Comments
Transcript
(2004,2011,2013,2014)「イノベーションの歴史的展開構造に関する
イノベーションの歴史的展開構造に関する ドミナント・デザイン論的理解 1. 流 動 期 (市 場 形 成 初 期 )における多 種 多 様 な製 品 design の出 現 ........................................................................... 1 (1) 一 つの needs に対 応 可 能 な技 術 的 seeds は一 つとは限 らない。一 般 的 には多 種 多 様 な技 術 的 seeds が、needs を 満 足 させる多 種 多 様 な product を生 み出 す。それゆえ一 つの needs に対 応 する product は一 般 的 には複 数 個 存 在 する。 ............................................................................................................................................................................ 2 (2) 市 場 形 成 初 期 には、ユーザーの needs を最 も満 足 させる product design がどのようなものであるかは不 明 確 である。 ユーザーが求 める機 能 や特 性 に最 適 な product design がどれであるかがすぐにはわからないので、革 新 的 なアイデアが 次 々から次 へと試 行 錯 誤 的 に試 される。 .................................................................................................................. 2 (3) 顧 客 がどのような wants を欲 しているのかは最 初 から明 確 なわけではない ............................................................ 2 (4) 将 来 的 な発 展 の可 能 性 、および、その性 能 的 限 界 はすぐには明 確 にはならない(あるいは、技 術 発 展 に関 する将 来 的 予 測 の原 理 的 不 明 確 性 の)ために、ある特 定 の時 点 で、どの技 術 的 方 式 が最 も優 れているのかはすぐにはわから ない。それゆえ、複 数 の技 術 的 方 式 の内 のどれが最 終 的 に勝 利 するのかはすぐにはわからない。 ................................ 3 (5) 市 場 形 成 初 期 の段 階 の製 品 購 入 者 層 は、「新 しい機 能 やアイデアを実 現 した新 製 品 を試 す」のが好 きな革 新 的 採 用 者 (innovator)や初 期 少 数 採 用 者 (early adopter)である。 ...................................................................................... 4 2. ある特 定 の design の製 品 が市 場 で支 配 的 (dominant)となり、Product Innovation の発 生 率 は減 少 する ................. 5 (1) ある特 定 時 点 で実 現 可 能 性 のある Product Innovation の数 の有 限 性 ................................................................ 5 (2) 技 術 の発 展 限 界 の存 在 ................................................................................................................................... 5 (3) 「スイッチング・コスト」、「経 路 依 存 性 」、「市 場 で評 価 される製 品 性 能 の上 限 」、「バンドワゴン効 果 」に起 因 する「技 術 のロックイン」現 象 ............................................................................................................................................... 5 3. dominant design の成 立 後 の一 定 期 間 は、Process Innovation が盛 んになる ......................................................... 6 4. dominant design の成 立 後 は、技 術 的 な競 争 優 位 の獲 得 競 争 の焦 点 は製 品 の機 能 ・性 能 から製 品 の製 造 へと移 行 する .......................................................................................................................................................................... 6 5. 「技 術 のロックイン現 象 」再 論 ................................................................................................................................. 6 (1) スイッチング・コスト ........................................................................................................................................... 6 (2) 経 路 依 存 性 --- 製 品 を取 り巻 く環 境 の歴 史 的 規 定 性 ...................................................................................... 6 (3) バンドワゴン効 果 ............................................................................................................................................. 