なあらゆる手段・方法を用いてこの件に対処する」51 と書かれたレターに基づいて Beluga に逆
担保を求めたことですが、裁判所は、Korea Logistics が有効な一応の請求を有していないこと、
および成熟していない請求の逆担保を上記のクレーム・レターによって裏付けることはできな
いことから、逆担保を認めませんでした。52
原紛争を仲裁に付する場合には、裁判所が損害賠償請求にかかわる Rule B の差押えの支持につ
いて検討する前に、仲裁が開始されていなければなりません。53 ただし、仲裁が開始された場
合でも、ニューヨーク州南部地区における REA Navigation, Inc. v. World Wide Shipping Ltd. 54
および Sonito Shipping Co. v. Sun United Mar. Ltd. 55 の判決にみられるように、56 Rule B の差押
えが取り消される可能性はあります。
REA Navigation, Inc の例では、Metal Construction of Greece S.A.(以下「Metka」)がパキス
タンに発電所を建設する契約を Karachi Electric Supply Corporation と締結しました。契約には
予定損害賠償条項が含まれており、その条項において Metka は、建設プロジェクトの完了遅延
によって Karachi Electric が損害を被った場合に Karachi Electric に対して責任を負うことになっ
ていました。57 Metka からパキスタンまでの貨物輸送を請け負った World Wide Shipping が、
船舶 1 隻を REA Navigation から用船しました。58 船舶は航海の途中でジッダに寄港し、その地
で「船級証書が失効していたため、当局に拘留」されました。 59 ジッダの現地当局は船舶の通
常検査を行うため、積荷を船から降ろした際に、積荷に損傷を与えてしまったようです。 60
World Wide Shipping は最終的に、パキスタンの Karachi Electric に積荷を引き渡しました。61
Metka は、「REA Navigation が適切な船級証書を保持していなかったことで・・・Metka の積
荷に損傷が生じ、Metka が期限内に建設プロジェクトを完了できない可能性を高じさせ、結果
的に約定賠償額を発生させた」62という理由から、REA Navigation を提訴しました。次いで、
47
589 F. Supp. 2d at 329, 2009 AMC at 1239.
同上 at 326, 2009 AMC at 1233-234.
49
同上 at 326, 2009 AMC at 1234.
50
同上 at 327-29, 2009 AMC at 1234-38.
51
同上 at 330, 2009 AMC at 1239.
52
同上 at 330, 2009 AMC at 1240.ニューヨーク州南部地区の連邦地方裁判所がこの判決を下したのは、「当事者が有効な一応
の海事請求権を有しているか否かは、この紛争に適用される実体法に基づいて決定される」との見解を第二巡回控訴裁判所が
明らかにする前であった。Blue Whale Corp. v. Grand China Shipping Dev. Co., 722 F.3d 488, 495 (2d Cir. 2013)を参照。明確
な指針がない中で、連邦地方裁判所は、Beluga 裁判において、Beluga が米国法およびイギリス法に基づいて有効な一応の海
事請求を提示した、と明示的に判示した。Beluga Chartering GMBH, 589 F. Supp. 2d at 328, 2009 AMC at 1236.
53
Bottiglieri Di Na Vigazione Spa v. Tradeline LLC, 472 F. Supp. 2d 588, 589, 591 2007 AMC 1013, 1013-014, 1016 (S.D.N.Y.
2007) (Kaplan, J.), aff’d 293 F. App’x 36, 37 (2d Cir. 2008).
54
2009 AMC 1685 (S.D.N.Y. Mar. 9, 2009) (Scheindlin, J.).
55
478 F. Supp. 2d 532 (S.D.N.Y. 2007) (Haight, J.).
56
REA Navigation, Inc. と Sonito Shipping Co.の事件はイギリス法が関わっているが、この判例が連邦法の下では異なる結果
になったはずだと考える理由はない。supra note 48 を参照。
57
2009 AMC at 1687.
58
同上 at 1685-686.
59
同上 at 1687.
60
同上
61
同上
62
同上 at 1688.
