Comments
Description
Transcript
計測工学講義 第3回目 担当:西野信博 A3
計測工学講義 第3回目 担当:西野信博 A3-012号室 [email protected] プラズマ実験装置NSTX(Princeton) 1 目 次 • 前回演習の答え • 第一章 誤差論 – ヒストグラム、極限分布、確率分布 – 正規分布と最も確からしい値 – 推定と検定 • 正規分布から派生する分布 – 誤差の伝播 2 演習 1 • ある円柱の長さをものさしで10回測っ たら、右のような結果を得た. • 確率99%で真値の入る区間を推定せ よ.必要なら、以下の数式と数字を使 用してよい.最後に有効数字3桁としな さい. x z1 x z1 n n 正規分布表からz1=2.5758 s s x t1 x t1 n 1 n 1 t分布表からt1=3.2498 測定回数 測定値 1 10.15 2 9.85 3 9.75 4 9.9 5 10.35 6 9.9 7 9.7 8 10.2 9 10.05 10 10.15 平均値 標準偏差 10 0.201246 3 演習 1 の 解答例 • ポイント:母分散が指定されていない(=未知)ので、t分布を 使用する。 • よって、 • 表から平均値は10.0であり、自由度は9(=10-1)である。 • 自由度9のt分布の信頼水準99%のt値は3.2498と与えられて いるので、 s s x t1 x t1 n 1 n 1 • より、答えを有効数字3桁で表すと 9.78 10.22 • これを間違えて、正規分布を使用すると多少計算が面倒にな るが、 9.84 10.16 T分布より範囲が狭くなる理由を考えよ 4 前回までの授業の流れ • これまでは, • 第1回で、誤差論の基礎として,誤差の定義,代表的な誤差 について説明し,誤差論が確率・統計を利用することを勉強し た。そして,ヒストグラムから確率分布関数を導いた。 • 第2回では,その応用として,点推定と区間推定の勉強をした。 • そこで,今回は,残りの検定について勉強する。 5 検定 • 検定とは、ある量に関して仮説を立て、次に、その仮説が正しい かどうかをデータから推し量ることである。 • 基本的な考え方は、前回の推定と同様で、変量の従う確率分布 がわかっているか、あるいは、確率分布も(暗に)仮定して、ある 基準を仮説が満たすかどうかを判定する。 (日本語が多少ややこしいので注意すること) 仮説(統計的仮説)とは、母集団の分布に関する何らかの仮定の こと。 仮説を採択するか棄却するかの判断基準を、危険率または、有 意水準と言い、通常、1%か5%である。 推定と同様100%の判断はない。 • • • • 6 説明 • 一つの仮説の下で、ある事象が起こる確率がある値α以下で あった。 • ところが、標本値を下に計算した結果、その事象が起こること になる確率がαより大きい場合は、もとの仮説を間違いとして、 棄却する。 • 逆に、その事象が起こる確率がα以下であるなら、仮説が正し かったとして、その仮説を採択する。 • すなわち、「仮説が採択される」ことは、「仮説が正しい」ことで はない。「仮説が正しくないとはいえない」と言う意味となる。 • 仮説 H が正しいのに採択しなかった(第一種の誤り) • 対立仮説 H が正しいのに、もとの仮説 H を採択した(第二種 の誤り) 7 代表的な検定の例 • 検定にも、推定と同様によく使用される例がある。以下に一部 を紹介する。 • 母平均の検定 – 母分散が既知の場合 – 母分散が未知の場合 • 母分散の検定 • 母分散の比の検定 • 母平均の差の検定 8 母平均の検定 • 母分散σ2が既知の場合 母平均の推定と同様に正規分布の応用 • 正規分布の母集団から、大きさnの標本x1~xnをとる.確 率変数 X は,正規分布(μ,σ2/n)に従う. • Z X n / の変換でZは正規分布(0,1)に従う. 9 母平均の検定(母分散が既知) • • • • 例題 1 ある工場のボルト製品25個の長さを調べたところ、平均50.1 mmであった。 これと同じ規格のボルトの全国の平均値は50.0mmである。 このボルトの分布が偏差0.25mmの正規分布に従っているとき、 この工場のボルトの長さが全国平均と比べてかけ離れている かどうか有意水準(危険率)5%で検定せよ。 10 例題の解答例 • 仮説を「平均値が50.0mm」ととる。 X 50.1, 50.0, 0.25, n 25 • を正規分布(μ,σ2/n)に代入して、 Z (50.1 50.0) 25 / 0.25 2.0 • • • • • 正規分布表より、5%の棄却域はZ1=1.96 標本のZはこのZ1より大きく棄却域である。 