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多様な薬剤が使用される救急の現場で 薬剤師の専門性が求められている

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多様な薬剤が使用される救急の現場で 薬剤師の専門性が求められている
対談
Step-Up! 薬剤師
No.2
ATSUKO MINEMURA
HIROKO UNEI
救急医療における薬剤師の役割と救急認定薬剤師制度
峯村 純子(昭和大学病院薬剤部課長)
高度救命救急センター担当
日本臨床救急医学会救急認定薬剤師制度検討委員会委員
救命救急センター病棟担当
日本臨床救急医学会評議員
同救急認定薬剤師制度検討委員会委員
同多職種連携委員会委員
救急医療の現場で薬剤師がチームの
一員として活躍する医療機関が増え
てきました。2008年に薬剤管理指
救急認定薬剤師制度の
構築にかける薬剤師の意思
剤師27名が認定されました。最近にな
って救急、集中治療領域の薬剤師を
巡る環境が大きく動いてきています。
峯村 これまで薬剤管理指導業務は
畝井 日本臨床救急医学会の多職種
ったことに加え、薬剤師の専門性が
一般病棟が中心であり、ほとんどの病
連携委員会の中に薬剤師ワーキンググ
チーム医療に不可欠という認識が高
院は救急まで手が回らない状況でし
ループをつくっていただいたことが、認
まり、そしてこれまでの薬剤師たちの
た。しかし、2008年度の診療報酬改
定制度の推進に大きな力となりました。
実績が高く評価された結果といえま
定で薬剤管理指導料1の新設が転機
峯村 当時は日本病院薬剤師会でが
す。そこで今回、
「救急認定薬剤師制
となり、ICUや救急病棟に関わる薬剤
ん領域と感染制御領域の専門薬剤師
度」を構築したワーキンググループの
師が増えてきています。
制度が始まった時期で、多くの薬剤師
メンバーでもある峯村純子先生と畝
さらに、日本臨床救急医学会が母
が刺激を受けた反面、認定制度のな
井浩子先生に、救急医療における薬
体となって日本病院薬剤師会と共同に
い救急領域で働く薬剤師たちのモチ
剤師の現状と今後の方向性について
よる救急認定薬剤師制度が新設され、
ベーションは下がり気味でした。そこで、
お話をうかがいました。
2011年8月には初めての救 急認定薬
当時当院の救急センター長の有賀徹
配置薬の管理など、薬剤をモノとして
医学会で薬剤師が何かできないかと
薬剤部長を対象にアンケート調査を
管理するだけの業務ではなく、薬剤
相談したところ、多職種連携委員会に
実施しました。
師に求められていることは、専門性を
委員として参加したらどうかとアドバイ
畝井 この調査には大きな意味があ
活かした救急・集中治療領域におけ
スされ、私が委員に参加し救急領域
りました。薬剤師が救急に関与してい
る薬物療法の安全性の向上、質の向
の薬剤師たちに声をかけ、薬剤師ワ
る施設は約40%でしたが、その中で
上だったと確認できたのです(図1)。
ーキンググループを立ち上げました。
専任の薬剤師を配置している施設で
また薬剤師が救急医療に参画できな
ワーキンググループでは、どのくら
はさまざまな医薬品適正使用に関する
い原因として、診療報酬がついていな
い救急の現場で薬剤師が業務を行っ
情報提供がなされており、80%の救
い、マンパワーがないという問題も浮
ているのか、現場は薬剤師に何を求
命救急センター長から、薬剤師は必
き彫りになりました(図2)。
めているのかなど、まず実態を把握し
要だと回答していただきました。定数
峯村 調査結果は日本病院薬剤師会
図1 センターで担当薬剤師が行っている業務とセンター長が希望する業務との比較
薬品管理
患者ごとの注射の取り揃え
注射の混注
処方監査
配合変化情報
医師への処方アドバイス
副作用報告などの情報提供
持参薬剤鑑別
薬歴管理
■行っている業務
(薬剤部長回答)