6 a. ネットワーク外 部 性 に関 わるバンドワゴン効 果 ................................................................................................... 7 b. 補 完 財 に関 わるバンドワゴン効 果 ................................................................................................................... 7 (4) 市 場 において意 味 あるものとして評 価 される性 能 に関 する上 限 ........................................................................... 7 6. dominant design 論 に関 わる具 体 的 事 例 .............................................................................................................. 8 (1) 自 転 車 における Product Innovation の場 合 --- ユーザー層 、necessity – wants -complex、対 応 technology それぞ れの多 種 多 様 性 に起 因 する Product design の多 様 性 ............................................................................................. 8 (2) 環 境 にやさしい自 動 車 の場 合 ---- 環 境 にやさしいエンジンという needs に対 応 可 能 な多 種 多 様 な技 術 、およびそ うした技 術 に基 づく多 種 多 様 な wants ..................................................................................................................... 8 a. ガソリン・エンジンのさらなる改 良 (既 存 技 術 の改 良 型 イノベーション) ................................................................. 8 b. ディーゼル・エンジンのさらなる改 良 (既 存 技 術 の改 良 型 イノベーション) ............................................................ 9 c. ハイブリッドエンジン(従 来 型 エンジン+電 動 モーターの組 み合 わせ) ................................................................ 9 d. 充 電 池 に充 電 された電 気 で動 かす電 動 モーター ............................................................................................. 9 e. キャパシタに充 電 された電 気 で動 かす電 動 モーター ......................................................................................... 9 f. 燃 料 電 池 によって「発 電 」された電 気 で動 かす電 動 モーター ............................................................................. 9 g. 代 替 燃 料 の利 用 (燃 料 に関 する Product Innovation) ...................................................................................... 9 佐野正博(2004,2011,2013,2014)「イノベーションの歴史的展開構造に関するドミナント・デザイン論的理解」Ver.3.6(2014年度講義メモ) 図 1 Product Innovation とプロセス・イノベーションの発 生 率 の時 間 的 変 化 [出 典 ] Utterback, J. M, and W.J. Abernathy (1975) "dynamic model of process and product innovation" Omega, Vol.3, Iss.6, , p.645 を日 本 語 化 したもの。 なお横 軸 の表 記 は、オリジナルの図 における 「Uncoordinated process → Systemic process」 (「バラバラでまとまりのない非 統 合 的 過 程 」→「ま とまりのある組 織 的 過 程 」)から、左 図 のように「流 動 期 (Fluid phase)→移 行 期 (Transitional phase) →固 定 期 (Specific phase)」へと変 更 した。 なお修 正 後 の同 表 記 は、 Utterback, J. M, (1994) Mastering the Dynamics of Innovation, Harvard Business School Press, p.xvii (大 津 正 和 ;小 川 進 監 訳 ,1998)『イノベーション・ダイナミッ クス』有 斐 閣 ,p.7) におけるものである。 1.流 動 期 (Fluid phase) 多 種 多 様 な Design の Product が競 争 Product Innovation による Product の差 別 化 が主 流 、Process Innovation は不 活 発 Dominant Design の成 立 (Transitional phase) 時 間 の経 過 と共 に dominant design(市 場 において支 配 的 な製 品 設 計 )が成 立 する 特 定 の Product Design が市 場 を支 配 3 固定期 Product Innovation は不 活 発 、Process Innovation による製 造 Cost 低 減 や品 質 改 善 が主 流 (Specific phase) 2.移 行 期 <補 注 >design という用 語 が含 意 する意 味 内 容 design という単 語 は、英 和 辞 典 においては「意 匠 」、「図 案 」、「素 描 」、「設 計 」、「構 想 」、「着 想 」、「計 画 」、「企 図 」、 「設 計 」など様 々な訳 語 が挙 げられているが、そうした漢 字 表 記 ではなく日 本 では「デザイン」と表 記 されることが多 い。 