...

(ICOLC Spring 2016 Los Angeles, US) 報告

by user

on
Category: Documents
33

views

Report

Comments

Transcript

(ICOLC Spring 2016 Los Angeles, US) 報告
国際図書館コンソーシアム連合(ICOLC)2016年春季会合 参加報告
京都大学 長坂 和茂
明治大学 矢野 恵子
1. はじめに
国公私立大学図書館協力委員会による派遣事業の一環として、2016年4月17日から
20日にかけてアメリカ合衆国ロサンゼルスにて開催された、国際図書館コンソーシア
ム連合(ICOLC: International Coalition of Library Consortia)2016年春季会合に参加した。
なお今回の会合では、初日のセッションにて、JUSTICEおよびSPARC Japanが行ってい
る論文公表実態調査に関する発表を行った。以下にその概要について報告する。
2. 概要
名
称:国際図書館コンソーシアム連合2016年春季会合
(ICOLC Spring 2016 Los Angeles, US)
日
程:2016年4月17日(日)~20日(水)
場
所:ロサンゼルス(アメリカ合衆国カリフォルニア州)Double Tree by Hilton
参加者:9カ国99名(内訳:アメリカ合衆国78名、カナダ12名、エルサルバドル2名、
日本2名、韓国1名、香港1名、オーストラリア1名、オランダ1名、ノルウェ
ー1名)
3. 議題および議事内容
【4月17日(日)】レセプション(於:Double Tree by Hilton Hotel Japanese Kyoto Garden)
【4月18日(月)】
・S.1 Keynote Address: Open Access: Market Size, Forecast and Trends【オープンアク
セスの市場・将来と傾向】
科学・技術・医学(STM)分野全体やSTMジャーナルの市場規模と比較した際のオ
ープンアクセス(OA)の市場規模、成長度、各ステークホルダーの関心分野などに
ついて、調査会社Outsell, Inc.から調査結果が報告された。OAは増加傾向にあるが、
今後さらにOA論文を増やすためには、インパクトファクターが与える影響や、人々
のジャーナルに対する価値観を変える必要があるということが述べられた。
・S.2 Offsetting Agreements / Report on Berlin 12【オフセットモデル/「ベルリン12」
報告】
従来の購読料支払型モデルから、ゴールドOAモデルへの移行についての世界の動
向として、SCOAP3の現状報告、Berlin 12会合の結果とOpen Access 2020およびESAC
initiativeの活動の紹介、オランダにおける出版社とのオフセットモデル(電子ジャー
ナル契約における購読料とAPC(OA誌の論文処理費用)の支払額とを組み合わせた
1
モデル)の交渉結果報告などが行われた。現在はオランダのほか、イギリス、オース
トリア、ドイツでもオフセットモデルの試行が行われているが、モデルは国や出版社
によりさまざまで、まだ最善モデルが何かは見出せていない状況であるとの報告があ
った。
・S.3 Consortial Experiences with Open Access / Open Content【オープンアクセス・オ
ープンコンテンツに関するコンソーシアムの取り組み事例】
各コンソーシアムでのオープンアクセス・オープンコンテンツに関する調査報告が
行われた。このセッションでは長坂・矢野がJUSTICEおよびSPARC Japanによる論文
公表実態調査の中間報告を行った。JUSTICEのほか、カナダのCanadian Research
Knowledge Network(CRKN)スタッフによる、ICOLC参加コンソーシアムのAPC交渉
状況についての調査結果、カリフォルニア(California Digital Library: CDL)のPay it
Forwardプロジェクトの紹介と報告、ボストン(Boston Library Consortium: BLC)のOER
(Open Educational Resources)プロジェクトの成果など、幅広くオープンコンテンツ
に関する活動が報告された。
JUSTICEからは、日本のOAに関する状況を踏
まえた論文公表実態調査の取り組みについて、
途中経過の報告を行った。発表後、参加者から
具体的な調査方法について質問を受けるなど、
様々な意見交換を行った。
・ S.4 New Vendor Services Showcase: Open