N=54
TDM
■センター長が必要と
考えている業務
N=115
入室前の薬歴確認
急性
薬毒物
中毒
導料が改定されたことが追い風とな
ようと、全国の救急救命センター長と
医薬品適正使用に関する情報提供
多様な薬剤が使用される救急の現場で
薬剤師の専門性が求められている
教授(現病院長)に、日本臨床救 急
薬品管理・
供給
畝井 浩子(広島大学病院副薬剤部長)
01 P&P 2012 No.1
×
急性薬毒物中毒に関する情報提供
急性薬毒物分析
その他
0
20
40
60
80
100
施設数割合(%)
※薬剤部長の回答は、専任薬剤師あるいは兼任薬剤師を配置している52施設、および専任か兼任の回答がなかった2施設の合計54施設から得た回答。
日臨救急医会誌 2009;12:412-419
2012 No.1
P&P 02
対談
Step-Up! 薬剤師
ATSUKO MINEMURA
×
HIROKO UNEI
No . 2 救急医療における薬剤師の役割と救急認定薬剤師制度
図2 センターへ薬剤師を配置するにあたっての障害
センターの施設基準として薬剤師が含まれていない
薬剤管理指導業務のような診療報酬がない
施設の薬剤師数が少ない
■薬剤部長
N=137
薬剤師の救急医療に関する理解が十分でない
■センター長
N=115
その他
0
20
40
60
80
100
施設数割合(%)
日臨救急医会誌 2009;12:412-419
Assistance Team)の隊員は救急の医
畝井 重症救急患者さんは全体の約
パワー、薬剤部の実情に合わせたチ
師や看護師とともに、薬剤師もサポー
1%で、実際は初期救急や二次救急の
ームをつくっていけば、徐々にステッ
ト役として必要になります。救急で働
ほうが多いのですが、二次救急の崩
プアップできます。また薬剤部内での
く薬剤師は救急領域だけでなく、災
壊が問題視されています。救急認定
協力によって迅速なTDMや薬品供給
害医療も含めてあらゆることに目を向
薬剤師制度は、初期・二次救急を含
などの面でとても助けられていますの
け興味を持ち、いつもアンテナを張り
むすべての救急に対する薬剤師の業
で、薬剤部の理解も大切です。
めぐらせていることが必要ではないか
務を対象としていますので、より多く
峯村 多くの施設の薬剤師がとにか
と思います。実際に医師は治療に次々
の薬剤師に救急医療のスキルを学ん
く怖がらずに救急医療の現場に行くこ
と新しいものを取り入れていますし、
で現場に出てもらいたいと思います。
とが大切です。いま救急の現場で働
看護師も同様です。薬剤師も新しい
マンパワー不足の中で救急・集中
く薬剤師が経験したように、まず現場
知識を蓄え薬物療法を考えていかな
治療領域にどうやって参画していこう
に行って、できることを自分で探す、
ければなりません。
かと考えている薬剤師は多いはずです。
そこから始めるのです。今後は研修会
畝井 おっしゃる通りです。救急に限
ぜひ時間を決めて、毎日救急の現場
も行う予定ですので、ぜひ救急認定
へ行ってください。私も最初はどうい
薬剤師の資格取得を目指していただ
を通じて診療報酬改定の資料とされ、
認定要件が、医療従事者のための蘇
て多くの医療資源が短時間に投入さ
らず、医療は高度化し急速に進歩して
その後に薬剤管理指導料1が認めら
生法を習得できるICLS(Immediate
れる場所です。適切な情報共有がな
いますので、薬剤師は医師と同じ感覚、 った処置をしているか、いつどの薬剤
きたいと思います。
れることにつながりました。ワーキング
Cardiac Life Support)コースの受講
いと安全性が保たれません。
知識とセンスを磨いていくことが大事
が使われているか、どの医療機器が
また認定制度によって施設を越えた
グループでは次の段階として、薬剤師
です。薬剤師がICLSコースを受講でき
救急領域では医師、看護師、栄養
ではないでしょうか。さまざまなことに