そのように「デザイン」というカタカナ表 記 が一 般 的 になっている背 景 には、design という単 語 には「意 匠 」と「計 画 ・設 計 」という相 異 なる二 つの意 味 があり、この二 つの意 味 を同 時 に表 す適 当 な言 葉 がないことがある。 1. 流動期(市場形成初期)における多種多様な製品 design の出現 ---- dominant design 成 立 前 における有 効 な戦 略 としての、Product Innovation を通 じた製 品 の「機 能 」的 差 別 化 や「性 能 」 差 別 化 による差 別 化 戦 略 --市 場 形 成 初 期 は、Product Innovation が最 も盛 んにおこなわれ、さまざまな企 業 から様 々な技 術 的 方 式 に基 づく多 種 多 様 な design の製 品 が市 場 に投 入 される「流 動 期 」として位 置 づけることができる。 流 動 期 における製 品 間 競 争 は、様 々な技 術 的 方 式 の間 で製 品 の機 能 や性 能 の優 劣 を争 う競 争 として展 開 されること になる。すなわち流 動 期 においては、Product Innovation に基 づく製 品 の「機 能 」的 差 別 化 や「性 能 」差 別 化 を中 心 とした 製 品 間 競 争 という形 態 で企 業 間 競 争 が繰 り広 げられることになる。 それまで存 在 しなかった画 期 的 な新 製 品 の場 合 には、そうした製 品 の購 入 者 は「その製 品 がどのような新 機 能 を持 っているのか?」「その製 品 の性 能 はどの程 度 のものなのか?」ということに第 一 の関 心 がある [ 1 ] 。それゆえ製 品 開 発 の中 心 的 関 心 は製 品 の「機 能 」や「性 能 」に関 する差 別 化 に向 けられ、製 品 の機 能 的 差 別 化 や性 能 差 別 化 が製 品 間 競 争 の中 心 軸 となる。 ↓ 多 種 多 様 な技 術 的 seeds が存 在 する結 果 として、ある特 定 の needs を満 たすプロダクトは多 種 多 様 に生 み出 される ことになる。そして多 種 多 様 な技 術 的 seeds の将 来 的 可 能 性 に対 して、企 業 は「自 社 のポジショニング」や「自 社 のリソ [1] ロジャース(Rogers,E.M.)のイノベーションの普 及 モデルにおける革 新 的 採 用 者 の特 性 を見 よ。 1 佐野正博(2004,2011,2013,2014)「イノベーションの歴史的展開構造に関するドミナント・デザイン論的理解」Ver.3.6(2014年度講義メモ) ース」などに基 づくそれぞれ独 自 の判 断 によって様 々な技 術 的 seeds に賭 ける結 果 として、多 種 多 様 な技 術 的 design の製 品 が市 場 にあふれかえることになる。 ここでのポイントは、一 つの needs に対 応 する技 術 的 方 式 が一 般 には複 数 存 在 することである。過 去 に存 在 してい なかった革 新 的 な製 品 の場 合 には、特 にそうである 事 例 1> 19 世 紀 における自 転 車 の Product Innovation 事 例 2> 19 世 紀 における手 動 式 の機 械 式 英 文 タイプライターのキーボード配 列 に関 する Product Innovation 事 例 3> 1980 年 代 における電 子 式 日 本 語 ワープロ専 用 機 のキーボード配 列 に関 する Product Innovation 事 例 4> 19 世 紀 末 ~20 世 紀 初 頭 における自 動 車 に関 する Product Innovation 事 例 5> 「環 境 にやさしい自 動 車 」という needs に対 応 する多 種 多 様 な技 術 的 seeds に基 づく Product Innovation 事 例 6> 「大 量 データの高 速 な送 受 信 」という needs に対 応 する複 数 の技 術 的 方 式 による Product Innovation (事 例 5「環 境 に優 しい自 動 車 に対 する needs」および事 例 6「大 量 データの高 速 な送 受 信 に対 する needs」に関 しては、現 在 もなお技 術 的 改 良 が続 けられ、新 しいデザインの製 品 がつくられ続 けている。) 事 例 7> 「自 動 車 の自 動 停 止 」という needs に対 応 する複 数 の技 術 的 方 式 による Product Innovation 事 例 8> 「身 につける端 末 」という needs に対 応 する複 数 の技 術 的 方 式 による Product Innovation 同 一 のneeds に対 応 する技 術 的 方 式 の複 数 存 在 可 能 性 (一 つのneedsに対 応 可 能 な複 数 の技 術 的 方 式 の存 在 ) (1) 一つの needs に対応可能 な技術的 seeds は一つとは限らない。一般的には多種多 様な技術 的 seeds が、needs を満足させる多種多様 な product を生み出す。それゆえ一つの needs に対応する product は一般的には複数個 存在する。 <注 意 >一 つの needs に対 応 可 能 な技 術 が歴 史 的 に多 種 多 様 に存 在 する場 合 、すなわち、時 間 の経 過 とともに技 術 が発 達 し一 つの needs に対 応 する技 術 が次 々と継 起 的 に生 起 する場 合 には、製 品 の dominant design の歴 史 的 変 化 が 生 じることになる(ex.1 携 帯 音 楽 機 器 ) ある特 定 時 点 で実 現 可 能 性 のある Product Innovation の数 には限 界 がある ---- seeds の有 限 性 (2) 市場 形成初期には、ユーザーの needs を最も満足させる product design がどのようなものであるか は不明 確である。ユーザーが求める機 能や特性に最適 な product design がどれであるかがすぐには わからないので、革新的なアイデアが次々から次へと試行錯誤的に試される。 ユーザー層 の多 様 性 や needs の複 数 性 =多 様 性 のために、どのような技 術 的 方 式 に基 づく製 品 が他 のものより総 合 的 視 点 から見 て優 れているのかの明 確 化 にも一 定 の時 間 がかかる。長 期 間 使 用 する製 品 の場 合 には、長 期 的 使 用 し てはじめて製 品 の優 劣 がわかる場 合 もある。画 期 的 な新 製 品 の良 し悪 しは短 期 的 にはわからない。 どのような層 をターゲット・ユーザーとするべきなのか?