よって、この工場のボルトは、 有意水準(危険率)5%で、大きくかけ離れている と判断できる。 11 正規分布表 • 外側の面積が与えられている場合が便利 12 演習 2 • 前回の問題で、有意水準(危険率)が2%なら結論はどう なるか。数字を用いて説明せよ。参考までに、下表は前 頁の正規分布表である。また、Z=2.0であった。 13 代表的な検定の例 • 母平均の検定 – 母分散が既知の場合 – 母分散が未知の場合 • 母分散の検定 • 母分散の比の検定 • 母平均の差の検定 14 母平均の検定(母分散が未知) • • 母分散が未知である場合の母平均の検定を説明する。 使用すべき確率分布は、母分散が未知の推定と同一で、t分布 である。 s s x t1 x t1 n 1 n 1 • • 例題 母平均が5.4である正規母集団から10個標本を無作為抽出し て(10回独立に測定),標本平均7.6,標本分散15.3を得たとす る.さて,このような結果が出る確率は1%より小さいか? 15 母分散が未知であるt分布を使用 • t分布表で自由度=10-1=9でα=0.01のところを読むと, t=3.2498である. n=9,α=0.01で、t=3.2498 • 一方、n=10,μ=5.4,s2=15.3からs=3.912 T X n 1 / S • に代入して,t=1.69 • t値1.69は、-3.2498と3.2498の間になるので、1%以上ある. 16 代表的な検定の例 • 母平均の検定 – 母分散が既知の場合 – 母分散が未知の場合 • 母分散の検定 • 母分散の比の検定 • 母平均の差の検定 17 母分散の検定 • 母分散が従う確率分布であるχ2分布を利用する •母分散の検定の仕方 •左図で、斜線部が棄却域でこの 範囲に入れば棄却する。 χ2分布の例、n=4 0.2 0.18 0.16 0.14 0.12 Tn(Z) •ある計測で得られた測定値(標 本)から、それらが正規分布に従 っているとして、母分散=σ2であ ると言う仮説を有意水準(=危険 率とも言う)αで検定する。 0.1 面積α/2 0.08 0.06 0.04 0.02 0 0 2 Zlow 4 6 Z 8 10 Zhigh 18 例題 • 工場で生産している規格品のボ ルトを適当に抽出して、その長さ を計ったら表のようになった。 • もし、ボルトの長さが正規分布し ているなら、その母分散が0.25で ある仮説を有意水準0.05で検定 せよ。 No.1 No.2 No.3 No.4 No.5 No.6 No.7 No.8 平均値 分散 50 .1 49 .8 50 .2 49 .9 5 0.15 49 .8 50 .2 4 9.85 50 0 .2 2 5 19 χ2分布表 • 左図はχ2分布を数値 計算して作成した表で ある. • 斜線の部分の面積が ある値α(行)のときの自 由度n(列)とχ2(表)の値 が示されている. 20 χ2分布を利用 • Z=nS2/σ2は、自由度7=(8-1)のχ2分布に従う。 • 有意水準0.05では、0.025(=0.05/2)と0.975(=1-0.05/2)の 面積の横軸の値が必要。 • 数表を利用して、Zlow=1.690 、Zhigh=16.013 • 測定値からは、Z=nS2/σ2=8x0.225÷0.25=7.2 • このZの値は、棄却域に入っていない。 • よって、有意水準0.05では母分散=0.25の仮説は棄却でき ない。 • ちなみに、Z=7.2を棄却域とするαは約0.25である(両側の 面積の和)。 • すなわち、有意水準0.3ではこの仮説は棄却される。 21 推定と検定のまとめ • 母平均の推定・検定 – 母分散が既知の時、正規分布を利用 – 母分散が未知の時、t分布を利用(あるいは、F(1,n)分 布)(スチューデント分布ともいう) • 母分散の推定・検定 – χ2分布を利用 • 母分散の比の推定・検定 (講義ではしていない) – F分布を利用 22 誤差の伝播 • • • 色々な測定量を組み合わせて,必要な量を算出する場合がある. – 例えば、直方体の体積を求めるときに、各々の辺の長さを計り、 その積を出す時などである. – こういう場合、各々の測定量である辺の長さの誤差は最終的 な体積の誤差にどのように影響するのであろうか? 一般に,n個の独立な測定量x1~xnから、それらの関数である Q(x1,x2,・・,xn)という量を決定する場合、各x1~xnの誤差はどのよう にQに影響するかであろうか? この影響の伝わり方を誤差の伝播という。 – 伝播とは伝わり広まること 23 Qの誤差の考え方 • 今、各測定量x1~xnの誤差をδx1~δxnとすると、Qの誤差 δQは、Qの全微分の式より Q Q Q dx 2 dx n dQ dx 1 x1 x 2 x n • であるから、Qの誤差は Q Q Q δQ δx 1 δx 2 δx n x n x 1 x 2 • • ところで、数学的には上式は正しいが、誤差論に使うにはまず いことがある. それは、なぜか? 24 誤差論での認識 • なぜなら、誤差は正負の値を持つので、互いに打ち消しあう場合 が出てくる. • そこで、 δQ Q Q Q δx n δx 2 δx 1 x n x 2 x 1 • 各測定量が正規分布でばらついていれば(すなわち、各測定量 の確率変数が正規分布に従う時) • Qの分散は 2 σQ 2 2 2 Q Q Q 2 2 2 σ 1 σ 2 σn x1 x x1 x 2 x x 2 x n x xn • で与えられる.(正規分布の重ね合わせの原理より) 25 誤差の伝播の式 • この誤差の分散の式を「誤差の伝播」の式という。 2 σQ • • 2 2 2 Q Q Q 2 2 2 σ1 σ2 σn x1 x x1 x 2 x x 2 x n x xn 実際の測定に関して重要なことは,δQの式から,各誤差の項 目をなるべく同じ大きさにするの方が、誤差を減らす効率が良い ことが判る。 もっと判りやすく云うと,誤差の大きい項から測定方法を改善す るのが効果的である. – この考えを経営に生かすとVAやトヨタ生産方式となる。 26 誤差等分の原則 • • すなわち、各項目の分散の寄与を等しくする。 この原則(これは、測定の思想である)に基づいて、考えると、 2 2 2 Q Q Q 1 2 2 2 2 σ1 σ2 σ n σQ n x1 x x1 x2 x x 2 xn x x n • となるのが誤差の観点からは理想的な計測ということになる.この 考え方を「誤差等分の原則」(principle of equal effect)という. • では、実際にどのように利用するか見てみよう. 27 例題 • 円柱の体積Vは、底辺の直径D、高さLとして、 D V L LD 2 4 2 2 • もし、体積を2%の精度で測りたい場合、底辺の直径と高さは それぞれ何%の精度で測るのが良いと思うか? • 誤差の等分を使用して答えよ. 28 例題の答え 2 σQ 2 2 2 Q Q Q 2 2 2 σ σ σ 1 2 n x n x xn x 2 x x 2 x1 x x1 • 上の式で、QVとして、 Vにおける誤差の伝播を計算する V LD D 2 V 2 D L 4 • を考慮すると、 V 2 V L 2 D V L D 2 • よって、 2 2 D L LD D 2 4 2 2 2 2 2 29 誤差の等分を使用する • 1 V L 2 D L D V 2 2 ∴ 2 1 V 2 V L • よって、 L 2 D D 誤差の等分 1 V V 2 2 • として測るのが、合理的である. • よって、答えは – Lが1.4%、Dが0.71%以内の精度である. – 精度=精密さ=誤差の表現である。 – 第一回目の授業で、精密さと正確さの違いを理解した。 30 Qが測定値の積の形の場合 1 • いま求めたい変量Qが各測定値x1-xnのべきの積の形である 場合、 Q x x x y1 y 2 1 2 yn n Q yi x1y1 x2y 2 xiyi 1 xnyn xi • すると、各測定値の誤差の分散は 2 Q y 2 Q x xi 2 i 2 i 2 yi2 1 Q 2 2 Q xi xi 31 Qが測定値の積の形の場合 2 • 誤差の伝播をQ2で割って、 ln Q 2 Q 2 xi xi yi i xi i Q xi 2 2 2 • よって、Qが測定値の積の形で表されるなら簡便にでき、 • 誤差の等分は、 xi 1 Q yi x n Q i 2 2 2 • すなわち、各測定値の誤差は全誤差の 1 とする。 yi n 32 演習 • • 円錐の体積を求める時に、高さと底辺の直径を測って求めるこ とを考える。 体積の誤差(=精度)を2%以内にしたければ、それぞれの長さを 測るときに、下記の問に答えよ。 1. 誤差等分の考えからは、それぞれの長さを何%の精度で計る 必要があるか? 2. 長さを測る計器が同じとすると、各辺の長さの誤差も同一となる。 この時、1の答えは変わるか?変わる場合は、どう変わるか? 33