Content Tools【オープンコンテンツに関する
ベンダーの製品紹介】
OA論文の検索やリポジトリのシステムなどを提供する1Science、原稿執筆ツールの
Overleaf、図書館の持つコンテンツをウェブ上で発見されやすくするためのシステム
を提供するZepheiraによる、製品の紹介が行われた。
・S.5 Vendor Session – Springer Nature【ベンダーセッション: Springer Nature】
2015年に誕生したSpringer Natureの紹介が行われた。SpringerとNature Publishing
Groupが出版する雑誌を引き継ぐ同社は、世界有数の学術出版社であると同時に、
Scientific Reports, Nature Communications, BioMed Central各誌などを有する大手OA学
術出版社である。二社合併による新しいモデルの紹介が行われたが、新モデルでは購
読費がさらに増加することが予想され、参加者から不満の声があがっていた。今後の
OA市場を考えるにあたっても、同社の動向には注目する必要がある。
・S.6 New Open Source Library Services Platform: A Non-profit Collaboration【次世代
図書館システム】
EBSCO社から、Library Service Platformのプロジェクトについて説明が行われた。
オープンソースのシステムであることや、外部拡張性を持つことなどが特徴である。
2
各図書館の担当者にも開発に協力してほしいとのことであった。
・S.7 OA Debrief Day One【1日目まとめ】
【4月19日(火)】
・S.8a Licensed Content - Current Issues and Trends【ライセンス製品の最新の話題と
傾向】
前半は、ICOLC Battlefield Survey(各コンソーシアムにおける出版社交渉結果の調
査)について、2015年の調査結果の報告が行われた。全体的な価格動向としては、2010
年に価格上昇率が一度抑えられたものの、2011年には再び高くなり、その後、価格は
上昇し続け、2015年もその傾向は変わっていないことが報告された。また、ICOLCで
は各コンソーシアムの契約終了年に関する調査を2014年に実施した。多くのコンソー
シアムが同時期に契約更新を行うのであれば、その際になんらかの協力体制をとるこ
とができるかもしれないなど、今後この調査を続けるかどうか、そしてその結果を実
際にどのように使うべきかといったことの問題提起がなされた。後半の「Yes/No」セ
ッションでは、コンソーシアムが出版社との交渉において「Yes」あるいは「No」の
判断をどのように行ったかという観点で、複数のコンソーシアムの事例報告があった。
あるコンソーシアムでは、価格の透明性を重要視しており、価格を明示しない出版社
とは交渉を行わない方針を定めたとのことである。
・S.8b Licensed Content - Collective Collections【ライセンス製品:共同コレクションの
構築】
コンソーシアム内のシェアードプリントの取り組みについて事例報告が行われた。
「すでに持っている資料を共同利用する(share a collection)」のではなく、「資料を
共同所有する(have a shared collection)」というコンセプトで、複数の図書館が一体
となり、計画的な蔵書構築を行っている事例が報告された。
・S.9 Breakouts Round 1【グループ討議1】
"Consortial Borrowing"と"DPLA Hubs & Digital Preservation"のセッションに参加した。
前者では、OCLCのILLiad、Relaisなどの、ILL・ドキュメントデリバリーシステムの活
用事例の報告と意見交換、後者では、アメリカの図書館、文書館、博物館が所有する
デジタルコンテンツを集約し、同一プラットフォームで提供するプロジェクトの
DPLA(Digital Public Library of America)を活用している図書館からの事例報告が行わ
れた。
・S.10 Breakouts Round 2【グループ討議2】
"Consortial Business Systems"のグループでは、コンソーシアムの活動をサポートす
るツールである、ConsortiaManagerとSugarCRMの紹介があった。これらのシステムで
は、製品の契約およびライセンス情報やタイトルリストの管理、統計の取得、メンバ
ー情報の管理を行うことができる。システムや価格についての質問も多く、参加者の