複 数 の needs 間 の相 対 的 優 先 順 位 のユーザー層 による違 い はどの程 度 のものなのか? それまでに存 在 しなかった新 しい製 品 の場 合 には、「製 品 にどのような機 能 や特 性 を盛 り込 むべきか?」 自 転 車 の場 合 で言 えば、手 軽 な交 通 手 段 として「スピード」「安 全 性 」など複 数 の needs を複 合 的 に持 つ製 品 として の自 転 車 に対 して、男 性 は「安 全 性 」に対 する needs よりも「スピード」に対 する needs を優 先 させる傾 向 があったのに 対 して、女 性 は「スピード」に対 する needs よりも「安 全 性 」に対 する needs を優 先 させる傾 向 があった。 wants に関 する顧 客 側 の認 識 に関 する曖 昧 性 (3) 顧客がどのような wants を欲しているのかは最初から明確 なわけではない ex.1 マイクロプロセッサーの技 術 革 新 >>>ミニコンからパソコン(パソコンキット)へという Product Innovation>>新 しく 「発 明 」されたパソコンに対 応 するソフトウェアの開 発 という Product Innovation ①電 卓 のための汎 用 的 部 品 に対 する needs→→②インテル 4004 というマイクロプロセッサー技 術 の開 発 →→③インテ ル 8008、8080 というマイクロプロセッサー技 術 における Product Innovation→→④マイクロプロセッサーを利 用 した製 品 としての、個 人 利 用 用 コンピュータというコンセプトの新 しい製 品 としての、パーソナル・コンピュータの「発 明 」→→⑤ パーソナル・コンピュータを動 かすための開 発 言 語 としての BASIC 言 語 という「高 級 プログラミング言 語 」製 品 のマイク ロソフト社 による新 規 開 発 →→⑥パーソナル・コンピュータを使 うためのアプリケーションソフトの開 発 2 佐野正博(2004,2011,2013,2014)「イノベーションの歴史的展開構造に関するドミナント・デザイン論的理解」Ver.3.6(2014年度講義メモ) 競 合 する技 術 的 方 式 間 の優 劣 はすぐには明 確 にはならない (4) 将来 的な発展の可能性 、および、その性能的限 界はすぐには明確にはならない(あるいは、技術発展 に関する将来的予 測の原理的 不明確性の)ために、ある特定の時点 で、どの技術 的方式が最も優れ ているのかはすぐにはわからない。それゆえ、複数の技術 的方式の内のどれが最終 的に勝利するの かはすぐにはわからない。 現 時 点 の性 能 で将 来 の性 能 がうまく予 想 できるわけではない。特 に技 術 開 発 の初 期 の段 階 ではそうである。将 来 的 可 能 性 =将 来 的 発 展 を考 慮 した場 合 に、同 一 needs に対 応 する複 数 の技 術 的 方 式 の内 でどれが技 術 的 に 最 も優 れているかをうまく予 測 することは困 難 な場 合 が多 い。 というのも技 術 の S 字 カーブ現 象 [技 術 の性 能 は、初 期 停 滞 期 (悪 戦 苦 闘 期 )→革 新 的 発 展 期 →後 期 停 滞 期 (爛 熟 期 )というような形 で進 歩 するという現 象 ]によれば、現 時 点 では性 能 が低 くて製 品 競 争 力 が低 いにしても、研 究 開 発 を続 けた結 果 として性 能 が飛 躍 的 に向 上 することが期 待 できる。したがって現 時 点 における性 能 があまり芳 しいものではなかったとしても、また研 究 開 発 を続 けていてもあまりめざましい性 能 向 上 が実 現 できていなかったとし ても、それは技 術 進 歩 の初 期 停 滞 期 にあるためかも知 れない。もうしばらく研 究 開 発 を持 続 すれば、初 期 停 滞 期 を 脱 し、技 術 は急 速 に発 展 するかも知 れない。 ただし無 限 に性 能 が発 展 し続 けるわけではなく、どこかに限 界 がある。しかしながら、ある特 定 の技 術 的 方 式 の性 能 限 界 (S 字 カーブの上 限 )がどこであるのかはすぐには明 確 にはならない場 合 が多 い。 そのため各 企 業 は、技 術 の将 来 的 発 展 の可 能 性 に賭 けて、自 社 の技 術 的 capability などの経 営 資 源 に基 づ [出 典 ]『イノベーションマネジメント入 門 』p.87 きながら、次 から次 へと新 製 品 を開 発 することになる。 どの技 術 的 方 式 が、あるいは、どの design が社 会 的 に勝 利 を収 めるのかが最 初 から明 確 なわけではない。( および技 術 の発 達 上 限 があらかじめにはわからないことが多 い。) この場 面 では製 造 コストの低 減 よりも、他 のライバルよりもいかに性 能 面 で比 較 優 位 に立 つかが重 要 であるため、Product Innovation に企 業 努 力 が集 中 されることになる。 ①ある特 定 時 点 での性 能 だけで比 較 するのは不 適 当 図 1 蒸 気 自 動 車 [水 蒸 気 の力 で動 く蒸 気 機 である。将 来 的 にどこまで性 能 向 上 が実 現 するかは 関 (steam engine)を利 用 した自 動 車 ] 継 続 的 な研 究 開 発 努 力 や関 連 技 術 の発 達 と の関 係 で決 まる。S 字 カーブの上 限 がどこなのかはすぐ にはわからない。 ex.1 19 世 紀 末 から 20 世 紀 初 頭 における自 動 車 の技 術間競争 19 世 紀 末 から 20 世 紀 初 頭 にかけての時 期 に は、蒸 気 自 動 車 、電 気 自 動 車 、ガソリン自 動 車 と いう3種 類 の自 動 車 技 術 が並 存 し技 術 間 競 争 が くり広 げられていた。 例 えば 1900 年 にはアメリカのニューヨーク、シカ ゴ、ボストンという3大 都 市 で 2,370 台 の自 動 車 が あったが、その内 訳 は蒸 気 自 動 車 1,170 台 、電 気 自 動 車 800 台 、ガソリン自 動 車 400 台 というものであった。その当 時 は、蒸 気 自 動 車 や電 気 自 動 車 が町 の中 、 倉 庫 、農 場 などで活 躍 していたのである。 最 も最 初 に実 用 化 されたのは蒸 気 自 動 車 である。19世 紀 前 半 には、イギリスのロンドン=バーミンガム間 で蒸 気 自 動 車 をバスとして利 用 した定 期 便 が運 行 されていた。アメリカの蒸 気 自 動 車 で代 表 的 なのが 1899 年 のスタ ンレー兄 弟 会 社 の蒸 気 自 動 車 である。鋼 管 フレームに石 油 バーナーで加 熱 する小 型 ボイラーを座 席 の下 に納 めたもので、針 金 スポーク車 輪 をもつ。