使われているか、見るところから始め
つながりが可能となるので、多施設共
のレベルアップと業務の標準化を目的
る施設がまだ少ないのですが、医師や
士のみならず、薬剤師にはなじみの薄
興味を持つというのは、想像力を豊か
ました。そして毎日行くうちに、何かあ
同研究も視野に入ってきました。救急
に認定薬剤師制度の構築を目指しま
看護師が救急初療時に何をしているの
い救急救命士や臨床工学技士、診療
にしてセンスを磨いていくために必要
れば連絡をもらえるようになりました。
認定薬剤師が増えれば、特定の疾患
した。
か、何を考えているのか、チーム医療
放射線技師、ソーシャルワーカーなど
です。救急の患者さんが話せなかっ
薬剤師の専門性が医師に認められれ
や治療法にフォーカスを当てたアウト
畝井 救急認定薬剤師制度の立ち上
の共通言語をここで学ぶことができます。
と一緒に働きます。彼らが救急医療
たら、何の情報が必要なのか、いまあ
ば、トレーニングや勤務体制の改善
カムの検討もできます。薬物動態や代
げにあたっては、多くの医師からの後
畝井 薬剤師はICLSコースのような
の現場で何を担っているのか、薬剤師
る情報源の中でどうしたら必要な情報
などにも力を貸してくれるでしょう。
謝など研究すべきことはまだ多くありま
押しがありました。日本中毒学会など
研修をほとんど受けていませんので、
も他の職種の専門性を認識すること
を入手できるかを限られた時間の中で
担当する薬剤師も不安な部分があ
す。薬物療法を考えるときに私たち認
で地道に活動してきた努力が評価され
議論はありましたが、救急認定薬剤
が大事です。
自分で考える。学生や若い薬剤師た
ると思いますが、病院の役割や地域
定薬剤師が今後の医療のお役に立て
た成果だと思います。また救急の現場
師が目指す役割を考えたときには必要
峯村 病棟でもつねに多職種のスタッ
ちに「いろいろな情報を自分から取り
性もありますし、医師や看護師のマン
るよう努力していきたいと思います。
では多種多様な薬剤が使用されます
だという結論に至りました。一般病棟
フが揃っているわけではないので、あ
に行くことが大事」とよく言っています。
ので、薬剤の安全な投与という視点か
は患者さんが病院を訪れるところから
るスタッフが不在のときに薬剤師は何
ら点滴ルートを整理し配合変化を起こ
始まりますが、それに対し救急医療は
ができるのか、あるいは薬剤師がいな
さない、また抗菌薬もPK-PDを考慮し
患者さんに傷病が発生したところから
いときは誰に薬剤の扱いをお願いでき
て有効かつ安全に投与するなどの実
始まっています。目撃者や救急隊から
るのか、お互いの補完を考えておかな
峯村 三次救急への薬剤師の対応は
績は、薬剤師の専門性が高く評価さ
の情報がきちんと伝達されてこそ救命
ければならないと思います。
道筋がついてきたので、今後は初期
れるきっかけになったと思います。
できますので、原点のICLSは重要です。
そのわかりやすい例が災害医療で
救急や二次救急を考える必要がありま
どの領域でも同じですが、医師や
す。東日本大震災で薬剤師が活躍した
す。また現状では薬剤師は初期の外
看護師、薬剤師など多職種のスタッフ
といわれましたが、限られた医療資源、
来をカバーできていません。夜間急患
が共通言語を理解し、問題点の共通
限られた人材で医療を提供する災害
の初期救急の患者さんに対し、どのよ
認識を持つことはチーム医療の原点
医療は、チーム医療の原点ではないで
うに服薬管理を行うかなどは、これか
です。救急というのは、救命を目指し
しょうか。DMAT(Disaster Medical
らの課題です。
救急医療を学ぶ薬剤師を
支援するために
峯村 救 急認定薬剤師の特 徴的な
03 P&P 2012 No.1
薬剤師が次に目指すものは
2012 No.1
P&P 04
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