3
関心の高さが伺われた。
"Changing audience for scholarly communications"のセッションでは、図書館やコンソ
ーシアムの役割、あるいは新サービスの導入について、教員とどのようにコミュニケ
ーションをとるか、意見交換が行われた。教員との意見交換をどのように行うかは、
多くのコンソーシアムで課題となっているようである。
・S.11 Value of Consortia【コンソーシアムの価値】
コンソーシアムの価値を明らかにするために外部評価を取り入れた事例、データ分
析コンサルタントによる、コンソーシアム活動を数値により評価する取り組みなどが
紹介された。コンソーシアムの価値は電子資料の割引を提供するだけではなく、図書
館や図書館員に奨学金や研究助成金を提供するなど、より大きな視点で考えることが
必要であるということが述べられた。
・S.12 Value of ICOLC【ICOLCの価値】
ICOLCのあり方について、特にメンバーシップについての議論が行われた。ICOLC
はもともと厳密なメンバーシップの規定はなく、メーリングリストへの登録も比較的
緩い基準で認められてきた。ICOLCの"confidentiality"は守っていく必要がある一方、
メンバーシップについては、これまでどおり、厳密な基準を設けるのではなく、個別
判断をしていくことになった。
【4月20日(水)】
・S.13 Discovery systems and Knowledgebases【ディスカバリーシステムとナレッジベ
ース】
ナレッジベースの管理について、インディアナ(Private Academic Library Network of
India: PALNI)の事例報告、OCLCのLinked Dataに関するパイロットプロジェクトの中
間報告が行われた。また、シリコンバレーの企業Yewnoから、同社のディスカバリー
システムが紹介された。
・S14 ProQuest / Ex Libris - Discovery, Knowledgebase and Merger impact【ProQuest /
Ex Libris ディスカバリーシステム、ナレッジベース、合併について】
2015年に合併したProQuestとEx Librisについて、同社から紹介があった。同社のデ
ィスカバリーサービスSummonとPrimoの間でのデータ共有や、プラットフォーム
Almaとの段階的な統合などが発表され、今後のロードマップが示された。
・S.15 General Business Session【その他】
電子ブックに関する大学出版局とコンソーシアムとの懇談の報告、ICOLC利用統計
イニシアティブの活動報告、為替レートワーキンググループの活動報告などが行われ
た。
最後に、オランダの参加者から、2016年10月17日から19日にオランダ・アムステル
ダムで開催される秋季会合について、都市や会場の紹介があった。また、2017年春季
4
会合はアメリカ合衆国・フロリダ州のジャクソンヴィルでの開催となることが発表さ
れた。
4. 所感
ICOLCの欧州会合ではオープンアクセスの議論が多いようだが、北米会合では、オ
ープンアクセスに関してはトピックとして取り上げられてはいたものの、他のトピッ
クと比べてより熱心な議論が交わされた、という印象は受けなかった。また、「これ
以上予算は増えない」という状況は日本と同じであるものの、ビッグディールに対す
る危機感は、日本と比べるとそれほど強くは感じられなかった。これは、北米では、
大学図書館以外の公共図書館や学校図書館など、様々なタイプのメンバーを持つコン
ソーシアムも多く、オープンアクセスやAPCといった問題がコンソーシアムに与える
影響が、研究大学のコンソーシアムが多い欧州に比べて少ない、そして日本のような
為替問題がない、という事情によるものかもしれない。
今回、セッションや参加者との情報交換を通じて、北米のコンソーシアムの特徴を
いくつか知ることができた。その中でも、多くのコンソーシアムは、電子資料契約以
外にも、ILLやドキュメントデリバリー、シェアードプリント、さらには個別図書館に
対するコンサルテーションサービスといった活動を行っていること、そして、会員館
はコンソーシアムを通じて電子資料の契約を行うことが多いという点は、JUSTICEの
活動とは大きく異なり、興味深いものであった。
このように、海外のコンソーシアムの活動を知ることができるICOLC会合への参加
は非常に有用であり、また、今後も引き続き、日本からも活動報告を行うことなどに
より、海外との情報交換を行い、ICOLCに貢献していくことができるとよいと考える。
5
Fly UP