チェーンと差 動 歯 車 (カーブを切 る時 、外 側 車 輪 は回 転 数 を多 く、反 対 に 内 側 車 輪 は少 なくできる歯 車 機 構 )で後 輪 を駆 動 させる二 人 乗 りで、アメリカにおける最 初 の実 用 的 自 動 車 であ 3 佐野正博(2004,2011,2013,2014)「イノベーションの歴史的展開構造に関するドミナント・デザイン論的理解」Ver.3.6(2014年度講義メモ) った。またその性 能 も高 かった。スタンレー兄 弟 会 社 が 1906 年 に試 作 した蒸 気 自 動 車 はその当 時 最 速 の時 速 204Km の世 界 記 録 を出 している。 また電 気 自 動 車 は図 2の広 告 にあるように、その当 時 で1回 の充 電 で 40 マイル(約 64km)を走 ることができ、信 頼 性 ・単 純 性 ・清 潔 性 を売 り物 にして一 定 の顧 客 の支 持 を得 ていた。 しかし結 局 のところ、ガソリン自 動 車 が蒸 気 自 動 車 、電 気 自 動 車 との競 争 に打 ち勝 ち、市 場 を支 配 することにな った。 図2 電 気 自 動 車 [電気の力で動く電動モーターを利用した自動車] 図3 ガソリン自 動 車 ②単 体 としての技 術 的 性 能 に優 れたものが勝 利 するとは限 らない。システム製 品 の場 合 にはそれの補 完 財 (補 完 資 産 )の充 実 度 とも関 係 する。 ex.1 VTR のハードウェア製 品 の競 争 における規 定 要 因 としての、レンタルビデオ市 場 ハードウェア市 場 における VHS 方 式 の優 位 が、初 期 レンタルビデオ市 場 における VHS の優 位 をもたらし たが、そうしたレンタルビデオ市 場 における VHS 方 式 の優 位 がまたハードウェア市 場 における VHS の優 位 をさらに強 化 する方 向 に作 用 した。 ex.2 パソコンのハードウェアの普 及 に関 するキラー・アプリケーションの存 在 (5) 市場 形成初期の段階の製品 購入者層は、「新 しい機 能やアイデアを実現した新製品 を試す」のが好 きな革新的 採用者(innovator)や初期 少数採用者 (early adopter)である。 その結 果 として市 場 形 成 初 期 における企 業 間 競 争 の中 心 的 焦 点 は、生 産 プロセスの改 善 による低 価 格 化 競 争 ではな く、製 品 イノベーションによる製 品 差 別 化 競 争 になる 4 佐野正博(2004,2011,2013,2014)「イノベーションの歴史的展開構造に関するドミナント・デザイン論的理解」Ver.3.6(2014年度講義メモ) 2. ある特定の design の製品が市場で支配的(dominant)となり、Product Innovation の発 生率は減少する 市 場 における技 術 競 争 および製 品 競 争 の結 果 として、ある特 定 の design の製 品 が市 場 において dominant となる。 なった後 は、Product Innovation の発 生 率 が低 下 し、製 品 に関 するそれ以 上 の画 期 的 な性 能 向 上 が起 こらなくなるの はなぜなのか? ある特 定 時 点 での seeds の数 の有 限 性 や、技 術 発 展 に関 する S 字 カーブ現 象 などにより、代 替 技 術 の発 生 が少 なくなる。 またたとえ、性 能 のすぐれた新 しい技 術 的 方 式 が生 まれても、ドミナント・デザインが成 立 している市 場 では普 及 が進 まないロックイン現 象 が生 じる場 合 が多 い。 ある特 定 時 点 で現 実 的 に実 現 可 能 性 のある技 術 的 手 段 の数 の有 限 性 (1) ある特定時 点で実 現可能性のある Product Innovation の数の有限 性 時 間 の経 過 とともに製 品 開 発 競 争 における多 様 なデザインの製 品 の出 現 は減 少 する。こうしたことが起 こる主 要 な 原 因 の一 つは、Product Innovation に際 してある特 定 時 点 で現 実 に利 用 可 能 な技 術 的 手 段 の数 は数 多 くあるとは言 っても有 限 だからである。すばらしい技 術 的 アイデアであってもそれを実 際 に量 産 可 能 な製 品 として現 実 化 するため に利 用 可 能 な技 術 的 手 段 の数 は限 られている。その結 果 としてある特 定 の時 点 で現 実 的 に実 現 可 能 性 のある Product Innovation の数 はかなり限 られたものとなる。 例 えば「環 境 にやさしい自 動 車 」というニーズに対 応 して様 々なデザインの自 動 車 製 品 の開 発 が進 められているが、 燃 料 電 池 車 や水 素 自 動 車 は現 時 点 で製 品 の製 造 に実 際 に利 用 可 能 な技 術 と言 えない。そのため現 時 点 における Product Innovation として、開発 が進 められているのは別 途 資 料 に示 したように数 が限 られている。 性 能 向 上 の余 地 の減 少 --- 技 術 発 展 の S 字 カーブ現 象 における性 能 上 限 への近 接 による製 品 成 熟 化 (2) 技術の発展限界の存在 ある特 定 の product design の技 術 的 方 式 の性 能 向 上 はどこかで頭 打 ちとなる。また製 品 特 性 との関 連 において 採 用 可 能 な技 術 的 手 段 が限 定 されている場 合 には、技 術 的 性 能 の S 字 カーブ的 な構 造 が大 きな問 題 となり、製 品 の最 適 な Product Design は一 意 的 になる可 能 性 が高 くなる。 例 え ば 、 「 人 力 に よ る 駆 動 、 比 較 的 短 い 距 離 の 移 動 の た め の 交 通 手 段 」 と い う 自 転 車 の 製 品 特 性 は 、 safety bicycle 的 な構 造 を最 適 な Product design としている。 スイッチング・コスト問 題 やネットワーク効 果 に起 因 する経 路 依 存 性 としての「技 術 のロックイン」現 象 (3) 「スイッチング・コスト」、「経路 依存性」、「市場 で評価 される製品性能 の上限」、「バンドワゴン効果 」に 起因する「技 術のロックイン」現 象 スイッチング・コスト [ 2] 、経 路 依 存 性 による歴 史 的 規 定 、市 場 で評 価 される製 品 性 能 の上 限 、バンドワゴン効 果 などに よって生 じる「技 術 のロックイン」現 象 に見 られるように、dominant design の成 立 後 は、dominant design とは異 なる product design を実 現 しようとする Product Innovation は市 場 で受 け入 れられなくなる。 