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最小固有値 −2 を持つグラフと ルート系 宗政昭弘 東北大学大学院情報科学研究科 2010 年 10 月 9 日 九州大学 研究集会「Magma で広がる数学の世界」 Combinatorics → Graphs → Introduction ここでは簡単のため、向きのない単純グラフのみを扱う。 Def. グラフとは有限集合 V と V の2点部分集合いくつかからなる 族 E の組 (V, E) のことである。すなわち |V | < ∞, E ⊂ {{x, y} | x, y ∈ V, x 6= y}. V の要素は「点」とよび、E の要素は「辺」とよぶ。 Ex. V = {1, 2, 3}, E = {{1, 2}, {2, 3}}. Magma では Graph<{1,2,3}|{{1,2},{2,3}}>; で定義できる。または、もっと簡単に PathGraph(3); でもよい。 代表的なグラフと標準的な構成法 (I) 完全グラフ G:=CompleteGraph(4); サイクル G:=PolygonGraph(4); 補グラフ Complement(G); (Magma にはグラフを描く機能はありません) 代表的なグラフと標準的な構成法 (II) Def. グラフ G の ライングラフ(line graph) とは、G の辺を新た に点と考えて、それらが共有点をもつときに新たに辺で結んだもの。 LineGraph(G); グラフ隣接行列と固有値 Magma のマニュアルでは Basic Rings and Linear Algebra → Matrices Def. グラフ G の 隣接行列(adjacency matrix) とは、G の頂点集 合 V で添字付けられている n × n 行列(n = |V |)で、成分が ( 1 x と y は辺で結ばれているとき, Ax,y = 0 そうでないとき. V の並べ方によって行列は一意的に決まらないが、行と列の同時置換 を除いて定まる。この行列 A の固有値を単にグラフ G の固有値と よぶ。 A:=AdjacencyMatrix(G); デモ 1 グラフの最小固有値は必ず実数で代数的整数 • 固有値は一般には整数とは限らない。 • 固有値の計算は行列成分の属している環を指定すると、その環に 属す固有値のみが計算される(多項式の因数分解も、係数環を指 定しておくのでそこで分解するのと同じ)。 • 係数環として実数体を指定すれば近似計算される。 • 係数環として分解体を指定しても分解体の実数体への埋め込みま で指定したことにはならないので注意が必要。 A:=AdjacencyMatrix(G); Eigenvalues(A); デモ 2 Global Arithmetic Fields → Quadratic Fields なぜ最小固有値に注目するか Def. グラフ G のノルム m 表現とは、G の頂点集合から Rn への単 射 ϕ で、ある正整数 m が存在して m x = y のとき, (ϕ(x), ϕ(y)) = 1 x と y は辺で結ばれているとき, 0 それ以外. G の隣接行列を A とすると、G がノルム m 表現をもつ ⇐⇒ A + mI が非負値 ⇐⇒ G の最小固有値が m 以上。 最小固有値がある値以上であるかを問題にするので、最小固有値を はっきり求める必要はない。また、これから主に扱うグラフは最小固 有値がちょうど −2 である。 IsPositiveSemiDefinite(A+m*I); デモ 3 最小固有値が −2 のグラフはノルム 2 の表現をもつ→ ルート系 ノルム 2 のベクトルからなるユークリッド空間の部分集合で互いの 内積が整数となるものは、 • 鏡映による閉包をとる、(またはこれと同値な ↓) • 整数係数一次結合で表されるノルム 2 のベクトルをすべて付加 という操作で、鏡映による閉包で閉じている「ルート系」という分類 されたもののどれかになる。 G があるグラフのライングラフ =⇒ G の最小固有値 ≥ −2 ⇐⇒ A + 2I は非負値行列, =⇒ グラフ G はノルム 2 の表現をもつ グラフ G はルート系 An , Dn , En の部分集合で表現される (ただし G が連結なら) ルート系 Magma においてルート系は Lie Theory → Root Systems または Lattices and Quadratic Forms → Lattices で利用できる。 最小固有値 −2 をもつグラフの表現は、その隣接行列 A を用いて、 A + 2I をグラム行列とするユークリッド空間の部分集合のことであ る。この部分集合で生成された lattice が何であるか Magma で計算 できる。 Ex. 5点の完全グラフのライングラフの補グラフ L(K5 ) は最小固有 値 −2 であり、このグラフをノルム 2 で表現した集合は E6 root lattice を生成する。(デモ 4) 最小固有値 −2 をもつグラフをルート系から逆に作る 逆に、L(K5 ) をルート系 E6 の中に作れる。 • E6 ルート系 72 点からなるグラフをつくる(内積が 1 のとき辺 で結ぶが、E6 全体では負の内積があるので、1つのグラフの表 現の像ではない)。 E6short:=ShortestVectors(Lattice("E",6)); #E6short eq 36; E6:=&join{{x,-x}:x in E6short}; #E6 eq 72; E6graph:=Graph<E6|{{x,y}:x,y in E6|(x,y) eq 1}>; V:=Vertices(E6graph); • 1つの頂点 a を任意の近傍 N は |N | = 20 であり、 [ N = {b ∈ E6 | (a, b) = 1} = {b, a − b} 10 個の和集合 b∈N E6 における1点 a の近傍 = N N = {b ∈ E6 | (a, b) = 1} = [ {b, a − b} 10 個の和集合 b∈N a:=Random(E6); N:={b:b in E6|(a,b) eq 1}; #N eq 20; NN:={{b,a-b}:b in N}; #NN eq 10; これら 10 個の組のうち、うまく片方だけ選ぶと L(K5 ) ができる。 C:=CartesianProduct(Setseq(NN)); #C eq 2^10; Gs:={sub<E6graph|{V|c[i]:i in {1..10}}>:c in C}; G:=Complement(LineGraph(CompleteGraph(5))); &or{IsIsomorphic(G,H):H in Gs}; 最小固有値が −2 以上のグラフは特別なのか • ノルム 2 の表現が生成する root lattice が An (n ≥ 2) であるよ うなグラフ、Dn (n ≥ 4) であるようなグラフは無限にあるが、 それらの構造的な特徴付けがある(ライングラフとその一般化)。 • En (n = 6, 7, 8) についてはグラフ自体有限個しかなく、それら の構造的な特徴付けは知られていない。 • 有限個しかないのだからとりあえず分類して、それらの性質を調 べてみてはどうか。 • 極大なものを分類すれば、他はそれらの部分グラフになって いる。 Def. グラフ G が maximal exceptional graph とは、G がノルム 2 の表現 ϕ を E8 ルート系にもち、 ∀a ∈ E8 , a ∈ / ϕ(G) に対して, ∃x ∈ ϕ(G), (a, x) < 0. となるときをいう。 Maximal Exceptional Graph の分類 Theorem (Kitazume–M. (unpublished)). G を maximal exceptional graph とし、X = ϕ(G) ⊂ E8 を G のノルム 2 の表現 ϕ による像と すると、次のいずれかが成り立つ。 (i). ∃a1 , . . . , a6 ∈ X, (ai , aj ) = 0 (i 6= j), (ii). ∃a ∈ X, |{b ∈ X | (a, b) = 1}| = 28. (ii) の意味: N = {b ∈ E8 | (a, b) = 1} とおくと |N | = 56 で [ N= {b, a − b} b∈N (28 個の和集合) ↑ 両方は同時に X の元としてとれない。 Maximal Exceptional Graph の分類 (X ⊂ E8 ) (i). ∃a1 , . . . , a6 ∈ X, (ai , aj ) = 0 (i 6= j), (ii). ∃a ∈ X, |{b ∈ X | (a, b) = 1}| = 28. [ N= {b, a − b} (28 個の和集合) b∈N • (i) の分類は簡単で、Magma を使わず理論的にできる。 • (ii) の分類は、228 個のグラフを分類しなければならない。(経験 的な目安として Magma 内で size 223 個の(例えばベクトル) の集合を作るのに memory 1GB ぐらい必要。228 だと 32GB) E8 ルート系の鏡映群における a の安定部分群(すなわち E7 ルート 系の鏡映群)が作用しているので、その作用で軌道分解する。 W (E7 ) の 228 次の置換群としての軌道分解(代表元を見つけること) • 直接はできないので、W (E7 ) の部分群である W (D6 ) を使う。 • W (D6 ) は 228 点上には 216 × 212 という直積への作用をしている ので、216 , 212 それぞれ軌道分解する(これならメモリ不足には ならない)。 • W (D6 ) による軌道の代表元から、W (E7 ) で同値なものを捨てる このようにして 467 個の代表元が得られる。(i) と合わせて 473 個。 Cvetković–Lepović–Rowlinson–Simić (2002) による、全く別の計 算方法による分類結果と一致。 分類できる範囲だとなぜわかったか。 28 2 = 93 デモ 5 |W (E7 )|