48
GARD INSIGHT - JULY 2014
Metka は、REA Navigation の船舶をパキスタンで差し押さえました。REA Navigation の保険者
はその船舶を解放するため、保証状を出しました。63
REA Navigation は、その船舶の解放を確保するために必要とした資金を取り戻すため、ロンド
ンで補償を求める仲裁を開始するとともに、ニューヨークで World Wide Shipping の財産を差し
押さえました。64
裁判所は、REA Navigation の差押命令を審理するにあたり、この紛争が準拠する(実体法であ
る)イギリス法上、REA Navigation の損害賠償請求が成熟していると認められるかどうかとい
う点を検討しました。65 そして、裁判所は、「当該船舶の解放を確保するための保証状の発行
は、Metka の請求の最終的な解決とはみなされない」66という理由で、REA Navigation の請求
は成熟していないと判定しました。これによって、差押命令は取り消されました。67
Sonito Shipping Co. v. Sun United Mar. Ltd.においても、同様の判決が下されました。68 この訴
訟では、Sonito Shipping がインドからナイジェリアへの米輸送用の船舶を Sun United に用船に
出しました。69 米の引渡し時に、受荷主は、米の一部が滅失・毀損しているとのクレームを申
し立てました。70 その結果、受荷主は、Sonito に対してロンドンで仲裁を開始しました。71 こ
れに対して今度は、Sonito が受荷主に対する賠償責任の担保と仲裁関連費用の求償を目的に、
ニューヨークで Sun United の財産を差し押さえました。72
裁判所は関連する事実を要約して次のように述べました。「仲裁は始まったばかりであり、仲
裁人は何ら裁定を下していない。また、Sonito は、貨物権者からの請求に対していかなる支払
いも行っていない。」73 これらの事実をもとに、裁判所は、Sun United に対する Sonito の請求
は機が成熟しておらず、未成熟の請求に対する差押命令を認めるための特別の事情がこの訴訟
では認められないと判示し74 、差押命令は取り消されました。75
2. Inter-Club New York Produce Exchange Agreement 1996(2011 年 9 月改正)第 9 条につ
いて
原紛争がカーゴクレームであり、用船契約書に 2011 年改正 ICA が組み込まれている場合、上記
のような議論は生じません。なぜなら、ICA 第 9 条は、用船契約の当事者は、カーゴクレームの
請求人に対して担保を提供している場合、要求により、用船契約の相手側から、カーゴクレー
ムと同額の担保を受け取る権利を有すると定めているからです。したがって、用船契約書に改
正 ICA が組み込まれている場合において、所有者または用船者がカーゴクレームの請求人に担
保を提供している場合、契約上担保を受け取る権利があるので、Rule B の差押えによって担保
を取得するために自身の請求が「成熟していること」を証明するのはそれほど難しくないはず
です。
63
同上
同上
65
同上 at 1690-691.
66
同上
67
同上 at 1691.
68
478 F. Supp. 2d 532, 544, 2007 AMC 1018, 1032 (S.D.N.Y. 2007).
69
同上 at 534, 2007 AMC at 1019.
70
同上 at 534, 2007 AMC at 1019.
71
同上 at 534, 2007 AMC at 1019.
72
同上 at 534, 2007 AMC at 1019.
73
同上 at 540, 2007 AMC at 1022.
74
同上 at 543-44, 2007 AMC at 1031-032.
75
同上 at 544, 2007 AMC at 1032.
64
GARD INSIGHT - JULY 2014
結論
以上、様々な判決を分析してきましたが、判事がどのような事情に基づいて「損害賠償請求は
Rule B の差押えを支持できるほど十分に成熟している」と考えるのかを予測するのは難しいか
もしれません。また、第二巡回区連邦控訴裁判所における Aqua Stoli Shipping Ltd. v. Gardner
Smith Pty Ltd 判決以降、未成熟の請求の差押えを認めるエクイティ上の裁量を裁判所が行使す
るかどうかについて確立した法則性はありません。 76 こうした不確実さの結果として、損害賠
償請求を担保する Rule B の差押えを認めるべきか否かの決定を迫られる裁判所は、ただ先例に
導かれるままに事実関係を審理するという選択を行うものと考えられます。
76
Aqua Stoli.,supra, fn 2 を引用して、地方裁判所の判事数人は、未成熟の海事損害賠償請求に関して差押命令を認める判事の
権限について疑問を投げかけている。例えば、REA Navigation, Inc. v. World Wide Shipping Ltd., 2009 AMC 1686, 1690
(S.D.N.Y. Mar. 9, 2009); Precious Pearls, Ltd. v. Tiger Int’l Line Pte Ltd., 07 CIV. 8325, 2008 WL 3172998 (S.D.N.Y. July 31,
2008); Bottiglieri Di Na Vigazione Spa v. Tradeline LLC, 472 F. Supp. 2d 588, 591, 2007 AMC 1013, 1016 (S.D.N.Y. 2007);
Sonito Shipping Co., Ltd. v. Sun United Mar. Ltd., 478 F. Supp. 2d 532, 543-44, 2007 AMC 1018, 1031-032 (S.D.N.Y. 2007)を
参照。
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