例 えば複 数 の製 品 セグメントに共 通 する dominant design としての QWERTY 配 列 は、下 記 のようにそれぞれの製 品 セグメントにおける dominant design の経 路 依 存 性 (Path-dependency)によって歴 史 的 に規 定 されている。 a. 電 動 式 タイプライター→テレタイプ b. テレタイプ→PC c. 初 期 コンピュータの有 力 な業 者 はタイプライター製 造 業 者 でもあったこと --- IBM,Remington land d. タイプライターを使 うタイピスト→紙 テープやパンチカードにデータを打 ち込 むキーパンチャー [2] スイッチング・コストに関 しては製 品 ユーザー側 および製 品 生 産 側 の両 方 を考 慮 する必 要 がある。またスイッチング・コ ストは製 品 のシステム性 という視 点 から理 解 する必 要 がある。 5 佐野正博(2004,2011,2013,2014)「イノベーションの歴史的展開構造に関するドミナント・デザイン論的理解」Ver.3.6(2014年度講義メモ) 3. dominant design の成立後の一定期間は、Process Innovation が盛んになる ----- ドミナント・デザイン論 に関 する企 業 戦 略 論 的 視 点 からの理 解 (その1) ------ Product Innovation が 低 調 に な る 一 方 で 、 dominant design の 成 立 を 契 機 と し て Process Innovation が 盛 ん に な る 。 そ の よ う に Process Innovation の発 生 率が相 対的 に高 い時期 が「流 動 期」である。 ある特定 のタイプの design に決 まることで、熟練 の形 成 や生 産 プロセスに関 する技 術 的 改 良 の蓄 積 などを基 礎 とする製 造 コストの低 下 (経 験 効 果 曲 線)が企 業 間競 争の中 心 的課 題 となる。 ex.1 HDD に関 する経 験 曲 線 HDD は右 の図 にしめされているように、累 積 生 産 テラバイト数 が2倍 になるにつれて、1MB あたりの価 [図 の出 典 ]クレイトン・クリステンセン(伊 豆 原 弓 訳 ,2001)『イノ ベーションのジレンマ 増 補 改 訂 版 』翔 泳 社 ,p.33 格 が約 半 分 (53%)になることが知 られている。 ex.2 自 動 車 の製 造 コストに関 する経 験 曲 線 4. dominant design の成立後は、技術的な競争優位の獲得競争の焦点は製品の機能・ 性能から製品の製造へと移行する 技 術 革 新 に関 する S 字 カーブという経 験 的 現 象 で論 じられているように、製 品 に対 する新 しい機 能 の付 加 や、製 品 の性 能 向 上 には技 術 的 に一 定 の限 界 が存 在 することが多 い。また技 術 的 に可 能 であっても、クリステンセンが『イノベーション のジレンマ』で論 じているように、顧 客 の要 求 水 準 を超 えた技 術 的 性 能 の向 上 は市 場 ではあまり評 価 されない。 それゆえ時 間 の経 過 とともに dominant design の候 補 となる Product design が少 数 に絞 られ、最 終 的 にある特 定 の Product design が市 場 において dominant となると、Product Innovation の発 生 は時 間 の経 過 とともに徐 々に低 下 するこ とになり、製 品 の機 能 や性 能 といった面 での差 異 化 によって他 社 に対 する競 争 優 位 の確 保 を実 現 することは次 第 に困 難 になる。 その結 果 として、製 品 の機 能 や性 能 ではなく、製 品 の製 造 コスト・品 質 ・生 産 リードタイムなど製 品 の製 造 プロセスに関 して他 社 に対 する競 争 優 位 を技 術 的 に確 保 することに焦 点 が移 動 することになる。すなわち Product Innovation が低 調 になる「固 定 期 」においては、製 品 の価 格 や品 質 を中 心 とした競 争 に移 行 する。固 定 期 においては、製 造 プロセスに 関 する技 術 的 改 良 に努 力 を集 中 して、一 定 の品 質 を確 保 した上 でいかに製 造 コストを下 げるかが重 要 となる。 5. 「技術のロックイン現象」再論 キーボード の配 列 に 関 しては 初 期 の様 々なキ ーボー ド配 列 間 の競 争 にお いて QWERTY 配 列 が勝 利 し、dominant design となった後 はその後 の様 々な技 術 革 新 も一 般 には受 け入 れられなかった。キーボード配 列 に関 する技 術 進 歩 に 対 する社 会 的 受 容 は QWERTY 配 列 の段 階 でストップしてしまったのである。 このようにある技 術 的 方 式 が初 期 の競 争 において勝 利 した後 、技 術 進 歩 がその段 階 でロックインされ、その後 の技 術 進 歩 の社 会 的 受 容 がストップする現 象 がしばしば観 察 される。従 来 のものよりも優 れた技 術 的 方 式 が開 発 されても、そう した技 術 革 新 が一 般 に受 け入 れられないことがしばしば起 こる理 由 は何 であろうか? こうした現 象 を生 み出 す要 因 としては、下 記 のようなものが存 在 する。 (1) スイッチング・コスト (2) 経路 依存性 --- 製品 を取り巻く環 境の歴史的規定性 (3) バンドワゴン効果 バンドワゴン効 果 に関 しては、佐 野 正 博 「ライベンシュタインおよびロルフスのバンドワゴン効 果 論 」を参 照 のこと。 6 佐野正博(2004,2011,2013,2014)「イノベーションの歴史的展開構造に関するドミナント・デザイン論的理解」Ver.3.6(2014年度講義メモ) a. ネットワーク外 部 性 に関 わるバンドワゴン効 果 FAX の Product Innovation において、G4 FAX という性 能 が高 い新 世 代 機 が、G3 FAX という性 能 が低 い旧 世 代 機 との競 争 に敗 北 した理 由 b. 補 完 財 に関 わるバンドワゴン効 果 音 楽 CD と CD プレイヤー(累 計 12 億 台 )+CD-ROM ドライブ(累 計 14 億 台 ) 「1 回 目 の書 き込 みはいいけど 2 回 目 はだめとか、パソコンでかからないような CD を出 すとか、ネットではかかるけどプ レーヤーではかからないとか、最 近 ではいろんなことがあります。しかし、CD プレーヤーは累 計 12 億 台 。CD-ROM ド ライブは 14 億 台 、現 在 存 在 しています。それで再 生 できないようなものを出 したら、僕 はだめだと思 うんです」。[出 典 ] 北 川 達 也 (2003)「中 島 平 太 郎 氏 インタビュー(2) 「著 作 権 」と「音 質 」――CD の生 みの親 が呈 する苦 言 (2/2)」IT メ ディアニュース 2003 年 2 月 13 日 07:36 AM 更 新 http://www.itmedia.co.jp/news/0302/13/nj00_nakajima2_2.html (4) 市場において意 味あるものとして評価される性能に関する上限 技 術 革 新 による製 品 の性 能 向 上 が進 むと、どこかで顧 客 が必 要 とする最 低 限 の性 能 を超 えるだけでなく、顧 客 が十 分 と 思 う性 能 水 準 も超 えてしまうことになる。顧 客 が十 分 と思 う性 能 水 準 を超 えた製 品 に関 わる複 数 の技 術 的 方 式 の間 での競 争 においては、音 楽 CD に関 する製 品 イノベーションのように、性 能 ではなくコスト・品 質 などが焦 点 となるため、性 能 向 上 を目 的 とした技 術 革 新 は社 会 的 に受 け容 れられなくなる。 顧 客 によって要 求 水 準 は異 なることや、その時 点 で最 高 の性 能 を持 った製 品 を求 める顧 客 が少 数 ならず存 在 することな どにより、多 くの人 が十 分 と考 える性 能 水 準 をかなり超 えた製 品 がさほど売 れないというわけではない。しかしながら数 多 く の顧 客 の一 般 的 な要 求 水 準 を超 えた場 合 には、価 格 競 争 が中 心 となり、性 能 による製 品 差 別 化 は顧 客 の支 持 を得 られ なくなる。 ex.1 食 物 摂 取 という needs に対 する量 的 充 足 は大 きい→よりおいしいモノを食 べたいという質 的 充 足 のレベルはそれに比 べるとかなり大 きいが、それにも限 度 がある) ex.2 VTR における VHS から S-VHS への Product Innovation、βⅡから ED-Beta(ED-βⅡ)への Product Innovation ex.3 キーボード配 列 における QWERTY 配 列 ex.4 音 楽 CD に関 する Product Innovation 既 存 の音 楽 CD は 44.1kHz のサンプリングレートで 2 チャンネルの 16 ビット PCM のデジタルオーディオという性 能 水 準 。 1)SACD(Super Audio CD ) 1bit2.8MHz のサンプリングなので理 論 値 としては 1.4MHz が高 音 域 の 限 界 、ただし実 用 上 は約 100kHz。120dB のダイナミックレンジ。 名 称 は CD だが、記 憶 容 量 は 1 層 当 たり 4.7GB で DVD と同 一 。 2)DVD-Audio 2ch で最 大 24 ビット/192 kHz のサンプリングなので理 論 値 としては 96kHz が高 音 域 の限 界 、144dB のダイナミックレンジ。6ch でも最 大 24 ビット/96kHz。 ex.5 HDDの Product Innovation 顧 客 の要 求 水 準 は、wants とともに変 化 するにしてもさほど大 きくは 変 化 しないため、左 図 のように技 術 革 新 による製 品 の性 能 向 上 の曲 線 が、顧 客 の要 求 水 準 の向 上 の曲 線 をやがて上 回 ってしまうようにな る場 合 が多 い。 7 [出 典 ]クレイトン・クリステンセン(伊 豆 原 弓 訳 ,2001) 『イノベーションのジレンマ 増 補 改 訂 版 』翔 泳 社 ,p.45 佐野正博(2004,2011,2013,2014)「イノベーションの歴史的展開構造に関するドミナント・デザイン論的理解」Ver.3.6(2014年度講義メモ) 6. dominant design 論に関わる具体的事例 (1) 自転 車における Product Innovation の場合 --- ユーザー層、necessity – wants -complex、対応 technology それぞれの多種 多様性に起因する Product design の多様性 Necessity(あるいは usefulness)の多種多様性に対応する wants ① 「移 動 速 度 の向 上 」という necessity/usefulness -> 「徒 歩 よりも高 速 な交 通 手 段 」に対 する wants に対 する既 存 Product としての馬 車 、蒸 気 自 動 車 、蒸 気 バス ② 「安 全 性 の確 保 」という necessity/usefulness -> 「安 全 な交 通 手 段 」に対 する wants ③ 「乗 り心 地 の良 さの実 現 」という necessity/usefulness -> 「快 適 な交 通 手 段 」に対 する wants 具体 的 Necessity(あるいは usefulness)の多 種多様性に対 応した製 品開発における、開発 者の開発リソ ースの限定 性・歴史的 規定に基 づく製品開発 戦略の多様 化 ① 速 度 重 視 の開 発 ② 走 行 性 能 重 視 の開 発 ③ 安 全 性 重 視 の開 発 製品デザインの多様性 ① 車 輪 の数 (2 輪 、3 輪 etc) ② 前 後 輪 の相 対 的 大 きさ 前 輪 が大 きい Ordinary 型 後 輪 が大 きい Ordinary 型 (Ordinary Safety 型 ) 前 後 輪 が同 じ大 きさの Safety 型 ③ 前 輪 駆 動 式 vs 後 輪 駆 動 式 ④ 回 転 ペダル駆 動 式 vs レバー駆 動 式 ⑤ 歯 車 =チェーン駆 動 式 vs 直 接 駆 動 式 市場における主要 な製品デザインの収束、すなわち、ドミナント・デザインの成立 ① 2輪 ② 前 後 輪 が同 じ大 きさ ③ 後輪駆動式 ④ 回 転 ペダル駆 動 式 ⑤ 歯 車 =チェーン駆 動 式 (2) 環境にやさしい自動車の場合 ---- 環境にやさしいエンジンという needs に対応可 能な多種 多様な技 術 、およびそうした技術に基づく多種多様 な wants 環境にやさしいエンジンという needs という表現の中に含 まれる多様 な技術的含 意(技術的 needs として の多様 性) ①CO2 などの地 球 温 暖 化 物 質 に関 する単 位 走 行 距 離 あたりの排 出 量 がなるべく小 さいエンジンに対 する needs ②NOx などの環 境 汚 染 物 質 に関 する単 位 走 行 距 離 あたりの排 出 量 がなるべく小 さいエンジンに対 する needs ③石 油 などの化 石 燃 料 やウラン燃 料 などの再 生 不 可 能 なエネルギー(再 生 不 可 能 であるがゆえに、超 長 期 的 には枯 渇 することが論 理 的 に予 想 されるエネルギー)ではなく、植 物 性 由 来 のエタノール燃 料 などの再 生 可 能 なエネルギ ーを利 用 するエンジンに対 する needs a. ガソリン・エンジンのさらなる改 良 (既 存 技 術の改 良型 イノベーション) 日 産 自 動 車 --- エンジン摩 擦 を 25%減 少 するととともに、ガソリンの爆 発 のムラをなくして燃 費 を20%改 善 する技 術 を開 発 中 (『日 経 産 業 新 聞 』2006 年 5 月 23 日 ) 8 佐野正博(2004,2011,2013,2014)「イノベーションの歴史的展開構造に関するドミナント・デザイン論的理解」Ver.3.6(2014年度講義メモ) b. ディーゼル・エンジンのさらなる改 良(既 存 技 術 の改良 型 イノベーション) ダイムラーのブルーテク BlueTec http://www.drivingfuture.com/auto/benz/u3eqp30000005fo9.php c. ハイブリッドエンジン(従 来型 エンジン+電 動モーターの組 み合 わせ) ハイブリッドエンジンには、さらに下 記 のような複 数 の技 術 方 式 が存 在 する。 ① ガソリンエンジン利 用 型 ハイブリッド(トヨタ) vs ディーゼルエンジン利 用 型 ハイブリッド(ダイムラー) ② 高 出 力 電 動 モーター利 用 型 ハイブリッド(トヨタ) vs 補 助 電 動 モーター型 ハイブリッド(ホンダ) ③ 二 種 類 のエンジンの同 時 作 動 型 ハイブリッド(トヨタやホンダ)vs 状 況 対 応 型 ハイブリッド(GM の 2 モード駆 動 シス テム) d. 充 電 池 に充 電 された電 気で動 かす電 動モーター ニッケル水 素 充 電 池 利 用 型 の電 動 モーター (トヨタのハイブリッドカー「プリウス」などで利 用 ) と、リチウムイオン充 電 池 利 用 型 の電 動 モーター (富 士 重 工 業 の電 気 自 動 車 「R1e」や三 菱 自 動 車 の電 気 自 動 車 「iMiEV」などで利 用 ) がある。 http://plusd.itmedia.co.jp/lifestyle/articles/0705/24/news030_2.html e. キャパシタに充 電された電気 で動 かす電 動モーター ex.1 東 京 大 学 生 産 技 術 研 究 所 の堀 洋 一 教 授 の研 究 室 が開 発 した電 気 自 動 車 「C-COMS」 中 山 力 (2006)「電 気 自 動 車 に乗 ってみた」http://techon.nikkeibp.co.jp/article/TOPCOL/20060222/113549/ 富 岡 恒 憲 (2006)「東 大 生 研 の電 気 自 動 車 研 究 室 ,1~2 分 の充 電 で 20 分 走 れる小 型 EV を開 発 」 http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20060222/113553/ ex.2 米 マクスウェル・テクノロジーズ社 のウルトラキャパシター技 術 John Gartner(2005)「充 電 可 能 ハイブリッド車 、高 まる期 待 と問 題 点 」『WIRED NEWS』Hotwired Japan http://hotwired.goo.ne.jp/news/20051122104.html f. 燃 料 電 池 によって「発 電」された電 気 で動 かす電 動 モーター 渡 辺 正 五 「燃 料 電 池 自 動 車 の市 場 導 入 に向 けた取 組 み」 http://www.its-lectures.ae.keio.ac.jp/2004/2004_m_6.pdf g. 代 替 燃 料 の利 用 (燃 料 に関 する Product Innovation) 1)「エタノールとガソリンの混 合 燃 料 」利 用 型 永 村 知 之 「バイオエタノールの将 来 性 :温 暖 化 対 策 の切 り札 となるか?」(三 菱 総 合 研 究 所 サステナビリティ研 究 部 研 究 員 ) http://www.mri.co.jp/COLUMN/ECO/NAGAMURA/2004/1213NT.html 2)「純 粋 エタノール」利 用 型 3)「天 然 ガス」利 用 型 天 然 ガス利 用 型 自 動 車 にも下 記 の 3 種 類 の技 術 的 方 式 がある a.圧 縮 天 然 ガス自 動 車 (CNG 自 動 車 ) ----天 然 ガスを気 体 のまま、高 圧 (20MPa、24.8MPa 等 )でガス容 器 に貯 蔵 するタイプ b.液 化 天 然 ガス自 動 車 (LNG 自 動 車 ) ----天 然 ガスを液 体 (-162℃)で、超 低 温 容 器 に貯 蔵 するタイプ c.吸 着 天 然 ガス自 動 車 (ANG 自 動 車 ) ---天 然 ガスを、ガス容 器 内 の吸 着 材 に吸 着 させ、圧 力 数 MPa で貯 蔵 するタイプ 天 然 ガス自 動 車 の特 徴 ----- 海 外 では、既 に 360 万 台 以 上 の天 然 ガス自 動 車 が、一 般 車 として普 通 に走 行 している ① 排 出 ガスがクリーン ・地 球 温 暖 化 の原 因 となる CO2(二 酸 化 炭 素 )の排 出 量 を、ガソリン車 より 2~3 割 低 減 できる。光 化 学 スモッグ・酸 性 雨 などの 環 境 汚 染 を招 く NOx(窒 素 酸 化 物 )、CO(一 酸 化 炭 素 )、HC(炭 化 水 素 )の排 出 量 が少 なく、SOx(硫 黄 酸 化 物 )は全 く排 出 されない。また黒 煙 は排 出 されず、粒 子 状 物 質 はほとんど排 出 されない。 ② 優 れた走 行 性 能 ・走 行 性 能 や燃 費 はガソリン車 やディーゼル車 など従 来 車 と同 等 。 ・オクタン価 がガソリン等 より高 く(メタンのオクタン価 は 130 程 度 )、エンジンの圧 縮 比 を上 げて効 率 を高 めることができる。 ・気 体 燃 料 であるため、冬 場 でもエンジンスタートがスムーズである。 ・ディーゼルエンジンと比 べた場 合 、騒 音 ・振 動 が大 幅 に改 善 され、優 れた静 粛 性 を発 揮 する。 ③ 一 充 填 当 たりの走 行 距 離 は 300km 程 度 で、日 常 の使 用 では問 題 なし---従 来 車 とほぼ同 じ ・一 充 填 当 たりの走 行 距 離 は 300km 程 度 で、日 常 の使 用 では問 題 ない。最 近 では、FRP 容 器 やオールコンポジット容 器 など 軽 量 容 器 を採 用 し、搭 載 本 数 を増 やすことで、従 来 のガソリン自 動 車 とほぼ同 等 の走 行 距 離 を確 保 できるようになってきて いる。 ④ 車 両 重 量 も従 来 車 とほぼ同 じ ・FRP 容 器 やオールコンポジット容 器 など軽 量 容 器 の開 発 ・採 用 により、乗 車 定 員 、積 載 量 は従 来 車 とほぼかわらなくなって いる。 http://www.gas.or.jp/ngvj/text/ngv_feat.html 9